説明

高周波加熱装置

【課題】誘導加熱時に加熱導体と被加熱物とを所定間隔に保つスペーサの摩耗が、所定以上進んだことを検出することができる高周波加熱装置を提供することである。
【解決手段】被加熱物4を高周波誘導加熱する際に、高周波電流が供給される加熱導体7と被加熱物4とを所定間隔に保つスペーサ21〜23を備え、スペーサ21〜23を被加熱物に押圧することにより加熱導体7と被加熱物4の間隔を所定間隔に保つ高周波加熱装置10であって、スペーサ21〜23は、加熱導体7の被加熱物4と対向する部位よりも被加熱物配置側に突出する突出部30を有しており、前記突出部30の所定位置にセンサ32aを設け、前記センサ32aは被加熱物4が前記所定位置に達したことを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物の周囲を一様に誘導加熱するために、高周波電流が供給される加熱導体から被加熱物までの距離を一定に保つスペーサの摩耗を検出することができる高周波加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料からなる機械部品は、強度(耐摩耗性や耐疲労性)を確保するために焼入れが行われる。例えば、特許文献1には、クランクシャフト等の被加熱物(ワーク)を焼入れすることができる誘導加熱コイル体の発明が開示されている。特許文献1の誘導加熱コイル体は、焼入れ対象となるワークと近接する加熱コイル(加熱導体)に高周波電流を供給し、ワーク上に高周波の誘導電流を生じさせ、この誘導電流による発熱を利用してワークを焼き入れするものである。
【0003】
特許文献1の誘導加熱コイル体では、高周波電流が供給される加熱コイルとワークの間隔を一定に保つために、スペーサが設けられている。このスペーサは、加熱コイル側に設置されており、加熱コイルよりも所定長さだけワーク側に突出するように設置されている。
【0004】
そして、クランクシャフトのピン部の周面等の、ワークを回転(自転)させた際に軸回りに公転移動する部位の周面を誘導加熱する場合において、当該部位(ピン部)から加熱コイルまでの距離を一定に保つためには、加熱コイルを公転移動する当該部位(ピン部)に追従させ、さらに当該部位(ピン部)にスペーサを当接させた状態を維持する手法が有効である。
【0005】
加熱コイル側に設置されたスペーサをワークに当接させた状態を維持すると、ワークの表面に励起される高周波誘導電流が増減せず、回転するワークの周面を均一の焼入れ深さで良好に焼入れすることができる。
【0006】
また、特許文献1の発明を実施すると、スペーサを支持する支持体が変形することによるスペーサの位置の変動を阻止し、加熱コイルとワークの間隔を一定に保つことができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3623924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示されている誘導加熱コイル体は、加熱コイルからワークまでの距離(ギャップ)を一定に保つことを目的として本件出願人が創案したが、誘導加熱時にスペーサと回転するワークが常に当接しているので、スペーサはやがて摩耗する。そして、スペーサの摩耗がある程度進むと、加熱コイルとワークの間隔が狭くなるため、ワークに励起される誘導電流が増大する。その結果、大量生産される個々のワークの焼入れの品質にばらつきが生じてしまう。
【0009】
そこで本発明は、誘導加熱時に加熱導体と被加熱物とを所定間隔に保つスペーサの摩耗が、所定以上進んだことを検出することができる高周波加熱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、被加熱物を高周波誘導加熱する際に、被加熱物と高周波電流が供給される加熱導体とを所定間隔に保つスペーサを備え、前記スペーサを被加熱物に押圧することにより加熱導体と被加熱物の間隔を所定間隔に保つ高周波加熱装置であって、前記スペーサは、加熱導体の被加熱物と対向する部位よりも被加熱物配置側に突出する突出部を有しており、前記突出部の所定位置にセンサを設け、前記センサは被加熱物が前記所定位置に達したことを検出することを特徴とする高周波加熱装置である。
【0011】
