説明

駆動軸の支持構造

【課題】駆動軸の支持構造において、ギアノイズの悪化やギアの耐久性の低下を招くことなく引き摺りの低下を達成すること。
【解決手段】原動機の駆動力によって回転するピニオンシャフト3、ピニオンシャフト3と直角に配置され、後輪車軸4,5を介して駆動力を後輪に伝達するデファレンシャルケース6、ピニオンシャフト3とデファレンシャルケース6とを連結して駆動力の方向を直角に変換する直交ギア組7、デファレンシャルケース6を収容するデファレンシャルキャリヤ8、デファレンシャルケース6をデファレンシャルキャリヤ8に支えるテーパ軸受9,10、およびピニオンシャフト3をデファレンシャルキャリヤ8に支える玉軸受11,12を備え、ピニオンシャフト2に駆動力が伝えられた場合において、直交ギア組7に互いに押し付け合う力が発生するように、テーパ軸受9,10のテーパ角を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、車両の駆動系に用いられる駆動軸の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(1)原動機の駆動力によって回転するドライブピニオンシャフトと、(2)ドライブピニオンシャフトと直角に配置され、車軸を介して駆動力を車輪に伝達するデファレンシャルケースと、(3)ドライブピニオンシャフトとデファレンシャルケースとを連結して駆動力の方向を直角に変換する直交ギア組と、(4)デファレンシャルケースを収容するデファレンシャルキャリヤと、(5)デファレンシャルケースをデファレンシャルキャリヤに支える軸受と、(6)デファレンシャルキャリヤに固定され、車軸を収容するバンジョーチューブと、(7)バンジョーチューブを介して、デフキャリヤと軸受との間の軸方向位置を調整し、軸受の予圧調整および直交ギア組のバックラッシュ調整を行なうシムとを備えた、駆動軸の支持構造が開示されている。
【特許文献1】特開2005−225255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載の駆動軸の支持構造は、デファレンシャル周辺の構成において、ピニオンシャフトおよびデファレンシャルサイドをテーパ軸受で支持しているため、引き摺りが大きく、駆動系の伝達効率を下げてしまう。
【0004】
これに関して、引き摺りの小さい玉軸受を採用した場合、ピニオンシャフトの支持剛性が低いため、直交ギア組の歯当たり、すなわちハイポイドギア間の歯当たりが悪化し、ギアノイズの悪化やギアの耐久性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記技術的課題に鑑みなされたもので、ギアノイズの悪化やギアの耐久性の低下を招くことなく引き摺りの低下を達成し得る駆動軸の支持構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明にかかる駆動軸の支持構造は、動力源の駆動力によって回転する駆動力伝達軸と、前記駆動力伝達軸と直角に配置され、車軸を介して駆動力を車輪に伝達する回転体と、前記駆動力伝達軸と前記回転体とを連結し、駆動力の方向を直角に変換する直交ギア組と、前記回転体を収容する収容部材と、前記回転体を前記収容部材に支えるテーパ軸受である回転体支持軸受と、前記駆動力伝達軸を前記収容部材に支える玉軸受である駆動力伝達軸支持軸受とを備え、前記駆動力伝達軸に駆動力が伝えられた場合において、前記直交ギア組に互いに押し付け合う力が発生するように、前記回転体支持軸受のテーパ角が与えられている。
【0007】
具体的には、上記駆動軸の支持構造において、前記回転体支持軸受のテーパ角は、軸受ラジアル荷重とスラスト係数との積で決まる軸受の誘起スラスト荷重がギア噛み合いのスラスト荷重より大きくなる角度に設定されている。
【0008】
上記構成によれば、直交ギア組に押し付け力が発生するよう、回転体支持軸受のテーパ角が与えられているため、駆動伝達軸の支持に支持剛性の低い玉軸受を用いても直交ギア組の歯当たりが悪化しない。これにより、ギアノイズの悪化やギアの耐久性の低下を招くことなく引き摺りの低下を達成することができる。
【0009】
なお、「テーパ軸受」とは、通称であり、JIS規格では「円錐ころ軸受」と称されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ギアノイズの悪化やギアの耐久性の低下を招くことなく引き摺りの低下を達成できる駆動軸の支持構造の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
<第1の実施の形態>
