説明

高含有率デカブロモジフェニルエタンの調製および提供

高含有率反応由来デカプロモジフェニルメタン生成物が生成され、提供される。その工程は、ジフェニルエタンまたは部分臭素化ジフェニルエタン、あるいはその両方を、過量の液体臭素とアルミニウム系ルイス酸臭素化触媒を含む成分から形成した反応混合物の液相の表面下に供給することを含む。工程中の反応混合物の温度、反応混合物中の過量臭素内の触媒濃度、および供給時間を調整し、高含有率反応由来のデカブロモジフェニルエタン生成物を生成する。このような調整の効果的な方法について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高含有率デカブロモジフェニルエタン生成物の調製と提供および利用に関する。
【背景技術】
【0002】
デカブロモジフェニルエタンは、長年にわたりその有効性が実証されている難燃剤であり、熱可塑性物質、熱硬化性樹脂、セルロース系材料、また極めて高品質の裏面塗布用などの数多くの可燃性高分子材料に使用されている。
【0003】
政府規制当局は、部分臭素化酸化ジフェニルにある程度関連する最近の欧州のRoHS(特定有害物質使用制限)指令(2002/95/EC)から明らかなように、部分的に臭素化された類似体の代わりに、過臭素化化合物を勧めはじめている。酸化デカブロモジフェニルはRoHS(2005/717/EC)の対象外であるにしても、本規制では、電気およびエレクトロニクス製品中の酸化ノナブロモジフェニルの許容含有量に関しては明確に示していない。それゆえ、相当量の酸化ノナブロモジフェニルが不純物として含まれている市販の酸化デカブロモジフェニルの使用を不安に感じているエンドユーザーもある。エンドユーザーによる最も厳密なRoHSの解釈に対応するために、高純度の酸化デカブロモジフェニルがアルベマーレ・コーポレーション(Albemarle Corporation)から発売されている。低臭素化不純物が難燃性製品中に少量存在することへの懸念から生じる混乱を考えると、含有率の高い過臭素化難燃剤の市場化が必要である。
【0004】
デカブロモジフェニルエタンは、現在、1,2−ジフェニルエタンを臭素化して得られる粉末状で販売されている。既存の方法の中で、このような臭素化をもたらすのは、米国特許番号6,518,468、6,958,423、6,603,049、6,768,033、および6,974,887に記載されている臭素化法である。デカブロモジフェニルエタンは、本出願の代理人(譲受人)により長年、標準的な方法を用いて市販されてきた。製品の各バッチは、GC法により分析された。4000バッチを超えるデカブロモジフェニルエタン生成物をGC分析した結果、その平均臭素含有量は、97.57面積%(±1.4面積%の3シグマ精度)であった。所定バッチからの生成物の分析により、デカブロモジフェニルエタン分析結果が99面積%以上であったケースもあり、一方、有意に低いGC分析結果を示したケースもあった。このばらつきの原因は、現時点で入手可能な情報からは確定できない。
【0005】
他メーカーにより販売されている市販デカブロモジフェニルエタン生成物のガスクロマトグラフィー分析結果では、99.6面積%という高い分析結果を示したケースがいくつかあった。それ以外のケースでは、市販の商用デカブロモジフェニルエタン生成物のGC分析では、生成物中に含まれるデカブロモジフェニルエタンは他と比較してかなり低い量であった。これらの含有率の高い生成物の製造法や使用した精製法に関する情報は、通常、一般には入手できない。
【0006】
少なくとも環境に配慮した製造技術を提供するという観点からすれば、もし、デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも約99.0GC面積%で、残りのほとんどがノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)から成るデカブロモジフェニルエタン生成物を、商用として利用できる製造方法により一貫した基準で生産できる方法が見出せれば、それは大変望ましいことである。このような生成物を、本明細書および請求範囲において、以下「高含有率デカブロモジフェニルエタン生成物」と称する。さらに、本
高含有率デカブロモジフェニルエタン生成物に対して、請求範囲を含む本明細書では「反応由来」の生成物という用語を使用している。これは、本生成物の組成が、再結晶化、クロマトグラフィー、あるいは本生成物の化学組成に影響を与える方法等の後処理精製法を使用した結果ではなく、反応により決定されることを意味している。反応混合液に、水や水酸化ナトリウムのような塩基水溶液を加えて触媒を不活化し、化学結合していない不純物を水や希釈した塩基水溶液などの水溶性洗浄剤で洗い流す方法も、ここで言う「反応由来」から除外されない。言い換えれば、本生成物は、直接に合成されるものであり、引き続くデカブロモジフェニルエタンからノナブロモジフェニルエタンを取り除く工程を持たない。
