説明

高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法

本発明は、高分子ラテックスを凝集させてスラリーを製造する工程、前記製造されたスラリーを安定化させる工程、及び前記安定化させたスラリーを熟成させる工程を含む高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法であって、前記スラリーを製造する工程で高分子ラテックスにコロイド系改質剤を反応物内に直接投入することを特徴とする。本発明の方法により調製される高分子ラテックス樹脂は、従来の緩速凝集工程方法に比べて高い固形粉の濃度下においても優れた粒度分布と見掛け比重を有し、ケーキング特性及び熱安定性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法に関するものであって、より詳しくは従来の緩速凝集工程方法に比べて高い固形粉濃度下においても優れた粒度分布と見掛け比重を有し、ケーキング特性及び熱安定性に優れる高分子ラテックス樹脂粉体を提供することができ、なおエネルギー損失の最小化及び廃水の発生を減少させる高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な乳化重合工程で製造された高分子ラテックスを高分子粉体に連続的に製造する方法は次の通りである。まず高分子ラテックスに無機塩類または酸類などの凝集剤水溶液を投入すると、乳化剤により高分子ラテックスの静電気的安定化が破られてラテックス内の高分子粒子が塊になるが、このような塊の高分子粒子がスラリー(slurry)を成し、このような現象を凝集(coagulation)と呼ぶ。しかし、このような凝集を通じて形成されたスラリーは物理的結合が形成できなかった一種の多粒子集団(multi-particle assemblage)を成しているから、このような状態としては外部のせん断力(shear)などによってスラリーが容易に破砕現象(break-up)をきたす。従って、凝集の次の段階として物理的結合を通じたスラリーの強度を増加させるために熟成過程を経るようになる。これは高温で成され、鎖間の相互浸透によってスラリーはある程度の強度を有する一つの粒子を形成するようになる。
【0003】
しかし、前記のような工程は大部分過量の凝集剤の使用で凝集過程が非常に速く高分子ラテックス粒子の間にかたまる過程が非常に無秩序になるから、最終粒子は不規則な形状になり粒度分布も非常に広くなるという短所があり、これは工程上、多くの問題点を誘発するようになる。実際に、450μmの直径の大きな粉体が多量生産されると移送及び貯蔵上の問題が生じ、70μm以下の微粉末上の粉体が多量発生すれば脱水及び乾燥能力が低下し、包装時の微粉末の飛散による樹脂損失、工程内粉体の移送問題、粉塵発生による周囲環境汚染及び作業者の作業環境悪化を誘発している。
【0004】
このような問題点を改善するための方法で、米国特許第4,897,462号では臨界凝集濃度以下の緩速凝集方法を開示しているが、前記緩速凝集時に一般に発生する初期状態の高粘度領域を克服することができず、連続式でない回分式凝集工程に適用できるのみであるという限界があり、また緩速凝集によって形成された球形の粉体水分含有量が高くて脱水効果が悪くなり、熟成過程時に高温による微細粒子の不規則な相互溶融合一のため構造が緻密でない粉体が生成されるから、究極的に粉体の見掛け比重が低くなるという問題点がある。
【0005】
また、欧州特許第0,611,788号の場合、連続凝集工程を適用して緩速凝集を行っているが、初期状態の高粘度の克服及び均一な粒度分布を得るためにスラリー固形粉の濃度を低い状態で運転している。しかし、このようにスラリー固形粉の濃度が低い場合には、均一な粒度分布を有するという長所にも関わらず、製品生産に必要なエネルギー損失が過多であり、多量の廃水発生などの問題点がある。
【特許文献1】米国特許第4,897,462号
【特許文献2】欧州特許第0,611,788号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は従来の緩速凝集工程方法に比べて高い固形粉の濃度下においても優れた粒度分布と見掛け比重を有し、ケーキング特性及び熱安定性に優れる高分子ラテックス樹脂粉体を提供することができ、なお母液の循環を通じてエネルギー損失の最小化及び廃水の発生を減少させる高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の前記目的及びその他の目的は下記説明される本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法において、高分子ラテックスを凝集させてスラリーを製造する工程、製造された前記スラリーを安定化させる工程、及び安定化させた前記スラリーを熟成させる工程を含み、前記スラリーを製造する工程で高分子ラテックスにコロイド系改質剤を直接投入することを特徴とする高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法を提供する。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
