説明

高分子抵抗体及びその製造方法

【課題】炭素系材料の充填量を変えることなく変化倍率を向上させ、かつ柔軟性をも付与した高分子抵抗体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】高分子抵抗体は、主成分が反応性樹脂を介して架橋された樹脂組成物と炭素系材料とを有し、常温で液状物質を10wt%以上含有したものである。これにより、炭素系材料の充填量を変えることなく変化倍率を向上させ、かつ柔軟性をも付与させることができる。液状物質としては、リン酸エステル系化合物、シリコン系化合物などがかんがえられるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正抵抗温度特性を有する高分子抵抗体に関し、特に、低い抵抗値かつ高い変化倍率の特性を併せ持つ高分子抵抗体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、正抵抗温度特性を有するPTC抵抗体が発熱体(ヒータ)として使用されている。正抵抗温度特性とは、抵抗体の抵抗値が温度の上昇に従って増加し、ある温度に達すると急激に増加するものをいう。
【0003】
ここで50℃の抵抗値と20℃の抵抗値の比である抵抗変化倍率を変化倍率とする。
【0004】
PTC抵抗体は、結晶性樹脂と導電性材料とを混合して形成させたものが広く知られている。
【0005】
原理は、結晶性樹脂が結晶質から非晶質に転換する際の急激な体積膨張によって、その中に分散していた導電性材料の平均粒子間距離が増加することにより、結果として、抵抗値も増大するものと考えられている。
【0006】
このような原理に基づくPTC抵抗体は、それ自身で自己温度制御機能を有するため、サーモスタット等の安全装置を設ける必要なく、部品点数を少なくできる利点がある。
【0007】
図3は面状発熱体に使用した例で、樹脂フィルム15上に配置された電極16にPTC抵抗体17を印刷して乾燥させたものである。
【0008】
さらにその上に、保護フィルムを張り合わせた構成もある。
【0009】
しかし、いずれの場合においても、面状発熱体は一種類の均一なPTC抵抗体17のみで構成されており、変化倍率は2未満と小さいものである(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−357966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の構成では、抵抗値を下げようとして導電性の炭素系材料の充填量を増やすと変化倍率が小さくなり、また、柔軟性も低下することになる。
【0011】
一方炭素系材料の充填量を減らして抵抗値を増加させれば変化倍率は大きくなるものの、所望する抵抗値は得られない。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、炭素系材料の充填量を変えることなく変化倍率を向上させ、かつ柔軟性をも付与した面状発熱体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、主成分が反応性樹脂を介して架橋された樹脂組成物と炭素系材料を有し、常温で液状物質を10wt%以上含有してなることを特徴としたものである。
【0014】
これにより、抵抗値を変化させることなく、変化倍率を増加させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抵抗値の変化倍率の大きな高分子抵抗体を作製することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の発明は、主成分が反応性樹脂を介して架橋された樹脂組成物と炭素系材料を有し、常温で液状物質を10wt%以上含有したことを特徴とする。
【0017】
液状物質は温度変化による体積膨張が大きいため、これを含有する抵抗体の温度が上昇すれば、炭素系材料の粒子間距離が広がり、抵抗値が著しく増加することになる。
【0018】
これによって、炭素系材料の添加量を変えることなく、変化倍率を向上させることができる。
【0019】
第2の発明は、特に、第1の発明の液状物質をリン酸エステル系化合物としたものである。
【0020】
リン化合物は、酸素含有化合物の存在下に燃焼時に脱水剤として作用し、炭化被膜形成を促進するため、難燃剤として機能する。その中でリン酸エステルは、常温で液体であり、樹脂に対して相溶性がある。
