説明

高分子化合物及び吸油剤

【課題】工業用油、家庭調理用油及び比誘電率の低い有機溶媒に対して吸収量の高い高分子化合物、及び該高分子化合物を用いた吸油剤の提供。
【解決手段】アルコール残基中にカチオン性もしくはアニオン性基を有する(メタ)アクリル酸エステルから誘導されくり返し単位、(A)、アルコール残基が炭素数10以上のアルキル基である(メタ)アクリル酸エステルから誘導されるくり返し単位(B)及びジ(メタ)アクリレートから誘導されるくり返し単位(C)をそれぞれ所定量有する高分子化合物。くり返し単位(A)はイオン性基の導入を意味し、これが多くなるとイオン解離したときの浸透圧差が増大し、吸油量を高めることになり、くり返し単位(B)は疎水性基の導入を意味し、くり返し単位(C)は架橋基の導入を意味する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物及び吸油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水を吸収する高分子材料(ヒドロゲル)は一般に良く知られているが、油を吸収する高分子材料(オルガノゲル、リポゲル)に関しては比較的公知例が少ない。しかし近年、海上への油の流出や廃油の回収が環境問題として大きく取り立たされており、油回収にオルガノゲルの利用が検討されている。
【0003】
しかし、従来の吸油剤は多くがアミノ酸等の低分子型の吸油剤であるため成形し難く、また紛体の形状であることから飛び散り易く、或いは水に可溶性であるなど取扱いが不便である。
【0004】
一方、高分子型の吸油剤は、単純な親水ゲルを疎水化処理したものである場合が多いが(例えば、特許文献1参照)、その吸油量(重量比)は最大で3〜10程度と低く、実用するには不充分であった。
【0005】
また、スチレン−ブタジエン共重合体などの未架橋の合成高分子型吸油剤は、使用可能な油種が限定され、また吸油時に加熱や混合の操作を必要とするなど使用方法が煩雑である。また、保形性が不充分なため、回収が困難であるという課題も存在する。
【0006】
その他、高分子型の吸油剤としては、例えばノルボルネン又はその誘導体の開環重合体や(例えば、特許文献2参照。)、アクリル系の架橋重合体(例えば、特許文献3参照。)などが提案されている。しかしながら、これらの吸油剤は実用するには吸油量が不充分であった。
【0007】
これに対して、イオン性基を有する特定の構造の疎水性ゲルが提案され(例えば、非特許文献1参照)、従来の吸油剤に比べて高い吸油量が得られている。
しかしながらこの疎水性ゲルは、ジクロロメタンやテトラヒドロフラン(THF)など比誘電率εが10付近の溶剤に対しては優れた吸油性能を示すが、各種工業用油や家庭調理用油など比誘電率が更に低い油に対しては依然吸油量が低く、実用に充分なオルガノゲルの開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2007−222728号公報
【特許文献2】特開平6−279571号公報
【特許文献3】特開平5−15777号公報
【非特許文献1】Nature Materials, Vol.6, 429-433 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、工業用油や家庭調理用油に対して吸油量の高い高分子ゲル、及び該高分子ゲルを用いた吸油剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの鋭意研究によって、以下の点を改良した高分子ゲルにおいて吸油量が向上することが明らかとなった。
1) 油との親和性を高めるために、長鎖アルキル基を導入すること、
2) イオン解離による浸透圧差を利用して油への膨潤性を向上させるために、イオン性基を導入すること、
3) 膨潤率(吸油量)を増加させるために、架橋密度を低減し、分子量を増やすこと。
【0010】
本発明者らの更なる鋭意研究により、前記長鎖アルキル基の好適な導入位置は前記イオン性基の近傍であることが明らかとなった。また、前記イオン性基及び対イオンに関しては、広く電荷が分布し非局在化するものが好適であるとの知見を得た。
以上の知見を踏まえ、下記の手段によって上記本発明の課題解決に至った。
【0011】
<1> 下記一般式(1)で表される繰り返し構造を有する高分子化合物である。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式(1)中、R、R及びRは各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数10以上の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を表す。X及びXは各々独立に、2価の連結基を表す。Bは、炭素数10以上のアルキル基が少なくとも1つ窒素原子に結合する四級アンモニウムイオン又は電荷が非局在化したカチオンを表し、Aはその対アニオンを表す。x、y及びzはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、70≦x+y+z≦100を満たす。
【0014】
<2> 前記一般式(1)におけるzが0.8モル%以下であることを特徴とする前記<1>に記載の高分子化合物である。
【0015】
<3> 前記一般式(1)におけるBが、電荷が非局在化したヘテロ環カチオンであることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の高分子化合物である。
【0016】
<4> 前記一般式(1)におけるBが、下記一般式(2)で表されるカチオン基であることを特徴とする前記<3>に記載の高分子化合物である。
【0017】
【化2】

【0018】
一般式(2)中、Rは、水素原子、又は直鎖、分岐状若しくは環状のアルキル基を表す。Rは、直鎖、分岐状又は環状のアルキル基を表す。波線は前記Xとの結合位置を示す。
【0019】
<5> 下記一般式(3)で表される繰り返し構造を有する高分子化合物である。
【0020】
【化3】

【0021】
一般式(3)中、R、R及びRは各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数10以上の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を表す。X及びXは各々独立に、2価の連結基を表す。Dは、アルキル置換してもよいリン酸イオン、アルキル置換してもよいホスホン酸イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、アルキル置換してもよい下記アニオン(II)、アルキル置換してもよい下記アニオン(III)、又はアニオン(IV)を表し、Eはその対カチオンを表す。x、y及びzはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、70≦x+y+z≦100を満たす。
【0022】
【化4】

【0023】
前記アニオン(II)、(III)及び(IV)における波線は、一般式(3)におけるXとの結合位置を示す。前記アニオン(IV)中、R11、R12及びR13は、各々独立に、置換基を有してもよい芳香環基、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
【0024】
<6> 前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の高分子化合物を含む吸油剤である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、工業用油や家庭調理用油に対して吸油量の高い高分子化合物、及び該高分子化合物を用いた吸油剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0027】
本発明の高分子化合物は、ガソリン、重油、原油、灯油、軽油、アイソパーM(登録商標、エクソンモービル社製)等の工業用油や、サラダ油、なたね油、大豆油、オリーブオイル等の家庭用調理用油などに対して高い吸油量を示す。このような比誘電率εの低い油に対しても高い吸油量を示すよう、本発明の高分子化合物は特定の構造を有する。
【0028】
なお、溶媒を吸収する架橋性高分子化合物に関して、一般に溶媒を吸収する前の状態および後の状態を含めて高分子ゲルと呼ぶことがあるが、本発明で述べる高分子化合物にはこのような高分子ゲルを包含する。また、本発明で述べる高分子化合物と高分子ゲルは、溶媒を含有しているか否かに関わらず同義とする。以下、高分子化合物を詳細に説明する。
【0029】
<第一の高分子ゲル>
本発明の第一の高分子化合物は、下記一般式(1)で表される繰り返し構造を有する高分子化合物である。
【0030】
【化5】