過量の凝集剤を使用する急激な凝集方式(rapid coagulation)では、エネルギー障壁がないため凝集過程が非常に速く、凝集が非常に無秩序になるために最終粒子が不規則な形状になるが、これに比べて緩速凝集方式(slow coagulation)では、エネルギー障壁が存在する2次ウェル(well)領域で凝集が生じるために凝集速度が遅く、また粒子間で再配列が行われる余地があることから規則的な充填による球形粒子の製造が可能となる。
【0011】
本発明の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法は、
(a)高分子ラテックスに乳化剤を投入して安定化させる工程;
(b)安定化させた高分子ラテックスを凝集槽へ移送して、コロイド系改質剤を供給しながら凝集させてスラリーを製造する工程;
(c)製造されたスラリーを安定化槽へ移送して安定化させる工程;
(d)安定化させたスラリーを熟成槽へ移送して熟成させる工程;
(e)熟成させたスラリーを脱水槽へ移送して母液を分離させる工程;
(f)分離した母液を前記(b)工程の凝集槽へ移送する工程;を含み、連続的に実施される。
【0012】
前記(b)工程以後に前記(b)工程で製造されたスラリーを他の凝集槽で凝集させる工程を一工程以上さらに含む。
【0013】
また、前記(c)工程以後に前記(c)工程で安定化させたスラリーを他の凝集槽で凝集させる工程を一工程以上さらに含む。
【0014】
また、前記(c)工程以後に前記(c)工程で安定化させたスラリーを他の凝集槽で凝集させた後、他の安定化槽で安定化させる工程を一工程以上さらに含む。
【0015】
また、前記(d)工程以後に前記(d)工程で熟成させたスラリーを2次熟成槽で2次熟成させる工程をさらに含む。
【0016】
図1に、本発明の緩速凝集方式を通じた高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法であって、凝集槽と熟成槽とがそれぞれ二つ用いられる方法を示す。多段槽連続凝集が行われる場合には、二番目の凝集槽は安定化槽の後段に備えられている。
【0017】
図1によると、先ず高分子ラテックスに乳化剤を投入してラテックスの安定性を向上させ、安定化させた前記高分子ラテックス、1次凝集剤、水をそれぞれ高分子ラテックス供給ライン7、1次凝集剤供給ライン8、水供給ライン9を介して1次凝集槽1の下部へ投入し、1次コロイド系改質剤を1次コロイド改質剤供給ライン10を介して反応物内へ連続的に供給してスラリーを形成させる。形成した前記スラリー粒子はオーバーフロー(over flow)方式によって安定化槽2へ移送し、もう少し緻密な構造を形成させ、再びオーバーフロー方式によって2次凝集槽3へ移送する。移送された前記スラリーに2次凝集剤及び2次コロイド系改質剤をそれぞれ2次凝集剤供給ライン12及び2次コロイド系改質剤供給ライン11を介して投入し、2次凝集させる。2次凝集させた前記スラリーを1次熟成槽4及び2次熟成槽5へ移送して粒子の硬度を増大させる。硬化させた前記スラリーは脱水槽6で母液と分離され、分離された母液は母液供給ライン14を介して1次凝集槽へ再循環され、高分子ラテックス樹脂粉体の製造に使用される多段槽連続式の凝集方法である。
【0018】
以下、本発明の製造方法を工程別に説明する。
【0019】
(a)高分子ラテックスを安定化させる工程
本工程は重合の終わった高分子ラテックスを緩速凝集に円滑に導くために乳化剤を投入する工程である。このような乳化剤の投入はラテックス内の化学的安定性を与えるので、以後の凝集工程における緩速凝集を導く効果を有する。
【0020】
前記高分子ラテックスはゴム(rubber)高分子50乃至90%にハード(hard)高分子10乃至50%を乳化重合でグラフトさせて製造したグラフト共重合体である。
【0021】
前記ゴム高分子は主にブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体、及び炭素数4乃至10程度のアルキル基を有するブチルアクリレート、オクチルアクリレートなどのアルキルアクリレート系単量体とから構成され、前記単量体は単独かつ2種以上混合して使用することができる。
【0022】
