説明

高分子架橋体および高分子架橋体の製造方法

【課題】簡便に製造し得るインターロック構造を有する高分子架橋体およびその製造方法、特に綺麗なフィルム状の高分子架橋体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】2個以上の環状部分を有するポリマーと、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子及び/又は両末端に重合性官能基を有する直鎖状分子とを混合し、その全部又は一部について包接錯体を形成させ、次いで、上記重合性官能基と、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーとを共重合し、インターロック構造を有する高分子架橋体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロタキサン構造を含む高分子架橋体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、環状分子としてシクロデキストリン、環状分子に包接される直鎖状分子としてポリエチレングリコールを用いたポリロタキサンを架橋した、ロタキサン構造を含む高分子架橋体(高分子ゲル)が開示されている。
【0003】
この高分子ゲルは、従来の物理ゲルまたは化学ゲルとは違い、非共有結合および共有結合のいずれも利用しない機械的な結合(インターロック構造)で構成されており、環状分子が直鎖状分子上を自由に動けることから、従来にない優れた柔軟性を示し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3475252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の高分子ゲルを製造するには、擬ポリロタキサンを合成および単離し、その擬ポリロタキサンを別の溶媒に再度溶解した後、キャッピング剤を用いて末端をキャッピングすることによりポリロタキサンを得て、再度、単離精製し、さらに架橋剤を作用させてポリロタキサンのシクロデキストリン部分を架橋させる必要があった。工業化を考えた場合、このような多段階の反応は製造コストの面から非常に不利であるし、また、各段階の収率も決して高いものではなかった。
【0006】
このようなことから、インターロック構造を有する高分子架橋体(高分子ゲル)を、より簡便に製造できる方法が強く望まれていた。さらに、該インターロック構造を有する高分子架橋体(高分子ゲル)を綺麗なフィルムとして得ることが、例えば、光学用材料等に応用展開していく場合には強く望まれていた。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、簡便に製造し得るインターロック構造を有する高分子架橋体およびその製造方法、特に綺麗なフィルム状の高分子架橋体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、2個以上の環状部分を有するポリマーと、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子及び/又は両末端に重合性官能基を有する直鎖状分子とを混合し、その全部又は一部について包接錯体を形成させ、次いで、前記直鎖状分子の重合性官能基と、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーとを共重合することを特徴とする高分子架橋体の製造方法を提供する(発明1)。
【0009】
第2に本発明は、2個以上の環状部分を有するポリマーと、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する、前記ポリマーと包接錯体を形成可能な直鎖状分子及び/又は両末端に重合性官能基を有する、前記ポリマーと包接錯体を形成可能な直鎖状分子とを混合して得られた高分子架橋前駆体の前記直鎖状分子の重合性官能基と、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーとを共重合させることにより得られることを特徴とする高分子架橋体を提供する(発明2)。
【0010】
上記発明(発明2)において、前記ポリマーの環状部分は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種、または環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミンおよび環状ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(発明3)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インターロック構造を有する高分子架橋体を、簡便に効率良く製造することができる。また、本発明によれば、インターロック構造を有する高分子架橋体を製膜性良く製造することができる。そして、フィルムとして高分子架橋体を得た場合、該高分子架橋体はフィルム強度と伸縮性とを兼ね備え、かつ、製膜性に優れることで、高い表面平滑性を有する綺麗なフィルムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る高分子架橋体の製造工程を示す模式図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る高分子架橋体の製造工程を示す模式図である。
