説明

駆動状況に基づく一組の車両部材の駆動方法およびそれに関連する装置

本発明は、自動車の一部材または一組の部材の少なくとも一つの有効制御信号(Signal_effect)を使用する駆動状況に基づく駆動方法に関し、前記方法は、各駆動状況に相当する種々の制御戦略間を調停することを含み、各制御戦略は識別子(id1、id2、id3)で標識されている。この方法は、さらに、各戦略に相当する最適制御信号を連続的に計算すること、選択された戦略の識別子を表す値(Ident(t))を連続的に送信すること、戦略識別子の変更が生じたことを検出すること、変更を検出すると、前記戦略の変更の検出から有限な時間間隔に亘って0から1に増加する時間関数x(t)を発生させること、前記戦略識別子の変更を検出すると、識別子の変更後少なくとも一の時間間隔に亘って、最後の識別子変更の後でx(t)によって重み付けされた制御戦略の最適信号(Signal(Ident(t)))と、最後の識別子変更前に(1-x(t))によって重み付けされた制御戦略の最適信号(Signal(Ident_avt_chg)の和(Signal_mix)である有効制御信号(Signal_effect)を発信することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四つの駆動輪を有する車両の変速機駆動の分野に応用可能である。
【背景技術】
【0002】
四つの駆動車輪が装備された車両の変速装置は、前部車軸システムと後部車軸システムを備える。前部および後部車軸システムのそれぞれは、両端に車両の駆動車輪が取り付けられている回転車軸を有する。この種の車両にとって解決すべき重要な問題の一つは、走行時に車両の前部および後部車軸システムにいかに正確に動力トルクを分配するかである。四輪駆動車両の既知の変速システムの中で、粘性結合は、速い速度で回転している車軸から、それより速度の低い車軸へのトルクの移動を確実に行うことができ、トルクの移動は車両の前部と後部の回転速度の差の関数である。別の既知のシステムでは、その動作が、悉無律に基づくか、または、例えば、前部車軸と後部車軸との間の回転速度の差動を考慮した種々の基準によって決定される電子クラッチを用いる。
【0003】
走行状態に基づいて、前部車軸と後部車軸との間でのトルク分布を最適化する適応的システム、例えば、車両の走行開始と障害物を避ける通り抜け走行とを最適化する適応的システムが存在する。ここで、「車両の走行開始」という語句は、車両の第1の状態と第2の状態の間の段階を意味するものとする。第1の状態では、車両は静止しており、車輪へのトルクの伝達はない。第2の状態では、変速装置は開放か閉鎖かいずれかの安定状態にあり、車両は運動している。
【0004】
特許文献1(Yasuda)は、二つの主な車輪が後部車輪(主な駆動輪)である四輪駆動車について記載している。後部車輪が横滑りし始めると、トラクション制御システムがこれら後輪に印加される動力を減少させ、次いでトルク分配制御システムにより前輪(第2駆動輪)への動力を増加させる。特許文献1は、後輪システムと前輪システムの間でのトルクの移動を制御する信号がどのように計算されるかについて明記していない。特許文献1は、主な駆動車輪のみへのエンジントルクを印加する「トラクション」指令と、エンジントルクを二つの車軸システムに分配する「分配」指令について言及しているが、これらの指令の間の調停および切り替えの条件について明記していない。
【0005】
特許文献2(Nissan Motor Co)は、車輪速、エンジン速度、アクセルペダルの位置といった種々の信号に基づいて、前部車軸システムと後部車軸システムとの間でのトルクの分配戦略について記載している。この特許文献は、二つの車軸システム間でのエンジントルク分配の設定点を最適化する方法を提案している。この特許文献は、最適化システムによって新しい設定点が計算されるたびにどのように新しい設定点を適用するかについて述べていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6115663号
【特許文献2】欧州特許第1275549号
