説明

駆動力伝達装置

【課題】相対回転差が高いクラッチ開放時、クラッチプレート間での引き摺りトルクの低減を図ること。
【解決手段】駆動力の伝達を断接する乾式多板クラッチ7を備える。このハイブリッド駆動力伝達装置において、乾式多板クラッチ7は、クラッチハブ3にスプライン嵌合されるドライブプレート71と、クラッチドラム6にスプライン嵌合されるドリブンプレート72と、気流変向放射溝791と、を備える。気流変向放射溝791は、ドリブンプレート72のプレート面に設けられ、プレート回転により外径方向に発生する遠心気流Eの向きを、隣接するクラッチプレート間の位置にて軸方向(軸方向気流H)に変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動系に適用され、駆動力の伝達を断接する乾式多板クラッチを備えた駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多板クラッチとしては、クラッチプレートの歯部を円周方向において複数の分割片に分割し、かつ、隣接するクラッチプレートの同位相の分割片が互いに相手側に向かって突出するように、該分割片を軸方向へ互い違いに突出させたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来の多板クラッチは、歯部の分割片を当てることにより、隣接するクラッチプレート間のクリアランスを保ち、クラッチ開放時のクラッチプレートの引き摺りを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−216159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の多板クラッチにあっては、クラッチ開放時において、クラッチプレートの一部(歯部の分割片)が接触している。このため、引き摺りトルクの発生を避けることができず、しかも、クラッチプレート間での相対回転差が高いほど引き摺りトルクが大きくなる、という問題があった。
【0006】
駆動力伝達装置に適用される多板クラッチの場合、引き摺りトルクが大きくなると、燃費の悪化を招く。また、クラッチプレートの接触部分での引き摺りにより発熱し、多板クラッチの寿命低下を招く。すなわち、高相対回転差であるほどエネルギーロスが大きいので、高相対回転差のときに引き摺りトルクを低減することが、エネルギーロスを抑える上で特に重要である。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、相対回転差が高いクラッチ開放時、クラッチプレート間での引き摺りトルクの低減を図ることができる駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、駆動力の伝達を断接する乾式多板クラッチを備えた駆動力伝達装置において、
前記乾式多板クラッチは、第1クラッチプレートと、第2クラッチプレートと、気流変向構造と、を備える手段とした。
前記第1クラッチプレートは、クラッチハブにスプライン嵌合される。
前記第2クラッチプレートは、クラッチドラムにスプライン嵌合される。
前記気流変向構造は、前記第1クラッチプレートと前記第2クラッチプレートのうち少なくとも一方のクラッチプレートのプレート面に設けられ、プレート回転により外径方向に発生する遠心気流の向きを、隣接するクラッチプレート間の位置にて軸方向に変える。
【発明の効果】
【0009】
上記のように、乾式多板クラッチのプレート面には、プレート回転により外径方向に発生する遠心気流の向きを、隣接するクラッチプレート間の位置にて軸方向に変える気流変向構造を有する。
したがって、クラッチ開放時、プレート回転による遠心圧効果により、外径方向に空気が移動する遠心気流が発生する。この遠心気流は、隣接するクラッチプレート間を外径方向に流れようとするが、気流変向構造により途中の位置で軸方向に向きが変えられて軸方向気流となる。この向きを変えられた軸方向気流が持つ気流圧で、隣接するクラッチプレートを引き離し、しかも、プレート引き離し状態を保つ。
このように、遠心気流の向きコントロールにより、隣接するクラッチプレートの間にあたかも空気バネを介在させたようなプレート引き離し状態が実現され、隣接するクラッチプレートが一部接触あるいは全面接触することによる引き摺りトルクが低減される。
そして、外径方向に空気が移動する遠心気流は、第1クラッチプレートと第2クラッチプレートの相対回転差が高いほど大流量になる。このため、気流変向構造により軸方向に向きが変えられた遠心気流が持つ気流圧は、相対回転差が高いほど大きくなり、相対回転差が高いクラッチ開放時、より強力なプレート引き離し作用が確保される。
この結果、相対回転差が高いクラッチ開放時、クラッチプレート間での引き摺りトルクの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置(駆動力伝達装置の一例)を示す全体概略図である。
【図2】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置におけるモータ&クラッチユニットの構成を示す要部断面図である。
【図3】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのピストン組立体を示す分解側面図である。
【図4】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのピストン組立体を示す分解斜視図である。
【図5】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのドライブプレートを示す正面図である。
【図6】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのドリブンプレートを示すA−A線断面図(a)と正面図(b)である。
【図7】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における摩耗粉排出作用を示す作用説明図である。
【図8】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置のクラッチ開放時における遠心気流の向きコントロール作用を示す作用説明図である。
【図9】実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置のクラッチ開放時における引き摺りトルク低減作用を示す作用説明図である。