前記ゴム高分子は前記ジエン系及びアルキルアクリレート系単量体と共重合できる化合物であって、スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族単量体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなどの炭素数1乃至8程度のアルキルアクリレート単量体、またはアクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体をさらに含み、前記単量体は単独かつ2種以上混合して使用することができる。
【0023】
前記ハード高分子はグラフト共重合体の枝(branch)を構成する単量体であって、スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族単量体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどの炭素数1乃至6程度のアルキル基を有するアルキルメタアクリレート単量体、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートなどの炭素数1乃至6程度のアルキルアクリレート単量体、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、または塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル系単量体などを単独かつ2種以上混合して使用することができる。
【0024】
前記乳化剤は高分子ラテックスの安定性向上のために凝集前に高分子ラテックスに投入されるものであって、ラウリル硫酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、またはアルキルジフェニルオキシドジスルホン酸などを使用することができる。
【0025】
前記乳化剤は高分子ラテックスの固形粉100重量部を基準として0.1乃至1重量部で使用できる。
【0026】
前記乳化剤は凝集が起こる前に高分子ラテックスに投入することが望ましい。前記乳化剤が凝集の進行中である凝集槽に投入される場合には乳化剤を投入しない場合に比べて粉体の見掛け比重が向上する特性があるが、ケーキング(caking)特性などは悪化するという問題点がある。
【0027】
(b)スラリーを製造する工程
本工程は、前記(a)工程で安定化させた高分子ラテックスを凝集槽へ移送させ、ここに凝集剤、水、及びコロイド系改質剤を連続的に供給し、凝集させてスラリーを製造する工程である。
【0028】
前記スラリーを製造する工程において、凝集は二つ以上の凝集槽で行うことができ、この際凝集槽を1次凝集槽、2次凝集槽などのように表現する。
【0029】
前記凝集剤としては、塩酸、硫酸、リン酸などの水溶性無機酸、または塩化カルシウム、硫酸マグネシウムなどの無機塩などを単独かつ2種以上混合して使用することができる。
【0030】
前記凝集剤は高分子ラテックスの特性に応じた凝集剤の臨界凝集濃度によって使用量を調節することができる。
【0031】
前記高分子ラテックス、凝集剤、及び水は凝集槽の下部へ供給され、凝集槽の上部におけるオーバーフロー方式によって安定化槽の上部または2次凝集槽の上部へスラリーが移送される。このように、凝集槽の下部から原料物質を投入して上部に排出させることによって、従来の上部投入/上部排出の場合に比べて、スラリーのショートパス(short pass)、つまり凝集槽内での不均一な滞留を防止し、投入した直後に排出される現象が大幅に低減するため、滞留時間が均等に分布されるという長所がある。
【0032】
前記凝集槽と撹拌機との構造は下記の通りである。
【0033】
凝集槽のH/D(凝集槽の長さ/直径)値は1.5乃至2.0の範囲で一般的な反応槽に比べてH/D値が大きいほうであるが、これは凝集槽内における上下撹拌を抑制し、流体の流れ方向に速度勾配のない流れを導くことによって均一な滞留時間の分布を誘導することをその特徴とする。なお、撹拌機の段数は凝集槽のH/D値が1.5乃至2であることを考慮して3段とし、使用される撹拌機は凝集槽内の上下撹拌を防ぐためにバッフル(baffle)のない状態で放射状(radial)の流れを導く4ブレード−フラットパドル(blade-flat paddle)を使用することが望ましい。この際、撹拌機の直径dと凝集槽の直径Dとの間の割合(d/D)は0.6乃至0.7であるものが望ましいが、これは従来に比べて凝集槽内のスラリーの粘度が高いため一般的なd/Dの0.3乃至0.4の水準では円滑な撹拌が難しいからである。また、撹拌機の線速度は1.5乃至3.0m/秒であるものが望ましい。
【0034】