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、車両の一部材あるいは車両の一組の部材を駆動するための方法であって、走行状況に基づいて、これら部材間の動力の分配を最適化するアルゴリズムを満たす制御信号(電流または電圧)をこれら部材の間に配信する方法を用いて、既存のシステムを改良することである。
【0008】
種々の走行状況は、制御戦略とも呼ばれる種々の計算式によって管理される。
【0009】
本発明の目的は、最適化アルゴリズムが一つの制御戦略から別の制御戦略への切り替えを強いる時を含めて、連続関数に従って信号を変化させることを可能にすることである。この信号が電流又は電圧である時、戦略を切り替える間の信号の不連続性は、実際に電流又は電圧のスパイクを発生させ、これにより被制御部材が損傷を受ける。
【0010】
本発明の応用例の一つは、車両の主駆動輪の車軸システムと第2の車輪の車軸システムとの間で、車両のエンジンから四つの駆動車輪へのトルクの分配を駆動することである。二つの横揺れ防止棒の各半分の間の捩れトルクの分配、あるいは車両の四つの車輪の水平面に位置する四つのアクティブサスペンジョンの間の力の分配といった、他の応用例も考慮可能である。
【0011】
少なくとも一つの有効な制御信号により、自動車の一部材または一組の部材を走行状況に基づいて駆動する方法の一実施例によれば、それぞれが一の走行事情に対応する種々の制御戦略の間での調停が行われ、各制御戦略は識別子によって識別される。この方法では、
−各戦略に相当する最適な制御信号が連続的に計算され、
−選択された戦略の識別子を表す値が連続的に送信され、
−戦略識別子が変更されると、そのような変更が検出され、変更が検出されると、前記戦略の変更が検出された時に始まる有限時間間隔に亘って0から1に増加する時間関数が生成され、
−戦略識別子の変更が検出されると、この識別子の変更後、少なくとも一つの時間間隔に亘って有効な制御信号が送信される。前記信号は、値x(t)によって重み付けされた、識別子の最後の変更後の制御戦略の最適信号と、値((1-x(t))によって重み付けされた、識別子の最後の変更の前の制御戦略の最適信号の和である。
【0012】
有利には、識別子の変更が検出されると、変更前の戦略の識別子はメモリに記憶される。
【0013】
一の変形実施例によれば、有効制御信号と現在選択されている戦略の最適制御信号との間の差の絶対値も計算され、さらにブールの切り替えインジケータが計算される。このインジケータは、この差の絶対値が偏差の閾値より小さければ正であり、そうで無ければ負であり、さらに、識別子の変化が検出されるとき負の値になる。
【0014】
有利には、この変形実施例では、計算されたブールの切り替えインジケータが正であれば、変更後の制御戦略の最適信号に等しい有効制御信号が送信される。
【0015】
本方法の同じ変形例の好ましい実装形態によれば、ブールの切り替えインジケータが負である限り新しい制御戦略の選択は行われない。
【0016】
前記方法と組み合わせることができる本方法の一実装形態によれば、選択された戦略の識別子は、車両の操作データ、特に車輪の回転速度、吸入ガスバタフライ弁の開度角、およびエンジンの動作点に基づいて計算される。
【0017】
有利には、有効制御信号は、車両の前部車軸システムの少なくとも一の部材と、後部車軸システムの少なくとも一の部材との間で動力または抵抗力の分配を行なうか、或いは、車両の同じ車軸システムに結合している少なくとも一つの右手部材と少なくとも一つの左手部材との間で動力または抵抗力の分配を行なう。
【0018】
本方法の好ましい応用例において、有効制御信号は四つの輪駆輪を有する車両の各車軸システムに伝達されるエンジントルクの割合を決定する。
【0019】
本方法の別の好ましい応用例では、少なくとも二つの有効制御信号は、それぞれが車両の一の部材または一組の部材を、これら部材に共通の制御戦略に基づいて駆動し、請求項の一つに記載されているように計算する。
【0020】
別の態様によれば、自動車の一の部材または一組の部材の駆動装置は、走行状況に基づいて種々の制御戦略の間を調停し、選択された制御戦略の識別子を伝達することができる監視部を有する。この装置は、さらに、
