説明

駆動力伝達装置

【課題】油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、駆動力伝達可能状態を達成すること。
【解決手段】ハイブリッド駆動力伝達装置は、エンジンEngから駆動輪への駆動力伝達系に、クラッチハブ軸2と、クラッチドラム軸4と、両軸2,4の間に介装され、油圧供給により締結されるノーマルオープンタイプの乾式多板クラッチ7と、を備える。このハイブリッド駆動力伝達装置において、駆動力伝達系を構成する一部の部材を、低温時に形状特性が変わる素材を用いた形状記憶スプリング84とする。そして、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、形状記憶スプリング84の形状変更により駆動力伝達可能状態とする第1低温時駆動力伝達機構A1を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動系に適用され、ノーマルオープンタイプの油圧クラッチを備えた駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド駆動力伝達装置としては、エンジンから駆動輪に至る駆動系に、締結によりエンジン駆動力を駆動輪に伝達するノーマルオープンタイプの油圧クラッチを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、金属の熱膨張の特性を活用し、摩擦面の締結力を補助し、温度変化による摩擦トルクの低下を防止する電磁クラッチが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−121203号公報
【特許文献2】実公平3−22580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたクラッチは、電磁クラッチではなく油圧クラッチであり、特許文献2に記載された電磁クラッチの摩擦トルク低下防止技術は適用できない。また、電磁クラッチの場合、構成の変更が大きく、コストが増大する。
【0006】
かといって、電動ポンプからの吐出圧に基づくクラッチ油圧を供給することで、油圧クラッチを締結する場合、極低温時には油圧クラッチを締結することができない、という問題がある。なぜなら、極低温時にはバッテリ出力が低下するため、モータ出力が不足し、かつ、作動油の粘性も高いことから、モータを必要回転まで上げることができず、所望の吐出圧を得る電動ポンプの駆動ができないことによる。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、駆動力伝達可能状態を達成することができる駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、駆動源から駆動輪への駆動力伝達系に、第1駆動力伝達軸と、第2駆動力伝達軸と、両駆動力伝達軸の間に介装され、油圧供給により締結されるノーマルオープンタイプの油圧クラッチと、を備える。
この駆動力伝達装置において、前記駆動力伝達系を構成する一部の部材を、低温時に形状特性が変わる素材を用いた温度感応形状変更部材とする。
前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記温度感応形状変更部材の形状変更により駆動力伝達可能状態とする低温時駆動力伝達機構を設けた。
【発明の効果】
【0009】
上記のように、駆動力伝達系を構成する一部の部材が、低温時に形状特性が変わる素材を用いた温度感応形状変更部材とされる。そして、低温時、温度感応形状変更部材の形状変更により駆動力伝達可能状態とする低温時駆動力伝達機構が設けられる。
このため、低温時、油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できないにもかかわらず、低温時駆動力伝達機構において、温度感応形状変更部材の形状変更を活用し、駆動力伝達可能状態とされる。
この結果、油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、駆動力伝達可能状態を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置(駆動力伝達装置の一例)を示す全体概略図である。
【図2】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置におけるモータ&クラッチユニットの構成を示す要部断面図である。
【図3】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのピストン組立体を示す分解斜視図である。
【図4】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置で乾式多板クラッチの開放により駆動力伝達を遮断した通常状態における第1低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図5】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置で乾式多板クラッチのアーム締結により駆動力伝達可能とした低温状態における第1低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図6】実施例2のハイブリッド駆動力伝達装置で乾式多板クラッチの開放により駆動力伝達を遮断した通常状態における第2低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図7】実施例2のハイブリッド駆動力伝達装置で乾式多板クラッチのディッシュ締結により駆動力伝達可能とした低温状態における第2低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図8】実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸の切り離しにより駆動力伝達を遮断した通常状態における第3低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図9】実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置で第3低温時駆動力伝達機構を示す断面図である。
【図10】実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸をピン結合により駆動力伝達可能とした極低温時における第3低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図11】実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置で第3低温時駆動力伝達機構の変形例を示す断面図である。
【図12】実施例4のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸の切り離しにより駆動力伝達を遮断した通常状態における第4低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図13】実施例4のハイブリッド駆動力伝達装置で第4低温時駆動力伝達機構のガイド板を示す正面図である。
【図14】実施例4のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸を摩擦締結により駆動力伝達可能とした極低温時における第4低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図15】実施例5のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸の切り離しにより駆動力伝達を遮断した通常状態における第5低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図16】実施例5のハイブリッド駆動力伝達装置で通常状態における第5低温時駆動力伝達機構を示す断面図である。
【図17】実施例5のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸をカム係合により駆動力伝達可能とした極低温時における第5低温時駆動力伝達機構を示す要部断面図である。
【図18】実施例5のハイブリッド駆動力伝達装置で極低温時における第5低温時駆動力伝達機構を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の駆動力伝達装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置(駆動力伝達装置の一例)の構成を、「全体システム構成」、「モータ&クラッチユニットの構成」、「第1低温時駆動力伝達機構の構成」に分けて説明する。
