説明

高付着性樹脂被覆ストランド

【課題】セメントやグラウト材との高付着性を有し、かつ外周にシースを有するPC鋼撚り線として、引抜性も満足し得る高付着性樹脂被覆ストランドを得る。
【解決手段】高付着性樹脂被覆ストランドAは、高強度PC鋼の素線を用いた芯線1aを中心としてその周囲に複数の素線1bを撚り合わせて高強度PC鋼撚り線1を構成し、その周囲にはエポキシ樹脂を塗布して薄膜状の被覆層2が形成され、被覆層2の外周の表面には、多数の微粒子状のセメント粒子3が付着されている。セメント粒子3は、セメントと接触した場合に反応により一体化する性質を有し、粒子の径が小さくとも十分な対コンクリート付着力を得ることが出来る例えばセメントモルタルの粉体、又は粉砕後のコンクリート粉末等が用いられる。その外周にシース5が配設され、高付着性樹脂被覆ストランドAは、セメント粒子3が付着されていることにより、シース5との摩擦力を小さくすることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレストレストコンクリートに対しコンクリート付着性を高め、かつ緊張力を導入する際に被覆シースからの引抜性を高めた高付着性樹脂被覆ストランドに関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリートの構造物の施工時に耐食性のエポキシ樹脂被覆ストランドが用いられているが、一般にエポキシ樹脂被覆の表面は滑らかなため、コンクリートとの付着性が低く、対コンクリートとの付着性を高める種々の提案が行われている。その一例として、特許文献1の「プレストレスコンクリート用耐食性ストランド及びその製法」の発明が知られている。この特許文献1の耐食性ストランドは、1以上の芯線及びその周りに螺旋状により合わされた複数の外線を有し、その周りに合成樹脂の接着被膜を有する柔軟性ストランドであり、合成樹脂被膜は部分硬化された熱硬化性エポキシ樹脂とし、柔軟性、連続かつ実質的に不透過性で、被膜の外表面の螺旋形状が明瞭に現れ、被覆されたストランドは巻いたり、解いたりする際に充分に柔軟な構成と記載されている。
【0003】
この耐食性ストランドでは、その被膜がストランドに接触せず、被膜の外周面に部分的に露出するように、被膜に部分的に埋設された砂状粒子を有する。そして、砂状粒子は、所定の極薄厚さの耐食被膜が粘着状態で被膜に粉末被覆装置から受け入れられる。この砂状粒子は、ガラスフリット或いはビード、砂を含む種々の物質のいずれでもよいとされている。
【0004】
他の例として、特許文献2の「PC鋼撚り線及びその製造方法」の発明が知られている。この引用文献2のPC鋼撚り線は、複数の素線を撚り合わせてなる線材の表面に、プラスチック被覆層を有し、上記被覆層は素線の撚り目が外表に現れるように形成され、かつその表面は多数の凹凸により肌荒れ状態とされている。
【特許文献1】特公平3−28551号公報
【特許文献2】特開平5−111912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1で砂状粒子を耐食被膜に埋設し、特許文献2でプラスチック被覆層の表面を肌荒れ状態にするなどの処理が行われているのは、いずれもプレストレストコンクリート構造物に埋設されていても、線材が自由に活動でき、コンクリート構造物と一体になった挙動をしないことによる構造物の破壊耐力の低下を防止するためであり、いずれも対コンクリートとの付着性の向上を目的としたものである。
【0006】
しかし、コンクリートとの付着力は、砂の粒子径に対して依存する度合いが高く、付着力を増加させるためには、粒子径を大きくする必要がある。一方、粒子径を増加させた場合、エポキシコートストランドとの間の摩擦力が過大になり、十分な緊張力の導入が困難になるという問題が生じる。従って、上記相反する問題を共に満足することが出来るものであるのが望ましい。
【0007】
この発明は、上記の問題に留意して、複数の線材の周囲にエポキシ樹脂を被覆した高耐食性ストランドに対して、セメントやグラウト材との高付着性を有し、かつ外周にシースを有するPC鋼撚り線として、引抜性も満足し得る高付着性樹脂被覆ストランドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の課題を解決する手段として、複数の素線を撚り合わせたPC鋼撚り線の周囲にエポキシ樹脂を硬化させた被覆層を設け、この被覆層上にセメント粒子を付着させ、この被覆層の周りにポリエチレン樹脂のシースを被せた高付着性樹脂被覆ストランドの構成としたのである。
