説明

高分子電解質膜及びその製造方法

【課題】高いイオン伝導率が得られ、高い出力が安定して得られる高分子電解質膜及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーがイオン伝導性ブロックを形成しているブロック共重合体からなる電解質膜であって、該常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーが形成するシリンダー状ドメインが、電解質膜の厚さ方向と平行に配列してなることを特徴とする高分子電解質膜及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜及びその製造方法に関連し、より詳しくは、常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーがイオン伝導性ブロックを形成しているブロック共重合体からなる高分子電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常温溶融塩(イオン性液体)とは室温で液体の有機化合物塩であり、高いイオン密度を有し、かつイオン移動度も大きいため、結果として極めて高いイオン伝導度を示す材料である。また、様々な塩の良溶媒となるため、新規イオン伝導性マトリックスとしても期待されている。具体的には、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシター、色素増感太陽電池等への電解質としての利用が検討されている。更に、常温溶融塩は通常の溶媒のような揮発性が無いため、環境負荷の低減を目的とするグリーンケミストリーの媒体としても興味が持たれている。
【0003】
このように、常温溶融塩(以降、イオン性液体とも称する)は溶媒として極めて有用で、今までの溶媒にはない特徴を有するが、目的イオンの伝導場としてはこのままでは決して適していない。なぜなら、イオン性液体自身もイオンであるため、電位勾配に沿って移動してしまうからである。目的イオンの輸率を上げるためには、イオン性液体自身の移動を抑える必要があり、このことはイオン性液体を高分子化合物と混合することや、イオン性液体自身を高分子化することで、ある程度防ぐことができると考えられている(非特許文献1参照)。イオン性液体を高分子化する手法を用いれば、イオン性液体を構成するイオンはその高分子の主鎖又は側鎖に固定され、目的イオンのみが移動する高速イオン伝導パスの構築が可能となると考えられる。
【0004】
イオン性液体を高分子で固定化した例として、特許文献1及び2には、ポリエーテル系、ポリアミド系、ポリエステル系高分子等とイオン性液体とを混合した高分子化合物複合体に関しての記載がなされている。この高分子化合物複合体は、漏液の問題がなく、腐食性もなく、安定なので、長期間の信頼性に耐えることができ、電気二重層コンデンサー等の電解質として好適であると記述している。
【0005】
また、イオン性液体を高分子の側鎖に固定化した例として、非特許文献2には、モノマー側鎖に常温溶融塩構造を導入し、そのモノマーを重合反応させることで、高分子側鎖に常温溶融塩構造を導入した電解質膜を作製し、室温でのイオン伝導度を測定している。
【特許文献1】特開平10−265673号公報
【特許文献2】特開平10−265674号公報
【非特許文献1】イオン性液体の機能創成と応用、(株)エヌ・ティー・エス、2004.
【非特許文献2】Polymer、2004、Vol.45、1577−1582頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の報告例にはいくつかの改良すべき点があった。
【0007】
特許文献1及び2のようなイオン性液体/高分子化合物複合体では、イオン性液体と高分子化合物が混合されているもののイオン性液体を構成する分子は高分子化合物と化学的結合を有しておらず、電解質として用いる際にイオン性液体自身が電位勾配に沿って移動してしまうという課題があった。また、非特許文献2に示されている方法では、常温溶融塩構造が高分子側鎖に固定されているので、イオン性液体自身の移動を抑制することは可能となるが、イオンの移動方向に関しては何も制御がなされていないため、電解質膜中でのイオンの移動方向はランダムとなり、イオン伝導効率の向上には限界が生じてしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従って、常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーがイオン伝導性ブロックを形成しているブロック共重合体からなる電解質膜であって、該常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーが形成するシリンダー状ドメインが、電解質膜の厚さ方向と平行に配列してなることを特徴とする高分子電解質膜が提供される。
【0009】
また、本発明に従って、常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーがイオン伝導性ブロックを形成しているブロック共重合体を成膜する工程と、
成膜したブロック共重合体を加熱処理及び外場を印加することによりイオン伝導性ブロックが形成するシリンダー状ドメインを一軸配向させて、電解質膜の厚さ方向と平行に配列したイオン伝導部を形成する工程と、