【0021】
したがって、変化倍率を向上させるとともに、難燃性をも付与することができる。
【0022】
第3の発明は、特に、第1の発明の液状物質がシリコン系化合物を含むものである。
【0023】
これらの化合物を添加した組成物では表面エネルギーが小さくなるため、例えば、カレンダー加工によって抵抗体を形成する場合など、離型性が良くなる。
【0024】
したがって、変化倍率を向上させるとともに、加工性をも向上させることができる。
【0025】
第4の発明は、これら高分子抵抗体を面状発熱体に使用したものである。
【0026】
第5の発明は、第4の発明の面状発熱体を自動車の座席の座部、背もたれの少なくとも一方に取付け、暖房用に使用したものである。
【0027】
第6の発明は、液状物質と炭素系材料とを攪拌混合する液状物質吸着炭素材料製造のための第一工程と、前記液状物質吸着炭素材料と樹脂組成物と混練する第二工程とを有することを特徴とする製造方法である。
【0028】
炭素材料を樹脂と混練した後、液状物質を10wt%以上添加することは、液状物質がはじいてしまい困難である。あるいはゆっくり滴下する必要があり、時間を要する。
【0029】
一方、炭素系材料は比表面積が大きく、液体を吸収することができる。
【0030】
したがって、あらかじめ液状物質を保持させる第一工程と、樹脂と混練させる第二工程とに分けることで、液体物質を容易に混合させることができる。
【0031】
第7の発明は、特に、第6の発明の製造方法において、炭素系材料を還元処理する工程
を有することを特徴とする。
【0032】
炭素系材料の表面には、炭素系材料の製造過程で生成した塩基性官能基等が付着して、粒子間の界面抵抗が大きい。そこで還元処理を行って付着物を取り除くことにより、界面抵抗を低下させることができる。
【0033】
すなわち、変化倍率を低下させることなく、抵抗値を下げることができる。換言すれば、抵抗値を変えることなく、変化倍率を向上させることができる。
【0034】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、本実施の形態が本発明を限定するものではない。
【0035】
(実施の形態1)
図1は面状発熱体に使用した例を示すものである。
【0036】
面状発熱体1は、電気絶縁性基材2と、第1、第2線条電極3A,3Bからなる線条電極3と、高分子抵抗体4とを含む。
【0037】
線条電極3A、3Bは電気絶縁性基材2に、それぞれが左右対称になるように配置され、糸5で部分的に縫い付けられている。
【0038】
高分子抵抗体4は線条電極3が配置された電気絶縁性基材2上に、カレンダー加工法によりフィルム状に加工されて形成されている。
【0039】
これにより高分子抵抗体4が線条電極3と電気絶縁性基材2とに熱融着している。
【0040】
面状発熱体1の中央部は、線条電極3と電気絶縁性基材2とに高分子抵抗体4が熱融着された後に打ち抜かれている。
【0041】
このようにして面状発熱体1が構成されている。なお、線条電極3A、3Bに電源からの電力を供給するためのリード線は図示していない。また、中央部の打ち抜き6はこの場所に限定されることはなく、取付部位の材料や形状によりこれ以外の場所に設けてもよい。この場合、線条電極3の配線パターンを変更する。
【0042】
図2は前記面状発熱体1を自動車の座席に取付けた例を示し、すなわち、面状発熱体1は、暖房用ヒータとして座部7や、この座部7から立ち上がるように設けられた背もたれ8に電気絶縁性基材2が表面側に配置するように取付けてある。
【0043】
座部7や背もたれ8には、座席基材9と表皮10とが用いられている。
【0044】
ウレタンパット等の座席基材9は、座席に腰掛けた人体による荷重がかかった時に変形し、荷重がかからなくなると形状が復元する。
【0045】
なお、座部7や背もたれ8の吊り込み部(図示せず)に対応するために、中央部や周縁部に吊り込むための電気絶縁性基材2の延長部(図示せず)が設けられている場合がある。
【0046】
このように薄い面状発熱体1は変形可能な座席基材9と表皮10に沿って配置されている。
【0047】
そのため、面状発熱体1も、座部7や背もたれ8の変形に対応して相似の変形をしなければならない。
【0048】
