説明

骨細胞増殖作用を有するトリペプチド及びその製造方法

【課題】 副作用が弱く、骨細胞増殖作用を有するトリペプチド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 骨細胞増殖作用を有するトリペプチドとは、Lys−Glu−Ileの構造を持つ骨細胞増殖作用を有するトリペプチドであり、いずれもL型アミノ酸であり、ペプチド結合により結合している。また、その製造方法とはマダラ科、タラ科、ニシン科の魚より得られる卵膜にプロテアーゼを添加し、加温する工程からなるものである。前記のプロテアーゼの添加量は、卵膜1重量に対して、0.03〜0.5倍量が好ましく、処理温度は、20〜40℃が好ましい。さらに、得られる骨細胞増殖作用を有するトリペプチドLys−Glu−Ileは食品製剤、化粧品製剤及び医薬品製剤の有効成分として利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、骨細胞増殖作用を有するトリペプチド及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本では骨粗鬆症や関節炎の患者は増加の一途をたどり、労働人口の低下と医療費増加などに関係して社会問題となっている。骨粗鬆症の原因は、性ホルモン不足による骨組織の破壊、筋肉の委縮、関節の脆弱化などが考えられる。
【0003】
また、関節炎の原因の一つは、骨組織の破壊であり、骨細胞の増殖抑制と変性に起因している。
【0004】
骨粗鬆症を治療する目的で、様々な治療方法が開発されている。薬物療法としては、エストロゲン製剤などのホルモン治療、カルシウム製剤の摂取や外科的療法が実施されている。しかし、完全な治療方法の確立には至っていない。
【0005】
たとえば、エストロゲン製剤などのホルモン治療の場合、エストロゲンには乳腺の増殖作用が認められるため、乳癌を発症する危険性がある。
【0006】
さらに、カルシウム製剤の場合には、腎臓に対する負担が大きく、長期間の使用には至っていない。
【0007】
骨細胞増殖作用を有する天然物由来の発明の例は少なく、コラーゲン産生促進剤、それを含む化粧品、食品および医薬品ならびに皮膚疾患の予防または改善用外用剤の例がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
また、コラーゲン産生促進剤、それを含む機能性食品および医薬品の発明があるが、その効果は限定的である(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
そこで、今回、骨粗鬆症の改善を目的として天然物由来のトリペプチドとその製造方法について説明する。
【特許文献1】特開2003−137807
【特許文献2】特開2002−255847
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記したように骨粗鬆症に対するエストロゲン製剤には副作用の危険性があり、また、カルシウム製剤でも腎臓に対する副作用という問題点が考えられる。
【0011】
この発明は上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、副作用が弱く、優れた骨細胞増殖作用を示すトリペプチドを提供することにある。
【0012】
また、骨細胞増殖作用を示すトリペプチドの効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、Lys−Glu−Ileの構造を持つ骨細胞増殖作用を有するトリペプチドに関するものである。
【0014】
請求項2に記載の発明は、マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜にプロテアーゼを添加し、加温する工程よりなる骨細胞増殖作用を有するトリペプチドの効率的な製造方法に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
まず、本実施形態の骨細胞増殖作用を有するトリペプチドは、Lys−Glu−Ileの構造を持つものである。
【0017】
Lysは、L型リジンである。Gluは、L型グルタミン酸である。IleはL型イソロイシンである。これらのアミノ酸はペプチド結合により結合している。
【0018】
ここでいう骨細胞増殖作用とは、骨細胞の増殖を活性化する作用のことであり、骨粗鬆症や関節炎の際には、骨組織を修復させる働きがある。
【0019】
このLys−Glu−Ileからなるトリペプチドは骨細胞のベータ型エストロジェン受容体とbFGF(塩基性成長因子)の両方の受容体に作用することから、いろいろなタイプの骨粗鬆症や関節炎に対して効果的である。
【0020】
すなわち、更年期障害型の骨粗鬆症では、エストロジェンなどの性ホルモンが減少しており、このトリペプチドはベータ型エストロジェン受容体を活性化して骨細胞を増殖させる。
【0021】
老人性骨粗鬆症や炎症性関節炎では、bFGFが低下し、骨細胞が減少していることから、このトリペプチドはbFGF受容体を活性化して骨細胞を増殖させる。
【0022】
このトリペプチドはエストロジェンのベータ型受容体に働くことから、安全性も高い。すなわち、乳癌や子宮癌はアルファ型エストロジェン受容体に作用して発症することから、このトリペプチドはアルファ型エストロジェン受容体に作用せず、乳癌や子宮癌を発症させる危険性は少ない。
【0023】
このトリペプチドは化学的または生化学的に合成することにより、製造できる。また、大豆、牛乳、卵などのペプチドからプロテアーゼで分解して生成することができる。
