説明

駆動装置

【課題】潤滑が必要な部分へのグリースの供給とモータ内へのグリースの浸入の防止とを両立し、波動歯車装置からの出力軸を上向きとした駆動装置を得ること。
【解決手段】波動歯車装置10と、モータ軸61を取り囲む溝状であり波動歯車装置10から流下したグリース8を貯留する第1グリース溜まり52と、第1グリース溜まり52を取り囲む溝状であり第1グリース溜まり52から溢れたグリース8を貯留する第2グリース溜まり53とを有し、モータ軸61を上に向けたモータ6を波動歯車装置10の下に位置決めするモータスペーサ5と、下方が窄まった円筒状の円筒部41を有し、ウェーブジェネレータ3とモータスペーサ5との間でモータ軸61に固定され、モータ軸61とともに回転するグリース循環リング4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの関節部分に組み込む駆動装置として、サーキュラースプライン、フレックススプライン及びウェーブジェネレータで構成される波動歯車装置を用いた減速機を有する駆動装置が広く適用されている。波動歯車装置は、サーキュラースプラインとフレックススプラインとが噛み合う部分(噛み合い部分)、及びウェーブジェネレータとフレックススプラインとが当接する部分(当接部分)で摩擦による摩耗が発生するため、これらの箇所にグリースを供給する必要がある。
【0003】
一般に、グリースはフレックススプラインの中にグリースを充填することにより、サーキュラースプラインとフレックススプラインとが噛み合う部分やウェーブジェネレータとフレックススプラインとが当接する部分にグリースを供給している。
【0004】
フレックススプライン内に充填したグリースは、駆動装置を組み込んだロボット等の動作に伴って攪拌されて流動性が高くなる。したがって、フレックススプラインに繋がった出力軸が上を向き下側にモータが配置された姿勢で波動歯車装置を動作させた場合、フレックススプライン内に存在するグリースは、サーキュラースプラインの歯面とフレックススプラインの歯面との間やウェーブジェネレータとフレックススプラインとの間に止まらずに下へ落ち、モータ側へ流下する。
【0005】
モータはモータ軸の部分にオイルシールが設けられており、モータへオイルが浸入することを防止する構造となっているが、長期間グリースに浸されているとオイルシールが設けられていたとしてもモータ内にオイルが浸入してしまうことがある。
【0006】
特許文献1には、サーキュラースプラインの歯面とフレックススプラインの歯面との間やウェーブジェネレータとフレックススプラインとの間から下側に落ちた油をリフトコーンで持ち上げ、ウェーブジェネレータの上面に導いて潤滑が必要な部分へ供給する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭60−129545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ロボットしかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、フレックススプラインに繋がった出力軸を上に向け、下側にモータを配置する場合にはモータ内にグリースが浸入してしまうことがあるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、潤滑が必要な部分へのグリースの供給とモータ内へのグリースの浸入の防止とを両立し、波動歯車装置からの出力軸を上向きとした駆動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、モータと、リング状のサーキュラースプラインと、サーキュラースプラインの内側に配置される薄肉カップ状のフレックススプラインと、フレックススプラインと当接するようにフレックススプラインの内側に配置され、フレックススプラインを楕円形に撓めてサーキュラースプラインとフレックススプラインとを部分的に噛み合わせる楕円カム状であり、モータのモータ軸に固定されるウェーブジェネレータとで構成され、サーキュラースプラインとフレックススプラインとの噛み合い部分及びウェーブジェネレータとフレックススプラインとの当接部分がグリースで潤滑される波動歯車装置と、モータ軸を取り囲む溝状であり波動歯車装置から流下したグリースを貯留する第1グリース溜まりと、第1グリース溜まりを取り囲む溝状であり第1グリース溜まりから溢れたグリースを貯留する第2グリース溜まりとを有し、モータ軸を上に向けたモータを波動歯車装置の下に位置決めするモータスペーサと、下方が窄まった円筒部を有し、円筒部の下端が第1グリース溜まりに挿入された状態でウェーブジェネレータとモータスペーサとの間でモータ軸に固定されるグリース循環リングとを備え、モータ軸とともに回転するグリース循環リングが、第1グリース溜まりに貯留されたグリースを円筒部に沿って上昇させて、噛み合い部分及び当接部分に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、波動歯車装置の下側へ設置されたモータ内へのグリースの浸入を防止しつつ、波動歯車装置から流れ落ちたグリースを潤滑が必要な部分に再供給できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、波動歯車装置の実施の形態の構成を示す図である。
【図2】図2は、グリース循環リングの構造を示す図である。
【図3】図3は、モータスペーサの構造を示す図である。
【図4】図4は、グリース循環リングとモータスペーサとの位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる駆動装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態.