前記凝集槽の工程は0.05乃至0.4μm程度のサイズを有する高分子ラテックスと無機塩類または酸類などの凝集剤を添加して短い滞留時間を通じて少量の凝集剤で緩速凝集を導く工程であって、臨界凝集濃度の判別が最も重要である。前記臨界凝集濃度は未凝集の高分子ラテックスが少量存在して全体的な外観はやや薄い乳白色であり、スラリーの形状が非常に均一な粒度分布の球形をなす濃度であり、定量的には全体ラテックスの60乃至80%程度が凝集された状態を意味する。しかし、緩速凝集領域を離れて凝集剤の含量が臨界凝集濃度より少ないほど粒子の形状は非定形を帯び、臨界凝集濃度を超える場合は粒子の形状は不規則となり70μm以下の微細な粒子が多く生成する。
【0035】
緩速凝集は臨界凝集濃度の他にも凝集温度及び全体固形粉の含量にも大きな影響を受けるが、凝集温度の場合、基準温度より高い場合は全体粒子の粒径が凝集温度に比例して大きくなり、粒子間の塊現象が激しくなり、基準温度より低い場合は粒径が小さくなるのみならず粒子の球形度及び形状が劣化するため、適正凝集温度及びそれに応じる凝集剤の投入量調節による臨界凝集濃度の決定が重要である。一般的に、適正凝集温度は高分子ラテックスを構成するゴム高分子とハード高分子との成分及びグラフト率などに依存する。一般的にゴム高分子の成分が多いほど凝集温度は低くなり、ハード高分子の成分が多いほど凝集温度は高くなる。
【0036】
なお、全体固形粉の含量によって凝集特性が大幅に変わるが、固形粉の含量が増加する場合には緩速凝集を導くことができる凝集剤の投入量の範囲が狭くなり、形成されたスラリー間の塊形成が激しくて粒度分布が非常に広くなる特性が現れるようになる。
【0037】
従って、緩速凝集の場合には固形粉の含量を10乃至13重量%の水準以上に上げることが相当難しい問題であって、このような緩速凝集の特性はエネルギー損失を増加させ、多量の廃水を発生させる原因になった。この原因を詳しく調べてみれば、初期に高分子ラテックスと凝集剤とが接する凝集槽の下部では粘度が低く、凝集が進む上部に上るほど粘度が増加するが、その領域では粘度が一定に保持されるある位置が存在する。粒度分布が非常に広くなる原因は粘度が急激に上昇する支点から発生するが、この支点における粘度の増加によって撹拌(mixing)が不良になり部分的な滞留によってスラリー粒子間の塊現象が発生するからである。
【0038】
このような問題を解決するために、凝集槽内の粘度が高い領域にコロイド(colloid)形改質剤を反応物に直接投入することによってスラリー粒子間の塊を防止して最も均一な粒度分布を有する高分子樹脂が得られる。凝集槽内の高粘度領域は高分子ラテックスの種類と凝集条件とによって異なるから実験を通して確認することが重要である。
【0039】
前記コロイド系改質剤としてはシリカ(SiO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)及び50℃以上の高いガラス転移温度(Tg)を有する硬質非弾性共重合体などが使用される。
【0040】
前記コロイド系改質剤は粒子のサイズが10乃至100nmであるものが望ましい。前記粒子のサイズが10nm未満である場合は、後に貯蔵中にゴム含有グラフト共重合体の粉末間の表面を効果的に分離することが困難になり、100nmを超える場合には、ゴム含有グラフト共重合体の粉末を全体的に囲まれる表面積が減少するため粉体特性の改善が期待できないという問題点がある。
【0041】
前記コロイド系改質剤は高分子ラテックスの固形粉100重量部を基準にして0.5乃至5重量部で使用することができる。
【0042】
前記コロイド系改質剤は効率的に分散するために20%以下の濃度で投入することが望ましい。
【0043】
このように、コロイド系改質剤を凝集槽の粘度が最高の位置に投入することによって緩速凝集の場合にもスラリーの固形粉の含量を20重量%の水準以上に高めながらも最も均一な粒度分布を有するスラリー粒子を製造することができるようになった。
【0044】
前記スラリーを製造する工程において、凝集が2つの凝集槽で行われる場合、2番目の凝集槽を2次凝集槽といい、この際2次凝集剤、2次コロイド系改質剤を投入して前記1次凝集槽から安定化させたスラリーに残っている未凝集された高分子ラテックスを完全に凝集させることができる。
【0045】
前記2次凝集槽で完全に凝集されたスラリーはオーバーフロー方式によりもう他の安定化槽、凝集槽または熟成槽に移送される。2次凝集槽の温度条件はラテックスの特性によってそれぞれ異なるが、一般に1次凝集槽を基準にして通常5乃至10℃の範囲に温度を高めることが望ましい。また、2次凝集槽の滞留時間は1次凝集槽の滞留時間の1乃至3倍ほどの範囲が望ましく、2次凝集槽に投入される凝集剤は残留する未凝集された高分子ラテックスがなくなるまで入れるのが望ましい。撹拌機の場合はオーバーフロー方式によるショートパスを防ぐために上下撹拌に有利なピッチドパドル(pitched paddle)形を使用するのが望ましい。