【0031】
一般式(1)中、R、R及びRは各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数10以上の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を表す。X及びXは各々独立に、2価の連結基を表す。Bは、炭素数10以上のアルキル基が少なくとも1つ窒素原子に結合する四級アンモニウムイオン又は電荷が非局在化したカチオンを表し、Aはその対アニオンを表す。x、y及びzはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、70≦x+y+z≦100を満たす。
【0032】
一般式(1)において、Bは、炭素数10以上のアルキル基が少なくとも1つ窒素原子に結合する四級アンモニウムイオン、又は電荷が非局在化したカチオンを表す。
【0033】
Bで表されるように、四級アンモニウムイオンの近傍に疎水性部位が存在すると高分子ゲルの吸油量が高まる。この理由については明らかではないが以下のように推測される。但しこの推測によって本発明は限定されない。
四級アンモニウム塩がイオン解離し四級アンモニウムイオンになると、ゲル内部の浸透圧が高くなり油がゲル内部へ侵入しようとする。このとき四級アンモニウムイオンの近傍に油との親和性が高い疎水性基が存在するので、油がゲル内部へ誘引されるものと推測される。
よって、イオン性基から離れた位置に疎水性基を導入するよりも、イオン性基近傍に疎水性基を導入したときに、吸油量が向上する。
【0034】
このようなイオン性基近傍に疎水性部位が存在する構造は、本発明では、炭素数10以上のアルキル基が少なくとも1つ窒素原子に結合する四級アンモニウムイオンであり、より好ましくは炭素数10〜55のアルキル基が少なくとも1つ窒素原子に結合する四級アンモニウムイオンであり、更に好ましくは炭素数12〜22のアルキル基が少なくとも1つ窒素原子に結合する四級アンモニウムイオンである。
四級アンモニウムイオンの窒素原子に結合する炭素数10以上のアルキル基は、直鎖、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましく、疎水性溶媒との親和性(疎水性相互作用)の高さの観点から直鎖状のアルキル基が更に好ましい。
四級アンモニウムイオンの窒素原子には、炭素数10以上のアルキル基が1個以上結合していればよく、3個まで結合することができる。好ましくは、2個〜3個の炭素数10以上のアルキル基が窒素原子に結合する場合である。
【0035】
他方、Bは、電荷が非局在化したカチオンの場合にも吸油量が高まる。この理由は明らかにはされていないが、電荷が非局在化することによりAとBとの間の静電相互作用が低下してイオン解離が促進され、ゲル内部での浸透圧がゲル外部の油中と比較して向上することにより、ゲルの外部から内部への油の浸透が促進されるためと推測される。しかしながら当該推測によって本発明が限定されることはない。
なお、本発明において「電荷が非局在化する」とは、正電荷又は負電荷が1個の原子上にのみ存在するのではなく、電荷が共鳴効果により2個以上の原子上に広く分布することを意味する。
【0036】
Bで表される、電荷が非局在化したカチオンは、電荷が非局在化したヘテロ環、イミニウム、ジアゾニウム、非環式窒素骨格のカチオン、電気的に中性な有機化合物の炭素原子からヒドリドイオンが脱離した形の3価の炭素のカチオン、電気的に中性な有機化合物の炭素原子にプロトンが付加した形の5価のカチオンなどを挙げることができ、電荷が非局在化したヘテロ環であることが好ましい。
【0037】
電荷が非局在化したヘテロ環としては、例えば、ピロリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、トリアゾリウムイオン、イソキサゾリウムイオン、オキサゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、イソチアゾリウムイオン、オキサジアゾリウムイオン、オキサトリアゾリウムイオン、ジオキサゾリウムイオン、オキサチアゾリウムイオン、インドールイオン、インダゾリウムイオン、ベンゾピロリジニウムイオン、ベンズイミダゾリウムイオン、ベンゾトリアゾリウムイオン、ベンズイソオキサゾリウムイオン、ベンゾオキサゾリウムイオン、ベンゾチアゾリウムイオン、ベンズイソチアゾリウムイオン、ベンズオキサジアゾリウムイオン、ベンズオキサトリアゾリウムイオン、ベンゾジオキサゾリウムイオン、ベンズオキサチアゾリウムイオン、カルボゾリウムイオン、プリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピリダジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピペラジニウムイオン、トリアジニウムイオン、オキサジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサチアジニウムイオン、オキサジアジニウムイオン、モルホリニウムイオン、イソキノリニウムイオン、キノリニウムイオン、シノリニウムイオン、キナゾリニウムイオン、ベンゾピラジニウムイオン、ベンゾピペラジニウムイオン、ベンゾトリアジニウムイオン、ベンズオキサジニウムイオン、ベンゾピペリジニウムイオン、ベンズオキサチアジニウムイオン、ベンズオキサジジニウムイオン、ベンゾモルホリニウムイオン、ナフチリジニウムイオン、アクリジニウムイオン、アゼピニウムイオン及びジアゼピニウムイオンを挙げることができ、より好ましくは、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、オキサゾリウムイオンであり、更に好ましくは、イミダゾリウムイオンである。
【0038】
これらの電荷が非局在化したヘテロ環は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、直鎖、分岐状又は環状構造を有する飽和又は不飽和の炭化水素基(このとき、1個以上の−CH−はヘテロ原子が隣接しない条件で、−O−、−CO−、−CH=CH−、−C≡C−に置き換えられてもよい)、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、又はホスホン酸基を挙げることができ、より好ましくは、飽和の炭化水素基(アルキル基)、アリール基又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、飽和の炭化水素基(アルキル基)又はハロゲン原子である。
【0039】
ヘテロ環が有する置換基の数は特に制限が無いが、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましく、1以上3以下であることが更に好ましい。
ヘテロ環の置換基の置換位置は特に制限が無いが、ヘテロ環上のヘテロ原子への置換基の導入が構造上許される場合は、そのヘテロ原子上に置換基を有することが疎水性向上または酸化/還元耐性向上の観点から好ましい。
【0040】
電荷が非局在化したヘテロ環として特に好ましくは、下記一般式(2)で表されるヘテロ環カチオンである。
【0041】
【化6】

【0042】
一般式(2)中、Rは、水素原子、又は直鎖、分岐状若しくは環状のアルキル基を表す。Rは、直鎖、分岐状又は環状のアルキル基を表す。波線は前記Xとの結合位置を示す。
【0043】
一般式(2)におけるRで表される直鎖、分岐状若しくは環状のアルキル基は、炭素数1〜20が好ましく、炭素数1〜10がより好ましく、炭素数1〜5が更に好ましい。
として特に好ましくは、炭素数1〜3の直鎖のアルキル基である。
【0044】
一般式(2)におけるRで表される直鎖、分岐状若しくは環状のアルキル基は、炭素数3〜50が好ましく、炭素数4〜30がより好ましく、炭素数5〜25が更に好ましい。Rとして特に好ましくは、炭素数10〜20の直鎖のアルキル基である。
【0045】
一般式(1)において、Aは対アニオンを表す。Aで表される対アニオンとしては、ハロゲンイオン、リン酸イオン、ホスホン酸イオン、カルボン酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、PF、SbF、N(SOCF、ClO、SOCF、又は以下に示すアニオン(I)等が挙げられる。
【0046】
【化7】