【0009】
上記の構成としたこの発明による高付着性樹脂被覆ストランドは、ストランドとしてエポキシ樹脂の被覆層の表面にセメント粒子を付着させたものであり、セメント粒子は、モルタル粉体又は粉砕後のコンクリート粉末を10μm程度の微粒子状に微粒化したものを使用する。このような樹脂被覆ストランドに対し、外周にシースを配設した高付着性樹脂被覆ストランド(高強度PC鋼撚り線)とすることにより、コンクリートに定着すべき長さ部分ではシースを剥がして使用され、このため対コンクリート付着性が向上しコンクリートとの一体化が図られ、かつシースを被せた長さ部分ではシースとストランドとの摩擦力を増加させることなく引抜性が向上する。
【0010】
上記高付着性樹脂被覆ストランドは、PC鋼撚り線の外周にポリエチレン樹脂のシースを有し、シースとストランドとの間の隙間に充填されるセメントグラウト又は特殊な硬化性の樹脂層をプレグラウト材として充填される高強度PC鋼撚り線等のストランドとして用いられる。又、上記高付着性樹脂被覆ストランドは、外周にシースを有しないストランド自体をプレテンション工法によるプレストレストコンクリートに使用する場合であっても、セメント粒子を含む被覆層の高付着性により対コンクリートとの高い付着力を得ることが出来る。
【0011】
このような高付着性樹脂被覆ストランドは、複数の素線を撚り合わせたPC鋼撚り線を加熱し、その周囲にエポキシ樹脂を塗布して被覆層を形成し、この被覆層が流動性を失う前にその表面にセメント粒子を付着させ、さらに加熱して被覆層を硬化させた後、冷却して樹脂被覆ストランドを形成し、この被覆層の周りにポリエチレン樹脂のシースを被せて高付着性樹脂被覆ストランドを形成することからなる高付着性樹脂被覆ストランドの製造方法により製造される。ポリエチレン樹脂のシースは一般に押し出し成型方法により樹脂被覆ストランドの外周に被せられる。エポキシ樹脂を塗布する場合、エポキシ樹脂の粉体をエアーにより浮動、流動させた状態でPC鋼撚り線の表面に付着させる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の高付着性樹脂被覆ストランドは、複数の素線を撚り合わせたPC鋼撚り線の周囲にエポキシ樹脂を硬化させた被覆層を設け、この被覆層上にセメント粒子を付着させ、その外周にポリエチレン樹脂のシースを被せた高付着性樹脂被覆ストランドの構成としたから、対コンクリート付着性が向上し、かつ外周にシースを有する高強度PC鋼撚り線として使用する場合は、シースとストランドとの摩擦力を増加させることなくコンクリートとの一体化が図られるという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は実施形態の高付着性樹脂被覆ストランドの主断面図である。図示のように、高付着性樹脂被覆ストランドAの鋼撚り線は、高強度PC鋼の素線を用いた芯線1aを中心としてその周囲に複数(図示の例では6本)の素線1bを撚り合わせて高強度PC鋼撚り線1を構成しており、その周囲にはエポキシ樹脂の薄膜状(0.5〜0.6mm程度)の被覆層2を塗布し、このエポキシ樹脂塗膜は各複数の素線間の隙間にも充填されて形成されている。
【0014】
上記エポキシ樹脂の被覆層2の外周の表面には、多数の微粒子状(10μm程度)のセメント粒子3が付着されている。このセメント粒子3は、セメントと反応性があり、セメントと接触した場合に反応により一体化する性質を有し、粒子の径が小さくとも十分な対コンクリート付着力を得ることが出来る物質、例えばセメントモルタルの粉体、又は粉砕後のコンクリート粉末等が用いられ、後で説明するように、エポキシ樹脂の被覆層2が加熱されて未だ流動性を失わない状態で被覆層2の表面に付着され、樹脂被覆ストランドAとされる。そして、この樹脂被覆ストランドAの外周にポリエチレン樹脂(PE)のシース5が被せられ、高付着性樹脂被覆ストランドAが形成されている。
【0015】