【発明の概要】
【0007】
広範囲にわたる研究調査の結果、デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも約99.0GC面積%で、残りのほとんどがノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)から成るデカブロモジフェニルエタン生成物を生成する、商用として実用可能な製造方法を発見した。本発明により生産可能な反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物は、特徴としてBr10DPEと検知できる微量のBrDPEを含むものである。ただし、本発明の製造技術では検知可能なBrDPEを含まない反応由来Br10DPEの生成が可能であるとは考えられない。
【0008】
さらに具体的には、本発明により、高含有率反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物は、(i)ジフェニルエタン(DPE)、(ii)臭素数約2つ未満の部分臭素化ジフェニルエタン(pb−DPE)、あるいは(iii)その両方(i)および(ii)を、過量の液体臭素とアルミニウム系ルイス酸臭素化触媒で構成される成分から形成された反応混合物の液相の表面下に供給する方法により、高含有率反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物を生産するよう、反応混合物の温度、触媒濃度、供給時間を調整して生成する。反応混合物の温度、溶媒濃度、供給時間を適切に調整することにより、高含有率反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物を一貫した基準で生産することが可能である。
【0009】
本発明はまた、本発明中の方法により生成する反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物を提供するものであり、ここで言う反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物とは、デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも99.0GC面積%でノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)が残りのほとんどであるものである。好ましい実施形態では、本発明は、本発明中の方法により生成した、デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも99.5GC面積%でノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)が残りのほとんどである反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物を提供している。より好ましい実施形態では、本発明は、本発明中の方法により生成した、デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも99.7GC面積%でノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)が残りのほとんどである反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物を提供している。
【0010】
本発明の上記およびその他の実施形態、および特徴は、以下の記述および補足の請求範囲からもまた明らかである。
【0011】
反応条件の適切な調節を可能にした本発明のより詳細な説明および基本的特徴
上記の通り、高含有率デカブロモジフェニルエタン生成物の調製を行う目的で、このような生成物の商用生産を可能にするように数種の反応変数を相互に調整した。これらの反応変数の相互関係を理解するために、広範囲にわたる研究調査に基づく本発明で立てた以下の基本的概念を取り入れた。
【0012】
まず第一に、上述の通り、DPEまたはpb−DPE、あるいはその両方を大量の液体
臭素およびアルミニウム系触媒を含む反応混合物に供給して生成したデカブロモジフェニルエタン生成物の分析は、臭素化の割合から管理した。しかしながら、Br10DPEおよびBrDPEの臭素中の溶解度は限られており、単に全て同時に加えて一定時間反応混合物を加温すればよいというわけではない。一旦沈殿すると、臭素化が完了すると考えられるに十分である5−10時間内に、その沈殿物が再溶解する可能性はない。むしろ、臭素は瞬時にBr10DPE内で飽和状態を維持する。さらにDPEまたはpb−DPE、あるいはその両方を追加し、それらが各々BrDPEとBr10DPEに臭素化された瞬間に、液体臭素中がBr10DPEで過飽和状態になり、何らかの物質が沈殿するに違いない。この状態が生じたときに多量のBrDPEが存在すれば、微粒子内にBr10DPEと共に沈殿し、含有率の低い生成物となる。
