説明

高分子相溶化剤および高分子組成物ならびに被覆電線およびワイヤーハーネス

【課題】ポリマーブレンドされた高分子組成物の相溶性を向上させて耐摩耗性などの機械的特性を向上させることが可能な高分子相溶化剤を提供すること。
【解決手段】無水マレイン酸等のカルボン酸あるいは酸無水物により変性された変性オレフィン系高分子または変性スチレン系共重合体と、カルボン酸あるいは酸無水物と縮合反応可能なアミノ基やヒドロキシル基等の置換基を有する芳香族化合物とを反応させることにより得られ、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖に、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、マレイン酸骨格等の等のイミド結合、アミド結合、エステル結合等を有する骨格を介して芳香環がグラフトされた化合物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーブレンドにおいて好適に用いられる高分子相溶化剤と、この高分子相溶化剤を含有する高分子組成物、ならびに、この高分子組成物を用いた被覆電線、および、ワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野において、樹脂やゴム、エラストマーなどを含有する高分子組成物が用いられている。この際、異なった性質を持つ高分子同士をブレンドするポリマーブレンドによる改質が盛んに行なわれている。
【0003】
例えば、自動車などの車両部品や電気・電子機器部品などの配線として用いられる電線の分野では、電線の被覆材などに高分子組成物が用いられている。この際、被覆材などには、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、燃焼時に有害なハロゲン系ガスを出さない非ハロゲン系高分子が用いられるようになってきている。
【0004】
非ハロゲン系高分子としては、例えば、オレフィン系高分子などがある。オレフィン系高分子は、成形しやすく比較的安価であるが、耐熱性や強度に劣る。そのため、耐熱性や強度に優れる材料をオレフィン系高分子とブレンドして改質することが望まれる。耐熱性や強度に優れる材料としては、エンジニアリングプラスチックなどがある。ところが、これら両者は物性等が大きく異なるため、混ざりにくい。そのため、両者を相溶させるための相溶化剤が必要となる。
【0005】
樹脂用の相溶化剤としては、例えば特許文献1には、スチレン系共重合体の末端にアミノ基を有するものが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−9354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の相溶化剤では、オレフィン系高分子とエンジニアリングプラスチックとの間の相溶化は不十分であった。また、これらの組み合わせに限られず、オレフィン系高分子とポリスチレンとの組み合わせや、エンジニアリングプラスチック同士の組み合わせなど、一般に高分子同士では相溶な組み合わせは少ない。そのため、従来のポリマーブレンドされた高分子組成物を成形用途に用いると、耐摩耗性などの機械的特性が不十分であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ポリマーブレンドされた高分子組成物の相溶性を向上させて耐摩耗性などの機械的特性を向上させることが可能な高分子相溶化剤を提供することにある。また、この高分子相溶化剤を含有する高分子組成物を提供することにある。また、他の課題は、これを用いて、耐摩耗性などの機械特性に優れる被覆電線ならびにワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリマーブレンドにおいて多く用いられているエンジニアリングプラスチックなどには芳香環を有するものが多いことに着目した。そして、鋭意検討した結果、一方の高分子とは相溶性を有するとともに、他方の高分子とは芳香環のスタッキングを利用して相溶性を高める考えに至り、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る高分子相溶化剤は、分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環とを有する化合物を含有することを要旨とするものである。
【0011】
この際、前記高分子鎖と芳香環とが、イミド結合、アミド結合、および、エステル結合から選択された1種または2種以上の結合を介して結合されていると良い。
【0012】
また、前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合されていると良い。
【0013】
この際、前記芳香環には、塩基性置換基が導入されていると良い。
【0014】
そして、前記化合物が下記一般式(1)で表される化合物であるものを好適に示すことができる。
【化1】

(式中、R1、R2、R4およびR5は、水素原子、または炭素数が1〜3のアルキル基のいずれかを示す。R1、R2、R4およびR5は、同一でも良く、異なっていても良い。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3は、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、炭素数が6〜21のアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基またはアリールアルキル基のいずれか、もしくは、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖が結合されたマレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格またはマレイン酸骨格を示す。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3の芳香環にはアミノ基、アルキル基を含んでいても良い。R6は、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖を示す。)
【0015】
