説明

香味付与剤及び組成物

【課題】 従来の香料では付与することができなかった果実感、果汁感を付与することができる香料素材を提供することである。
【解決手段】 レモン果皮油から蒸留により低沸点香気成分の一部を除去した後の蒸留残渣を薄膜蒸留することにより得られる組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品に好ましい果実感、果汁感を付与することができる香味付与剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レモンはフレッシュでフルーティな香味を有し、多くの人に好まれることから、飲食品に幅広く使用されている。例えば、果汁や輪切りにした果実を清涼飲料、紅茶、アルコール飲料などに入れて風味付けに用いたり、フライなどの揚げ物や焼き魚などに果実を搾った搾り汁を直接かけることによりさっぱりした風味を付与したり食材の臭みをマスキングしたりするなど、日常的に用いられている。香料原料としても重要であり、レモン果皮を圧搾して得られる果皮油(コールドプレスオイル)などの天然精油に合成香料を適宜配合した調合香料が、炭酸飲料、果実飲料などの飲料類、キャンディー、アイスクリームなどの菓子・冷菓類などの飲食品に広く使用されている。
【0003】
しかし、従来のレモン香料は飲食品にレモン特有のフレッシュでフルーティな香味を付与することはできるものの、レモン果汁を飲食品に添加したり、輪切りにしたレモン果実を直接飲料中に入れた場合に感じられるような自然な果汁感を付与する効果は十分ではなかった。レモンの果実や果汁から直接感じられるのはレモン特有のフレッシュな香りに加え、かすかに感じられる苦味や渋み、青さなどが組み合わさって構成される複雑な香味(果実感、果汁感)であり、この香味を付与することができる香料素材が求められていた。
【0004】
飲食品の味をよりいっそう高めることを目的として、レモンを含む柑橘類の精油を原料とした呈味改善剤、例えば、シトラスコールドプレスオイルの脱ワックス処理高沸点部を有効成分とした呈味改善剤(特許文献1)や、柑橘類由来の精油を蒸留することにより得られる蒸留残渣を超臨界状態の二酸化炭素で向流抽出に供することを特徴とする呈味改善剤(特許文献2)などが提案されている。しかし、これらは共存する他の呈味物質の味をよりいっそう高める効果を有する呈味改善剤であり、それ自体は香味を有していないため、レモン特有の果実感・果汁感を付与する効果は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3787654号公報
【特許文献2】特開2008−79558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来の香料では付与することができなかった自然な果実感、果汁感を付与することができる香料素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、レモン果皮油から蒸留により低沸点部分の一部を除去した後の蒸留残渣、具体的には蒸留残渣中にシトラール(citral)を500〜7,000ppm含むように蒸留を行った後の残渣を、薄膜蒸留することにより得られる留出物が自然な果実感、果汁感として認識される香味を有し、特に薄膜蒸留の条件が15〜110Paの圧力、110〜210℃の温度で得られる留出物にその香味が強いことを見出した。そして、この留出物は比較的低沸点の香気成分と、より高沸点の主に味に寄与する成分を含み、香気成分のシトラールとβ−ビサボレン(bisabolene)、低極性成分のペンタコサン(pentacosane)、高沸点成分のスクアレン(squalene)を指標とすると、4,000〜20,000ppmのシトラール(トランス体のゲラニアール(geranial)およびシス体のネラール(neral)から成る)、10,000〜90,000ppmのβ−ビサボレン、1,000〜4,500ppmのペンタコサン及び2,000〜12,000ppmのスクアレンを含有する場合に香味のバランスが優れることを見出した。さらにこの留出物はレモン以外の果実の香味を有する飲食品にも好ましい果実感、果汁感を付与することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は以下のように構成される。
(1)レモン果皮油から蒸留により低沸点香気成分の一部を除去した後の蒸留残渣を薄膜蒸留することにより得られる組成物。