【0046】
なお、高分子樹脂の粉体特性中、ケーキング(caking)特性を向上させるために凝集が完了しっっfたスラリーに2次コロイド(colloid)形改質剤を投入することが望ましい。
【0047】
前記2次コロイド系改質剤は1次コロイド系改質剤と同一のものを使用し、高分子ラテックス樹脂の固形粉100重量部を基準にして1乃至5重量部で使用することが望ましい。
【0048】
前記2次コロイド系改質剤は2次凝集槽と熟成槽との連結路(chute)または熟成槽の位置に直接投入することが望ましい。
【0049】
前記凝集が2つの凝集槽で実施される場合、2次凝集槽は1次凝集槽の後段に備えられ、または安定化槽の後段に備えられる。
【0050】
また、前記凝集が3つ以上の凝集槽で実施される場合、3次凝集槽以後の凝集槽の条件は前記2次凝集槽の条件と同様である。この場合は、凝集槽の間に1つ以上の安定化槽がさらに備えられる。
【0051】
(c)スラリーを安定化させる工程
本工程は前記(b)工程で製造されたスラリーを安定化槽へ移送させてスラリー粒子を安定化させる工程である。
【0052】
前記安定化させる工程においてはスラリー粒子間の塊形成を防ぐことができる程度の撹拌力保持が必要であり、加温をしない。撹拌力が強過ぎると、スラリー粒子が破損す現象があり、加温をする場合には局部的な高温による粒子間の塊形成現象がもたらされる。
【0053】
前記安定化槽では1次凝集槽の3乃至10倍程度の十分な滞留時間を有することが望ましい。
【0054】
前記のように安定化させる工程を経て、スラリー粒子の粘度は最も減少し、スラリー粒子はさらに緻密な構造を有するようになる。
【0055】
(d)スラリーを熟成させる工程
本題開は前記(c)工程で安定化させたスラリーを熟成槽へ移送させてスラリー粒子の硬度を増大させる工程である。
【0056】
前記熟成させる工程において、熟成は2つ以上の熟成槽で行われ、この際、熟成槽を1次熟成槽、2次熟成槽などのように示す。
【0057】
前記熟成させる工程では、円滑な上下撹拌を導くために熟成槽にバッフル(baffle)を設け、撹拌機としてはピッチドパドルを使用することが望ましい。
【0058】
前記凝集された後、安定化させたスラリー粒子のpHが2以下に落ちた場合、塩基を用いてpHを3乃至5に調整して熱安定性を向上させることができる。
【0059】
前記熟成させる工程の温度条件は高分子組成によって異なり、一般にガラス転移温度(Tg)の付近であることが望ましい。
【0060】
前記熟成が2つ以上の熟成槽で行われる場合、2次熟成槽ではスラリー粒子間の塊が生じない温度の範囲内で運転して1次熟成槽から熟成させたスラリー粒子の硬度をさらに増大させることができる。
【0061】
(e)脱水槽工程
本工程は、前記(d)工程で熟成されたスラリーを脱水槽へ移送させてスラリー粒子を母液と分離する工程である。
【0062】
(f)分離された母液を凝集槽へ移送する工程
本工程は、前記(e)工程で分離された母液を前記(b)工程の凝集槽に循環させる工程である。
【0063】
前記分離された母液に前記(b)工程で凝集時要求されるイオン強度(Ionic strength)の濃度を超えるイオンが入っている場合、これを100%循環させる場合には緩速凝集領域を外れるから臨界凝集濃度を調節して使用する。この際、凝集剤が塩である場合には母液の一部と純粋な水の一部とを混合して凝集時に要求されるイオンの強さの濃度に合わせて臨海凝集濃度を調節し、使用される凝集剤が酸である場合には塩基を使用して臨界凝集濃度を調節することができる。
【0064】
本発明によって製造された高分子ラテックス樹脂粉体は、粒径が40乃至800μmの広い範囲で分布されている従来の商業用高分子ラテックス樹脂粉体と比べて、粒径が70乃至450μmの粉体が90重量%以上で粒度分布に優れ、同時に見掛け比重とケーキング特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下、本発明が良くわかるように望ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するもののみで、本発明の範囲が下記実施例に限られるものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1
高分子ラテックス樹脂の製造