【図3】実施例において高分子架橋体(E)のゲル状フィルムの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る高分子架橋体(E)は、図1又は図2に模式的に示す方法により製造することができる。
【0014】
最初に、2個以上の環状部分を有するポリマー(以下「ポリマー(A)」という。)と、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子(以下「直鎖状分子(B1)」という。)及び/又は両末端に重合性官能基を有する直鎖状分子(以下「直鎖状分子(B2)」という。)とを用意する(図1・図2参照)。なお、直鎖状分子(B1)と直鎖状分子(B2)とを纏めて「直鎖状分子(B)」という。
【0015】
ポリマー(A)の環状部分は、直鎖状分子(B)を包接することができ、その状態で当該直鎖状分子(B)上を移動できるものである。なお、本明細書において、「環状部分」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味し、直鎖状分子(B)上で移動可能であれば、環状部分は完全には閉環でなくてもよく、例えば螺旋構造であってもよい。また、本発明のポリマー(A)は、後述するとおり比較的大きな分子量を有する環状分子を構成部分とする多量体であり、繰り返し数が少なくても自身の分子量が巨大となる。本発明のポリマー(A)とは、このために行った便宜上の名称であって、2〜10量体程度のオリゴマー領域の繰り返し数のものも含むものである。
【0016】
環状部分を構成する分子(環状分子)としては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリン、あるいは、環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミン、環状ポリアミン、シクロファン等が好ましく、これらの環状分子は、ポリマー(A)中または後述の高分子架橋前駆体(C)もしくは高分子架橋体(E)中で2種以上混在していてもよい。
【0017】
上記環状分子がシクロデキストリンである場合には、シクロデキストリンの水酸基に、ポリマー(A)の直鎖状分子(B)に対する溶解性を向上させることのできる高分子鎖および/または置換基が導入されたものであってもよい。かかる高分子鎖としては、例えば、オキシエチレン鎖、アルキル鎖、アクリル酸エステル鎖等が挙げられる。一方、上記置換基としては、例えば、アセチル基、アルキル基、トリチル基、トシル基、トリメチルシラン基、フェニル基等が挙げられる。
【0018】
上記環状分子のシクロデキストリン以外の具体例としては、クラウンエーテルまたはその誘導体、環状ラクトンまたはその誘導体、カリックスアレーンまたはその誘導体、アザシクロファンまたはその誘導体、チアシクロファンまたはその誘導体、クリプタンドまたはその誘導体等が挙げられる。
【0019】
環状分子としては、直鎖状分子が串刺し状に貫通し易いことからα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びクラウンエーテルが好ましく、水中で容易に直鎖状分子と包接錯体を形成することからα−シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンが特に好ましい。
【0020】
ポリマー(A)中における環状分子の個数は、2個以上であり、好ましくは3〜50個、特に好ましくは3〜5個である。環状分子が2個以上あることで、それによって複数の直鎖状分子(B)を包接することができ、その直鎖状分子(B)を重合させることで、直鎖状分子(B)を構成単位に有する複数の(共)重合体がポリマー(A)を介して互いに結び付けられ、架橋構造が構成される。環状分子が3個以上あると、架橋構造が密になるため、得られる高分子架橋体(E)の応力緩和性を阻害することなく、強度を向上させることができるためにより好ましい。
【0021】
ポリマー(A)の構造としては、2個以上の環状分子が連結部分によって連結されている構造が好ましい。連結部分となる原料化合物(連結分子)は、環状分子と包接錯体を作らない又は作り難い分子であることが好ましい。このような連結分子を使用することにより、ポリマー(A)を合成するときに、環状分子の開口部を閉塞せずに、環状分子を連結することができる。
【0022】
かかる連結分子としては、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいが、ある程度かさ高い側鎖を有することが好ましい。例えば、上記環状部分がα-シクロデキストリンの場合には、メチル基よりかさ高い側鎖を有することが好ましい。すなわち、上記環状部分と包接錯体を作らないという観点から、好ましい連結部分としては、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリイソプレン等が挙げられ、中でも特にポリプロピレングリコールが好ましい。
【0023】