図1は、本発明にかかる駆動装置の実施の形態の構成を示す図である。駆動装置50は、サーキュラースプライン(C/S)1、フレックススプライン(F/S)2及びウェーブジェネレータ(W/G)3で構成される波動歯車装置10と、グリース循環リング4と、リング固定部品9と、モータスペーサ5と、モータ6と、ケーシング7とを有する。
【0015】
サーキュラースプライン1は、リング状で内筒面が歯面となっており剛性を有する。フレックススプライン2は、可撓性を有するカップ状であり、開口縁部の外周側はサーキュラースプライン1の歯と係合可能な大きさの歯が形成された歯面となっている。
【0016】
フレックススプライン2の歯数はサーキュラースプライン1の歯数よりも少なくなっている。また、フレックススプライン2の外径は、サーキュラースプライン1の内径よりも小さくなっている。ダイヤフラム21(カップの底面)には出力軸22が取り付けられる。
【0017】
ウェーブジェネレータ3は、フレックススプライン2の内部に配置されてフレックススプライン2の外周面を楕円状に変形させ、長軸方向でフレックススプライン2とサーキュラースプライン1とを噛み合わさせ、短軸方向では両者の間に隙間を生じさせる楕円カム状である。ウェーブジェネレータ3は入力軸であるモータ軸61に固定されており、モータ軸61とともに回転する。ウェーブジェネレータ3の下部中央近傍は、下側に突出して凸部31となっている。
【0018】
リング固定部品9は、ウェーブジェネレータ3の凸部31を覆うようにウェーブジェネレータ3に下から被せられており、止めネジ(イモネジ)91でモータ軸61に固定される。リング固定部品9をモータ軸61に固定することにより、ウェーブジェネレータ3の表面を伝って流下するグリース8はモータ軸61と接触せず、後述する第1グリース溜まり52へリング固定部品9の表面に沿って導かれるようになっている。これにより、オイルシール62がグリース8に浸ることは防止されている。
【0019】
グリース循環リング4は、リング固定部品9を介してモータ軸61に固定されており、モータ軸61とともに回転する。グリース循環リング4の材料としては、モータ6の熱やグリース8に冒されない材料であることが好ましい。グリース循環リング4とリング固定部品9とを一体とし、グリース循環リング4をモータ軸61に固定する構造とすることも可能であるが、本実施の形態のようにこれらを別部品とすることにより、リング固定部品9をモータ軸61に固定する作業や、グリース循環リング4をリング固定部品9に固定する作業を行いやすくできる。
【0020】
モータスペーサ5は、モータ6をケーシング7に固定するための部品である。グリース循環リング4及びモータスペーサ5の各々の構造については後段で説明する。
【0021】
モータ6は、モータ軸61が上を向く姿勢でケーシング7に固定される。モータ6のケースはモータ軸61が突出する部分にオイルシール62が設置されており、グリース8がモータ6内に浸入しないようになっている。
【0022】
モータケーシング7は、波動歯車装置10、グリース循環リング4、リング固定部品9、モータスペーサ5及びモータ6を収容する。
【0023】
モータ軸61とともにウェーブジェネレータ3が回転することにより、サーキュラースプライン1とフレックススプライン2とは噛み合う箇所を刻々と替えながら係合し、歯数の差によりフレックススプライン2が回転する。例えば、フレックススプライン2の歯がサーキュラースプライン1の歯よりも二つ少ない場合には、ウェーブジェネレータ3が1回転するごとにフレックススプライン2は歯二つ分ウェーブジェネレータ3とは逆方向に回転する。ダイヤフラム21に取り付けられた出力軸22はフレックススプライン2とともに回転するため、出力軸22の回転数はモータ軸61の回転数よりも低くなる。
【0024】
図2は、グリース循環リングの構造4を示す図である。図2(a)は上面図、図2(b)は図2(a)におけるIIb−IIb断面図、図2(c)は図2(a)におけるIIc−IIc断面図である。グリース循環リング4は、下側が窄まった円筒部41と、リング固定部品9に固定するための固定部43と、固定部43から放射状に伸びて円筒部41と固定部43とを連結する支持部44とを有する。固定部43には取付穴45が設けられている。
【0025】