−各制御戦略に対応する最適制御信号を連続的に計算可能な発生器、
−戦略識別子が変更された場合に検出可能な検出ブロック、
−識別子の最後の変更前の戦略識別子の値をメモリに貯蔵可能な記憶ブロック、
−有限の時間間隔に亘って0から1に増加する時間関数x(t)を配信可能な切り替え関数発生器、
−識別子の変更後の、値x(t)により重み付けされた制御戦略の最適信号と、識別子の変更前の、値(1-x(t))によって重み付けされた制御戦略の最適信号との和である有効制御信号を配信可能な混合ブロック、
−現在選択されている戦略の有効制御信号と最適制御信号との間の差の絶対値を計算することができ、かつ、この差の絶対値が偏差閾値未満であれば正であり、そうで無ければ負であり、さらに、識別子の変更の場合にも負になる、ブールの切り替えインジケータを配信可能な制御ブロック
も含んでいる。
【0021】
本発明のその他の目的、特徴、利点は、添付図面を参照する、専ら非限定的な実施例としてのみ提示される後述の説明によって明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明による駆動装置の主たる要素を示す。
【図2】図2は、図1の幾つかの機能性ブロックの実施例を示す。
【図3】図3は、図1の幾つかの機能性ブロックの実施例を示す。
【図4】図4は、図1の幾つかの機能性ブロックの実施例を示す。
【図5】図5は、図1の幾つかの機能性ブロックの実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示すように、自動車の一組の部材を駆動するための装置1は、接続線2を経由して、車両の走行状況を再構築できる測定値、例えば、車輪の回転速度、吸気ガスバタフライ弁の開口角、エンジンの動作点(例えば、エンジンのトルクおよびエンジンの回転速度で表される)を受信する。これらの動作パラメータは、監視部ブロックAと発生器ブロック3に送信される。監視部ブロックAは、時間tの関数である戦略識別子「ident(t)」を、接続線4を経由して発生器3に連続して送信し、これと同じ戦略識別子を、接続線5を経由して検出ブロックB1に送信する。検出ブロックB1は、接続線7を経由して、記憶ブロックB2に、ブールの検出変数「detect」を送信する。検出ブロックB1は、接続線6を経由して、記憶ブロックB2に、時間遅れΔによって補正された前の戦略識別子の値である値「ident(t-Δ)」を送信する。記憶ブロックB2は、接続線8を経由して、発生器3に、戦略識別子の値「ident_avt_chg」を送信する。発生器3は、接続線9を経由して、混合ブロックB3に、第1の信号の値「signal(ident(t)」を送信する。発生器3は、接続線10を経由して、混合ブロックB3に、第2の信号の値「signal(ident_avt_chg)」を送信する。発生器3は、また、接続線11を経由して、制御ブロックB4に第1信号の値「signal(ident(t)」を送信する。混合ブロックB3は、接続線12を経由して、制御ブロックB4に、第3の信号の値「signal mix」を送信する。制御ブロックB4は、接続線13を経由して、混合ブロックB3に、ブールの切り替えインジケータ「commut(t)」を送信する。検出ブロックB1は、ブールの検出変数「detect」を、接続線14を経由して混合ブロックB3に、接続線15を経由して制御ブロックB4に、それぞれ送信する。制御ブロックB4は、接続線16を経由して、有効制御信号の値「signal_effect」を配信する。接続線16は、この信号を、制御すべき部材(図示されていない)に届けるもので、例えば四輪駆動車の前部車軸システムと後部車軸システムとの間でのトルクの分配のための電気的指示信号であり、時としてETC(電気的トルク制御)と呼ばれる。
【0024】