【0013】
[全体システム構成]
図1は、実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置を示す全体概略図である。以下、図1に基づき、全体システム構成を説明する。
【0014】
前記ハイブリッド駆動力伝達装置は、図1に示すように、エンジンEngと、モータ&クラッチユニットM/Cと、変速機ユニットT/Mと、を備えている。エンジンEngのエンジン出力軸1に連結されるモータ&クラッチユニットM/Cは、クラッチハブ軸2と、クラッチハブ3と、クラッチドラム軸4と、変速機入力軸5と、クラッチドラム6と、乾式多板クラッチ7と、スレーブシリンダー8と、モータ/ジェネレータ9と、を有する。
なお、乾式多板クラッチ7の締結・開放を油圧制御するスレーブシリンダー8は、一般に「CSC(Concentric Slave Cylinderの略)」と呼ばれる。
【0015】
前記ハイブリッド駆動力伝達装置において、ノーマルオープンである乾式多板クラッチ7を開放したとき、モータ/ジェネレータ9と変速機入力軸5を、クラッチドラム6とクラッチドラム軸4を介して連結する。これにより、モータ/ジェネレータ9を駆動源とする「電気自動車走行モード」とする。そして、乾式多板クラッチ7を油圧締結したとき、エンジンEngとモータ/ジェネレータ9と変速機入力軸5を、乾式多板クラッチ7を介して連結する。これにより、エンジンEngとモータ/ジェネレータ9を駆動源とする「ハイブリッド車走行モード」とする。なお、エンジン出力軸1とクラッチハブ軸2は、ダンパー21を介して連結される。
【0016】
前記モータ&クラッチユニットM/Cは、乾式多板クラッチ7と、スレーブシリンダー8と、モータ/ジェネレータ9と、を有する。乾式多板クラッチ7は、エンジンEngに連結接続され、エンジンEngからの駆動力伝達を断接する。スレーブシリンダー8は、乾式多板クラッチ7の締結・開放を油圧制御する。モータ/ジェネレータ9は、乾式多板クラッチ7のクラッチドラム6の外周位置に配置され、変速機入力軸5との間で動力の伝達をする。このモータ&クラッチユニットM/Cには、スレーブシリンダー8への第1クラッチ圧油路85を有するシリンダーハウジング81が、O−リング10によりシール性を保ちながら設けられている。
【0017】
前記モータ/ジェネレータ9は、同期型交流電動機であり、クラッチドラム6と一体に設けたロータ支持フレーム91と、ロータ支持フレーム91に支持固定され、永久磁石が埋め込まれたロータ92と、を有する。そして、ロータ92にエアギャップ93を介して配置され、シリンダーハウジング81に固定されたステータ94と、ステータ94に巻き付けられたステータコイル95と、を有する。なお、シリンダーハウジング81には、冷却水を流通させるウォータジャケット96が形成されている。
【0018】
前記変速機ユニットT/Mは、モータ&クラッチユニットM/Cに連結接続され、変速機ハウジング41と、Vベルト式無段変速機構42と、オイルポンプO/Pと、を有する。Vベルト式無段変速機構42は、変速機ハウジング41に内蔵され、2つのプーリ間にVベルトを掛け渡し、ベルト接触径を変化させることにより無段階の変速比を得る。オイルポンプO/Pは、必要部位への油圧を作る油圧源であり、オイルポンプ圧を元圧とし、プーリ室への変速油圧やクラッチ・ブレーキ油圧、等を調圧する図外のコントロールバルブからの油圧を必要部位へ導く。この変速機ユニットT/Mには、さらに前後進切換機構43と、オイルタンク44と、エンドプレート45と、が設けられている。エンドプレート45は、第2クラッチ圧油路47(図2)を有する。
【0019】
前記オイルポンプO/Pは、変速機入力軸5の回転駆動トルクを、チェーン駆動機構を介して伝達することでポンプ駆動する。チェーン駆動機構は、変速機入力軸5の回転駆動に伴って回転する駆動側スプロケット51と、ポンプ軸57を回転駆動させる被動側スプロケット52と、両スプロケット51,52に掛け渡されたチェーン53と、を有する。駆動側スプロケット51は、変速機入力軸5とエンドプレート45との間に介装され、変速機ハウジング41に固定されたステータシャフト54に対し、ブッシュ55を介して回転可能に支持されている。そして、変速機入力軸5にスプライン嵌合すると共に、駆動側スプロケット51に対して爪嵌合する第1アダプタ56を介し、変速機入力軸5からの回転駆動トルクを伝達する。
【0020】
[モータ&クラッチユニットの構成]
図2は、実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置におけるモータ&クラッチユニットの構成を示す要部断面図であり、図3は、実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのピストン組立体を示す分解斜視図である。以下、図2及び図3に基づき、モータ&クラッチユニットM/Cの構成を説明する。
【0021】
前記クラッチハブ3は、エンジンEngのエンジン出力軸1に連結される。このクラッチハブ3には、図2に示すように、乾式多板クラッチ7のドライブプレート71がスプライン結合により保持される。
【0022】
前記クラッチドラム6は、変速機ユニットT/Mの変速機入力軸5に連結される。このクラッチドラム6には、図2に示すように、乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72がスプライン結合により保持される。
【0023】
前記乾式多板クラッチ7は、クラッチハブ3とクラッチドラム6の間に、両面に摩擦フェーシング73,73を貼り付けたドライブプレート71と、ドリブンプレート72と、を交互に複数枚配列することで介装される。つまり、乾式多板クラッチ7を締結することで、クラッチハブ3とクラッチドラム6の間でトルク伝達可能とし、乾式多板クラッチ7を開放することで、クラッチハブ3とクラッチドラム6の間でのトルク伝達を遮断する。
【0024】
前記スレーブシリンダー8は、乾式多板クラッチ7の締結・開放を制御する油圧アクチュエータであり、変速機ユニットT/M側とクラッチドラム6の間の位置に配置される。このスレーブシリンダー8は、図2に示すように、シリンダーハウジング81のシリンダー孔80に摺動可能に設けたピストン82と、シリンダーハウジング81に形成し、変速機ユニットT/Mにより作り出したクラッチ圧を導く第1クラッチ圧油路85と、第1クラッチ圧油路85に連通するシリンダー油室86と、を有する。ピストン82と乾式多板クラッチ7との間には、図2に示すように、ニードルベアリング87と、ピストンアーム83と、形状記憶スプリング84と、アーム圧入プレート88と、が介装されている。
【0025】
前記ピストンアーム83は、スレーブシリンダー8からの押圧力により乾式多板クラッチ7の押し付け力を発生させるもので、クラッチドラム6に形成した貫通孔61に摺動可能に設けている。形状記憶スプリング84は、ピストンアーム83とクラッチドラム6の間に介装されている。ニードルベアリング87は、ピストン82とピストンアーム83との間に介装され、ピストン82がピストンアーム83の回転に伴って連れ回るのを抑えている。アーム圧入プレート88は、蛇腹弾性支持部材89,89と一体に設けられ、蛇腹弾性支持部材89,89の内周部と外周部がクラッチドラム6に圧入固定されている。このアーム圧入プレート88と蛇腹弾性支持部材89,89により、ピストンアーム83側からのリーク油が乾式多板クラッチ7へ流れ込むのを遮断する。つまり、クラッチドラム6のピストンアーム取り付け位置に密封固定されたアーム圧入プレート88及び蛇腹弾性支持部材89により、スレーブシリンダー8を配置したウェット空間と、乾式多板クラッチ7を配置したドライ空間を分ける仕切り機能を持たせている。
【0026】
前記ピストンアーム83は、図3に示すように、リング状に形成したアームボディ83aと、該アームボディ83aから4箇所で突設させたアーム突条83bと、によって構成されている。
【0027】
前記形状記憶スプリング84は、図3に示すように、リング状に形成したスプリング支持プレート84aと、該スプリング支持プレート84aに固定した複数個のコイルスプリング84bと、により構成されている。
【0028】
前記アーム圧入プレート88は、図2に示すように、ピストンアーム83のアーム突条83bに圧入固定される。そして、図3に示すように、アーム圧入プレート88の内側と外側に蛇腹弾性支持部材89,89を一体に有する。
【0029】