図1に示したように、グリース循環リング4は、取付穴45を貫通させた固定ネジ93でリング固定部品9に形成されているネジ穴92に共締めされることによって、リング固定部品9に固定される。
【0026】
図3は、モータスペーサ5の構造を示す図である。モータスペーサ5は、貫通穴51と、貫通穴51を囲む上面視円弧状の窪み(すなわち溝)である第1グリース溜まり52及び第2グリース溜まり53とを備えた形状であり、ケーシング7及びモータ6の双方に固定され、モータ6をケーシング7内の所定の位置に位置決めする。第1グリース溜まり52と第2グリース溜まり53との間の第2の壁54は、第1グリース溜まり52と貫通穴51との間の第1の壁55よりも低くなっている。図1に示したように、サーキュラースプライン1とフレックススプライン2との間やウェーブジェネレータ3とフレックススプライン2との間から波動歯車装置10の下側に流れたグリース8は、第1グリース溜まり52に溜まるようになっている。
【0027】
図4は、グリース循環リング4とモータスペーサ5との位置関係を示す図である。グリース循環リング4は、円筒部41の下端41bが第2の壁54よりも下方に位置し、かつ固定部43や支持部44が第2の壁54よりも上に位置するようにモータ軸61に設置される。これにより、固定部43や支持部44は第1グリース溜まり52に溜まったグリース8に浸からないようになっている。
【0028】
モータ軸61を回転させるとグリース循環リング4も回転する。円筒部41の内面41cでは、グリース循環リング4の回転に伴う遠心力によりグリース8が円筒部41に沿って上昇していく。また、グリース8の流動性が高い(粘弾性が低い)場合は、円筒部41の外面41dがグリース8に十分濡れることにより、グリース8はグリース循環リング4の回転による遠心力で飛ばされずに円筒部41に沿って上昇していく。一方、グリースの流動性が低い(粘弾性が高い)場合は、ワイゼンベルグ効果(法線応力効果)により、グリース8はグリース循環リング4の回転による遠心力で飛ばされずに円筒部41に沿って上昇していく。
【0029】
グリース循環リング4の内外面を伝ってグリース循環リング4の上端41aまで達したグリース8は、円筒部41に沿って上昇してきた際の慣性力とグリース循環リング4の回転による遠心力とを合成した力の方向、すなわち斜め上でモータ軸61から遠ざかる方向に向かってグリース循環リング4から射出される。このため、円筒部41の上端41aでの径を、ウェーブジェネレータ3の長軸寸法よりも若干小さくしておくことにより、円筒部41の上端41aから斜め上方向に飛び出したグリース8を、サーキュラースプライン1とフレックススプライン2とが噛み合う部分やウェーブジェネレータ3とフレックススプライン2とが当接する部分に効率よく供給できる。ただし、円筒部41の上端41aでの径は、必ずしもウェーブジェネレータ3の長軸寸法よりも小さくなければならない訳ではない。
【0030】
メンテナンスの際にフレックススプライン2内に供給するグリース8が過剰であった場合、第1グリース溜まり52からグリース8が溢れるが、第1グリース溜まり52と第2グリース溜まり53との間の第2の壁54は、第1グリース溜まり52と貫通穴51との間の第1の壁55よりも低くなっているため、第1グリース溜まり52から溢れたグリース8は、貫通穴51側には流入せず第2グリース溜まり53に流入する。これにより、オイルシール62がグリース8に浸ることは防止される。
【0031】
このように、本実施の形態にかかる駆動装置50は、潤滑が必要な部分にグリース8を供給でき、かつモータ6内にグリース8が浸入することを防止できる。したがって、潤滑不良による波動歯車装置10の故障や、グリース8の浸入によるモータ6の破損を防止し、駆動装置50の耐久性を高め、長期使用が可能となる。メンテナンスでグリース8を追加した場合でも、これらの効果が損なわれることはない。
【0032】
グリース8が駆動装置50内で繰り返し使用されるため、グリース8の使用量を低減できる。したがって、駆動装置50を適用したロボット等を用いて生産した製品は、製造段階においてグリース8の使用量削減による環境負荷低減に寄与することとなる。
【0033】