故に、種々の発熱パターンを設計し、そのための線条電極3の配置形状を変更する必要があるが、ここではその詳細は省略する。
【0049】
相対向するように配置された幅の広い1対の線条電極3A、3Bは、面状発熱体1の長手方向の外側部沿って配設されている。
【0050】
線条電極3A、3Bに重なるように配設された高分子抵抗体4には線条電極3A、3Bを介して給電することで発熱する。
【0051】
高分子抵抗体4はPTC特性を有し、温度が上昇すると抵抗値が上昇して、所定の温度になるように自己温度調節機能を有する。
【0052】
すなわち、高分子抵抗体4は面状発熱体1に安全性が高く温度コントロールを不要とする機能を付与する。
【0053】
また、自動車用座席に組み込まれるカーシートヒータとして、面状発熱体1は着座感や難燃性を満足することができる。
【0054】
着座感は、紙のような音鳴り感がなく、座席表皮材と同等の伸び特性、すなわち5%の伸びに対して7kgf以下の荷重であることで満足できる。
【0055】
また、PTC特性のない発熱体に比べて、PTC特性を有する面状発熱体1は速熱性と省エネ性とを発揮することができる。
【0056】
PTC特性のない発熱体は、温度制御器を必要し、温度制御器はオン−オフ(ON−OFF)制御で通電を制御して発熱温度を制御している。特に、線条発熱線を用いたPTC特性のない発熱体の場合、線条発熱線間の低温部を回避するため、ON時の発熱体温度を約80℃まで上昇させており、表皮10とはある程度の距離をおいて配置する必要があるが、本実施の形態の面状発熱体1では、発熱体温度が40℃〜45℃の範囲に自己制御される。そのため、表皮10の近傍に近接して配置することができる。
【0057】
面状発熱体1は発熱体温度が低く、表皮10の近傍に配置されることより、速熱性と外部への放熱ロスを低減できる。そのため省エネルギー性を実現できる。
【0058】
上述したように、本実施の形態の面状発熱体1は、従来の面状発熱体が基材と電極と高分子抵抗体と熱融着性樹脂と被覆材との5〜6層構造で構成されているのに対して、電気絶縁性基材2と1対の線条電極3と高分子抵抗体4との3層構造で構成している。
【0059】
この簡素な構成により、外力が加わってもその外力の規制が少なくなるので柔軟性を発揮しやすくなる。
【0060】
したがって、カーシートヒータとして用いた際に外力を受けても柔軟性が高いので容易に変形し、従来のように折り皺が原因で起こる高分子抵抗体の亀裂や剥離が防止される。
【0061】
また、面状発熱体1は3層の簡素な構成で作製することができるので生産性に優れ、かつ面状発熱体1を構成する材料費が少なくなる。その結果、低コストで生産できる。
【0062】
また、高分子抵抗体4を挟んで通気性のないポリエステルシートなどの樹脂フィルムを用いていないので従来の面状発熱体のようにカーシートヒータやハンドルヒータに用いられた場合に湿気がこもりやすいという課題が解決され、長時間使用しても初期と同等の着座感や手触り感が得られ、快適な暖房効果が得られる。
【0063】
電気絶縁性基材2は、例えばポリエステル繊維で作製されたニードルパンチタイプの不織布が用いられる。これ以外にポリエステル織布を用いてもよい。
【0064】
これらの電気絶縁性基材2は、面状発熱体1に柔軟性を付与し、外力が加わっても容易に変形してカーシートヒータとして用いた際の着座感を向上させる。
【0065】
特に、線条電極3を縫製により取り付ける場合は、縫製による電気絶縁性基材2の針孔から発生する亀裂の防止や柔軟性の点で上記の不織布、織布が最適である。
【0066】
線条電極3は、電気絶縁性基材2にミシン等で縫製されて取り付けられる。この方法で作製された構成によると、線条電極3は、電気絶縁性基材2に強固な固定と電気絶縁性基材2の変形に追従した変形が可能となり、機械的信頼性が向上する。
【0067】
また、電気絶縁性基材2への縫製は、糸5によって行われるので電極材料や形状の選択範囲が広がる。
【0068】
さらに線条電極3は、従来の複雑な櫛形電極とは異なり、少なくとも直線状の1対の形状の簡素な構成とすることができるので材料費が廉価で低コスト化が図れる。
【0069】
また、カーシートヒータとして用いた際に外力が加わっても線条電極3の皺の発生が抑制され、電極の破損が防止される。
【0070】
線条電極3は、金属導線と金属編組導線の少なくとも1種で構成される。これらの材料は、電気基材絶縁性2への縫製加工が容易であり、生産性が高い。