実施例1のリーク油回収油路は、図2に示すように、第1ベアリング12と、第1シール部材31と、リーク油路32と、第1回収油路33と、第2回収油路34と、を備えている。すなわち、ピストン82の摺動部からのリーク油を、第1シール部材31により密封された第1回収油路33及び第2回収油路34を経過し、変速機ユニットT/Mに戻す回路である。これに加えて、ピストンアーム83の摺動部からのリーク油を、仕切り弾性部材(アーム圧入プレート88、蛇腹弾性支持部材89,89)により密封されたリーク油路32と、第1シール部材31により密封された第1回収油路33及び第2回収油路34を経過し、変速機ユニットT/Mに戻す回路である。
【0030】
実施例1のベアリング潤滑油路は、図2に示すように、ニードルベアリング20と、第2シール部材14と、第1軸心油路19と、第2軸心油路18と、潤滑油路16と、隙間17と、を備えている。このベアリング潤滑油路は、変速機ユニットT/Mからのベアリング潤滑油を、ニードルベアリング20と、シリンダーハウジング81に対しクラッチドラム6を回転可能に支持する第1ベアリング12と、ピストン82とピストンアーム83との間に介装されたニードルベアリング87と、を通過し、変速機ユニットT/Mへ戻す経路によりベアリング潤滑を行う。
【0031】
前記第2シール部材14は、図2に示すように、クラッチハブ3とクラッチドラム6の間に介装している。この第2シール部材14により、スレーブシリンダー8を配置したウェット空間から、乾式多板クラッチ7を配置したドライ空間へとベアリング潤滑油が流れ込むのをシールしている。
【0032】
前記乾式多板クラッチ7の構成を、さらに詳しく説明する。
前記乾式多板クラッチ7は、エンジンEngからの駆動力の伝達を断接するクラッチであり、図2に示すように、クラッチハブ軸2とクラッチハブ3とクラッチカバー6とフロントカバー60により囲まれた密閉空間によるクラッチ室64内に配置されている。そして、乾式多板クラッチ7の構成部材として、ドライブプレート71と、ドリブンプレート72と、摩擦フェーシング73と、フロントカバー60と、を備える。
【0033】
前記ドライブプレート71は、クラッチハブ3にスプライン結合され、クラッチハブ3とのスプライン結合部に、軸方向に流れる気流を通す通気穴74を有する。
【0034】
前記ドリブンプレート72は、クラッチドラム6にスプライン結合され、クラッチドラム6とのスプライン結合部に、軸方向に流れる気流を通す通気隙間77を有する。
【0035】
前記摩擦フェーシング73は、ドライブプレート71の両面に設けられ、クラッチ締結時に摩擦面がドリブンプレート72のプレート面に圧接する。
【0036】
前記フロントカバー60は、クラッチドラム軸4に対し第1ベアリング12により支持された静止部材のシリンダーハウジング81に対して一体に固定され、モータ/ジェネレータ9と乾式多板クラッチ7を覆う。つまり、フロントカバー60は、クラッチハブ軸2に対し第2ベアリング13により支持されると共に、カバーシール15により密封された静止部材である。このフロントカバー60及びシリンダーハウジング81を覆うことにより形成される内部空間のうち、クラッチ回転軸CL(=ロータ軸)側空間を、乾式多板クラッチ7を収容するクラッチ室64とし、クラッチ室64の外側空間を、モータ/ジェネレータ9を収容するモータ室65とする。そして、ダストシール部材62により分割されるクラッチ室64とモータ室65は、油が入り込むのを遮断したドライ空間である。
【0037】
[第1低温時駆動力伝達機構の構成]
図4は、実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置で乾式多板クラッチの開放により駆動力伝達を遮断した通常状態における第1低温時駆動力伝達機構を示す。図5は、乾式多板クラッチのアーム締結により駆動力伝達可能とした低温状態における第1低温時駆動力伝達機構を示す。以下、図4及び図5に基づき、第1低温時駆動力伝達機構A1の構成を説明する。
【0038】
まず、第1低温時駆動力伝達機構A1は、エンジンEng(駆動源)から図外の駆動輪への駆動力伝達系に、クラッチハブ軸2(第1駆動力伝達軸)と、クラッチドラム軸4(第2駆動力伝達軸)と、乾式多板クラッチ7(油圧クラッチ)と、を備えたハイブリッド駆動力伝達装置に適用される。前記乾式多板クラッチ7は、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4の間に介装され、油圧供給により締結されるノーマルオープンタイプのクラッチである。
【0039】
前記第1低温時駆動力伝達機構A1は、駆動力伝達系のうち、乾式多板クラッチ7のクラッチ締結構造を構成する一部の部材であるリターンスプリングを、低温時に形状特性が変わる形状記憶合金(素材の一例)を用いた形状記憶スプリング84(温度感応形状変更部材)としている。そして、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、形状記憶スプリング84の形状変更により乾式多板クラッチ7を締結させることで駆動力伝達可能状態とする(図5)。
【0040】
前記クラッチ締結構造は、ドライブプレート71(クラッチプレート)と、ドリブンプレート72(クラッチプレート)と、両プレート71,72を締結する油圧作動によるピストンアーム83(クラッチピストン)と、を有する。
【0041】
前記ピストンアーム83は、乾式多板クラッチ7の両プレート71,72にアーム圧入プレート88を介して接するアーム本体部83aと、スレーブシリンダー8のニードルベアリング87に接するアームベース部83bと、に分けて構成される。なお、ニードルベアリング87は、スレーブシリンダー8のピストン82とアームベース部83bとの間に介装される。
【0042】
前記形状記憶スプリング84は、クラッチドラム6とアーム本体部83aとの間に介装され、図4に示す通常状態でアーム本体部83aをクラッチ開放側に付勢し、図5に示す低温状態でアーム本体部83aへのクラッチ開放側付勢力が無くなる。ここで、通常状態とは、低温域以外の温度状態であって通常のリターンスプリング機能を発揮する状態をいう(図4)。また、低温状態とは、低温域の温度状態であって記憶されたスプリング形状(付勢力が無くなるスプリング圧縮形状)に戻る状態をいう(図5)。
【0043】
前記アーム本体部83aとアームベース部83bとの間には、アームベース部83bに対しアーム本体部83aをクラッチ締結側へ付勢するスプリング21が介装されている。なお、アームベース部83bの背面に接する位置のクラッチドラム6には、図4及び図5に示すように、アームベース部83bの図左方向への移動を規制するスナップリング22が設けられている。
【0044】
前記第1低温時駆動力伝達機構A1は、図5に示すように、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、形状記憶スプリング84の形状変更により開放側付勢力が無くなると、スプリング21によりクラッチ締結側への付勢力を発生する。
【0045】
次に、作用を説明する。
実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における作用を、「通常状態でのクラッチ締結/開放作用」、「低温状態でのクラッチ締結作用」に分けて説明する。
【0046】
[通常状態でのクラッチ締結/開放作用]
以下、図2及び図4を用い、スレーブシリンダー8により乾式多板クラッチ7を締結・開放する通常状態でのクラッチ締結/開放作用を説明する。
【0047】
例えば、低温域以外の通常状態での発進時には、モータ/ジェネレータ9によりオイルポンプO/Pが回転駆動され、ポンプ吐出圧を元圧として乾式多板クラッチ7のクラッチ油圧を作り出すことが可能である。また、形状記憶スプリング84は、アーム本体部83aをクラッチ開放側に付勢するというように、通常のリターンスプリング機能を発揮する。さらに、形状記憶スプリング84の付勢力により、アーム本体部83aとアームベース部83bとの間に介装されたスプリング21が、図4に示すように圧縮されることで、3つの部材83a,83b,21を一体化したピストンアーム83として動作する。
【0048】
したがって、スレーブシリンダー8による乾式多板クラッチ7を締結するときには、変速機ユニットT/Mにて作り出したクラッチ油圧を、シリンダーハウジング81に形成した第1クラッチ圧油路85を経過してシリンダー油室86に供給する。これにより、油圧と受圧面積を掛け合わせた油圧力がピストン82に作用し、アーム本体部83aとクラッチドラム6の間に介装された形状記憶スプリング84による付勢力に抗して、ピストン82を図2の右方向にストロークさせる。そして、油圧力と付勢力の差による締結力は、ピストン82→ニードルベアリング87→一体化したピストンアーム83→アーム圧入プレート88へと伝達され、ドライブプレート71とドリブンプレート72を押し付け、乾式多板クラッチ7が締結される。
【0049】