また、上記樹脂被覆ストランドAにセメント粒子3が付着されていることにより、その外周にシース5を配設した高付着性樹脂被覆ストランドAにおいても、シース5との摩擦力を小さく減少させることが出来る。なお、図1ではセメント粒子3は点線で模式図的に示しているが、その一部拡大図に示すように、セメント粒子3は、被覆層2の表面に点状、離散状、あるいは層状に付着している。4は空隙であり、図示の例では、高付着性樹脂被覆ストランドAのシース5の内側に生じる隙間である。この空隙4は、隙間のままとするか、セメントグラウトやエポキシを主成分とし、硬化剤を含む長期硬化性の樹脂、あるいはグリースが充填される場合もある。
【0016】
上記構成の高付着性樹脂被覆ストランドAは、図2に示す実施形態の製造工程を経て製造される。図示のように、供給位置のワイヤドラムSにコイル状に巻かれた高強度PC鋼撚り線1は、繰り出された後まず誘導加熱装置11で高温(200℃)に誘導加熱され、次の塗装装置12の一方側から連続的にその内部に導入される。この塗装装置12内ではエポキシ樹脂の粉体をエアーにより浮動、流動させて、この装置内を通過する鋼撚り線1の外周に塗布される。そして、塗膜表面が硬化により流動性を失う前に、予めふるい操作により平均粒度が10μmの微小粒状に調整されたセメント粒子3を吹き付け、又は堆積したセメント粒子の中にストランドを挿入することにより塗布する。
【0017】
その後、塗膜とセメント粒子が付着された高強度PC鋼撚り線1は、塗装装置12の反対側から繰り出されて赤外線加熱装置13に送り込まれる。この赤外線加熱装置13では赤外線加熱又は雰囲気加熱により高強度PC鋼撚り線1の外周を温度200℃以上に加熱して塗膜の硬化を完了させる。これにより硬化が完了した後、冷却装置14で冷却すると、終端位置の巻取りドラムSに巻き取り、樹脂被覆ストランドAが製造される。さらに、このストランドの外周にポリエチレン樹脂のシース5が被せられて高付着性樹脂被覆ストランドAが形成される。この場合、シース5は押し出し成型で被せるが、他の方法で被せるようにしてもよい。
【0018】
図3に上記高付着性樹脂被覆ストランドAの使用例の部分拡大断面図を示す。この使用例では、図示のように、高付着性樹脂被覆ストランドAは、その外側にポリエチレン(PE)製のシース5を被せ、挿入された地盤Gの所定深さ位置に埋設されたコンクリートCに先端を一体化し、上端は定着具で固定される(図示省略)アンカー用PC鋼撚り線(商品名はシーストフロボンド(商標)と呼ばれる)として用いられている。この場合、コンクリートと一体化される先端部Aeでは、シース5が剥ぎ取られ、この先端部Aeが直接コンクリートCと一体に結合され、地盤G中ではシース5内に挿通されることにより保護されている。
【0019】
この高付着性樹脂被覆ストランドAは、上記のように使用されるため、この例ではPEシースとストランドとの間は、出来るだけ摩擦が小さいほうがよい(引抜力が小)。一方、コンクリートに埋め込む部分はコンクリートとの付着力が出来るだけ大きいほうが望ましい。この実施形態では、被覆層2にセメント粒子3を埋め込むので、セメント粒子3を含む被覆層2とコンクリートCとが一体化し、かつセメント粒子3が被覆層2の塗膜にミクロ状に食い込んでいるので、付着力が大となる。一方、高付着性樹脂被覆ストランドAにシース5が被覆されている長さ部分では、セメント粒子3の粗度が小さいため、PEシース5との摩擦は小さく出来ることとなる。
【0020】
以上はシーストフロボンドとしての使用例であるが、この実施形態の高付着性樹脂被覆ストランドAは、他の使用形態にも使用できる。例えば、プレストレストコンクリートに使用する場合、プレテンション工法においてPE製のシース5を剥ぎ取り、コンクリートに樹脂被覆ストランドAを直接付着させ一体化するというように、PEシース無しの製品でも同じように付着力を要求される場合もある。又、他の使用法として部分的にPEシースが設けられる場合も有り、種々の用途に使用され得る。
【実施例】
【0021】