そして、本発明に係る高分子組成物は、上記高分子相溶化剤と、オレフィン系高分子、スチレン系高分子、エンジニアリングプラスチックおよびゴムから選択された2種以上の有機高分子とを含有してなることを要旨とするものである。
【0016】
このとき、前記有機高分子の合計質量100質量部に対して、前記高分子相溶化剤を0.1〜20質量部含有することが望ましい。
【0017】
そして、本発明に係る被覆電線は、上記高分子組成物を被覆材に用いたことを要旨とするものである。
【0018】
さらに、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記高分子組成物を用いたことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る高分子相溶化剤は、分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環とを有する化合物よりなる。そのため、オレフィン系高分子やスチレン系共重合体などの汎用性高分子と、エンジニアリングプラスチックとの組み合わせや、オレフィン系高分子とポリスチレンとの組み合わせ、エンジニアリングプラスチック同士の組み合わせなど、相溶しにくい高分子同士のポリマーブレンドにおいて、相溶性を向上させて耐摩耗性などの機械的特性を向上させることができる。
【0020】
この際、前記芳香環に塩基性置換基が導入されていると、エンジニアリングプラスチック等の末端基と結合形成しやすくなり、より一層、相溶性を高めることができる。
【0021】
そして、本発明に係る高分子組成物は、上記高分子相溶化剤と、オレフィン系高分子、スチレン系高分子、エンジニアリングプラスチックおよびゴムから選択された2種以上の有機高分子とを含有してなる。そのため、相溶性が向上し、耐摩耗性などの機械的特性に優れる。
【0022】
このとき、上記高分子相溶化剤と有機高分子との配合割合が上記範囲内にあると、相溶化効果が高い。また、有機高分子自体の物性が低下しにくい。
【0023】
そして、本発明に係る被覆電線およびワイヤーハーネスは、上記高分子組成物を用いているため、機械的特性などの物性低下が抑えられる。これにより、材料の劣化が抑えられ、長期にわたって高い信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る高分子相溶化剤は、分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環とを有する化合物を含有してなる。
【0025】
この際、上記高分子鎖と芳香環は、イミド結合、アミド結合、エステル結合のいずれかまたはこれらの組み合わせにより結合されていることが好ましい。このような結合を有する骨格としては、例えば、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、マレイン酸骨格などが挙げられる。この際、上記骨格を介して、高分子鎖に芳香環がグラフトされていることが好ましい。
【0026】
上記高分子鎖を形成するオレフィン系高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等のα−オレフィンの共重合体、エチレン−アクリル酸メチル(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチル(EBA)、エチレン−メタクリル酸メチル(EMMA)、エチレン−酢酸ビニル(EVA)等の共重合体、オレフィン系エラストマー(TPO)、アイオノマー等を例示することができる。これらのうち、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンがより好ましい。
【0027】
上記高分子鎖を形成するスチレン系共重合体としては、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−スチレン共重合体(SES)やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)やスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)などを例示することができる。
【0028】
上記芳香環には、置換基が導入されていても良い。このとき、置換基の数は特に限定されるものではない。置換基が複数個の場合、互いに同一の置換基であっても良いし、互いに異なる置換基であっても良い。
【0029】
導入可能な置換基としては、例えば、アルキル基、アミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基、アリールアルキル基などを示すことができる。より好ましくは、アミノ基、アリール基である。アミノ基は、エンジニアリングプラスチックの末端官能基と反応して結合形成が可能であるため、より相溶性を高めることができる。アリール基は芳香環を有するため、芳香環スタッキングによる相溶性向上効果がさらに期待できる。好ましい置換基としてのアミノ基やアリール基の導入位置は、特に限定されるものではないが、好ましくは、4位の位置(パラ位)である。
【0030】
上記アルキル基には、水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。アルキル基の炭素数は、1〜3の範囲内にあることが好ましい。また、アリール基の炭素数は、6〜21の範囲内にあることが好ましい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等を示すことができる。
【0031】
上記化合物の好ましい例を構造式で示すと、以下の一般式(1)のようになる。
【0032】
【化1】

(式中、R1、R2、R4およびR5は、水素原子、または炭素数が1〜3のアルキル基のいずれかを示す。R1、R2、R4およびR5は、同一でも良く、異なっていても良い。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3は、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、炭素数が6〜21のアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基またはアリールアルキル基のいずれか、もしくは、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖が結合されたマレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格またはマレイン酸骨格を示す。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3の芳香環にはアミノ基、アルキル基を含んでいても良い。R6は、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖を示す。)