一方、締結状態の乾式多板クラッチ7を開放するときは、シリンダー油室86に供給されている作動油を、クラッチ圧油路85を経過して変速機ユニットT/Mへ抜き、ピストン82に作用する油圧力を低下させると、形状記憶スプリング84による付勢力が油圧力を上回り、一体に結合されたピストンアーム83とアーム圧入プレート88を、図2の左方向にストロークさせる。これによりアーム圧入プレート88へ伝達されていた締結力が解除され、乾式多板クラッチ7が開放される。
【0050】
[低温状態でのクラッチ締結作用]
上記通常状態では、クラッチ油圧が作り出されることを前提として乾式多板クラッチ7が締結される。しかし、低温状態であって乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できないときには、油圧締結以外の何らかの手法によりクラッチ締結を確保することが必要である。以下、図5に基づき、これを反映する低温状態でのクラッチ締結作用を説明する。
【0051】
例えば、低温状態での発進時には、図外のバッテリ(例えば、リチウムイオン電池)で駆動するモータ/ジェネレータ9は、バッテリ電圧が上がらないことによりオイルポンプO/Pを必要な回転駆動力により駆動できない。さらに、低温状態ではオイルの粘性が高くなり、ポンプ負荷も高くなる。よって、低温状態においては、乾式多板クラッチ7への必要クラッチ油圧を発生することができなく、乾式多板クラッチ7を締結させることができない。この結果、エンジンEngからの駆動力を駆動輪に伝達することができない状態になり、ドライバーに発進意図があるにもかかわらず、エンジン暖機によるオイル粘性の低下やモータ出力の上昇を待って車両発進することになる。
【0052】
この低温状態における駆動力伝達の課題を解決するには、例えば、「車載バッテリの容量を大きくし、モータ出力を上げ、低温状態でバッテリ電圧低下や高粘性になるにもかかわらず、乾式多板クラッチ7を締結させる。」といった方策が必要である。しかし、この方策の場合、車両としての変更規模が大きくなってしまう。
【0053】
これに対し、実施例1では、低温状態であるため、形状記憶スプリング84が、図5に示すように、記憶形状である付勢力が無くなるスプリング圧縮形状に戻る。このため、アーム本体部83aとアームベース部83bとの間に介装されたスプリング21が、アームベース部83bに対しアーム本体部83aをクラッチ締結側へ付勢し、アーム本体部83aを図5の右方向にストロークさせる。そして、スプリング21による付勢力は、アーム本体部83a→アーム圧入プレート88へと伝達され、ドライブプレート71とドリブンプレート72を押し付ける締結力になり、乾式多板クラッチ7の締結が確保される。
【0054】
したがって、低温状態のとき、第1低温時駆動力伝達機構A1により、エンジンEngからの駆動力を、締結された乾式多板クラッチ7を介して駆動輪に伝達することが可能な状態になり、ドライバーの発進意図に呼応して車両を発進させることができる。
【0055】
この低温状態のとき、形状記憶スプリング84によるスプリング反力が変化することで乾式多板クラッチ7を締結するようにしたため、形状記憶合金そのものの形状変化により直接的に乾式多板クラッチを締結する構成とするよりも、クラッチ締結力の調整が容易となる。また、形状記憶合金を形状記憶スプリング84だけに用いるので、コストも低く抑えることができる。
【0056】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0057】
(1) 駆動源(エンジンEng)から駆動輪への駆動力伝達系に、第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と、第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)と、両駆動力伝達軸の間に介装され、油圧供給により締結されるノーマルオープンタイプの油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)と、を備えた駆動力伝達装置(ハイブリッド駆動力伝達装置)において、
前記駆動力伝達系を構成する一部の部材を、低温時に形状特性が変わる素材を用いた温度感応形状変更部材(形状記憶スプリング84)とし、
前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記温度感応形状変更部材(形状記憶スプリング84)の形状変更により駆動力伝達可能状態とする低温時駆動力伝達機構(第1低温時駆動力伝達機構A1)を設けた。
このため、油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、駆動力伝達可能状態を達成することができる。
【0058】
(2) 前記温度感応形状変更部材(形状記憶スプリング84)は、前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)のクラッチ締結構造を構成する一部の部材(リターンスプリング)であり、
前記低温時駆動力伝達機構(第1低温時駆動力伝達機構A1)は、前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記温度感応形状変更部材(形状記憶スプリング84)の形状変更により前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)を締結させることで駆動力伝達可能状態とする。
このため、上記(1)の効果に加え、低温時、油圧締結されない油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結を低温時駆動力伝達機構(第1低温時駆動力伝達機構A1)により確保することで、駆動力伝達可能状態を達成することができる。
【0059】
(3) 前記クラッチ締結構造は、クラッチプレート(ドライブプレート71,ドリブンプレート72)と、該クラッチプレートを締結する油圧作動によるクラッチピストン(アーム本体部83a,アームベース部83b)と、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記クラッチピストン(アーム本体部83a)をクラッチ開放側に付勢する形状記憶スプリング84であり、
前記低温時駆動力伝達機構(第1低温時駆動力伝達機構A1)は、前記クラッチピストン(アーム本体部83a)をクラッチ締結側へ付勢するスプリング21を備え、前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記形状記憶スプリング84の形状変更により開放側付勢力が無くなると、前記スプリング21によりクラッチ締結側への付勢力を発生する。
このため、上記(2)の効果に加え、低温時、油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)のクラッチ締結力調整が容易であると共に、コストも低く抑えることができる。
【実施例2】
【0060】
実施例2は、低温時駆動力伝達機構として、乾式多板クラッチのリテーナプレートに着目した第2低温時駆動力伝達機構A2を用いた例である。
【0061】
まず、構成を説明する。
[第1低温時駆動力伝達機構の構成]
図6は、実施例2のハイブリッド駆動力伝達装置で乾式多板クラッチの開放により駆動力伝達を遮断した通常状態における第2低温時駆動力伝達機構を示す。図7は、乾式多板クラッチのディッシュ締結により駆動力伝達可能とした低温状態における第2低温時駆動力伝達機構を示す。以下、図6及び図7に基づき、第2低温時駆動力伝達機構A2の構成を説明する。
【0062】
前記第2低温時駆動力伝達機構A2は、駆動力伝達系のうち、乾式多板クラッチ7のクラッチ締結構造を構成する一部の部材であるリテーナプレートを、低温時に形状特性が変わるバイメタル材(素材の一例)を用いたバイメタルディッシュ78(温度感応形状変更部材)としている。そして、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、バイメタルディッシュ78の形状変更により乾式多板クラッチ7を締結させることで駆動力伝達可能状態とする(図7)。
【0063】
前記クラッチ締結構造は、ドライブプレート71(クラッチプレート)と、ドリブンプレート72(クラッチプレート)と、両プレート71,72を締結する油圧作動によるピストンアーム83(クラッチピストン)と、を有する。
【0064】
前記バイメタルディッシュ78は、ピストンアーム83による締結力の反力をドライブプレート71及びドリブンプレート72の反対側位置にてスナップリング79と共に受ける。このバイメタルディッシュ78は、両プレート71,72に接する側の第1バイメタルプレート78aと、スナップリング79に接する側の第2バイメタルプレート78bと、を組み合わせることにより構成される。そして、低温状態での収縮量が、第1バイメタルプレート78a>第2バイメタルプレート78bとなる素材を選択することにより、図6に示す通常状態で平板形状によるリテーナプレート機能を発揮し、図7に示す低温状態で皿バネ形状により付勢バネ機能を発揮する。
