説明

高エネルギー電子発生方法及びそれを用いた高エネルギー電子発生装置並びに高エネルギーX線発生方法及びそれを用いた高エネルギーX線発生装置

【課題】高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させることができる高エネルギー電子発生方法及びその方法を用いた高エネルギー電子発生装置並びに高いエネルギーを有する高エネルギーX線を発生させることができる高エネルギーX線発生方法及びその方法を用いた高エネルギーX線発生装置を提供する。
【解決手段】パルス状のレーザー光線を固体試料60に入射させて高エネルギー電子を発生させる高エネルギー電子発生方法において、パルス状のレーザー光線を固体試料60に入射させる前に、固体試料60の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成する工程と、プラズマにパルス状のレーザー光線を入射させる工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス状のレーザー光線を利用した高エネルギー電子発生方法及びそれを用いた高エネルギー電子発生装置並びにパルス状のレーザー光線を利用した高エネルギーX線発生方法及びそれを用いた高エネルギーX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、超短パルス高強度レーザーのレーザー光線を金属箔やプラスチックフィルム等の固体試料の表面に瞬間的に集光することで高エネルギー粒子を容易に生成できることが知られており、それによって得られた高エネルギー粒子を利用した材料劣化診断、レーザー核融合、癌治療などへの応用が期待されている。しかし、これらへの応用を考慮すると、レーザー装置自体を小型化することができる低エネルギーレーザー光線などを用いて、効率よく高エネルギー粒子が得られるようにする必要がある。
【0003】
低エネルギーレーザー光線から高エネルギー粒子を発生させる方法として、例えばパルス状のレーザー光線のエネルギー密度(集光強度)を高くすることによって高エネルギー粒子を発生させる高エネルギー電子発生方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このような高エネルギー粒子発生方法を用いるためにはパルスレーザー光線が必要となる。そして、パルスレーザー光線を発振させる際には、パルスレーザー発振器の機構上、メインパルスレーザー光線が発振される前にプリパルスレーザー光線が発振される。このように発振されたプリパルスレーザー光線は、メインパルスレーザー光線が固体試料に入射する前に固体試料に入射することになるので、メインパルスレーザー光線が入射する前に固体試料の表面状態を変化させてしまうという問題があった。
【0005】
そこで、従来はプリパルスレーザー光線の強度がなるべく小さくなるようにパルスレーザー発振器を調節することにより、メインパルスレーザー光線が入射する前に固体試料の表面状態を変化させないようにしていた(例えば非特許文献1及び2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−191124号公報
【非特許文献1】A.J.Mackinnon,Y.Sentoku et al.,”Enhancement of proton Accelaration by Hot−Electron Recirculation in Thin Foils Irradiated by Ultraintense Laser Pulses”,Phys.Rev.Lett.88,215006(2002)
【非特許文献2】P.McKenna,K.W.D.Ledingham et al.,”Characterization of multiterawatt laser−solid interactions for proton acceleration”,Rev.Sci.73,4176(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑み、高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させることができる高エネルギー電子発生方法及びそれを用いた高エネルギー電子発生装置、並びに高いエネルギーを有する高エネルギーX線を発生させることができる高エネルギーX線発生方法及びそれを用いた高エネルギーX線発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した従来の概念にとらわれることなく、プリパルスレーザー光線を固体試料に入射させて高エネルギー電子を発生させたところ、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができることを見出し、本発明に至った。
【0009】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、パルス状のレーザー光線を固体試料に入射させて高エネルギー電子を発生させる高エネルギー電子発生方法において、前記パルス状のレーザー光線を前記固体試料に入射させる前に、前記固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成する工程と、前記プラズマに前記パルス状のレーザー光線を入射させる工程とを具備することを特徴とする高エネルギー電子発生方法にある。
【0010】
かかる第1の態様では、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の高エネルギー電子発生方法において、前記臨界プラズマ密度以下のプラズマは、前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射する前に前記固体試料に入射するパルス状のプリレーザー光線により生成されることを特徴とする高エネルギー電子発生方法にある。ここで、パルス状のプリレーザー光線とは、パルス状のレーザー光線の一種であり、パルス状のプリレーザー光線が固体試料に入射する前に固体試料に入射し、かつパルス状のレーザー光線の強度よりも小さい強度を有するものである。
【0012】
かかる第2の態様では、容易に高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させることができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の高エネルギー電子発生方法において、前記パルス状のプリレーザー光線は複数のパルス状のレーザー光線からなることを特徴とする高エネルギー電子発生方法にある。
【0014】
かかる第3の態様では、より多くの高エネルギー電子を発生させることができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、第2又は3の態様に記載の高エネルギー電子発生方法において、前記パルス状のプリレーザー光線が前記固体試料に入射してから前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射するまでの時間が0.01〜100nsであることを特徴とする高エネルギー電子発生方法にある。
【0016】
かかる第4の態様では、より多くの高エネルギー電子を発生させることができる。
【0017】
本発明の第5の態様は、第2〜4の何れかの記載の高エネルギー電子発生方法において、前記パルス状のレーザー光線及び前記パルス状のプリレーザー光線が超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線であることを特徴とする高エネルギー電子発生方法にある。
【0018】
かかる第5の態様では、より高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させることができる。