【図10】実施例2のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのドリブンプレートの構成及び遠心気流の向きコントロール作用を示す図である。
【図11】実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのドリブンプレートの構成及び遠心気流の向きコントロール作用を示す図である。
【図12】実施例4のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのドリブンプレートの構成及び遠心気流の向きコントロール作用/摩耗粉排出作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の駆動力伝達装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例4に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置の構成を、「全体構成」、「モータ&クラッチユニットの構成」、「乾式多板クラッチのプレート配置構成」に分けて説明する。
【0013】
[全体構成]
図1は、実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置(駆動力伝達装置の一例)を示す全体概略図である。以下、図1に基づきハイブリッド駆動力伝達装置の全体構成を説明する。
【0014】
実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置は、図1に示すように、エンジンEngと、モータ&クラッチユニットM/Cと、変速機ユニットT/Mと、エンジン出力軸1と、クラッチハブ軸2と、クラッチハブ3と、クラッチドラム軸4と、変速機入力軸5と、クラッチドラム6と、乾式多板クラッチ7と、スレーブシリンダー8と、モータ/ジェネレータ9と、を備えている。なお、乾式多板クラッチ7の締結・開放を油圧制御するスレーブシリンダー8は、一般に「CSC(Concentric Slave Cylinderの略)」と呼ばれる。
【0015】
実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置は、ノーマルオープンである乾式多板クラッチ7を開放したとき、モータ/ジェネレータ9と変速機入力軸5を、クラッチドラム6とクラッチドラム軸4を介して連結し、「電気自動車走行モード」とする。そして、乾式多板クラッチ7をスレーブシリンダー8により油圧締結したとき、エンジンEngとモータ/ジェネレータ9を、エンジン出力軸1とクラッチハブ軸2を、ダンパー21を介して連結する。そして、クラッチハブ3とクラッチドラム6を締結された乾式多板クラッチ7を介して連結し、「ハイブリッド車走行モード」とする。
【0016】
前記モータ&クラッチユニットM/Cは、乾式多板クラッチ7と、スレーブシリンダー8と、モータ/ジェネレータ9と、を有する。乾式多板クラッチ7は、エンジンEngに連結接続され、エンジンEngからの駆動力伝達を断接する。スレーブシリンダー8は、乾式多板クラッチ7の締結・開放を油圧制御する。モータ/ジェネレータ9は、乾式多板クラッチ7のクラッチドラム6の外周位置に配置され、変速機入力軸5との間で動力の伝達をする。このモータ&クラッチユニットM/Cには、スレーブシリンダー8への第1クラッチ圧油路85を有するシリンダーハウジング81が、O−リング10によりシール性を保ちながら設けられている。
【0017】
前記モータ/ジェネレータ9は、同期型交流電動機であり、クラッチドラム6と一体に設けたロータ支持フレーム91と、ロータ支持フレーム91に支持固定され、永久磁石が埋め込まれたロータ92と、を有する。そして、ロータ92にエアギャップ93を介して配置され、シリンダーハウジング81に固定されたステータ94と、ステータ94に巻き付けられたステータコイル95と、を有する。なお、シリンダーハウジング81には、冷却水を流通させるウォータジャケット96が形成されている。
【0018】
前記変速機ユニットT/Mは、モータ&クラッチユニットM/Cに連結接続され、変速機ハウジング41と、Vベルト式無段変速機機構42と、オイルポンプO/Pと、を有する。Vベルト式無段変速機機構42は、変速機ハウジング41に内蔵され、2つのプーリ間にVベルトを掛け渡し、ベルト接触径を変化させることにより無段階の変速比を得る。オイルポンプO/Pは、必要部位への油圧を作る油圧源であり、オイルポンプ圧を元圧とし、プーリ室への変速油圧やクラッチ・ブレーキ油圧、等を調圧する図外のコントロールバルブからの油圧を必要部位へ導く。この変速機ユニットT/Mには、さらに前後進切換機構43と、オイルタンク44と、エンドプレート45と、が設けられている。エンドプレート45は、第2クラッチ圧油路47(図2)を有する。
【0019】
前記オイルポンプO/Pは、変速機入力軸5の回転駆動トルクを、チェーン駆動機構を介して伝達することでポンプ駆動する。チェーン駆動機構は、変速機入力軸5の回転駆動に伴って回転する駆動側スプロケット51と、ポンプ軸57を回転駆動させる被動側スプロケット52と、両スプロケット51,52に掛け渡されたチェーン53と、を有する。駆動側スプロケット51は、変速機入力軸5とエンドプレート45との間に介装され、変速機ハウジング41に固定されたステータシャフト54に対し、ブッシュ55を介して回転可能に支持されている。そして、変速機入力軸5にスプライン嵌合すると共に、駆動側スプロケット51に対して爪嵌合する第1アダプタ56を介し、変速機入力軸5からの回転駆動トルクを伝達する。
【0020】
[モータ&クラッチユニットの構成]
図2は、実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置におけるモータ&クラッチユニットの構成を示す要部断面図である。図3及び図4は、乾式多板クラッチ7のピストン組立体を示す図である。以下、図2〜図4に基づき、モータ&クラッチユニットM/Cの構成を説明する。
【0021】
前記クラッチハブ3は、エンジンEngのエンジン出力軸1に連結される。このクラッチハブ3には、図2に示すように、乾式多板クラッチ7のドライブプレート71(第1クラッチプレート)がスプライン嵌合により軸方向移動可能に保持される。
【0022】