【0065】
前記第2低温時駆動力伝達機構A2は、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、バイメタルディッシュ78が平板形状(図6)から皿バネ形状(図7)へと形状を変えることによりクラッチ締結側への付勢力を発生する。
なお、「全体システム構成」と「モータ&クラッチユニットの構成」と他の構成は、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0066】
次に、作用を説明する。
[低温状態でのクラッチ締結作用]
実施例2では、低温状態になると、バイメタルディッシュ78が、図6に示す平板形状から、図7に示す皿バネ形状へと形状を変える。このため、皿バネ形状へと形状を変えたバイメタルディッシュ78による付勢力が、ドライブプレート71とドリブンプレート72を押し付ける締結力になり、ピストンアーム83を反力受けとして乾式多板クラッチ7の締結が確保される。
【0067】
したがって、低温状態のとき、第2低温時駆動力伝達機構A2により、エンジンEngからの駆動力を、締結された乾式多板クラッチ7を介して駆動輪に伝達することが可能な状態になり、ドライバーの発進意図に呼応して車両を発進させることができる。
【0068】
このとき、第2低温時駆動力伝達機構A2を適用するに際し、乾式多板クラッチ7の既存のリテーナプレートをバイメタルディッシュ78に交換するだけで、他の構成の変更を要しないため、構造の簡素化が図られる。
なお、「通常状態でのクラッチ締結/開放作用」は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0069】
次に、効果を説明する。
実施例2のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0070】
(4) 前記クラッチ締結構造は、クラッチプレート(ドライブプレート71,ドリブンプレート72)と、該クラッチプレートを締結する油圧作動によるクラッチピストン(ピストンアーム83)と、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記クラッチピストン(ピストンアーム83)による締結力の反力を前記クラッチプレート(ドライブプレート71,ドリブンプレート72)の反対側で受けるバイメタルディッシュ78であり、
前記低温時駆動力伝達機構(第2低温時駆動力伝達機構A2)は、前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記バイメタルディッシュ78が平板形状から皿バネ形状へと形状を変えることによりクラッチ締結側への付勢力を発生する。
このため、上記(2)の効果に加え、低温時に油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)を締結する低温時駆動力伝達機構(第2低温時駆動力伝達機構A2)の簡素化を図ることができる。
【実施例3】
【0071】
実施例3は、クラッチハブ軸とクラッチドラム軸をピン結合により直結することで駆動力伝達可能状態とした例である。
【0072】
まず、構成を説明する。
図8は、実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸の切り離しにより駆動力伝達を遮断した通常状態における第3低温時駆動力伝達機構を示す。図9は、第3低温時駆動力伝達機構を示す。図10は、クラッチハブ軸とクラッチドラム軸をピン結合により駆動力伝達可能とした極低温時における第3低温時駆動力伝達機構を示す。以下、図8〜図10に基づき、第3低温時駆動力伝達機構A3の構成を説明する。
【0073】
前記第3低温時駆動力伝達機構A3は、駆動力伝達系のうち、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4の軸直結構造を構成する一部の部材を、低温時に形状特性が変わる形状記憶合金(素材の一例)を用いた形状記憶スプリング23(温度感応形状変更部材)としている。そして、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、形状記憶スプリング23の形状変更によりクラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4を直結させることで駆動力伝達可能状態とする(図10)。
【0074】
前記軸直結構造は、クラッチハブ軸2に設けられたガイド溝24と、クラッチドラム軸4に設けられた固定嵌合溝25と、ガイド溝24に沿う軸方向移動により固定嵌合溝25に嵌合可能なガイドピン26(可動嵌合部材)と、を有する。このガイドピン26は、形状記憶スプリング23とスプリング27により両側から付勢されている。
【0075】
前記形状記憶スプリング23は、図8に示す通常状態でガイドピン26を2軸開放側に付勢し、図10に示す低温状態でガイドピン26への2軸開放側付勢力が無くなる。ここで、通常状態とは、低温域以外の温度状態であって通常のスプリング機能を発揮する状態をいう(図8)。また、低温状態とは、低温域の温度状態であって記憶されたスプリング形状(付勢力が無くなるスプリング圧縮形状)に戻る状態をいう(図10)。
【0076】
前記第3低温時駆動力伝達機構A3は、ガイドピン26を2軸直結側へ付勢するスプリング27を備え、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、形状記憶スプリング23の形状変更により2軸開放側への付勢力が無くなると、スプリング27により2軸直結側への付勢力を発生する。
なお、「全体システム構成」と「モータ&クラッチユニットの構成」と他の構成は、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0077】
次に、作用を説明する。
[極低温時の2軸直結作用]
まず、通常状態においては、形状記憶スプリング23の付勢力が、スプリング27の付勢力より上回っていて、図8に示すように、ガイドピン26をガイド溝24に押し付けた2軸開放状態が維持される。
【0078】
これに対し、例えば、低温状態での発進時等においては、低温状態であるため、形状記憶スプリング23が、図10に示すように、記憶形状である付勢力が無くなるスプリング圧縮形状に戻る。このため、スプリング27による2軸直結側への付勢力が上回り、この付勢力によりガイドピン26が、図8に示す位置から図10に示す位置へとガイド溝24に沿って軸方向に移動する。この軸方向移動により、ガイドピン26が、図10に示すように、クラッチドラム軸4に設けられた固定嵌合溝25に嵌合し、クラッチハブ軸2に設けられたガイド溝24に溝嵌合するガイドピン26を介して、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4がピン直結される。
【0079】
したがって、極低温時等の低温状態のとき、第3低温時駆動力伝達機構A3により、エンジンEngからの駆動力を、直結されたクラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4を介して駆動輪に伝達することが可能な状態になり、ドライバーの発進意図に呼応して車両を発進させることができる。
【0080】
この低温状態のとき、乾式多板クラッチ7を締結することなく、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4の軸同士をピン直結によりロックするようにしている。このため、低温状態のとき、確実に駆動力の伝達が可能な状態にすることができると共に、高い駆動力を伝達することが可能となる。
なお、「通常状態でのクラッチ締結/開放作用」は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0081】
次に、効果を説明する。
実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0082】
(5) 前記温度感応形状変更部材(形状記憶スプリング23)は、前記第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と前記第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)の軸直結構造を構成する一部の部材であり、