【0033】
上記化合物は、例えば、カルボン酸変性または酸無水物変性された変性オレフィン系高分子または変性スチレン系共重合体と、変性基のカルボン酸または酸無水物と縮合反応する置換基を有する芳香族化合物とを反応させることにより合成することができる。
【0034】
上記カルボン酸または酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、フタル酸、無水フタル酸などを例示することができる。好ましくは、無水マレイン酸および無水フマル酸である。特に、無水マレイン酸で変性されたものは入手が容易である。
【0035】
上記変性オレフィン系高分子や変性スチレン系共重合体を得る方法としては、例えば、ラジカル発生剤を用いて高分子鎖に上記カルボン酸をグラフトさせる方法などを示すことができる。ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、t−ブチルパーベンゾエートなどの有機過酸化物などを例示することができる。
【0036】
変性量としては、0.1〜10質量%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜5質量%の範囲内である。変性量が0.1質量%未満である場合には、変性基の量が少ないため、芳香環の導入量が少なくなり、相溶性が低下しやすい。一方、10質量%を超える変性量にするためにラジカル発生剤の添加量を多くすると、ラジカルにより高分子鎖が切断される量が多くなりすぎ、ポリマー自体の物性を大きく損ないやすい。
【0037】
カルボン酸または酸無水物と縮合反応する置換基としては、アミノ基、ヒドロキシル基等を例示することができる。より好ましくは、置換活性に優れるなどの点から、アミノ基である。
【0038】
アミノ基含有芳香族化合物としては、アニリン、アミノナフタレン、4−アミノベンジジン、4−アミノジフェニル、4−アミノジフェニルエーテル、4−アミノベンゾフェノン、3−アミノジフェニルエーテル、2−アミノトルエン、3−アミノトルエン、4−アミノトルエン、4−アミノジフェニルメタン、3−アミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,3−ジアミノトルエン、3,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,4−ジアミノジフェニルメタン、ナフチレン−1,5−ジアミン、1,3−ジメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジメチル−2,5−ジアミノベンゼン、1,3−ジエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジエチル−2,5−ジアミノベンゼン、1,3−ジイソプロピル−2,5−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノメシチレン、1,3,5−トリエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリエチル−2,6−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリイソプロピル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリイソプロピル−2,6−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,6−ジアミノベンゼン、2,3−ジメチル−1,4−ジアミノナフタレン、2,6−ジメチル−1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジイソプロピル−1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジブチル−1,5−ジアミノナフタレン、3,3’,5,5’−テトライソプロピルベンジジン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジエチル−3’−メチル−2’,4−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−2,2’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、tert−ブチルトルエンジアミン、1,3,5−トリイソプロピル−2,4−ジアミノベンゼン、4,4’−ビス(sec−ブチルアミノ)ジフェニルメタン、1,4−(sec−ブチルアミノ)ベンゼン、トリメチレンオキサイド−ジ−p−アミノベンゾエート、テトラメチレンオキサイド−ジ−p−アミノベンゾエート等のポリテトラメチレンオキサイド−ジ−p−アミノベンゾエート類などが挙げられる。
【0039】
次に、本発明に係る高分子組成物について説明する。本発明に係る高分子組成物は、上記高分子相溶化剤と、オレフィン系高分子、スチレン系高分子、エンジニアリングプラスチックおよびゴムから選択された2種以上の有機高分子とを含有してなる。
【0040】
本発明に係る高分子組成物において、上記高分子相溶化剤の含有量は、上記有機高分子の合計質量100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、1〜20質量部の範囲内である。高分子相溶化剤の含有量が1質量部未満では、相溶性が低下しやすい。一方、高分子相溶化剤の含有量が50質量部を超えると、有機高分子の物性を損ないやすい。また、コストが増大する。
【0041】
オレフィン系高分子は、上記のものを示すことができる。スチレン系高分子は、上記スチレン系共重合体や、ポリスチレンなどを示すことができる。エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。ゴムとしては、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)などを例示することができる。