【0019】
本発明の第6の態様は、パルス状のレーザー光線を固体試料に入射させて発生させた高エネルギー電子を、さらにX線変換材に入射させて高エネルギーX線を発生させる高エネルギーX線発生方法において、前記パルス状のレーザー光線を前記固体試料に入射させる前に、前記固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成する工程と、前記プラズマに前記パルス状のレーザー光線を入射させる工程とを具備することを特徴とする高エネルギーX線発生方法にある。
【0020】
かかる第6の態様では、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギーX線を多数発生させることができる。
【0021】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の高エネルギーX線発生方法において、前記臨界プラズマ密度以下のプラズマは、前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射する前に前記固体試料に入射するパルス状のプリレーザー光線により生成されることを特徴とする高エネルギーX線発生方法にある。
【0022】
かかる第7の態様では、容易に高いエネルギーを有する高エネルギーX線を発生させることができる。
【0023】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の高エネルギーX線発生方法において、前記パルス状のプリレーザー光線は複数のパルス状のレーザー光線からなることを特徴とする高エネルギーX線発生方法にある。
【0024】
かかる第8の態様では、より多くの高エネルギーX線を発生させることができる。
【0025】
本発明の第9の態様は、第7又は8に記載の高エネルギーX線発生方法において、前記パルス状のプリレーザー光線が前記固体試料に入射してから前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射するまでの時間が0.01〜100nsであることを特徴とする高エネルギーX線発生方法にある。
【0026】
かかる第9の態様では、より多くの高エネルギーX線を発生させることができる。
【0027】
本発明の第10の態様は、第7〜9の何れかに記載の高エネルギーX線発生方法において、前記パルス状のレーザー光線及び前記パルス状のプリレーザー光線が超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線であることを特徴とする高エネルギーX線発生方法にある。
【0028】
かかる第10の態様では、より高いエネルギーを有する高エネルギーX線を発生させることができる。
【0029】
本発明の第11の態様は、パルス状のレーザー光線により電離可能な固体試料が真空容器内に設けられた高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のレーザー光線を前記固体試料に入射させる前に前記固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成すると共に前記プラズマに前記パルス状のレーザー光線を入射させることを特徴とする高エネルギー電子発生装置にある。
【0030】
かかる第11の態様では、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができる。
【0031】
本発明の第12の態様は、第11の態様に記載の高エネルギー電子発生装置において、前記臨界プラズマ密度以下のプラズマは、前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射する前に前記固体試料に入射するパルス状のプリレーザー光線により生成されることを特徴とする高エネルギー電子発生装置にある。
【0032】
かかる第12の態様では、容易に高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させることができる。
【0033】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のプリレーザー光線は複数のパルス状のレーザー光線からなることを特徴とする高エネルギー電子発生装置にある。
【0034】
かかる第13の態様では、より多くの高エネルギー電子を発生させることができる。
【0035】
本発明の第14の態様は、第12の態様に記載の高エネルギー電子発生装置において、パルス状のソースレーザー光線を前記パルス状のレーザー光線と前記パルス状のプリレーザー光線とに分割する分割手段と、
前記パルス状のレーザー光線の行程を前記パルス状のプリレーザー光線の行程よりも長くするための行程差設定手段とを前記真空容器内にさらに設けたことを特徴とする高エネルギー電子発生装置にある。
【0036】
かかる第14の態様では、パルス状のプリレーザーを容易に制御できる高エネルギー電子発生装置を製造することができる。
【0037】
本発明の第15の態様は、第14の態様に記載の高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のレーザー光線及び前記パルス状のプリレーザー光線を前記固体試料に集光させる軸外し放物面鏡が前記真空容器内にさらに設けられ、前記分割手段は、前記パルス状のソースレーザー光線の一部を前記パルス状のプリレーザー光線として反射すると共に残りを前記パルス状のレーザー光線として透過する第1の透過鏡であり、前記行程差設定手段は、前記第1の透過鏡を透過した前記パルス状のレーザー光線を反射する第1の反射鏡と、前記第1の反射鏡により反射された前記パルス状のレーザー光線を反射する第2の反射鏡と、前記第1の透過鏡により反射された前記パルス状のプリレーザー光線を反射すると共に前記第2の反射鏡により反射された前記パルス状のレーザー光線を透過して前記軸外し放物面鏡に導く第2の透過鏡とからなることを特徴とする高エネルギー電子発生装置にある。
【0038】
かかる第15の態様では、容易に高エネルギー電子発生装置を製造することができる。
【0039】
本発明の第16の態様は、第12〜15の何れかに記載の高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のプリレーザー光線が前記固体試料に入射してから前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射するまでの時間が0.01〜100nsであることを特徴とする高エネルギー電子発生装置にある。
【0040】
かかる第16の態様では、より多くの高エネルギー電子を発生させることができる。
【0041】
本発明の第17の態様は、第12〜16の何れかに記載の高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のレーザー光線が超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線であることを特徴とする高エネルギー電子発生装置にある。
【0042】
かかる第17の態様では、より高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させることができる。
【0043】
本発明の第18の態様は、第11〜17の何れかに記載の高エネルギー電子発生装置において、前記固体試料が巻き取り可能なテープ状の形状を有し、前記真空容器内に前記固体試料を巻き取る試料巻き取り手段をさらに設けることを特徴とする高エネルギー電子発生装置にある。
【0044】
かかる第18の態様では、高エネルギー電子を発生させた後、固定試料を所定の距離だけ巻き取ることで固定試料の別の部分にパルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線を照射させることができるので、連続して高エネルギー電子を発生させることができる。