監視部Aは、種々のローカルなセンサおよびコンピュータから、例えば、CANバス型の多重化されたネットワーク、あるいは接続線2に代表されるコンピュータ間の通信のその他あらゆる手段を経由して、車両の走行状況を再構築可能にする測定値を受信する。これらの動作パラメータに基づいて、例えば、各車輪の車軸システムの回転速度、エンジン速度、アクセルペダルの位置に基づいて、監視部は、発生器3において予めプログラムされた離散的な幾つかの戦略、例えば、二つの駆動輪を用いた戦略、発進を意図した四つの駆動輪を用いた戦略、通り抜け走行を意図した四つの駆動輪を用いた戦略から、一の戦略を選択する。これらの戦略の各々は、例えば整数である戦略識別子id1、id2、id3などによって識別されている。任意の時刻tにおいて、これら戦略識別子の一つの値は発生器ブロック3に送信される。接続線4を経由してこうして送信された値は、関数ident(t)を構成する。
【0025】
発生器ブロック3は、車両の同数の部材あるいは同一組の部材(例えば、車両の前輪と後輪との間でのエンジントルクの分配器)に専用の所定の数の計算アルゴリズムを有する。各アルゴリズムは、車両の別個の制御戦略(例えば、自動車道の走行戦略、発進戦略、通り抜け走行戦略、坂道発進戦略等)に関連している。各制御アルゴリズムは、関連する部材に最適な制御信号を連続的に計算することを可能としている。この最適制御信号は、調停ブロックAによって検出された走行状況に関して、前記部材を最適に駆動することを可能にする。この最適制御信号の計算は、接続線2を経由して供給された車両の動作パラメータを考慮に入れて行われる。これらの制御パラメータは、調停ブロックAによって考慮されたパラメータとは異なっているかもしれないが、調停ブロックAによって同時に考慮されたパラメータの一部を含んでいる可能性がある。制御戦略が選択さるか否かに関係なく、発生器ブロック3は、その戦略に相当する制御信号を計算する。しかしながら、接続線4および8を経由して発生器ブロック3によって受信された戦略識別子に基づいて、計算された信号のうち二つだけが、発生器ブロック3によって、接続線9、10を経由して、混合ブロックB3に送信される。
【0026】
したがって、発生器ブロック3は、接続線4を経由して、現在選択されている制御戦略の識別子である値ident(t)を受信する。それに応答して、発生器ブロック3は、接続線9を経由して、この現在選択されている戦略に対応する最適制御信号を送信する。発生器ブロック3は、接続線8を経由して、現在の戦略の前に選択されていた制御戦略の識別子である値、ident_avt_chgを受信する。それに応答して、発生器ブロック3は、接続線10を経由して、前に選択されていたこの戦略に対応する最適制御信号を発信する。
【0027】
図2は、図1の検出ブロックB1の実施例を示す。この図は、図1と共通の要素を幾つか含み、それらには同じ参照番号を付した。接続線5を経由して到来する戦略識別子「ident(t)」は、この接続線5の第1分岐線を経由して遅延複写部21に送信され、この複写部は、各時刻tに、接続線5を経由して時刻t-Δにおいて受信した戦略識別子の遅延値「ident(t-Δ)」を、接続線6を経由して送信する。遅延複写部21は、この同じ遅延値を、接続線24を経由して減算器23の第1入力部に送信する。戦略識別子「ident(t)」は、同時に、減算器に、接続線5の第2分岐を経由して減算器23の第2入力部に送信される。減算器23は、接続線25を経由して、比較器26に、時刻tにおける戦略識別子の値と、時刻(t-Δ)における戦略識別子の値との間の差の絶対値に相当する値|ident(t)-ident(t-Δ)|を送信する。比較器26は、接続線25を経由して受信した値が、0に近い検出閾値εを上回るかどうかを確認するテストを行う。比較器26は、接続線25を経由して受信された値が検出閾値εを上回る場合に値1を有し、その条件が満たされなければ0であるブールの検出変数「detect」を、接続線7を経由して発信する。
【0028】