【0047】
上記アニオン(I)中、R11,R12,R13及びR14は、各々独立に、1個又は複数個の置換基を有していてもよい芳香環基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
11,R12,R13又はR14で表される芳香族基は、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基、チアゾール−2−イル基、チアゾール−3−イル基、ピリジン−2−イル基、ピリジン−3−イル基、ベンゾフラン−2−イル基、ベンゾフラン−3−イル基、ベンゾフラン−5−イル基、ベンゾフラン−6−イル、ベンゾチオフェン−2−イル基、ベンゾチオフェン−5−イル基、ベンゾチオフェン−6−イル基、ピリミジン−2−イル基、ピリミジン−5−イル基、ピラジン−2−イル基、ピラジン−5−イル基、ピリダジン−3−イル基、ピリダジン−6−イル基、イミダゾール−2−イル基、イミダゾール−4−イル基、イミダゾール−5−イル基等であることが好ましく、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基、イミダゾール−2−イル基であることがより好ましく、フェニル基であることが好ましい。
【0048】
11,R12,R13又はR14で表される芳香族基の置換基としては、アルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボネート基、アルキルカルバメート基、アルキルウレア基、アルキルアミド基、アルキルイミド基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオエーテル基、又はハロゲン原子であることが好ましく、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のフルオロアルキル基、又はハロゲン原子であることがより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であることが更に好ましい。
【0049】
11,R12,R13又はR14で表されるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0050】
11,R12,R13又はR14で表されるアルキル基は、炭素数1〜30であることが好ましく、炭素数3〜22であることがより好ましく、炭素数6〜18であることが更に好ましい。
【0051】
11,R12,R13又はR14で表されるアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アルコキシ基基、アルキルオキシカルボニル基基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボネート基、アルキルカルバメート基、アルキルウレア基、アルキルアミド基、アルキルイミド基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、又はアルキルチオエーテル基が好ましく、ハロゲン原子、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、又はアルキルエーテル基がより好ましく、ハロゲン原子又はフェニル基が更に好ましい。
【0052】
これらの中でも、R11,R12,R13及びR14としては、無置換の芳香環基、炭素数1〜22のフルオロアルキル基を有する芳香環基、フッ素原子を置換基として有する芳香環基が好ましい。
11,R12,R13及びR14は、同一であっても異なっていてもよいが、アニオン(I)の合成の簡便さによる入手の容易性の観点からは、同一の場合が好適である。
【0053】
好ましいアニオン(I)の例としては、テトラフェニルボレート、テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、テトラフルオロボレート等が挙げられる。
【0054】
Aで表される対アニオンとしては、前記アニオン(I)又はハロゲンイオンが好ましく、電荷が広く分布し非局在化していると高分子ゲルの吸油量が高まることから、前記アニオン(I)がより好ましい。
【0055】
一般式(1)におけるR、R及びRは各々独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R、R及びRで表されるアルキル基の炭素数は1〜6が好ましく、炭素数は1〜3がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
、R及びRは、水素原子又はメチル基が好適であり、ゲル化の容易さの観点からメチル基であることがより好適である。
【0056】
一般式(1)におけるRは、炭素数10以上の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表し、炭素数10〜50の直鎖又は分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数10〜36の直鎖又は分岐状のアルキル基であることがより好ましく、炭素数12〜18の直鎖又は分岐状のアルキル基であることが更に好ましい。
で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよいが、ゲル化の容易さや吸油量の高さから直鎖状のアルキル基が好適である。
【0057】
で表されるアルキル基は、置換基を有していてもよいが、疎水性溶媒との親和性(疎水性相互作用)の高さの観点から置換基を有さないアルキル基が好適である。
【0058】
一般式(1)におけるX及びXは各々独立に、2価の連結基を表す。
一般式(1)におけるXは、炭素数2〜12のアルキレン基、(ポリ)エチレンオキシ基、又は(ポリ)プロピレンオキシ基であることが好ましく、炭素数2〜10のアルキレン基がより好ましく、更に好ましくは炭素数3〜6のアルキレン基である。このような長さを有する連結基の場合、ポリマー骨格からイオン性基までの距離が適度に離れ、膨潤性が高まるものと推測される。
【0059】
一般式(1)におけるXは、好ましくは、炭素数2〜50のアルキレン基、(ポリ)エチレンオキシ基、又は(ポリ)プロピレンオキシ基であり、より好ましくは炭素数2〜20のアルキレン基又は(ポリ)エチレンオキシ基であり、更に好ましくは炭素数3〜8のアルキレン基である。
【0060】
一般式(1)におけるx、y及びzはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、70≦x+y+z≦100を満たす。
【0061】
一般式(1)におけるxは、イオン性基の導入率を意味する。イオン性基を多くするとイオン解離したときの浸透圧差が増大し、吸油量を高めることができる。
一般式(1)におけるyは、疎水性モノマーの導入率を意味する。yの割合を増やすと、疎水性溶媒への膨潤性(親和性)が向上する。
一般式(1)におけるzは、架橋基の導入率を意味する。zの割合を減らすほど架橋密度が下がり、溶媒への膨潤性が向上する。架橋密度を低減するには、一般式(1)及び(2)において、zを小さくすること、又はXを大きくすることが有効である。特に本発明においては、zを0.8モル%以下として架橋密度を低減させることが好ましい。
【0062】
本発明の高分子ゲルでは、イオン解離度を高め、疎水性溶媒への親和性を高め、かつ架橋密度を低くすると、吸油量が増大する。よって、xの割合によって支配されるイオン解離度と、yの割合によって支配される疎水性溶媒への親和性の2つのパラメータは互いにトレードオフの関係にある。
このような点から、好適なx、y及びzの比率は次のように表される。
【0063】
xの好適な範囲は、1〜50モル%であり、5〜40モル%がより好ましく、10〜30モル%が更に好ましい。
yの好適な範囲は、50〜90モル%であり、60〜90モル%がより好ましく、70〜90モル%が更に好ましい。
zの好適な範囲は、0.95モル%以下であり、0.8モル%以下が好ましく、0.05〜0.6モル%がより好ましく、0.1〜0.6モル%が更に好ましい。
【0064】
なお、高分子ゲルにおけるx、y及びzの同定は、作製した後の乾燥ゲルの固体NMR解析、またはゲル作製後の残存した未反応原料の溶液NMR解析によって行なうことができる。
【0065】
一般式(1)におけるx、y及びzの総モル%(x+y+z)は、70モル%以上100モル%以下であり、75モル%以上100モル%以下であることがより好ましく、80モル%以上100モル%以下であることが更に好ましく、85モル%以上100モル%以下であることが更に好ましい。
【0066】
本発明の第一の高分子化合物では、一般式(1)で表される構成単位(x+y+z)のほかに、他の構成単位を含んでいてもよい。
例えば、親水性基を有する構成単位を導入すると、イオン解離が促進され、高分子化合物の吸油量が増大する。これは、前記イオン性基に当該親水性基が配位し、対イオンの解離を促進させるためと推測されるが、本発明は当該推測によって限定されない。
【0067】
前記親水性部位としては、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、リン酸が好適であり、ポリエチレンオキシ基又はポリプロピレンオキシ基がより好適であり、ポリエチレンオキシ基がより好適である。
【0068】
ポリエチレンオキシ基及びポリプロピレンオキシ基の末端は疎水性基とすることが、上記疎水性溶媒との親和性の観点から好適であり、該疎水性基としては、炭素数1〜36の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が好適であり、アルキル基がより好適であり、炭素数1〜22のアルキル基が更に好適であり、特に炭素数1〜12のアルキル基が好適である。
【0069】
ポリエチレンオキシ基の炭素数は、2〜15であることが好ましく、2〜10であることがより好ましく、4〜8であることが更に好ましい。
ポリプロピレンオキシの炭素数は、2〜12であることが好ましく、2〜8であることがより好ましく、4〜6であることが更に好ましい。
【0070】
親水性基を有する構成単位の構成単位の導入量は、5モル%以上30モル%未満であることが好ましく、10モル%以上25モル%以下であることがより好ましく、15モル%以上25モル%以下であることが更に好ましい。
【0071】
親水性基を有する構成単位を含む本発明の第一の高分子化合物は、下記一般式(1−1)で表される繰り返し構造を有する化合物であることが好適である。
【化8】