請求項1の発明では、スペーサは突出部を有している。この突出部が加熱導体の被加熱物と対向する部位よりも被加熱物配置側に突出する。その結果、加熱導体が被加熱物に接近するとスペーサの突出部が被加熱物に当接し、加熱導体が被加熱物と所定の距離を隔てて配置される。高周波電流が供給される加熱導体に対して、大量の被加熱物が順に入れ替わり誘導加熱されると、スペーサはやがて摩耗し、加熱導体から被加熱物までの距離が短くなり、次第に被加熱物の焼入れ品質に悪影響を及ぼす恐れが出てくる。しかし、請求項1の発明では、スペーサの突出部の所定位置にセンサを設け、当該センサによってスペーサの摩耗が所定位置まで達したことを検出することができる。これにより、被加熱物の焼入れ品質に悪影響を及ぼす手前でスペーサのメンテナンスを実施することが可能になる。ここで、センサとは、被加熱物に接触する検出部を意図している。
【0012】
請求項2の発明は、前記スペーサは不導体で形成されており、前記センサは電気回路を備えており、前記電気回路を構成する導体の端部が、スペーサの突出部の所定位置に設置されており、前記導体の端部が被加熱物に接触した際に電気回路が通電することを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置である。
【0013】
請求項2の発明では、スペーサは不導体で形成されており、センサは電気回路を備えており、電気回路を構成する導体の端部がスペーサの突出部の所定位置に設置されているので、スペーサが摩耗するとやがて導体の端部が被加熱物に接触する。そして、その結果電気回路が通電するので、この電気回路の通電を検出することにより、スペーサの所定量の摩耗を検出することができる。請求項2の発明においては、センサの検出部は導体の端部である。
【0014】
請求項3の発明は、被加熱物を高周波誘導加熱する際に、被加熱物と高周波電流が供給される加熱導体とを所定間隔に保つスペーサを備え、前記スペーサを被加熱物に押圧することにより加熱導体と被加熱物の間隔を所定間隔に保つ高周波加熱装置であって、前記スペーサは、加熱導体の被加熱物と対向する部位よりも被加熱物配置側に突出する突出部を有しており、前記スペーサ内に大気圧と相違する気圧の空気室が設けてあり、前記空気室の内壁の一部が、突出部の所定位置に配置されており、前記空気室内の気圧の変化を検出する気圧検出手段を備えたことを特徴とする高周波加熱装置である。
【0015】
請求項3の発明では、スペーサ内に大気圧と相違する気圧の空気室が設けてあり、空気室の内壁が、スペーサの突出部の突出方向の所定位置に配置されているので、スペーサの摩耗が進み、空気室の内壁に達すると、空気室の外部と空気室との間で気体の出入りが生じる。その結果、空気室内の気圧が変化する。例えば、空気室内の気圧が大気圧よりも高く設定されていると、空気室内の気体が流出し、空気室内の気圧が下がる。そして、気圧検出手段によって空気室の気圧の変化を検出することにより、スペーサの摩耗が所定量に達したことを検出することができる。請求項3の発明においては、センサの検出部は、密閉された空気室の内壁の一部である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高周波加熱装置は、スペーサの摩耗が所定量に達したことを検出することができるので、被加熱物の焼入れ品質に悪影響を及ぼす手前でスペーサのメンテナンスを実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】高周波加熱装置の系統図である。
【図2】高周波加熱装置に備えた加熱コイル体の斜視図である。
【図3】図2の加熱コイル体のスペーサ設置部分の部分断面図である。
【図4】(a)は、図3に示すスペーサの斜視図であり、(b)は、(a)のスペーサの変形例を示す斜視図である。
【図5】図3のスペーサの一部を断面視した正面図であり、(a)はスペーサ内に導線を配置した状態を示しており、(b)はスペーサ内に空気室を形成した状態を示しており、(c)は(b)においてスペーサの摩耗が空気室に達した状態を示している。
【図6】図5(a)のスペーサを加熱コイル体に設けた場合における、スペーサの摩耗を検出する際の概念図であり、(a)は摩耗していないスペーサが被加熱物に当接している状態を示しており、(b)はスペーサが摩耗して導線の先端に被加熱物が接触している状態を示している。
【図7】摩耗検出センサから警報装置に至る信号系統図である。
【図8】(a)は図3〜図5とは別のスペーサの平面図であり、(b)は(a)のスペーサの正面図であり、(c)は(a)のA−A断面図である。
【図9】(a),(b)は、図8(c)に示す形態のスペーサの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の高周波加熱装置を説明する。
図1に示すように高周波加熱装置10は、高周波電源1,変圧器2,加熱コイル体3とを有している。高周波電源1は、交流電源と高周波発信器を備えている。すなわち、高周波電源1は、交流電源の交流を高周波発信器で高周波化して出力するものである。