図1は本発明の第1の実施の形態にかかる駆動軸の支持構造の構成を示す断面図である。
【0013】
図1を参照して、本実施の形態にかかる駆動軸の支持構造1は、フロントエンジン・リヤドライブ車(FR車)のリヤデファレンシャル2に用いられている。
【0014】
上記駆動軸の支持構造1は、(1)エンジンなどの原動機の駆動力によって回転するドライブピニオンシャフト3と、(2)ドライブピニオンシャフト3と直角に配置され、後輪車軸4,5を介して駆動力を後輪に伝達するデファレンシャルケース6と、(3)ドライブピニオンシャフト3とデファレンシャルケース6とを連結して駆動力の方向を直角に変換する直交ギア組7と、(4)デファレンシャルケース6を収容するデファレンシャルキャリヤ8と、(5)デファレンシャルケース6をデファレンシャルキャリヤ8に支えるテーパ軸受9,10と、(6)ドライブピニオンシャフト3をデファレンシャルキャリヤ8に支える玉軸受11,12とを備えている。
【0015】
上記リヤデファレンシャル2は、上記の駆動軸の支持構造1を構成する、ドライブピニオンシャフト3、デファレンシャルケース6、直交ギア組7、デファレンシャルキャリヤ8、テーパ軸受9,10およびテーパ軸受11,12に加えて、フランジ13および差動機構14を含み、原動機の駆動力を左右の後輪に配分するように構成されている。
【0016】
ドライブピニオンシャフト3は、車両の前後方向に沿って配置されている。このドライビングシャフト11は、その軸方向に離れた2箇所がそれぞれ上記の玉軸受11,12を介してデファレンシャルキャリヤ8の所要位置に回転自在に支持されている。
【0017】
直交ギア組7は、ドライブピニオンシャフト3の回転を直角に変換してデファレンシャルケース6に伝達するためのものであって、互いに噛み合った一対のハイポイドギア15,16によって構成されている。第1のピニオンギアである一方のハイポイドギア15は、ドライブピニオンシャフト3の後端に一体形成され、リングギアである他方のハイポイドギア16は、ボルト17によってデファレンシャルケース6に固定されている。
【0018】
デファレンシャルケース6は、左端を上記のテーパ軸受9によってデファレンシャルキャリヤ8に回転自在に支持され、右端を上記のテーパ軸受10によってデファレンシャルキャリヤ8に回転自在に支持されている。
【0019】
フランジ13は、継手を介してプロペラシャフトに連結され、ナット18によりドライブピニオンシャフト3の前端に固定されている。
【0020】
差動機構14は、ベベルギア式のものであって、ピニオンシャフト19と、ピニオンシャフト19上に支えられた第2のピニオンギア20と、第2のピニオンギア20と噛み合った左右の出力側サイドギア21,22とから構成されている。
【0021】
ピニオンシャフト19は、デファレンシャルケース6に連結されている。
【0022】
サイドギア21,22は、左右の後輪車軸4,5にそれぞれスプライン嵌合により連結されており、後輪車軸4,5は、それぞれのフランジ部から継手を介して左右の後輪側に連結されている。
【0023】
ところで、上記のテーパ軸受9,10は、ドライビングピニオンシャフト3に駆動力が伝えられた場合において、上記の直交ギア組7に互いに押し付け合う力が発生するように、そのテーパ角α(図2参照)が与えられている。
【0024】
具体的には、これらテーパ軸受9,10のテーパ角αは、軸受ラジアル荷重Frとスラスト係数(テーパ角の関数)との積で決まるデファレンシャルサイド軸受の誘起スラスト荷重Faがギア噛み合いのスラスト荷重Fgearより大きくなる角度に設定されている。
【0025】
たとえば、前後に配置された玉軸受11,12間の距離M1を74.5mm、後側の玉軸受12から直交ギア組7の歯当たりの中央までの距離L1を29.0mm、左側のテーパ軸受9から直交ギア組7の歯当たりの中央までの距離P1を53.6mm、右側のテーパ軸受10から直交ギア組7の歯当たり中央までの距離Q1を99.3mmに設定した場合、上記テーパ角αは約20度とされる。このときのハイポイドギア側のピニオンギア15の諸元は、ねじれ角が44.3度、前進時圧力角が18.3度、後進時圧力角が24.2度である。
【0026】
ちなみに、上記デファレンシャルサイド軸受の誘起スラスト荷重Faは、下記の式によって求められる。
【0027】
Fa=0.5×Fr/Y(ただし、Y=0.4/tanα(テーパ角))
上記構成において、原動機の駆動力は、トランスミッションからプロペラシャフト、ドライブピニオンシャフト3および直交ギア組7などを介して差動機構14に伝達され、後輪車軸4,5を介して左右の後輪に配分される。
【0028】