前記クラッチドラム6は、変速機ユニットT/Mの変速機入力軸5に連結される。このクラッチドラム6には、図2に示すように、乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72(第2クラッチプレート)がスプライン嵌合により軸方向移動可能に保持される。
【0023】
前記乾式多板クラッチ7は、クラッチハブ3とクラッチドラム6の間に、両面に摩擦フェーシング73,73を貼り付けたドライブプレート71と、ドリブンプレート72と、を交互に複数枚配列することで介装される。つまり、乾式多板クラッチ7を締結することで、クラッチハブ3とクラッチドラム6の間でトルク伝達可能とし、乾式多板クラッチ7を開放することで、クラッチハブ3とクラッチドラム6の間でのトルク伝達を遮断する。
【0024】
前記スレーブシリンダー8は、乾式多板クラッチ7の締結・開放を制御する油圧アクチュエータであり、変速機ユニットT/M側とクラッチドラム6の間の位置に配置される。このスレーブシリンダー8は、図2に示すように、シリンダーハウジング81のシリンダー孔80に摺動可能に設けたピストン82と、シリンダーハウジング81に形成し、変速機ユニットT/Mにより作り出したクラッチ圧を導く第1クラッチ圧油路85と、第1クラッチ圧油路85に連通するシリンダー油室86と、を有する。ピストン82と乾式多板クラッチ7との間には、図2に示すように、ニードルベアリング87と、ピストンアーム83と、リターンスプリング84と、アーム圧入プレート88と、が介装されている。
【0025】
前記ピストンアーム83は、スレーブシリンダー8からの押圧力により乾式多板クラッチ7の押し付け力を発生させるもので、クラッチドラム6に形成した貫通孔61に摺動可能に設けている。リターンスプリング84は、ピストンアーム83とクラッチドラム6の間に介装されている。ニードルベアリング87は、ピストン82とピストンアーム83との間に介装され、ピストン82がピストンアーム83の回転に伴って連れ回るのを抑えている。アーム圧入プレート88は、蛇腹弾性支持部材89,89と一体に設けられ、蛇腹弾性支持部材89,89の内周部と外周部がクラッチドラム6に圧入固定されている。このアーム圧入プレート88と蛇腹弾性支持部材89,89により、ピストンアーム83側からのリーク油が乾式多板クラッチ7へ流れ込むのを遮断する。つまり、クラッチドラム6のピストンアーム取り付け位置に密封固定されたアーム圧入プレート88および蛇腹弾性支持部材89により、スレーブシリンダー8を配置したウェット空間と、乾式多板クラッチ7を配置したドライ空間を分ける仕切り機能を持たせている。
【0026】
前記ピストンアーム83は、図3および図4に示すように、リング状に形成したアームボディ83aと、該アームボディ83aから4箇所で突設させたアーム突条83bと、によって構成されている。
【0027】
前記リターンスプリング84は、図3および図4に示すように、リング状に形成したスプリング支持プレート84aと、該スプリング支持プレート84aに固定した複数個のコイルスプリング84bと、により構成されている。
【0028】
前記アーム圧入プレート88は、図2に示すように、ピストンアーム83のアーム突条83bに圧入固定される。そして、図3および図4に示すように、アーム圧入プレート88の内側と外側に蛇腹弾性支持部材89,89を一体に有する。
【0029】
実施例1のリーク油回収油路は、図2に示すように、第1ベアリング12と、第1シール部材31と、リーク油路32と、第1回収油路33と、第2回収油路34と、を備えている。すなわち、ピストン82の摺動部からのリーク油を、第1シール部材31により密封された第1回収油路33および第2回収油路34を経過し、変速機ユニットT/Mに戻す回路である。これに加えて、ピストンアーム83の摺動部からのリーク油を、仕切り弾性部材(アーム圧入プレート88、蛇腹弾性支持部材89,89)により密封されたリーク油路32と、第1シール部材31により密封された第1回収油路33および第2回収油路34を経過し、変速機ユニットT/Mに戻す回路である。
【0030】
実施例1のベアリング潤滑油路は、図2に示すように、ニードルベアリング20と、第2シール部材14と、第1軸心油路19と、第2軸心油路18と、潤滑油路16と、隙間17と、を備えている。このベアリング潤滑油路は、変速機ユニットT/Mからのベアリング潤滑油を、ニードルベアリング20と、シリンダーハウジング81に対しクラッチドラム6を回転可能に支持する第1ベアリング12と、ピストン82とピストンアーム83との間に介装されたニードルベアリング87と、を通過し、変速機ユニットT/Mへ戻す経路によりベアリング潤滑を行う。
【0031】
前記第2シール部材14は、図2に示すように、クラッチハブ3とクラッチドラム6の間に介装している。この第2シール部材14により、スレーブシリンダー8を配置したウェット空間から、乾式多板クラッチ7を配置したドライ空間へとベアリング潤滑油が流れ込むのをシールしている。
【0032】
[乾式多板クラッチのプレート配置構成]
図5は、実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチ7のドライブプレート71を示し、図6は、実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72を示す。以下、図2,図5及び図6に基づき、乾式多板クラッチ7のプレート配置構成を説明する。
【0033】
実施例1の乾式多板クラッチ7は、エンジンEngからの駆動力の伝達を断接するクラッチで、図2に示すように、クラッチハブ3とクラッチカバー6とハウジングカバー60により囲まれた閉鎖空間によるクラッチ室64内に配置されている。
【0034】
前記ハウジングカバー60は、シリンダーハウジング81に対して一体に固定され、モータ/ジェネレータ9と乾式多板クラッチ7を覆う。このハウジングカバー60およびシリンダーハウジング81を覆うことにより形成される内部空間のうち、クラッチ回転軸CL(=ロータ軸)側空間を、乾式多板クラッチ7を収容するクラッチ室64とし、クラッチ室64の外側空間を、モータ/ジェネレータ9を収容するモータ室65とする。そして、ダストシール部材62により分割されるクラッチ室64とモータ室65は、油が入り込むのを遮断したドライ空間である。なお、シリンダーハウジング81は、クラッチドラム軸4に対し第1ベアリング12により支持された静止部材であり、ハウジングカバー60は、クラッチハブ軸2に対し第2ベアリング13により支持されると共に、カバーシール15により密封された静止部材である。