(2)蒸留残渣が、シトラールを500〜7,000ppm含むものである(1)記載の組成物。
(3)蒸留残渣を15〜110Paの圧力、110〜210℃の温度の条件で薄膜蒸留することにより得られる、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)薄膜蒸留が、2段階またはそれ以上の段階に分割して行って得られた留出物の混合物である(1)乃至(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)60〜110Paの圧力、110〜150℃の温度で少なくとも1回以上の薄膜蒸留を行って得られた留出物と、15〜60Paの圧力、150〜210℃の温度で少なくとも1回以上の薄膜蒸留を行って得られた留出物との混合物である(4)に記載の組成物。
(6)4,000〜20,000ppmのシトラール、10,000〜90,000ppmのβ−ビサボレン、1,000〜4,500ppmのペンタコサン及び2,000〜12,000ppmのスクアレンを含む、(1)乃至(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)(1)乃至(6)のいずれかに記載の組成物を有効成分として含有することを特徴とする、香味付与剤。
(8)(1)乃至(6)のいずれかに記載の組成物を添加して得られる香味料組成物。
(9)0.5〜180ppmのペンタコサンを含むことを特徴とする(8)に記載の香味料組成物。
(10)(1)乃至(6)のいずれかに記載の組成物を添加して得られる飲食品。
(11)1.0〜90ppbのペンタコサンを含むことを特徴とする(10)に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は飲食品に自然な果実感、果汁感を付与する効果に優れており、果実風味の飲食品に香味付与剤として添加することで好ましい果実感、果汁感を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の香味付与剤として利用可能な組成物は、レモン果皮油(A)から蒸留により低沸点香気成分の一部を除去した後の蒸留残渣(B)を薄膜蒸留することにより得られる、留出物(C)である。
〔1〕原材料
本発明に使用するレモン果皮油(A)は、レモン果皮から採取される精油であり、コールドプレスオイルとも呼ばれる。採取方法としては特に制限はないが、主に機械による圧搾法が用いられる。本発明では使用するレモン果皮油に特に制限はなく、レモン果皮を圧搾して得た果皮油を用いてもよく、また、市販されているものを用いてもよい。
【0011】
本発明の組成物は、レモン果皮油(A)から蒸留により低沸点香気成分の一部を除去して蒸留残渣(B)を得る。ここで、蒸留により除去される低沸点成分としては、香料とし
ての価値が低いテルペン系炭化水素と、シトラールを主成分とするレモン特有のフレッシュな香気を有する含酸素成分等とが例示される。本発明における蒸留残渣(B)を得る方法は特に制限はなく、後述するように、蒸留残渣(B)に香気成分がある程度残存するような蒸留であればどのような方法であってもよい。例としては、レモン果皮油(A)を精密蒸留に供しテルペン系炭化水素を除いた後、得られた残渣部を減圧蒸留(薄膜蒸留)に供し含酸素成分を除き、蒸留残渣(B)を得る方法が挙げられる。
レモン果皮油(A)中には、テルペン系炭化水素が90wt.%以上含まれる。この大部分を除去するよう蒸留するのが好ましく、すなわち、レモン果皮油(A)から精密蒸留等を行った後の濃縮油(A’)がレモン果皮油の重量の10wt.%程度になるまで精密蒸留等を行うことが好ましい。このような精密蒸留の条件としては、6,500Pa〜1,300Pa、60℃〜120℃、還流比5/10(留出/還流)の条件が例示できる。また、精密蒸留の残渣部から含酸素成分の一部を除く薄膜蒸留の条件としては、260Pa〜133Pa、50℃〜105℃の条件が例示できる。このような条件で蒸留を行うと、レモン果皮油(A)の体積に対して、約2〜5wt.%、好ましくは3〜4wt.%程度の蒸留残渣(B)が得られる。
香味付与剤として利用可能な本発明の組成物は、比較的低沸点の香気成分と、より高沸点の主に味に寄与する成分を含有することから、薄膜蒸留の原材料となる蒸留残渣(B)には香気成分をある程度残存させておく必要がある。香気成分の残存量は、シトラール含有量を指標とした場合、一般に500〜7,000ppmが適切であり、より好ましくは2,000〜5,000ppmである。
