説明

駆動ベルトを製造するためのフッ素化添加剤含有エラストマー組成物及びその用途

本発明は、NBR、HNBR、XHNBR、EP(D)M、及びマレイン化EPDMから成る群から選択されるポリマーと、ポリマーの結合部にて結合を形成して側鎖を形成するように適合された化合物とから得られる分岐ポリマーを含むエラストマー組成物に関する。この化合物は、パーフルオロアルキル官能基と、二重結合と反応するのに適した官能基とを含む基Yを含む。好ましくは、Y=F(CFCFであり、mは2〜20の範囲にある。基Rが、二重結合C=C、三重結合C≡C、アルコール官能基、カルボン酸官能基、エステル官能基、アクリル官能基、メタクリル官能基から成る群から選択される。また、本発明は、駆動ベルトのための本体混合物としての組成物の用途、及び、この駆動ベルトの、オイルバス中での用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動ベルトを製造するための(詳細には、歯付ベルト及びポリ−Vベルトのための本体混合物の構成要素としての)、パーフルオロアルキル官能基を含むエラストマー組成物及びその用途に関する。さらに、本発明は、オイルに直接接触している、又は部分的に浸漬されているこの歯付ベルトの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動ベルトは、一般に、長手方向の複数の糸状耐久性インサート(「コード」(“code”)とも称される)が埋め込まれたエラストマー体と、被覆布(coating
fabric)により覆われた複数の歯とを含む。これらの歯は、複数のレース又はポリ−Vベルトにおいては長手方向に配置されることができ、歯付ベルトにおいては横方向に配置され得る。
【0003】
ベルトの構成要素の各々が、ベルトが故障する危険性を低減するように、且つ、特定の伝達力を増大させるように、機械的耐久性に関する性能を高めることに寄与している。
【0004】
被覆布は耐摩耗性を高め、それにより、ベルトの作用面を、ベルト歯の側部と上部とが擦れること、及び、ベルトと相互作用するプーリのレースの側部と底部とが擦れることによる摩耗から保護する。
【0005】
また、被覆布は、作用面の摩擦係数を低減し、歯の変形可能性を低減し、また、特には、歯の根元を強化し、それにより、歯の損傷を回避する。
【0006】
コードは、特に、ベルトに要求される機械的特性を保証することに寄与し、また、詳細には、時間が経過してもベルトの性能が維持されることを保証するベルト自体の弾性率に実質的に寄与する。
【0007】
コードは、一般に、高弾性繊維を複数回捩ることにより形成され、その後、コードを取り囲む本体混合物(body compound)とコード繊維との適合性を高めるのに適した化合物(例えば、接着剤(“adhesives”)として機能するエラストマーラテックス)により処理される。
【0008】
最後に、本体混合物は、様々な要素を結合することを可能にする。また、本体混合物は適切な硬度を有さなければならず、且つ、ベルト自体を形成する様々な要素がベルト自体の最終性能に相乗的に寄与することを保証しなければならない。
【0009】
公知の本体混合物は、1以上のエラストマー材料(恐らくは、硬度を高めるために繊維により補強され得る)を含む。詳細には、歯付ベルトに関しては、水素化アクリロニトリルブタジエン、すなわちHNBRなどの共重合体(コポリマー)を含む本体混合物が一般的に用いられる。ポリ−Vベルトに関しては異なり、当分野における一般的な方法は、EP(D)Mと称される共重合体(すなわち、エチレン‐プロピレン(選択的にジエン))を含む本体混合物を用いることである。
【0010】
しかし、先行技術のベルトは、潤滑油(オイル)と直接接触して用いられる場合、例えば、ベルトがオイルと直接接触し、又はオイルバス(油浴)に少なくとも部分的に浸漬される用途において、かなり損傷され易い。
【0011】
現在、多くの駆動システムが、駆動ベルトの代わりにギヤ又はチェーンを用いているが、ギヤ又はチェーンは、一般に、製造がより複雑であり、騒音もより大きい。また、ベルトは、より高い噛み合い精度を保証し、尚且つコストを低減するであろうから、ギヤ又はチェーンをベルトに替えることが望ましい。
【0012】
これらの理由により、チェーン及びギヤを駆動ベルトに取り替え、その他の何らの変更も駆動システム全体に行う必要がないことが望ましい。従って、歯付ベルトが必然的に、オイルと接触して、或いは、高温オイル(恐らくは燃料と混合されている)に部分的にでも浸漬されて動作することになる。
【0013】
このような状況において、特に、ベルトの本体は膨張する傾向を有する。これは、エラストマー混合物によるオイルの吸収によるものであり、また、故障頻度がかなり高まることになる。
【0014】
特許文献1は、自動車製造業者により行われる耐久テストでのベルトの挙動を、ジエンモノマー、及び、ニトリル基を含むモノマーから得られるコポリマーにより形成されたエラストマー化合物をベルト本体が含むベルトを用いることにより改善することを示唆している。このベルトは、歯の作用面を覆う被覆布をさらに含み、且つ、フッ素化プラストマー及び硬化剤を含む耐久性エラストマー層により覆われている。
【0015】