【0045】
本発明の第19の態様は、パルス状のレーザー光線により電離すると共に高エネルギー電子を発生させる固体試料と、前記高エネルギー電子により高エネルギーX線を発生させるX線変換材とが真空容器内に設けられた高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のレーザー光線を前記固体試料に入射させる前に前記固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成すると共に前記プラズマに前記パルス状のレーザー光線を入射させることを特徴とする高エネルギーX線発生装置にある。
【0046】
かかる第19の態様では、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギーX線を多数発生させることができる。
【0047】
本発明の第20の態様は、第19の態様に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記臨界プラズマ密度以下のプラズマは、前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射する前に前記固体試料に入射するパルス状のプリレーザー光線により生成されることを特徴とする高エネルギーX線発生装置にある。
【0048】
かかる第20の態様では、容易に高いエネルギーを有する高エネルギーX線を発生させることができる。
【0049】
本発明の第21の態様は、第20の態様に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記パルス状のプリレーザー光線は複数のパルス状のレーザー光線からなることを特徴とする高エネルギーX線発生装置にある。
【0050】
かかる第21の態様では、より多くの高エネルギーX線を発生させることができる。
【0051】
本発明の第22の態様は、第20の態様に記載の高エネルギーX線発生装置において、パルス状のソースレーザー光線を前記パルス状のレーザー光線と前記パルス状のプリレーザー光線とに分割する分割手段と、前記パルス状のレーザー光線の行程を前記パルス状のプリレーザー光線の行程よりも長くするための行程差設定手段とを前記真空容器内にさらに設けたことを特徴とする高エネルギーX線発生装置にある。
【0052】
かかる第22の態様では、パルス状のプリレーザーを容易に制御できる高エネルギーX線発生装置を製造することができる。
【0053】
本発明の第23の態様は、第22の態様に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記パルス状のレーザー光線及び前記パルス状のプリレーザー光線を前記固体試料に集光させる軸外し放物面鏡が前記真空容器内にさらに設けられ、前記分割手段は、前記パルス状のソースレーザー光線の一部を前記パルス状のプリレーザー光線として反射すると共に残りを前記パルス状のレーザー光線として透過する第1の透過鏡であり、前記行程差設定手段は、前記第1の透過鏡を透過した前記パルス状のレーザー光線を反射する第1の反射鏡と、前記第1の反射鏡により反射された前記パルス状のレーザー光線を反射する第2の反射鏡と、前記第1の透過鏡により反射された前記パルス状のプリレーザー光線を反射すると共に前記第2の反射鏡により反射された前記パルス状のレーザー光線を透過して前記軸外し放物面鏡に導く第2の透過鏡とからなることを特徴とする高エネルギーX線発生装置にある。
【0054】
かかる第23の態様では、容易に高エネルギー電子発生装置を製造することができる。
【0055】
本発明の第24の態様では、第20〜23の何れかの態様に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記パルス状のプリレーザー光線が前記固体試料に入射してから前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射するまでの時間が0.01〜100nsであることを特徴とする高エネルギーX線発生装置にある。
【0056】
かかる第24の態様では、より多くの高エネルギーX線を発生させることができる。
【0057】
本発明の第25の態様は、第20〜24の何れかの態様に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記パルス状のレーザー光線が超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線であることを特徴とする高エネルギーX線発生装置にある。
【0058】
かかる第25の態様では、より高いエネルギーを有する高エネルギーX線を発生させることができる。
【0059】
本発明の第26の態様では、第19〜25の何れかの態様に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記固体試料が巻き取り可能なテープ状の形状を有し、前記真空容器内に前記固体試料を巻き取る試料巻き取り手段をさらに設けることを特徴とする高エネルギーX線発生装置にある。
【0060】
かかる第26の態様では、高エネルギーX線を発生させた後、固定試料を所定の距離だけ巻き取ることで固定試料の別の部分にパルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線を照射させることができるので、連続して高エネルギーX線を発生させることができる。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができる高エネルギー電子発生方法及びそれを用いた高エネルギー電子発生装置、並びに高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギーX線を多数発生させることができる高エネルギーX線発生方法及びそれを用いた高エネルギーX線発生装置を提供することができるので、より高いエネルギーを有する高エネルギー電子又は高エネルギーX線を必要とする材料劣化診断、癌治療などを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明の構成は以下の説明に限定されない。
【0063】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る高エネルギー電子発生装置の概略図である。図1に示すように、本発明に係る高エネルギー電子発生装置1は、パルス状のレーザー光線を発振するレーザー光線発振手段10と、レーザー光線発振手段10から発振されたパルス状のレーザー光線を反射する入口反射鏡20と、入口反射鏡20により反射されたパルス状のレーザー光線を反射する第1の反射鏡30と、第1の反射鏡30により反射されたパルス状のレーザー光線を反射する第2の反射鏡40と、第2の反射鏡40により反射されたパルス状のレーザー光線をさらに反射させることによって集光させる軸外し放物面鏡(off−axis paraboloid)50と、軸外し放物面鏡50により集光させられたパルス状のレーザー光線の照射により電離すると共に高エネルギー電子を発生させるテープ状の固体試料60と、レーザー光線を照射するごとに固体試料60を巻き取ってパルス状のレーザー光線が当たる部分をずらすことができる試料巻き取り手段61と、パルス状のレーザー光線によって発生した高エネルギー電子を検出する検出手段70とを具備しており、それらが真空容器である真空チャンバ90の中に設けられたものである。そして、本実施形態の高エネルギー電子発生装置1は、レーザー光線発振手段10から発振されたパルス状のレーザー光線及びそのパルス状のレーザー光線の前に発振されるパルス状のプリレーザー光線を固体試料60に入射させることにより、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させるものである。なお、パルス状のプリレーザー光線とは、パルス状のレーザー光線の一種であり、パルス状のレーザー光線が固体試料60に入射する前に固体試料60に入射し、かつそのパルス状のレーザー光線の強度よりも小さい強度を有するものである。以下に、本実施形態の高エネルギー電子発生装置1を構成する各構成要素について具体的に説明する。