【0019】
変圧器2は、1次側巻き線2aと2次側巻き線2bとを有している。1次側巻き線2aは高周波電源1に接続されている。また、2次側巻き線2bは、1次側巻き線2aと対向配置されており、両端に出力端子9a,9bが設置されている。そして、1次側巻き線2aに高周波電流が供給されると、2次側巻き線2bには変圧された高周波電流が励起される。
【0020】
次に、加熱コイル体3(図2)は、一対のリード部5a,5bと、加熱コイル部7と、入力端子8a,8bと、冷却液噴射装置13(冷却ジャケット)と、支持板6a,6bとを有している。
【0021】
一対のリード部5a,5bと加熱コイル部7は、1本の中空の良導体である加熱導体で構成されている。すなわち、加熱導体の両端部分が一対のリード部5a,5bを構成しており、加熱導体の途中の部分が加熱コイル部7を構成している。リード部5a,5bは、各々入力端子8a,8bと接続されている。また、リード部5a,5bは、加熱コイル部7と連続している。加熱コイル部7は、被加熱物4(ワーク)に対向する部位であり、適宜湾曲及び屈曲されて、いわゆる半開放鞍型と称される形態を呈している。そして、中空の加熱導体(リード部5a,5b,加熱コイル部7)の内部には、図示しない冷却水供給源から冷却水が循環供給される。
【0022】
入力端子8a,8bは、個々に変圧器2側の出力端子9a,9bと通電可能に接続されている。すなわち、入力端子8a、8bを介して加熱コイル部7には高周波電流が供給される。
【0023】
また、加熱コイル体3には、加熱コイル部7の下方に2つの冷却液噴射装置13が対向して設けられている。両冷却液噴射装置13は、間に被加熱物4を通過させることができるように間隔を置いて対向配置されている。各冷却液噴射装置13には、図示しない冷却液供給源から冷却液を導く配管14が接続されている。そして冷却液噴射装置13には、冷却液を噴射する噴射ノズル15が多数設けられている。すなわち、冷却液噴射装置13には配管14を介して冷却液が供給され、噴射ノズル15から被加熱物4に向けて冷却液が噴射される。
【0024】
図2に示すように、加熱コイル体3の両側には支持板6a,6bが配置されている。支持板6a,6bは、大きさ及び形状が同じである。支持板6a,6bの上部は、入力端子8a,8bと共に共通のボルト・ナット11,12で貫通されて固定されている。また、支持板6a,6bの下部は、冷却液噴射装置13を挟持して図示しないボルト・ナットで固定されている。
【0025】
すなわち支持板6a,6bの間隔は、入力端子8a,8bと冷却液噴射装置13とを挟持してボルト・ナットで固定することにより、一定に保たれている。支持板6a,6bには、下方から加熱コイル部7に被加熱物4を接近させることができるように、切り欠き部19が形成されている。切り欠き部19によって、加熱コイル部7は支持板6a、6bで覆われておらず、外部に露出している。
そして、図2に示すように、切り欠き部19の入り口である開口20から被加熱物4を侵入させ、被加熱物4を加熱コイル部7に近接させることができる。
【0026】
また、リード部5a,5bを流れる高周波電流が支持板6a,6bに流れないように、支持板6a,6bとリード部5a,5bの間には絶縁体が介在している。例えば、リード部5a,5bの支持板6a,6bが近接する部位に絶縁テープが巻いてある。
【0027】
さらに支持板6a,6bの切り欠き部19の近傍には、3つのスペーサ固定位置F1,F2,F3が設けてある。スペーサ固定位置F1は、支持板6a,6bの中央に配置されており、下方(被加熱物4設置側)に突出する形状を呈している。スペーサ固定位置F2は、支持板6a,6bにおける加熱コイル部7の下方に位置する部位に配置されている。また、スペーサ固定位置F3は、スペーサ固定位置F2と反対側に配置されている。そして、スペーサ固定位置F1,F2,F3は、略同一円周上に配置されている。
【0028】
スペーサ固定位置F1には孔16a,16bが設けてあり、スペーサ固定位置F2には孔17a,17bが設けてあり、スペーサ固定位置F3には孔18a,18bが設けてある。孔16a,16b,17a,17b,18a,18bは、各々スペーサ21〜23を固定するためのねじ(皿ボルト26a等)を貫通させる孔である。
【0029】
スペーサ固定位置F1,F2,F3には、各々スペーサ21,22,23が固定される。以下、本発明の特徴的な構成を有するスペーサについて詳述する。各スペーサ21,22,23は同様な構成を有しており、スペーサ21の構成を中心に説明する。
【0030】
