説明

高分子フィルム積層体及びその製造方法、並びに、高分子フィルム積層体を用いたフレキシブル配線板。

【課題】積層体の巻き取りにおける癒着を十分に抑制しながら、生産性よく均質な高分子フィルム積層体を製造することができる高分子フィルム積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属箔2上に高分子フィルムの前駆体層14が形成された積層体10を巻き取り、巻き取り体100を得る第1工程と、巻き取り体を熱処理して、高分子フィルム積層体を得る第2工程とを有する。第1工程においては、巻き取られる積層体同士の間に挟まれるように、積層体の巻き取り方向と交差する方向の両端に位置する辺に沿ってそれぞれスペーサー30を配置して積層体を巻き取る。この際、スペーサーとして、一方向に凹凸を繰り返す波型の断面形状を有しており、この波型によって形成される見かけ厚さが0.5〜3mmである金属製スペーサーを用い、当該スペーサーを、一方向が巻き取り方向と同じとなるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルム積層体及びその製造方法、並びに、高分子フィルム積層体を用いたフレキシブル配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板(以下、「FPC」と略す)は、可撓性を有し、空間的な自由度が大きいことから、高密度の実装が可能であり、そのため、配線、ケーブル又はコネクター機能を有する複合部品等として種々の電子機器に用いられている。近年、電子機器は、小型・軽量化が進められており、これに対応するため、電子機器に搭載されるFPCにも小型化及びこれに伴う回路の微細化が要求されている。
【0003】
FPCは、金属箔上に高分子フィルム層が形成された高分子フィルム積層体を用い、金属箔を回路化して得られたものが一般的である。この場合、回路の微細化を達成するためには、金属箔と高分子フィルム層との接着性が高いことが求められる。かかる観点からは、高分子フィルム積層体としては、ポリイミド、ポリイミドベンゾオキサゾール、ポリアミドイミド等の高分子フィルム層をキャスト成膜により製造した、いわゆる2層FCCLが多く用いられている。また最近では、芳香族液晶ポリエステルを含む樹脂層を有する液晶ポリエステルフィルム積層体が、樹脂層が低吸水性であり電気絶縁性にも優れることから、FPC用途に適した材料として検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
ここで、上述したような高分子フィルム積層体の製造においては、いったん高分子フィルムの前駆体からなる層を形成した後に、熱処理を施すことによって高分子フィルム層を完成させるという操作が行われることが多い。例えば、上記2層FCCLの場合、ポリイミド、ポリイミドベンゾオキサゾール、ポリアミドイミド等の前駆体からなる層を形成した後に、熱処理によりイミド閉環反応を生じさせることによって高分子フィルム層を形成する(特許文献2参照)。また、液晶ポリエステルフィルム積層体の場合も、いったん液晶ポリエステル層を形成した後に、特性向上のために更に熱処理が施される(特許文献3参照)。
【0005】
一方、上述したような高分子フィルム積層体は、保管や搬送の容易さの観点からロールの形態で供給されることが望まれる。そこで、効率的な高分子フィルム積層体の製造方法として、まずは高分子フィルムの前駆体層を備える積層体の状態でロール化して巻き取り体とした後に、得られた巻き取り体を熱処理して、前駆体層から高分子フィルム層を形成する方法が知られている。ただし、この場合、ロールの状態で熱処理を行うと、巻き取られた積層体同士で癒着が生じてしまうおそれがあるため、スペーサーを挟みながら巻き取ることが行われている(特許文献4参照)。
【0006】
スペーサーを用いて巻き取りを行う場合、高分子フィルムの前駆体層の全面が覆われるようにスペーサーを配置してしまうと、今度は高分子フィルムとスペーサーとの癒着が生じたり、またスペーサーの表面形状が高分子フィルムに転写されてしまったりといった新たな問題が発生する。このような不都合を回避するために、両端部分にのみ布帛状物からなるスペーサーを配置して巻き取りを行う方法が提案されている。この布帛状物からなるスペーサーとしては、セルロース繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、金属繊維、金属細線等から作られる織布、不織布、或いは、耐熱素材からなる貫通孔を有する多孔質体等が提案されている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2005−342980号公報
【特許文献2】特開昭62−212140号公報
【特許文献3】特開2006−088426号公報
【特許文献4】特開平04−084488号公報
【特許文献5】特開2005−131918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようなスペーサーの適用によって、巻き取りによる積層体同士の癒着は低減することができるが、例えば液晶ポリエステルフィルム等、極めて癒着し易い高分子フィルムを形成する場合は、癒着がほぼ完全に生じないようにすることが望ましい場合もある。スペーサーが薄い場合は、このスペーサーから遠い中央領域がたわむこと等によって、癒着が部分的に生じてしまうおそれがある。したがって、癒着を確実に防ぐ観点からは、スペーサーはできるだけ厚くすることが好ましい。
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、癒着を確実に防ぐためにスペーサーを厚くした場合は、その重量増加等に基づいて次のような問題が生じ易くなることが判明した。すなわち、高重量のスペーサーは、その熱容量が大きいことから、高分子フィルムの前駆体に熱処理を施した際に、巻き取り体に付与した熱を多く消費してしまい、その結果、熱処理に必要な処理時間や熱量を増大させて、高分子フィルム積層体の生産性を低下させる要因となることが判明した。
【0009】
すなわち、スペーサーの熱容量が大きい場合は、このスペーサーの熱消費によって、巻き取り体の外周部に比べて内周部の方が熱処理温度への追随が大幅に遅くなる傾向にある。この場合、熱履歴を受け難い内周部に合わせて長時間の加熱を行う必要があり、熱処理に過剰なエネルギーやコストがかかるようになる。また、熱履歴の相違によって巻き取り体の外周部と内周部とで得られる高分子フィルムの特性に差が生じたり、外周部が必要以上に加熱されてこの部分の高分子フィルムの劣化が生じたりすることもある。
【0010】
さらに、スペーサーが高重量であると、操作性が悪くなるほか、一生産ロットの巻き取り体の重量が過度に増大し、一度に多くの高分子フィルム積層体を製造することが困難となる傾向もあった。これらの理由により、スペーサーとしては、十分な機能が得られる範囲でできるだけ軽量なものが求められているのが現状である。
【0011】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、金属箔上に高分子フィルムの前駆体層が形成された積層体を巻き取り、これを熱処理することによって高分子フィルム積層体を得る製造方法において、積層体の巻き取りにおける癒着を十分に抑制しながら、生産性よく均質な高分子フィルム積層体を製造することができる高分子フィルム積層体の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、このような製造方法によって得られた高分子フィルム積層体、及び、この高分子フィルム積層体を用いたフレキシブル配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の高分子フィルム積層体の製造方法は、金属箔上に高分子フィルムの前駆体からなる前駆体層が形成された積層体を巻き取り、巻き取り体を得る第1工程と、巻き取り体を熱処理して、金属箔上に高分子フィルムが形成された高分子フィルム積層体を得る第2工程とを有し、第1工程においては、巻き取られる積層体同士の間に挟まれるように、この積層体の巻き取り方向と交差する方向の両端に位置する辺に沿ってそれぞれスペーサーを配置して積層体を巻き取り、スペーサーとして、一方向に凹凸を繰り返す波型の断面形状を有しており、この波型によって形成される見かけ厚さが0.5〜3mmである金属製スペーサーを用い、当該スペーサーを、波型の上記一方向が巻き取り方向と同じとなるように配置することを特徴とする。ここで、波型によって形成される「見かけ厚さ」とは、波型を構成している凹凸における、凸部の頂部を結んだ面と凹部の頂部を結んだ面との間の距離をいうこととする。