有望な結果がこれにより得られたが、駆動ベルトの様々な構成要素を形成する様々な材料間の、及び、これらの材料と、駆動ベルトが動作する環境との間の化学物理的適合性を高めるための解決方法が、駆動ベルトの適切な寿命を得るために、引き続き求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許第1735543号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は、特に、駆動ベルトがオイルバス(恐らく燃料と混合されている)に少なくとも部分的に浸漬される動作状況において、寿命が長く、最適な機械的特性、接着特性、耐摩耗性、噛み合い精度、及びアコースティックエミッション特性を有する駆動ベルトを得ることである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、駆動ベルトを製造するための材料を、ベルトの動作温度範囲全体にて最適な特徴が得られるように適切に選択することである。
【0019】
本発明の別の目的は、駆動ベルトを形成する様々な要素間の相対的な化学的適合性を最適化すること、特に、ベルト本体の耐潤滑油性を、膨張傾向の低減により高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、これらの目的は、請求項1に記載のエラストマー組成物により達成される。
【0021】
本発明によれば、請求項5に記載の駆動ベルトの製造、より詳細には、請求項6に記載の歯付ベルト及び請求項7に記載のポリ−Vの製造におけるこのエラストマー組成物の用途も提供される。
【0022】
本発明の別の態様によれば、請求項8に記載の、オイルに浸漬され又は部分的に浸漬される、このエラストマー組成物を含むベルトの用途も提供される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、請求項9に記載の歯付ベルト、請求項10に記載のポリ−Vベルト、及び、請求項11に記載の駆動システムが提供される。
【0024】
本発明がより良好に理解されるように、添付図面を参照しつつ、以下にさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る歯付きベルトの部分斜視図である。
【図2】本発明に係る第1の歯付きベルトを用いた第1の駆動システムの図である。
【図3】本発明に係るポリ−Vベルトの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は歯付ベルト1全体を示す。ベルト1は、エラストマー材料からつくられた本体2を含み、本体2内に、長手方向の複数の糸状耐久性インサート(コードとも称される)3が埋め込まれている。本体2は、被覆布5により覆われた歯部4が設けられた第1の面と、第2の面、すなわち、ベルトの裏面6とを有する。
【0027】
好ましくは、裏面6も布7により覆われる。より好ましくは、歯部4を覆う布5は、裏面6を覆う布7と同一である。
【0028】
本体2は、NBR、HNBR及びXHNBRから選択されるポリマーを含むエラストマー組成物を含む。好ましくは、本体2は、水素化度が高いHNBRを含有する組成物を含む。より好ましくは、この組成物のポリマーの残存不飽和度は0.5〜10の範囲である。
【0029】
例えば、いわゆる完全飽和HNBR(すなわち、二重結合残存率が最大でも0.9%のHNBR)を用いることができるが、飽和度がより低い別のHNBR(例えば、不飽和度が4%又は5.5%のHNBR、いわゆる部分飽和HNBR)も用いられ得る。
【0030】
歯付ベルト1のための本体混合物として用いられ得るだけでなく、歯付きベルトの様々な構成要素の様々な処理にて用いられ得るHNBRコポリマーの幾つかの例が、ランクセス社(Lanxess)により製造されたテルバン(THERBAN)製品シリーズに含まれるコポリマーである。これらの製品は、例えば、ニトリル基含有量が34%で水素化度が最大で0.9%のTHERBAN 3407、ニトリル基含有量が34%で不飽和度が最大で0.9%のTHERBAN 3406、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で0.9%のTHERBAN 3607、ニトリル基含有量が34%で不飽和度が最大で4%のTHERBAN 3446、ニトリル基含有量が34%で不飽和度が最大で5.5%のTHERBAN 3447、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で2%のTHERBAN 3627、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で2%のTHERBAN 3629、ニトリル基含有量が39%で不飽和度が最大で0.9%のTHERBAN 3907である。
【0031】
また、日本ゼオン社(Nippon Zeon)により製造されたHNBR(商品名ゼットポール(ZETPOL))を用いることも可能である。具体的には、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で0.9%のZETPOL 2000、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で0.9%のZETPOL 2000L、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で4%のZETPOL 2010、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で4%のZETPOL 2010L、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で4%のZETPOL 2010H、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で5.5%のZETPOL 2020、ニトリル基含有量が36%で不飽和度が最大で5.5%のZETPOL 2020Lである。