【0024】
このトリペプチドは、骨粗鬆症、関節炎、低成長症など骨の異常に対して治療的に利用される。
【0025】
医薬品として経口剤又は非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、歯磨き粉等に配合されて利用される。
【0026】
経口剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。
【0027】
前記の錠剤は、シェラック又は砂糖で被覆することもできる。また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の液体担体を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を含有させることができる。
【0028】
次に、マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜にプロテアーゼを添加し、加温する工程からなる骨細胞増殖作用を有するトリペプチドの製造方法について説明する。
【0029】
骨細胞増殖作用を有するトリペプチドとは、Lys−Glu−Ileの構造を有するものである。
【0030】
原料は、マダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜である。原料の産地は、いずれの国でも、良い。新鮮であることから、日本近郊で採取されることが好ましい。
【0031】
マダラ科の魚として、マダラ学名Godus macrocephalusは、漁獲量が豊富であり、卵としてマダラコを採取し、食用として摂取しており、マダラコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0032】
タラ科の魚として、スケトウダラ、コマイ、タラが用いられる。このうち、スケトウダラ学名Theragra chalcogrammaは、漁獲量が豊富であり、卵としてタラコを採取し、食用として摂取しており、タラコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0033】
ニシン科の魚には、ニシン学名Clupea pallasiiが用いられ、漁獲量が豊富であり、卵としてカズノコを採取し、食用として摂取しており、カズノコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0034】
捕獲された魚は凍結保存又は低温保存された後に、解凍して解体された卵膜も用いることができる。
【0035】
卵膜は、血液や付着物を除去され、清浄な水又は海水で洗浄される。洗浄が不足の場合、次のプロテアーゼによる分解工程の効率が低下するおそれがある。
【0036】
卵膜は、採取されてから、凍結又は低温で保存されるのが好ましい。大量に収穫される場合、凍結保存が好ましい。
【0037】
製造工程の効率が良いことから、卵膜を粉砕機などで粉砕されることは好ましく、粉砕物の大きさは、10〜10000μmが好ましい。
【0038】
プロテアーゼは、中性、酸性、塩基性プロテアーゼのいずれでも用いられ、酸性、塩基性プロテアーゼに比して中和工程の手間を省くため、中性プロテアーゼが好ましい。
【0039】
前記の中性プロテアーゼとしては、熱に対する安定性の点から、プロテアーゼA、プロテアーゼN、プロテアーゼM、スミチームFP、スミチームLP、デナチームAPが好ましく、特に、処理能力が高い点から、天野エンザイム製プロテアーゼN、スミチームLPがより好ましい。これらのプロテアーゼは、組み合わせて用いることもできる。
【0040】
前記のプロテアーゼの添加量は、卵膜1重量に対して、0.03〜0.5倍量が好ましく、0.05〜0.4倍量がより好ましく、0.08〜0.3倍量がさらに好ましい。
【0041】
前記のプロテアーゼの添加量が0.03倍量を下回る場合、プロテアーゼ処理が十分に行われない場合があり、0.5倍量を上回る場合、プロテアーゼが高価であるため、経済的に価格が高くなるおそれがある。
【0042】
前記のプロテアーゼは、添加され、加温される。その加温温度は、21〜48℃が好ましい。この処理温度が21℃を下回る場合、プロテアーゼによる処理が進行しないおそれがある。
【0043】
また、この加温温度が48℃を上回る場合、卵膜由来のペプチドやタンパク質が変質し、ペプチドとしての働きが低下するおそれがある。
【0044】
前記のプロテアーゼ処理は、処理の効率的な実施のため、攪拌状態で行われる。攪拌速度は、10〜100回/分が好ましく、30〜80回/分がより好ましく、30〜70回/分がさらに好ましい。
【0045】
前記のプロテアーゼで加温処理された後、ろ過される。ろ過は、ろ紙によるろ過が用いられ、時間が短縮できる点から吸引ろ過が好ましい。
【0046】
ろ過された液は、80〜95℃で、5〜20分間煮沸された後、冷却されることが好ましい。この煮沸の温度が80℃を下回る場合、プロテアーゼの不活性化が実施されないおそれがある。また、95℃を上回る場合、得られるトリペプチドの活性が低下するおそれがある。
【0047】
前記の煮沸時間が5分間を下回る場合、プロテアーゼの不活性化が実施されないおそれがある。また、20分間を上回る場合、得られるトリペプチドの活性が低下するおそれがある。
【0048】
前記の加熱された液は、1〜15℃に保存される。この工程は、プロテアーゼを不活性化し、消毒し、かつ、不安定な生成物を除外する目的がある。つまり、分解されない物質や不安定な物質が低温に放置された場合、析出する場合がある。これらの不溶物を除外する。
【0049】