【0072】
一般式(1−1)中、R、R、R、R、X、X、A及びBは、一般式(1)におけるR、R、R、R、X、X、A及びBとそれぞれ同義である。Rは、一般式(1)におけるR〜Rと同義である。Yはポリエチレンオキシ基又はポリプロピレンオキシ基を表す。Zは直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、又は水素原子を示す。x、y、z及びwはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、0<w<30、70≦x+y+z<100である。
【0073】
他の構成単位としては、前記親水性基のほか、置換基を有してもよいスチレン、置換基を有してもよいアクリルアミド、などを挙げることができる。
これらの他の構成単位の導入量は、0モル%以上30モル%未満であることが好ましく、0モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、0モル%以上15モル%以下であることが更に好ましい。
【0074】
以下では、第一の高分子化合物の具体的な高分子構造を例示するが、本発明はこれらの高分子構造に限定されない。
【0075】
【化9】

【0076】
【化10】

【0077】
【化11】

【0078】
<第二の高分子ゲル>
本発明の第二の高分子ゲルは、下記一般式(3)で表される繰り返し構造を有する高分子ゲルである。
【0079】
【化12】

【0080】
一般式(3)中、R、R及びRは各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数10以上の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を表す。X及びXは各々独立に、2価の連結基を表す。Dは、アルキル置換してもよいリン酸イオン、アルキル置換してもよいホスホン酸イオン、カルボン酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、アルキル置換してもよい下記アニオン(II)、アルキル置換してもよい下記アニオン(III)、又はアニオン(IV)を表し、Eはその対カチオンを表す。x、y及びzはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、70≦x+y+z≦100を満たす。
【0081】
【化13】

【0082】
上記アニオン(II)、(III)及び(IV)における波線は、一般式(3)におけるXとの結合位置を示す。
上記アニオン(IV)中、R11、R12及びR13は、前記アニオン(I)におけるR11、R12及びR13とそれぞれ同義であり、好適な範囲も同様である。
【0083】
一般式(3)におけるR、R、R、R、X及びXは、一般式(1)におけるR、R、R、R、X及びXと各々同義であり、好適な範囲も同様である。
【0084】
一般式(3)におけるDは、アルキル置換してもよいリン酸イオン、アルキル置換してもよいホスホン酸イオン、カルボン酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、アルキル置換してもよいアニオン(II)、アルキル置換してもよいアニオン(III)、又はアニオン(IV)を表し、好ましくは、アルキル置換のアニオン(II)又はカルボン酸イオンである。
【0085】
リン酸イオン、ホスホン酸イオン、アニオン(II)又はアニオン(III)の置換基としてのアルキル基は、炭素数1〜40が好ましく、炭素数3〜30がより好ましく、炭素数5〜22が更に好ましい。当該アルキル基は、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよいが、疎水性溶媒との親和性(疎水性相互作用)の高さの観点から直鎖のアルキル基であることが好ましい。
なお、アルキル置換したリン酸イオン、ホスホン酸イオン、アニオン(II)及びアニオン(III)とは、下記イオンを意味する。
【0086】
【化14】

【0087】
上式中、Rは上述のリン酸イオン、ホスホン酸イオン、アニオン(II)、又はアニオン(III)の置換基としてのアルキル基を表す。
【0088】
一般式(3)におけるEは対カチオンを表し、周期表第1族原子(アルカリ金属原子)、周期表第2族原子(アルカリ土類金属原子)、四級アンモニウムイオン、ピロリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、トリアゾリウムイオン、イソキサゾリウムイオン、オキサゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、イソチアゾリウムイオン、オキサジアゾリウムイオン、オキサトリアゾリウムイオン、ジオキサゾリウムイオン、オキサチアゾリウムイオン、インドールイオン、インダゾリウムイオン、ベンゾピロリジニウムイオン、ベンズイミダゾリウムイオン、ベンゾトリアゾリウムイオン、ベンズイソオキサゾリウムイオン、ベンゾオキサゾリウムイオン、ベンゾチアゾリウムイオン、ベンズイソチアゾリウムイオン、ベンズオキサジアゾリウムイオン、ベンズオキサトリアゾリウムイオン、ベンゾジオキサゾリウムイオン、ベンズオキサチアゾリウムイオン、カルボゾリウムイオン、プリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピリダジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピペラジニウムイオン、トリアジニウムイオン、オキサジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサチアジニウムイオン、オキサジアジニウムイオン、モルホリニウムイオン、イソキノリニウムイオン、キノリニウムイオン、シノリニウムイオン、キナゾリニウムイオン、ベンゾピラジニウムイオン、ベンゾピペラジニウムイオン、ベンゾトリアジニウムイオン、ベンズオキサジニウムイオン、ベンゾピペリジニウムイオン、ベンズオキサチアジニウムイオン、ベンズオキサジジニウムイオン、ベンゾモルホリニウムイオン、ナフチリジニウムイオン、アクリジニウムイオン、アゼピニウムイオン及びジアゼピニウムイオン等が挙げられる。
なお、これらのイオンは、非置換であるか、又はアルキル、アリール、アシル、アルコキシ、アリールオキシ、ハロ、メルカプト、アミノ、ヒドロキシ、アゾ、シアノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、ハロカルボニル、又はその組み合わせで置換することができる。
【0089】
これらの中でも、一般式(3)におけるEは、四級アンモニウムイオン、又は電荷が非局在化したカチオンであることが、吸油量を増大させるのに好適である。
【0090】
Eで表される四級アンモニウムイオンは、アルキル基が少なくとも1つ窒素原子に結合する四級アンモニウムイオンであることが好ましく、窒素原子に結合する該アルキル基としては、炭素数1〜30であることが好ましく、炭素数3〜22であることがより好ましく、炭素数6〜18であることが更に好ましい。
四級アンモニウムイオンの窒素原子に結合するアルキル基は、直鎖、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましく、疎水性溶媒との親和性(疎水性相互作用)の高さの観点から直鎖状のアルキル基が更に好ましい。
四級アンモニウムイオンの窒素原子には、アルキル基が1個以上結合していればよく、4個まで結合することができる。好ましくは、2個〜4個のアルキル基が窒素原子に結合する場合である。
【0091】
Eで表される、電荷が非局在化したカチオンは、電荷が非局在化したヘテロ環、イミニウム、ジアゾニウム、非環式窒素骨格のカチオン、電気的に中性な有機化合物の炭素原子からヒドリドイオンが脱離した形の3価の炭素のカチオン、電気的に中性な有機化合物の炭素原子にプロトンが付加した形の5価のカチオンなどを挙げることができ、電荷が非局在化したヘテロ環であることが好ましい。
【0092】
電荷が非局在化したヘテロ環としては、例えば、ピロリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、トリアゾリウムイオン、イソキサゾリウムイオン、オキサゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、イソチアゾリウムイオン、オキサジアゾリウムイオン、オキサトリアゾリウムイオン、ジオキサゾリウムイオン、オキサチアゾリウムイオン、インドールイオン、インダゾリウムイオン、ベンゾピロリジニウムイオン、ベンズイミダゾリウムイオン、ベンゾトリアゾリウムイオン、ベンズイソオキサゾリウムイオン、ベンゾオキサゾリウムイオン、ベンゾチアゾリウムイオン、ベンズイソチアゾリウムイオン、ベンズオキサジアゾリウムイオン、ベンズオキサトリアゾリウムイオン、ベンゾジオキサゾリウムイオン、ベンズオキサチアゾリウムイオン、カルボゾリウムイオン、プリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピリダジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピペラジニウムイオン、トリアジニウムイオン、オキサジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサチアジニウムイオン、オキサジアジニウムイオン、モルホリニウムイオン、イソキノリニウムイオン、キノリニウムイオン、シノリニウムイオン、キナゾリニウムイオン、ベンゾピラジニウムイオン、ベンゾピペラジニウムイオン、ベンゾトリアジニウムイオン、ベンズオキサジニウムイオン、ベンゾピペリジニウムイオン、ベンズオキサチアジニウムイオン、ベンズオキサジジニウムイオン、ベンゾモルホリニウムイオン、ナフチリジニウムイオン、アクリジニウムイオン、アゼピニウムイオン及びジアゼピニウムイオンを挙げることができ、より好ましくは、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、オキサゾリウムイオンであり、更に好ましくは、イミダゾリウムイオンである。
【0093】
これらの電荷が非局在化したヘテロ環は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、直鎖、分岐状又は環状構造を有する飽和又は不飽和の炭化水素基(このとき、1個以上の−CH−はヘテロ原子が隣接しない条件で、−O−、−CO−、−CH=CH−、−C≡C−に置き換えられてもよい)、アリール基、ハロゲン原子、水酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、又はホスホン酸基を挙げることができ、より好ましくは、不飽和の炭化水素基(アルキル基)、アリール基又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、不飽和の炭化水素基(アルキル基)又はハロゲン原子である。
【0094】
ヘテロ環が有する置換基の数は特に制限が無いが、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましく、1以上3以下であることが更に好ましい。
ヘテロ環の置換基の置換位置は特に制限が無いが、ヘテロ環上のヘテロ原子への置換基の導入が構造上許される場合は、そのヘテロ原子上に置換基を有することが好ましい。
【0095】
電荷が非局在化したヘテロ環として特に好ましくは、下記一般式(4)で表されるヘテロ環カチオンである。
【0096】
【化15】