【0012】
〔2〕薄膜蒸留
本発明の組成物は、上記のとおり、レモン果皮油(A)から蒸留により低沸点香気成分の一部を除去した後の蒸留残渣(B)を薄膜蒸留することにより得られる。蒸留残渣(B)で使用される薄膜蒸留とは、分子蒸留に準じる高真空条件下での蒸留を言う。分子蒸留とは、高真空条件下での蒸留であって、蒸発した分子が他の分子と衝突を起こさず冷却面へ到達して凝縮するような蒸留による精製方法を言う。本発明で使用される薄膜蒸留において使用される装置或いは器具については、かかる精製方法が適用できる装置等であればその種類は問わない。実生産に供される装置であって入手可能なものとしては、一般的に回分式又は連続式薄膜蒸留装置があり、形式により流下薄膜式蒸留装置、遠心薄膜式蒸留装置に分類される。これらの装置の中でも安定した薄膜状態を形成できる観点から遠心薄膜式蒸留装置、特に連続式遠心薄膜式蒸留装置を使用することが好ましい。
【0013】
本発明の組成物、すなわち蒸留残渣(B)の薄膜蒸留の留出物(C)の製造に適用される薄膜蒸留の条件は、一般的には圧力条件が5〜300Pa、蒸発温度40〜280℃であるが、より好ましくは15〜110Pa、蒸発温度110〜210℃である。蒸発温度が210℃を超えると留出物に加熱臭が生じ、飲食品への添加量によっては異味が感じられる場合がある。また、蒸発温度が110℃より低いと留出物に香気成分を多く含むようになり、相対的に味への効果が弱くなる傾向がある。蒸留残渣の薄膜蒸留は、1回の操作で全ての留出物を得ることもできるが、圧力と温度が異なる条件で2段階かそれ以上に分けて留出物を得ることが好ましい。薄膜蒸留を2段階に分けて行う場合は、比較的高めの圧力下で最初の蒸留を行って香気成分を多く含む留分(第一留分)と残渣部に分け、2段階目の蒸留で残渣部から主に味に寄与する高沸点成分を含む留分(第二留分)を得る。各留分を適切な比率で混合することにより、より好ましい香味を有する香味付与剤とすることができる。2段階に分ける場合の蒸留条件としては、最初の蒸留を60〜110Pa、110〜150℃で行い、2段階目の蒸留を15〜60Pa、150〜210℃で行う場合が例示される。
薄膜蒸留を2段階に分けて行うことにより、第一留分は香気成分を比較的多く含む留分として、第二留分はより高沸点の主に味に寄与する成分を多く含む留分として得ることができる。各留分を適切な比率で混合することにより、より好ましい香味を有する香味付与
剤として利用可能な組成物となる。
【0014】
このようにして得られる本発明の組成物は、比較的低沸点の香気成分と、より高沸点の主に味に寄与する成分を含み、これら両成分の含有量とバランスにより、所望する果実感、果汁感を付与することができる。従来にない自然な果実感と果汁感を付与しうる観点からは、本発明の組成物は、香気成分のシトラールとβ−ビサボレン、低極性成分のペンタコサン、高沸点成分のスクアレンを指標として、組成物中に4,000〜20,000ppmのシトラール、10,000〜90,000ppmのβ−ビサボレン、1,000〜4,500ppmのペンタコサン及び2,000〜12,000ppmのスクアレンを含有させるのが好ましく、6,000〜13,000ppmのシトラール、13,000〜60,000ppmのβ−ビサボレン、1,300〜2,800ppmのペンタコサン及び3,000〜8,000ppmのスクアレンを含有させるのがより好ましい。
【0015】
〔3〕香味付与剤
薄膜蒸留で得られた留出物(C)は香味付与剤として、そのまま飲食品に添加することができる。果実風味を有する飲食品に添加することで、レモン本来の香りに加え、かすかな苦味や渋み、青さが付与され、より天然に近い好ましい香味が飲食品に付与される。果実風味としてはレモンが好ましいが、他にもオレンジ、グレープフルーツなどの柑橘類や、リンゴ、パイナップル、グレープ、チェリー、プラム、トロピカルフルーツなどを挙げることができる。果実風味を有する飲食品としては、清涼飲料、炭酸飲料、果汁入り飲料、茶飲料、アルコール飲料などの飲料類、チューインガム、キャンディー、アイスキャンディー等の菓子、冷菓類などが挙げられる。また、香味のアクセントとして果実(果汁)や果実風味の香料が用いられる飲食品に使用することもできる。果実風味をアクセントとして用いる飲食品としては、ドレッシング、焼き肉のたれ、ウスターソース、めんつゆ、各種調味料などが挙げられる。
【0016】