前記低温時駆動力伝達機構(第3低温時駆動力伝達機構A3)は、前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記温度感応形状変更部材(形状記憶スプリング23)の形状変更により前記第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と前記第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)を直結させることで駆動力伝達可能状態とする。
このため、上記(1)の効果に加え、低温時、油圧締結されない油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)に代え、低温時駆動力伝達機構(第3低温時駆動力伝達機構A3)により第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)の2軸を直結することで、確実に駆動力伝達可能状態を達成することができる。
【0083】
(6) 前記軸直結構造は、前記第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と前記第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)の一方の軸に設けられたガイド溝24と、他方の軸に設けられた固定嵌合溝25と、前記ガイド溝24に沿う軸方向移動により前記固定嵌合溝25に嵌合可能な可動嵌合部材(ガイドピン26)と、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記可動嵌合部材(ガイドピン26)を2軸開放側に付勢する形状記憶スプリング23であり、
前記低温時駆動力伝達機構(第3低温時駆動力伝達機構A3)は、前記可動嵌合部材(ガイドピン26)を2軸直結側へ付勢するスプリング27を備え、前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記形状記憶スプリング23の形状変更により2軸開放側への付勢力が無くなると、前記スプリング27により2軸直結側への付勢力を発生する。
このため、上記(5)の効果に加え、低温状態のとき、油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結することなく、第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)をピン直結することで、油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)を締結する場合に比べ、高い駆動力を伝達することが可能になる。
【0084】
なお、実施例3では、図8〜図10に示すように、可動嵌合部材として、ガイドピン26を用いる例を示した。しかし、図11の実施例3の変形例による第3低温時駆動力伝達機構A3’に示すように、可動嵌合部材としては、噛み合い結合によるドグクラッチ28を用いるようにしても良い。
【実施例4】
【0085】
実施例4は、クラッチハブ軸とクラッチドラム軸を摩擦締結により直結することで駆動力伝達可能状態とした例である。
【0086】
まず、構成を説明する。
図12は、実施例4のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸の切り離しにより駆動力伝達を遮断した通常状態における第4低温時駆動力伝達機構を示す。図13は、第4低温時駆動力伝達機構のガイド板を示す。図14は、クラッチハブ軸とクラッチドラム軸を摩擦締結により駆動力伝達可能とした極低温時における第4低温時駆動力伝達機構を示す。以下、図12〜図14に基づき、第4低温時駆動力伝達機構A4の構成を説明する。
【0087】
前記第4低温時駆動力伝達機構A4は、駆動力伝達系のうち、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4の軸直結構造を構成する一部の部材を、低温時に形状特性が変わる形状記憶合金(素材の一例)を用いた形状記憶スプリング23(温度感応形状変更部材)としている。そして、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、形状記憶スプリング23の形状変更によりクラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4を直結させることで駆動力伝達可能状態とする(図14)。
【0088】
前記軸直結構造は、クラッチハブ軸2に設けられたガイド溝35と、クラッチドラム軸4に設けられた固定摩擦板36(固定摩擦部材)と、ガイド溝35に沿う軸方向移動により固定摩擦板36に締結可能なガイド板37(可動締結部材)と、を有する。このガイド板37は、形状記憶スプリング23とスプリング27により両側から付勢されている。
【0089】
前記形状記憶スプリング23は、図12に示す通常状態でガイド板37を2軸開放側に付勢し、図14に示す低温状態でガイド板37への2軸開放側付勢力が無くなる。ここで、通常状態とは、低温域以外の温度状態であって通常のスプリング機能を発揮する状態をいう(図12)。また、低温状態とは、低温域の温度状態であって記憶されたスプリング形状(付勢力が無くなるスプリング圧縮形状)に戻る状態をいう(図14)。
【0090】
前記第4低温時駆動力伝達機構A4は、ガイド板37を2軸直結側へ付勢するスプリング27を備え、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、形状記憶スプリング23の形状変更により2軸開放側への付勢力が無くなると、スプリング27により2軸直結側への付勢力を発生する。
なお、「全体システム構成」と「モータ&クラッチユニットの構成」と他の構成は、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0091】
次に、作用を説明する。
[極低温時の2軸直結作用]
まず、通常状態においては、形状記憶スプリング23の付勢力が、スプリング27の付勢力より上回っていて、図12に示すように、ガイド板37をガイド溝35に押し付けた2軸開放状態が維持される。
【0092】
これに対し、例えば、低温状態での発進時等においては、低温状態であるため、形状記憶スプリング23が、図14に示すように、記憶形状である付勢力が無くなるスプリング圧縮形状に戻る。このため、スプリング27による2軸直結側への付勢力が上回り、この付勢力によりガイド板37が、図12に示す位置から図14に示す位置へとガイド溝35に沿って軸方向に移動する。この軸方向移動により、ガイド板37が、図14に示すように、クラッチドラム軸4に設けられた固定摩擦板36に締結し、クラッチハブ軸2に設けられたガイド溝35に溝嵌合するガイド板37を介して、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4が摩擦締結により直結される。
【0093】
したがって、極低温時等の低温状態のとき、第4低温時駆動力伝達機構A4により、エンジンEngからの駆動力を、直結されたクラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4を介して駆動輪に伝達することが可能な状態になり、ドライバーの発進意図に呼応して車両を発進させることができる。
【0094】
この低温状態のとき、乾式多板クラッチ7を締結することなく、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4の軸同士を摩擦締結により直結するようにしている。このため、低温状態のとき、確実に駆動力の伝達が可能な状態にすることができると共に、伝達駆動力をスプリング27の付勢力により調整することが可能となる。
なお、「通常状態でのクラッチ締結/開放作用」は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0095】
次に、効果を説明する。
実施例4のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0096】
(7) 前記軸直結構造は、前記第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と前記第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)の一方の軸に設けられたガイド溝35と、他方の軸に設けられた固定摩擦部材(固定摩擦板36)と、前記ガイド溝35に沿う軸方向移動により前記固定摩擦部材(固定摩擦板36)に締結可能な可動締結部材(ガイド板37)と、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記可動締結部材(ガイド板37)を2軸開放側に付勢する形状記憶スプリング23であり、