図3は、図1の記憶ブロックB2の一実施例を示す。図3は、図1と共通の要素を幾つか含み、それらには共通の参照番号を付与した。ブールの検出変数detect(t)は、接続線7の第1分岐を経由して、RSフリップフロップ32の入力部Rに到達する。同じブールの変数detect(t)は、接続線7の第2分岐を経由して、遅延複写部31に到着し、遅延複写部31は、検出変数の遅延値detect(t-Δ)を、接続線33を経由して、フリップフロップ32の入力部Sに送信する。RSフリップフロップ32は、接続線34を経由して、記憶ループ37の接続線を接続または切断可能なスイッチ36に制御信号を送信する。記憶ループ37は、接続線8を経由して、発生器3(図示していない)に、記憶ループが含む値を連続的に送信する。識別子の変更が時刻t0において検出された場合、RSフリップフロップは、時刻t0において、その入力部RおよびSで、それぞれ値detect(t0)=1とdetect(t0-Δ)=0を受信する。その後、RSフリップフロップは、時刻t0+Δにおいて、その入力部RおよびSで値(t0+Δ)=0およびdetect(t0)=1をそれぞれ受信する。フリップフロップ32の入力部RおよびSが、例えば、時刻t0において、値1および0をそれぞれ受信する場合、スイッチ36は、接続線6を記憶ループ37に接続する。記憶ループ37は、その後、遅延戦略識別子の値「ident(t-Δ)」をメモリに蓄える。フリップフロップの32の入力部RおよびSが、例えば時刻t0+Δにおいてそれぞれ値1と0を受信する場合、スイッチ36は、記憶ループ37への接続線6を切断する。このとき、記憶ループ37は、前に取得した値、即ち、時刻t0において検出された戦略変更の前の戦略識別子である、例えばident(t0-Δ)を保持する。
【0029】
図4は、図1の混合ブロックB3の実施例である。この図には、図1と共通の要素が含まれており、それらには同じ参照番号を付した。ブールの検出変数detect(t)は、接続線14を経由して、RSフリップフロップ41の入力部RおよびSに到達する。ブールの切り替えインジケータであるcommut(t)は、接続線13を経由して、RSフリップフロップ41の入力部Rに到達する。RSフリップフロップ41は、接続線42を経由して、傾斜リミッタ43に、その出力Qの値を送信する。出力Qは、その入力部RおよびSがそれぞれ値0および1を有する場合に値1を有し、その入力部RおよびSがそれぞれ値1および0を有する場合に値0を有する。傾斜リミッタ43は、接続線45の第1分岐を経由して、乗算器38に、0と1との間の切り替え関数値x(t)を送信する。RSフリップフロップ41と、傾斜リミッタ43と、それらの間の接続線42を含むアセンブリは、切り替え関数発生器39を構成する。傾斜リミッタは、接続線45の第2分岐を経由して、減算器44に、切り替え関数の値x(t)も送信する。減算器44は、接続線46を経由して乗算器48に、この切り替え関数の補数、または値(1-x(t))を送信する。乗算器48は、接続線10を経由して、識別子の最後の変更前に選択された制御戦略の最適信号である値signal(ident_avt_chg)を受信する。乗算器38は、接続線9を経由して、現在選択されている制御戦略の最適信号である値signal(ident(t))を受信する。乗算器38は、接続線47を経由して、接続線47を経由して加算器50に、接続線9および45を経由して入力として受信した二つの値の和を送信する。乗算器48は、接続線49を経由して加算器50に、接続線10および46を経由して入力として受信した二つの値の和を送信する。加算器50は、接続線12を経由して制御ブロックB4(図示していない)に、その接続線47および49の入力として受信した値の和signal_mixを伝送する。
【0030】
したがって、混合された信号signal_mixは、次の値を有する。
Signal_mix=x(t)*signal(ident(t)) + (1-x(t))*signal(ident_avt_chg) (式1)
【0031】
戦略識別子の変更が検出されると、ブールの検出変数は、短い時間間隔Δtの間に0から1に変わる。RSフリップフロップ41は、正規に生成されたパルス関数をレベル関数、即ち、極めて短い遷移時間間隔で、一定値0から1に等しい一定値に変化する関数に変換する。傾斜リミッタ43は、このレベル関数を、切り替え関数x(t)に変換する。この切り替え関数x(t)は、連続して、以前の遷移時間よりも長い時間間隔で、同じ値0から値1への増加を行う。この関数は、例えば、区分的アフィン関数である。次いで、切り替え関数x(t)を使用して、式1に従い、接続線9および10を経由して伝送された最適制御信号の、x(t)および(1-x(t))によって重み付けされた平均を計算することによって、混合信号signal_mixが算出される。
