説明

駆動制御装置

【課題】車両の制御に起因する運転者の違和感を低減する。
【解決手段】駆動制御手段(100)は、車両(1)に搭載され、車両の走行状態に係る情報である走行状態情報を、車両が走行している位置に係る情報である位置情報に関連付けて学習する学習手段(12)と、学習された走行状態情報に応じて、学習された走行状態情報を車両の駆動制御に用いる際の度合いを決定する決定手段(15)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両の挙動を学習し、該学習された挙動に応じて車両を制御する駆動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、検出された自車両の挙動と、当該挙動の検出より前に認識された対象地物と、の関係を表わす関係情報を取得し、検出された自車両の挙動の属性を表わす挙動属性情報と、当該挙動について取得された関係情報と、を含む検出挙動情報を記憶し、該記憶された検出挙動情報に基づいて、対象地物と関連付けられた自車両の挙動の学習結果を表わす学習挙動情報を生成する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−006946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の背景技術では、状況によっては、学習された挙動に基づいて車両の制御を行うと、該車両の運転者に違和感を与える可能性があるという技術的問題点がある。
【0005】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、車両の制御に起因する運転者の違和感を低減することができる駆動制御装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動制御装置は、上記課題を解決するために、車両に搭載され、前記車両の走行状態に係る情報である走行状態情報を、前記車両が走行している位置に係る情報である位置情報に関連付けて学習する学習手段と、前記学習された走行状態情報に応じて、前記学習された走行状態情報を前記車両の駆動制御に用いる際の度合いを決定する決定手段とを備える。
【0007】
本発明の駆動制御装置によれば、当該駆動制御装置は、例えば自動車等の車両に搭載されている。例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる学習手段は、車両の走行状態に係る情報である走行状態情報を、車両が走行している位置に係る情報である位置情報に関連付けて学習する。
【0008】
尚、位置情報は、例えばGPS(Global Positioning System)、INS(Inertial Navigation System)、マップマッチング等の公知の技術を利用して求めればよい。
【0009】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる決定手段は、学習された走行状態情報に応じて、該学習された走行状態情報を車両の駆動制御に用いる際の度合いを決定する。ここで、「度合い」は、学習された走行状態情報が、どの程度車両の駆動制御に反映されるかを示す指標であり、例えば「自信度」、「信頼度」、「優先度」、「重要度」等と読み替えることができる。例えば、「度合い」が大きい程、学習された走行状態情報が車両の駆動制御に反映される可能性が高くなる。
【0010】
尚、「度合い」は、具体的な数値で表わされることに限らず、例えば、“A”、“B”、“C”、…等の文字や記号等で表わされていてもよい。
【0011】
本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、将来の状態がわからない場合、瞬時最適制御が行われることが多いが、必ずしも最適な制御が行われるとは限らない。また、カーナビゲーション装置との協調が図られる制御であるNAVI・AI−SHIFT制御では、車両の走行場所によっては十分な効果が得られないおそれがある。また、学習データに基づいて車両の制御が行われる場合、学習データの質によっては、制御に起因して運転者に違和感を与えるおそれがある。加えて、現実問題として、学習データに基づく将来の走行パターンの推測を、あらゆる場所で100%の精度で実施することは不可能である。
【0012】
しかるに本発明では、決定手段により、学習された走行状態情報に応じて、該学習された走行状態情報を車両の駆動制御に用いる際の度合いが決定される。このため、車両の駆動制御には、度合いが比較的大きい(即ち、十分学習された)走行状態情報が反映されるので、駆動制御に起因して運転者に違和感を与える可能性を抑制することができる。他方、度合いが比較的小さい(即ち、例えば学習が十分ではなく走行状態情報の質が比較的低い)場合は、例えば、走行状態情報を駆動制御に反映させることに代えて、瞬時最適制御等を行うことによって、度合いが比較的小さい走行状態情報を用いた駆動制御よりは、運転者に違和感を与える可能性を抑制することができる。
【0013】
以上の結果、本発明の駆動制御装置によれば、車両の駆動制御に起因する運転者の違和感を低減することができる。更に、学習データに基づく駆動制御を実施可能な地域を拡大することができる。
【0014】
本発明の駆動制御装置の一態様では、前記決定手段は、前記学習された走行状態情報の傾向及びばらつきに基づいて、前記学習された走行状態情報の自信度を算出する算出手段を含み、前記算出された自信度に基づいて、前記学習された走行状態情報を前記車両の駆動制御に用いる際の度合いを決定する。
【0015】
この態様によれば、例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる算出手段は、学習された走行状態情報の傾向及びばらつきに基づいて、学習された走行状態情報の自信度を算出する。ここで、自信度は、例えばカルマンフィルタ等の公知の方法により求めればよい。