【0032】
ベルト1の本体に用いられるエラストマー材料は、従来の添加剤、例えば、補強剤、フィラー(充填剤)、顔料、ステアリン酸、促進剤、加硫剤、酸化防止剤、活性剤、開始剤、可塑剤、ワックス、早期加硫防止剤、劣化防止剤、プロセスオイルなども含み得る。
【0033】
有利には、充填剤としてカーボンブラックを用いることができ、カーボンブラックは、有利には0phr〜80phrの範囲の量(好ましくは約40phrの量)加えられ得る。有利には、強化ホワイトフィラー(例えば、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ケイ酸)が、好ましくは0phr〜80phrの範囲の量(好ましくは約40phr)加えられる。また、シランも有利に用いられることができ、その量は、0phr〜5phrの範囲である。
【0034】
有利には、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムが加えられ、その量は、好ましくは0phr〜15phrの範囲である。
【0035】
有利には、エステル可塑剤(例えば、トリメリテート又はエーテルエステル)が加えられ、その量は、好ましくは0phr〜20phrの範囲である。
【0036】
加硫助剤(例えば、トリアリルシアヌレート)、有機又は無機メタクリレート(例えば金属塩)が加えられることが有利であり、その量は、好ましくは0phr〜20phrの範囲である。或いは、有機過酸化物(例えば、イソプロピルベンゼンパーオキサイド)が、好ましくは0phr〜15phrの範囲の量で加えられる。
【0037】
本発明の一態様によれば、歯付ベルト1の本体2はポリマー組成物を含み、このポリマー組成物は、上記のポリマーの鎖との結合を化学反応により形成することで側鎖を形成するように適合された、少なくとも1つのCF基(好ましくは、パーフルオロアルキル官能基)を含む化合物をさらに含む。
【0038】
本発明によるベルト1は、例えば、図2に示すタイプの駆動システムにて用いられ得る。この駆動システムは、番号30によりその全体が図中に示されており、駆動シャフト(図示せず)に堅固に固定された駆動プーリ31、第1の従動(被駆動)プーリ33a、第2の従動プーリ33b、及び、ベルトを引張るための第1のテンショナ34、第2のテンショナ35を備えている。
【0039】
或いは、エラストマー組成物を用いて、図3に示されているようなポリ−Vベルト(その全体を番号10で示す)を形成することも可能である。ポリ−Vベルト10は、エラストマー材料からつくられた本体11と、本体11内に並べて配置され且つ長手方向に埋め込まれた複数の平行な糸状耐久性インサート3と、並んで配置された複数の平行なVリブ13により画成されたカップリング部12とを含み、Vリブ13は、本体11から一体的に、且つ、本体自体に対して長手方向に延在し、それにより、Vレース14の各々を、隣り合う2つのリブ13の間に形成している。
【0040】
本体11は、EP(D)M及びマレイン化EPDMから選択されるポリマーを含むエラストマー組成物を含む。好ましくは、本体11は、EPDMを含む組成物を含む。
【0041】
有利には、以下の製品シリーズに属するポリマーが用いられ得る。これらは、ダウ社(Dow)が製造したポリマー製品であるノーデル(Nordel)(例えば、Nordel IP 3720P,Nordel IP 4520,Nordel IP 3745P,Nordel IP 4520)、ランクセス社(Lanxess)が製造したポリマー製品であるブナ(Buna)(例えば、Buna EP G 6170,Buna EP G 2170,Buna EP T 6250)、DSM社(DSM)が製造したポリマー製品であるケルタン(Keltan)(例えば、Keltan(登録商標)740,Keltan(登録商標)520)、及び、エクソン社(Exxon)が製造したポリマー製品であるヴィスタロン(Vistalon)(例えば、Vistalon 706,Vistalon 2727,Vistalon 2504)である。
【0042】
本発明の一態様によれば、ポリ−Vベルト10の本体11はポリマー組成物を含み、このポリマー組成物は、上記のポリマーの鎖との結合を化学反応により形成することで側鎖を形成するように適合された、CF基(好ましくは、パーフルオロアルキル官能基)を含む化合物をさらに含む。
【0043】
本発明によれば、この化合物は、CF基を含む基Yと、ポリマーと反応するように適合された官能基を有する基Rとを含む。
【0044】
好ましくは、この基Yは、式Y=F(CFCFにより示され、mは2〜20の範囲にある。
【0045】
より好ましくは、mは2〜10の範囲にある。さらにより好ましくは、mは2〜6の範囲にある。
【0046】
好ましくは、上記の基Rは、二重結合C=C、三重結合C≡C、アルコール官能基、カルボン酸官能基、エステル官能基、アクリル官能基、メタクリル官能基から成る群から選択される。
【0047】
さらにより好ましくは、上記の化合物は、以下の化合物の群、すなわち、パーフルオロ‐アルキルメタクリレートエステル(以下の式により示す)
【数1】