図3,図4(a)に示すようにスペーサ21は、セラミックス等の剛性を有する不導体であって、細長い直方体形状を呈している。スペーサ21の長手方向の二箇所には貫通孔24,25が設けられている。貫通孔24,25は、支持板6a,6bのスペーサ固定位置F1の孔16a,16bに対応する位置に設けられている。スペーサ21の下面は、被加熱物4と当接する当接部28を構成する。
【0031】
スペーサ21には、長手方向に延びる有底の穴31が設けてある。穴31は、図4(a)で見てスペーサ21の上部に開口しており下方に延びているが、下部(当接部28)には達していない。穴31の底部31aから当接部28(下面)までの距離L2は、穴31の底の厚さに相当している。
【0032】
この穴31の内部には、摩耗検出センサ32の検出部32aが配置される。検出部32aは、穴31の底部31aに達している。よって、検出部32aからスペーサ21の当接部28までは距離L2だけ離れているので、スペーサ21の摩耗が距離L2(所定量)に達すると、摩耗検出センサ32は直ちにこれを検出する。摩耗検出センサ32の具体的な構成については、後述する。
【0033】
スペーサ21は、次のようにして加熱コイル体3に装着される。
すなわち、図3に示すように2つのスペーサ21を背中合わせに配置し、一方を支持板6aに密着させ、他方を支持板6bに密着させた状態で貫通孔24,25を孔16a,16bに位置合わせする。さらに両スペーサ21の間にディスタンスピース29を配置する。そしてボルト26a,26b(皿ボルト)が、支持板6a,2つのスペーサ21,ディスタンスピース29,支持板6bを貫通し、皿ナット27a,27bと螺合して、2つのスペーサ21が加熱コイル体3に固定される。
【0034】
スペーサ21が支持板6a,6b(加熱コイル体3)に固定されると、スペーサ21と加熱コイル部7の位置関係が固定される。すなわち図3に示すように、スペーサ21は符号7aで示す加熱コイル部7の下面よりも下方(被加熱物設置側)に長さL1だけ突出する。このスペーサ21の長さL1に相当する部位は突出部30を構成している。よって、被加熱物4に加熱コイル体3を接近させると、スペーサ21の当接部28(下面)が被加熱物4に当接し、加熱コイル部7の下面7aと被加熱物4の表面とは距離L1だけ離間する。
【0035】
スペーサ21と同様に、スペーサ22,23も支持板6a,6bのスペーサ固定位置F2,F3に固定される。その際、スペーサ21〜23の各当接部28が、被加熱物4の外周(半径)よりも若干大きい円周上に配置される。その結果、被加熱物4は、支持板6a,6bの切り欠き部19に円滑に侵入することができる。そして、被加熱物4は、中央のスペーサ21と当接すると共に、側方のスペーサ22又は23のいずれか一方とも当接する。
【0036】
次に、摩耗検出センサ32について説明する。
摩耗検出センサ32は、例えば電気式を採用することができる。すなわち図6(a)に示すように、検出部32aを導線で構成し、導線32aを含む電気回路32(摩耗検出センサ)を形成する。図6(a)に示す例では、電気回路32は、直流電源33,電流計34,配線35,導線32a(検出部)を備えている。
【0037】
配線35の途中には電流計34が設けられている。また、配線35の一端はアースされており、他端は直流電源33の負極に接続されている。直流電源33の正極は、抵抗を介して導線32aと接続されている。また、被加熱物4は、実質的にアースされており、電位はゼロであると考えられる。
【0038】
摩耗が進んでいないスペーサ21の当接部28が被加熱物4に当接しても、導線32aの端部と被加熱物4とは電気的に接続されない。そのため、電気回路32には電流(直流)は流れない。ところが、多数の被加熱物4を順次取り替えて誘導加熱するうちに、スペーサ21は次第に摩耗する。そして導線32aの端部と被加熱物4の距離が縮まり、図6(b)に示すように、やがてスペーサ21の穴31の底部31aが破損し、導線32aの端部が被加熱物4に接触する。
【0039】
その結果、電気回路32には電流(直流電源33による直流)が流れる。電流計34はこの電流を検出し、摩耗検出センサ32は制御装置38(図7)に電流の検出信号を送信する。制御装置38は、検出信号を受信すると警報装置37へ信号を発し、警報を発して作業者に知らせる。作業者は、警報を認識すると高周波加熱装置10を停止させ、スペーサ21のメンテナンスを実施する。
【0040】
電気回路32は図6(a)に示したものに限らず、任意に構成可能である。すなわち、導線32aと被加熱物4が接触して生じた電流(直流)を検出することができれば、どのような回路であっても差し支えない。
【0041】