【0013】
上記本発明の製造方法においては、巻き取り体の両端部において、巻き取りによって周方向に隣り合う積層体の間にスペーサーが挟まれる。この際、スペーサーは波型の断面形状を有していることから、隣り合う積層体同士は、この波型を構成する凹凸における凸部の頂部と凹部の頂部とによってそれぞれ支持される。そのため、本発明においては、巻き取りの際に、波型によって形成される見かけ厚さの分だけ、隣り合う積層体同士が離間されることになる。そして、本発明においては、この見かけ厚さが0.5〜3mmと十分に大きいことから、巻き取りによる積層体同士の癒着を十分に防止することができる。
【0014】
また、スペーサーは、波型によって見かけ厚さが大きくされていることから、かかるスペーサーを構成する部材自体は薄いものでよい。そのため、確実に癒着を防止できるだけの厚さを実際に有するスペーサーと比べると、大幅な軽量化がなされたものとなる。したがって、本発明によれば、このような厚くて高重量のスペーサーを用いる場合と比較して、スペーサーの熱容量の影響を小さくして良好な生産性を得ることが可能となる。さらに、このようにスペーサーの熱容量が小さいことから、巻き取り体の外周部と内周部との熱処理の程度にも差が生じ難くなり、これによって均質な高分子フィルム積層体を得ることが可能となる。
【0015】
上記本発明の高分子フィルム積層体の製造方法においては、スペーサーの上記見かけ厚さが1〜2mmであるとより好ましい。こうすれば、巻き取りの際における積層体同士の癒着をより確実に防止することができるようになる。
【0016】
また、積層体の両端に配置するスペーサーのうちの少なくとも一方は、当該スペーサーの有する一辺が積層体よりも外側にはみ出すように配置してもよい。こうすれば、スペーサーのはみ出した部分がかみ合うように順次巻き取られるようになる。これにより、巻き取り後の積層体がある程度固定されるため、巻き取りの力によって周方向に隣接する積層体同士の滑りが発生し難くなり、その結果、内周部分の積層体が過度に巻き締められてしわ等が発生するといった不都合が大幅に低減されるようになる。
【0017】
本発明はまた、上記本発明の製造方法によって得られた高分子フィルム積層体を提供する。さらに、本発明は、かかる本発明の高分子フィルム積層体を用いたフレキシブル配線板を提供する。これらの高分子フィルム積層体及びフレキシブル配線板は、上記本発明の製造方法を経て得られたものであるため、高分子フィルムが製造時の癒着による影響を殆ど受けておらず、良好な形状及び特性を有する高分子フィルムを備えるものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属箔上に高分子フィルムの前駆体層が形成された積層体を巻き取り、これを熱処理することによって高分子フィルム積層体を得る製造方法において、積層体の巻き取りにおける癒着を十分に抑制しながら、巻き取り体のロットにおいて均一な品質を有する高分子フィルム積層体を生産性よく製造することができる高分子フィルム積層体の製造方法を提供することが可能となる。また、このような製造方法を経て得られ、良好な形状及び特性を有する高分子フィルムを備える高分子フィルム積層体及びフレキシブル配線板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。
[高分子フィルム積層体]
【0020】
まず、本発明の好適な実施形態に係る製造方法によって得られる高分子フィルム積層体の構成について説明する。図1は、好適な実施形態の高分子フィルム積層体の断面構成を模式的に示す図である。図示されるように、高分子フィルム積層体1は、金属箔2上に高分子フィルム4が積層された構成を有している。
【0021】
金属箔1は、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル等の金属からなる箔、薄膜、シート状フィルム等から構成されるものである。高分子フィルム積層体1をFPCに用いる場合は、金属箔1としては、導電性とコストの観点から銅箔が好ましい。この金属箔1は、短手方向の幅が150〜1500mm程度であり、長手方向の幅が1〜6000m程度のものが好適であるが、高分子フィルム積層体1に求められるサイズに応じて適宜変更することができる。
【0022】
高分子フィルム4は、フィルムを形成し得る高分子化合物によって構成され、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドベンゾオキサゾール、液晶ポリエステル等の樹脂材料から構成されるものが好適である。なかでも、FPCに適用する場合、低吸水性であり、電気絶縁性にも優れることから液晶ポリエステルが好ましい。
【0023】
高分子フィルム積層体1における金属箔2の厚さは、3〜70μmが好ましく、9〜35μmがより好ましい。また、高分子フィルム4の厚さは、その成膜性や機械特性を良好にする観点からは、1〜500μm程度であると好ましく、更に取り扱い性を良好にする観点からは、1〜200μmであるとより好ましい。
【0024】
ここで、高分子フィルム4を構成する好適な材料である液晶ポリエステルについてより具体的に説明する。
【0025】
液晶ポリエステルとしては、繰り返し単位に芳香環を含む芳香族液晶ポリエステルが好ましく、溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルがより好ましい。このような芳香族液晶ポリエステルとしては、例えば、特開2004−269874号公報や特開2005−342980号公報に開示された、ハロゲン化フェノールや非プロトン溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルが例示できる。なかでも、後述する高分子フィルム積層体1の製造方法への適用が容易な、非プロトン溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルが好ましい。
【0026】
非プロトン溶媒に可溶な芳香族液晶ポリエステルとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジカルボン酸等を原料化合物としてそれぞれ誘導される構造単位を有するものが挙げられる。
【0027】
特に、良好な液晶性を発現する観点からは、芳香族液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される下記式(1)で表される構造単位、芳香族ジオール、芳香族ジアミン及び水酸基を有する芳香族アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物から誘導される下記式(2)で表される構造単位、及び、芳香族ジカルボン酸から誘導される下記式(3)で表される構造単位を組み合わせて有するものが好適である。なお、芳香族液晶ポリエステルは、上記(1)〜(3)で表される構造単位をそれぞれ2種以上有していてもよい。
(1) −O−Ar−CO−
(2) −X−Ar−Y−
(3) −CO−Ar−CO−
【0028】
