説明

高分子量セリシン水溶液

【課題】アニオン界面活性剤以外の界面活性剤を用いて高分子量セリシンの溶解性を改善することで、コロイド状のゲル形成や凝集沈降を抑制し、均一性に優れる高分子量セリシン水溶液を得る。
【解決手段】重量平均分子量が3万以上のセリシンと、特定の非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤又は両性界面活性剤とを含有する高分子量セリシン水溶液である。特定の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ラウリン酸アミドブチルグアニジウム塩、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタインなどである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量セリシン水溶液に関し、より詳細には、高分子量セリシンの水に対する溶解性を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
セリシンは、フィブロインとともに絹繊維を構成するタンパク質であり、絹繊維の精錬工程において溶解除去される成分である。かかるセリシンは、従来、精錬廃液として廃棄されていたが、近年、機能性素材として、生体機能に関連する応用分野や、化粧品、食品といった分野への活用が検討されている。
【0003】
セリシンの分離回収方法として、下記特許文献1には、絹繊維を高温水で高温高圧処理し、得られたセリシン水溶液を凍結、解凍してセリシンを抽出する技術が開示されている。この方法で得られるセリシンは平均分子量が10万以上であり、その水溶液は0〜40℃でゲル化することが記載されている。
【0004】
このように高分子量のセリシンは、水に対する溶解性が乏しいことから、その水溶液は、白濁しゲル状になってしまう。すなわち、高分子量セリシン水溶液では、セリシンが完全には溶解しておらず、溶液は白濁し、粘度が高く、経時的にコロイド状のゲルを形成したり、凝集沈殿したりする。そのため、高粘度のため扱いづらく、外観が悪かったり、離水したりするといった不都合が生じる。
【0005】
下記特許文献2には、高圧精錬で得られたセリシン水溶液をゲル化させた後に、コロイド状のセリシンを濾過して除去することにより、無色透明のセリシン水溶液を得る方法が記載されている。この文献では、白濁の原因である不溶性のセリシンコロイドを濾過により除去するというものである。すなわち高分子量セリシンを除去するものであるため、得られた無色透明のセリシン水溶液は低分子量セリシンの水溶液である。従って、この方法では高分子量セリシン水溶液の溶解性を改善することはできない。
【0006】
このような問題を解決するため、下記特許文献3には、高分子量のセリシンを、アミノ酸系活性剤やポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩などのアニオン界面活性剤で可溶化することが提案されている。
【特許文献1】特開平11−131318号公報
【特許文献2】特開2006−160717号公報
【特許文献3】特開2008−069099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高分子量セリシンは、皮膜を形成することが可能であり、毛髪用途への応用が期待されるが、上記のように高分子量セリシンのみでは皮膜が不均一でムラのある皮膜しか形成することができない。
【0008】
これに対し、上記特許文献3によれば、高分子量セリシンをアニオン界面活性剤で可溶化することにより、均一な皮膜を形成することができる。例えば、特許文献3では、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシル−D,L−アラニン塩、N−アシル−サルコシン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩の実施例が示されている。また、本発明者が更に実験で検討したところ、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)スルホコハク酸二ナトリウムでも、高分子量セリシンを可溶化できることが判明した。
【0009】
しかしながら、毛髪用途のコンディショナーなどでは、一般にカチオン界面活性剤が配合されている。このようなカチオン界面活性剤が配合された系に、アニオン界面活性剤を配合すると、カチオンとアニオンのコンプレックスが形成され、系が不安定化する場合がある。
【0010】
そのため、高分子量セリシンをアニオン界面活性剤以外の界面活性剤で可溶化することが求められるが、上記特許文献3に記載のように従来、アニオン界面活性剤以外の界面活性剤では高分子量セリシンの溶解性を改善することはできないと考えられていた。より詳細には特許文献3では、両性界面活性剤としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(比較例2)、カチオン界面活性剤として塩化ラウリルトリメチルアンモニウム(比較例3)、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテル(比較例4)を用いており、これらの場合、高分子量セリシンの溶解性改善効果が得られないことが示されている。
【0011】
このような従来技術に反し、本発明は、従来は使用できないと考えられていた非イオン界面活性剤やカチオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いて、高分子量セリシンの溶解性を改善することで、高分子量セリシン水溶液のコロイド状のゲル形成や凝集沈降を抑制し、均一性に優れる高分子量セリシン水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、特定の非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることで、高分子量セリシンの溶解性を改善し、均一な皮膜を形成できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る高分子量セリシン水溶液は、重量平均分子量が3万以上のセリシンと、下記特定の非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれか少なくとも1種とを含有するものである。