【0035】
前記乾式多板クラッチ7は、図2に示すように、ドライブプレート71と、ドリブンプレート72と、摩擦フェーシング73と、ハウジングカバー60と、を備える。
【0036】
前記ドライブプレート71は、クラッチハブ3にスプライン嵌合され、クラッチハブ3とのスプライン嵌合部に、軸方向に流れる気流を通す通気穴74を有する。このドライブプレート71は、図5に示すように、クラッチハブ3のスプライン部に噛み合うスプライン歯のうち、内径側に突出するスプライン歯突部75の位置であり、かつ、摩擦フェーシング73に形成されたフェーシング溝76の内側位置に、通気穴74を有する。そして、ドライブプレート71は、図2に示すように、複数枚(実施例1では4枚)の通気穴74が軸方向に連通する設定としている。
【0037】
前記摩擦フェーシング73は、ドライブプレート71の両面に設けられ、クラッチ締結時に摩擦面がドリブンプレート72のプレート面に圧接する。この摩擦フェーシング73は、図5に示すように、環状のプレート部材であり、内径位置から外径位置に向かう径方向の放射直線にて形成されたフェーシング溝76を有する。このフェーシング溝76は、フェーシング摩耗がある程度進行しても凹溝形状を保つ深さを持たせている。
【0038】
前記ハウジングカバー60は、図2に示すように、閉鎖空間によるクラッチ室64内に外気を取り込む外気吸入穴66と、閉鎖空間によるクラッチ室64内からの気流を外気へ排出する外気排出穴67と、を有する。
【0039】
前記外気吸入穴66は、図2に示すように、通気穴74の軸方向位置に対応し、通気穴74に向かって外気を取り込む内径側位置に有する。
【0040】
前記外気排出穴67は、図2に示すように、ドリブンプレート72のスプライン嵌合部を移動する気流を、外気吸入穴66へ向かう流れをラビリンス構造により抑えながら外気へ排出する外径側位置に有する。
【0041】
前記ラビリンス構造を説明すると、クラッチドラム6側は、その先端部を軸方向に延長して軸方向先端部6aを形成する。一方、ハウジングカバー60側は、クラッチドラム6の軸方向先端部6aが入り込む位置に内壁凹部60aを形成すると共に、内壁凹部60aよりも径方向外側位置に内壁突起部60bを形成する。そして、クラッチドラム6より径方向外側位置であって、ダストシール部材62より径方向内側位置に、外気排出穴67を設定することで、外気吸入穴66へ向かう流れを抑えるラビリンス構造としている。
【0042】
前記ドリブンプレート72は、クラッチドラム6にスプライン嵌合され、クラッチドラム6とのスプライン嵌合部に、軸方向に流れる気流を通す通気開口77を有する。この通気開口77は、図6に示すように、外径側に突出するスプライン歯突部の中央位置に凹部78を形成し、クラッチドラム6のスプライン歯と結合させたときに開口する空間により設定している。
そして、ドリブンプレート72のプレート面には、プレート回転により外径方向に発生する遠心気流の向きを、隣接するドライブプレート71とドリブンプレート72の間の位置にて軸方向に変える気流変向放射溝791(気流変向構造)を設けている。この気流変向放射溝791は、図6(b)に示すように、遠心気流が外径方向に流入する内周端791aを開き、遠心気流の向きを軸方向に変える外周端791bを傾斜段差面により閉じた放射溝形状としている。気流変向放射溝791としては、ドリブンプレート72のプレート表面に90度間隔で4つの溝を設け、ドリブンプレート72のプレート裏面であって表面の溝とは45度ずらした位置に90度間隔で4つの溝を設けている。なお、乾式多板クラッチ7の両端部に配置されるドリブンプレート72については、ドライブプレート71に対向する側の片面のみに気流変向放射溝791を設けても良い。
【0043】
次に、作用を説明する。
実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置における作用を、「スレーブシリンダーによるクラッチ締結/開放作用」、「乾式多板クラッチの摩耗粉排出作用」、「クラッチ開放時の引き摺りトルク低減作用」に分けて説明する。
【0044】
[スレーブシリンダーによるクラッチ締結/開放作用]
ハイブリッド駆動力伝達装置の場合、「電気自動車走行モード」から「ハイブリッド車走行モード」へモード遷移するときに乾式多板クラッチ7が締結される。そして、「ハイブリッド車走行モード」から「電気自動車走行モード」へモード遷移するときに乾式多板クラッチ7が開放される。以下、図2を用いてスレーブシリンダー8により乾式多板クラッチ7を締結・開放するクラッチ締結/開放作用を説明する。
【0045】
開放状態の乾式多板クラッチ7を締結するときには、変速機ユニットT/Mにて作り出したクラッチ油圧を、シリンダーハウジング81に形成した第1クラッチ圧油路85を経過してシリンダー油室86に供給する。これにより、油圧と受圧面積を掛け合わせた油圧力がピストン82に作用し、ピストンアーム83とクラッチドラム6の間に介装されたリターンスプリング84による付勢力に抗して、ピストン82を図2の右方向にストロークさせる。そして、油圧力と付勢力の差による締結力は、ピストン82→ニードルベアリング87→ピストンアーム83→アーム圧入プレート88へと伝達され、ドライブプレート71とドリブンプレート72を押し付け、乾式多板クラッチ7が締結される。
【0046】
締結状態の乾式多板クラッチ7を開放するときは、シリンダー油室86に供給されている作動油を、クラッチ圧油路85を経過して変速機ユニットT/Mへ抜き、ピストン82に作用する油圧力を低下させると、リターンスプリング84による付勢力が油圧力を上回り、一体に構成されたピストンアーム83とアーム圧入プレート88を図2の左方向にストロークさせる。これによりアーム圧入プレート88へ伝達されていた締結力が解除され、乾式多板クラッチ7が開放される。
【0047】
[乾式多板クラッチの摩耗粉排出作用]
乾式多板クラッチ7を備えたハイブリッド駆動力伝達装置では、ドライブプレート71とドリブンプレート72の間に摩耗粉が滞留すると、プレート引き摺りやクラッチ締結/開放不良の原因になる。よって、両プレート71,72の間から摩耗粉を排出する必要がある。以下、図7に基づき、これを反映する乾式多板クラッチ7の摩耗粉排出作用を説明する。
【0048】