上記式中、Arは、1,4−フェニレン、2,6−ナフチレン及び4,4’−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、Arは、1,4−フェニレン、1,3−フェニレン及び4,4’−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の基である。また、X、Yはそれぞれ−O−又は−NH−で表される基である。Arは、1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、2,6−ナフチレン、及び、下記式(4)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である。
(4) −Ar−Z−Ar
【0029】
なお、式(4)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、1,4−フェニレン、2,6−ナフチレン及び4,4’−ビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の基である。さらに、Zは、−O−、−SO−及び−CO−で表される基からなる群から選ばれる少なくも1種の基である。
【0030】
ここで、上記(1)の構造単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸等に由来する構造単位が挙げられる。なかでも、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位が好ましい。また、上記式(2)の構造単位としては、例えば、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルアルコール等に由来する構造単位が挙げられる。なかでも、芳香族液晶ポリエステル製造時の反応性の観点から、4−アミノフェノール由来の構造単位が好ましい。
【0031】
上記式(3)の構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4’−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸等に由来する構造単位が挙げられる。なかでも、溶媒への溶解性を向上させる観点からは、イソフタル酸由来の構造単位又はジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸由来の構造単位が好ましい。
【0032】
上記式(1)〜(3)の構造単位を含む芳香族液晶ポリエステルは、これらの構造単位を次に示すような割合で有していることが好ましい。すなわち、式(1)の構造単位の割合は、全構造単位に対して30〜80モル%であると好ましく、35〜65モル%であるとより好ましく、40〜55モル%であるとさらに好ましい。このような割合で式(1)の構造単位を有していると、芳香族液晶ポリエステルの溶媒への溶解性が良好となり、後述する製造方法に好適な溶液キャスト法に適用し易くなる。また、液晶性が良好に維持されるようになる。
【0033】
また、式(2)の構造単位の割合は、全構造単位に対して10〜35モル%であると好ましく、17.5〜32.5モル%であるとより好ましく、22.5〜30.0モル%であると更に好ましい。このような割合を満たすと、芳香族液晶ポリエステルの溶媒への溶解性が良好となるほか、優れた液晶性も得られるようになる。
【0034】
さらに、式(3)の構造単位の割合は、全構造単位に対して35〜10モル%であると好ましく、17.5〜32.5モル%であるとより好ましく、22.5〜30.0モル%であると更に好ましい。
【0035】
さらにまた、式(2)の構造単位の含有割合と、式(3)の構造単位の含有割合とは、[式(2)の構造単位の含有割合/式(3)の構造単位の含有割合]で表した場合(各構造単位の含有割合の単位はモル%)に、0.85〜1.25を満たすと好ましく、1に近いことが特に好ましい。すなわち、式(2)の構造単位の含有割合と、式(3)の構造単位の含有割合とは実質的に同等であると特に好ましい。このような条件を満たすようにすると、芳香族液晶ポリエステルの重合度が良好となる傾向にある。
【0036】
芳香族液晶ポリエステルは、上述したような各構造単位に誘導される化合物(モノマー)を、特開2002−220444号公報、特開2002−146003号公報等に記載された公知の方法で重合することによって製造することができる。上記式(1)〜(3)の構造単位を有する芳香族液晶ポリエステルを得るには、例えば、まず、式(1)の構造単位の原料化合物である芳香族ヒドロキシカルボン酸におけるフェノール性水酸基、及び、式(2)の構造単位の原料化合物である芳香族ジオール、芳香族ジアミン又は水酸基を有する芳香族アミンにおけるフェノール性水酸基やアミノ基を、過剰量の脂肪酸無水物と反応させてアシル化し、アシル化物を生じさせる。次いで、得られたアシル化物と、式(3)の構造単位の原料化合物である芳香族ジカルボン酸との間でエステル交換・アミド交換(重縮合)反応を生じさせて溶融重合することにより、芳香族液晶ポリエステルを得ることができる。
【0037】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量を、原料化合物が有しているフェノール性水酸基とアミノ基の合計に対して1.0〜1.2倍当量とすることが好ましく、1.05〜1.1倍当量とすることがより好ましい。脂肪酸無水物の添加量がこの範囲であると、続くエステル交換・アミド交換反応の際にアシル化物やその原料化合物の昇華が生じ難くなり、反応系が閉塞してしまうといった不都合を避けることができる。その結果、得られる芳香族液晶ポリエステルの着色を大幅に少なくできる傾向にある。アシル化反応は、130〜180℃で5分間〜10時間行うことが好ましく、140〜160℃で10分間〜3時間行うことがより好ましい。
【0038】
アシル化反応に用いる脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を組み合わせて用いてもよい。取り扱い性やコストの観点からは、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸又は無水イソ酪酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。
【0039】
アシル化反応に続くエステル交換・アミド交換反応においては、アシル化物のアシル基の合計が、芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基の合計の0.8〜1.2倍当量とすることが好ましい。また、エステル交換・アミド交換反応は、例えば、400℃まで0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら生じさせることが好ましく、350℃まで0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら生じさせるとより好ましい。なお、反応時には、平衡を移動させて芳香族液晶ポリエステルの生成を有利にするため、副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物を、蒸発させる等によって反応系から取り除くことが好ましい。
【0040】
上述したような芳香族液晶ポリエステルの製造におけるアシル化反応、エステル交換・アミド交換反応は、触媒の存在下で行ってもよい。こうすれば反応を温和な条件で効率よく行うことができ、芳香族液晶ポリエステルの製造をより良好に行うことができる。触媒としては、ポリエステルの重合用の触媒として用いられるものを適用でき、なかでも、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒などが好ましい。特に、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましい。これらの触媒を用いる場合、触媒は、反応前に投入するが、例えば、アシル化反応で用いた触媒は、反応後に除去せずにそのままエステル交換・アミド交換反応に用いてもよい。