【0071】
また、金属導線、金属編組導線の材質、形状の選択範囲が広がる。金属導線、金属編組導線は可撓性に優れ、かつ機械的強度が高いので面状発熱体の伸び、屈曲、変形などを繰り返しても長期にわたり耐え得る。
【0072】
また、電極は線条で構成されているので従来の複雑な櫛形電極とは異なり、簡素な構成とすることができ、電極材料の低コスト化が図れる。
【0073】
線条電極3の抵抗はできるだけ低く、電圧ドロップが小さいことが好ましい。線条電極3は、面状発熱体1に印加する電圧の電圧ドロップが1V以下となる抵抗値が適しており、抵抗値で表現すれば1Ω/m以下がよい。
【0074】
また、線条電極3の線径は、大きいと面状発熱体1に凹凸が形成され、着座感が損なわれるため、直径1mm以下が好ましく、さらに、より快適な着座感を実現するには直径0.5mm以下がよい。
【0075】
この抵抗値を実現する材料は、銅、錫メッキを施した銅、銅−銀合金の単線、撚り線、編組線が挙げられる。特に、機械的強度の点では引っ張り強度の高い銅−銀のそれらを用いることが好ましい。
【0076】
なお、本実施の形態では、電極として線条電極3を用いたが、これに限定されるもので
はなく、金属箔の電極、銀ペーストなどのスクリーン印刷による電極膜なども用いることができる。
【0077】
ところで、再現するために、PTCを発現する被反応樹脂としてカルボキシル基を有する変性ポリエチレンと被反応樹脂と反応する反応性樹脂としてエポキシ基を有する変性ポリエチレンとを混成したものがよい。
【0078】
これは、被反応性樹脂の持つカルボニル基が反応性樹脂の持つエポキシ基の酸素と反応して化学結合し、架橋された構造を有することに起因している。
【0079】
この架橋反応により、上述したように被反応性樹脂単独の場合に比べ、熱的安定性を高めることができ、その結果、樹脂組成物中での導電体の導電パスの形成、切断する温度が安定する。
【0080】
この架橋反応は、酸素以外に窒素を介しても起こり得るものである。酸素と窒素の少なくともいずれかを含む官能基を有する反応性樹脂と、これら官能基と反応が可能な官能基を有する被反応性樹脂の組み合わせであれば架橋反応が起こることになり、樹脂組成物を構成する反応性樹脂の反応性官能基と被反応樹脂の官能基との組み合わせとしては、上述のエポキシ基とカルボニル基以外に以下のものがある。
【0081】
エポキシ基は、上述のカルボニル基以外にカルボキシル基、エステル基、水酸基、アミノ基、ビニル基、無水マレイン酸基、オキサゾリン基と反応して付加重合する。これらの官能基を有する被反応樹脂を用いればよい。
【0082】
一方、反応性樹脂の官能基としてはエポキシ基以外にオキサゾリン基や無水マレイン酸基を有する反応性樹脂を用いることもできる。このように樹脂組成物は酸素と窒素との少なくともいずれかを介して架橋された構造を有する。
【0083】
カーシートヒータのように発熱温度が40〜50℃と比較的低い場合には、PTC特性を発現する被反応樹脂として、低融点の樹脂である変性オレフィン系樹脂、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、エチレンアクリル酸ブチル等のエステル系のエチレンコポリマーを用いることが好ましい。
【0084】
上述の被反応性樹脂と反応性樹脂は、それぞれ単独でも複合でも用いることが可能で目標値するPTC特性に応じて適宜選択される。
【0085】
また、それ以外に、PTC特性の経時変化の許容範囲に応じて、反応性樹脂、被反応性樹脂単独でも用いることも可能である。
【0086】
また、架橋反応は反応性樹脂を用いたが、反応性樹脂とは異なる架橋剤を用いることもできる。
【0087】
さらに、電子線などの架橋手段を用いることもできる。その場合は、上述の官能基を持たない被反応性樹脂が適用可能であり、また、反応性樹脂を用いる必要はない。
【0088】
炭素系材料としては、平均粒子径が数十μmのカーボンブラックを使用する。充填量は40〜50wt%である。
【0089】
また、液状物質としては、リン酸エステル系化合物としては芳香族系が好ましく、ビス
ジフェニルホスフェートを使用する。粘度は数500mm2/s(25℃)である。また、カレンダーロール加工する場合において、液状物質として、シリコーンオイルを使用する。リン酸エステル系化合物とシリコーンオイルはいずれか一方を使用することも、併用することもできる。