1つの連結分子の数平均分子量(Mn)は、100〜100,000であることが好ましく、特に500〜10,000であることが好ましい。連結分子の数平均分子量が100未満であると、形成されたポリマー(A)の環状分子の開口部同士が近接しすぎるため架橋構造をとり難く、また、インターロック構造に基づく効果が十分に発揮されないおそれがある。また、連結分子の数平均分子量が100,000を超えると、直鎖状分子(B)等との相溶性が悪くなり架橋構造の形成が困難となるおそれがある。
【0024】
ポリマー(A)の質量平均分子量(Mw)は、環状分子の種類にも依存するが、通常、1,000〜1,000,000であることが好ましく、特に3,000〜100,000であることが好ましい。ポリマー(A)の質量平均分子量が1,000未満であると、環状部分の個数が2未満となる場合が多く、インターロック構造を形成することができないおそれがあり、また、できたとしても架橋部分が非常に近接するためインターロック構造に基づく効果が十分に発揮できないおそれがある。一方、ポリマー(A)の質量平均分子量が1,000,000を超えると、直鎖状分子(B)等との相溶性が悪くなり架橋構造の形成が困難となるおそれがある。
【0025】
ポリマー(A)は常法によって合成することができる。例えば、官能基を有する環状分子と、当該環状分子の官能基と反応し得る反応性基を末端に有する、連結分子とを反応させることにより、ポリマー(A)が得られる。具体的には、環状分子がα−シクロデキストリンであり、連結分子がポリプロピレングリコールであるポリマー(A)を合成する場合、α−シクロデキストリンと、末端に反応性基を有するポリプロピレングリコールとを混合し、所望により触媒を加え、両者を反応させることにより、ポリマー(A)が得られる。
【0026】
連結分子と結合する環状分子の官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基等が好ましく、連結分子の末端の反応性基としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アジリジン基等が好ましい。連結分子としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物、N,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)等のアジリジン系化合物を末端に有するものを使用することができる。
【0027】
直鎖状分子(B)は、ポリマー(A)の環状分子に包接され、共有結合等の化学結合でなく機械的な結合で一体化することができる直鎖状の分子または物質であって、かつ一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有するか(直鎖状分子(B1))、両末端に重合性官能基を有するものである(直鎖状分子(B2))。なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子(B)上でポリマー(A)の環状部分が移動可能であれば、直鎖状分子(B)は分岐鎖を有していてもよい。
【0028】
直鎖状分子(B)の両末端(ブロック基・重合性官能基)を除いた部分(本体部分)を構成する分子としては、上記ポリマー(A)の環状分子の開口部に貫通することのできる大きさの分子であればよい。例えば、上記ポリマー(A)の環状分子がα−シクロデキストリンである場合、ポリエチレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリエチレン、ポリカプロラクトン等が好ましく、これらの分子から構成される本体部分を有する直鎖状分子(B)は、高分子架橋前駆体(C)または高分子架橋体(E)中で2種以上混在していてもよい。
【0029】
直鎖状分子(B)の本体部分を構成する分子の数平均分子量(Mn)は、100〜300,000であることが好ましく、特に200〜200,000であることが好ましく、さらには300〜100,000であることが好ましい。数平均分子量が100未満であると、環状部分の直鎖状分子(B)上での移動量が小さくなり、得られる高分子架橋体(E)においてフィルムとしての伸縮性が十分に得られないおそれがある。また、数平均分子量が300,000を超えると、溶媒への溶解性が悪くなるおそれがある。
【0030】
直鎖状分子(B1)の一方の末端におけるブロック基は、直鎖状分子(B1)を包接しているポリマー(A)の環状部分が離脱せず、包接錯体の形態を保持し得る基であれば、特に限定されない。このような基としては、嵩高い基、イオン性基等が挙げられる。
【0031】
ブロック基としては、例えば、ジアルキルフェニル基類、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等が好ましく、これらのブロック基は、包接錯体または高分子架橋体中で2種以上混在していてもよい。直鎖状分子(B1)の片末端に結合してブロック基を形成するキャッピング剤としては、例えば、ジメチルフェニルイソシアネート、トリチルフェニルイソシアネート、2,4-ジニトロフルオロベンゼン、アダマンタンアミン等が好適に用いられる。
【0032】
直鎖状分子(B1)の他方の末端における重合性官能基及び直鎖状分子(B2)の両末端における重合性官能基は、当該重合性官能基を介して直鎖状分子(B)と後述する下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)とを共重合することができるものであれば、特に限定されない。かかる重合性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、アセチレン基、オキセタニル基等が好ましい。