撹拌機付きの120Lの高圧重合容器にイオン交換水180重量部、緩衝溶液0.5重量部、乳化剤としてオレイン酸カリウム0.8重量部、ピロリン酸ソーダ0.065重量部、エチレンジアミンテトラナトリウム酢酸塩0.0047重量部、重合開始剤として硫酸第一鉄0.003重量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート0.02重量部、及びジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド0.11重量部を投入させた。その後、単量体としてブタジエン12重量部、スチレン36重量部、グラフト架橋剤としてジビニルベンゼン2重量部を投入して35℃の反応温度で反応させた後、内層ラテックスを製造した。
【0067】
前記製造された内層ラテックスに単量体としてブタジエン50重量部、乳化剤としてオレイン酸カリウム0.2重量部、重合開始剤としてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート0.02重量部、及びジイソピロピルベンゼンヒドロペルオキシド0.11重量部を加え、10時間重合し平均粒径が950Åである外層を製造した。
【0068】
このように製造されたゴム重合体の固形粉88重量部に水100重量部、エチレンジアミンテトラナトリウム酢酸塩0.0047重量部、硫酸第一鉄0.003重量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.02重量部、及びカリウムペルオキシド0.13重量部を加えた後、ここにメチルメタクリレート12重量部を加えた。前記混合物を80℃の温度で30分間加熱し、60分間重合してMBSグラフト共重合体ラテックスを製造した。
【0069】
高分子ラテックス樹脂粉体の製造
2つの凝集槽及び2つの熟成槽、前記凝集槽の間に1つの安定化槽が含まれた多段槽連続凝集装置を使用した。
【0070】
前記製造された高分子ラテックスにラテックスの安定性向上のためにナトリウムラウリル硫酸(sodium lauryl sulfate)0.2重量部が添加された高分子ラテックスを10L/hrで供給し、10%で希釈された硫酸凝集剤0.20L/hr(高分子ラテックス対比0.4重量部)と水15L/hr(固形粉20重量部)を同時に1次凝集槽の下部に供給し、また1次凝集槽の下部から0.5H(Hは凝集槽の高さ)になる位置に10%で希釈された硬質非弾性共重合体を0.50L/hr(高分子ラテックス対比1重量部)を供給した。1次凝集槽の滞留時間と処理温度は各々2分、33℃に調節して凝集を導いた後、安定化槽にオーバーフロー方式によって移送した。安定化槽では滞留時間10分を持ち、安定化させたスラリーは2次凝集槽にオーバーフロー方式で移送され、2次凝集槽では2次凝集剤として硫酸凝集剤0.50L/hr(高分子ラテックス樹脂対比1.0重量部)を添加し、滞留時間は6分で調節し、処理温度は38℃になるように調節した。2次凝集が終わったスラリーが1次熟成槽に移送される前、10%で希釈された硬質非弾性共重合体を1.00L/hrを供給した。1次熟成槽の処理温度は50℃に保持、10%濃度のNaOHを投入してpHを3.5で調節し、滞留時間を30分間とった。2次熟成槽の処理温度は65℃に保持、30分間滞留させて十分な熟成になるようにした。前記のような過程を経て高分子ラテックス樹脂粉体を収得した。
【0071】
実施例2
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、1次凝集槽に投入される水として、脱水機から出てきた母液を水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてpHを7に調整した循環水が10L/hrで含まれた水15L/hr(固形粉20重量部)を使用したことを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0072】
比較例1
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、安定化槽で安定化させる工程を経ないことを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0073】
比較例2
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、1次コロイド系改質剤を使用せず、製造されたスラリーを安定化槽で安定化させる工程を経ないことを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0074】
比較例3
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、1次コロイド系改質剤を使用せず、スラリー固形粉の含量を減少させるために水の投入量を23L/hr(固形粉15重量部)で使用し、製造されたスラリーを安定化槽で安定化させる工程を経ないことを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0075】
