説明

高周波増幅回路

【課題】高周波増幅回路において、LC共振を用いずにピーキングをかけること。
【解決手段】高周波増幅回路は、1段目にトランジスタTr1を用いたエミッタ接地増幅回路、2段目にダーリントン接続のトランジスタTr2、Tr3を用いたエミッタ接地回路の2段増幅の構成となっている。トランジスタTr1のエミッタとトランジスタTr2のコレクタとの間には容量素子が挿入されている。容量素子は、ダイオード接続のトランジスタTr4であり、トランジスタTr4のエミッタはトランジスタTr2のコレクタに、トランジスタTr4のベースおよびコレクタはトランジスタTr1のエミッタに接続されている。ダイオード接続のトランジスタTr4によって位相をずらしてフィードバックすることにより、高域での利得を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーキングによって高周波利得が改善された高周波増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
増幅回路において高周波帯域の利得を改善する方法として、LC共振を利用したピーキング回路を設ける方法が知られている。たとえば、初段のトランジスタのエミッタと次段のトランジスタのベース間にインダクタを挿入し、このインダクタと次段のトランジスタのエミッタ容量とで直列共振回路を構成するものである。また、初段のトランジスタのエミッタと電源との間に直列にインダクタを挿入し、このインダクタと次段のトランジスタのエミッタ容量とで並列共振回路を構成するものもある。これらはいずれも高くないQ値の共振器を利用する回路である。
【0003】
特許文献1にもLC共振を用いたピーキング回路が記載されており、抵抗を可変とすることでピーキングの量をコントロールできるようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−121962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回路をICで形成する際、インダクタはスパイラルインダクタ、キャパシタはMIMキャパシタが多く用いられる。しかし、スパイラルインダクタは面積が大きく、MIMキャパシタは小さいため、LC共振によるピーキング回路をICで実現する際に回路のレイアウトが難しいという問題があった。
【0006】
また、高周波回路では、負荷がLC共振として機能するため、周波数によって負荷インピーダンスが変化し、広い範囲でマッチングすることを困難にしていた。
【0007】
そこで本発明の目的は、LC共振を用いずに高周波帯域での利得が向上された高周波増幅回路を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、エミッタ/ソースが第1抵抗を介して接地され、コレクタ/ドレインが第2抵抗を介して電源に接続され、ベース/ゲートに入力された高周波信号を増幅してコレクタ/ドレインから出力する第1トランジスタと、ベース/ゲートが第1トランジスタのコレクタ/ドレインに接続され、エミッタ/ソースが第3抵抗を介して接地され、コレクタ/ドレインがインダクタを介して電源に接続され、高周波信号をコレクタ/ドレインから出力する第2トランジスタと、第1トランジスタのエミッタ/ソースと第2トランジスタのコレクタ/ドレインとの間に挿入された容量素子と、を有することを特徴とする高周波増幅回路である。
【0009】
容量素子には、MIMキャパシタなど従来より知られる任意の素子を用いることができるが、第1トランジスタのエミッタ/ソースと第2トランジスタのコレクタ/ドレインとの間の電位差を利用して、逆バイアスのダイオードを用いるのが簡便で望ましい。特に、ダイオード接続のトランジスタを用いると、非常に微小な容量を簡易に実現することができて望ましい。準ミリ波帯やミリ波帯の高周波信号において高域にピーキングをかけるためには、そのような微小な容量が必要となる。
【0010】
第1、第2トランジスタは、npn型のバイポーラトランジスタでもよいし、nチャネルの電界効果トランジスタ(FET)であってもよい。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、容量素子は、アノードを第1トランジスタのエミッタ/ソースに、カソードを第2トランジスタのコレクタ/ドレインに接続されたダイオードである、ことを特徴とする高周波増幅回路である。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、ダイオードは、ダイオード接続のトランジスタであることを特徴とする高周波増幅回路である。
【0013】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、高周波信号は、準ミリ波帯またはミリ波帯であることを特徴とする高周波増幅回路である。
【0014】
準ミリ波帯は10〜30GHz、ミリ波帯は30〜100GHzである。
【0015】