【0033】
直鎖状分子(B1)は常法によって合成することができる。例えば、一方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子、または両方の末端に互いに異なる重合性官能基を有する直鎖状分子と、ブロック基用のキャッピング剤とを反応させ、一方の末端に上記重合性官能基を残し、他方の末端にブロック基を付加することにより、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子(B1)を得ることができる。
【0034】
一例として、一方の末端にヒドロキシル基、他方の末端に(メタ)アクリロイル基を有する直鎖状分子と、イソシアネート基を有するジアルキルフェニル化合物とを混合し、所望により触媒を加え、両者を反応させることにより、一方の末端にブロック基としてのジアルキルフェニル基、他方の末端に重合性官能基としての(メタ)アクリロイル基を有する直鎖状分子(B1)が得られる。
【0035】
一方、両末端に重合性官能基を有する直鎖状分子(B2)は、市販のものをそのまま使用するか、例えば、直鎖状分子の両末端の非重合性官能基を重合性官能基に置換することにより得ることができる。
【0036】
一例として、両末端にヒドロキシル基を有する直鎖状分子と、イソシアネート基を有する(メタ)アクリロイル化合物とを混合し、所望により触媒を加え、両者を反応させることにより、両末端に重合性官能基としての(メタ)アクリロイル基を有する直鎖状分子(B2)が得られる。
【0037】
以上説明したポリマー(A)と直鎖状分子(B)とを用意したら、ポリマー(A)および直鎖状分子(B)を混合し、その全部又は一部について包接錯体を形成することにより高分子架橋前駆体(C)を製造する。すなわち、ポリマー(A)の環状部分の1個の開口部を直鎖状分子(B)で串刺し状に貫通して、かつ、ポリマー(A)の環状部分の残りの開口部の少なくとも1個を別の直鎖状分子(B)で貫通し、上記2個以上の直鎖状分子(B)が同一のポリマー(A)の複数の環状部分に包接された構造を有する高分子架橋前駆体(C)を製造する(図1・図2参照)。
【0038】
なお、高分子架橋前駆体(C)は上記の包接錯体が形成された構造を有することを特徴とするが、ポリマー(A)の環状部分の全ての開口部がそのような状態になっていることを要しない。すなわち、混合物としてのポリマー(A)中において、その環状部分の開口部の1個にしか直鎖状分子(B)が串刺し状に貫通されていない構造、さらには、ポリマー(A)の環状部分の開口部に直鎖状分子(B)が全く串刺し状に貫通されていない構造を有していても良いし、あるいは、ポリマー(A)に包接されない混合物としての直鎖状分子(B)が含まれていてもよい。
【0039】
上記のような高分子架橋前駆体(C)の製造は、ポリマー(A)および直鎖状分子(B)を溶媒中、例えば水、水酸化ナトリウム水溶液、ジメチルホルムアミド(DMF)と水の混合溶液、メタノールと水の混合溶液等(以下、「水系の溶媒」と称する場合がある)の中に存在させた状態にして(例えば、ポリマー(A)の溶液に直鎖状分子(B)を添加して)、その溶液を撹拌することによって行うことができる。高分子架橋前駆体(C)が得られたことは、溶液の粘度が上昇することによって判断することができる。
【0040】
撹拌方法については特に制限はなく、常温または適当に制御された温度で、機械的撹拌処理、超音波処理などの方法で撹拌することができ、特に、超音波処理で撹拌することが好ましい。撹拌時間は、数分〜1時間の条件で行うことが好ましい。超音波の照射条件については特に制限はないが、周波数20〜40kHzで行うことが好ましい。
【0041】
上記のようにして高分子架橋前駆体(C)を製造したら、ポリマー(A)の環状部分に包接された直鎖状分子(B)の重合性官能基を介して、当該直鎖状分子(B)と、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)とを共重合し、高分子架橋体(E)を得る(図1・図2参照)。この高分子架橋体(E)は、インターロック構造としてのロタキサン構造を含む。なお、図1および図2中における下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)としては、一例としてN,N−ジメチルアクリルアミドが例示されているが、これに限定されるものではない。
【0042】
図1に示すように、直鎖状分子(B1)を使用した場合の高分子架橋体(E)は、具体的には、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)と直鎖状分子(B1)とから形成された共重合体BDおよびBD、ならびに2個以上の環状分子を有するポリマーAxを有する。そして、ポリマーAxの一つの環状分子の開口部に共重合体BDの直鎖状分子(B1)に由来する側鎖Bxが貫通し、かつ、ブロック基が存在することにより抜け出せない構造(ロタキサン構造)となる。さらに、ポリマーAxの別の環状分子の開口部に共重合体BDの直鎖状分子(B1)に由来する側鎖Byが貫通し、かつ、ブロック基が存在することにより抜け出せない構造(ロタキサン構造)となっている。これにより、共重合体BDと共重合体BDとはポリマーAxを介して機械的に結合された構造(インターロック構造)となる。すなわち、共重合体BDおよびBDはポリマーAxを架橋部位とするが、当該部位が可動性を有するため、高分子架橋体(E)は伸縮性を有するものとなる。