また、本発明の組成物は既存の香料原料と組み合わせて香味料組成物として飲食品に添加することもでき、この場合は果実特有のフレッシュな香りと本発明の組成物(香味付与剤)による果実感、果汁感を同時に飲食品に付与することができる。本発明の組成物(香味付与剤)と組み合わせることができる香料原料としては特に制限はなく、各種天然香料や合成香料を目的に応じて適宜使用することができる。一例として、レモン風味の香味料とする場合は、天然香料としてはレモン精油(レモン果皮油、ディスティルドオイル、エッセンスオイル等)が挙げられ、合成香料としてはシトラール、テルピネオール、オクタナール、シトロネラール、α−ピネン、β−ピネン、γ−テルピネン、ミルセン、テルピネン−4−オール、ネロール等のレモンのフレッシュな香りを特徴付ける成分が挙げられる。
【0017】
本発明の組成物(香味付与剤)は、留出物中のペンタコサンを指標とした場合、一般に香味料組成物中のペンタコサン量が0.5〜180ppmとなるように添加すると香味料組成物による飲食品への果実感、果汁感を付与する効果が高まるが、香味料組成物中のペンタコサン量が2.0〜56ppmとなるように添加すると好ましく、3.9〜28ppmとなるように添加するとより好ましい。
【0018】
本発明の組成物(香味付与剤)の飲食品への添加量は、対象となる飲食品の種類により異なるが、一般的に0.1〜100ppmであり、好ましくは1〜20ppm、より好ましくは3〜10ppmである。添加量が0.1ppm以下では本発明の香味付与効果が弱く、100ppmを超えると飲食品の濁りや油浮きの原因となる場合がある。ペンタコサンを指標とした場合、飲料中のペンタコサン量が1.0〜90ppbとなるように添加すると香味料組成物による飲食品への果実感、果汁感を付与する効果が高く好ましく、飲料中のペンタコサン量が3.0〜45ppbとなるように添加すると好ましく、3.9〜28
ppbとなるように添加するとより好ましい。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【0020】
〔製造例1〕香味付与剤の調製
本発明の実施例において使用した香味付与剤は次のようにして調製した。レモンオイル1kgから、減圧度6,500Pa〜1,300Pa、温度60〜105℃、還流比5/10(留出/還流)の精密蒸留によってリモネンなどの低沸点成分を除き、残渣部100gを得た。残渣部を260〜133Pa、50〜110℃の条件で遠心式薄膜蒸留に供し、蒸留残渣を得た。得られた蒸留残渣を100Pa、130℃の条件で2回薄膜蒸留し留出分(第一留分)と残渣を得た。続いて得られた残渣を30Pa、210℃の条件で薄膜蒸留し留出分(第二留分)を得た。第一留分と第二留分とを合わせ香味付与剤8.0gを得た。香味付与剤はレモン様の香気を有する黄橙色オイルで、その融点は50〜60℃であった。得られた香味付与剤の主な香気組成を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
香気分析条件:Agilent社HP−5MSキャピラリーカラム(30m、0.25mm内径)を備えたAgilent社6890Nを用いてガスクロマトグラフ測定を行った。オーブン条件は80℃〜300℃とし、キャリアーガス流量は1.2ml/分とした。検出器にはAgilent社5973マスディテクターを用い、イオン化電圧は70eVに設定した。定量は、トータルイオンカレントを用いた内部標準法にて行い、香気成分と内部標準物質(2−オクタノール)のレスポンスファクターはすべて1と仮定した。
【0023】
〔製造例2〕香味付与剤の調製
製造例1の蒸留残渣77.5gを原料に用いて、以下の条件で香味付与剤を得た。果皮オイル濃縮物を90〜110Pa、130℃、30〜40pa、160℃の条件で薄膜蒸留に供し、香味付与剤11.8gを留出分として得た。香味付与剤はレモン様の香気を有する黄橙色オイルで、その融点は50〜60℃であった。得られた香味付与剤の主な香気
組成を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
〔製造例3〕香味付与剤の調製
製造例1の蒸留残渣75gを原料に用いて、以下の条件で香味付与剤を得た。果皮オイル濃縮物を80〜100Pa、110℃、15〜25Pa、210℃の条件で薄膜蒸留に供し、香味付与剤27.6gを留出分として得た。香味付与剤はレモン様の香気を有する黄橙色オイルで、その融点は50〜60℃であった。得られた香味付与剤の主な香気組成を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