第5の発明は、第4の発明において、高周波信号は、24〜26GHzであることを特徴とする高周波増幅回路である。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明の高周波増幅回路では、従来のようなLC共振を用いずに、フィードバックによってピーキングがかかるようにしている。つまり、第1トランジスタのエミッタ/ソースと、第2トランジスタのコレクタ/ドレインとの間を容量素子を介して接続し、この容量素子によって、第2トランジスタの出力の位相を完全に正帰還または負帰還とならないようにコントロールして、第1トランジスタのエミッタにフィードバックさせることにより、高域での利得を向上させている。本発明の高周波増幅回路は、インダクタを用いずにピーキングを実現しているため、小型のIC化が容易であり、また、広い周波数帯域でのマッチングが容易である。
【0017】
また、第2の発明のように、第1トランジスタのエミッタ/ソースと、第2トランジスタのコレクタ/ドレインとの間の電位差を利用して、ダイオードを逆バイアスに接続して容量素子として用いることができる。
【0018】
また、第3の発明のように、ダイオードとして、ダイオード接続のトランジスタを用いると、微小な容量を簡便に実現することができる。
【0019】
また、第4の発明のように、本発明の高周波増幅回路は準ミリ波帯やミリ波帯の信号、特に24〜26GHzの信号を増幅する増幅回路において有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の高周波増幅回路の構成を示した回路図。
【図2】利得周波数特性を示したグラフ。
【図3】反射特性を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
図1は、実施例1の高周波増幅回路の構成を示した回路図である。高周波増幅回路は、npn型のバイポーラトランジスタであるトランジスタTr1、Tr2、Tr3を有している。トランジスタTr2とトランジスタTr3は、コレクタがそれぞれ接続され、トランジスタTr2のエミッタとトランジスタTr3のベースが接続されたダーリントン接続となっている。高周波増幅回路は、1段目にトランジスタTr1を用いたエミッタ接地増幅回路、2段目にトランジスタTr2、Tr3を用いたエミッタ接地回路の2段増幅の構成となっている。トランジスタTr1は、本発明の第1トランジスタに相当し、トランジスタTr2、3は、本発明の第2トランジスタに相当している。
【0023】
トランジスタTr1のコレクタは、コレクタ抵抗Rc1を介して電源端子Vccに接続されている。また、トランジスタTr1のベースは、マッチング回路10を介して高周波信号の入力端子Vinに接続されている。また、トランジスタTr1のエミッタは、エミッタ抵抗Re1を介してグランドに接続されている。
【0024】
トランジスタTr2のベースは、コレクタ抵抗Rc1とトランジスタTr1のエミッタとの間の線路に接続されている。また、トランジスタTr2のエミッタは、エミッタ抵抗Re2を介してグランドに接続されている。また、トランジスタTr2、Tr3のコレクタは、インダクタLを介して電源端子Vccに接続されている。また、インダクタLとトランジスタTr3のエミッタとの間の線路には、出力端子Voutが接続されている。トランジスタTr3のエミッタは、ダイオード接続のトランジスタTr5を介してグランドに接続されている。また、ダイオード接続のトランジスタTr5に並列にキャパシタCが接続されている。
【0025】
トランジスタTr1のベースとトランジスタTr3のエミッタは、帰還抵抗Rfを介して接続されている。このフィードバックによってトランジスタTr1をバイアスするとともに、入力インピーダンスを下げる働きをしている。
【0026】
トランジスタTr1のエミッタとトランジスタTr2のコレクタは、ダイオード接続のトランジスタTr4を介して接続されている。トランジスタTr4のエミッタはトランジスタTr2のコレクタに接続され、トランジスタTr4のベースとコレクタはトランジスタTr1のエミッタに接続されている。トランジスタTr1のエミッタの電位は、トランジスタTr2のコレクタの電位よりも低いため、ダイオード接続のトランジスタTr4には逆バイアスがかかり、容量素子として動作する。
【0027】
この高周波増幅回路では、トランジスタTr2のコレクタからの出力の一部を、ダイオード接続のトランジスタTr4の容量によって、完全に正帰還または負帰還とならないように位相をずらし、トランジスタTr1のエミッタにフィードバックさせている。これにより、高域での利得を向上させている。
【0028】