比較例4
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、1次コロイド系改質剤を使用せず、スラリー固形粉の含量を減少させるために水の投入量を28L/hr(固形粉13重量部)で使用し、製造されたスラリーを安定化槽で安定化させる工程を経ないことを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0076】
比較例5
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、1次コロイド系改質剤の投入位置を1次凝集槽の下部から0.2Hになる位置に調節したことを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0077】
比較例6
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、1次コロイド系改質剤の投入位置を1次凝集槽の下部から0.8Hになる位置に調節したことを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0078】
比較例7
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、1次コロイド系改質剤の投入位置を1次凝集槽と安定化槽との間の連結通路(10-1)に調節したことを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0079】
比較例8
前記実施例1の高分子ラテックス樹脂粉体の製造において、1次コロイド系改質剤を高分子ラテックスと混合した後に投入することを除いては前記実施例1と同一の方法で実施した。
【0080】
[試験例]
前記実施例及び比較例から製造した高分子ラテックス樹脂粉体の粒度分布及び物性特性を下記の方法で測定し、その結果を下記表1に示した。
【0081】
イ) 粒度分布−標準的な篩を使用して測定した。
ロ) 見掛け比重−ASTM D1985に基づいて測定した。
ハ) ケーキング試験(caking test)−乾燥させた粉体20gを本発明者の製作した円筒形容器に入れ、40kgの荷重下に2時間放置した後、収得されたケーキ(cake)を電子振動機(vibrator)を用いて振動を与えながらケーキ(cake)が崩壊する時間を測定した。
【0082】
【表1】

【0083】
前記表1から分かるように、本発明の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法で製造した実施例1乃至2の高分子ラテックス樹脂粉体は粒径が70乃至450μmの場合が90重量%以上であり、見掛け比重が高く、ケーキング特性に優れて粉体の移送と製品の包装工程が容易であり、また粒径が70μm未満の粉体が5重量%未満であるので、粉体を直接扱う押出加工などの作業現場で粉体の中に含まれた微細な粉末の飛散現象が低減され、粉体の取扱い時に伴う周辺環境影響が改善されることが確認できた。特に、母液を循環させて製造した実施例2の粉体は粒度分布及び見掛け比重の特性は実施例1で製造した粉体と同様に保持しながらも全体廃水量を減少させることができた。
【0084】
反面、製造されたスラリーを安定化槽へ移送して安定化させる工程を除いて製造した比較例1の粉体は粒度分布及び見掛け比重が低下する特性を示し、1次コロイド系改質剤を使用せず凝集させ、安定化槽で安定化させる工程を除いて製造した比較例2の粉体は粒度分布及び見掛け比重が低下し、ケーキング特性が急激に低下することが分かった。なお、固形粉の濃度を低くして製造した比較例3乃至4の粉体及び1次コロイド系改質剤の投入位置を調節して製造した比較例5乃至8の粉体も実施例1乃至2の粉体と比べて、粒度分布、見掛け比重及びケーキング特性が低減されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
前記から調べたように、本発明によると、従来の緩速凝集工程方法に比べて高い固形粉の濃度下においても優れる粒度分布と見掛け比重を有し、ケーキング特性に優れた高分子ラテックス樹脂粉体を提供する効果があり、同時に高い固形粉の濃度における緩速凝集が可能となることによってエネルギー損失の最小化ができ、母液を循環させることによって廃水の発生を減少させることができる工程で、品質及び製造費用節減の側面から全て優れた特性を示す高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法を提供する効果がある。
【0086】