【0042】
上記樹脂やエラストマー、ゴムには、各種物性を高めるために、その物性を妨げない範囲において、必要に応じて官能基の導入を行なうことができる。導入可能な官能基としては、例えば、カルボン酸基、酸無水基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、シラン基などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0043】
本発明においては、本発明の特性を阻害しない範囲で、上記有機高分子と難燃化剤以外に、一般的に高分子組成物に使用される添加剤を配合しても良い。このような添加剤としては、フィラー、酸化防止剤、金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、難燃剤、難燃助剤、加工助剤(滑剤、ワックス等)、着色用顔料などを例示することができる。
【0044】
フィラーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、金属粉、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス繊維、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、木材繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、メラミンシアヌレートなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0045】
また、本発明に係る高分子組成物は、必要に応じて架橋させても良い。架橋の手段は、過酸化物架橋、シラン架橋、電子線架橋などが挙げられるが、その手段は特に限定されない。
【0046】
一方の有機高分子と高分子鎖とが相溶しやすい組み合わせにするには、例えば、溶解度パラメータが互いに近いものを選択するなどすれば良い。また、同種の高分子を選択するなどすれば良い。例えば、上記高分子組成物中の一方の有機高分子がオレフィン系高分子である場合には、オレフィン系高分子よりなる高分子鎖を有する高分子相溶化剤を用いると良い。また、一方の有機高分子がスチレン系高分子である場合には、スチレン系共重合体よりなる高分子鎖を有する高分子相溶化剤を用いると良い。これにより、一方の有機高分子と高分子相溶化剤とが相溶することができる。
【0047】
そして、上記高分子組成物中の他方の有機高分子がエンジニアリングプラスチックである場合には、エンジニアリングプラスチックには芳香環を有するものが多いため、上記高分子相溶化剤の芳香環との間で芳香環のスタッキングによる相互作用を利用することができる。同様に、ポリスチレン、スチレン系共重合体等の芳香環を含有する有機高分子についても、芳香環のスタッキングを利用することができる。これにより、他方の有機高分子と高分子相溶化剤とが相溶することができる。
【0048】
そして、これらの結果、高分子相溶化剤を介して、一方の有機高分子と他方の有機高分子とが相溶することができる。これにより、オレフィン系高分子やスチレン系共重合体などの汎用性高分子と、エンジニアリングプラスチックとの組み合わせや、オレフィン系高分子とポリスチレンとの組み合わせ、エンジニアリングプラスチック同士の組み合わせなど、相溶しにくい高分子同士のポリマーブレンドにおいて、相溶性を向上させて耐摩耗性などの機械的特性を向上させることができる。この際、芳香環に塩基性置換基が導入されていると、エンジニアリングプラスチック等の末端基と結合形成しやすくなり、より一層、相溶性を高めることができる。
【0049】
上述した本発明に係る高分子組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、有機高分子と、高分子相溶化剤と、必要に応じて、その他の添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。混練した後は、混練機から取り出して当該組成物を得る。その際、ペレタイザーなどで当該組成物をペレット状に成形すると良い。
【0050】
以上により説明した本発明に係る高分子組成物の用途は、特に限定されるものではない。例えば、自動車などの車両部品や電気・電子機器部品などの配線として用いられる被覆電線の被覆材や、電線束を被覆するワイヤーハーネス保護材、コネクタハウジングなどのコネクタ部品、医療器具、人工臓器、高分子塗料、建築材料などの難燃化剤が添加される材料を例示することができる。
【0051】
次に、本発明に係る被覆電線およびワイヤーハーネスについて説明する。
【0052】
本発明に係る被覆電線は、上述する高分子組成物を被覆材の材料として用いたものである。被覆電線の構成としては、導体の外周に直接この被覆材が被覆されていても良いし、導体とこの被覆材との間に、他の中間部材、例えば、他の絶縁体やシールド導体などが介在されていても良い。被覆材が複数層形成されていても良い。
【0053】
導体は、その導体径や導体の材質など、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0054】
上記被覆電線は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて混練した本発明に係る高分子組成物を、通常の押出成形機などを用いて導体の外周に押出被覆するなどして製造することができる。また、一軸押出機や二軸押出機などで高分子組成物を混練形成しつつ、導体の外周に押出被覆する方法でも良い。
【0055】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上述する高分子組成物を用いたものである。本発明に係るワイヤーハーネスは、上述する高分子組成物を被覆材の材料として用いた本発明に係る被覆電線を含んでなるものであっても良いし、上述する高分子組成物を、複数本の被覆電線よりなる電線束を被覆するワイヤーハーネス保護材の材料として用いたものであっても良い。ワイヤーハーネス保護材の材料として用いるときの電線束には、本発明に係る被覆電線を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0056】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の被覆電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系高分子組成物が好ましい。