実施例1の乾式多板クラッチ7のドライブプレート71の摩擦フェーシング73には、放射状にフェーシング溝76を有する。このため、クラッチハブ3とクラッチドラム6のうち、少なくとも一方が、クラッチ回転軸CLを中心とする回転すると、両面に摩擦フェーシング73を有するクラッチハブ3を翼とする遠心ファン効果が生じる。
【0049】
この遠心ファン効果により、図7に示すように、クラッチハブ3側のB領域からクラッチドラム6側のC領域へ外径方向に空気が送られ、クラッチドラム6側の気圧が高まり、クラッチハブ3側の気圧が低下する。この気圧差により、クラッチハブ3側からクラッチドラム6側へと外径方向に空気が移動する遠心気流Eが発生する。
【0050】
この遠心気流Eの発生により、クラッチハブ3側の気圧が低下するため、気圧の高い外気との間で気圧差を生じる。したがって、図7に示すように、外気吸入穴66から取り込まれる外気が、各通気穴74を経過し、気圧が低下しているクラッチハブ3側に流れ込む内径側軸方向気流Fが発生する。
【0051】
さらに、ドリブンプレート72のスプライン嵌合部は、プレート移動を確保するために隙間余裕を持つことで通気抵抗が低い。加えて、ドリブンプレート72とクラッチドラム6とのスプライン嵌合部には、軸方向に流れる気流を通す通気開口77を有するため、通気抵抗はさらに低くなる。そして、遠心気流Eの発生により、クラッチドラム6側の気圧が高くなるため、外気との間で気圧差を生じる。したがって、図7に示すように、内径側軸方向から外径方向に向きを変えてクラッチドラム6側に流れ込んできた気流を、スプライン嵌合部の通気開口77から外気排出穴67を経過して外気へ排出する外径側軸方向気流Gが発生する。
【0052】
この気流発生作用により、図7の矢印に示すように、外気→内径側軸方向→径方向→外径側軸方向→外気という流線を描く気流の流れ(F→E→G)が生成される。ここで、図7には、最もピストン側となる遠心気流Eだけを記載しているが、各フェーシング溝76を有する箇所で複数の遠心気流Eが生じる。このため、クラッチ断接の繰り返しにより摩擦フェーシング73の表面から剥がれた摩耗粉が、この気流の流れ(F→E→G)に乗って移動し、外部に排出される。
【0053】
上記のように、実施例1の乾式多板クラッチ7は、気圧差により気流の流れ(F→E→G)を生じさせるように、外気吸入穴66と、外気排出穴67と、ドライブプレート71に設けられ、軸方向に流れる気流を通す通気穴74と、を備えた構成を採用した(図7)。
したがって、ドライブプレート71とドリブンプレート72の間での摩耗粉による引き摺りが抑えられ、乾式多板クラッチ7が締結/開放不良になるのが防止される。
【0054】
実施例1のドライブプレート71は、クラッチハブ3のスプライン部に噛み合うスプライン歯のうち、内径側に突出するスプライン歯突部75の位置に通気穴74を有する構成を採用した(図5)。
したがって、スプライン歯凹部に穴を開ける場合に比べ、通気穴74の開口面積が広く確保されることで、整然とした流れによる内径側軸方向気流Fが発生する。
【0055】
実施例1の摩擦フェーシング73は、内径位置から外径位置に向かう外径方向に形成されたフェーシング溝76を有し、ドライブプレート71は、フェーシング溝76の内側位置に通気穴74を有する構成を採用した(図5)。
したがって、通気穴74を出た気流がフェーシング溝76に流入するときの通気抵抗が低く抑えられ、内径側軸方向気流Fから遠心気流Eへの気流の方向変更がスムーズに行われる。
【0056】
実施例1のドリブンプレート72は、クラッチドラム6とのスプライン嵌合部に、軸方向に流れる気流を通す通気開口77を有する構成を採用した(図6)。
したがって、フェーシング溝76から出た気流がクラッチドラム6とのスプライン嵌合部に沿って流れるときの通気抵抗が低く抑えられることで、整然とした流れによる外径側軸方向気流Gが発生する。
【0057】
実施例1のハウジングカバー60は、通気穴74の軸方向位置に対応し、通気穴74に向かって外気を取り込む内径側位置に外気吸入穴66を有する。そして、ドリブンプレート72のスプライン嵌合部を移動する気流を、外気吸入穴66へ向かう流れをラビリンス構造により抑えながら外気へ排出する外径側位置に外気排出穴67を有する構成を採用した(図5)。
したがって、クラッチ室64内を循環しようとする気流の流れがラビリンス構造により抑えられることで、外気→内径側軸方向→径方向→外径側軸方向→外気という流線を描く気流の流れが整然と生成される。
【0058】
[クラッチ開放時の引き摺りトルク低減作用]
乾式多板クラッチ7を備えたハイブリッド駆動力伝達装置では、クラッチ開放時にドライブプレート71とドリブンプレート72が接触していると、引き摺りトルクが発生する。よって、クラッチ開放時には、ドライブプレート71とドリブンプレート72の接触をできる限り回避し、引き摺りトルクを低減する必要がある。以下、図8及び図9に基づき、これを反映するクラッチ開放時の引き摺りトルク低減作用を説明する。
【0059】
実施例1の乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72のプレート面には、プレート回転により外径方向に発生する遠心気流の向きを、隣接するクラッチプレート間の位置にて軸方向に変える気流変向放射溝791を有する。
【0060】
したがって、クラッチ開放時、摩耗粉排出作用で述べたように、クラッチハブ3とクラッチドラム6のうち、少なくとも一方が、クラッチ回転軸CLを中心とする回転すると、クラッチハブ3を翼とする遠心ファン効果が生じる。この遠心ファン効果により、クラッチハブ3側からクラッチドラム6側へ外径方向に空気が送られ、クラッチドラム6側の気圧が高まり、クラッチハブ3側の気圧が低下する。この気圧差により、クラッチハブ3側からクラッチドラム6側へと外径方向に空気が移動する遠心気流Eが発生する。
【0061】
この遠心気流Eは、図8に示すように、隣接するドライブプレート71とドリブンプレート72の間を外径方向に流れようとするが、気流変向放射溝791により途中の位置で軸方向に向きが変えられて軸方向気流Hとなる。つまり、気流変向放射溝791の開かれた内周端791aから流入する遠心気流Eが、傾斜段差面により閉じた外周端791bにて向きを変えられて軸方向気流Hとなる。
【0062】