【0016】
尚、「走行状態情報の傾向」は、例えば、走行状態情報に含まれる複数回分の学習データ相互間の相関性を意味する。
【0017】
決定手段は、算出された自信度に基づいて、学習された走行状態情報を車両の駆動制御に用いる際の度合いを決定する。このため、比較的容易にして度合いを決定することができ、実用上非常に有利である。
【0018】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る学習の概念の一例を示す概念図である。
【図3】学習利用自信度算出マップの一例である。
【図4】過去の走行パターンと今回の走行パターンとの関係の一例を示す概念図である。
【図5】制御実施自信度算出マップの一例である。
【図6】本発明の実施形態に係る先読み車両制御の一例を示す概念図である。
【図7】本発明の実施形態に係る先読み車両制御の他の例を示す概念図である。
【図8】本発明の実施形態に係る先読み車両制御の他の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る駆動制御装置の実施形態について、図1乃至図8を参照して説明する。
【0021】
先ず、本実施形態に係る駆動制御装置の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る駆動制御装置の構成を示すブロック図である。尚、図1では、説明の便宜上、本実施形態に直接関係のある部材のみ図示しており、他の部材については図示を省略している。また、図1中における矢印は、信号の流れを示している。
【0022】
図1において、駆動制御装置100は、車両1に搭載されている。駆動制御装置100は、測位演算部11、学習処理部12、学習データ蓄積部13、推測演算部14、推測自信度演算部15、制御実施自信度演算部16、瞬時最適車両制御部17、先読み車両制御部18及び調停部19を備えて構成されている。
【0023】
測位演算部11は、例えばGPS、INS、マップマッチング等により、車両1の測位演算を行うと共に、例えばGPS、INS、マップマッチング等の自信度(精度)を考慮して、例えばカルマンフィルタ等の公知の方法を用いて最終的な車両1の位置の自信度を算出する。測位演算部11は、車両1の位置を示す信号を、学習処理部12に送信すると共に、車両1の位置の自信度を示す信号を、制御実施自信度演算部16に送信する。
【0024】
学習処理部12は、例えば、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、アクセルポジションセンサ等の各種センサから出力された信号により示される各種物理量又はパラメータ(即ち、走行状態情報)を、測位演算部11から出力された信号により示される車両1の位置(即ち、位置情報)に関連付けて学習する。
【0025】
ここで、学習処理部12における学習の一例について、図2を参照して説明を加える。図2は、本実施形態に係る学習の概念の一例を示す概念図である。図2では、車速の学習を例として挙げる。
【0026】
図2に示すように、学習処理部12は、例えば、道路形状を規定する地点であるノードa〜fの各々において、車速センサから出力された信号により示された車速を、夫々、測位演算部11から出力された信号により示されるノードa〜fの各々の位置に関連付けて学習する。
【0027】
このように学習すれば、数値として表現することが比較的困難な道路固有の状況に応じた車両1の運転者の操作を学習することができる。このため、例えば、画像処理を用いて道幅や見通しの状況を把握する等の必要がなく、実用上非常に有利である。
【0028】
再び図1に戻り、学習データ蓄積部13は、学習処理部12により学習された学習データを蓄積する。また、学習データ蓄積部13は、蓄積された学習データ(即ち、過去の走行パターン)を示す信号を推測演算部14に送信する。更に、学習データ蓄積部13は、学習データの学習回数や学習データのばらつきを示す信号を推測自信度演算部15に送信する。
【0029】
推測演算部14は、学習データ蓄積部13から出力された信号により示される学習データに基づいて、車両1の将来の走行状態を推測する。具体的には例えば、車両1の現在位置よりも100m(メートル)先の位置における車速が推測される場合、次のような数式により車速が推測される。
推定(100m先)=Vメモリ(100m先)×V(現在位置)÷Vメモリ(現在位置)
つまり、学習データにより示される100m先の位置における車速に、現在位置における実際の車速と学習データにより示される車速との比をかけることにより100m先の位置における車速が推測される。
【0030】
推測自信度演算部15は、例えば、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、アクセルポジションセンサ等の各種センサから出力された信号により示される各種物理量又はパラメータと、学習データ蓄積部13から出力された信号により示される学習データの学習回数やばらつきと、に基づいて学習データの自信度を演算し、以って推測演算部14により推測された物理量又はパラメータ(即ち、推測情報)の自信度を求める。
【0031】
具体的には例えば、推測自信度演算部15は、学習データの学習回数と、学習データのばらつきとの二軸からなる自信度算出マップに基づいて、学習自信度を求める。また、推測自信度演算部15は、学習データにより示される過去の走行パターンと、今回の走行パターンとの相関性に応じて、例えば図3に示すようなマップから学習利用自信度を求める。そして、推測自信度演算部15は、学習自信度と学習利用自信度とに基づいて、学習データの自信度を演算する。
【0032】