【0057】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、本実施例では、材料特性の一つとして、被覆電線の耐摩耗性を評価した。
【0059】
(供試材料および製造元など)
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。
【0060】
(A)有機高分子
・ポリプロピレン(PP)[(株)プライムポリマー製、商品名「プライムポリプロE−150GK」]
・ポリエチレン(PE)[(株)プライムポリマー製、商品名「ハイゼックス5000S」]
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「エバフレックスEV360」]
・アイオノマー[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「ハイミラン1706」]
・オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)[(株)プライムポリマー製、商品名「T310E」]
・ポリスチレン(PS)[日本ポリスチレン製、商品名「G899」]
・ポリアミド(PA)[デュポン(株)製、商品名「ザイテルFN727」]
・ポリフェニレンエーテル(PPE)[ダイセルエボニック社製、商品名「ベストラン1900」]
・ポリフェニレンサルファイド(PPS)[東レ社製、商品名「トレリナA900」]
・ポリカ−ボネート(PC)[三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ユーピロンS−2000」]
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)[東レ(株)製、商品名「トレコン1401X06」]
・エチレン−プロピレンゴム(EPR)[JSR(株)製、商品名「EP51」]
【0061】
(B)添加剤
・金属無機水和物(水酸化マグネシウム)[マーチンスベルグ社製、商品名「マグニフィンH10」]
・メラミンシアヌレート[DSMジャパン(株)製、商品名「melapurMC15」]
・縮合リン酸エステル[ADEKA社製、商品名「アデカスタブFP−700」]
・クレー[白石カルシウム(株)製、商品名「オプチホワイト」]
・炭酸カルシウム[白石カルシウム(株)製、商品名「白艶華CCR」]
・酸化防止剤[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」]
・金属不活性化剤[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックスMD1024」]
【0062】
(C)高分子相溶化剤
・化合物A(式(2)の化合物)の合成
無水マレイン酸変性ポリプロピレン((株)三洋化成製、商品名「ユーメックス1010」)30gと、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(東京化成(株)製)3gとをキシレン400mLに懸濁させる。次いで攪拌しながら120℃まで加温し、2時間反応させる。得られた淡黄色透明液体を激しく攪拌しながら2Lの冷メタノールに少しずつ加え、再沈殿させる。1時間室温で攪拌した後、沈殿した高分子化合物を吸引ろ過し、真空中で24時間乾燥させ、目的物を得た。IR:1705cm−1、1608cm−1、1460cm−1
【0063】
【化2】

ただし、R6は、ポリプロピレンよりなる高分子鎖を表す。
【0064】
・化合物B(式(3)の化合物)の合成
4,4’−ジアミノジフェニルエーテルに代えて、4,4’−ジアミノジフェニルメタンを用いた点以外、化合物Aと同様にして合成した。IR:1706cm−1、1520cm−1、1380cm−1、975cm−1
【0065】
【化3】

ただし、R6は、ポリプロピレンよりなる高分子鎖を表す。
【0066】
・化合物C(式(4)の化合物)の合成
無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えて、無水マレイン酸変性ポリエチレン(日本ユニカー社製、商品名「GB−301」)を用い、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル3gに代えて、パラフェニレンジアミン2.5gを用い、110℃で2時間反応させた点以外、化合物Aと同様にして合成した。IR:1705cm−1、1615cm−1、1467cm−1
【0067】
【化4】

ただし、R6は、ポリエチレンよりなる高分子鎖を表す。
・化合物D(式(5)の化合物)の合成
無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えて、無水マレイン酸変性SEBS(クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「KRATON G FG1901X」)を用い、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル3gに代えて、パラトルイジン2.3gを用い、110℃で2時間反応させた点以外、化合物Aと同様にして合成した。IR:1700cm−1、1605cm−1、1380cm−1、977cm−1
【0068】
【化5】

ただし、R6は、SEBSよりなる高分子鎖を表す。
【0069】
(高分子組成物および被覆電線の作製)
まず、後述の表1または表2に示す各成分を二軸混練機に投入し、有機高分子や相溶化剤が流動する好適温度(例えばポリプロピレンなどでは220℃)で約5分混練した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して本実施例および比較例に係る高分子組成物をそれぞれ得た。次いで、得られた各組成物を、φ50mm押出機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積0.5mm)の外周に0.20mm厚で押出被覆し、本実施例および比較例に係る被覆電線を作製した。