を有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イオンの移動方向を制御することにより、高いイオン伝導率が得られ、高い出力が安定して得られる高分子電解質膜及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の高分子電解質膜の製造方法、及び詳細な構成に関して記述する。
【0012】
図1は、本発明の高分子電解質膜の一実施形態を示す構成図である。図1において、高分子電解質膜10(以降、電解質膜とも称する)は、マトリックスブロック11と常温溶融塩構造を有するイオン伝導性ブロック12とを有するブロック共重合体から形成されている。そして、マトリックスブロック11とイオン伝導性ブロック12はシリンダー状ドメイン13からなる相分離構造を形成し、イオン伝導性ブロック12が膜厚方向(d)にシリンダー状に配列した構造を有している。
【0013】
図2は、本発明の電解質膜を形成するブロック共重合体の一実施形態を示す構成図である。ブロック共重合体21は、常温溶融塩構造を主鎖もしくは側鎖に有するイオン伝導性高分子からなるイオン伝導性ブロック22(以降、イオン伝導性高分子とも称する)と、膜支持部位(マトリックス)を形成するマトリックスポリマーからなるマトリックスブロック23(以降、マトリックスポリマーとも称する)からなる共重合体である。また、Li塩を添加してイオン伝導性を持たせてもよい。
【0014】
電解質膜10において、マトリックスブロック11中にイオン伝導性ブロック12がシリンダー状に配置した構造を備えている。シリンダー状ドメイン13の直径は、1nm以上100nm以下が好ましい。直径が1nm未満になると、イオン伝導が妨げられるので好ましくない。また、直径が100nmを超える電解質膜を得るためには、ブロック共重合体の分子量を著しく大きくする必要があり、合成上困難であるため好ましくない。シリンダー状ドメイン13の直径は、更に好ましくは5nm以上50nm以下である。
【0015】
シリンダー状ドメイン13の直径は、イオン伝導性高分子22の分子量及びマトリックスポリマー23の分子量に依存する。ブロック共重合体21の数平均分子量はMn=1,000以上1,000,000以下が好ましい。シリンダー径が小さいものを得るためには、ブロック共重合体21の分子量を小さくする必要があるが、分子量低下に伴い膜強度が低下するため好ましくない。また、シリンダー径の大きいものを得るには、分子量制御されたブロック共重合体を合成するのが困難となるため好ましくない。したがって、ブロック共重合体の分子量21は、更に好ましくはMn=2,000以上500,000以下である。
【0016】
また、イオン伝導性ブロック12が形成するシリンダー状ドメイン13は、電解質膜10の膜抵抗を小さくするために少なくとも電解質膜の厚さ方向に平行方向に配向していることが必須であり、その形状は、特に限定されるものではない。また、イオン伝導性ブロック12の断面の形状は、ミクロ相分離により発現した形状であれば円形、だ円形、波打った不定形等、特に限定されるものではないが、円形、だ円形であることが好ましい。
【0017】
なお、電解質膜10を形成するブロック共重合体21は、イオン伝導性ブロック22を形成するイオン伝導性高分子と、マトリックスブロック23を形成するマトリックスポリマーからなる。
【0018】
マトリックスポリマーの材質は、ブロック共重合体を合成可能であり、膜構造を形成することができるものであれば良く、特に限定されるものではない。
【0019】
マトリックスポリマーとしては、イオン交換基を有さない一般的な高分子、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン誘導体、共役ジエン、ビニルエステル化合物等の単量体から合成される重合体が挙げられる。具体的には、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、またポリメタクリル酸トリフルオロエチル等が挙げられる。また、成膜した後に光等により重合可能なアゾ系高分子等を用いることにより、膜強度を向上させることも可能となる。
【0020】
イオン伝導性ブロック22を形成するイオン伝導性高分子は、常温溶融塩構造を有し、かつ、ブロック共重合体が合成可能な物質であれば良く、特に限定されるものではない。なお、イオン伝導性高分子は自身の移動を抑制させ、高いイオン伝導率を得るために常温溶融塩構造を側鎖部分に有することが好ましい。高分子中の常温溶融塩構造の量は、シリンダー構造を形成可能であれば良い。常温溶融塩の種類についても、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。常温溶融塩は、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩のいずれかであることが好ましい。従来の有機液状電解質(カーボネート系等)と比べると、高温で揮発しない、出力電圧が高くても安定のメリットがある。下記にイミダゾリウム塩の一般式を示す。また、イミダゾリウム構造の例としてエチルメチルイミダゾリウム塩を示す。
【0021】
【化1】

【0022】
ブロック共重合体21では、各成分の自己凝集によりそれぞれミクロドメインを形成し、自己組織的に相分離する。しかし、水と油のようなマクロな相分離とは異なり、それぞれの成分が一本の高分子鎖内で固定されているため、相分離は分子の大きさによって規制され、そのサイズも数ナノメートルから100ナノメートル程度となる。更にこれらの相分離の形態は、各成分の組成比や相溶性により球状、シリンダー状、ラメラ状に変化し、ミクロドメインの大きさも、鎖長や相溶性により制御することが出来る。本発明における電解質膜中において、シリンダー状ドメイン13を形成するためには、ブロック共重合体中21におけるイオン伝導性ブロック22の体積分率が、5%以上40%以下であることが好ましい。