また、摩耗検出センサ32として、電気回路以外の構成を採用することもできる。具体的には、図5(b)に示すように、スペーサ21の穴31の上部の開口を封鎖し、穴31の内部を密室(空気室45)にする。また、この空気室45内に気体を封入し、空気室45内を大気圧よりも高圧にする。そして、空気室45内の空気圧を検出する圧力センサ39(気圧検出手段)を設ける。すなわち、空気室45と圧力センサ39とで摩耗検出センサを構成する。
【0042】
図7に示すように圧力センサ39は、無線又は有線で検出信号を送受信するセンサ部40とレシーバ41とで構成されている。センサ部40は、空気室45内の圧力の変化を検出し、検出信号をレシーバ41へ送信する。検出信号は、さらにレシーバ41を介して制御装置38へ送信される。配線を省略するため、センサ部40及びレシーバ41は共に電池駆動が可能なものを採用するのが好ましい。
【0043】
図5(b)では、スペーサ21の空気室45の上部の開口が、気密保持部材42で封鎖されている。気密保持部材42にはセンサ部40が貫通しており、気密保持部材42が空気室45の開口を封鎖すると、センサ部40の一部が空気室45内に配置される。
【0044】
図5(b)に示す状態からスペーサ21の摩耗が進み、図5(c)に示すように摩耗量が長さL2に達すると、空気室45の底部31a(空気室45の内壁)が破損し、空気室45内の高圧の気体が空気室45の外部へ流出する。その結果、空気室45内の圧力が下がる。すなわち、空気室45内の圧力が低くなると、スペーサ21の摩耗量が長さL2に達したことになる。よって、圧力センサ39が空気室45内の圧力の変化(減圧)を検出し、検出信号が制御装置38に送信されると、制御装置38はスペーサ21の摩耗量が所定量L2に達したと判定し、警報装置37を点滅、鳴動させる等によって作業者に異常を報知する。作業者は、スペーサ21の摩耗が進んだことを認識し、スペーサ21のメンテナンス(取り替え等)を行う。作業者は、スペーサ21を取り替える際に、スペーサ22,23の状態も同時に確認するのが好ましい。
【0045】
空気室45内の気圧の変化はセンサ部40によって検出されるが、空気室45内の気圧の変化は、空気室45の内壁の一部である底部31aに孔が空く(すなわち破損する)ことによって生じる。よって、センサ部40と密閉された空気室45の底部31aとは一体のものであり、底部31aの破損が空気室45内の気圧変化の切っ掛けとなるので、底部31aが摩耗検出センサの検出部であるとも言える。
【0046】
また、空気室45内を大気圧よりも低圧に設定してもよい。すなわち、空気室45内が大気圧よりも低圧であると、底部31aが破損すると、外部から空気室45内に空気が流入し、空気室45内の気圧が上がる。この気圧の変化を圧力センサ39が検出することにより、スペーサ21が所定量摩耗したことを検出することができる。
【0047】
被加熱物4がクランクシャフトであり、誘導加熱部位がピン部の場合には、誘導加熱時にクランクシャフトを回転させると、ピン部は軸回りに公転移動する。よって、スペーサ21〜23をピン部に押し付けた状態を維持することにより、加熱コイル体3の加熱コイル部7(加熱導体)とピン部の間隔を一定に保つことができ、ピン部の周囲を均一な焼入れ深さで焼入れすることができる。ここで、側方のスペーサ22,23は、ピン部の公転移動中にピン部から離れることがあるが、中央のスペーサ21は必ずピン部に当接している。その結果、図2に示すスペーサ21〜23のうち、中央に配置されるスペーサ21の摩耗が最も進み易い。従って、スペーサ21のメンテナンス周期を、スペーサ22,23のメンテナンス周期よりも短くする必要がある。よって、中央のスペーサ21には摩耗検出センサ32を必ず設ける。
【0048】
摩耗検出センサ32として、電気回路を採用する場合には、導線32a(検出部)を配置する穴31は、当接部28側に貫通する孔であってもよい。すなわち、導線32aの先端(下端)は、図5(a)に示すように当接部28から距離L2の位置に配置すれば、穴31が当接部28側に貫通していても、スペーサ21の摩耗が距離L2に達するまでは被加熱物4と導線32aとが接触せず、通電しない。よって、スペーサ21の摩耗を何ら支障なく検出できる。
【0049】
また、スペーサ21に穴31を設ける代わりに、スペーサ21の側壁に溝43を形成し、溝43内に導線32a(検出部)を配置することも可能である。すなわち、図4(b)に示すように、スペーサ21の長手方向に延びる溝43を、スペーサ21の側壁に設ける。図4(b)では、溝43は当接部28に達していないが、溝43を当接部28に達するように形成してもよい。この場合においても、導線32aの先端(下端)は、当接部28から距離L2の位置に配置する。