パーフルオロ‐アルキルアクリレートエステル(以下の式により示す)
【数2】

パーフルオロ‐アルキルエチレン(以下の式により示す)
【数3】

パーフルオロ‐アルコール(以下の式により示す)
【数4】

から選択される。式中のmは2〜20の範囲にある。より好ましくは、mは2〜10の範囲にある。さらにより好ましくは、mは2〜6の範囲にある。
【0048】
好ましくは、nは0〜10の範囲にあり、より好ましくは1〜4の範囲にある。
【0049】
これらの化合物は、CF基(好ましくはパーフルオロアルキル基)の存在を、本体混合物を形成するエラストマーの鎖に存在する対応する反応部位(例えば、HNBRポリマー鎖に存在する二重結合)と化学的に相互作用できる官能基を含む分子の一部と組み合わせる。
【0050】
例えば、商品名ゾニール(ZONYL)(登録商標)としてデュポン社(Du Pont)により販売されている化合物を用いることが可能である。より詳細には、100℃〜220℃の範囲の沸点を有するフルオロアルキルアクリレート(ZONYL(登録商標)TA−N)、210℃〜350℃の範囲の沸点を有するフルオロアルキルメタクリレート(ZONYL(登録商標)TM)、40℃〜100℃の範囲(例えば58℃)の沸点を有するフルオロアルキルオレフィン(ZONYL(登録商標)PFBE)、145℃〜245℃の範囲の沸点を有するフルオロアルキルアルコール(ZONYL(登録商標)BA,BA−L,BA−LD,BA−N)を用いることが可能である。
【0051】
有利には、本発明のエラストマー組成物中に含まれるフッ素化化合物とポリマーとの反応はラジカル機構により生じ、或いは、例えばアルコール官能基を含むフッ素化化合物に関しては、側鎖を形成するための反応がエステル化反応であり得る。
【0052】
本発明の実施形態によれば、歯付ベルト1の本体2は、前記パーフルオロ化化合物の1つにより官能化されたHNBR、NBR、XHNBRポリマーを含む。
【0053】
CF基を含む化合物が、例えばポリマー鎖の任意の点でのラジカル又はエステル化反応により反応し得ることが明確である。
【0054】
HNBR、XHNBR、NBR、EPDM、マレイン化(maleized)EPDMゴムなどの化合物の調製において、有機メタクリレート及び有機アクリレート、並びに、金属メタクリレート及び金属アクリレートがしばしば用いられる。金属メタクリレート及び金属アクリレートは、加硫工程中にポリマーの架橋密度を増大するために化合物内に導入される。これらの分子は、ラジカル開始剤(有機過酸化物)の影響下で反応してポリマー鎖との共有結合を形成する、2つ以上のメタクリル官能基又はアクリル官能基を有する。架橋は、ラジカル開始剤として機能する過酸化物分子の分解によりラジカル種が発生されるときに、典型的な加硫温度(すなわち、一般に、140℃よりも高温)で生じる。この反応中に、メタクリレート又はアクリレートは、それ自体で重合し、及び/又はポリマー鎖に重合し得る。
【0055】
上記の、式(1),(2),(3)及び(4)により示したフッ素化化合物及びパーフルオロ化化合物は、化学的に活性の官能基(例えば、メタクリレート、アクリレート、アルコール基、オレフィン二重結合)も有する。これらの化合物は、有機メタクリレート及び有機アクリレート、並びに、金属メタクリレート及び金属アクリレートと同様に、恐らくはラジカル開始剤(例えば有機過酸化物)の影響下でポリマー鎖と反応して、安定した共有結合を形成することができる。これらの化合物は、化学反応部位として機能することができる官能基のみを有するが、反応の過程で、好ましくは、主ポリマー鎖(既に形成されている)の上に「ペンダント鎖」(“pendant chain”)が、ポリマーの架橋度を増大させずに形成される。同一のラジカル条件において、上記のフッ素化化合物及びパーフルオロ化化合物は、それ自体で重合して、より高い分子量を有する鎖ペンダント鎖を主ポリマー上に形成し、又は、不連続のユニット(すなわち、ポリマーに直接結合されていないユニット)として化合物中で部分的に分散される。