【0041】
また、エステル交換・アミド交換反応による重縮合は、溶融重合により行うことができるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、これを粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法を適用することにより行うことができる。例えば、窒素などの不活性雰囲気下、150〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理する方法が挙げられる。また、固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお、適当な攪拌機構を備えることにより、溶融重合と固相重合とを同一の反応槽で行うこともできる。固相重合後、得られた芳香族液晶ポリエステルは、公知の方法によりペレット化し、その後成形してもよい。
【0042】
芳香族液晶ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができる。そして、上述したような製造方法によって、非プロトン溶剤に可溶な芳香族液晶ポリエステルを得ることができる。
[高分子フィルム積層体の製造方法]
【0043】
次に、好適な実施形態に係る高分子フィルム積層体の製造方法について説明する。好適な実施形態の高分子フィルム積層体の製造方法は、金属箔上に高分子フィルムの前駆体からなる前駆体層が形成された積層体を巻き取り、巻き取り体を得る第1工程と、巻き取り体を熱処理して、金属箔上に高分子フィルムが形成された高分子フィルム積層体を得る第2工程と、を有する。
【0044】
まず、第1工程について説明する。
【0045】
図2は、第1工程において積層体を巻き取る工程を模式的に示す図である。図示されるように、第1工程においては、巻き取られる積層体10同士の間に挟まれるように、この積層体10の巻き取り方向と交差する方向の両端部に位置する辺に沿って連続的にスペーサー30を配置して積層体10を巻き取り、巻き取り体100を得る。なお、図2において、スペーサー30は概略的に示し、このスペーサー30の詳細な形態については後述する。
【0046】
このような第1工程においては、まず、積層体10を準備する。積層体10は、金属箔2と、この金属箔2上に形成された高分子フィルムの前駆体からなる前駆体層14から構成される。金属箔2は、上述した高分子フィルム積層体1における金属箔2と同様である。一方、前駆体層14は、熱処理によって上述した高分子フィルム4を形成し得る層である。例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドベンゾオキサゾール等の製造におけるイミド閉環を生じる前の前駆体化合物を含む層や、熱処理前の芳香族液晶ポリエステルを含む層から構成される。なお、前駆体層14は、高分子フィルム4の前駆体化合物から構成される層には必ずしも限定されず、例えば、熱処理によって溶媒を除去するだけで高分子フィルム4となる層も前駆体層14に含まれる。
【0047】
積層体10は、例えば、予め製造した前駆体層14と金属箔2とをラミネートにより積層する方法や、前駆体層14を形成するための溶液組成物を金属箔2上に流延する溶液キャスト法によって得ることができる。特に、後者の溶液キャスト法が好ましい。溶液キャスト法によれば、操作が容易となるのに加え、金属箔2と高分子フィルム4との接着性を良好にすることができる。溶液キャスト法においては、例えば、金属箔2上に溶液組成物を流延した後、溶液組成物中の溶媒を除去して前駆体層14を形成し、これにより積層体10を得る。
【0048】
溶液キャスト法に用いる溶液組成物としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドベンゾオキサゾールからなる高分子フィルム4を形成する場合、これらの前駆体であるポリアミック酸化合物を含む溶液が挙げられる。このような溶液組成物は、例えば、原料モノマーであるジアミンと酸二無水物をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等に溶解した後、原料モノマー同士を反応させることによって得ることができる。
【0049】
一方、液晶ポリエステルからなる高分子フィルム4を形成する場合、溶液組成物としては、上述した液晶ポリエステルを非プロトン性溶媒に溶解して得られたものが挙げられる。この溶液組成物としては、非プロトン性溶媒100重量部に対して液晶ポリエステルを0.01〜100重量部溶解させたものが挙げられる。このような溶液組成物は、適度な溶液粘度を有することから、溶液キャスト法に適用した場合に均一な塗布が可能となる。
【0050】
液晶ポリエステルを含む溶液組成物としては、特に、非プロトン性溶媒100重量部に対して、液晶ポリエステルを1〜50重量部含むものが好ましく、2〜40重量部含むものがより好ましい。このような溶液組成物によれば、更に良好な作業性が得られるほか、コストの低減も図れるようになる。
【0051】
非プロトン性溶媒としては、例えば、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、γ―ブチロラクトン等のラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリル等のニトリル系溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリ−n−ブチルリン酸等のリン酸系溶媒などが挙げられる。
【0052】
これらのなかでも、非プロトン性溶媒としては、ハロゲン原子を含まない溶媒が環境への負荷を少なくできることから好ましく、双極子モーメントが3以上5以下である溶媒が液晶ポリエステル(特に芳香族液晶ポリエステル)を良好に溶解できることからより好ましい。このような非プロトン性溶媒としては、具体的には、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、又は、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒が好ましく、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドンが特に好ましい。なお、溶液組成物には、高分子フィルム積層体の製造を阻害しない程度に非プロトン性溶媒以外の溶媒が含まれていてもよい。
【0053】
上述したようなポリイミド等や芳香族液晶ポリエステルを含む溶液組成物には、製造時に副生又は混入等した微細な異物が含まれる場合があるが、このような異物はフィルター等によるろ過を行って除去してもよい。また、溶液組成物には、所望とする高分子フィルム4の特性を得るために、必要に応じて上記以外の成分を更に含んでもよい。他の成分としては、フィラーや熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0054】
フィラーとしては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、スチレン樹脂粉末等の有機系のフィラー、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ガラス繊維、アルミナ繊維等の無機系のフィラー等が挙げられる。
【0055】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体等のエラストマー等が挙げられる。
【0056】
その他、溶液組成物は、カップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の添加剤を更に含有していてもよい。