【0043】
なお、フィルム強度は、架橋部位の数が多ければ強いものとなる。従って、本実施形態では、架橋部位の数をある程度多く存在させながら、架橋部位を可動性にすることにより、フィルムとした場合に十分なフィルム強度を有しながら、ある一定量以上の力積が加えられた際には、伸縮することにより力を分散させることができる高分子架橋体(E)が得られる。得られる高分子架橋体(E)は、新規物質である。
【0044】
また、図2に示すように、直鎖状分子(B2)を使用した場合の高分子架橋体(E)は、具体的には、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)および直鎖状分子(B2)から形成された共重合体鎖BD’とBD’とが、直鎖状分子(B2)に由来するBx’部分で架橋されている。同様に、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)および直鎖状分子(B2)から形成された共重合体鎖BD’とBD’とが、直鎖状分子(B2)に由来するBy’部分で架橋されている。さらに、上記Bx’およびBy’部分は、環状部分を有するポリマーAx’の夫々異なる環状分子と抱接錯体を形成し、抜け出せない構造(ロタキサン構造)となっている。これにより、共重合体鎖BD’およびBD’からなる共重合体と、共重合体鎖BD’およびBD’からなる共重合体とが、ポリマーAx’を介して機械的に結合された構造(インターロック構造)となる。これにより、図1で述べた高分子架橋体(E)と同様な諸物性を有するフィルムを得ることができる。なお、図1および図2は本実施形態を説明するために例示したものであり、これにより本発明が制限されるものではない。
【0045】
本実施形態においては、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)を上記高分子架橋前駆体(C)(中の直鎖状分子(B))と重合させる。水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、水酸基含有水溶性(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル基含有水溶性(メタ)アクリル酸エステル、アミノ基含有水溶性(メタ)アクリル酸エステル、リン酸基含有水溶性(メタ)アクリル酸エステル等を好ましく挙げることができる。
【0046】
本実施形態において、水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーを高分子架橋前駆体(C)と重合させることとしたのは、次の理由による。すなわち、高分子架橋前駆体(C)が主に水系の溶媒中で形成され、得られる高分子架橋前駆体の分散性や逆反応の抑制等を考慮すると、その後も水系の溶媒中で扱うことが好ましい。そこで、水系の溶媒にも溶解し、かつ、直鎖状分子(B)とも親和性を有する水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーを該高分子架橋前駆体(C)と共重合させることとした。
【0047】
また、下限臨界溶液温度とは、室温(23℃)においては液体であるが、加熱すると固体またはスラリー状態に変化する化合物の温度である。下限臨界溶液温度を有する化合物としては、N−イソプロピルアクリルアミドなどが知られている。
【0048】
本実施形態において下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)を使用するのは、水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーと高分子架橋前駆体(C)を熱重合させる場合、水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーが下限臨界溶液温度を有すると、加熱により水系の溶媒から析出するおそれがあるからである。また、紫外線照射等の光重合により、室温(23℃)においてフィルム化する場合であっても、水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーが下限臨界溶液温度を有すると、ミクロには重合熱が発生して温度上昇が生じ、水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーが析出するおそれがあるからである。
【0049】
なお、本発明では下限臨界溶液温度を有するモノマーを共重合成分として完全に排除するものではなく、本発明の効果を失わない範囲で下限臨界溶液温度を有するモノマーをさらに共重合させてもよい。特に、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)が存在する場合、下限臨界溶液温度を有するモノマーを添加したとしても、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)との相溶性により、下限臨界溶液温度を有するモノマーによる悪影響が著しく緩和されることが期待される。