【0070】
以上のように作製した各被覆電線について、耐摩耗性試験を行った。実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。各比較例の高分子組成物は、同じ番号の各実施例の高分子組成物と比べて、(C)相溶化剤を含有していない点で異なっており、(A)有機高分子、(B)添加剤、の種類および含有量は同じになっている。なお、表1および表2に示される(A)有機高分子、(B)添加剤、(C)相溶化剤の量は、質量部でそれぞれ表されている。
【0071】
(耐摩耗性試験)
JASO D611−94に準拠し、ブレード往復法により行った。すなわち、被覆電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、25℃の室温下にて、台上に固定した試験片の被覆材表面を軸方向に10mmの長さにわたってブレードを往復させ、被覆材の摩耗によってブレードが導体に接触するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかける荷重は7Nとし、ブレードは毎分50回の速度で往復させた。次いで、試験片を100mm移動させて、時計方向に90度回転させ、上記の測定を繰り返した。この測定を同一試験片について合計3回行い、その最低値を評価値とした。摩耗回数が500回以上を合格とした。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1および表2によれば、本発明に従う高分子相溶化剤を含有していない比較例に係る被覆電線は、耐摩耗性に劣ることが分かる。これに対し、本発明の一実施例に係る高分子相溶化剤を含有する実施例に係る被覆電線は、耐摩耗性に優れることを確認した。これは、本発明に従う高分子相溶化剤を用いることにより、ポリマーブレンドを作製する際に有機高分子同士の相溶性を高め、混ざりが良くなったためである。
【0075】
また、実施例1と実施例11とを比較すると、同じ有機高分子同士を相溶させる場合、高分子相溶化剤の芳香環の数が多い実施例1の方が、より耐摩耗性向上効果に優れていることが確認できた。
【0076】
そして、本実施例に示される被覆電線を電線束中に含んだワイヤーハーネスとすれば、電線束中の他の被覆電線などと接触する形態で使用されても、被覆材が著しく摩耗することはなく、長期にわたって高い信頼性が確保される。
【0077】
なお、本実施例では電線特性のうち耐摩耗性について評価しているが、有機高分子同士の相溶性が良くなることにより向上が期待できる他の電線特性についても向上効果があると考えられる。また、電線だけでなく、他の材料、例えば成形材料全般などまたはこれ以外の材料についても、機械特性などの材料特性の向上効果があると考えられる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中に、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖と芳香環とを有する化合物を含有することを特徴とする高分子相溶化剤。
【請求項2】
前記高分子鎖と芳香環とが、イミド結合、アミド結合、および、エステル結合から選択された1種または2種以上の結合を介して結合されていることを特徴とする請求項1に記載の高分子相溶化剤。
【請求項3】
前記高分子鎖と芳香環とが、マレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格、および、マレイン酸骨格から選択された1種または2種以上の骨格を介して結合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子相溶化剤。
【請求項4】
前記芳香環には、塩基性置換基が導入されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の高分子相溶化剤。
【請求項5】
前記化合物が下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の高分子相溶化剤。
【化1】

(式中、R1、R2、R4およびR5は、水素原子、または炭素数が1〜3のアルキル基のいずれかを示す。R1、R2、R4およびR5は、同一でも良く、異なっていても良い。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3は、炭素数が1〜3のアルキル基、アミノ基、炭素数が6〜21のアリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基またはアリールアルキル基のいずれか、もしくは、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖が結合されたマレインイミド骨格、マレインアミド酸骨格またはマレイン酸骨格を示す。アルキル基中には水酸基、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル基を含んでいても良い。R3の芳香環にはアミノ基、アルキル基を含んでいても良い。R6は、オレフィン系高分子またはスチレン系共重合体よりなる高分子鎖を示す。)
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の高分子相溶化剤と、オレフィン系高分子、スチレン系高分子、エンジニアリングプラスチックおよびゴムから選択された2種以上の有機高分子とを含有してなることを特徴とする高分子組成物。
【請求項7】
前記有機高分子の合計質量100質量部に対して、前記高分子相溶化剤を0.1〜20質量部含有することを特徴とする請求項6に記載の高分子組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の高分子組成物を被覆材に用いた被覆電線。
【請求項9】
請求項6または7に記載の高分子組成物を用いたワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2009−292860(P2009−292860A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144684(P2008−144684)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】