前記低温時駆動力伝達機構(第4低温時駆動力伝達機構A4)は、前記可動締結部材(ガイド板37)を2軸直結側へ付勢するスプリング27を備え、前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記形状記憶スプリング23の形状変更により2軸開放側への付勢力が無くなると、前記スプリング27により2軸直結側への付勢力を発生する。
このため、上記(5)の効果に加え、低温状態のとき、油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結することなく、第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)を摩擦締結により直結することで、伝達駆動力をスプリング27の付勢力により調整することが可能になる。
【実施例5】
【0097】
実施例5は、クラッチハブ軸とクラッチドラム軸をカム係合により直結することで駆動力伝達可能状態とした例である。
【0098】
まず、構成を説明する。
図15は、実施例5のハイブリッド駆動力伝達装置でクラッチハブ軸とクラッチドラム軸の切り離しにより駆動力伝達を遮断した通常状態における第5低温時駆動力伝達機構を示す。図16は、通常状態における第5低温時駆動力伝達機構を示す。図17は、クラッチハブ軸とクラッチドラム軸をカム係合により駆動力伝達可能とした極低温時における第5低温時駆動力伝達機構を示す。図18は、極低温時における第5低温時駆動力伝達機構を示す。以下、図15〜図18に基づき、第5低温時駆動力伝達機構A5の構成を説明する。
【0099】
前記第5低温時駆動力伝達機構A5は、駆動力伝達系のうち、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4の軸直結構造を構成する一部の部材を、低温時に形状特性が変わるバイメタル材(素材の一例)を用いたバイメタルリング46(温度感応形状変更部材)としている。そして、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、バイメタルリング46の形状変更によりクラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4を直結させることで駆動力伝達可能状態とする(図17)。
【0100】
前記軸直結構造は、クラッチハブ軸2に設けられた第1カム溝47と、クラッチドラム軸4に設けられた第2カム溝48と、第1カム溝47と第2カム溝48の間で径方向に移動可能なカム49(可動カム部材)と、を有する。
【0101】
前記バイメタルリング46は、図15及び図16に示すように、通常状態でカム49を第1カム溝47の収納位置に保持する形状とする。そして、低温状態でのバイメタルリング46は、カム49を第1カム溝47の収納位置に保持する形状(図15及び図16)から、第1カム溝47と第2カム溝48に跨って周方向に係合する形状(図17及び図18)まで形状を変更する。
【0102】
前記第5低温時駆動力伝達機構A5は、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、バイメタルリング46の形状変更により、カム49を、第1カム溝47の収納位置から第1カム溝47と第2カム溝48に跨って周方向に係合する位置まで径方向に移動させる。
なお、「全体システム構成」と「モータ&クラッチユニットの構成」と他の構成は、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0103】
次に、作用を説明する。
[極低温時の2軸直結作用]
まず、通常状態においては、バイメタルリング46が、カム49を第1カム溝47の収納位置に保持する形状とされる(図15及び図16)。
【0104】
これに対し、例えば、低温状態での発進時等においては、低温状態であるため、バイメタルリング46が、図17及び図18に示すように、カム49を、第1カム溝47の収納位置から第1カム溝47と第2カム溝48に跨って周方向に係合する位置まで径方向に移動させる形状に変更される。このため、カム49が、図14に示すように、第1カム溝47と第2カム溝48に跨ってカム係合し、カム49を介して、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4がカム係合により直結される。
【0105】
したがって、極低温時等の低温状態のとき、第5低温時駆動力伝達機構A5により、エンジンEngからの駆動力を、直結されたクラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4を介して駆動輪に伝達することが可能な状態になり、ドライバーの発進意図に呼応して車両を発進させることができる。
【0106】
この低温状態のとき、乾式多板クラッチ7を締結することなく、クラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4の軸同士をカム係合により直結するようにしている。このため、低温状態のとき、確実に駆動力の伝達が可能な状態にすることができると共に、高い駆動力を伝達することが可能になる。
なお、「通常状態でのクラッチ締結/開放作用」は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0107】
次に、効果を説明する。
実施例5のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0108】
(8) 前記軸直結構造は、前記第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と前記第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)の一方の軸に設けられた第1カム溝47と、他方の軸に設けられた第2カム溝48と、前記第1カム溝47と前記第2カム溝48の間で径方向に移動可能な可動カム部材(カム49)と、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記可動カム部材(カム49)を前記第1カム溝47と前記第2カム溝48のうち一方のカム溝への収納位置に保持するバイメタルリング46であり、
前記低温時駆動力伝達機構(第5低温時駆動力伝達機構A5)は、前記油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記バイメタルリング46の形状変更により、前記可動カム部材(カム49)を、前記収納位置から前記第1カム溝47と前記第2カム溝48に跨って周方向に係合する位置まで径方向に移動させる。
このため、上記(5)の効果に加え、低温状態のとき、油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)の締結することなく、第1駆動力伝達軸(クラッチハブ軸2)と第2駆動力伝達軸(クラッチドラム軸4)をカム係合することで、油圧クラッチ(乾式多板クラッチ7)を締結する場合に比べ、高い駆動力を伝達することが可能になる。
【0109】
以上、本発明の駆動力伝達装置を実施例1〜実施例5に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0110】
実施例1〜5では、油圧クラッチとして、乾式多板クラッチを用いた例を示した。しかし、油圧クラッチとしては、油圧供給により締結されるノーマルオープンタイプの油圧クラッチであれば、湿式や乾式や多板や単板等を問わない。
【0111】
実施例1〜5では、温度感応形状変更部材として、形状記憶スプリング21(実施例1)、バイメタルディッシュ78(実施例2)、形状記憶スプリング23(実施例3及び実施例4)、バイメタルリング46(実施例5)の例を示した。しかし、温度感応形状変更部材としては、駆動力伝達系を構成する一部の部材を、低温時に形状特性が変わる素材を用いて構成するものであれば、実施例1〜5以外の部材も含まれる。
【0112】
実施例1,2では、低温時駆動力伝達機構として、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、温度感応形状変更部材の形状変更により乾式多板クラッチ7を締結させることで駆動力伝達可能状態とする第1低温時駆動力伝達機構A1,第2低温時駆動力伝達機構A2の例を示した。しかし、低温時駆動力伝達機構としては、温度感応形状変更部材の形状変更により油圧クラッチを締結させる機構であれば、例えば、第1低温時駆動力伝達機構A1と第2低温時駆動力伝達機構A2を組み合わせたり、低温状態専用のピストンを付加したりする例としても良い。
【0113】
実施例3,4,5では、低温時駆動力伝達機構として、乾式多板クラッチ7の締結に必要な油圧を発生できない低温時、温度感応形状変更部材の形状変更によりクラッチハブ軸2とクラッチドラム軸4を直結させることで駆動力伝達可能状態とする第3低温時駆動力伝達機構A3,第4低温時駆動力伝達機構A4,第5低温時駆動力伝達機構A5の例を示した。しかし、低温時駆動力伝達機構としては、温度感応形状変更部材の形状変更によりクラッチハブ軸とクラッチドラム軸を直結させる機構であれば、A3〜A5以外の機構であっても良い。