【0014】
非イオン界面活性剤:ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)エーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルポリグルコシド、糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールのいずれか1種又は2種以上の組み合わせ、
カチオン界面活性剤:ラウリン酸アミドブチルグアニジウム塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル・DL−ピロリドンカルボン酸塩のいずれか1種又は2種以上の組み合わせ、
両性界面活性剤:ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、アルキルアミンオキシド、イミダゾリウムベタイン、N−[3−アルキル(12,14)オキシ−2−ヒドロキシプロピル]−L−アルギニン塩酸塩のいずれか1種又は2種以上の組み合わせ。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高分子量セリシンの水に対する溶解性を改善して、コロイド状のゲル形成や凝集沈降を抑制することができ、均一性に優れる高分子量セリシン水溶液を得ることができる。また、高分子量セリシン水溶液の均一性を向上することで、均一な皮膜を形成することができる。更に、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤を用いて高分子量セリシンの溶解性を改善することができるので、毛髪用途のコンディショナーなどのようにカチオン界面活性剤が配合される系に添加した場合でも、高分子量セリシンの可溶化効果を維持して、均一な皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施に関連する事項について説明する。
【0017】
本発明に係る高分子量セリシン水溶液において、含有するセリシンは、重量平均分子量(Mw)が3万以上である高分子量のセリシンである。このように高分子量であることにより、成膜性に優れ、また、保湿効果の向上にも寄与し得る可能性がある。なお、重量平均分子量が3万未満であるような低分子量のセリシンであれば、本方法によるまでもなく溶解性に優れるため、本発明では重量平均分子量が3万以上のものを対象とする。より好ましくは、成膜性を高める観点から、セリシンの重量平均分子量は5万以上である。重量平均分子量の上限値は特に限定されないが、20万以下であることが、セリシン水溶液の透明性、均一性の点で好ましく、より好ましくは10万以下である。
【0018】
本発明において、重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィーにて測定されるものである。
【0019】
本発明では、上記高分子量セリシンを可溶化するために、特定の非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いる。
【0020】
上記非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)エーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルポリグルコシド、糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタンなどの炭素数8〜20の飽和又は不飽和脂肪酸を用いたものが挙げられる。
【0022】
上記ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノカプリル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタンなどの炭素数8〜20の飽和又は不飽和脂肪酸のソルビタンエステルが挙げられる。
【0023】
上記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコールなどの炭素数8〜20の飽和又は不飽和脂肪酸のポリエチレングリコールエステルが挙げられる。
【0024】
上記ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油とは、ポリオキシエチレンヒマシ油とポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含む概念である。
【0025】
上記ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステルとしては、例えば、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、トリイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリオキシエチレンモノヤシ油脂肪酸グリセリルなどが挙げられる。
【0026】
上記脂肪酸アルカノールアミドとしては、例えば、ラウリン酸イソプロパノールアミドなどのアルキルアルカノールアミドの他、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドなどの脂肪酸モノエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドなどの脂肪酸ジエタノールアミドが挙げられる。
【0027】
上記アルキルポリグルコシドとしては、例えば、ラウリルグルコシド、デシルグルコシドなどが挙げられる。
【0028】
上記糖脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸スクロース、ステアリン酸スクロースなどのショ糖脂肪酸エステルが好ましいものとして挙げられる。
【0029】