この向きを変えられた軸方向気流Hが持つ気流圧で、隣接するドライブプレート71とドリブンプレート72の間を軸方向に引き離し、しかも、プレート引き離し状態を保つ。すなわち、隣接するドライブプレート71とドリブンプレート72のプレート面が接触しているときは、気流変向放射溝791の開かれた内周端791aから流入する遠心気流Eの全てが外径方向に移動する。そして、傾斜段差面により閉じた外周端791bにて遠心気流Eの向きを軸方向気流Hに変えるため、軸方向気流Hが持つ強い気流圧でドライブプレート71とドリブンプレート72を引き離す。次いで、隣接するドライブプレート71とドリブンプレート72がクリアランスを持って引き離されると、気流変向放射溝791の開かれた内周端791aから流入する遠心気流Eのうち、一部が軸方向気流Hに変えられ、残りは外径方向に移動する。したがって、軸方向気流Hが持つ気流圧は、プレート面が接触しているときの気流圧よりも弱くなるが、継続的に与えられる気流圧により、ドライブプレート71とドリブンプレート72の引き離し状態を保つ。
【0063】
このように、遠心気流Eの向きコントロールにより、図9に示すように、隣接するドライブプレート71とドリブンプレート72の間にあたかも空気バネを介在させたようなプレート引き離し状態が実現される。このため、隣接するドライブプレート71とドリブンプレート72が一部接触あるいは全面接触することによる引き摺りトルクが低減される。
【0064】
そして、外径方向に空気が移動する遠心気流Eは、ドライブプレート71とドリブンプレート72の相対回転差が高いほど大流量になる。このため、気流変向放射溝791により軸方向に向きが変えられた遠心気流Eが持つ気流圧は、相対回転差が高いほど大きくなり、相対回転差が高いクラッチ開放時、より強力なプレート引き離し作用が確保される。
【0065】
上記のように、実施例1では、ドリブンプレート72のプレート面に、遠心気流Eの向きを軸方向気流Hに変える気流変向放射溝791を設ける構成を採用した。
したがって、相対回転差が高いクラッチ開放時、ドライブプレート71とドリブンプレート72の間での引き摺りトルクの低減が図られる。
【0066】
特に、ハイブリッド駆動力伝達装置に適用される乾式多板クラッチ7の場合、引き摺りトルクが大きくなると、燃費の悪化を招くし、両プレート71,72間の接触部分での引き摺りにより発熱し、乾式多板クラッチ7の寿命低下を招く。これに対し、高相対回転差のときに引き摺りトルクを有効に低減することができる。このため、高相対回転差のときのエネルギーロスが抑えられることで、燃費の向上に繋がるし、また、両プレート71,72間での接触を極力回避することで、乾式多板クラッチ7の耐久信頼性の向上にも繋がる。
【0067】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0068】
(1) 駆動力の伝達を断接する乾式多板クラッチ7を備えた駆動力伝達装置において、
前記乾式多板クラッチ7は、
クラッチハブ3にスプライン嵌合される第1クラッチプレート(ドライブプレート71)と、
クラッチドラム6にスプライン嵌合される第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)と、
前記第1クラッチプレート(ドライブプレート71)と前記第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)のうち少なくとも一方のクラッチプレート(ドリブンプレート72)のプレート面に設けられ、プレート回転により外径方向に発生する遠心気流Eの向きを、隣接するクラッチプレート間の位置にて軸方向に変える気流変向構造(気流変向放射溝791)と、
を備える。
このため、相対回転差が高いクラッチ開放時、クラッチプレート間での引き摺りトルクの低減を図ることができる。
【0069】
(2) 前記気流変向構造は、前記第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)のプレート面に設けられ、前記遠心気流Eが外径方向に流入する内周端791aを開き、前記遠心気流Eの向きを軸方向に変える外周端791bを閉じた放射溝形状による気流変向放射溝791である(図8)。
このため、上記(1)の効果に加え、第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)のプレート面に放射状の溝を設けるだけのコスト増を抑えた構成としながら、遠心気流Eの向きを軸方向気流Hに変える気流変向構造を得ることができる。
【実施例2】
【0070】
実施例2は、ドリブンプレートに設けられた気流変向構造を実施例1とは異ならせた例である。
【0071】
まず、構成を説明する。
図10は、実施例2のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのドリブンプレートの構成及び遠心気流の向きコントロール作用を示す図である。以下、図10に基づき、乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72の構成を説明する。
【0072】
実施例2のドリブンプレート72のプレート面には、図10に示すように、遠心気流Eが外径方向に流入する内周端792aを開き、遠心気流Eの向きを軸方向(軸方向気流H)に変える外周端792bを閉じた螺旋溝形状による気流変向螺旋溝792(気流変向構造)を設けている。ここで、螺旋溝形状は、流入側から閉じ側に向かって徐々に曲率半径が小さくなるように変化させた螺旋曲線としている。
なお、他の構成については、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0073】
次に、作用を説明する。
実施例2では、ドリブンプレート72が回転したときの遠心気流Eが、図10の矢印に示すように、回転に伴う流線の向き変化に対応する気流変向螺旋溝792としている。
したがって、実施例1の気流変向放射溝791に比べ、遠心気流Eの流れが受ける溝抵抗が少なくなり、内周端792aから閉じ側の外周端792bに向かってスムーズに抜け、軸方向気流Hにより気流圧を、実施例1に比べて高めることが可能になる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0074】
次に、効果を説明する。
実施例2のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0075】
(3) 前記気流変向構造は、前記第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)のプレート面に設けられ、前記遠心気流Eが外径方向に流入する内周端792aを開き、前記遠心気流Eの向きを軸方向に変える外周端792bを閉じた螺旋溝形状による気流変向螺旋溝792である(図10)。