【0114】
実施例1〜5では、エンジンとモータ/ジェネレータを搭載し、乾式多板クラッチを走行モード遷移クラッチとするハイブリッド駆動力伝達装置への適用例を示した。しかし、エンジン車のように、駆動源としてエンジンのみを搭載し、油圧クラッチを発進クラッチとするエンジン駆動力伝達装置に対しても適用することができる。さらに、電気自動車や燃料電池車、等のように、駆動源としてモータ/ジェネレータのみを搭載し、油圧クラッチを発進クラッチとするモータ駆動力伝達装置に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0115】
Eng エンジン(駆動源)
2 クラッチハブ軸(第1駆動力伝達軸)
4 クラッチドラム軸(第2駆動力伝達軸)
7 乾式多板クラッチ(油圧クラッチ)
71 ドライブプレート(クラッチプレート)
72 ドリブンプレート(クラッチプレート)
A1 第1低温時駆動力伝達機構(低温時駆動力伝達機構)
83 ピストンアーム(クラッチピストン)
83a アーム本体部
83b アームベース部
84 形状記憶スプリング(温度感応形状変更部材)
21 スプリング
A2 第2低温時駆動力伝達機構(低温時駆動力伝達機構)
78 バイメタルディッシュ(温度感応形状変更部材)
A3 第3低温時駆動力伝達機構(低温時駆動力伝達機構)
23 形状記憶スプリング(温度感応形状変更部材)
24 ガイド溝
25 固定嵌合溝
26 ガイドピン(可動嵌合部材)
27 スプリング
A4 第4低温時駆動力伝達機構(低温時駆動力伝達機構)
23 形状記憶スプリング(温度感応形状変更部材)
27 スプリング
35 ガイド溝
36 固定摩擦板(固定摩擦部材)
37 ガイド板(可動締結部材)
A5 第5低温時駆動力伝達機構(低温時駆動力伝達機構)
46 バイメタルリング(温度感応形状変更部材)
47 第1カム溝
48 第2カム溝
49 カム(可動カム部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から駆動輪への駆動力伝達系に、第1駆動力伝達軸と、第2駆動力伝達軸と、両駆動力伝達軸の間に介装され、油圧供給により締結されるノーマルオープンタイプの油圧クラッチと、を備えた駆動力伝達装置において、
前記駆動力伝達系を構成する一部の部材を、低温時に形状特性が変わる素材を用いた温度感応形状変更部材とし、
前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記温度感応形状変更部材の形状変更により駆動力伝達可能状態とする低温時駆動力伝達機構を設けた
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載された駆動力伝達装置において、
前記温度感応形状変更部材は、前記油圧クラッチのクラッチ締結構造を構成する一部の部材であり、
前記低温時駆動力伝達機構は、前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記温度感応形状変更部材の形状変更により前記油圧クラッチを締結させることで駆動力伝達可能状態とする
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載された駆動力伝達装置において、
前記クラッチ締結構造は、クラッチプレートと、該クラッチプレートを締結する油圧作動によるクラッチピストンと、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記クラッチピストンをクラッチ開放側に付勢する形状記憶スプリングであり、
前記低温時駆動力伝達機構は、前記クラッチピストンをクラッチ締結側へ付勢するスプリングを備え、前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記形状記憶スプリングの形状変更により開放側付勢力が無くなると、前記スプリングによりクラッチ締結側への付勢力を発生する
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項2に記載された駆動力伝達装置において、
前記クラッチ締結構造は、クラッチプレートと、該クラッチプレートを締結する油圧作動によるクラッチピストンと、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記クラッチピストンによる締結力の反力を前記クラッチプレートの反対側で受けるバイメタルディッシュであり、
前記低温時駆動力伝達機構は、前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記バイメタルディッシュが平板形状から皿バネ形状へと形状を変えることによりクラッチ締結側への付勢力を発生する
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1に記載された駆動力伝達装置において、
前記温度感応形状変更部材は、前記第1駆動力伝達軸と前記第2駆動力伝達軸の軸直結構造を構成する一部の部材であり、
前記低温時駆動力伝達機構は、前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記温度感応形状変更部材の形状変更により前記第1駆動力伝達軸と前記第2駆動力伝達軸を直結させることで駆動力伝達可能状態とする
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5に記載された駆動力伝達装置において、
前記軸直結構造は、前記第1駆動力伝達軸と前記第2駆動力伝達軸の一方の軸に設けられたガイド溝と、他方の軸に設けられた固定嵌合溝と、前記ガイド溝に沿う軸方向移動により前記固定嵌合溝に嵌合可能な可動嵌合部材と、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記可動嵌合部材を2軸開放側に付勢する形状記憶スプリングであり、
前記低温時駆動力伝達機構は、前記可動嵌合部材を2軸直結側へ付勢するスプリングを備え、前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記形状記憶スプリングの形状変更により2軸開放側への付勢力が無くなると、前記スプリングにより2軸直結側への付勢力を発生する
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項7】
請求項5に記載された駆動力伝達装置において、
前記軸直結構造は、前記第1駆動力伝達軸と前記第2駆動力伝達軸の一方の軸に設けられたガイド溝と、他方の軸に設けられた固定摩擦部材と、前記ガイド溝に沿う軸方向移動により前記固定摩擦部材に締結可能な可動締結部材と、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記可動締結部材を2軸開放側に付勢する形状記憶スプリングであり、
前記低温時駆動力伝達機構は、前記可動締結部材を2軸直結側へ付勢するスプリングを備え、前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記形状記憶スプリングの形状変更により2軸開放側への付勢力が無くなると、前記スプリングにより2軸直結側への付勢力を発生する
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項8】
請求項5に記載された駆動力伝達装置において、
前記軸直結構造は、前記第1駆動力伝達軸と前記第2駆動力伝達軸の一方の軸に設けられた第1カム溝と、他方の軸に設けられた第2カム溝と、前記第1カム溝と前記第2カム溝の間で径方向に移動可能な可動カム部材と、を有し、
前記温度感応形状変更部材は、前記可動カム部材を前記第1カム溝と前記第2カム溝のうち一方のカム溝への収納位置に保持するバイメタルリングであり、
前記低温時駆動力伝達機構は、前記油圧クラッチの締結に必要な油圧を発生できない低温時、前記バイメタルリングの形状変更により、前記可動カム部材を、前記収納位置から前記第1カム溝と前記第2カム溝に跨って周方向に係合する位置まで径方向に移動させる
ことを特徴とする駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−113431(P2013−113431A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263323(P2011−263323)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】