【0064】
レーザー光線発振手段10は、パルス状のプリレーザー光線を発振でき、かつその後にパルス状のレーザー光線を発振することができるものであれば特に限定されないが、超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線を発振できるものが好ましい。超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線を発振できるものを用いると、より高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させることができる。
【0065】
レーザー光線発振手段10により発振されるパルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線は、パルス状のレーザー光線の強度よりもパルス状のプリレーザー光線の強度の方が小さければ特に限定されない。
【0066】
また、パルス状のプリレーザー光線が固体試料60に入射してからパルス状のレーザー光線が固体試料60に入射するまでの時間は、パルス状のプリレーザー光線を固体試料60に入射させて固体試料60の表面又は一部からプラズマを発生させ、そのプラズマの密度が臨界プラズマ密度以下であるときにパルス状のレーザー光線を入射させることができるのであれば特に限定されないが、その時間が0.01〜100nsの範囲にあるものが好ましい。この範囲を満たすようにパルス状のレーザー光線を固体試料に入射させると、より多くの高エネルギー電子を発生させることができる。
【0067】
ここで、臨界プラズマ密度とは、パルス状のレーザー光線を上述したプラズマに入射させた際に、そのパルス状のレーザー光線を透過させないための必要充分なプラズマの密度、すなわちパルス状のレーザー光線の透過率が0%になる際のプラズマ密度をいう。
【0068】
固体試料60は、パルス状のレーザー光線により高エネルギー電子を生成させることができるものであれば材質は特に限定されない。したがって、例えば金属やプラスチックなどであってもよいが、より原子番号の大きい原子からなるものが好ましい。より原子番号の大きい原子からなるものを用いると、より多くの高エネルギー電子を生成することができる。また、固体試料60の形状についても、パルス状のレーザー光線により高エネルギー電子を生成させることができるものであれば特に限定されない。しかしながら、より高いエネルギーを有する高エネルギー電子を得ることができるように、より薄いテープ状の形状を有する方が好ましい。固体試料60としては、例えばCu金属膜などが挙げられる。
【0069】
試料巻き取り手段61は、テープ状の固体試料60を破損させることなく巻き取ることができるものであれば特に限定されない。固体試料巻き取り手段61を用いると、パルス状のレーザー光線を照射して高エネルギー電子を発生させた後、テープ状の固体試料60を所定の距離だけ巻き取ることにより固体試料60の別の部分にパルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線を照射させることができるので、連続して高エネルギー電子を発生させることができる。
【0070】
入口反射鏡20、第1の反射鏡30、第2の反射鏡40は、パルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線を所定の方向に反射させることができるものであれば特に限定されないが、より反射率が高いものが好ましいのはいうまでもない。
【0071】
軸外し放物面鏡50は、パルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線を反射して固体試料60に集光させることができるものであれば特に限定されないが、より反射率が高く、かつパルス状のレーザー光線等をより小さく集光させることができるものが好ましいのはいうまでもない。
【0072】
検出手段70は、高エネルギー電子を検出することができるものであれば特に限定されない。検出手段70としては、例えば電子スペクトルメータなどが挙げられる。
【0073】
真空チャンバ90は、内部の気圧が低下しても破損や形状変化が起こらないものであれば特に限定されないが、内部を10−3Torr以下に減圧できるものが好ましい。
【0074】
以上説明した高エネルギー電子発生装置1に、所定のパルス状のレーザー光線及びそのパルス状のレーザー光線の前に発振されるパルス状のプリレーザー光線を入射させることにより、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができる。
【0075】
次に、図1に示す高エネルギー電子発生装置1の動作について説明する。まず、レーザー光線発振手段10により発振されたパルス状のレーザー光線及びそのパルス状のレーザー光線の前に発振されるパルス状のプリレーザー光線は、真空チャンバ90内に入射し、入口反射鏡20によって第1の反射鏡30の方向に反射される。そして、入口反射鏡20によって反射されたパルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線は、図1に示すように第1の反射鏡30及び第2の反射鏡40によって次々と反射された後、軸外し放物面鏡50の方向に反射される。そして、軸外し放物面鏡50に入射したパルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線は、反射されると共に集光されて固体試料60に入射する。
【0076】
ここで、上述したように、パルス状のプリレーザー光線は、パルス状のレーザー光線より前に発振されているので、パルス状のレーザー光線が固体試料60に入射する前に固体試料60に入射することになる。すると、パルス状のプリレーザー光線の入射により固体試料60の表面又は一部の状態が変化してプラズマが発生する。そして、そのプラズマの密度が上述した臨界プラズマ密度以下の時にパルス状のレーザー光線が入射すると、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができる。
【0077】
以上、説明したように、本実施形態によれば、パルス状のレーザー光線が固体試料60に入射する前にパルス状のプリレーザーを固体試料60に入射させて固体試料60の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成し、そのプラズマにパルス状のレーザーを入射させることにより、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができる。
【0078】
(実施形態2)
実施形態1では、パルス状のレーザー光線とパルス状のプリレーザー光線とをレーザー光線発振手段10で発振させることにより、最終的に高エネルギー電子を発生させている。しかしながら、以下に示すように、パルス状のソースレーザー光線のみをレーザー光線発振手段で発振させ、そのパルス状のソースレーザー光線からパルス状のレーザー光線とパルス状のプリレーザー光線とを生成して、高エネルギー電子を発生させるようにしてもよい。以下に図2を用いて、本発明の実施形態2に係る高エネルギー電子発生装置を具体的に説明する。
【0079】