【0057】
溶液キャスト法による積層体10の製造においては、上述した溶液組成物を、金属箔2上に流延して塗布した後、溶液組成物中の溶媒を除去することにより高分子フィルムの前駆体からなる前駆体層14を形成する。流延・塗布の方法としては、例えば、ローラーコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、ロッドコート法、ディップコートター法、スプレイコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。これらの中でも、制御が容易であり、膜厚を精度よく均一にできることから、ナイフコート法又はスロットコート法が好ましい。
【0058】
塗布後の溶媒除去の方法は特に制限されないが、例えば、溶媒を蒸発させることによって行うことが好ましい。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風等の方法が挙げられる。なかでも、生産効率が良く、取り扱い性が良好であることから、加熱による蒸発が好ましく、通風しつつ加熱することにより蒸発させることがより好ましい。
【0059】
溶媒の除去方法としては、具体的には、金属箔2上に溶液組成物が流延塗布された状態の積層体を、後述するような巻き取りの工程に誘導する途中で、この積層体を走行させながら加熱炉を通過させ、これによって溶媒を除去する方法が挙げられる。溶媒除去に要する温度や時間は特に制限されないが、例えば、温度は160℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましく、140℃以下とすることが更に好ましい。温度が高すぎると、塗膜面に欠陥が生じる可能性がある。一方、温度が低すぎると、溶媒除去かかる時間が長くなり、生産性が低下するおそれがある。そのため、溶媒除去は、少なくとも60℃以上で行うことが好ましい。
【0060】
高分子フィルム4として芳香族液晶ポリエステルからなるものを形成する場合は、その前駆体層14は、残存する溶媒量が18重量%以下となるように溶媒の除去を行うことが好ましい。残存する溶媒量を18重量%以下、好ましくは15重量%以下とすれば、前駆体層14は殆ど乾燥した状態となって、後述する熱処理前に積層体10の接触が生じたとしても癒着が生じ難くなり、巻き取りの工程時の作業性が向上する傾向にある。
【0061】
以下、ふたたび図2を参照して第1工程について説明する。第1工程においては、上述のようにして得られた積層体10を巻き取り、巻き取り体100を得る。この巻き取りに際しては、積層体10の前駆体層14上に、積層体10における長手方向(巻き取り方向)の両辺のそれぞれに沿うように連続的にスペーサー30を配置し、積層体10とともにこのスペーサー30も巻き取る。これにより、巻き取り体100の両端部において、巻き取りによって周方向に重ねられる積層体10の間にスペーサー30が挟まれた構成となり、その結果、周方向に隣り合う積層体10同士が互いに接触しないようにされる。
【0062】
なお、第1工程においては、いったん積層体10をそのまま巻き取った後、これを用いて更にスペーサー30を合わせた巻き取りを行ってもよい。乾燥後の前駆体層14は、熱処理しなければ癒着を生じないため、この場合であっても最初の巻き取りでの癒着は殆ど問題となることはない。
【0063】
スペーサー30は、金属製であり板状の形状を有する部材(以下、「板状部材」と略す)から構成されるものである。このスペーサー30は、積層体10の長手方向(巻き取り方向)の両辺に沿って巻き取ることができるように、長辺及び短辺を有する長尺状の形状を有している。そして、その長辺方向に凹凸を繰り返す波型の断面形状を有している。このスペーサー30は、第1工程において、上記長辺方向が積層体10の巻き取り方向と同じとなるように配置される。そのため、巻き取りの際に屈曲し易い状態となっており、積層体10とともに巻き取ることが容易である。
【0064】
図3は、好適な例のスペーサー30の構成を部分的に示す斜視図である。図3において、矢印方向がスペーサー30の長辺方向であり、第1工程における巻き取り方向と一致する。また、図4は、図3に示すスペーサー30の長辺方向に沿う断面構成を模式的に示す図である。図示のように、スペーサー30は、長辺方向に凹凸が繰り返された波型の断面形状を有している。
【0065】
なお、図3及び4は、スペーサー30の構造の一例を示したものであり、スペーサー30としては、巻き取り方向に沿って波型の断面を配置できる構造を有するものであれば特に制限されない。例えば、図示の場合、波型を構成する凹凸の断面形状が台形状であったが、例えば、凹凸の断面形状が三角形、方形等やこれらの角部に丸みを持たせた形状、或いは半円状のもの等も同様に適用できる。また、図示のように凹凸が規則的に繰り返された断面形状でなくてもよく、大きさや形状が異なる凹凸が不規則に繰り返された形状であってもよい。
【0066】
スペーサー30は、上述した波型の断面形状を有することによって形成される見かけ厚さが、0.5〜3mmであり、1〜2mmであると好ましい。ここで、スペーサー30の見かけ厚さとは、上述の如く、波型を構成している凹凸における、凸部の頂部を結んだ面と、凹部の頂部とを結んだ面との間の距離である。なお、波型を形成する凹凸は、個々の凸部又は凹部ごとに大きさが異なる場合があることから、スペーサー30は、場所によっては見かけ厚さが異なる場合もある。ただし、この場合であっても、全ての部位において上述した見かけ厚さの範囲が満たされることが好ましい。図3及び4に示したスペーサー30の場合、例えば、波型を構成する凹凸における凸部の頂面32を結んだ面と、凹部の頂面34を結んだ面との距離h(図4参照)が、当該スペーサー30の見かけ厚さに該当する。
【0067】
スペーサー30の見かけ厚さが小さすぎる場合は、例えば巻き取りの際に積層体10のスペーサーから遠い中央付近の領域がたわんだ場合等に、積層体10同士の接触を十分に防止できなくなる。一方、この見かけ厚さが大きすぎると、巻き取りが困難となるほか、巻き取り体100の外径が大きくなって大型の加熱炉が必要となったり、また、加熱炉に入れられる巻き取り体100の数が少なくなったり等、製造上の不都合を生じる場合もある。
【0068】
また、スペーサー30の波型の断面形状が、略同様の凹凸パターンが繰り返された形状である場合は、繰り返される凹凸パターンのピッチが、上記見かけ厚さの1〜10倍であると好ましく、2〜10倍であるとより好ましい。この凹凸パターンのピッチが上記好適範囲であると、巻き取り方向への屈曲性が良好となり、積層体10とともにスペーサー30を巻き取るのが容易となる傾向にあるほか、波型の断面形状を有するスペーサー30の製造自体が容易となるという利点も得られるようになる。
【0069】
ここで、凹凸パターンのピッチとは、波型を構成している凹凸における、1つの凸部とこれに隣接している1つの凹部とを1つのパターンとし、この1つのパターンの始点から次のパターンの始点までのスペーサー30における面方向と平行な距離をいうこととする。例えば、図3及び4に示すスペーサー30の場合、図4中、pで表される距離が、当該スペーサー30における凹凸パターンのピッチに該当する。
【0070】
スペーサー30の短辺方向の幅は、積層体10の短手方向(巻き取り方向に垂直な方向)の幅に対して合計で10〜20%となるようにすることが好ましく、5〜10%となるようにすることがより好ましい。スペーサー30を配置した領域は、通常、高分子フィルム4にスペーサー30の表面形状が転写されたりして高分子フィルム積層体1として使用できないことが多い。これに対し、スペーサー30の幅を上述した範囲とすることで、高分子フィルム積層体1として使用できない領域をできるだけ小さくしながら、巻き取りによる積層体10同士の接触を十分に防止することができる。
【0071】