図2は、実施例1の高周波増幅回路の利得周波数特性を示したグラフである。実施例1の高周波増幅回路において、ダイオード接続のトランジスタTr4による容量を、0.005pFとした場合と、0.01pFとした場合についての利得周波数特性を示している。また、比較例として、ダイオード接続のトランジスタTr4を設けなかった場合についても示している。図2を見ると、ダイオード接続のトランジスタTr4を設けなかった比較例の高周波増幅回路では、23GHzあたりから利得が減少し始めていることがわかる。これに対し、ダイオード接続のトランジスタTr4による容量を0.005pFとした実施例1の高周波増幅回路では、24GHzあたりまではなだらかに利得が上昇し、24〜26GHzではほぼ一定の利得となり、26GHzを越えると利得が減少し始める特性となっている。また、ダイオード接続のトランジスタTr4による容量を0.01pFとした実施例1の高周波増幅回路では、26GHzあたりまで利得が上昇した後、27GHzあたりまでほぼ一定の利得となり、27GHzを越えると利得が減少し始める特性となっている。
【0029】
この図2のように、第1トランジスタTr1のエミッタと第2トランジスタTr2のコレクタとの間にダイオード接続のトランジスタTr4を設けたことで、高域にピーキングをかけることができ、高域での利得が向上していることがわかる。
【0030】
高周波増幅回路を、24〜26GHzを利用する準ミリ波レーダ用アンプとして使用する場合、24〜26GHzにおいて平坦な周波数特性が望ましい。ダイオード接続のトランジスタTr4を設けない比較例の高周波増幅回路では、24〜26GHzにおいて利得が減少する周波数特性となっているのに対し、容量0.005pFのダイオード接続のトランジスタTr4を設けた実施例1の高周波増幅回路では、24〜26GHzにおいてほぼ平坦な周波数特性を示している。したがって、容量0.005pFのダイオード接続のトランジスタTr4を設けた実施例1の高周波増幅回路のほうが、比較例の高周波増幅回路よりも、24〜26GHzを利用する準ミリ波レーダ用アンプとして適しているといえる。
【0031】
図3は、高周波増幅回路の出力側の反射特性を示したグラフである。ダイオード接続のトランジスタTr4による容量を、0.005pFとした場合と、0.01pFとした場合の双方において、S22は20〜30GHzで−10dB以下であり、実施例1の高周波増幅回路は広帯域にわたってマッチング可能であることがわかる。
【0032】
なお、実施例1では、トランジスタTr1のエミッタとトランジスタTr2のコレクタとを接続する容量素子として、ダイオード接続のトランジスタTr4を逆バイアスに接続して用いているが、ダイオードを逆バイアスにして用いてもよい。また、MIMキャパシタなどの他の容量素子を用いてもよい。しかし、準ミリ波帯やミリ波帯の信号をピーキングするには微小な容量が必要となり、MIMキャパシタでこれを実現することは難しいため、ダイオード、特にダイオード接続のトランジスタを逆バイアスに接続して用いるのが望ましい。
【0033】
また、実施例1では、トランジスタTr1〜Tr3としてnpn型のバイポーラトランジスタを用いているが、FETを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、準ミリ波帯やミリ波帯の信号を増幅する高周波増幅回路に有効である。
【符号の説明】
【0035】
Tr1〜Tr5:トランジスタ
Rc1:コレクタ抵抗
Re1、Re2:エミッタ抵抗
Rf:帰還抵抗
C:キャパシタ
L:インダクタ
10:マッチング回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッタ/ソースが第1抵抗を介して接地され、コレクタ/ドレインが第2抵抗を介して電源に接続され、ベース/ゲートに入力された高周波信号を増幅してコレクタ/ドレインから出力する第1トランジスタと、
ベース/ゲートが前記第1トランジスタのコレクタ/ドレインに接続され、エミッタ/ソースが第3抵抗を介して接地され、コレクタ/ドレインがインダクタを介して電源に接続され、前記高周波信号をコレクタ/ドレインから出力する第2トランジスタと、
前記第1トランジスタのエミッタ/ソースと前記第2トランジスタのコレクタ/ドレインとの間に挿入された容量素子と、
を有することを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項2】
前記容量素子は、アノードを前記第1トランジスタのエミッタ/ソースに、カソードを前記第2トランジスタのコレクタ/ドレインに接続されたダイオードである、ことを特徴とする請求項1に記載の高周波増幅回路。
【請求項3】
前記ダイオードは、ダイオード接続トランジスタである、ことを特徴とする請求項2に記載の高周波増幅回路。
【請求項4】
前記高周波信号は、準ミリ波帯またはミリ波帯であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の高周波増幅回路。
【請求項5】
前記高周波信号は、24〜26GHzであることを特徴とする請求項4に記載の高周波増幅回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−155380(P2011−155380A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14488(P2010−14488)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】