図2は、実施形態2に係る高エネルギー電子発生装置の概略図である。図2に示すように、本発明に係る高エネルギー電子発生装置1Aは、パルス状のソースレーザー光線を発生させるレーザー光線発振手段10Aと、レーザー光線発振手段10Aから発振されたパルス状のソースレーザー光線を反射する入口反射鏡20Aと、入口反射鏡20Aにより反射されたパルス状のソースレーザー光線の一部をパルス状のプリレーザー光線として反射すると共に残りをパルス状のレーザー光線として透過する第1の透過鏡31Aと、第1の透過鏡31Aを透過したパルス状のレーザー光線を反射する第1の反射鏡30Aと、第1の反射鏡30Aにより反射されたパルス状のレーザー光線を反射する第2の反射鏡40Aと、第1の透過鏡31Aにより反射されたパルス状のプリレーザー光線を反射すると共に第2の反射鏡40Aにより反射されたパルス状のレーザー光線を透過して軸外し放物面鏡(off−axis paraboloid)50Aの方向に導く第2の透過鏡41Aと、第2の透過鏡41Aによって導かれたレーザー光線及びプリレーザー光線をさらに反射させることによって集光させる軸外し放物面鏡50Aと、軸外し放物面鏡50Aにより集光させられたレーザー光線の照射により電離すると共に高エネルギー電子を発生させるテープ状の固体試料60Aと、パルス状のレーザー光線を照射するごとに固体試料60Aを巻き取ってパルス状のレーザー光線が当たる部分をずらすことができる試料巻き取り手段61Aと、パルス状のレーザー光線によって発生した高エネルギー電子を検出する検出手段70Aとを具備しており、それらが真空容器である真空チャンバ90Aの中に設けられたものである。
【0080】
そして、本実施形態において、パルス状のソースレーザー光線をパルス状のレーザー光線とパルス状のプリレーザー光線とに分割するための分割手段は、パルス状のソースレーザー光線の一部を前記パルス状のプリレーザー光線として反射すると共に残りを前記パルス状のレーザー光線として透過する第1の透過鏡31Aである。
【0081】
一方、パルス状のレーザー光線の行程をパルス状のプリレーザー光線の行程よりも長くするための行程差設定手段は、第1の透過鏡31Aを透過したパルス状のレーザー光線を反射する第1の反射鏡30Aと、第1の反射鏡30Aにより反射されたパルス状のレーザー光線を反射する第2の反射鏡40Aと、第1の透過鏡31Aにより反射されたパルス状のプリレーザー光線を反射すると共に第2の反射鏡40Aにより反射されたパルス状のレーザー光線を透過して軸外し放物面鏡50Aに導く第2の透過鏡41Aとからなっている。そして、パルス状のレーザー光線は、第1の透過鏡31Aから第2の透過鏡41Aまでの距離と、第1の反射鏡30Aから第2の反射鏡40Aまでの距離が等しいことから、第1の透過鏡31Aから第1の反射鏡30Aまでの距離と、第2の反射鏡40Aから第2の透過鏡41Aまでの距離とを合計した距離だけ、パルス状のプリレーザー光線より行程が長くなっている。すなわち、この距離をパルス状のレーザー光線が通過するために要する時間だけ、パルス状のプリレーザー光線は、パルス状のレーザー光線が固体試料60Aに入射するより前に固体試料60に入射することになる。なお、第1の透過鏡31Aから第1の反射鏡30Aまでの距離及び第2の反射鏡40Aから第2の透過鏡41Aまでの距離は、パルス状のプレリーザーを固体試料60Aに入射させて固体試料60Aの表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成し、そのプラズマにパルス状のレーザーを入射させることができるのであれば、特に限定されないが、パルス状のプリレーザー光線が固体試料60に入射してからパルス状のレーザー光線が固体試料60に入射するまでの時間が0.01〜100nsの範囲になるように設定するのが好ましい。この範囲を満たすようにパルス状のレーザー光線を固体試料に入射させると、より多くの高エネルギー電子を発生させることができる。
【0082】
そして、本実施形態の高エネルギー電子発生装置1Aは、上述したパルス状のレーザー光線及びパルス状のプリレーザー光線を固体試料60Aに入射させることにより、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させるものである。なお、本実施形態においても、パルス状のプリレーザー光線とは、パルス状のレーザー光線の一種であり、パルス状のレーザー光線が固体試料60Aに入射する前に固体試料60Aに入射し、かつパルス状のレーザー光線の強度よりも小さい強度を有するものである。以下に、本実施形態の高エネルギー電子発生装置1Aを構成する構成要素について具体的に説明する。
【0083】
レーザー光線発振手段10Aは、パルス状のパルス状のソースレーザー光線を発振することができるものであれば特に限定されないが、超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線を発振できるものが好ましい。超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線を発振できるものを用いると、より高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させることができる。
【0084】
第1の透過鏡31Aは、パルス状のソースレーザー光線の一部をパルス状のプリレーザー光線として反射することができると共に、残りのパルス状のソースレーザー光線を透過することができるものであれば特に限定されないが、透過率が50%より大きいものが好ましい。
【0085】
第2の透過鏡41Aは、第1の透過鏡31Aにより反射されたパルス状のプリレーザー光線を反射すると共に第2の反射鏡40Aにより反射されたレーザー光線を透過して軸外し放物面鏡50Aに導くことができるものであれば特に限定されない。
【0086】
第1の反射鏡及び第2の反射鏡は、第1の透過鏡を透過したレーザー光線を反射することができるものであれば特に限定されないが、より反射率が高いものが好ましいのはいうまでもない。
【0087】
その他の構成要素については、実施形態1と同様であり、実施形態1の構成要素と同一の符号に「A」を付してある。
【0088】
次に、図2に示す高エネルギー電子発生装置1Aの動作について説明する。まず、レーザー光線発振手段10Aにより発振されたパルス状のソースレーザー光線は、真空チャンバ90A内に入射し、入口反射鏡20Aによって第1の透過鏡31Aの方向に反射される。
【0089】
入口反射鏡20Aによって反射されたパルス状のソースレーザー光線は、第1の透過鏡31Aに入射して、パルス状のソースレーザー光線の一部はパルス状のプリレーザー光線として反射されると共に、残りのパルス状のソースレーザー光線はパルス状のレーザー光線として透過する。そして第1の透過鏡31Aにより反射されたパルス状のプリレーザー光線は、図2に示すように、第2の透過鏡41Aによって反射された後、軸外し放物面鏡50Aの方向に反射される。
【0090】
一方、第1の透過鏡31Aを透過したパルス状のレーザー光線は、第1の反射鏡30Aにより第2の反射鏡40Aの方向に反射される。そして第1の反射鏡30Aにより反射されたパルス状のレーザー光線は第2の反射鏡40Aにより第2の透過鏡41Aの方向に反射される。第2の反射鏡40Aにより反射されたパルス状のレーザー光線は、第2の透過鏡41Aを透過し、パルス状のプリレーザー光線と同様に軸外し放物面鏡50Aの方向に反射される。
【0091】
そして、軸外し放物面鏡50Aに入射したプリレーザー光線及びレーザー光線は反射されると共に集光されて固体試料60Aに入射する。すると、実施形態1と同様に、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができる。
【0092】
以上、説明したように、本実施形態によれば、容易に高エネルギー電子発生装置を製造することができると共に、パルス状のレーザー光線が固体試料60Aに入射する前にパルス状のプリレーザーを固体試料60Aに入射させて固体試料60Aの表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成し、そのプラズマにパルス状のレーザーを入射させることにより、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギー電子を多数発生させることができる。