【0032】
図5は、図1の制御ブロックB4の実施例を示している。この図は、図1と共通の要素を含み、それらには同じ参照番号を付した。接続線11の第1分岐は、現在選択されている制御戦略の最適信号である値signal(ident(t))を比較器51の第1入力部に運ぶ。接続線12の第1分岐は、比較器51の第2入力部に混合信号signal_mix(t)を運ぶ。接続線11の第2分岐は、スイッチ54の第1入力部に、現在選択されている制御戦略の最適信号である値signal(ident(t))を運ぶ。接続線12の第2分岐は、混合信号signal_mix(t)の値を、スイッチ54の第2入力部に運ぶ。比較器51は、接続線13の第1分岐を経由して混合ブロックB3(図示していない)に、ブールの切り替えインジケータcommut(t)の値を送信する。比較器51は、接続線13の第2分岐を経由して、RSフリップフロップ52の入力部Sに、ブールの切り替えインジケータcommut(t)の値を送信する。接続線15は、RSフリップフロップ52の入力部Rに、ブールの検出変数detect(t)の値を運ぶ。RSフリップフロップ52の出力Qは、接続線53により、スイッチ54の制御入力部にリンクされる。スイッチ54の出力は、接続線16を経由して、有効制御信号signal_effect(t)の値を配信する。
【0033】
比較器51は、接続線11および12を経由して、到来する二つの値の間の差分の絶対値を計算し、この絶対値を、0に近い偏差閾値ε’と比較する。差分の絶対値が偏差閾値ε’を下回る場合、比較器は、ブールの切り替えインジケータcommut(t)に値1を割り当てる。差分の絶対値が偏差閾値ε’を上回る場合、比較器は、ブールの切り替えインジケータcommut(t)に値0を割り当てる。新しい制御戦略が検出された場合、フリップフロップ52の入力部Rに送られる値detect(t)は、短い時間間隔Δtの間に0から1に変化する。このとき、RSフリップフロップ52からの出力信号は0になり、接続線53を経由して送信されて、スイッチ54を接続線12および16に接続するように制御する。このとき、有効制御信号signal_effectは、混合ブロックB3によって計算された混合信号signal_mixと同じとなり、フリップフロップの入力部Sに到達する値が1に変わらない限り同じままである。ブロックB3で計算された混合信号signal_mixと、現在選択されている制御戦略の最適信号signal(ident(t))との差分が偏差閾値ε’より小さければ、ブールの切り替えインジケータcommut(t)は1と等しくなる。すると、RSフリップフロップ52の出力信号は1に等しくなり、接続線52によって送信されて、スイッチ54を接続線11および16に接続するように制御する。このとき、有効制御信号signal_effectは、現在選択されている制御戦略の最適信号signal(ident(t))と一致する。ブロックB3によって送信された混合信号は、もはや有効制御信号の値として用いられることはないので、ブロックB3の入力値は、二つの戦略の間の切り替えのための新規混合信号を計算するためにリセットすることができる。このブロックB3のリセットは、フリップフロップ41の入力部Rに、接続線13を介して1に等しい値commut(t)が到着することによって行われる。このとき、フリップフロップ41の出力Qは値0となり、この0値は、傾斜リミッタ43を経由して切り替え関数x(t)に同じ値0を付与する。
【0034】
上述の実施例において、二つの戦略間の切り替え時に有効制御信号として用いられる混合信号が、発生器3から直接求められる二つの信号に基づいて計算されることに注目されたい。このような構成では、切り替えインジケータが再び1にならない限り、戦略識別子の新たな変更を禁止することが有益である。接続線9と10を経由してブロックB3が受信する二つの信号が、二つの新しい戦略識別子に関わる他の二つの信号によって急に置き換わることはこうして避けられる。しかし、本発明の変形例を想起することができ、この変形例では、切り替えインジケータが再び1に等しくなる前に、例えば、複数のカスケード接続されたブロックB3を有することによって、新たな戦略切り替えが可能である。このとき、第1識別子の切り替えに対応する混合信号sign_mixは、識別子の次の変更に対応する混合信号を計算するブロックB3から接続線10に相当する接続線を経由して送信される。