【0090】
次に、面状発熱体1の作製方法について一例を述べる。
【0091】
先ず、ポリエステル繊維の不織布からなる電気絶縁性基材2に直径0.05μmの銅―銀合金線19本を撚り線化したものを用い、ポリエステルの糸5で図1で示す形状にミシンで縫製し、線条電極3を形成する。
【0092】
この時の1対の線条電極3の電極間距離は100mmとしている。
【0093】
次に、PTC特性を発現する被反応樹脂と反応性樹脂と導電体に混練混合してカレンダー装置によりフィルム状に成型する。
【0094】
このようにして高分子抵抗体4が作製される。なお、混練混合は、熱ロール、ニーダー、2軸混練機などの装置で行われる。
【0095】
高分子抵抗体4の厚みは、特に限定されるものではないが、柔軟性、材料コスト、適正な抵抗値、加重が加わった時の強さの点で20〜200μmが適切であり、望ましくは30〜100μmがよい。
【0096】
次に、フィルム状に成型され、カレンダーロールから取り出された高分子抵抗体4は、予め作製された線条電極3を取り付けた電気絶縁性基材2の線条電極3の存在する面とラミネータにより熱融着されて貼り合わされる。以上のようにして面状発熱体1が完成する。
【0097】
線条電極3と高分子抵抗体4、電気絶縁性基材2と高分子抵抗体4は、それぞれ熱融着により接合されることにより、線条電極3は電気絶縁性基材2と高分子抵抗体4との間に電気的に接続された状態で配置されている。
【0098】
高分子抵抗体4は、柔軟性のあるシートまたはフィルムとすることにより、面状発熱体1に外力が加わっても電気絶縁性基材2と同様に高分子抵抗体4自体が外力に応じて伸びや変形を起こすので高分子抵抗体4の亀裂や破断などの破損が防止され、優れた耐久性を実現する。
【0099】
また、高分子抵抗体4をシートまたはフィルム状に形成することにより、印刷膜の高分子抵抗体よりもその膜厚を厚くすることができ、線条電極3との電気的接続および機械的接合の信頼性が高くなる。
【0100】
さらに、連続で押出成型される高分子抵抗体5を線条電極3が取り付けられた電気絶縁性基材2に貼り合わせながら接着加工できるので生産性に優れ、低コストが実現できる。
【0101】
また、高分子抵抗体4は、電気絶縁性基材2よりも伸びが同等かそれ以上とすることが好ましい。
【0102】
高分子抵抗体4の伸びを電気絶縁性基材2と同等かそれ以上とすることにより、機械的強度の強い電気絶縁性基材2が外力による伸びや変形を規制することができるのでより優れた耐久性、信頼性が得られる。
【0103】
また、高分子抵抗体4を電気絶縁性基材2と線条電極3上に配置することにより、予め線条電極3が取り付けられた電気絶縁性基材2に高分子抵抗体4を貼り付ける製法を採用することができる。
【0104】
この製法によれば、成型直後の高分子抵抗体4は温度が高い状態であるので容易に、かつ強固に線条電極3と電気絶縁性基材2に接着される。
【0105】
その結果、電気的接続、機械的接合が安定して得られる。
【0106】
さらに、高分子抵抗体4を線条電極3に熱融着することにより、線条電極3の周囲に高分子抵抗体4の材料が移行し、線条電極3と高分子抵抗体4は点接着ではなく、面接着とすることができる。
【0107】
その結果、線条電極3と高分子抵抗体4の機械的接合と電気的接続が強固になり、面状発熱体1として電気的、機械的に安定したものが得られる。
【0108】
以上のように構成された面状発熱体1は、座部7や背もたれ8に、電気絶縁性基材2が表面側になるように配置して用いることが好適である。
【0109】
すなわち、電気絶縁性基材2によるクッション性で線条電極3の厚みや固さによる凹凸間が座面で感じられず、着座感や背もたれ感を損なうことがない。
【0110】
表1に、リン酸エステルを3wt%添加した場合(No.1)、10wt%添加した場合(No.2)、15wt%添加した場合(No.3)、シリコーンオイルを10wt%添加した場合(No.4)に作製した抵抗体の抵抗値、変化倍率、難燃性及び離型性について示す。
【0111】
【表1】

【0112】
この結果より、以下のことが導き出される。
【0113】
すなわち、リン酸エステルを10wt%、15wt%添加することによって、変化倍率が2.0以上となる。
【0114】