上記ポリグリセン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノステアリン酸ジグリセリル、モノオレイン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノステアリン酸テトラグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリルなどが挙げられる。
【0030】
上記カチオン界面活性剤としては、ラウリン酸アミドブチルグアニジウム塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル・DL−ピロリドンカルボン酸塩が挙げられ、これらはそれぞれ1種単独で、又は2種組み合わせて用いることができる。ここで、N−ヤシ油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル・DL−ピロリドンカルボン酸塩は、L−アルギニンとヤシ油脂肪酸との縮合物をエタノールでエステル化し、ピロリドンカルボン酸塩としたものである。
【0031】
上記両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、アルキルアミンオキシド、イミダゾリウムベタイン、N−[3−アルキル(12,14)オキシ−2−ヒドロキシプロピル]−L−アルギニン塩酸塩が挙げられ、これらは1種単独では、又は2種以上の組み合わせて用いることができる。上記アルキルアミンオキシドとしては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキシドが好ましいものとして挙げられる。上記アルギン酸塩としては、化粧品種別配合成分規格に収載されているN−[3−アルキル(12,14)オキシ−2−ヒドロキシプロピル]−L−アルギニン塩酸塩液を用いることができる。
【0032】
本発明に係る高分子量セリシン水溶液は、上記高分子量セリシンを上記特定の非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤又は両性界面活性剤で可溶化させることにより得ることができる。ここで、可溶化とは、上記高分子量セリシンの水に対する溶解性を向上させて均一性を有するセリシン水溶液を得ることを意味しており、必ずしも高分子量セリシンの全てが完全に水に溶解した状態を要求するものではない。かかる可溶化に要する上記界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、セリシンの固形分に対する重量比で、0.1倍以上であることが好ましい。また、その上限も、特に限定されないが、溶解性とコストなどを考慮して、1000倍以下であることが好ましく、より好ましくは10倍以下である。
【0033】
本発明に係る高分子量セリシン水溶液において、セリシン濃度は特に限定されるものではないが、30重量%未満であることが好ましい。セリシン濃度が高すぎると、界面活性剤の濃度を増やしても、溶解性のよい高分子量セリシン水溶液を得ることが難しくなる。セリシン濃度は、より好ましくは、0.5〜10重量%である。
【0034】
本発明の高分子量セリシン水溶液は、上記高分子量セリシンと上記特定のカチオン界面活性剤を含有するものであるが、本発明の効果を損なわない範囲内で、増粘剤、色素、香料、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、塩、pH調整剤、パール化剤、抗フケ剤、油剤、清涼感剤、溶剤、防腐剤などの他の成分を含有してもよい。
【0035】
上記可溶化は、白濁し凝集沈殿した高分子量セリシン水溶液から次の方法により行うことができる。すなわち、重量平均分子量が3万以上の高分子量セリシン水溶液の原液に、上記特定の界面活性剤を加えて加熱混合し、その後、室温まで冷却することで、均一な高分子量セリシン水溶液が得られる。
【0036】
処理対象となる高分子量セリシン水溶液の原液としては、絹繊維(繭糸)を高温水(例えば100〜140℃)で抽出処理することにより得られたものが好適である。このような高温水で抽出したものであれば、アルカリ抽出したものに比べて、高分子量のセリシンを含んだ水溶液が得られる。かかる高温水によるセリシンの抽出方法は、例えば上記特許文献1に記載されたような公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されない。
【0037】
高温水抽出で得られた上記高分子量セリシン水溶液の原液は、通常、室温では、セリシンが完全には溶解しておらず(従って、セリシン水分散液と称することもできる。)、白濁し、凝集沈殿により増粘した状態の液体である。
【0038】
この高分子量セリシン水溶液の原液に、上記特定の界面活性剤を所定量加えた後、加熱条件下(好ましくは80〜95℃)で、所定時間(例えば30分程度)撹拌する。なお、加熱撹拌後に、圧力処理を行ってもよい。圧力処理を加えることで、高分子量セリシン水溶液の透明性、溶解性を向上することができる。圧力処理は、マイクロフルイダイザー、ホモジナイザー、アルティマイザーなどの公知の高圧処理機を用いて行うことができ、上記セリシン水溶液に圧力をかけて微粒子化することにより、透明性が向上する。
【0039】
本発明に係る高分子量セリシン水溶液は、上記の非イオン界面活性剤やカチオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いたものでありながら、高分子量セリシンの溶解性、分散性を改善して、コロイド状のゲルの沈降や凝集沈殿を抑制することができる。そのため、例えば、毛髪用途のコンディショナーなどのようにカチオン界面活性剤が配合された化粧料などに対して配合した場合でも、高分子量セリシンの溶解性を損なうことなく、均一性を保持することができ、結果、均一な皮膜を形成することができる。
【0040】
このように該高分子量セリシン水溶液は毛髪化粧料に好ましく用いられる。かかる毛髪化粧料には、上記高分子量セリシン水溶液の他、カチオン界面活性剤、油分、シリコーン、乳化剤、フケ防止剤、増粘剤、低温安定剤、pH調整剤、防腐剤、着色料、香料など、毛髪化粧料において一般に配合される各種成分を配合することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0042】
セリシンの重量平均分子量は、次の方法により測定した。