このため、上記(1)の効果に加え、遠心気流Eが受ける溝抵抗が少なく、スムーズに流入した遠心気流Eの向きを軸方向気流Hに変える気流変向構造を得ることができる。
【実施例3】
【0076】
実施例3は、ドリブンプレートに設けられた気流変向構造を実施例1,2とは異ならせた例である。
【0077】
まず、構成を説明する。
図11は、実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのドリブンプレートの構成及び遠心気流の向きコントロール作用を示す図である。以下、図11に基づき、乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72の構成を説明する。
【0078】
実施例3のドリブンプレート72のプレート面には、図11に示すように、遠心気流Eが外径方向に流入する内周端793aを開き、遠心気流Eの向きを軸方向(軸方向気流H)に変える外周端793bを閉じた囲い塀形状による気流変向リブ793(気流変向構造)を設けている。ここで、気流変向リブ793の高さは、実施例1,2の気流変向放射溝791や気流変向螺旋溝792の溝深さと同等にしている。
なお、他の構成については、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0079】
次に、作用を説明する。
実施例3では、気流変向構造を気流変向リブ793としたことで、気流変向放射溝791とは異なる構成である。しかし、遠心気流Eが外径方向に流入し、この遠心気流Eの向きを軸方向(軸方向気流H)に変える気流通路形状は、気流変向リブ793であっても気流変向放射溝791であっても同じになるため、実施例1と同様の作用を示す。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0080】
次に、効果を説明する。
実施例3のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0081】
(4) 前記気流変向構造は、前記第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)のプレート面に設けられ、前記遠心気流Eが外径方向に流入する内周端793aを開き、前記遠心気流Eの向きを軸方向に変える外周端793bを閉じた囲い塀形状による気流変向リブ793である(図11)。
このため、上記(1)の効果に加え、第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)のの剛性を高めるコスト増を抑えた構成としながら、遠心気流Eの向きを軸方向気流Hに変える気流変向構造を得ることができる。
【実施例4】
【0082】
実施例4は、ドリブンプレートに設けられた気流変向構造を実施例1〜3とは異ならせた例である。
【0083】
まず、構成を説明する。
図12は、実施例4のハイブリッド駆動力伝達装置における乾式多板クラッチのドリブンプレートの構成及び遠心気流の向きコントロール作用/摩耗粉排出作用を示す図である。以下、図12に基づき、乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72の構成を説明する。
【0084】
実施例4のドリブンプレート72のプレート面には、図12に示すように、遠心気流Eが外径方向に流入する内周端794aを開き、遠心気流Eの向きのうち一部を軸方向に変えるように途中まで閉じた一部閉鎖外周端794bを有する段差放射溝形状による気流変向段差放射溝794(気流変向構造)を設けている。ここで、気流変向段差放射溝794の一部閉鎖外周端794bまでの深さは、実施例1の気流変向放射溝791と同等にし、一部閉鎖外周端794bから外径方向に向かう溝の深さは、実施例1の気流変向放射溝791の半分程度の深さに抑えている。
なお、他の構成については、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0085】
次に、作用を説明する。
まず、実施例1〜実施例3では、遠心気流Eを利用した摩耗粉排出機能をドライブプレート71が分担し、遠心気流Eを利用した引き摺りトルク低減機能をドリブンプレート72が分担する例を示した。
【0086】
これに対し、実施例4は、遠心気流Eを利用した摩耗粉排出機能と引き摺りトルク低減機能という2つの機能を、ドリブンプレート72が分担するようにした例である。
すなわち、遠心気流Eは、図12に示すように、気流変向段差放射溝794の開かれた内周端794aから流入する遠心気流Eが、傾斜段差面により途中まで閉じた一部閉鎖外周端794bに到達すると、流入した遠心気流Eのうち、一部が遠心気流Eの向きを変えた軸方向気流Hになり、残りが遠心気流Eの向きを変えないで外径方向に抜ける。したがって、軸方向気流Hが、実施例1と同様に引き摺りトルク低減機能を発揮し、外径方向に抜ける遠心気流Eが摩耗粉を気流に乗せて外部に排出する摩耗粉排出機能を発揮する。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0087】
次に、効果を説明する。
実施例4のハイブリッド駆動力伝達装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0088】
(5) 前記気流変向構造(気流変向段差放射溝794)は、前記第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)のプレート面に設けられ、前記遠心気流Eが外径方向に流入する内周端794aを開き、前記遠心気流Eの向きのうち一部を軸方向に変えるように途中まで閉じた一部閉鎖外周端794bを有する(図12)。
このため、上記(1)の効果に加え、第2クラッチプレート(ドリブンプレート72)のプレート面に気流変向構造を設けるだけの構成としながら、遠心気流Eを利用した摩耗粉排出機能と引き摺りトルク低減機能という2つの機能を達成することができる。
また、2つの機能を併せ持つ効果により、実施例1〜3のドライブプレート71に設けたフェーシング溝76を省略することが可能になる。
【0089】
以上、本発明の駆動力伝達装置を実施例1〜実施例4に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0090】