【0050】
本実施形態の下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、(メタ)アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、(メタ)アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、(メタ)アクリル酸(ジエチレングリコール)、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アクリル酸(ホスホキシエチル)、アクリロイロキシホスホリルコリン等を好ましく挙げることができる。中でも、水溶性に優れること及び得られるフィルムが乾燥状態でもべたついたりしないこと等を考慮すれば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドまたは(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)が特に好ましい。
【0051】
下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)としてN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドまたは(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)を使用した場合、得られる高分子架橋体(E)からなるフィルムは、表面の平滑性が非常に高く、表面のべたつき等もなく、かつ、透明性に優れた綺麗なフィルムとなる。なお、(メタ)アクリルとは、メタクリルとアクリルの両方を意味する。類似の称呼も同様の意味に解釈する。
【0052】
下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)の配合量は、高分子架橋前駆体(C)に対して、通常0.1〜100000質量%であり、1〜10000質量%であることが好ましく、特に200〜10000質量%であることが好ましい。
【0053】
重合反応は常法によって行えばよく、通常はラジカル重合によって反応させる。例えば、高分子架橋前駆体(C)および重合性化合物(D)を含有する溶液に、所望により光重合開始剤を添加して紫外線を照射することにより、あるいは、熱重合開始剤を添加して加熱することにより、直鎖状分子(B)と重合性化合物(D)とは共重合する。
【0054】
光重合開始剤としては、通常使用されるものであれば特に制限されることなく、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、(2,4,6−トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2−ベンゾチアゾール−N,N−ジエチルジチオカルバメート等を使用することができる。なお、光重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
上記紫外線は、高圧水銀ランプ、フュージョンHランプ、キセノンランプなどで得られ、照射量は、通常100〜500mJ/cmである。
【0056】
一方、熱重合開始剤としては、通常使用されるものであれば特に制限されることなく、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等を使用することができる。熱重合開始剤を使用する場合の加熱温度は、熱重合開始剤の分解温度によって適宜選択すればよいが、通常0〜130℃程度である。
【0057】
高分子架橋体(E)の精製は常法によって行えばよく、例えば、水、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドで順次洗浄すればよい。
【0058】
以上の方法によれば、ポリマー(A)と直鎖状分子(B)とを混合攪拌するだけで、簡便に高分子架橋前駆体(C)を製造することができ、さらに得られた高分子架橋前駆体(C)の直鎖状分子(B)と下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)とを共重合することで、インターロック構造を有するロタキサン構造を含む高分子架橋体(E)を簡便に製造することができる。
【0059】
得られた高分子架橋体(E)においては、ポリマー(A)の環状部分が高分子の側鎖上等を移動し得るため伸縮性に優れたものとなり、さらにはフィルムとした場合に、表面平滑性、透明性等を兼ね備えた綺麗なものとなる。なお、上記伸縮性は、架橋密度を高めた場合であっても維持されるため、破断伸度が大きく、かつ弾性係数が高い高分子架橋体(E)が得られる。
【0060】
本実施形態に係る高分子架橋体(E)のフィルムを得るには、例えば、上記高分子架橋前駆体(C)と下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)とを混合し、鋳型に流し込むか、あるいはロール・トゥ・ロール方式で基材上に塗布し、その後、加熱または紫外線照射等によって共重合させることによりフィルム状の高分子架橋体(E)を形成できる。
【0061】