【0097】
一般式(4)中、R及びRは、直鎖、分岐状若しくは環状のアルキル基を表す。R及びRは、一般式(2)のRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0098】
一般式(3)におけるx、y及びzはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、70≦x+y+z≦100を満たす。好適なx、y及びzの比率は、次の通りである。
【0099】
xの好適な範囲は、1〜50モル%であり、5〜40モル%がより好ましく、15〜35モル%が更に好ましい。
yの好適な範囲は、50〜90モル%であり、60〜90モル%がより好ましく、65〜90モル%が更に好ましい。
zの好適な範囲は、0.95モル%以下であり、0.8モル%以下が好ましく、0.05〜0.7モル%がより好ましく、0.1〜0.6モル%が更に好ましい。
【0100】
一般式(3)におけるx、y及びzの総モル%(x+y+z)は、70モル%以上100モル%以下であり、75モル%以上100モル%以下であることがより好ましく、80モル%以上100モル%以下であることが更に好ましく、85モル%以上100モル%以下であることが更に好ましい。
【0101】
本発明の第二の高分子ゲルでは、一般式(3)で表される構成単位のほかに、他の構成単位を含んでいてもよい。
例えば、親水性基を有する構成単位を導入すると、イオン解離が促進され、高分子ゲルの吸油量が増大する。これは、前記イオン性基に当該親水性基が配位し、対イオンの解離を促進させるためと推測されるが、本発明は当該推測によって限定されない。
前記親水性部位としては、前記第一の高分子ゲルで説明した親水性基が好適であり、その好適な範囲も同様である。
【0102】
親水性基を有する構成単位を含む本発明の第二の高分子化合物は、下記一般式(2−1)であることが好適である。
【化16】

【0103】
一般式(2−1)中、R、R、R、R、X、X、D及びEは、一般式(2)におけるR、R、R、R、X、X、D及びEとそれぞれ同義である。Rは、一般式(2)におけるR〜Rと同義である。Yはポリエチレンオキシ基又はポリプロピレンオキシ基を表す。Zは直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、又は水素原子を示す。x、y、z及びwはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、0<w<30、70≦x+y+z<100である。
【0104】
他の構成単位としては、前記親水性基のほかに置換基を有してもよいスチレン、置換基を有してもよいアクリルアミドなどを挙げることができる。これらの他の構成単位の導入量は、0モル%以上30モル%未満であり、0モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、0モル%以上15モル%以下であることが更に好ましい。
【0105】
以下では、第二の高分子ゲルの具体的な高分子構造を例示するが、本発明はこれらの高分子構造に限定されない。
【0106】
【化17】