【0093】
(実施形態3)
実施形態1では、上述したようにして高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させたが、図3に示すように、実施形態1の高エネルギー電子発生装置1と同じ構成要素を真空容器である真空チャンバ90B内に設け、その軸外し放物面鏡50Bと固体試料60Bとの間にX線変換材80Bをさらに設けて高エネルギーX線発生装置1Bとしてもよい。
【0094】
このような構成とすることにより、実施形態1の高エネルギー電子発生装置と同様にしてパルス状のレーザー光線を固体試料に入射させて発生させた高エネルギー電子を、さらにX線変換材に入射させて高エネルギーX線を固体試料60Bに入射させることにより、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギーX線を多数発生させることができる。
【0095】
X線変換材80Bは、高エネルギー電子が入射した際にX線を発生させることができるものであれば特に限定されないが、原子番号が大きい原子で構成されたものが好ましく、特にPbで構成されたものが好ましい。原子番号が大きい原子で構成されたもの、特にPbで構成されたものを用いると、より多くのX線を発生させることができる。
【0096】
検出手段70Bは、高エネルギーX線を検出することができるものであれば特に限定されない。検出手段70Bとしては、例えばX線シンチレータなどが挙げられる。
【0097】
その他の構成要素については、実施形態1と同様である。なお、実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1の同一符号に「B」を付してある。
【0098】
次に、図3に示す高エネルギーX線発生装置1Bの動作について説明する。まず、固体試料60Bから高エネルギー電子が発生するまでの動作は実施形態1と同様である。そして、その発生した高エネルギー電子がX線変換材80Bに入射すると、高エネルギーX線が発生する。
【0099】
以上説明したように、本実施形態によれば、パルス状のレーザー光線が固体試料60Bに入射する前にパルス状のプリレーザーを固体試料60Bに入射させて固体試料60Bの表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成し、そのプラズマにパルス状のレーザーを入射させることにより、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギーX線を多数発生させることができる。
【0100】
(実施形態4)
実施形態2では、上述したようにして高いエネルギーを有する高エネルギー電子を発生させたが、図4に示すように、実施形態2の高エネルギー電子発生装置1Aと同じ構成要素を真空容器である真空チャンバ90C内に設け、その軸外し放物面鏡50Cと固体試料60Cとの間にX線変換材80Cをさらに設けて高エネルギーX線発生装置1Cとしてもよい。このような構成とすることにより、容易に高エネルギーX線発生装置を製造することができると共に、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギーX線を多数発生させることができる。
【0101】
X線変換材80Cは、高エネルギー電子が入射した際にX線を発生させることができるものであれば特に限定されないが、原子番号が大きい原子で構成されたものが好ましく、特にPbで構成されたものが好ましい。原子番号が大きい原子で構成されたもの、特にPbで構成されたものを用いると、より多くのX線を発生させることができる。
【0102】
検出手段70Cは、高エネルギーX線を検出することができるものであれば特に限定されない。検出手段70Cとしては、例えばX線シンチレータなどが挙げられる。
【0103】
その他の構成要素については、実施形態2と同様である。なお、実施形態2と同じ構成要素については、実施形態2の同一符号の末尾の「A」に代えて「C」を付してある。
【0104】
次に、図4に示す高エネルギーX線発生装置1Cの動作について説明する。まず、固体試料60Cから高エネルギー電子が発生するまでの動作は実施形態2と同様である。そして、その発生した高エネルギー電子がX線変換材80Cに入射すると、高エネルギーX線が発生する。
【0105】
以上説明したように、本実施形態によれば、より容易に高エネルギーX線発生装置1Cを製造することができると共に、パルス状のレーザー光線が固体試料60Cに入射する前にパルス状のプリレーザーを固体試料60Cに入射させて固体試料60Cの表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成し、そのプラズマにパルス状のレーザーを入射させることにより、高い指向性を有し、かつエネルギーレベルの揃った高エネルギーX線を多数発生させることができる。
【0106】
(実施例1)
図1に示す高エネルギー電子発生装置1において、レーザー光線発振手段10としてパルス幅70fsで190mJのエネルギーを有する波長800nmのパルスレーザー光線を発振することができるチタンサファイアレーザー装置を、固体試料60として厚さが5μmの銅箔を、検出手段70として電子スペクトルメータを用いて高エネルギー電子を測定した。
【0107】
なお、実施例1では、パルス状のレーザー光線として強度が3.0×1018W/cmのメインパルスと、図5に示すように、パルス状のプリレーザー光線として複数のプリパルスとを高エネルギー電子発生装置1に入射させた。第1のプリパルスは、メインパルスの18ns前に発振され、その強度はメインパルスの強度を100%とした際に0.0026%となるものである。第2のプリパルスは、メインパルスの9ns前に発振され、その強度はメインパルスの強度を100%とした際に0.0026%となるものである。第3のプリパルスは、メインパルスの5ns前に発振され、その強度はメインパルスの強度を100%とした際に7%となるものである。
【0108】
(実施例2)
固体試料以外は、実施例1と同様の高エネルギー電子発生装置1を用いて高エネルギー電子を測定した。実施例2では、固体試料60として厚さが7.5μmのポリイミドフィルムを用いた。
【0109】
なお、実施例2では、パルス状のレーザー光線として強度が3.5×1018W/cmのメインパルスと、パルス状のプリレーザー光線として単独のプリパルスを高エネルギー電子発生装置1に入射させた。このプリパルスは、メインパルスの5ns前に発振され、その強度はメインパルスの強度を100%とした際に8.3%となるものである。
【0110】
(比較例1)
パルス状のレーザー光線として実施例1のメインパルスと同様のメインパルスと、図5に示すように、パルス状のレーザー光線としてメインパルスの5ns前に発振され、その強度がメインパルスの強度を100%とした際に5%となるプリパルスとを高エネルギー電子発生装置1に入射させた。
【0111】
(比較例2)
実施例1及び比較例1と異なり、実質的にプリパルスがなく、図5に示すように、実施例1のメインパルスと同様のパルスのみを高エネルギー電子発生装置1に入射させた。
【0112】
(比較例3)
プリパルスを入射させずに、実施例2のメインパルスと同様のパルスのみを高エネルギー電子発生装置1に入射させた。
【0113】
(実験結果1)