【0056】
上記のフッ素化化合物及びパーフルオロ化化合物は、主ポリマー鎖に結合されると、炭素−フッ素結合の存在により発生する高い双極子により、化合物の極性をかなり増大させる。また、表面張力をかなり減少させるフッ素化基及びパーフルオロ化基の存在により、有利な特性をもたらし、これにより、撥油性及び撥水性を有し、且つ摩擦係数を低減する最終化合物を提供する。
【0057】
有利には、本発明のフッ素化化合物は、有機メタクリレート及び有機アクリレート、並びに金属メタクリレート及び金属アクリレートと組み合わせて用いられ得る。このように組み合わせて用いることにより、フッ素化メタクリレート及びフッ素化アクリレートと有機メタクリレート及び有機アクリレート又は金属メタクリレート及び金属アクリレートとの混合重合が生じ、これにより、機械的特性、接着特性、高密度架橋特性(有機アクリレート及び有機メタクリレート並びに金属アクリレート及び金属メタクリレートによる)と、高極性、低摩擦係数、疎水性、撥油性とを備えた化合物又はポリマーが提供される。
【0058】
或いは、エラストマー組成物に含まれるポリマーを、これらの化合物を用いて予備処理してもよい。これは、ラジカル環境にて直接グラフトを、以下の簡略反応式に従って実行することにより行われ得る。反応式は、
ポリマー(すなわち、HNBR、XHNBR、NBR、EPDM、マレイン化EPDM)+過酸化物+ Zonyl TA−N 及び/又は Zonyl TM
である。
【0059】
概括すると、本発明によれば、フッ素化化合物を、ポリマー(有利には、NBR、HNBR、XHNBR、EP(D)M、マレイン化EPDM、又はこれらのポリマーの混合物から成る群から選択される)と反応させることが好ましく、フッ素化化合物の重量比が、化合物の全重量に対して、例えば1〜20であるとより有利である。より好ましくは、フッ素化化合物を、化合物の全重量に対して1〜10の範囲の重量比で反応させる。
【0060】
好ましくは、エラストマー化合物は、さらに強化繊維を含み、より好ましくはその量は、2phr〜40phrの範囲、さらにより好ましくは20phrである。強化繊維は、有利には、0.1mm〜10mmの範囲の長さを有する。
【0061】
繊維を用いることにより、本体混合物の機械的特性をさらに高めることが可能になる。
【0062】
強化繊維は、好ましくは芳香族ポリアミド、有利にはパラアミド、例えば、テクノーラ(Technora)(登録商標)繊維であり、レゾルシノール‐ホルムアルデヒド‐ラテックス(RFL)処理により化合物に接着され得る。
【0063】
例えば、用いられるラテックスは、ビニルピリジン‐スチレン‐ブタジエンコポリマー(VP−SBR)を含み得る。
【0064】
アラミド繊維(例えば、テイジン社(Teijin)の1mm長さのテクノーラ(Technora)繊維)が特に有効であることが分かっている。
【0065】
本発明に従って作製される歯付ベルト1及びポリ−Vチェーン10の特性の分析により、本発明により得られる利点は明らかである。
【0066】
本発明によるエラストマー組成物を、ベルト本体を形成する化合物として用いることにより、ベルトの寿命を長くすること、そしてそれにより、機械的特徴を高め、接着性及び耐摩耗性を高めることが著しく可能になる。
【0067】
詳細には、本発明による駆動ベルトの本体を製造するためにこのエラストマー組成物を用いることにより、オイル中でのベルトの使用において、ベルトの拡大を、公知の混合物よりも低減することが可能になる。
【0068】
これより、本発明による駆動ベルトに関し、例を用いて説明するが、これらの例に限定されるものではない。
【0069】