グリース8の使用量が従来の駆動装置よりも少なくなるため、メンテナンス時に補充するグリース8の推奨量をケーシング7等に表示することにより、廃グリース(第2グリース溜まり53に流入するグリース8)の発生量を低減するための情報をユーザに適切に提供できる。
【0034】
また、波動歯車装置10を構成するサーキュラースプライン1、フレックススプライン2及びウェーブジェネレータ3を特殊な形状とする必要がない(例えば、ウェーブジェネレータ3にオイルを通す穴等を設ける必要がない)ため、部品の加工コストを低減できる。また、波動歯車装置10構成する部品を他の波動歯車装置と共通化することで駆動装置50の製造コストを低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明にかかる駆動装置は、波動歯車装置の潤滑が必要な部分へのグリースの供給と、モータ内へのグリースの浸入の防止とを両立できる点で有用であり、特に、スカラロボットなどの水平関節部分へ組み込むのに適している。
【符号の説明】
【0036】
1 サーキュラースプライン
2 フレックススプライン
3 ウェーブジェネレータ
4 グリース循環リング
5 モータスペーサ
6 モータ
7 ケーシング
8 グリース
9 リング固定部品
10 波動歯車装置
21 ダイヤフラム
22 出力軸
41 円筒部
43 固定部
44 支持部
50 駆動装置
51 貫通穴
52 第1グリース溜まり
53 第2グリース溜まり
54 第2の壁
55 第1の壁
61 モータ軸
62 オイルシール
91 止めネジ
92 ネジ穴
93 固定ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
リング状のサーキュラースプラインと、該サーキュラースプラインの内側に配置される薄肉カップ状のフレックススプラインと、該フレックススプラインと当接するように該フレックススプラインの内側に配置され、該フレックススプラインを楕円形に撓めて前記サーキュラースプラインと前記フレックススプラインとを部分的に噛み合わせる楕円カム状であり、前記モータのモータ軸に固定されるウェーブジェネレータとで構成され、前記サーキュラースプラインと前記フレックススプラインとの噛み合い部分及び前記ウェーブジェネレータと前記フレックススプラインとの当接部分がグリースで潤滑される波動歯車装置と、
前記モータ軸を取り囲む溝状であり前記波動歯車装置から流下した前記グリースを貯留する第1グリース溜まりと、該第1グリース溜まりを取り囲む溝状であり該第1グリース溜まりから溢れた前記グリースを貯留する第2グリース溜まりとを有し、前記モータ軸を上に向けた前記モータを前記波動歯車装置の下に位置決めするモータスペーサと、
下方が窄まった円筒部を有し、該円筒部の下端が前記第1グリース溜まりに挿入された状態で前記ウェーブジェネレータと前記モータスペーサとの間で前記モータ軸に固定されるグリース循環リングとを備え、
前記モータ軸とともに回転する前記グリース循環リングが、前記第1グリース溜まりに貯留された前記グリースを前記円筒部に沿って上昇させて、前記噛み合い部分及び前記当接部分に供給することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記モータスペーサは、前記モータ軸が貫通する穴と前記第1グリース溜まりとを隔てる第1の壁と、前記第1グリース溜まりと前記第2グリース溜まりとを隔てる第2の壁とを有し、該第2の壁は前記第1の壁よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記円筒部の上端での径は、前記ウェーブジェネレータの長軸寸法よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記ウェーブジェネレータの下側で前記モータ軸に固定されるリング固定部品をさらに備え、
前記グリース循環リングは、前記リング固定部品を介して前記モータ軸に固定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−92217(P2013−92217A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235310(P2011−235310)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】