スペーサー30は、金属から構成される板状の部材である。このスペーサー30を構成する金属としては、高分子フィルム積層体1の製造において十分な耐薬品性や熱に対する耐久性を有するものが好ましい。このような金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン、ニッケルやこれらの合金等が例示される。なかでも、スペーサー30としては、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等のステンレスからなるものが好適である。スペーサー30を構成する板状部材としては、金属板、金属箔、金属薄板、金網、或いは、金属板に多数の穴を設けたパンチングメタル等を適用できる。
【0072】
また、スペーサー30は、これを構成している板状の部材自体の厚さが、1〜300μmであるものであると好ましく、5〜100μmであるものであるとより好ましい。この板状部材自体の厚さが厚すぎると、スペーサー30が高重量化及び高熱容量化し、高分子フィルム積層体1の良好な生産性が得られなくなるおそれがあるほか、波型の断面形状を形成し難くなる可能性もある。一方、薄すぎると、強度が不十分となり、巻き取りの際に凹凸の断面形状を維持できなくなって、巻取り時の積層体10同士の癒着を防げなくなる場合がある。
【0073】
このような波型の断面形状を有するスペーサー30は、例えば、次のような方法によって製造することができる。すなわち、波型に加工する前の上述したような金属からなる板状部材(金属箔、金属板、金網等)を準備し、これらに対し、順送プレス加工、コルゲート加工、エンボス加工、プリーツ加工等を適宜施すことで、波型の断面形状を有するように加工することで、スペーサー30が得られる。
【0074】
第1工程における積層体10の巻き取りは、積層体10の巻き取り方向の一端を所定の巻芯に固定し、積層体10がこの巻芯の周囲に巻き取られるようにして行うことができる。この際、積層体10の長手方向の両端部領域上に配置されるようにスペーサー30を順次繰り出し、これにより積層体10とともにスペーサー30も巻き取られるようにする。
【0075】
積層体10を巻き取る際の速度は、巻き取り体100の形状や積層体10の寸法によって適宜調整することが好ましいが、例えば0.1〜100m/分の範囲とすることができる。また、巻き取りは、巻き取り部分を強制回転させて巻き取る方法や、巻き取り部分は自由回転できるようにしておき、巻き取り部分までの途中に適切なガイドロールを配置し、このガイドロールを回転させることによって、積層体10を巻き取り部分に送り出す方法が挙げられる。なお、巻き取りの際には、積層体10が大きくたわまないように、破断が生じない程度の張力をかけてもよい。
【0076】
上述した巻芯としては、その外径が好ましくは30〜500mmφ、より好ましくは40〜300mmφ、更に好ましくは50〜200mmφ、特に好ましくは60〜158mmφのものを適用できる。また、巻芯と積層体10とをあわせた熱処理前の巻き取り体100の外径は、巻芯として60〜158mmφのものを用いた場合、好ましくは60〜500mmφであり、より好ましくは90〜400mmφである。巻芯の材質としては、熱処理条件に耐える耐熱性のほか、耐薬品性を有しており、しかも熱処理時に積層体10とスペーサー30の重量にも耐え得る強度を有するものが好ましい。このような巻芯の材質としては、鉄、銅、アルミニウム、チタン、ニッケルまたはこれらの合金等が挙げられる。特に、巻芯としては、A5052、A5056、A5083等のマグネシウム系アルミニウム合金や、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等のステンレス等からなるものが好適である。
【0077】
第1工程では、巻き取り体100の両端部において、巻き取りによって隣り合う積層体同士の間にスペーサー30が配置される。この際、隣り合う積層体同士は、スペーサー30の波型を構成する凸部と凹部とによってそれぞれ支持されるため、スペーサー30の見かけ厚さの分だけ離間されることになる。したがって、スペーサー30が上記のような見かけ厚さを有することで、巻き取りによって隣り合う積層体同士が十分に離されることとなり、その結果、巻き取りによる積層体の癒着を防止することが可能となる。
【0078】
なお、図2においては、積層体10の長手方向の両辺とスペーサー30の外側の長辺とがほぼ一致しているが、より好適な場合、巻き取りの際には、スペーサー30の外側の長辺が積層体10よりも外側にはみ出すようにスペーサー30を配置してもよい。図5は、巻き取り工程において、スペーサー30がはみ出すように配置した状態を部分的に示す斜視図である。図示のように、スペーサー30の長手方向に沿う側辺が、積層体10の巻き取り方向の両端よりもはみ出すように配置することで、巻き取りの際、スペーサー30が、その積層体10よりもはみ出した部分で順次かみ合うようにして巻き取られる。こうなると、巻き取り後の積層体10は、スペーサー30同士の噛合によってある程度固定されることとなり、これにより巻き取りの力による周方向に隣接する積層体同士の滑りが発生し難くなる。その結果、内周部分の積層体が過度に巻き締められてしわ等が発生するといった不都合を大幅に低減することが可能となる。
【0079】
このような効果を良好に得る観点からは、スペーサー30は、その短辺方向(巻き取りに対して略垂直な方向)の幅のうちの1〜50%が積層体10よりもはみ出していると好ましく、5〜33%がはみ出しているとより好ましい。なお、このはみ出した部分の幅が50%を超える場合は、スペーサー30によって積層体10同士の癒着を十分に防止できなくなるおそれがあるので、好ましくない。
【0080】
次に、第2工程について説明する。
【0081】
上述した第1工程によって巻き取り体100を得た後、第2工程においてこの巻き取り体100に熱処理を施す。かかる熱処理によって、前駆体層14から高分子フィルム4が形成され、金属箔2上に高分子フィルム4が積層された高分子フィルム積層体1が得られる。
【0082】
熱処理は、前駆体層14から適切に高分子フィルム4が形成されるような条件で行うことが好ましい。例えば、ポリイミド等の高分子フィルム4を形成する場合は、その前駆体化合物であるポリアミック酸のイミド閉環反応が生じる程度の条件とし、高分子液晶ポリエステルからなる高分子フィルム4を形成する場合は、前駆体層14から、引張強度や剥離強度等において十分な特性を有する高分子フィルム4が形成されるような条件とする。
【0083】
具体的には、熱処理時の処理温度は、200℃〜350℃の範囲が好ましい。この温度範囲の下限は、250℃であるとより好ましく、280℃であると更に好ましい。一方、処理温度の上限は340℃であるとより好ましく、330℃であると更に好ましい。また、熱処理の処理時間は、10分〜15時間の範囲とすることが好ましい。この処理時間の下限は、20分であるとより好ましく、40分であると更に好ましい。一方、処理時間の上限は、12時間であるとより好ましく、10時間であると更に好ましい。熱処理においては、金属箔2の酸化による劣化を防止する観点から、熱処理環境を窒素、アルゴン、ネオン等の不活性ガスで置換したり、あるいは真空としたりしてもよい。
【0084】
第2工程による熱処理後には、巻き取り体100を冷却し、この巻き取り体100から高分子フィルム積層体1を繰り出し、更に必要に応じて切断や、スペーサー30の除去等を行うことで、実用に即した形状の高分子フィルム積層体1が得られる。スペーサー30の除去は、例えば積層体10の表面からスペーサー30を取り除くことにより行ってもよく、積層体10におけるスペーサー30が形成されている領域を切断して取り除くことにより行ってもよい。
【0085】
また、高分子フィルム積層体1における高分子フィルム4の表面は、必要に応じて研磨を行ってもよいし、酸や酸化剤などの薬液で処理してもよい。その他、紫外線照射処理、プラズマ照射処理等の処理を適宜施してもよい。
【0086】