【0013】
第二に、DPEまたはpb−DPE、あるいはその両方の添加速度を遅くすると、沈殿速度(例えばlポンド/時)は遅くなる。その場合は、BrDPEの臭素化に、より長い時間を使うことができる。このように、DPE添加速度(その他は全て同じ)は、生成物の分析に非常に重大な影響をもたらし、DPEまたはpb−DPE、あるいはその両方の添加速度を遅くするばそれだけ、高い含有率が得られる。しかしながら、DPEまたはpb−DPE、あるいはその両方の添加速度が遅いと、製造施設の生産性は低下する。商業規模プラントでのデカブロモジフェニルエタン生成物の製造効率を最大にするには、DPEまたはpb−DPE、あるいはその両方の添加速度をできるだけ速くする。あえて言うなら約2時間前後が好ましい。低含有率の問題を解決するには、臭素化速度を上げる必要があることが判明した。本発明に基づき、これは以下により行われた。
1)アルミニウム系触媒を添加する。すなわち、より高い濃度のアルミニウム系触媒を反
応混合液に加えてその工程を行う。および/または、
2)反応温度を上げる。もちろんこれには大気圧よりも高い圧力が必要であるが、商業プ
ラントでは大きな問題にはならない。
もし1)あるいは2)のアプローチ法のどちらか一方を選択する際には、触媒費用と生じたアルミニウム塩の除去および廃棄面から、2)のアプローチ法が好ましい。それにもかかわらず、商用に適しており、使用可能であるのは1)のアプローチ法である。実際、商用としての製造に利用でき、より好ましいのは、1)および2)の両アプローチ法を組み合わせて使用し、過量の液状臭素とアルミニウム系触媒から成る反応混合物にDPEまたはpb−DPE、あるいはその両方を供給する際に、商用に適する速度を使用することである。
【0014】
これにより、デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも約99.0GC面積%で、残りのほとんどはノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)であるデカブロモジフェニルエタン生成物を生成する、本発明に準じた条件の組み合わせの例として、以下の適用が挙げられる。
1)臭素化1回にかける供給時間は、少なくとも約2時間。
2)アルミホイル、アルミニウム粉、またはアルミニウムの回転成形やファイリング時に
生じる削りくず等の金属アルミニウム、あるいはハロゲン原子が塩素や臭素のハロゲ
ン化アルミニウム、好ましくは塩化アルミニウムまたは臭化アルミニウムであるいず
れかを、液状臭素を過量に含む反応混合物に添加して得られるアルミニウム系ルイス
酸臭素化触媒として、少なくとも2000ppmのアルミニウムが反応混合物中に存
在する。
3)臭素化総反応時間における反応温度は、すべてではないかもしれないが、ほとんどの
時間で最低60℃。
【0015】
デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも約99.0GC面積%で、残りのほとんどはノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)であるデカブロモジフェニルエタン生成物を生成する、本発明に準じた条件の組み合わせの別例として、以下の
適用が挙げられる。
1)1バッチの臭素化かけるアルミニウム供給時間は、少なくとも約6時間。
2)アルミホイル、アルミニウム粉、またはアルミニウムの回転成形やファイリング時に
生じる切りくず等の金属アルミニウム、あるいはハロゲン原子が塩素、臭素、好まし
くは塩化アルミニウムまたは臭化アルミニウムであるハロゲン化アルミニウムのいず
れかを、液状臭素を過量に含む反応混合物に添加して得られるアルミニウム系ルイス
酸臭素化触媒として、少なくとも700ppmのアルミニウムが反応混合物中に存在
する。
3)臭素化総反応時間における反応温度は、すべてではないかもしれないが、ほとんどの
時間で最低約60℃。
【0016】