【0050】
図3に示すように、2つのスペーサ21を背中合わせに配置して使用し、被加熱物4は両スペーサに均等に当接するので、摩耗の進行も同程度である。よって、摩耗検出センサは、少なくともいずれか一方のスペーサ21に設ければよい。側方に配置するスペーサ22,23に摩耗検出センサを設ける場合においても、事情はスペーサ21と同様である。
【0051】
また、図8(a)〜(c)に示すように、スペーサ21に溝43と傾斜孔44とを設け、溝43と傾斜孔44に沿って導線32aを配置することもできる。溝43は、スペーサ21の側壁21bの、図8(b)で見て上下方向に形成されている。また、傾斜孔44は、溝43の溝底43aからスペーサ21の当接部28(下面)にかけて貫通する孔である。そして、導線32aは屈曲部46を形成し、屈曲部46よりも下方の部分が傾斜孔44内に配置される。導線32aの先端部47は、スペーサ21の当接部28(下面)から距離L2を隔てた位置に配置されている。また、導線32aの先端部47は、スペーサ21の幅Wの中央付近に配置されている。
【0052】
スペーサ21の当接部28(下面)のうち、中央部分が最も被加熱物4に当接し易く、従って、中央部分が最も摩耗し易い。よって、導線32aを、当接部28(下面)から距離L2の位置であって、スペーサ21の幅Wの中央部分に配置すると、スペーサ21の摩耗の進行を最も適切に検出することができるようになる。
【0053】
また、図8(c)に示す傾斜孔44の代わりに、図9(a)に示す水平方向の孔48を設けてもよい。孔48は、溝43からスペーサ21の幅W方向に貫通する孔である。孔48の内壁の最下部は、スペーサ21の当接部28(下面)から距離L2のところに形成されている。そして、導線32aが屈曲部50で屈曲して先端部47が孔48内に配置される。先端部47は、スペーサ21の幅W方向の中央領域に達しているか、又は図9(a)に示すように中央領域を越えている。
【0054】
さらに、孔48の代わりに、図9(b)に示すスペーサ21の幅W方向の中央部分に至る穴49を採用することもできる。図9(a),図9(b)のいずれの孔48,穴49においても、導線32a(先端部47)は、スペーサ21の幅W方向の中央領域に至っている。
【符号の説明】
【0055】
1 高周波電源
2 変圧器
3 加熱コイル体
4 被加熱物(ワーク)
5 中空の導体(加熱導体)
6a,6b 支持板
7 加熱コイル部
10 高周波加熱装置
21〜23 スペーサ
30 突出部
32 電気回路(摩耗検出センサ)
37 警報装置
38 制御装置
39 圧力センサ(気圧検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を高周波誘導加熱する際に、高周波電流が供給される加熱導体と被加熱物とを所定間隔に保つスペーサを備え、前記スペーサを被加熱物に押圧することにより加熱導体と被加熱物の間隔を所定間隔に保つ高周波加熱装置であって、
前記スペーサは、加熱導体の被加熱物と対向する部位よりも被加熱物配置側に突出する突出部を有しており、
前記突出部の所定位置にセンサを設け、前記センサは被加熱物が前記所定位置に達したことを検出することを特徴とする高周波加熱装置。
【請求項2】
前記スペーサは不導体で形成されており、前記センサは電気回路を備えており、前記電気回路を構成する導体の端部が、スペーサの突出部の所定位置に設置されており、前記導体の端部が被加熱物に接触した際に電気回路が通電することを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
被加熱物を高周波誘導加熱する際に、高周波電流が供給される加熱導体と被加熱物とを所定間隔に保つスペーサを備え、前記スペーサを被加熱物に押圧することにより加熱導体と被加熱物の間隔を所定間隔に保つ高周波加熱装置であって、
前記スペーサは、加熱導体の被加熱物と対向する部位よりも被加熱物配置側に突出する突出部を有しており、
前記スペーサ内に大気圧と相違する気圧の空気室が設けてあり、前記空気室の内壁の一部が、突出部の所定位置に配置されており、前記空気室内の気圧の変化を検出する気圧検出手段を備えたことを特徴とする高周波加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−97318(P2012−97318A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245475(P2010−245475)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】