【0023】
このような自己組織的に相分離した高分子電解質膜を得る方法について説明する。ブロック共重合体21の溶液を調整し、成膜した後、ブロック共重合体21を構成している両ポリマー成分のガラス転移温度(Tg)以上で熱処理することにより、ミクロドメイン構造を発現した膜を得ることが可能となる。また、この工程に更に外場を加えることにより、ミクロ相分離構造はある一定方向に並んだ構造を形成する。本発明において、「外場」とは、電場、磁場、シェア等のことを指し、例えば、一軸配向の方法として、得られた高分子電解質膜に、熱処理を行いながら電場、磁場、シェア等の外場を加えることにより、一軸方向にイオン伝導性ブロック22を配向させることができる。
【0024】
本発明において、「イオン伝導性ブロック12がシリンダー状に配置した構造」とは、イオン伝導性ブロック12と、マトリックスブロック11からなるブロック共重合体において、そのミクロ相分離構造の誘起により、イオン伝導性ブロック12が膜厚方向にシリンダー状に一軸方向に配向させた構造を有することをいう。具体的には、イオン伝導性高分子を有するブロック共重合体を合成した後、成膜、熱処理により相分離構造を形成させ、外場を加えて一軸配向化させることにより、イオン伝導性ブロック12が膜厚方向にシリンダー状に配向している構造を有する高分子電解質膜を得ることができる。
【0025】
イオン伝導性ブロック12がシリンダー状に一軸配向した構造は、フィルムの超薄切片を切り出し、該切片をRuOで染色した後、透過型電子顕微鏡(以下TEM)で膜断面の観察を行うことにより確認することができる。
【0026】
イオン伝導性ブロック22を有するブロック共重合体21の組成比は、シリンダー状のミクロ相分離構造が作製可能な組成比であればよい。シリンダー構造等ミクロ相分離構造の形態は、体積分率の値だけでなく、ブロック共重合体21を構成する両成分の相溶性パラメーターや両成分の重合度等にも影響を受けるため、使用するブロック共重合体21の化学構造(両ブロックの相溶性)や重合度に応じて、体積分率も決定すればよいが、一般的には、ブロック共重合体21に含有されるイオン伝導性ブロック22の体積分率は、5%以上40%以下が好ましく、特には10%以上40%以下が好ましい。イオン伝導性ブロック22の体積分率が低くなる(約20%以下)とそのミクロ相分離構造は球構造となるが、熱処理及び外場によりシリンダー構造へと転移させることができる。イオン伝導性ブロック22の体積分率が5%未満では、相分離構造が形成されなくなるため、好ましくない。イオン伝導性ブロック22の体積分率が40%を超えると他の相分離形態(ジャイロイド、ラメラ等)に相転移しシリンダー構造を形成できないため好ましくない。
【0027】
また、膜強度等を考慮すると、ブロック共重合体21を形成するイオン伝導性高分子の数平均分子量は、Mn=2,000以上500,000以下程度が好ましい。また、マトリックスポリマーの数平均分子量は、Mn=1,000以上400,000以下程度が好ましい。
【0028】
ブロック共重合体21の合成方法は、特に制限はなく、モノマー種によるが、例えば、
(1)常温溶融塩構造を有するイオン伝導性高分子を合成した後、マトリックスポリマーを共重合する、
(2)マトリックスポリマーを合成した後、常温溶融塩構造を有するイオン伝導性高分子を共重合する、
(3)常温溶融塩構造を有するイオン伝導性高分子、マトリックスポリマーをそれぞれ合成した後にブロック共重合する、
(4)ブロック共重合体を合成した後、常温溶融塩構造の導入を行う、
等が挙げられる。
【0029】
ブロック共重合体の合成方法は、ブロック共重合体が得られれば特に重合方法について限定されることはない。ブロック共重合体の合成方法として、リビング重合法を用いると、ブロック鎖の重合度を自由に制御して共重合体を合成することが可能である。リビング重合法には、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、配位重合、リビングラジカル重合等の様々な重合法がある。このような重合法を用いることにより、種々のビニルモノマーを重合することが可能である。
【0030】
常温溶融塩構造の導入方法は、特に限定されるものではなく、用途に応じて任意に選択することができる。
【0031】
次に、本発明の形態に係る高分子電解質膜の作用について説明する。本発明における電解質膜では、イオン伝導性高分子からなるイオン伝導性ブロックと、膜支持部位を構成するマトリックスポリマーが相分離した構造を有する。高分子電解質膜がこの構成を有することにより、膜のイオン伝導性ブロック内において、イオン伝導に有効に寄与する割合が高くなる。また、マトリックスポリマーは、膜の含水状態等により形状変化を起こさないため、寸法安定性に優れ、また高強度、高イオン伝導率といった特性の両立が可能となる。
【0032】
更に、前記電解質膜では、イオン伝導性ブロックのシリンダー状ドメインが電解質膜の膜厚方向に対して平行方向に配向していることにより、電解質膜の両側に設けられる電極間がこのシリンダー状ドメインによって、最短のイオン移動経路でつながることになる。そのため、イオン伝導効率が更に向上し、高イオン伝導が得ることができる。
【0033】
以下、実施例を用いて更に詳しく本発明を説明するが、本発明は実施例に記述されたものに限定されるわけではない。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。まず、以下の手順によりポリマーを合成した。