【0107】
高分子ゲルは、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法、シード重合法、鋳型重合法、プラズマ重合法、塊状重合法、ドープ重合法、化学酸化重合法、電解重合法、沈降重合法、沈殿重合法、光重合法、マイクロエマルション重合法、ミニエマルション重合法、界面ゲル重合法、ソープレス(ソープフリー)乳化重合法などの公知の重合法によって製造することができる。
【0108】
本発明において重合反応は、非金属の重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。例えば、重合可能な炭素−炭素二重結合を有する化合物を、加熱によって炭素ラジカルや酸素ラジカル等の遊離ラジカルを発生して活性を示す重合開始剤存在下で重合することができる。
重合開始剤としては有機過酸化物または有機アゾ系化合物が好ましく用いられ、特に有機アゾ系化合物が好ましいが、本発明で使用される重合開始剤はこれらに限定されない。
【0109】
有機アゾ系化合物としては和光純薬工業株式会社で市販されているV−30、V−40、V−59、V−60、V−65、V−70等のアゾニトリル化合物類、VA−080、VA−085、VA−086、VF−096、VAm−110、VAm−111等のアゾアミド化合物類、VA−044、VA−061等の環状アゾアミジン化合物類、V−50、VA−057等のアゾアミジン化合物類、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)、1−〔(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ〕ホルムアミド、2,2−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシブチル)プロピオンアミド〕、2,2−アゾビス〔N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド〕、2,2−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオアミド)、2,2−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジスルフェートジヒドレート、2,2−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス〔2−〔2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン〕、2,2−アゾビス(1−イミノー1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン〕テトラヒドレート、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が好ましく用いられる。
【0110】
有機過酸化物としては、日本油脂株式会社より市販されているパーヘキサH等のケトンパーオキサイド類、パーヘキサTMH等のパーオキシケタール類、パーブチルH−69等のハイドロパーオキサイド類、パークミルD、パーブチルC、パーブチルD等のジアルキルパーオキサイド類、ナイパーBW等のジアシルパーオキサイド類、パーブチルZ、パーブチルL等のパーオキシエステル類、パーロイルTCP等のパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4−t−ブチルクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジコハク酸パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5、−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル4,4−ジーt−ブチルパーオキシバレレート、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、シ゛−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーイキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メタンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチル-2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、トリス−(t−ブチルパーオキシ)トリアジン、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジーt−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルアジペート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,6−ビス(t−ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、ジエチレングリコールビス(t−ブチルパーオキシカーボネート)、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート等が好ましく用いられる。
【0111】
本発明において重合開始剤は、1種類を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明において重合開始剤の使用量は全モノマーの合計に対して、好ましくは0.001〜3モル%、より好ましくは0.05〜2モル%、特に好ましくは0.1〜1.5モル%である。
【0112】
本発明における重合反応の最適な条件は、重合開始剤、化合物、溶媒の種類、濃度等によって異なるが、好ましくは内温0〜150℃、より好ましくは20〜100℃、特に好ましくは40〜80℃である。重合の反応時間としては、好ましくは0.5〜20時間、より好ましくは1〜12時間、特に好ましくは1.5〜8時間の範囲である。
【0113】
また、酸素による重合開始剤の不活性化を抑制するために不活性ガス雰囲気下(例えば窒素、アルゴン等)で反応させることが好ましい。反応時の酸素濃度は好ましくは500ppm以下、より好ましくは200ppm以下、特に好ましくは100ppm以下である。
【0114】
本発明の重合時の反応溶媒としては特に限定はされないが、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、3−メトキシプロパノール,1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール系溶剤、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、シクロペンタノン,シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、ベラトロール等のエーテル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、ブロモホルム、四塩化炭素、等のハロゲン系溶剤、アイソパーM(登録商標、エクソンモービル社製)、流動パラフィン等の飽和炭化水素系溶剤、N−メチルピロリジノン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、鉱油などが挙げられ、これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
【0115】
より好ましい有機溶剤は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、クロロホルム、ブロモホルム、四塩化炭素、アイソパーM、流動パラフィン、鉱油であり、特に好ましくはテトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、アイソパーMである。
【0116】
本発明の溶媒中における重合時のモノマー濃度は、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは30〜70質量%であり、特に好ましく40〜60質量%である。
【0117】
本発明の高分子ゲルの重合方法としては、例えば、モノマー種および開始剤を溶剤に溶解させ、加熱することにより重合を行う一括重合法、加熱溶剤にモノマー種と開始剤の溶液を0.5〜10時間かけて滴下して加える滴下重合法などが挙げられ、一括重合法が好ましい。
【0118】
重合反応後の高分子ゲルの取り出し方法としては、通常は、重合終了時にはゲルがほぼすべての反応溶媒を吸収して膨潤している状態であるため、物理的なかき出しによって取り出せる。膨潤ゲルを取り出した後、余分な溶媒を除去するための操作としては、吸引濾過、傾斜法(デカンテーション)、遠心分離等による取り出し方法が好ましく、特に吸引濾過が好ましい。ただし、吸引濾過において濾紙が目詰まりしやすく濾過が困難な場合には、遠心分離による溶媒の除去も好ましい。
【0119】
膨潤状態のゲルを取り出した後は、未反応のモノマー成分を取り除く目的で、反応溶媒と同じ溶媒を用いて、吸引濾過または遠心分離により洗浄することが好ましい。
【0120】
上記で得られた膨潤ゲルの洗浄後は、溶媒を留去するため乾燥させることが好ましい。乾燥温度としては、50〜200℃が好ましく、60〜180℃が更に好ましく、70〜150℃が特に好ましい。なお、乾燥時間を短縮するため、減圧下にて加熱乾燥させてもよい。
【0121】
以下では、高分子ゲル合成方法の具体例として、溶液重合法のスキームの一例を挙げる。詳細な合成方法は、後述の実施例で記載する。
【0122】
【化18】

【0123】
本発明のゲルは、一般式(1)又は(3)で表されるブロック共重合体を用いてもよい。この場合、その親水部同士の静電相互作用および疎水部同士の疎水性相互作用による自己組織化により、ゲル粒子内部において親水部と疎水部とが規則的に配列した、または局在化した構造を有していてもよい。
【0124】
本発明の高分子ゲルの利用形態には特に制限はなく、粒子状、ブロック状、フイルム状、不定形状、繊維状など種々ものが使用可能である。粒子状における形態にも特に限定はないが、球体、楕円体、多面体、多孔質体、繊維状、星状、針状、中空状などのものが適用できる。
【0125】
また、高分子ゲルの吸収速度をより高速にするために、高分子ゲルを多孔質化して液体の出入りを向上させることも好ましい。例えば膨潤した高分子ゲルを凍結乾燥する方法で多孔質化することができる。
【0126】
<吸油剤>
本発明の吸油剤は、前記高分子ゲルによって形成できる。本発明の吸油剤は、各種油や、ヘキサン、トルエン等比誘電率が10以下の液体を吸収し、膨潤させる為に好適に利用することができる。
本発明の吸油剤では、更にベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系等の紫外線吸収剤、フェノール系、有機硫黄系、リン系、アミン系等の酸化防止剤、光安定化剤、ケイソウ土、タルク、カオリン、焼成カオリン、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、非晶質シリカ、非晶質ケイ酸カルシウム、コロイダルシリカ等の無機顔料、メラミン樹脂フィラー、尿素−ホルマリン樹脂フィラー、ポリエチレンパウダー、ナイロンパウダー等の有機顔料、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸金属塩、ステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、パラフィン、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレン、カスターワックス等の滑剤、アニオン性、ノニオン性の高分子量の化合物を含む界面活性剤、染色のための染料や蛍光染料、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、酸化チタン等の光分解性触媒、金属錯体触媒、紫外線吸収剤や酸化防止剤などの安定剤などを添加することもできる。
【0127】
本発明の吸油剤は、例えばゾル−ゲル法によって製造される親水ゲルを疎水化するような従来型吸油剤と比較して、簡便な製造方法により製造できる。具体的には、モノマーのラジカル重合反応という一つの工程で製造することが可能である。なお、当然に、他の工程を加えて製造してもよい。
本発明の吸油剤は、吸油させる際に加熱や混合等の煩雑な操作を要さずに油を吸収することが可能である。保形性及び保油性が高く、油吸収後の回収操作が容易である。
【0128】
本発明の高分子ゲルは水を吸収しないため、ガソリン、重油、原油、灯油、軽油、アイソパーM等の工業用油や、サラダ油、なたね油、大豆油、オリーブオイル等の家庭用調理用油などの油類と水との混合系において、油のみを選択的に吸収することも可能である。そのため、例えば海面に流出した原油のみを、選択的に回収することが可能となる。
【0129】
また、本発明の吸油剤は既存の高分子系吸油剤と比較して、より大きな吸油量を示す。したがって、同一量の油を吸収して回収する場合、従来の吸収ゲルより吸油剤(高分子ゲル)の使用量が少なくて済み、廃材の点から環境負荷が低減される。
【0130】
更に、本発明の吸油剤の油吸収前の状態は、立体的重量的にもコンパクトであり、船の油流出事故やガソリンスタンドの事故防止に備えて、家庭用/工業用廃油処理剤、オイルシール剤、油徐放性基材(芳香剤基材)を配置しておくことも可能である。
【実施例】
【0131】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の主旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って本発明の範囲は以下の実施例に制限されるものではない。
【0132】
[合成例1]
<モノマーの合成>
下記化合物−1を下記スキームに従い合成した。
【0133】
【化19】