駆動歯付ベルトを、以下の表1及び表2に示すエラストマー組成物をそれぞれの本体混合物のために用いることにより製造した。例1は比較例であり、この例では、歯付ベルトは、非官能化HNBR、及び、本発明による化合物を含む。
【0070】
表1−比較例1
【表1】

【0071】
表2−例2は、フッ素化メタクリレート及びHNBRを用いた。
【表2】

【0072】
こうして得られたベルトに、オイルバス中での耐久性テストを行った。
【0073】
詳細には、本発明による例1及び例2のベルトを、90%のオイル及び10%の燃料を含む混合物と接触させて、耐久性テストを行った。これらのテストを実行するために、ベルトを、オイル/燃料混合物が管によりベルトに直接スプレーされる、駆動プーリ、従動プーリ及びテンショナを含む制御システムにて用いた。このテストが行われた条件を以下の表に示す。
【0074】

【表3】

【0075】
開示されたテストが行われた歯付ベルトは、これらの条件に少なくとも80,000,000サイクル耐えた。テストの最後にベルトの幅を測定し、比較幅と比較した。この結果を以下の表に示す。
【表4】

【0076】
フッ素化官能基を導入することにより得られる化合物の、より大きい極性により、オイルに直接接触する又は部分的に浸漬される動作条件にてより良好な耐性を有するベルトが得られる。こうして、機械的応力に対する耐性が高められる。
【符号の説明】
【0077】
1 歯付ベルト
2 ベルト本体
3 糸状耐久性インサート
4 歯部
5 被覆布
6 ベルトの裏面
7 被覆布
10 ポリ−Vベルト
11 ベルト本体
12 カップリング部
13 Vリブ
14 Vレース
31 駆動プーリ
33a 第1の従動プーリ
33b 第2の従動プーリ
34 第1のテンショナ
35 第2のテンショナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
NBR、HNBR、XHNBR、EP(D)M、及びマレイン化EPDMから成る群から選択されるポリマーと、前記ポリマーとの結合を化学反応により形成し、それにより側鎖を形成するように適合された化合物とから得られる分岐ポリマーを含み、
前記化合物が、mが2〜20の範囲にある式Y=F(CFCFにより示される基Yと、前記ポリマーと反応するのに適した官能基を有する基Rとを含む、エラストマー組成物。
【請求項2】
mが2〜10の範囲にある請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記基Rが、二重結合、三重結合、アルコール官能基、カルボン酸官能基、エステル官能基、アクリル官能基、及びメタクリル官能基から成る群から選択される請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物が、以下の式により示されるパーフルオロ‐アルキルメタクリレートエステル
【数5】

と、
以下の式により示されるパーフルオロ‐アルキルアクリレートエステル
【数6】

と、
以下の式により示されるパーフルオロ‐アルキルエチレン
【数7】

と、
以下の式により示されるパーフルオロ‐アルコール
【数8】

とから成る群から選択され、前記式中、nが0〜10の範囲にある請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のエラストマー組成物の、駆動ベルトを製造するための用途。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のエラストマー組成物の、歯付ベルトを製造するための用途。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載のエラストマー組成物の、ポリ−Vベルトを製造するための用途。
【請求項8】
本体と、前記本体の少なくとも1つの面から延在する複数の歯とを含む、オイルに直接接触する又は部分的に浸漬される歯付ベルトの用途であって、
前記本体が請求項1から4のいずれかに記載のエラストマー組成物を含むことを特徴とする歯付ベルトの、用途。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか一項に記載のエラストマー組成物を含む本体(2)を備えた歯付ベルト(1)。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか一項に記載のエラストマー組成物を含む本体(11)を備えたポリ−Vベルト(10)。
【請求項11】
少なくとも1つの駆動プーリと、1つの従動プーリと、1つの歯付ベルト(1)と、前記歯付ベルト(1)をオイルに直接接触させるか又は部分的に浸漬させておくための手段とを備え、
前記ベルト(1)が、本体(2)、及び、前記本体の少なくとも1つの面から延在する複数の歯(4)を含み、前記歯が被覆布(5)により覆われ、且つ、前記本体が、請求項1から4のいずれか一項に記載のエラストマー組成物を含む、自動車のための駆動システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−522066(P2012−522066A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501406(P2012−501406)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000697
【国際公開番号】WO2010/109321
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(509156284)
【Fターム(参考)】