まず、実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれにおいて検出器の代わりにスペクトルアナライザーを設置して、メインパルスを入射させた際に銅箔を透過する光のスペクトルを観測した。この観測結果によると、実施例1では波長800nmの光が観測されたが、比較例1及び比較例2では観測されなかった。このことは、実施例1では、チタンサファイアレーザー装置から発振されたパルスレーザーが観測されたことを示し、比較例1及び比較例2では観測されなかったことを示している。すなわち、実施例1ではプレパルスにより銅箔の表面又は一部が臨界プラズマ密度以下のプラズマにメインパルスが入射したのでメインパルスが透過して観測されたことを示し、比較例1では臨界プラズマ密度以上のプラズマにメインパルスが入射したのでメインパルスが透過せずに観測されなかったことを示し、比較例2では銅箔にメインパルスが入射してもメインパルスが透過しなかったのでメインパルスが観測されなかったことを示している。したがって、この観測結果によると、実施例1のみにおいて、臨界プラズマ密度以下のプラズマにメインパルスが入射したことを示している。
【0114】
次に、実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれで発生した高エネルギー電子の電子エネルギースペクトルを測定した。その測定結果を図6に示す。図6に示すように、実施例1では、比較例1及び比較例2と比較して、多数の高いエネルギーを有する高エネルギー電子が発生したことが分かった。すなわち、メインパルスを固体試料に入射させる前に、プレパルスを固体試料に入射させて固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成し、そのプラズマにメインパルスを入射させることにより、多数の高いエネルギーを有する高エネルギー電子が発生することが分かった。
【0115】
(実験結果2)
実施例2及び比較例3において発生した電子の発散角度分布及び電子エネルギースペクトルを測定した。その測定結果を図7及び図8に示す。図7は、実施例2及び比較例3において発生した電子の発散角度分布を示す図である。ここで、各発散角度分布は各発散角度分布において最も多く発生した電子数で規格化してある。図8は、実施例2及び比較例3において発生した電子の電子エネルギースペクトルを示す図である。
【0116】
図7に示すように、実施例2において発生した高エネルギー電子の発散角は約10度であり、比較例3において発生した高エネルギー電子の発散角(約80度)と比較して小さいことが分かった。すなわち、メインパルスを固体試料に入射させる前に、プレパルスを固体試料に入射させて固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成し、そのプラズマにメインパルスを入射させることにより、高い指向性を有する高エネルギー電子が発生することが分かった。
【0117】
また、図8に示すように、実施例2において発生した高エネルギー電子の電子エネルギースペクトルは1.0MeV近辺にピークを有するが、比較例3において発生した高エネルギー電子の電子エネルギースペクトルはそのようなピークを有しないことが分かった。すなわち、メインパルスを固体試料に入射させる前に、プレパルスを固体試料に入射させて固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成し、そのプラズマにメインパルスを入射させることにより、エネルギーレベルの揃った高エネルギー電子が多数発生することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】実施形態1に係る高エネルギー電子発生装置の概略図である。
【図2】実施形態2に係る高エネルギー電子発生装置の概略図である。
【図3】実施形態3に係る高エネルギーX線発生装置の概略図である。
【図4】実施形態4に係る高エネルギーX線発生装置の概略図である。
【図5】実施例1、比較例1及び比較例2で用いたメインパルス及びプリパルスを示す図である。
【図6】実施例1、比較例1及び比較例2で発生した電子エネルギースペクトルを示す図である。
【図7】実施例2及び比較例3で発生した高エネルギー電子の発散角度分布を示す図である。
【図8】実施例2及び比較例3で発生した電子エネルギースペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0119】
1、1A 高エネルギー電子発生装置
1B、1C 高エネルギーX線発生装置
10、10A、10B、10C レーザー光線発振手段
20、20A、20B、20C 入口反射鏡
30、30A、30B、30C 反射鏡
31A、31C 第1の透過鏡
40、40A、40B、40C 第2の反射鏡
41A、41C 第2の反射鏡
50、50A、50B、50C 軸外し放物面鏡
60、60A、60B、60C 固体試料
61 固体試料巻き取り手段
70、70A、70B、70C 検出手段
80B、80C X線変換材
90、90A、90B、90C 真空チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状のレーザー光線を固体試料に入射させて高エネルギー電子を発生させる高エネルギー電子発生方法において、
前記パルス状のレーザー光線を前記固体試料に入射させる前に、前記固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成する工程と、
前記プラズマに前記パルス状のレーザー光線を入射させる工程とを具備することを特徴とする高エネルギー電子発生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高エネルギー電子発生方法において、前記臨界プラズマ密度以下のプラズマは、前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射する前に前記固体試料に入射するパルス状のプリレーザー光線により生成されることを特徴とする高エネルギー電子発生方法。
【請求項3】
請求項2に記載の高エネルギー電子発生方法において、前記パルス状のプリレーザー光線は複数のパルス状のレーザー光線からなることを特徴とする高エネルギー電子発生方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の高エネルギー電子発生方法において、前記パルス状のプリレーザー光線が前記固体試料に入射してから前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射するまでの時間が0.01〜100nsであることを特徴とする高エネルギー電子発生方法。
【請求項5】
請求項2〜4の何れかに記載の高エネルギー電子発生方法において、前記パルス状のレーザー光線及び前記パルス状のプリレーザー光線が超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線であることを特徴とする高エネルギー電子発生方法。
【請求項6】
パルス状のレーザー光線を固体試料に入射させて発生させた高エネルギー電子を、さらにX線変換材に入射させて高エネルギーX線を発生させる高エネルギーX線発生方法において、
前記パルス状のレーザー光線を前記固体試料に入射させる前に、前記固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成する工程と、
前記プラズマに前記パルス状のレーザー光線を入射させる工程とを具備することを特徴とする高エネルギーX線発生方法。
【請求項7】
請求項6に記載の高エネルギーX線発生方法において、前記臨界プラズマ密度以下のプラズマは、前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射する前に前記固体試料に入射するパルス状のプリレーザー光線により生成されることを特徴とする高エネルギーX線発生方法。
【請求項8】
請求項7に記載の高エネルギーX線発生方法において、前記パルス状のプリレーザー光線は複数のパルス状のレーザー光線からなることを特徴とする高エネルギーX線発生方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の高エネルギーX線発生方法において、前記パルス状のプリレーザー光線が前記固体試料に入射してから前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射するまでの時間が0.01〜100nsであることを特徴とする高エネルギーX線発生方法。