【0134】
(ステップ1)
3−ブロモ−1−プロパノール(上記化合物−1a)(19.9g、143mmol)及びトリn−ドデシルアミン(149g、286mmol)を無溶媒状態で120℃にて9時間攪拌した。室温に冷却して得られた白色固体を濾別後、酢酸エチルにて洗浄し、化合物−1bを定量的に得た。
【0135】
(ステップ2)
上記で得られた化合物−1b(31.4g、47.5mmol)及びトリエチルアミン(5.77g、57.0mmol)を塩化メチレン147mlに溶解させ、氷冷窒素雰囲気下、メタクリル酸クロリド(5.46g、52.2mmol)をゆっくりと滴下した。室温にて2時間攪拌した後、200mlの水を加え、分液操作を行った。その後、溶媒を留去して化合物−1cを得た。
【0136】
(ステップ3)
上記で得られた化合物−1c(26.9g、36.9mmol)を150mlの塩化メチレンに溶解させ、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(28.3g、82.8mmol)及び水75mlを加え、二相系にて室温で7時間攪拌を行った。反応液に水200mlを加えた後、塩化メチレンにて分液操作を行った。抽出液を水にて洗浄し、化合物−1を得た。
【0137】
[合成例2]
<モノマーの合成>
下記化合物−2を下記スキームに従い合成した。
【化20】

【0138】
(ステップ1)
上記化合物−2a(10.0g、122mmol)を240mlのテトラヒドロフラン(THF)溶媒に溶解させ、その後窒素雰囲気にて氷冷下攪拌しながらゆっくりと水素化ナトリウム(4.87g、122mmol)を添加し、氷冷下にて30分間攪拌した。室温にて1−ブロモオクタデカン(42.6g、128mmol)を加えた後、60℃にて4時間攪拌した。反応溶液に水300mlを加えた後、酢酸エチルにて抽出を行い、飽和食塩水にて洗浄を行った後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥を行った。溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1)にて精製し、化合物−2b(40.7g)を得た。
【0139】
(ステップ2)
上記で得られた化合物−2b(40.1g、120mmol)及び3−ブロモ−1−プロパノール(16.7g、120mmol)を無溶媒状態で110℃にて10時間攪拌した。室温に冷却後、得られたロウ状の固体をトルエンにて洗浄し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製を行い、化合物−2cを得た
【0140】
(ステップ3)
上記で得られた化合物−2c(36.3g、76.6mmol)及びトリエチルアミン(9.23g、91.9mmol)を塩化メチレン150mlに溶解させ、氷冷窒素雰囲気下、メタクリル酸クロリド(8.41g、80.5mmol)をゆっくりと滴下した。室温にて2時間攪拌した後、150mlの水を加え、分液操作を行った。その後、溶媒を留去して化合物−2dを得た。
【0141】
(ステップ4)
上記で得られた化合物−2d(38.5g、71.1mmol)を170mlの塩化メチレンに溶解させ、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(31.6g、92.4mmol)および水60mlを加え、二相系にて室温で9時間攪拌を行った。反応液に水200mlを加えた後、塩化メチレンにて分液操作を行った。抽出液を水にて洗浄し、化合物−2を得た。
【0142】
[実施例1]
<高分子ゲル1の作製>
吸油性高分子ゲル1を、以下に示すような溶液重合法により作製した。
モノマーとして、合成例1で合成した化合物−1(1.89g、1.95mmol、一般式(1)におけるx=29.7モル%)、オクタデシルメタクリレート(1.54g、4.55mmol、y=69.3モル%)、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート(12.9mg、0.065mmol、z=1.0モル%)を脱気したトルエン3mlに溶解し、窒素雰囲気下室温にて15分間攪拌した。その後、重合開始剤としてV−65(16.1mg、0.065mmol)(和光純薬工業株式会社製)を添加し、窒素雰囲気下にて60℃で5時間攪拌した。
その後、得られたゲルをトルエンにて洗浄し、加熱真空乾燥させることによりゲルの乾燥固形物(高分子ゲル1)を得た。
【0143】
<吸油性能の評価>
得られた高分子ゲル1の乾燥固形物を25℃の工業用油(製品名:アイソパーM(登録商標)、エクソンモービル社製、比誘電率ε=1.9)に浸漬して、吸油量を評価した。ここで吸油量とは、乾燥ゲル1gあたりの吸油量(g)をいう。
吸油量(Q)=(膨潤ゲルの質量−乾燥ゲルの質量)/乾燥ゲルの質量
【0144】
高分子ゲル1の1時間浸漬後の吸油量は10.5であり、24時間浸漬後の吸油量は15.0であった。
【0145】
[実施例2]
<高分子ゲル2の作製>
実施例1のモノマー成分を次の組成に変更した以外は実施例1と同様の方法により、PEO基を有する高分子ゲルの乾燥固形物(高分子ゲル2)を作製した。
【0146】
(モノマー組成)
・合成例2で合成した化合物−2・・・1.89g(1.95mmol、x=29.7モル%)
・オクダデシルメタクリレート・・・1.21g(3.58mmol、y=54.5モル%)
・架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート・・・12.9mg(0.065mmol、z=1.0モル%)
・エチレングリコールモノメチルエーテル モノメタクリレート(商品名:NKエステルM40G:新中村化学工業株式会社製)・・・269mg(0.975mmol、14.8モル%)
【0147】
<吸油性能の評価>
得られた高分子ゲル2の吸油量を実施例1と同様の方法で測定したところ、1時間浸漬した後の吸油量は16.5であり、24時間浸漬後の吸油量は21.0であった。
【0148】
[実施例3]
吸油性高分子ゲル3を、以下に示すような溶液重合法により作製した。
まず、J. Mex. Chem. Soc. 2006, 50(4), 164-174に記載の方法に従って4−(メタクリロイル)ブタノイックアシッド メチルエステルを合成した。
続いて、モノマーとして、先に合成した4−(メタクリロイル)ブタノイックアシッド メチルエステル(3.67g、19.7mmol、一般式(3)におけるx=30.0モル%)、オクタデシルメタクリレート(15.4g、45.6mmol、y=69.5モル%)、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート(129mg、0.65mmol、z=0.5モル%)を脱気したトルエン3mlに溶解し、窒素雰囲気下室温にて15分間攪拌した。その後、重合開始剤としてV−65(161mg、0.65mmol)(和光純薬工業株式会社製)を添加し、窒素雰囲気下にて60℃で5時間攪拌した。
【0149】
その後、得られたゲル状の固形物をJ. Mex. Chem. Soc. 2006, 50(4), 164-174に記載の方法に従って、ヨウ化リチウム存在下のピリジン溶媒中にて高分子ゲル上のカルボン酸メチルエステル部分をカルボン酸リチウム塩に変換した。
続いて、上記で得られたゲル状固形物15gを粉砕した後、塩化メチレン100mLに浸漬し、そこに臭化トリドデシルメチルアンモニウム30gを添加し、室温にて10時間攪拌した。得られたゲル状の固形物を塩化メチレン、水、エタノールおよびトルエンで洗浄し、4−(メタクリロイル)ブタノイックアシッド トリドデシルメチルアンモニウム塩をモノマーユニットとして有する高分子ゲルを得た。
その後、この得られたゲルをトルエンにて洗浄し、加熱真空乾燥させることによりゲルの乾燥固形物(高分子ゲル3)を得た。
【0150】
<吸油性能の評価>
得られた高分子ゲル3の吸油量を実施例1と同様の方法で測定したところ、1時間浸漬した後の吸油量は12.0であり、24時間浸漬後の吸油量は17.5であった。
【0151】
[比較例1]
特開平6−279571号公報の実施例1に従ってノルボルネン重合体を作製した。
【0152】
<吸油性能の評価>
得られたノルボルネン重合体の吸油量を実施例1と同様の方法で測定したところ、1時間浸漬した後の吸油量は8.0であり、24時間浸漬後の吸油量は11.0であった。
【0153】
[実施例4]
【0154】
合成例1のステップ1においてトリn−ドデシルアミン(286mmol)を用いたところを、トリn−デシルアミン(286mmol)、トリn−オクタデシルアミン(286mmol)、トリn−ドコシルアミン(286mmol)、又はトリn−ヘキシルアミン(286mmol)に変更した以外は同様にして、アルキル基で置換された四級アンモニウムイオンを有する化合物41〜44を合成した。
実施例1と同様に、但し化合物1を、上記化合物41〜44に変更して高分子ゲル41〜44を作製した。この高分子ゲルの吸油性能の評価を実施例1と同様にして行なった。評価結果を表1に示す。
【0155】
【表1】