このようにしてドライビングピニオンシャフト3に駆動力が伝えられた場合において、直交ギア組7に互いに押し付け合う力が発生するように、テーパ軸受9,10のテーパ角αが与えられているので、ドライビングピニオンシャフト3の支持に支持剛性の低い玉軸受11,12を用いても直交ギア組7(ハイポイドギア15,16間)の歯当たりが悪化しない。これにより、ギアノイズの悪化やギアの耐久性の低下を招くことなく引き摺りの低下を達成することができる。
【0029】
<第2の実施の形態>
図3は本発明の第2の実施の形態にかかる駆動軸の支持構造の構成を示す断面図である。
【0030】
図3を参照して、本実施の形態にかかる駆動軸の支持構造1は、四輪駆動車(4WD車)のトランスファ100に用いられている。なお、図3においては、右前輪の車軸用のトランスファが示されている。
【0031】
上記トランスファ100は、トランスアクスルTのトランスアクスルケースTCの組合せ面101に密着される組合せ面102が形成されたトランスファケース105を備えている。
【0032】
トランスファケース105は、トランスアクスルTの車両の右側に接続されるとともに、車両の後側に車両の前後方向に延びる貫通孔を有する長手のエクステンションハウジング103が取り付けられている。このトランスファケース105には、車両の前側へ開く開口部104が形成されている。
【0033】
トランスファケース105の開口部104の周囲に形成された組合せ面には、トランスファーカバー106が密着されており、それによって上記開口部104が塞がれている。
【0034】
さらに、上記トランスファケース105には、第1のギア部材111および第2のギア部材116が備えられている。
【0035】
第1のギア部材111は、リングギアマウントケース109と、このリングギアマウントケース109の軸方向の中間部外周にボルトにより固定された一方のハイポイドギアであるリングギア110とを含む。
【0036】
リングギアマウントケース109は、円筒状の部材であって、その両端部において左右に間隔を隔てたテーパ軸受107,108を介してトランスファケース105に回転可能に支持されている。
【0037】
第2のギア部材116は、車両の前側の一方の端部にリングギア110と噛み合わされる他方のハイポイドギアであるピニオンギア112が形成されるとともに、車両の後側のピニオンシャフト113が連結部114を車両の後側に備えており、プロペラシャフトと連結される継手部材115に対してスプライン嵌合されている。さらに、この第2のギア部材116は、車両の前側、すなわちリングギア110側の端部の2箇所において前後に間隔を隔てた玉軸受117,118を介して回転可能に支持されることによりトランスファケース105内に装着されるとともに、ピニオンシャフト113が継手部材115および滑り軸受119を介してエクステンションハウジング103に支持されている。
【0038】
ピニオンシャフト111に対しては、リングギアマウントケース105が直角に配置されている。これにより、ピニオンシャフト111の駆動力が車軸120を介して右前輪に伝達される。
【0039】
右前輪の車軸120は、その右前輪側の端部が玉軸受121を介してトランスファケース105に回転可能な状態で支持されるとともに、トランスアクスルT側の端部がトランスアクスルTに内蔵されたフロントデファレンシャルのデフケースの車両の右側に一体的に設けられた円筒状部材122の内周面に相対回転可能に支持されている。なお、上記車軸120の端部を支持する玉軸受121や上記リングギアマウントケース109の一方の端部を支持するテーパ軸受107は、トランスアクスルTの先端部の内部に設けられている。
【0040】
リングギアマウントケース109の他方の端部は、上記のテーパ軸受108が嵌め着けられている位置よりも先端側の外周面において、円筒状部材122の先端部の内周面とスプライン嵌合されている。このスプライン嵌合により、横置きエンジンの出力がフロントデファレンシャルのデフケース、第1および第2のギア部材111,116、継手部材115、プロペラシャフト、前輪と後輪との回転数の違いを許容する差動装置としてのビスカスカップリング、およびリヤデファレンシャルなどを介して後輪にも伝達される。
【0041】
本トランスファ100にあっては、上述したように、リングギアマウントケース109がピニオンシャフト113と直角に配置され、車軸120を介して駆動力を右前輪に伝達するが、ピニオンシャフト113とリングギアマウントケース109とを連結し、駆動力の方向を直角に変換する直交ギア組は、ともにハイポイドギアである上記リングギア110およびピニオンギア112から構成される。したがって、以下の説明においてリングギア110およびピニオンギア112を総称するときは「直交ギア組110,112」と称する。