【0035】
遅延複写器21および31による信号ident(t)およびdetect(t)に誘導された遅延時間Δは、この期間の信号変化が計算および/または本発明を構成する信号の処理によって検出可能となるのに十分に長い時間間隔である。しかし、遅延時間Δは極めて短い時間のままであるので、制御信号が一つの戦略から別の戦略に有効に切り替わる有効切り替え時間に不利になることはない。実際、この遅延時間は、一般に、コンピュータのサンプリング時間に相当する。
【0036】
さらに、ブールの切り替えインジケータ(commut)および検出変数(detect)に対して割り当てられる値に1または0を選択することに関する上述の根拠は、関数の意味から理解するべきである。変数の正の値または負の値は、1/0以外の一対の値、例えば、正/負、イエス/ノー、正/誤、切り替え/安定、完了/進行中など、発明の性質を変えないものとして指定される。ブールの値は、本発明の範疇内に入るものの、単純に、引用された論理的な定理を再公式化することによって、従来の記述に反対の定義を有する。
【0037】
本発明を構成する種々の機能ブロックによって受信または送信される信号は、数値、または論理値を搬送できるあらゆる形態の信号、例えば、電流、電圧、光ファイバ光学の光信号などでよい。
【0038】
最後に、論理ブロックまたは計算ブロックの形態での本発明の実施は、電子製品または上述のように配置された物理的に独立のコンピュータによって行なわれる。本発明は、ソフトウエアの形態に記述されたすべての論理ブロックおよび計算ブロックをプログラムすることにより実行することもできる。対応するプログラムおよびサブルーチンは、中央電子制御ユニットに組み込まれているか、又は分離されている一または複数のコンピュータにインストールすることができる。
【0039】
本発明は、制御信号によって、それぞれが走行状況に適している多数の制御戦略に基づいて、車両部材を適応的に駆動することが可能である。本発明は、また、制御信号に不連続性を生むことなく、車両制御戦略を変更することができる。本発明によって生み出された二つの制御戦略の間の遷移信号は、信号が二つの適応信号の平均値として構成されているので、車両が受ける外力に適応できる信号のままである。戦略の切り替えが決定されると、既に計算されている最適信号を単に平均することによって、切り替えが迅速に行なわれる。さらに、本発明は、切り替え動作の完了を制御することができ、これにより、複数の切り替え局面の重複を避けること、あるいはこのような切り替えの重なりを統制することが可能となる。制御信号の信頼性が、運転の快適性および安全性と同様に向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行状況に基づいて、少なくとも一つの有効な制御信号(signal_effect)によって自動車の一の部材または一組の部材を駆動する方法であって、それぞれが一の走行状況に対応する種々の制御戦略の間での調停を行うもので、各制御戦略が識別子(id1、id2、id3)によって識別されており、
−戦略の各々に対応する最適な制御信号を連続的に計算し、
−選択された戦略の識別子を表す値(Ident(t))を連続的に発信し、
−戦略識別子が変更されるとその変更を検出し;変更が検出されると、前記戦略の変更が検出された瞬間に開始される有限な時間間隔に亘って0から1に増加する時間関数x(t)を発生させ、
−戦略識別子の変更が検出された時、この識別子の変更後の少なくとも一の時間間隔に亘って有効制御信号(Signal_effect)を発信し、前記信号が、値x(t)により重み付けされた、識別子の最後の変更後の制御戦略の最適信号(Signal(Ident(t))と、(1-x(t))により重み付けされた、識別子の最後の変更前の制御識別子の最適信号(Signal(Ident_avt_chg))との和(Signal_mix)である