前述の反応条件を組み合わせた実例に基づいて、本技術により、デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも約99.0GC面積%で、残りのほとんどはノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)であるデカブロモジフェニルエタン生成物を生成する適切な反応条件の別の組み合わせを作り出すことも可能である。このように、本技術により、この重要で高く望まれる成果をもたらす条件の組み合わせを、数例の実験反応に基づいて、所定のケースで容易に決定できる。例えば、60℃、供給時間2時間、過量の液体臭素中に上記に示されている形でアルミニウムがX ppm充填されている条件でパイロット反応を行っても、望む含有率は得られない。これには前述の例に基づいて、システムの温度、あるいはアルミニウム濃度を上げればよい(いずれの処置でも含有率が上がることが判明している)。
【0017】
本発明の実施形態のさらに詳細な説明
本明細書で使用する用語:
1)「反応由来」とは、本生成物の組成は反応により決定されるものであり、再結晶化、
クロマトグラフィー、あるいは本生成物の化学組成に影響を与える方法等の後処理精
製法を使用した結果ではないことを意味する。反応混合液に、水や水酸化ナトリウム
のような塩基水溶液を加えて触媒を不活化し、化学結合していない不純物を水や希釈
した塩基水溶液などの水溶性洗浄剤で洗い流す方法も、ここで言う「反応由来」から
除外されない。言い換えれば、本生成物は合成工程で直接生成されるものであり、デ
カブロモジフェニルエタン(Br10DPE)からノナブロモジフェニルエタン(B
DPE)を次に取り除く工程はない。
2)特に断らない限り、「高含有率」とは、反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物
の組成が、デカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)が少なくとも約99.0
GC面積%で、残りのほとんどがノナブロモジフェニルエタン(BrDPE)であ
ることを意味する。反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物で望ましいのは、デ
カブロモジフェニルエタン含有量が少なくとも99.5%で、より好ましい反応由来
デカブロモジフェニルエタン生成物は、Br10DPEを少なくとも99.7%含有
するものであり、どちらの場合も、残りのほとんどはノナブロモジフェニルエタン(
BrDPE)から成るものである。
3)「ジフェニルエタン」とは、特に断らない限り1,2−ジフェニルエタンを指す。1
,2−ジフェニルエタンはまた、ジベンジルあるいはビベンジルとも呼ばれている。
「臭素数約2つ未満の、部分臭素化ジフェニルエタン」とは、化合物の臭素原子、こ
れは1または複数のフェニル基の置換基として存在するが、この臭素原子が平均して
2個未満のジフェニルエタンを指す。
4)「表面下」とは、反応混合物の臭素を含む連続液相表面の下側で、供給が行われるこ
とを示す。
【0018】
本発明の各工程において、ジフェニルエタン、または平均臭素数が約2つ未満の部分臭素化ジフェニルエタン、あるいはその両方を、過量の液体臭素と適量のアルミニウム系ル
イス酸臭素化触媒を含む反応混合物に供給する。反応混合物にはまた、ハロゲン化炭化水素などの不活性有機溶媒または希釈液(例えば、ブロモクロロメタン、ジブロモメタン、1,2−ジブロモエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジブロモエタン、トリジブロモメタン等)も含まれている。これらの溶媒や希釈液は、必要に応じて反応中に加えてもよい。
【0019】
ジフェニルエタン、または部分臭素化ジフェニルエタン、あるいはその両方は、様々な形式で供給が可能である。例えば、液体臭素と混合供給したり、前述のように不活性有機溶媒または希釈液に溶解して、あるいは前述のように臭素と、不活性有機溶媒か希釈液のどちらかを混合して供給することができる。また、ジフェニルエタン、または部分臭素化ジフェニルエタン、あるいはその両方は、粒子状固体または融解した状態でも供給が可能である。
【0020】
ルイス酸触媒臭素化反応には、過量の臭素を使用する。通常、反応混合物は、そこに供給されるジフェニルエタンおよび/または部分臭素化ジフェニルエタン1モル当たり少なくとも約14モルの臭素を含む、好ましくは、反応混合物は、そこに供給されるジフェニルエタンおよび/または部分臭素化ジフェニルエタン1モル当たり約16〜25モルの範囲の臭素を含む。ジフェニルエタン1モル当たり25モルを超える臭素を使用することも可能だが、通常これは不必要である。
【0021】
本発明の実際に使用される供給物質は、(i)ジフェニルエタン、(ii)臭素数約2つ未満の部分臭素化ジフェニルエタン、あるいは(iii)その両方(i)および(ii)から成る。ジフェニルエタンと部分臭素化ジフェニルエタンを供給する場合、これらの供給物質は事前に混合して供給できるし、別々のままで同時にまたは続けて供給してもよい。前記混合物あるいは個別の供給物質の成分について、相互の比率はいずれであってもよい。
【0022】