仮に相関性を利用しないとすると、例えば過去の走行パターンと車速が誤差範囲を超えて異なる場合(例えば先行車両が存在する場合等)(図4参照)、学習データを利用することができない。しかるに本実施形態では相関線を利用しているので、例えば過去の走行パターンと車速が誤差範囲を超えて異なる場合であっても、学習データを利用することができ、後述するような駆動制御を行うことができる。
【0033】
尚、図3は、学習利用自信度算出マップの一例であり、図4は、過去の走行パターンと今回の走行パターンとの関係の一例を示す概念図である。
【0034】
制御実施自信度演算部16は、測位演算部11から出力された信号により示される位置情報の自信度と、推測自信度演算部15から出力された信号により示される推測情報の自信度とに基づいて、例えば図5に示すようなマップから制御実施自信度を求める。マップを用いることにより、駆動制御装置100の計算負荷を低減することができ、実用上非常に有利である。
【0035】
図5は、制御実施自信度算出マップの一例である。尚、このようなマップは、実験的若しくは経験的、又はシミュレーションによって、例えば位置情報及び推測情報の悪化がどの程度車両制御に影響を与えるかを求め、その結果に基づいて構築すればよい。
【0036】
瞬時最適車両制御部17は、例えば、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、アクセルポジションセンサ等の各種センサから出力された信号により示される各種物理量又はパラメータに基づいて、現在の車両1の走行状態に応じた最適な物理量又はパラメータを出力する。
【0037】
先読み車両制御部18は、推測演算部14から出力された信号により示される車両1の将来の走行状態に応じた物理量又はパラメータを出力する。
【0038】
具体的には例えば、先読み車両制御部18は、図6に示すような、比較的短い直線区間(即ち、加速区間)を、ハイブリッド車両である車両1が走行する場合、加速区間を車両1の駆動用のモータのみで走行するように(即ち、加速区間においてエンジンが始動されないように)、エンジンの始動に係るパラメータ(又は閾値)を変更して出力する。この結果、燃費効率の向上を図ることができる。
【0039】
或いは、先読み車両制御部18は、ハイブリッド車両である車両1が曲線区間に進入する場合、図7(a)に示すように、回生ブレーキが作動するタイミングが比較的早くなるように、回生ブレーキに係るパラメータを変更して出力する。尚、車両1の運転者は、図7中の地点P1で、ブレーキペダルを踏下するものとする。
【0040】
この結果、ブレーキペダルが踏下されてから回生ブレーキを作動させる場合(図7(b)参照)に比べて、回生効率を向上させることができる。
【0041】
或いは、先読み車両制御部18は、ハイブリッド車両である車両1が降坂区間に進入する場合、図8(a)に示すように、図中において破線で示すバッテリー残量の目標値を変更して出力する。この結果、目標値を一定に保つ場合(図8(b)参照)に比べて、エネルギー効率を向上させることができる。つまり、図8(b)に示す場合では、目標値を達成するために、エンジンにより発電機を回転してバッテリーを充電したり、降坂区間通過後に余剰な電力を放電したりしている。
【0042】
尚、図6は、本実施形態に係る先読み車両制御の一例を示す概念図であり、図7は、本実施形態に係る先読み車両制御の他の例を示す概念図であり、図8は、実施形態に係る先読み車両制御の他の例を示す概念図である。
【0043】
再び図1に戻り、調停部19は、制御実施自信度演算部16から出力された信号により示される制御実施自信度に応じた重み付け平均処理を行って、瞬時最適車両制御部17の出力と先読み車両制御部18の出力との調停処理を行う。このため、制御実施自信度が比較的高い場合には、先読み車両制御部18の出力が、車両1の駆動制御に反映される可能性が高くなる。他方、制御実施自信度が比較的低い場合には、瞬時最適車両制御部17の出力が、車両1の駆動制御に反映される可能性が高くなる。
【0044】
尚、本実施形態に係る「学習処理部12」は、本発明に係る「学習手段」の一例である。また、本実施形態に係る「推測自信度演算部15」は、本発明に係る「決定手段」及び「算出手段」の一例である。
【0045】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う駆動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…車両、11…測位演算部、12…学習処理部、13…学習データ蓄積部、14…推測演算部、15…推測自信度演算部、16…制御実施自信度演算部、17…瞬時最適車両制御部、18…先読み車両制御部、19…調停部、100…駆動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、
前記車両の走行状態に係る情報である走行状態情報を、前記車両が走行している位置に係る情報である位置情報に関連付けて学習する学習手段と、
前記学習された走行状態情報に応じて、前記学習された走行状態情報を前記車両の駆動制御に用いる際の度合いを決定する決定手段と
を備えることを特徴とする駆動制御装置。
【請求項2】
前記決定手段は、
前記学習された走行状態情報の傾向及びばらつきに基づいて、前記学習された走行状態情報の自信度を算出する算出手段を含み、
前記算出された自信度に基づいて、前記学習された走行状態情報を前記車両の駆動制御に用いる際の度合いを決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−161949(P2011−161949A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23282(P2010−23282)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】