フィルムの厚さは、通常50〜5000μmであり、好ましくは100〜2000μmであり、特に好ましくは150〜1500μmである。
【0062】
上記高分子架橋体(E)は、応力緩和性等に優れたプラスチック、特に表面が平滑で綺麗であり、かつ、十分なフィルム強度を有しながら伸縮性にも優れたフィルムとして、光学用等種々の用途に有用である。
【0063】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0065】
〔実施例1〕
(1)ポリマー(A)の合成
α−シクロデキストリン(ナカライテスク社製)5gをジメチルホルムアミド50mlに溶解させ、この溶液にトリレン2,4−ジイソシアネート末端ポリプロピレングリコール(Aldrich社製,Mn:1,000)3.4gと、錫触媒であるジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)200mgとを加え、一晩室温で攪拌した。
【0066】
上記反応溶液をエーテルに注いで沈殿させ、回収した固体を乾燥させた後、水で洗浄して再び乾燥させ、環状分子としてα−シクロデキストリン、連結分子としてポリプロピレングリコール鎖を有し、連結分子を介して環状分子が3〜5個繋がったポリマー(A)4.6gを得た。
【0067】
(2)直鎖状分子(B1)の合成
ポリエチレングリコールメタクリレート(Aldrich社製,Mn:526)3.5gを塩化メチレン15mlに溶解させ、この溶液に3,5−ジメチルフェニルイソシアネート(Aldrich社製)1.5gと、錫触媒であるジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)200mgとを加え、一晩室温で攪拌した。
【0068】
上記反応溶液を濾過した後、蒸発乾燥させ、次いでヘキサンを加えて洗浄し、一方の末端に3,5−ジメチルフェニル基からなるブロック基を有し、他方の末端にメタクリロイル基を有するポリエチレングリコール(MA−PEG−DPI;直鎖状分子(B1))3.2gを得た。
【0069】
(3)高分子架橋前駆体(C)の製造
ポリマー(A)100mgを0.4wt%の水酸化ナトリウム水溶液1mlに溶解させ、この溶液に直鎖状分子(B1)200mgを加え、機械的に攪拌しながら超音波照射(35Hz)を5分行ったところ、溶液が白濁し、粘性が上昇した。このような粘度上昇した白濁物は、ポリマー(A)の環状部分が直鎖状分子(B1)を包接してなる高分子架橋前駆体(C)であると考えられる
【0070】
(4)高分子架橋体(E)の製造
高分子架橋前駆体(C)と考えられる上記白濁物に、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)としてN,N−ジメチルアクリルアミド2.0gを加え、均一になるまで攪拌した。次いで、光重合開始剤である1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン及びベンゾフェノンの1:1共融混合物(チバスペシャリティーケミカルズ社製,IRUGACURE 500)40μlを加え、撹拌後、真空ポンプにて脱気を行った。その後、上記操作により得られた混合溶液を、図3に示すように、ガラス板上のシリコーンゴム製型(厚さ1mm)の内側に流し込み、空気が入らない様にガラス板で蓋をし、紫外線を3分間照射(照射条件:照度3.0mW/cm,光量300mJ/cm)することにより、ゲル状のフィルムを得た。
【0071】
得られたゲル状のフィルムは、上記高分子架橋前駆体(C)における直鎖状分子(B1)の重合性官能基(メタクリロイル基)を介して、直鎖状分子(B1)と下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)とが共重合してなる高分子架橋体(E)(ポリマー(A)の環状部分に、末端にブロック基を有する高分子の側鎖が包接され、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)の重合体がその高分子の主鎖を構成してなる高分子架橋体(E))からなると考えられる。詳細は前述の図1で説明したとおりのものと考えられる。
【0072】
得られたゲル状のフィルムからなる高分子架橋体(E)は、図3に示す上側のガラス板を取り外すことにより取り出し、水、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドに順次浸漬して洗浄し、その後乾燥させて透明な高分子架橋体フィルム(厚さ:1.0mm,非延伸)を得た。
【0073】
〔実施例2〕
ポリマー(A)の配合量を300mgに変更する以外、実施例1と同様にして高分子架橋体(E)、そして高分子架橋体フィルムを製造した。
【0074】
〔実施例3〕
ポリエチレングリコール(Aldrich社製,Mn:10000)5gを塩化メチレン40mlに溶解させ、この溶液に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製,カレンズMOI)1.6gと、錫触媒であるジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)200mgとを加え、一晩室温で攪拌した。
【0075】
得られた溶液を濃縮した後、ジエチルエーテルに沈澱させ、その沈澱物を回収した。これにより、両末端にメタクリロイル基を有するポリエチレングリコール(PEG10000DA;直鎖状分子(B2))5.8gを得た。