本発明の実施の際には、アルミニウム系ルイス酸臭素化触媒が使用される。反応混合物に入れる触媒成分は、アルミニウムホイル、アルミニウム削りくず、アルミニウムフレーク、アルミニウム粉末、あるいは金属アルミニウムの他の分割形態のような、金属アルミニウムの形態であってもよい。あるいは、反応混合物に入れる触媒成分は、ハロゲン原子が塩素原子、臭素原子、あるいは塩素原子と臭素原子の組み合わせであるアルミニウムハロゲン化物の形態であってもよい。経済面や材料の入手しやすさから、塩化アルミニウムの供給は望ましい。臭化アルミニウムの供給は、塩化アルミニウムよりも液体臭素により溶解しやすいという見地から望ましく、よって液体臭素に沿って反応区域内に供給でき、これが望ましい方法である。使用したアルミニウム系触媒量は、前述の通りである。
【0023】
反応混合物は、もちろん無水、遮光状態で保管する必要がある。臭素化は、バッチで、半連続的、あるいは連続的に実施できる。通常、バッチごとに反応を行う方が、他の実施モードよりも時間をかけて供給し長時間反応させることが可能なため、より簡単である。
【0024】
デカブロモジフェニルエタン生成物が、本発明によるものかそうでないかに関わらず、その組成を判定するGC法は以下の通りである。ガスクロマトグラフィーは、水素炎イオン化検出器、クールオンカラム温度/圧力プログラム制御注入口、および温度プログラミング機能搭載Hewlett−Packard 5890シリーズIIガスクロマトグラフ(またはそれに相当するもの)で実施される。カラムは、12m、フィルム厚0.15μ、直径0.53mmの12QC5 HTSキャピラリーカラム(SGE,Inc.,パーツ番号054657)を使用した。測定条件は、検出器温度350℃;注入口温度70℃;ヘリウムガス搬送速度10mL/分;注入口圧4.0psig(約1.29 x10Pa)、0.25psi/分にて9.0psig(約1.63x10Pa)に上昇さ
せ、測定終了まで9.0psigを保持;オーブン温度60℃、12℃/分で350℃まで加熱し、10分間保持;クールオンカラム注入モードである。試料は、ジブロモメタン10gに0.003mgを加温溶解させて調製し、その溶液の2μLを注入した。ピークの解析(積分)にはスループットシステム社(Thru−Put Systems,Inc.)のターゲット・クロマトグラフィー分析ソフトウェア(Target Chromatography Analysis Software)を使用した。ただし、クロマトグラフィーのピーク解析には、使用に適する他の市販ソフトウェアを利用してもよい。スループットシステム社は、現在、テルモラボシステムズ(Thermo Lab Systems,所在地;5750 Major Blvd.,Suite 200,Orlando,FL 32819)が所有している。SGE社(SGE,Incorporated)の所在地は、2007 Kramer Lane,Austin,TX78758である。
【0025】
解説を目的として、以下に実施例を示した。これらの実施例は、本発明をここで使用した特定の操作法や測定条件に限るものではない。実施例1は、臭素化反応を高温で行う本発明に従って、高含有率反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物を生産する利点を示している。
【0026】

実施例1
使用した反応システムは、熱電対付き熱電対ウエル、機械式攪拌器、内径1/32インチ(約0.08cm)の浸漬管を装備した500−mLジャケット形圧力反応槽(エースグラス(Ace Glass)から入手可能)および0℃冷却器で構成し、0℃冷却器は、外径1/4インチ(約0.64cm)のテフロンポリマー管でテフロンポリマー背圧レギュレータに接続した。この1/4インチテフロンポリマー管に接続した状態で、背圧レギュレータのすぐ前には、圧力計、小さな窒素バージを装着できる場所、耐圧瓶の蒸気空間への接続部をおいた。反応槽は、循環温水で温め、ジャケットを通して望ましい反応温度に調節した。
【0027】
反応槽に、塩化アルミニウム2.06gと臭素920gを入れた。耐圧瓶に、40重量%ジフェニルエタン(DPE)混合ジブロモメタン116gを入れた。臭素にHBrガスを10分間散布した後、2時間放置した。その混合物を加圧下で82.7℃に加熱し、DPE溶液を一定の割合で加え、そのDPE溶液供給開始時を0分とした。以下のデータを記録した。
【表1】

【0028】
71分後に、全DPE液の供給が終了した。反応槽を加圧下で35℃まで冷却したのち通気し、氷水150mLを加えた。反応槽の内容物を蒸留用の1Lのフラスコに移し、水300mLを加え、臭素を100℃まで蒸留した。その混合液を40℃に冷却し、25%水酸化ナトリウム40gを加え、固形物を集めて水で洗浄した。オーブンで乾燥後サンプルを分析したところ、99.3面積%がデカブロモジフェニルエタン(Br10DPE)であった。