以上から本発明の記載された具体例を中心に詳細に説明したが、本発明の範疇及び技術思想範囲内で当業者にとって多様な変形及び修正が可能であることは明らかであり、このような変形及び修正が添付された特許請求範囲に属することも当然である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による高分子ラテックスから高分子樹脂粉体を回収するための工程であって、凝集槽及び熟成槽がそれぞれ二つである多段槽連続凝集工程の概略図である。
【符号の説明】
【0088】
1:1次凝集槽
2:安定化槽
3:2次凝集槽
4:1次熟成槽
5:2次熟成槽
6:脱水槽
7:高分子ラテックス供給ライン
8:1次凝集剤供給ライン
9:水供給ライン
10:1次コロイド改質剤供給ライン
10−1:1次コロイド改質剤供給ライン
11:2次コロイド改質剤供給ライン
12:2次凝集剤供給ライン
13:中和剤供給ライン
14:母液供給ライン
15:撹拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法において、高分子ラテックスを凝集させてスラリーを製造する工程、製造された前記スラリーを安定化させる工程、及び安定化させた前記スラリーを熟成させる工程を含み、
前記スラリーを製造する工程で高分子ラテックスにコロイド系改質剤を投入することを特徴とする高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項2】
前記高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法が、
(a)高分子ラテックスに乳化剤を投入して安定化させる工程;
(b)安定化させた高分子ラテックスを凝集槽へ移送して、コロイド系改質剤を供給しながら凝集させてスラリーを製造する工程;
(c)製造されたスラリーを安定化槽へ移送して安定化させる工程;
(d)安定化させたスラリーを熟成槽へ移送して熟成させる工程;
(e)熟成させたスラリーを脱水槽へ移送して母液を分離させる工程;
(f)分離した母液を前記(b)工程の凝集槽へ移送する工程;を含み、連続的に行われることを特徴とする請求項1に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項3】
前記コロイド系改質剤が、凝集槽の粘度が最も高い領域の反応物内に直接投入されることを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項4】
前記コロイド系改質剤が、シリカ、炭酸カルシウム、及び50℃以上の高いガラス転移温度を有する硬質非弾性共重合体からなる群から選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項5】
前記コロイド系改質剤は高分子ラテックス樹脂固形粉の含量を基準として0.5乃至5重量部で投入されることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項6】
前記(b)工程以後に前記(b)工程で製造されたスラリーを2次凝集槽で凝集させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項7】
前記(c)工程以後に前記(c)工程で安定化させたスラリーを2次凝集槽で凝集させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項8】
前記(c)工程以後に前記(c)工程で安定化させたスラリーを2次凝集槽で凝集させた後、2次安定化槽で安定化させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項9】
前記(c)工程の滞留時間が前記(b)工程の滞留時間の3乃至10倍であることを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。
【請求項10】
前記(d)工程以後に前記(d)工程で熟成させたスラリーを2次熟成槽で熟成させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス樹脂粉体の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−521965(P2008−521965A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542944(P2007−542944)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004107
【国際公開番号】WO2007/043816
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】