前記の温度での放置時間は、1〜18時間が好ましく、2〜10時間がより好ましく、3〜8時間がさらに好ましい。
【0050】
前記のように、放置された後、ろ過される。ろ過は、ろ紙によるろ過が用いられ、時間が短縮できる点から吸引ろ過が好ましい。
【0051】
前記のろ過により得られたろ過液は、液体のまま、濃縮液、凍結乾燥された状態でトリペプチドを得る。得られたトリペプチドは、種々のペプチドの混合物である。その容量を少なし、安定性を持続する点から、凍結乾燥が好ましい。
【0052】
さらに、凍結又は低温で保管されることは、安定性を維持する点から好ましい。このようにしてトリペプチドLys−Glu−Ileを含有する抽出物が得られる。
【0053】
さらに、トリペプチドLys−Glu−Ileを分離し、精製することにより、高い純度のトリペプチドLys−Glu−Ileを得ることから好ましい。上記のトリペプチドを抽出用溶媒に混合し、抽出用溶媒に抽出された抽出物を分離用担体又は樹脂に供し、分離用溶媒により溶出させる。
【0054】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0055】
日本海で収穫されたマダラを収穫後、解体し、卵膜がついたまま、タラコを採取した。このタラコより卵膜を摘出し、この卵膜を水道水にて洗浄した。この水洗された卵膜をミキサー(高速粉砕機、日本リーイング製)にて粉砕した。
【0056】
この粉砕物1kgに水道水5kgを添加し、さらに、プロテアーゼN(天野エンザイム製)45gを添加した。この混合物を38℃で2時間加温し、平均50回/分の速度で攪拌した。得られた溶液をろ紙(東洋濾紙社製、No2)でろ過し、得られたろ液を得た。
【0057】
このろ過液を92℃で、10分間煮沸し冷却した。この冷却された液を再度、前記のろ紙で濾過し、ろ液を凍結乾燥機(東洋理工製)にて凍結乾燥し、粉末34gを得た。
【0058】
前記の粉末より、骨細胞増殖作用を有するトリペプチドを分離し、精製した。すなわち、前記の抽出物をDEAEセルロース(和光純薬)充填カラム(3.5cm径、50cm長)を配備した装置に供し、水で洗浄後、1M塩化ナトリウム水溶液を流して分離した。さらに、この画分をセファロースに供し、水を流し、凍結乾燥して目的とする画分1.3gを得た。これを検体1とした。
【0059】
得られた画分について高速液体クロマトグラフィ(HPLC)に供し目的とするトリペプチドを分析した。なお、骨細胞増殖作用を有する分画の検出には、以下に記載したマウス骨細胞の増殖性を指標とした。
【0060】
以下に、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)及び核磁気共鳴装置(NMR)による骨細胞増殖作用を有するトリペプチドの分析について説明する。
(試験例1)
【0061】
本試験では、骨細胞増殖作用を有するトリペプチドを解析した。すなわち、前記の実施例1で得られた検体1及びタカラバイオにより化学合成したトリペプチドLys−Glu−Ileについてフォトダイオードアレイ(島津製作所製)を装着したHPLCに供して解析を行った。
【0062】
その結果、検体1には分子量200〜500の分画に、骨細胞増殖作用のあるトリペプチドLys−Glu−Ileが存在することが判明した。それは、化学合成されたトリペプチドLys−Glu−Ileの分析結果と同一であった。
【0063】
また、検体1をCAPCELLPACKC18カラムによるHPLCを実施した。さらに、NMR(バリアン製)による解析の結果、Lys−Glu−Ileが同定された。
【0064】
以下に、マウス由来骨細胞を用いた骨細胞増殖作用の検出について説明する。
(試験例2)
【0065】
妊娠17日の妊娠マウスを安楽致死させ、子宮を摘出した。これより胎児を採取し、コラゲナーゼ処理により骨組織を分離した。
【0066】
前記の骨細胞10000個を35mm径のシャーレに播種し、37℃、5%炭酸ガス下で、培養液(10%ウシ胎児血清含有MEM培地)を用いて培養した。2日間培養後、エストロジェンを含有しない条件下で、前記の実施例1で得られた検体1の水溶液を0.1mg/mLの最終濃度で添加し、培養して添加48時間後の細胞数を計数した。
【0067】
その結果、検体1を添加した場合、その増殖率は、溶媒を添加した対照群に比して192%となり、骨細胞は増殖を示した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の骨細胞増殖作用を示すトリペプチド及びその製造方法は、骨粗鬆症、関節炎、骨障害などの骨疾患に悩む患者のQOLを改善する。かつ、医療分野、食品業界及び医薬品業界に貢献する。
【0069】
タラなどの魚の卵膜は産業廃棄物として廃棄されており、環境を汚染する危険性がある。この廃棄物を有効に利用することにより、環境の改善に寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lys−Glu−Ileの構造を持つ骨細胞増殖作用を有するトリペプチド
【請求項2】
マダラ科、タラ科、ニシン科の魚より得られる卵膜にプロテアーゼを添加し、加温する工程からなる請求項1に記載の骨細胞増殖作用を有するトリペプチドの製造方法

【公開番号】特開2010−195720(P2010−195720A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43315(P2009−43315)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(504447198)
【Fターム(参考)】