【0029】
本発明外の比較例として以下の例を示す。この比較例は、低温度、低濃度触媒の使用、およびジフェニルエタン(DPE)の急速供給の効果を示している。
【0030】
比較例
本例では、実施例1に記載されている通り装備した500−mLジャケット形圧力反応槽(エースグラス(Ace Glass)から入手可能)を使用した。反応槽に、塩化アルミニウム2.1gと臭素925gを入れた。HBrで10psig(1.70x10Pa)に加圧した。耐圧瓶に、40%DPE混合ジブロモメタン116gを入れた。臭素を61.5℃に加温し、DPE溶液の供給を開始し、その供給開始時を0分とした。以下のデータが得られた。
【表2】

【0031】
88分後に、全DPE液の供給が終了した。6分間延長して攪拌し、混合液を部分的に冷却して通気した。反応液を実施例1と同様に詳しく分析したところ、Br10DPEは96.8%で、残りはBrDPEであった。
【0032】
実施例2から4は、高濃度のアルミニウム系ルイス酸臭素化触媒を利用した、高含有率反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物の生産を説明している。また実施例4で、多少低い温度でも高含有率反応由来産物が得られることが示された。
【0033】
実施例2
本例においても、実施例1に記載されている通り装備した500−mLジャケット形圧力反応槽(エースグラス(Ace Glass)から入手可能)を使用した。反応槽に、塩化アルミニウム10.4gと乾燥臭素924gを入れた。これを50℃に加熱しながら10分間無水HBrで散布した。耐圧瓶に、40重量%DPE混合ジブロモメタンを入れた。反応槽を60℃に加熱し、ペリスタポンプを使って液体臭素の液面下に位置する浸漬管からDPE液を供給し、その供給開始時を0分とした。以下のデータを記録した。
【表3】

【0034】
477分後にDPE供給を中止し、その時点までの供給量は95gであった。反応槽を一部冷却、通気し、氷水150mLを加えた。反応槽の内容物を蒸留するために1Lの反応槽セットに移した。さらに水300mLを加え、臭素を100℃まで蒸留した。55℃まで冷却した後、沈殿物を集めて水で洗浄し、125℃のオーブンで乾燥した。GC分析の結果、この反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物のBr10DPE含有率は99.8%であった。
【0035】
実施例3
1Lのモートンフラスコに、加熱マントル、熱電対、機械式攪拌器、直列配置したコンデンサ(0℃設定)2つ、また臭素を混合したDPE液の供給用に、先端開口部内径1/16インチ(約0.16cm)、外径1/4インチ(約0.64cm)の浸漬管を装着した。臭素凝縮物は、水冷式コンデンサと反応槽の間にあるDean−Stark弁を使って回収し、浸漬管内のDPE液の希釈に使用した。ペリスタポンプにより、浸漬管に2回供給した。DPE液を、1/4インチ浸漬管の底部に伸びている外径1/8インチ(約0.32cm)の管に供給し、開口部に達する前に浸漬管内で瞬時に臭素と混ざるように、臭素を環状空間に供給した。反応槽に、AlCl(塩化アルミニウム)10.0gと臭素1039gを入れた。メスシリンダーにジブロモメタンに溶解した40%DPE液を82mL(125g)注いだ。反応槽を還流させ、同時に臭素とDPE液の供給を開始した。DPE液を、毎分約0.7mLの速さで供給した。臭素は、毎分15−21mLの速度で供給した。以下のデータが得られた。
【表4】

【0036】
混合物は5分間延長して還流させ、35℃に冷却し、水450mLを加えた。反応槽を蒸留用にセットし、臭素を100℃まで蒸留した。混合物を40℃に冷却し、回収した固体を水で十分洗浄した後、オーブンで乾燥した。GC分析の結果、Br10DPEは99.8%、残りはBrDPEであった。
【0037】
実施例4
1Lのモートンフラスコは、熱電対ウェル、加熱マントル、機械式攪拌器、内径1/32インチ(約0.08cm)浸漬管、フリードリッヒコンデンサ(Friedrichs
condenser)付きを使用し、塩化アルミニウム10g、臭素982gで充填した。メスシリンダーにジブロモメタンに溶解した40%DPE液を82mL(125g)注いだ。DPE液を浸漬管からペリスタポンプで供給した。以下のデータが得られた。
【表5】

【0038】
116分後に、全DPE液の供給が終了した。供給ラインは、ジブロモメタン2mLを加えて洗浄した。混合物を還流して4分間で63℃に加熱した後冷却し、水450mLを加え臭素を100℃まで蒸留した。混合物を冷却し、固体を回収して水で十分洗浄した。
サンプル分析の結果、Br10DPEは99.16%、残りはBrDPEであった。
【0039】