【0035】
(合成例1)
側鎖に常温溶融塩構造(イミダゾリウム塩構造)を有するポリマーとポリスチレンとのブロック共重合体の合成(BP−1)
まず始めに、側鎖に常温溶融塩構造(イミダゾリウム塩構造)を有するモノマーの合成を行った。ピリジンの存在下で、等モルのオリゴオキシエチレンモノメタクリレート、塩化チオニルを反応させたのちに、得られた化合物をアセトニトリルに溶解させた。この溶液に、得られた化合物に対して過剰量のN−エチルイミダゾールを加え、窒素雰囲気下、25℃で、3日間撹拌した。その後、ジエチルエーテルを用いて精製した。精製した化合物における、塩化物イオンからビストリフルオロメタンスルホンイミド(TFSI)へのイオン交換は以下の方法で行った。過剰のLiTFSIを、化合物の水溶液に加え、5〜6時間撹拌した後、沈殿物を回収した。NMRを用いた構造解析により、側鎖に常温溶融塩構造(イミダゾリウム塩構造)を有するモノマーの合成を確認した。
【0036】
次に、ブロックポリマーの合成を行った。20mlシュレンク管中、側鎖に常温溶融塩構造を有するモノマー0.5g、ジメチルホルムアミド1.5g、1−ブロモエチルベンゼン30μl、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン10μl、CuBr触媒5mgを加え、80℃で3時間重合を行い、ポリマー(a)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリマー(a)の分子量を測定したところ、Mn(数平均分子量)=11,600であった。
【0037】
次に、20mlシュレンク管中、スチレンモノマー1.5g、ポリマー(a)0.5g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン10μl、CuBr触媒5mgを加え、110℃で3時間重合を行い、ブロックポリマー(BP−1)を得た。GPC測定により、分子量を測定したところ、Mn=44,800であった。
【0038】
BP−1における側鎖に常温溶融塩構造(イミダゾリウム塩構造)を有するポリマーの体積分率は28%であった。
【0039】
(合成例2)
側鎖に常温溶融塩構造(イミダゾリウム塩構造)を有するポリマーとポリメタクリル酸メチルとのブロック共重合体の合成(BP−2)
側鎖に常温溶融塩構造(イミダゾリウム塩構造)を有するモノマーの合成は合成例1と同様の方法で行った。
【0040】
次に、ブロックポリマーの合成を行った。20mlシュレンク管中、側鎖に常温溶融塩構造を有するモノマー0.5g、ジメチルホルムアミド1.5g、1−ブロモエチルベンゼン30μl、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン10μl、CuBr触媒5mgを加え、80℃で3時間重合を行い、ポリマー(b)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリマー(b)の分子量を測定したところ、Mn(数平均分子量)=11,200であった。
【0041】
次に、20mlシュレンク管中、メタクリル酸メチルモノマー1.5g、ポリマー(b)0.5g、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン10μl、CuBr触媒5mgを加え、110℃で3時間重合を行い、ブロックポリマー(BP−2)を得た。GPC測定により、分子量を測定したところ、Mn=45,400であった。
【0042】
BP−2における側鎖に常温溶融塩構造(イミダゾリウム塩構造)を有するポリマーの体積分率は27%であった。
【0043】
(合成例3)
側鎖に常温溶融塩構造(イミダゾリウム塩構造)を有するポリマーとポリスチレンとのランダム共重合体の合成(RP−1)
20mlシュレンク管に、側鎖に常温溶融塩構造を有するモノマー2.5g、スチレンモノマー4.5g、アゾイソブチロニトリル60mgを加え、100℃で2時間重合を行うことによりランダム共重合体(RP−1)を得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、RP−1の分子量を測定したところMn=48,000であった。
【0044】
続いて、合成したブロック共重合体を用いて高分子電解質膜を作製した例を示す。
【0045】
(実施例1)
合成例1で得たBP−1を、Pt基板上に成膜した。更にこの基板上にPt/BP−1/PtとなるようにPt基板で挟み込み、40V/μmとなるように電界をかけ、160℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。電解質膜断面のTEM観察を行った結果、イオン伝導性ブロックの断面が円形のシリンダー状ドメインが電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0046】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、インピーダンス測定装置 SI1287(Solatron社製)により測定した。その結果、25℃におけるイオン伝導度は2.0×10−4S・cm−1であった。
【0047】
(実施例2)
合成例2で得たBP−2を、Pt基板上に成膜した。更にこの基板上にPt/BP−2/PtとなるようにPt基板で挟み込み、40V/μmとなるように電界をかけ、160℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。電解質膜断面のTEM観察を行った結果、イオン伝導性ブロックの断面が円形のシリンダー状ドメインが電解質膜の厚さ方向に対して平行に一軸配向したミクロ相分離構造が認められた。