上述した実施形態の高分子フィルム積層体1の製造方法によれば、第1工程において、両端部にスペーサー30を配置して積層体10の巻き取りを行っているため、巻き取りによる積層体10同士の接触を大幅に低減しながら巻き取りを行うことができ、隣り合う積層体10同士の癒着が少ない高分子フィルム積層体1のロールを得ることができる。その結果、高分子フィルム4部分の癒着による変形や特性劣化等が少ない良好な高分子フィルム積層体1が得られるようになる。
【0087】
また、本実施形態におけるスペーサー30は、波型の断面形状を有することから、その凹凸によって形成される見かけ厚さの分だけ、巻き取られる積層体10同士を離間させることができる。従来、波型ではないスペーサーの場合は、確実に積層体10の癒着を抑制するため、上記見かけ厚さと同等の厚さを実際に有するものを用いる必要があったのに対し、本実施形態においては、波型によって十分な見かけ厚さを確保できるため、実際にはこれよりも大幅に薄い部材をスペーサーの構成材料として用いることができる。その結果、スペーサー30の大幅な軽量化及び低熱容量化が可能となる。
【0088】
したがって、本実施形態においては、このようなスペーサー30を用いることで、巻き取りによって重ねられる積層体10同士の癒着を確実に防止しながら、巻き取り体100の熱処理においては、スペーサー30による熱量のロスを少なくでき、熱処理に要する熱量や時間を低減して高い生産性を達成することが可能となる。さらには、スペーサー30の熱容量が小さいことから、巻き取り体の外周部と内周部との熱処理の程度にも差が生じ難くなり、これによって均質な高分子フィルム積層体を得ることも可能となる。
【0089】
以上、本発明の高分子フィルム積層体及びその製造方法の好適な実施形態について説明を行ったが、本発明は上述した実施形態に限定されず、適宜変更が可能である。例えば、まず、上述した実施形態の製造方法では、第1工程において、スペーサー30を積層体10における前駆体層14の上に配置したが、これに限定されず、スペーサー30の配置は、積層体10における前駆体層14が、巻き取りによって重ねられる積層体10の金属箔2と接触しないようにできる範囲で適宜変更可能である。
【0090】
具体的には、例えば、熱処理後等にスペーサー30の形成領域を切断する場合は、高分子フィルム4用の材料を無駄にしないために、スペーサー30の形成領域には前駆体層14が形成されていなくてもよい。この場合、スペーサー30の見かけ厚さは、上述した実施形態と比べて前駆体層14のぶんだけ厚くする必要がある。また、上述した実施形態では、積層体10をその前駆体層14が内側となるようにして巻き取ったが、これに限定されず、金属箔2が内側となるように巻き取ってもよい。これらの場合であっても、積層体10のスペーサー30の配置領域が重なるように巻き取りを行うことにより、前駆体層14が隣り合う積層体と接触するのを防止することができる。
【0091】
また、上述した実施形態では、積層体10をその前駆体層14が内側となるようにして巻き取ったが、これに限定されず、金属箔2が内側となるように巻き取ってもよい。上述したいずれの場合であっても、スペーサー30を挟むようにして巻き取りを行うことにより、前駆体層14が周方向に隣り合う積層体と接触するのを防止することができる。
【0092】
さらに、スペーサー30は、高分子フィルム積層体の歩留まりを極端に低下させない程度であれば、積層体の端部よりも内側に配置されていてもよい。さらに、上述した製造方法によって得られる高分子フィルム積層体1は、金属箔2と高分子フィルム4との2層構造を有するものに限られず、適宜、他の層を有するものであってもよい。
【0093】
上述した構成を有する本発明の高分子フィルム積層体は、屈曲性が高く、寸法が安定しており、しかも反りの発生が少ないといった特徴を有することから、種々の用途に適用できる。例えば、銅張積層板用のベースフィルム、ビルドアップ法等による半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板用フィルム、フレキシブルプリント配線板(FPC)用フィルム、テープオートメーテッドボンデリング用フィルム、タグテープ用フィルム、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム等が挙げられる。
【0094】
なかでも、上述した特徴から、電子機器に搭載されるFPC用のフィルムとして好ましく適用される。本発明の高分子フィルム積層体を用いたFPCとしては、例えば、高分子フィルム積層体1における金属箔2を回路に加工して得られ、高分子フィルム4からなる基板上に回路が形成された構成を有するものが挙げられる。図6は、FPCの断面構成の一例を示す図である。FPC300は、基板22と、この基板22上に形成された回路24とを備えている。基板22は、高分子フィルム積層体1における高分子フィルム4からなり、回路24は、高分子フィルム積層体1における金属箔2が加工されてなるものである。なお、FPC用途に用いる場合、高分子フィルムは、10μm以上の厚さを有すると、高い絶縁性を発揮し得ることから好適である。
【0095】
また、本発明の高分子フィルム積層体は、特に、高分子フィルムが液晶ポリエステルから構成される場合、高周波特性に優れ、また低吸水性を有するものとなる。したがって、この場合、高分子フィルム積層体は、高周波プリント配線基板、高周波ケーブル、通信機器回路、パッケージ用基板等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[積層体の製造]
【0097】
まず、以下の実施例及び比較例で用いる積層体の製造方法について説明する。すなわち、まず、攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸941g(5.0モル)、4−アミノフェノール273g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸1123g(11モル)を入れた。この反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、この温度を保持して3時間還流させた。
【0098】
次いで、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、170分かけて320℃まで昇温した。そして、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、反応器内の内容物を取り出した。この内容物から得られた固形分は、室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕した後、窒素雰囲気下250℃で10時間保持することにより固相で重合反応を生じさせて、液晶ポリエステルの粉末を得た。
【0099】
それから、得られた液晶ポリエステルの粉末200gを、N−メチル−2−ピロリドン1170gに加え、これを180℃に加熱して完全に溶解させ、褐色透明な溶液を得た。
この溶液に、無機フィラーとしてホウ酸アルミニウム(四国化成工業(株)、アルボレックスM20C)48.7gを添加し、液晶ポリエステルを含む溶液組成物を得た。
【0100】
その後、得られた溶液組成物を、電解銅箔(3EC−VLP、幅280mm、厚さ18μm、三井金属(株)製)の上に、スロットダイコーターを用い、熱処理後の樹脂層厚みが25μmとなるようにキャストした。そして、高温熱風乾燥器を用いて120℃で加熱することにより、塗布された溶液組成物中の溶媒を、残存溶媒量が18重量%以下となるまで除去して、高分子フィルムの前駆体からなる前駆体層を形成させた。こうして、電解銅箔上に前駆体層を備える積層体を得た。
[高分子フィルム積層体の製造]
【0101】
(実施例1)