【0076】
ポリマー(A)の配合量を300mgに変更し、直鎖状分子(B1)の替わりに上記直鎖状分子(B2)を440mg使用する以外、実施例1と同様にして高分子架橋体(E)、そして高分子架橋体フィルムを製造した。
【0077】
得られた高分子架橋体(E)は、高分子架橋前駆体(C)における直鎖状分子(B2)の重合性官能基(メタクリロイル基)を介して、直鎖状分子(B2)と下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)とが共重合してなる高分子架橋体(E)(ポリマー(A)の環状部分に、直鎖状分子(B)の本体部分が包接され、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマー(D)の重合体がその高分子の主鎖を構成してなる高分子架橋体(E))であると考えられる。詳細は前述の図2で説明したとおりのものと考えられる。
【0078】
〔比較例1〕
ポリマー(A)の替わりにポリエチレングリコールジアクリレート(Aldrich社製,PEG400DA)を15mg使用する以外、実施例1と同様にして高分子架橋体(E)、そして高分子架橋体フィルムを製造した。
【0079】
〔比較例2〕
ポリマー(A)を使用しない以外、実施例3と同様にして高分子架橋体(E)、そして高分子架橋体フィルムを製造した。
【0080】
〔試験例1〕
実施例及び比較例で得られた高分子架橋体フィルムについて、引張試験機(島津製作所社製,オートグラフAG−IS)を使用して、試験速度10mm/分にてJIS K−7127に準拠して破断伸度(%)を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
また、破断伸度の測定にて得られた応力−ひずみ曲線の直線部の傾きから、弾性係数(MPa)を導出した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1の実施例1と比較例1、または実施例3と比較例2を比較して分かるように、実施例で得られた高分子架橋体フィルムは、破断伸度が大きく、かつ弾性係数が高いものであった。破断伸度が大きいことから伸縮性に優れたフィルムであることが分かり、また、弾性係数が高いことからフィルム強度が大きいフィルムであることが分かる。
【0084】
さらに、各実施例で得られた高分子架橋体フィルムを目視したところ、それらの高分子架橋体フィルムは、表面平滑性および透明性に優れ、表面のべたつきのない綺麗なフィルムであった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、ロタキサン構造を有する高分子架橋体の製造に好適である。得られる高分子架橋体は、応力緩和性等に優れたプラスチック、特に表面が平滑で綺麗であり、かつ、十分なフィルム強度を有しながら伸縮性にも優れたフィルムとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上の環状部分を有するポリマーと、
一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子及び/又は両末端に重合性官能基を有する直鎖状分子と
を混合し、その全部又は一部について包接錯体を形成させ、
次いで、前記直鎖状分子の重合性官能基と、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーとを共重合する
ことを特徴とする高分子架橋体の製造方法。
【請求項2】
2個以上の環状部分を有するポリマーと、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する、前記ポリマーと包接錯体を形成可能な直鎖状分子及び/又は両末端に重合性官能基を有する、前記ポリマーと包接錯体を形成可能な直鎖状分子とを混合して得られた高分子架橋前駆体の前記直鎖状分子の重合性官能基と、下限臨界溶液温度を有しない水溶性(メタ)アクリル酸系モノマーとを共重合させることにより得られることを特徴とする高分子架橋体。
【請求項3】
前記ポリマーの環状部分は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種、または環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミンおよび環状ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の高分子架橋体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−159345(P2010−159345A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2152(P2009−2152)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:第57回高分子討論会 主催:社団法人高分子学会 開催日:平成20年9月24日 会場:大阪市立大学 文書の種類:高分子学会予稿集57巻 5363頁/LCDコピー
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】