【請求項10】
請求項7〜9の何れかに記載の高エネルギーX線発生方法において、前記パルス状のレーザー光線及び前記パルス状のプリレーザー光線が超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線であることを特徴とする高エネルギーX線発生方法。
【請求項11】
パルス状のレーザー光線により電離可能な固体試料が真空容器内に設けられた高エネルギー電子発生装置において、
前記パルス状のレーザー光線を前記固体試料に入射させる前に前記固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成すると共に前記プラズマに前記パルス状のレーザー光線を入射させることを特徴とする高エネルギー電子発生装置。
【請求項12】
請求項11に記載の高エネルギー電子発生装置において、前記臨界プラズマ密度以下のプラズマは、前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射する前に前記固体試料に入射するパルス状のプリレーザー光線により生成されることを特徴とする高エネルギー電子発生装置。
【請求項13】
請求項12に記載の高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のプリレーザー光線は複数のパルス状のレーザー光線からなることを特徴とする高エネルギー電子発生装置。
【請求項14】
請求項12に記載の高エネルギー電子発生装置において、パルス状のソースレーザー光線を前記パルス状のレーザー光線と前記パルス状のプリレーザー光線とに分割する分割手段と、
前記パルス状のレーザー光線の行程を前記パルス状のプリレーザー光線の行程よりも長くするための行程差設定手段とを前記真空容器内にさらに設けたことを特徴とする高エネルギー電子発生装置。
【請求項15】
請求項14に記載の高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のレーザー光線及び前記パルス状のプリレーザー光線を前記固体試料に集光させる軸外し放物面鏡が前記真空容器内にさらに設けられ、
前記分割手段は、前記パルス状のソースレーザー光線の一部を前記パルス状のプリレーザー光線として反射すると共に残りを前記パルス状のレーザー光線として透過する第1の透過鏡であり、
前記行程差設定手段は、前記第1の透過鏡を透過した前記パルス状のレーザー光線を反射する第1の反射鏡と、
前記第1の反射鏡により反射された前記パルス状のレーザー光線を反射する第2の反射鏡と、
前記第1の透過鏡により反射された前記パルス状のプリレーザー光線を反射すると共に前記第2の反射鏡により反射された前記パルス状のレーザー光線を透過して前記軸外し放物面鏡に導く第2の透過鏡とからなることを特徴とする高エネルギー電子発生装置。
【請求項16】
請求項12〜15の何れかに記載の高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のプリレーザー光線が前記固体試料に入射してから前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射するまでの時間が0.01〜100nsであることを特徴とする高エネルギー電子発生装置。
【請求項17】
請求項12〜16の何れかに記載の高エネルギー電子発生装置において、前記パルス状のレーザー光線が超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線であることを特徴とする高エネルギー電子発生装置。
【請求項18】
請求項11〜17の何れかに記載の高エネルギー電子発生装置において、前記固体試料が巻き取り可能なテープ状の形状を有し、前記真空容器内に前記固体試料を巻き取る試料巻き取り手段をさらに設けることを特徴とする高エネルギー電子発生装置。
【請求項19】
パルス状のレーザー光線により電離すると共に高エネルギー電子を発生させる固体試料と、前記高エネルギー電子により高エネルギーX線を発生させるX線変換材とが真空容器内に設けられた高エネルギー電子発生装置において、
前記パルス状のレーザー光線を前記固体試料に入射させる前に前記固体試料の表面又は一部から臨界プラズマ密度以下のプラズマを生成すると共に前記プラズマに前記パルス状のレーザー光線を入射させることを特徴とする高エネルギーX線発生装置。
【請求項20】
請求項19に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記臨界プラズマ密度以下のプラズマは、前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射する前に前記固体試料に入射するパルス状のプリレーザー光線により生成されることを特徴とする高エネルギーX線発生装置。
【請求項21】
請求項20に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記パルス状のプリレーザー光線は複数のパルス状のレーザー光線からなることを特徴とする高エネルギーX線発生装置。
【請求項22】
請求項20に記載の高エネルギーX線発生装置において、パルス状のソースレーザー光線を前記パルス状のレーザー光線と前記パルス状のプリレーザー光線とに分割する分割手段と、
前記パルス状のレーザー光線の行程を前記パルス状のプリレーザー光線の行程よりも長くするための行程差設定手段とを前記真空容器内にさらに設けたことを特徴とする高エネルギーX線発生装置。
【請求項23】
請求項22に記載の高エネルギーX線発生装置において、前記パルス状のレーザー光線及び前記パルス状のプリレーザー光線を前記固体試料に集光させる軸外し放物面鏡が前記真空容器内にさらに設けられ、
前記分割手段は、前記パルス状のソースレーザー光線の一部を前記パルス状のプリレーザー光線として反射すると共に残りを前記パルス状のレーザー光線として透過する第1の透過鏡であり、
前記行程差設定手段は、前記第1の透過鏡を透過した前記パルス状のレーザー光線を反射する第1の反射鏡と、
前記第1の反射鏡により反射された前記パルス状のレーザー光線を反射する第2の反射鏡と、
前記第1の透過鏡により反射された前記パルス状のプリレーザー光線を反射すると共に前記第2の反射鏡により反射された前記パルス状のレーザー光線を透過して前記軸外し放物面鏡に導く第2の透過鏡とからなることを特徴とする高エネルギーX線発生装置。
【請求項24】
請求項20〜23の何れかに記載の高エネルギーX線発生装置において、前記パルス状のプリレーザー光線が前記固体試料に入射してから前記パルス状のレーザー光線が前記固体試料に入射するまでの時間が0.01〜100nsであることを特徴とする高エネルギーX線発生装置。
【請求項25】
請求項20〜24の何れかに記載の高エネルギーX線発生装置において、前記パルス状のレーザー光線が超短パルスレーザー光線又はフェムト秒レーザー光線であることを特徴とする高エネルギーX線発生装置。
【請求項26】
請求項19〜25の何れかに記載の高エネルギーX線発生装置において、前記固体試料が巻き取り可能なテープ状の形状を有し、前記真空容器内に前記固体試料を巻き取る試料巻き取り手段をさらに設けることを特徴とする高エネルギーX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−33437(P2007−33437A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173164(P2006−173164)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】