〔比較例1〕
対照品として、特許文献3787654号の実施例1に従い調製した脱ワックス処理高沸点部を用いた。
調製条件:レモン果皮オイル120gを60Paの減圧下、徐々に加熱して揮発性成分を除いた。オイルの温度が120℃に達したところで加熱を止め、高沸点画分3.7gを得た。得られた高沸点画分のうち2.0gを40gのシリカゲルを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、n−ヘキサン、n−ヘキサン:酢酸エチル=9:1(容量比)、n−ヘキサン:酢酸エチル=8:2(容量比)、酢酸エチルを順に300mLずつ用いて溶出液を得た。n−ヘキサン溶出液以外の溶出液を合わせ、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、脱ワックス処理高沸点部1.8gを得た。
【0028】
〔試験例1〕香味付与剤
香味付与剤の評価を輪切りレモンを浮かべた水を対照品に用いて行った。輪切りレモンを浮かべた水は以下のように調製した。イオン交換水400gにレモン輪切り2片(12g)を浮かべ、2分静置後、切片を除きレモンのさわやかな香気と果実感を有する水部を得た(pH=3.7(実測値))。
評価試料は以下のように調製した。製造例1で得られた香味付与剤をイオン交換水に10ppm添加した(評価試料1)。比較例1で得られた脱ワックス処理高沸点部をイオン交換水に10ppm添加した(評価試料2)。レモン果皮油の香気部分に合わせて香気成分を調整し、評価試料2に添加した(評価試料3)。香気成分の組成は表4に示した。評価試料1〜3のpHは、クエン酸を用いて3.7に調整した。
訓練されたパネル4名により、果実感に関する点数評価(1〜7点)を行った。ここで果実感とは、飲用により感じる香味の広がり、果肉を想起させるような、かすかな苦味、渋み、青さを伴う果実本来の香味を指し、輪切りレモンを浮かべた水から感じられる果実感を7点とし、まったく果実感を感じない場合を1点とした。評価結果を表5に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
表5に示すとおり、評価試料1(本発明の香味付与剤1)には強い果実感が感じられた。香りと味のバランスが評価され、自然な風味が感じられた。一方、評価試料2(比較例の脱ワックス処理高沸点部)にははっきりとした果実感は認められなかった。香気成分を補った評価試料3も、十分な果実感は認められなかった。
【0032】
〔試験例2〕レモンフレーバードウォーター
イオン交換水100重量部に液糖6.6重量部、クエン酸0.1重量部、クエン酸三ナトリウム・2水和物0.5重量部を溶解させ、レモンフレーバー(小川香料株式会社製)を5ppm添加したものを評価生地とした。この評価生地に、製造例1で得られた香味付与剤を1ppmあるいは10ppm添加したものを評価試料とした。
訓練されたパネル7名の評価により、果実感に関して点数評価を行った。果実感に関して7段階の点数評価を行った。果実感の定義は試験例1と同様とし、無添加評価生地の果実感を4点と置いて評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0033】
【表6】

【0034】
表6に示すとおり、本発明の香味付与剤によりレモン飲料に果実感を付与することができることが示された。さらにレモン飲料に果実感を与えるのみならず、ピール感、アルベド感といった自然な風味を付与することが示された。
【0035】
〔試験例3〕市販低果汁飲料(りんご)
市販のりんご低果汁飲料を評価生地とし、製造例1で得られた香味付与剤を1ppmあるいは5ppm添加したものを評価試料とした。
訓練されたパネル7名の評価により、果実感に関して7段階の点数評価を行った。果実感の定義は試験例1と同様とし、無添加評価生地の果実感を4点と置いて評価を行った。評価結果を表7に示す。
【0036】
【表7】

【0037】
表7に示すとおり、本発明の香味付与剤によりりんご低果汁飲料に果実感を付与することができることが示された。また、本発明の香味付与剤の添加によりフレッシュな香味が付与された。
【0038】
〔試験例4〕市販低果汁飲料(オレンジ)
市販のオレンジ低果汁飲料を評価生地とし、製造例1で得られた香味付与剤を1ppm
あるいは5ppm添加したものを評価試料とした。