【0042】
ところで、上記のテーパ軸受107,108は、ピニオンシャフト113に駆動力が伝えられた場合において、上記の直交ギア組110,112に互いに押し付け合う力が発生するように、そのテーパ角αが与えられている。
【0043】
具体的には、これらテーパ軸受107,108のテーパ角αは、軸受ラジアル荷重とスラスト係数(テーパ角の関数)との積で決まるギアマウントサイド軸受の誘起スラスト荷重がギア噛み合いのスラスト荷重より大きくなる角度に設定されている。
【0044】
たとえば、前後に配置された玉軸受117,118間の距離M2を63.4mm、前側の玉軸受117から直交ギア組110,112の歯当たりの中央までの距離L2を23.7mm、左側のテーパ軸受108から直交ギア組110,112の歯当たりの中央までの距離P2を63.1mm、右側のテーパ軸受107から直交ギア組110,112の歯当たり中央までの距離Q2を77.4mmに設定した場合、上記テーパ角αは約40度とされる。このときのピニオンギア112の諸元は、ねじれ角が55.4度、前進時圧力角が14.0度、後進時圧力角が24.0度である。
【0045】
上記構成において、ピニオンシャフト113に駆動力が伝えらたときに直交ギア組110,112に押し付け力が発生するよう、テーパ軸受107,108のテーパ角αが与えられているため、ピニオンシャフト113の支持に支持剛性の低い玉軸受117,118を用いても直交ギア組110,12の歯当たりが悪化せず、ギアノイズの悪化やギアの耐久性の低下を招くことなく引き摺りの低下を達成できる。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0047】
上記第1の実施の形態においては、本発明の駆動軸の支持構造をリヤデファレンシャルに適用して例について記載した。しかし、本発明はそのような構成には限定されない。たとえば、本発明の駆動軸の支持構造をフロントデファレンシャルに適用しても、本発明の目的は十分に達成される。
【0048】
その他、本明細書に添付の特許請求の範囲内での種々の設計変更および修正を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかる駆動軸の支持構造の構成を示す断面図である。
【図2】テーパ軸受のテーパ角を図解的に示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態にかかる駆動軸の支持構造の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 駆動軸の支持構造
2 リヤデファレンシャル
3 ドライブピニオンシャフト
4,5 車軸
6 デファレンシャルケース
7 直交ギア組
8 デファレンシャルキャリヤ
9,10 テーパ軸受
11,12 玉軸受
100 トランスファ
105 トランスファケース
107,108 テーパ軸受
110,112 直交ギア組(110 リングギア、112 ピニオンギア)
117,118 玉軸受
113 ピニオンシャフト
120 車軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の駆動力によって回転する駆動力伝達軸と、
前記駆動力伝達軸と直角に配置され、車軸を介して駆動力を車輪に伝達する回転体と、
前記駆動力伝達軸と前記回転体とを連結し、駆動力の方向を直角に変換する直交ギア組と、
前記回転体を収容する収容部材と、
前記回転体を前記収容部材に支えるテーパ軸受である回転体支持軸受と、
前記駆動力伝達軸を前記収容部材に支える玉軸受である駆動力伝達軸支持軸受とを備え、
前記駆動力伝達軸に駆動力が伝えられた場合において、前記直交ギア組に互いに押し付け合う力が発生するように、前記回転体支持軸受のテーパ角が与えられていることを特徴とする駆動軸の支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動軸の支持構造において、
前記回転体支持軸受のテーパ角は、軸受ラジアル荷重とスラスト係数との積で決まる軸受の誘起スラスト荷重がギア噛み合いのスラスト荷重より大きくなる角度に設定されていることを特徴とする駆動軸の支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65811(P2010−65811A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235033(P2008−235033)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】