上述した積層体を、その銅箔側が外側となるようにして外径89.1mmのSUS316管に3m巻き取り、巻き取り体を得た。この際、積層体の前駆体層側の両端部分にそれぞれスペーサーを配置し、このスペーサーを積層体とともに巻き取るようにした。スペーサーとしては、メタルハニカム((株)玉川製作所製、38μmのSUS304製箔に、順送プレス加工によって長手方向に連続的に略台形の断面形状に加工したもの、幅59mm、見かけ厚さ1.3mm、59mm×1mの重量24g)を使用した。巻き取りは、このスペーサーを、その長手方向が巻き取り方向に沿うように配置して行った。
【0102】
その後、得られた巻き取り体を高温熱風乾燥器に入れ、窒素雰囲気下、320℃、2時間の熱処理を行い、高分子フィルム積層体が巻き取られたロールを得た。
【0103】
(比較例1)
スペーサーとして、平織金網(SUS304製、線径φ0.1mm、100mesh、幅50mm、厚さ0.18mm、50mm×1mの重量:23g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、高分子フィルム積層体が巻き取られたロールを得た。
【0104】
(比較例2)
スペーサーとして、平織金網(SUS304製、線径φ0.23mm、50mesh、幅50mm、厚さ0.37mm、50mm×1mの重量:49g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、高分子フィルム積層体が巻き取られたロールを得た。
【0105】
(比較例3)
スペーサーとして、片撚織金網(SUS304製、線径φ0.12mm×7本撚/0.35mm、30mesh/30mesh、幅80mm、厚さ0.75mm、80mm×1mの重量:127g)を用い、その撚線が巻き取り方向に沿うように配置しながら巻き取ったこと以外は、実施例1と同様にして、高分子フィルム積層体が巻き取られたロールを得た。
【0106】
(比較例4)
スペーサーとして、片撚織金網(SUS304製、線径φ0.23mm×7本撚/0.7mm、10mesh/10mesh、幅80mm、厚さ1.4mm、80mm×1mの重量:172g)を用い、その撚線が巻き取り方向に沿うように配置しながら巻き取ったこと以外は、実施例1と同様にして、高分子フィルム積層体が巻き取られたロールを得た。
[高分子フィルム積層体の癒着の評価]
【0107】
実施例1、比較例1〜4の製造方法により得られた高分子フィルム積層体のロールにおいて、高分子フィルム積層体同士の癒着が生じているかどうかを確認した。得られた結果を表1に示す。表1中、癒着が生じていなかったものを「良好」、癒着を生じていたものを「癒着」と示した。また、表中、スペーサーの厚さは、実施例については見かけ厚さ、比較例については実際の厚さをそれぞれ示している。
【表1】

【0108】
表1より、スペーサーとして波型の断面形状を有するものを用いた実施例1は、スペーサーが十分に軽量であるにもかかわらず、癒着を確実に防止することができた。一方、スペーサーとして波型の断面形状を有しない金網を用いた比較例1〜4では、軽量な金網を使用した比較例1および2では十分な厚さが確保できないために積層体が癒着し、比較例3および4では、厚いスペーサーを用いたため癒着は防止できたものの、実施例と比較してスペーサーの重量が極めて大きかった。
[巻き取り体温度の評価]
【0109】
(参考例1)
電解銅箔(3EC−VLP、幅280mm、厚さ18μm、三井金属(株)製)を外径89.1mm、肉厚5.5mmのSUS316管に30m巻き取り、巻き取り体温度評価用の巻き取り体サンプルを得た。この際、銅箔の両端部分にそれぞれ実施例1で使用したメタルハニカムをスペーサーとして配置し、これを銅箔とともに巻き取った。
【0110】
(比較参考例1)
比較例3で使用した片撚織金網を用い、その撚線が巻き取り方向に沿うように配置しながら巻き取りを行ったこと以外は、参考例1と同様にして、巻き取り体サンプルを得た。
【0111】
(評価)
得られた巻き取り体サンプルについて、最内周部と最外周部に熱電対を挿入した後、クリーンオーブン(光洋サーモシステム(株)製CLO−21CH−S型)の槽内に縦置きし、窒素置換(30℃×30分)、昇温(2時間)、320℃で保持(12時間)、放冷を順に行う温度プログラムをそれぞれ実施した。そして、この際の巻き取り体サンプルにおける、ロールの最内周部と最外周部の温度プロファイルを記録した。
【0112】
参考例1の巻き取り体サンプルで得られた温度プロファイルを図7に、比較参考例1の巻き取り体サンプルで得られた温度プロファイルを図8に示す。また、ロールの場所による温度差を(ロール内周部温度−ロール外周部温度)で評価したチャートを図9に示す。
【0113】
図7〜9より、スペーサーとして断面波型のメタルハニカムを用いた参考例1は、比較参考例1に比して、炉温に対するロール温度の追随が早く、またロール内周部と外周部の温度差が小さくなることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】好適な実施形態の高分子フィルム積層体の断面構成を模式的に示す図である。
【図2】第1工程において積層体を巻き取る工程を模式的に示す図である。
【図3】好適な例のスペーサーの構成を部分的に示す斜視図である。
【図4】図3に示すスペーサーの長辺方向に沿う断面構成を模式的に示す図である。
【図5】巻き取り工程において、スペーサー30がはみ出すように配置した状態を部分的に示す斜視図である。
【図6】FPCの断面構成の一例を示す図である。
【図7】参考例1の巻き取り体サンプルで得られた温度プロファイルを示すグラフである。
【図8】比較参考例1の巻き取り体サンプルで得られた温度プロファイルを示すグラフである。
【図9】ロールの場所による温度差を(ロール内周部温度−ロール外周部温度)で評価したチャートである。
【符号の説明】
【0115】
1…高分子フィルム積層体、2…金属箔、4…高分子フィルム、10…積層体、14…前駆体層、22…基板、24…回路、30…スペーサー、32…凸部の頂面、34…凹部の頂面、100…巻き取り体、300…FPC。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔上に高分子フィルムの前駆体からなる前駆体層が形成された積層体を巻き取り、巻き取り体を得る第1工程と、
前記巻き取り体を熱処理して、前記金属箔上に高分子フィルムが形成された高分子フィルム積層体を得る第2工程と、を有し、
前記第1工程においては、巻き取られる前記積層体同士の間に挟まれるように、該積層体の巻き取り方向と交差する方向の両端に位置する辺に沿ってそれぞれスペーサーを配置して前記積層体を巻き取り、且つ、
前記スペーサーとして、一方向に凹凸を繰り返す波型の断面形状を有しており、該波型によって形成される見かけ厚さが0.5〜3mmである金属製スペーサーを用い、当該スペーサーを、前記一方向が前記巻き取り方向と同じとなるように配置する、
ことを特徴とする高分子フィルム積層体の製造方法。
【請求項2】
前記スペーサーの前記見かけ厚さが1〜2mmである、ことを特徴とする請求項1記載の高分子フィルム積層体の製造方法。
【請求項3】
前記スペーサーのうちの少なくとも一方を、当該スペーサーの一辺が前記積層体よりも外側にはみ出すように配置する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の高分子フィルム積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法によって得ることのできる高分子フィルム積層体。
【請求項5】
請求項4記載の高分子フィルム積層体を用いたフレキシブル配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−284816(P2008−284816A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133198(P2007−133198)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】