訓練されたパネル7名の評価により、果実感に関して7段階の点数評価を行った。果実感の定義は試験例1と同様とし、無添加評価生地の果実感を4点と置いて評価を行った。結果を表8に示す。
【0039】
【表8】

【0040】
表8に示すとおり、本発明の香味付与剤によりオレンジ低果汁飲料に果実感を付与することができることが示された。また、本発明の香味付与剤の添加によりシトラス感やジューシーさが付与され、オレンジ飲料としてより好ましい香味となった。
【0041】
〔試験例5〕市販低果汁飲料(グレープフルーツ)
市販のグレープフルーツ低果汁飲料を評価生地とし、製造例1で得られた香味付与剤を1ppmあるいは5ppm添加したものを評価試料とした。
訓練されたパネル7名の評価により、果実感に関して7段階の点数評価を行った。果実感の定義は試験例1と同様とし、無添加評価生地の果実感を4点と置いて評価を行った。結果を表9に示す。
【0042】
【表9】

【0043】
表9に示すとおり、本発明の香味付与剤によりグレープフルーツ低果汁飲料に果実感を付与することができることが示された。また、本発明の香味付与剤の添加により好ましい柑橘用の香味(シトラス感)及びジューシーさが付与された。
【0044】
〔試験例6〕市販レモン飲料
市販のレモン飲料を評価生地とし、製造例1で得られた香味付与剤を1ppmあるいは5ppm添加したものを評価試料とした。
訓練されたパネル7名の評価により、果実感に関して7段階の点数評価を行った。果実感の定義は試験例2と同様とし、無添加評価生地の果実感を4点と置いて評価を行った。結果を表10に示す。
【0045】
【表10】

【0046】
表10に示すとおり、本発明の香味付与剤により市販レモン飲料に果実感を付与することができることが示された。また、本発明の香味付与剤を添加することにより好ましいシトラス感が付与された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レモン果皮油から蒸留により低沸点香気成分の一部を除去した後の蒸留残渣を薄膜蒸留することにより得られる組成物。
【請求項2】
蒸留残渣が、シトラールを500〜7,000ppm含むものである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
蒸留残渣を15〜110Paの圧力、110〜210℃の温度の条件で薄膜蒸留することにより得られる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
薄膜蒸留が、2段階またはそれ以上の段階に分割して行って得られた留出物の混合物である請求項1乃至3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
60〜110Paの圧力、110〜150℃の温度で少なくとも1回以上の薄膜蒸留を行って得られた留出物と、15〜60Paの圧力、150〜210℃の温度で少なくとも1回以上の薄膜蒸留を行って得られた留出物との混合物である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
4,000〜20,000ppmのシトラール、10,000〜90,000ppmのβ−ビサボレン、1,000〜4,500ppmのペンタコサン及び2,000〜12,000ppmのスクアレンを含む、請求項1乃至5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の組成物を有効成分として含有することを特徴とする、香味付与剤。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の組成物を添加して得られる香味料組成物。
【請求項9】
0.5〜180ppmのペンタコサンを含む請求項8に記載の香味料組成物。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれかに記載の組成物を添加して得られる飲食品。
【請求項11】
1〜90ppbのペンタコサンを含む請求項10に記載の飲食品。

【公開番号】特開2011−57923(P2011−57923A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211585(P2009−211585)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】