また、リン酸エステルを15wt%添加すること難燃性を付与することができる。
【0115】
さらに、液状物質としてシリコーンオイルを10wt%添加することによって、離型性が向上した。
【0116】
ここで、難燃性の判断は、炎を点火させたときに自然に消える場合を○とした。また、離型性の判断は、カレンダーロール加工において、樹脂組成物がカレンダーロールから容易に剥がれ、正常な厚みに加工できる場合に○とした。
【0117】
(実施の形態2)
の作成方法について、実施の形態1と異なる部分のみ説明する。
【0118】
先ず、真空電気炉を用い、窒素雰囲気下で900℃で9時間、炭素系材料を還元処理する。次に炭素系材料50wt%とリン酸エステル化合物15wt%を攪拌混合させる。この際、ヘンシェルミキサーを使用するのが好ましい。
【0119】
次に、PTC特性を発現する被反応樹脂と反応性樹脂とリン酸エステル化合物を保持させた炭素系材料を混練混合してカレンダー装置によりフィルム状に成型する。
【0120】
このようにして高分子抵抗体4が作製される。なお、混練混合は、熱ロール、ニーダー、2軸混練機などの装置で行われる。
【0121】
樹脂のフィルム化加工法は、カレンダー装置に限定するものでなく、Tダイ法、印刷法も良い。
【0122】
高分子抵抗体4の厚みは、特に限定されるものではないが、柔軟性、材料コスト、適正な抵抗値、加重が加わった時の強さの点で20〜200μmが適切であり、望ましくは30〜100μmがよい。
【0123】
以上のように作成した高分子抵抗体4において、炭素系材料を還元処理することにより、還元処理しないものと比べて抵抗値で1/2〜1/10まで低下させることができた。
【0124】
また、あらかじめリン酸エステル化合物を炭素系材料に吸着させることによって、液状物質を取り込ませることができ、容易に加工することができた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明による高分子抵抗体は、構成が簡素で、PTC特性に特に優れる。この高分子抵抗体は、例えば面状発熱体として、連続した曲面や平面の組み合わせ等のある器具の表面形状に装着可能であるため、暖房用ヒータとして自動車の座席、ハンドル、その他の暖房を必要とする電気床暖房などの器具に適用できる。
【0126】
また、生産性に優れ低コストが図れるので応用商品の適用範囲が拡大される。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】(a)は本発明の実施の形態1における面状発熱体を示す平面図、(b)は(A)のX−Y断面図
【図2】(a)は本発明の実施の形態1における面状発熱体を取り付けた自動車の座席を示す透視側面図、(b)は同断面図
【図3】(a)は従来の面状発熱体の透視平面図、(b)は(A)のX−Y断面図
【符号の説明】
【0128】
1 面状発熱体
2 電気絶縁性基材
4 高分子抵抗体
7 座部
8 背もたれ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が反応性樹脂を介して架橋された樹脂組成物と炭素系材料とを有し、常温で液状物質を10wt%以上含有した高分子抵抗体。
【請求項2】
液状物質がリン酸エステル系化合物である請求項1に記載の高分子抵抗体。
【請求項3】
液状物質がシリコン系化合物を含む請求項1に記載の高分子抵抗体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の高分子抵抗体を用いた面状発熱体。
【請求項5】
座部、背もたれの少なくとも一方に請求項4記載の面状発熱体を取付け自動車の座席。
【請求項6】
液状物質と炭素系材料とを攪拌混合する液状物質吸着炭素材料製造のための第一工程と、前記液状物質吸着炭素材料と樹脂組成物と混練する第二工程とからなる高分子抵抗体の製造方法。
【請求項7】
炭素系材料を還元処理する工程を有する請求項6に記載の高分子抵抗体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−193689(P2009−193689A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30238(P2008−30238)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】