以下、上記実施形態の製造工程により製造された高付着性樹脂被覆ストランドAの実施例1を同じ製造方法により製造された比較例1〜3のストランドと比較して示す。この製造工程の製造条件を以下に示す。但し、高強度PC鋼撚り線1の外周に付着されるエポキシ樹脂の塗膜は同じであるが、その表面に付着される付着物(セメント粒子3)について、付着物無し、或いは付着物がセメント粒子以外の物質である点で比較例1〜3は実施例1と異なる。
【0022】
実施例1
被覆層2 エポキシ樹脂 0.6mm(素線1bの外周厚さ)
付着物(セメント粒子3) ポルトランドセメント(平均粒度10μm)
誘導加熱温度 200℃
赤外線加熱温度 200℃
【0023】
以上の条件で製造された実施例1の樹脂被覆ストランドAの外面にセメントを付着させ(シース無し)、コンクリートとの付着強度を測定したところ、十分な対コンクリート付着強度を確認した。又、上記の条件で製造された樹脂被覆ストランドAのサンプル10mの外側にポリエチレン製のシース5を被せて、引抜力を試験したところ、引抜性も良好であった。
【0024】
上記高付着性樹脂被覆ストランドAの機能を確認するため、実施例1と同じ条件、但し付着物無し、あるいは付着物の性質が異なるものを用いて製造した比較例1〜3について同様な試験を行った。以下に、実施例1と各比較例1〜3の付着物について記すと共に、その試験結果について記載する。
実施例1 付着物 ポルトランドセメント粉末 10μm
比較例1 付着物 なし
比較例2 付着物 シリカ粉末 膜厚 50μm
比較例3 付着物 シリカ粉末 膜圧 10μm
【0025】
【表1】

【0026】
上記の試験結果から分かるように、実施例1の高付着性樹脂被覆ストランドAの対コンクリート付着性、シースからの引抜性は共に良好であるのに対して、比較例1〜3のストランドはいずれも付着性、引抜性のいずれかが良好であるが、他方は不十分であることが分かる。なお、上記実施形態、実施例の高付着性樹脂被覆ストランドは、本発明の趣旨の範囲内で種々改変され得るが、それらの改変されたものに対しても本発明は適用される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明の高付着性樹脂被覆ストランドは、PC鋼撚り線の周囲にエポキシ樹脂を硬化させた被覆層上にセメント粒子を付着させ、その外周にシースを被せた高付着性樹脂被覆ストランドの構成により、対コンクリート付着性を向上させ、かつシースを有する長さ部分では、シースとストランドとの摩擦力を増加させることなくコンクリートとの一体化を図るものであり、PC鋼材のストランドとして広く利用される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態の高付着性樹脂被覆ストランドの主断面図
【図2】同上ストランドの製造装置の全体概略図
【図3】同上ストランドの使用例の部分拡大断面図
【符号の説明】
【0029】
1 高強度PC鋼撚り線
1a 芯線
1b 素線
2 被覆層
3 セメント粒子
4 空隙
5 シース
11 誘導加熱装置
12 塗装装置
13 赤外線加熱装置
14 冷却装置
A 高付着性樹脂被覆ストランド
樹脂被覆ストランド
Ae 先端部
C コンクリート
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を撚り合わせたPC鋼撚り線1の周囲にエポキシ樹脂を硬化させた被覆層2を設け、この被覆層2上にセメント粒子3を付着させ、この被覆層2の周りにポリエチレン樹脂のシース5を被せた高付着性樹脂被覆ストランド。
【請求項2】
複数の素線を撚り合わせたPC鋼線1を加熱し、その周囲にエポキシ樹脂を塗布して被覆層2を形成し、この被覆層2が流動性を失う前にその表面にセメント粒子3を付着させ、さらに加熱して被覆層2を硬化させた後、冷却して樹脂被覆ストランドを形成し、その外周にポリエチレン樹脂のシース5を被せて高付着性樹脂被覆ストランドを形成することからなる高付着性樹脂被覆ストランドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−291773(P2007−291773A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122300(P2006−122300)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】