【0048】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、インピーダンス測定装置 SI1287(Solatron社製)により測定した。その結果、25℃におけるイオン伝導度は2.2×10−4S・cm−1であった。
【0049】
(比較例1)
合成例1で得たBP−1を、Pt基板上に成膜した。更にこの基板上にPt/BP−1/PtとなるようにPt基板で挟み込み、160℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。この膜は、外場を印加せずに熱処理だけを行った膜である。得られた電解質膜断面のTEM観察を行った結果、イオン伝導性ブロックとマトリックスブロックが海島構造で無秩序に相分離していることが認められた。
【0050】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、インピーダンス測定装置 SI1287(Solatron社製)により測定した。その結果、25℃におけるイオン伝導度は1.2×10−5S・cm−1であった。
【0051】
(比較例2)
合成例3で得たRP−1を、Pt基板上に成膜した。更にこの基板上にPt/RP−1/PtとなるようにPt基板で挟み込み、40V/μmとなるように電界をかけ、160℃で10時間加熱することにより、電解質膜を作製した。得られた電解質膜断面のTEM観察を行った結果、相分離構造は確認されなかった。
【0052】
得られた電解質膜について両側から白金板を押し当て、インピーダンス測定装置 SI1287(Solatron社製)により測定した。その結果、25℃におけるイオン伝導度は3.1×10−6S・cm−1であった。
【0053】
以上の結果から、本実施例では、常温溶融塩構造を側鎖に有するポリマーがイオン伝導性ブロックを形成しているブロック共重合体を用い、イオン伝導性ブロックのシリンダー状ドメインが電解質膜の厚さ方向に対して平行に配向してなることで、高いイオン伝導率が得られる高分子電解質膜の作製が可能となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の高分子電解質膜及びその製造方法は、高いイオン伝導率が得られ、高い出力が安定して得られる高分子電解質膜として電気二重層キャパシタやLiイオン二次電池に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の高分子電解質膜の一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明の高分子電解質膜を形成するブロック共重合体の一実施形態を示す構成図である。
【符号の説明】
【0056】
10 高分子電解質膜
11 マトリックスブロック
12 イオン伝導性ブロック
13 シリンダー状ドメイン
21 ブロック共重合体
22 イオン伝導性ブロック
23 マトリックスブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーがイオン伝導性ブロックを形成しているブロック共重合体からなる電解質膜であって、該常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーが形成するシリンダー状ドメインが、電解質膜の厚さ方向と平行に配列してなることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項2】
前記常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーが、その側鎖部分に常温溶融塩構造を有する請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記常温溶融塩がイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩のいずれかである請求項1又は2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記ブロック共重合体中におけるイオン伝導性ブロックの体積分率が5%以上40%以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
常温溶融塩構造を分子構造内に有するポリマーがイオン伝導性ブロックを形成しているブロック共重合体を成膜する工程と、
成膜したブロック共重合体を加熱処理及び外場を印加することによりイオン伝導性ブロックが形成するシリンダー状ドメインを一軸配向させて、電解質膜の厚さ方向と平行に配列したイオン伝導部を形成する工程と、
を有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項6】
前記印加する外場が電場、磁場及びシェアからなる群から選択される請求項5に記載の高分子電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−302783(P2007−302783A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132448(P2006−132448)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】