【0156】
表1に示すように、比較の高分子ゲル44に比べて、高分子ゲル1及び41〜43は、吸油量が格段に増大していた。
【0157】
[実施例5]
<高分子ゲル51〜59の作製>
実施例1のモノマー成分を次の組成に変更した以外は実施例1と同様の方法により、高分子ゲルの乾燥固形物(高分子ゲル51)を作製した。
【0158】
(モノマー組成)
・合成例1の化合物−1・・・1.89g(1.95mmol、x=29.7モル%)
・テトラデシルメタクリレート・・・1.29g(4.55mmol、y=69.3モル%)
・エチレングリコールジメタクリレート・・・12.9mg(0.065mmol、z=1.0モル%)
【0159】
また、高分子ゲル51のモノマー比率x、y、zを下記表2に示すように変更した以外は高分子ゲル51と同様の方法で、高分子ゲル52〜59を作製した。
【0160】
<吸油性能の評価>
得られた高分子ゲル51〜59の吸油量を実施例1と同様の方法で測定したところ、24時間浸漬後の吸油量は、下記表2に示す値であった。なお、架橋度の低い高分子ゲル52は一部が溶剤に溶解していた。
【0161】
【表2】

【0162】
図1は、表2の結果をグラフにしたものである。図1に示されるように、zが2.5モル%以下で優れた吸油量を示し、zが0.8モル以下のときには更に優れた吸油量を示した。
【0163】
[実施例6]
実施例5で得られた高分子ゲル51〜54を用い、表3に示す溶剤に変えて24時間浸漬後の吸油量を測定した。結果を表3に示す。
【0164】
【表3】

【0165】
表3に示すように、高分子ゲル51,52,54は、比誘電率の低い低極性の溶剤を良好に吸収した。特に比誘電率が2.4のトルエン、比誘電率が7.6のテトラヒドロフランで吸油量が高くなっていた。
【0166】
[実施例7]
実施例1と同様の方法で、但し化合物−1を化合物−1cに変更して高分子ゲルの乾燥固形物(高分子ゲル7)を作製した。
高分子ゲル1及び7を下記表4に示す溶剤に24時間浸漬して吸油量を測定した。結果を表4に示す。
【0167】
【表4】

【0168】
表4に示すように、高分子ゲル1及び7は、比誘電率の低い低極性の溶剤を良好に吸収した。
更に、対アニオンとしてブロモイオン(Br)を有する高分子ゲル7よりも、テトラフェニルボレートイオン(BPh)を有する高分子ゲル1が、いずれの低極性溶剤に対しても高い吸油量を示した。
【0169】
[実施例8]
実施例2のヘテロ環カチオンモノマーである化合物2において、カチオン性基の種類、又は対アニオンの種類を変更して下記化合物81〜85を得た。この化合物81〜85に変更した以外は実施例2と同様にして、高分子ゲル81〜85を作製した。この高分子ゲルの吸油性能の評価を実施例1と同様にして行なった。評価結果を表5に示す。
【0170】
【表5】

【0171】
【化21】

【0172】
[実施例9]
実施例1と同様にして、但しモノマー種又はモノマー比率を下記表6に示すように変更して、高分子ゲル86〜92を作製した。この高分子ゲルの評価を実施例1と同様にして行なった。評価結果を表6に示す。
【0173】
【化22】

【0174】
【表6】

【0175】
表6に示すように、モノマー種又はモノマー比率を変更しても本発明に該当する高分子ゲルは高い吸油量を示した。
【0176】
[実施例10]
実施例3と同様にして、但しアニオンモノマーを下記化合物101〜106に変更して、高分子ゲル101〜106を作製した。この高分子ゲルの吸油性能の評価を実施例1と同様にして行なった。評価結果を表7に示す。
【0177】
【化23】

【0178】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】実施例5の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し構造を有する高分子化合物。
【化1】


〔一般式(1)中、R、R及びRは各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数10以上の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を表す。X及びXは各々独立に、2価の連結基を表す。Bは、炭素数10以上のアルキル基が少なくとも1つ窒素原子に結合する四級アンモニウムイオン又は電荷が非局在化したカチオンを表し、Aはその対アニオンを表す。x、y及びzはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、70≦x+y+z≦100を満たす。〕
【請求項2】
前記一般式(1)におけるzが0.8モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるBが、電荷が非局在化したヘテロ環カチオンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高分子化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるBが、下記一般式(2)で表されるカチオン基であることを特徴とする請求項3に記載の高分子化合物。
【化2】


〔一般式(2)中、Rは、水素原子、又は直鎖、分岐状若しくは環状のアルキル基を表す。Rは、直鎖、分岐状又は環状のアルキル基を表す。波線は前記Xとの結合位置を示す。〕
【請求項5】
下記一般式(3)で表される繰り返し構造を有する高分子化合物。
【化3】


〔一般式(3)中、R、R及びRは各々独立に、水素原子又はアルキル基を表し、Rは炭素数10以上の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を表す。X及びXは各々独立に、2価の連結基を表す。Dは、アルキル置換してもよいリン酸イオン、アルキル置換してもよいホスホン酸イオン、カルボン酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、アルキル置換してもよい下記アニオン(II)、アルキル置換してもよい下記アニオン(III)、又はアニオン(IV)を表し、Eはその対カチオンを表す。x、y及びzはモル%を表し、それぞれ0<x≦90、0<y≦90、0<z≦2.5、70≦x+y+z≦100を満たす。〕
【化4】


前記アニオン(II)、(III)及び(IV)における波線は、一般式(3)におけるXとの結合位置を示す。前記アニオン(IV)中、R11、R12及びR13は、各々独立に、置換基を有してもよい芳香環基、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。〕
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の高分子化合物を含む吸油剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242724(P2009−242724A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93707(P2008−93707)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】