実施例2、3、および4で使用した塩化アルミニウム触媒量は、臭素1,000,000に対しアルミニウム2276、1947、2060に相当する量であった。
【0040】
本明細書で特定した反応変数の調整の概念をより理解しやすくする目的で、「調整する」、または「調整した」という用語は、それらの変数が総合して特定の目的を達成するように、適切な順に、あるいは特定した反応変数の組み合わせで実施する、または実施したことを示す。これらの用語を別の見方で見ると、これらの用語は、変数間の共通の、または相互的な、あるいは規則的な関係によって、1つのあるいは複数の特定の目的を達成する、適切な変数の組み合わせを指す。
【0041】
本発明により生成された高含有率反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物(以下、「本発明の生成物」と称する)は、本質的にいかなる可燃材料の製剤において、難燃剤として使用可能である。例えば、セルロース系材料やポリマー等の高分子物質でもよい。例示ポリマー類は、架橋しているかその他のオレフィンポリマー類、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のホモポリマー;前記アルケンモノマー類の2種以上のコポリマー類、および前記アルケンモノマーの1種以上と他の共重合性モノマー類からなるコポリマー、例えば、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/アクリル酸エチルのコポリマー類およびエチレン/プロピレンコポリマー類、エチレン/アクリレートコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー;オレフィン系不飽和のモノマー、例えば、高衝撃ポリスチレンやスチレンコポリマーのポリスチレン、ポリウレタン;ポリアミド類;ポリイミド類;ポリカーボネート;ポリエーテル;アクリル樹脂;ポリエステル類、特にポリ(エチレンテレフタレート)およびポリ(ブチレンテレフタレート);ポリ塩化ビニル;熱硬化性物質、例えばエポキシ樹脂;エラストマー、例えばブタジエン/スチレンコポリマーやブタジエン/アクリロニトリルコポリマー;アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレンのテルポリマー;天然ゴム;ブチルゴムおよびポリシロキサンである。ポリマーは化学的な方法あるいは照射によって、適切な部位で架橋されてもよい。本発明の生成物は、ラテックス系裏面塗布剤のような繊維製品への用途にも使うことができる。
【0042】
製剤に使用する本発明の生成物の量は、求められる難燃性を得るために必要な量である。一般的に、前記製剤化により得られる製品には、本発明の製品の約1〜約30wt%、好ましくは、約5〜約25wt%含まれる。本発明の生成物を含有するポリマーのマスターバッチは、基質ポリマーをさらに追加して混ぜ合わせてあり、通常、より高い濃度、例えば、50重量%以上の高濃度で本発明の生成物を含んでいる。
【0043】
本発明の生成物をアンチモン系相乗剤、例えばSbと併用することは有利である。前記使用は、従来からデカブロモジフェニルエタン用途すべてに実施されている。一般的に、本発明の生成物は、アンチモン系相乗剤と重量比約1:1〜7:1、好ましくは約2:1〜約4:1で併用されことになる。
【0044】
熱可塑性製剤に使われる数種の従来型添加剤はいずれも、各々の従来量で、本発明の製品、例えば、可塑剤、抗酸化剤、充填剤、染料、UV安定剤等と併用してもよい。
【0045】
熱可塑性ポリマーと本発明の製品を含む製剤から形成される熱可塑性製品は、従来法、例えば射出成形、押出成形、圧縮成形などで生成することができる。吹込み成形も、特定の場合には適切であることもある。
【0046】
本明細書や本請求範囲中に化学名または化学式で示されている成分は、単数または複数表示に関係なく、化学名または化学式で示されている別の物質(例えば、別の成分、溶媒
またはその他。)と接触する前にその存在が特定される。最終混合物または混合液中で、もし化学変化、変質あるいは反応が起こっても、そのような変化、変質または反応は、本開示に従う要件の条件下で特定している成分が自然に結合したためであり、それは重要ではない。このように、前記成分は、望ましい処置を行うことと関連して、または、望ましい組成を形成する際に結合した成分として特定される。また、以下請求範囲では、現在形で物質、成分および/または原料を参照している(「を含む」、「である」など)ことがあるが、本開示に従う1つあるいは複数の他の物質、成分および/または原料と最初に接触、ブレンド、あるいは混合する直前の時点で、それらが存在しているので、参照しているのは、前記物質、成分および/または原料のこととなる。本開示に従って、および通常の技術を有する科学者によって実施された場合、物質、成分、または原料が、接触、ブレンド、混合中に化学反応または変換により独自の特性を失ったかもしれないという事実は、それ故、実際には懸念するに足らない。