実施例1〜4では、ノーマルオープンによる乾式多板クラッチ7の例を示した。しかし、ダイアフラムスプリング等を用いたノーマルクローズによる乾式多板クラッチの例としても良い。
【0091】
実施例1〜4では、乾式多板クラッチ7のドライブプレート71をクラッチハブ3にスプライン嵌合し、乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72をクラッチドラム6にスプライン嵌合する例を示した。しかし、ドライブプレートをクラッチドラムにスプライン嵌合し、ドリブンプレートをクラッチハブにスプライン嵌合するような例としても良い。
【0092】
実施例1〜4では、乾式多板クラッチ7のドライブプレート71側に摩擦フェーシング73を有する例を示した。しかし、乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72側に摩擦フェーシングを有する例としても良い。
【0093】
実施例1〜4では、フェーシング溝76や通気穴74や通気開口77を有し、積極的に外気→内径側軸方向→径方向→外径側軸方向→外気という流線を描く気流の流れ(F→E→G)を生成することで、遠心気流Eを流す例を示した。しかし、積極的に気流の流れを生成する構成を有さない乾式多板クラッチに対しても適用できる。なぜなら、乾式多板クラッチのドライブプレートとドリブンプレートは、軸方向に移動する隙間を介してスプライン嵌合されることで、軸方向の気流の流れが確保される。そして、プレート回転時には、外径側の圧力が高まる遠心圧効果により、内径側軸方向の流れを外径方向の流れ(遠心気流)とし、外径側軸方向の流れとする流線を描くことができることによる。
【0094】
実施例1〜4では、乾式多板クラッチ7のドリブンプレート72のプレート面に気流変向構造を設ける例を示した。しかし、乾式多板クラッチのドライブプレートのプレート面に気流変向構造を設ける例としても良いし、また、ドライブプレートとドリブンプレートの両プレート面に気流変向構造を設ける例としても良い。
【0095】
実施例4では、摩耗粉排出機能と引き摺りトルク低減機能という2つの機能を達成する気流変向構造として、実施例1をベースとする気流変向段差放射溝794を設ける例を示した。しかし、実施例2をベースとする気流変向段差螺旋溝を設ける例としても良いし、実施例3をベースとする気流変向段差リブを設ける例としても良い。
【0096】
実施例1〜4では、エンジンEngとモータ/ジェネレータ9を搭載し、乾式多板クラッチ7を走行モード遷移クラッチとするハイブリッド駆動力伝達装置への適用例を示した。しかし、エンジン車のように、走行用駆動源としてエンジンのみを搭載し、乾式多板クラッチを発進クラッチとするエンジン駆動力伝達装置に対しても適用することができる。さらに、電気自動車や燃料電池車、等のように、走行用駆動源としてモータ/ジェネレータのみを搭載し、乾式多板クラッチを発進クラッチとするモータ駆動力伝達装置に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
Eng エンジン
9 モータ/ジェネレータ
3 クラッチハブ
6 クラッチドラム
7 乾式多板クラッチ
71 ドライブプレート(第1クラッチプレート)
72 ドリブンプレート(第2クラッチプレート)
73 摩擦フェーシング
791 気流変向放射溝(気流変向機構)
791a 内周端
791b 外周端
792 気流変向螺旋溝(気流変向機構)
792a 内周端
792b 外周端
793 気流変向リブ(気流変向機構)
793a 内周端
793b 外周端
794 気流変向段差放射溝(気流変向機構)
794a 内周端
794b 一部閉鎖外周端
E 遠心気流
F 内径側軸方向気流
G 外径側軸方向気流
H 軸方向気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力の伝達を断接する乾式多板クラッチを備えた駆動力伝達装置において、
前記乾式多板クラッチは、
クラッチハブにスプライン嵌合される第1クラッチプレートと、
クラッチドラムにスプライン嵌合される第2クラッチプレートと、
前記第1クラッチプレートと前記第2クラッチプレートのうち少なくとも一方のクラッチプレートのプレート面に設けられ、プレート回転により外径方向に発生する遠心気流の向きを、隣接するクラッチプレート間の位置にて軸方向に変える気流変向構造と、
を備えることを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載された駆動力伝達装置において、
前記気流変向構造は、前記第2クラッチプレートのプレート面に設けられ、前記遠心気流が外径方向に流入する内周端を開き、前記遠心気流の向きを軸方向に変える外周端を閉じた放射溝形状による気流変向放射溝である
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載された駆動力伝達装置において、
前記気流変向構造は、前記第2クラッチプレートのプレート面に設けられ、前記遠心気流が外径方向に流入する内周端を開き、前記遠心気流の向きを軸方向に変える外周端を閉じた螺旋溝形状による気流変向螺旋溝である
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載された駆動力伝達装置において、
前記気流変向構造は、前記第2クラッチプレートのプレート面に設けられ、前記遠心気流が外径方向に流入する内周端を開き、前記遠心気流の向きを軸方向に変える外周端を閉じた囲い塀形状による気流変向リブである
ことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4までの何れか1項に記載された駆動力伝達装置において、
前記気流変向構造は、前記第2クラッチプレートのプレート面に設けられ、前記遠心気流が外径方向に流入する内周端を開き、前記遠心気流の向きのうち一部を軸方向に変えるように途中まで閉じた一部閉鎖外周端を有する
ことを特徴とする駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−2522(P2013−2522A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132943(P2011−132943)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】