ことを特徴とする駆動方法。
【請求項2】
識別子の変更が検出されると、変更前の戦略の識別子をメモリに貯蔵する、請求項1に記載の駆動方法。
【請求項3】
有効制御信号と現在選択されている戦略の最適制御信号との間の差の絶対値も計算し、この差の絶対値が偏差閾値を下回れば正の数値であり、それ以外の場合は負の数値であり、さらに、識別子の変更が検出された瞬間に負の数値になるブールの切り替えインジケータ(commut)を計算する、請求項1または2に記載の駆動方法。
【請求項4】
計算されたブールの切り替えインジケータが正の数値である時、変更後の制御戦略の最適信号(Signal(Ident(t))に等しい有効制御信号(Signal_effect)を伝送する、請求項3に記載の駆動方法。
【請求項5】
ブールの切り替えインジケータが負の数値である限り、新たな制御戦略の選択は禁止される、請求項3または4に記載の駆動方法。
【請求項6】
選択された戦略の識別子を、車両の動作データ、特に、車輪の回転速度、ガス吸入バタフライ弁の開口角度、およびエンジンの動作点に基づいて計算する、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項7】
有効制御信号が、車両の前部車軸システムの少なくとも一つの部材と、後部車軸システムの少なくとも一つの部材との間で駆動力または抵抗力の分配を駆動するか、或いは、車両の少なくとも一つの右手部材と、少なくとも一つの左手部材との間で駆動力または抵抗力の分配を駆動する、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項8】
有効制御信号が、四つの駆動輪を有する車両の各車軸システムに伝達されるエンジントルクの割合を決定する、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項9】
それぞれが車両の一の部材または一組の部材をそれらの部材に共通の制御戦略に基づいて駆動する少なくとも二つの有効制御信号を、請求項1ないし8のいずれか一項に記載のように計算する駆動方法。
【請求項10】
自動車の一部材または一組の部材を駆動するための装置であって、走行状況に基づいて、種々の制御戦略の間での調停を行うことができ、かつ選択された制御戦略の識別子を送信することができる監視部(A)を備えており、装置はさらに、
−制御戦略の各々に対応する最適制御信号を連続的に算出することができる発生器(3)と、
−戦略識別子が変更されたかどうかを検出可能な検出ブロック(B1)と、
−識別子の最後の変更の前の戦略識別子の値をメモリに貯蔵することができる貯蔵ブロック(B2)と、
−有限な時間間隔に亘って0から1に増加する時間関数x(t)を送達することができる切り替え関数発生器(39)と、
−値x(t)によって重み付けされた、識別子の最後の変更後の最適信号と、値(1-x(t))によって重み付けされた、識別子の最後の変更前の最適信号との和である有効制御信号を送達することができる混合ブロック(B3)と、
−有効制御信号と、現在選択されている戦略の最適制御信号との差の絶対値を計算することができ、かつこの差の絶対値が偏差閾値を下回る場合は正の数値であり、それ以外の場合は負の数値であり、さらに、識別子の変更が検出された瞬間に負の数値になるブールの切り替えインジケータを発生させることができる制御ブロック(B4)と
を備えることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−512784(P2012−512784A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541543(P2011−541543)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052202
【国際公開番号】WO2010/070220
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(507308902)ルノー・エス・アー・エス (281)
【Fターム(参考)】