【0047】
特に断らない限り、本明細書で使用する冠詞「a(1つの)」あるいは「an(1つの)」は、本明細書で使用される時、請求項をその冠詞が言及する単一要素に限定するものでなく、限定されると解釈すべきでもない。むしろ、むしろ、冠詞「a」または「an」は、もし本明細書で使用される時、特に断らない限り、1つまたは複数の前記要素に及ぶものとする。
【0048】
本明細書のいかなる部分で引用している各およびすべての特許または刊行物は、本明細書にあたかも完全に記載されているかのように、引用文献にすべて組み込まれている。
【0049】
本発明は、かなり変更して実施することが許される。それ故、前述の説明は、本発明を上述した特定の例示に限るものでもなく、限定されると解釈すべきでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ジフェニルエタン、(ii)臭素数約2つ未満の部分臭素化ジフェニルエタン、あるいは、(iii)その両方(i)および(ii)を、過量の液体臭素とアルミニウム系ルイス酸臭素化触媒で構成される成分から形成した反応混合物の液相の表面下に供給する方法で、反応混合物の温度、反応混合物中の過量臭素内の触媒濃度、供給時間を調整して高含有率反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物を生成する、高含有率反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物の調製工程。
【請求項2】
請求項1に記載の工程において、少なくとも臭素を液状で維持できるよう、バッチごとに約2時間から4時間の範囲で時間を追加し、十分な圧力下で反応物を最低60℃の温度に保って実施する工程。
【請求項3】
請求項1に記載の工程において、少なくとも臭素を液状で維持できるよう、バッチごとに約4時間から6時間の範囲で時間を追加し、十分な圧力下で反応物を最低60℃の温度に保って実施する工程。
【請求項4】
請求項1に記載の工程において、(i)バッチごとに約2時間から4時間の範囲で時間を追加して;(ii)少なくとも臭素を液状で維持できるよう、十分な圧力下で反応物を最低60℃の温度に保ち;(iii)反応混合物中に、少なくともアルミニウム2000ppmに相当する量のアルミニウム系ルイス酸臭素化触媒を使用して実施する工程。
【請求項5】
請求項1に記載の工程において、(i)バッチごとに少なくとも約6時間追加して;(ii)少なくとも臭素を液状で維持できるよう、十分な圧力下で反応物を最低60℃の温度に保ち;(iii)反応混合物中に、少なくともアルミニウム700ppmに相当する量のアルミニウム系ルイス酸臭素化触媒を使用して実施する工程。
【請求項6】
請求項1に記載の工程において、前記反応混合物を生じるとする前記アルミニウム系ルイス酸臭素化触媒がは、アルミニウム臭素である。
【請求項7】
請求項1に記載の工程において、上記の反応混合物を生じるとする上記のアルミニウム系ルイス酸臭素化触媒は塩化アルミニウムである。
【請求項8】
請求項1−請求項7のいずれかの方法により生成される、デカブロモジフェニルエタンが少なくとも約99.0GC面積%で、残りのほとんどはノナブロモジフェニルエタンから成る反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物。
【請求項9】
請求項1−請求項7のいずれかの方法により生成される、デカブロモジフェニルエタンが少なくとも約99.5GC面積%で、残りのほとんどはノナブロモジフェニルエタンから成る反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物。
【請求項10】
請求項1−請求項7のいずれかの方法により生成される、デカブロモジフェニルエタンが少なくとも約99.7GC面積%で、残りのほとんどはノナブロモジフェニルエタンから成る反応由来デカブロモジフェニルエタン生成物。

【公表番号】特表2010−521455(P2010−521455A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553566(P2009−553566)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/076177
【国際公開番号】WO2008/115260
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(594066006)アルベマール・コーポレーシヨン (155)
【Fターム(参考)】