【0043】
(重量平均分子量)
・サンプル調製法:
1.セリシンの濃度が0.1重量%となるように移動相と同じ組成の水溶液で希釈
2.上記1.の液を5分間煮沸処理
3.上記2.の液をシリンジフィルタ(ADAVANTEC社製「DISMIC−13HP」、PTFE0.45μm)に通し、サンプルとした
・試薬:リン酸水素二ナトリウム(ナカライテスク社製)、リン酸二水素ナトリウム(ナカライテスク社製)、塩化ナトリウム(ナカライテスク社製)、分子量マーカ(オリエンタル酵母社製「MW−Marker」、分子量12,400〜290,000)
・分析条件:
UV検出器…島津製作所社製「SPD−6A」、測定波長210nm
カラム…昭和電工社製「Asahipak GS−520HG」
カラム温度…40℃
移動相…0.3M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)
流速…0.6ml/分
注入量…10μl
・分子量算出方法:分子量マーカを測定して検量線を作成し、重量平均分子量を測定した。
【0044】
高分子量セリシン水溶液の原液(第一工業製薬社製「DKセリシンMT」、セリシン濃度1重量%、重量平均分子量=52,000)に、下記表1に示す界面活性剤を、同表に示す割合で添加し、90℃の水浴中で30分間加熱撹拌した。その後、室温まで冷却して、実施例1〜22及び比較例2〜10の高分子量セリシン水溶液を調製した。なお、比較例1は、界面活性剤を添加することを除いて同様の処理を行った。得られた高分子量セリシン水溶液について、下記の評価方法に従い、溶液の均一性と皮膜の均一性を評価した。
【0045】
・溶液の均一性の評価:水溶液調製の翌日に、目視で溶液の均一性を確認した。評価は、溶液が透明均一なものを「◎」、不透明均一なものを「○」、ゲル状のものを「△」、ゲルの沈殿・分離・凝集が見られたものを「×」とした。
【0046】
・皮膜の均一性:フィルム上にテープで5cm四方の囲いをし、上記方法で調製した溶液を5g流し込んで70℃の恒温槽中で一晩乾燥させた。目視および触って皮膜の有無および状態を確認した。評価は、皮膜が透明均一なものを「◎」、不透明均一なものを「○」、膜は形成できたが不均一なものを「△」、膜が形成できずひび割れが生じたものを「×」、溶液が不均一であったため評価できないものを「−」とした。
【0047】
結果は、下記表1に示す通りであり、特定の界面活性剤を添加した実施例1〜22では、界面活性剤を添加していない比較例1に比べて、溶解性が大幅に改善され、均一性に優れた高分子量セリシン水溶液が得られ、また、均一な皮膜を形成することができた。これに対し、比較例2〜4ではカチオン界面活性剤、比較例5〜7では両性界面活性剤、比較例8〜10では非イオン界面活性剤で可溶化を試みたものの、上記界面活性剤でないため、高分子量セリシンの溶解性改善効果は得られなかった。
【表1】

【表2】

【表3】

【0048】
上記実施例1〜22で用いた界面活性剤の他、非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)エーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、アルキルアルカノールアミド、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合についても、上記実施例と同様に、均一な皮膜を形成する高分子量セリシン水溶液が得られた。また、カチオン界面活性剤として、ラウリン酸アミドブチルグアニジウム塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル・DL−ピロリドンカルボン酸塩を用いた場合についても、更には、両性界面活性剤として、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド、イミダゾリウムベタイン、N−[3−アルキル(12,14)オキシ−2−ヒドロキシプロピル]−L−アルギニン塩酸塩を用いた場合についても、上記実施例と同様に、均一な皮膜を形成する高分子量セリシン水溶液が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の高分子量セリシン水溶液は、化粧品(例えば、基礎化粧品などの保湿剤成分として。また、毛髪用途、石鹸など)、医療用フィルムなどの生体機能に関連する分野、繊維処理剤などに利用することができる。特に好ましくは、コンディショナー、トリートメント、シャンプー、ジェル、リーブオントリートメントなどの毛髪化粧料に用いることである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が3万以上のセリシンと、
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキル(12〜14)エーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルポリグルコシド、糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ラウリン酸アミドブチルグアニジウム塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル・DL−ピロリドンカルボン酸塩、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、アルキルアミンオキシド、イミダゾリウムベタイン、及び、N−[3−アルキル(12,14)オキシ−2−ヒドロキシプロピル]−L−アルギニン塩酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤と、
を含有する高分子量セリシン水溶液。
【請求項2】
請求項1記載の高分子量セリシン水溶液を配合してなる毛髪化粧料。

【公開番号】特開2010−13384(P2010−13384A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173610(P2008−173610)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】