説明

高周波数における超音波造影剤の非線形撮像のための方法

本発明は、高周波数(約15MHz)で、例えば、線形アレイトランスデューサを用いて、生体組織内の微小気泡造影剤から非線形基本波信号および分数調波信号を検出するように、交流位相および/または振幅の複数の超音波パルス発射を使用する。組織内の非線形超音波伝搬により、コントラスト対組織比(CTR)が超音波周波数の増加に伴って減少することを示すことができる。しかしながら、低い周波数で使用される従来の第2高調波よりもむしろ、非線形基本波信号に加えて分数調波信号を使用することは、かなり高い信号強度をもたらし、非線形組織伝搬の制限を克服する。加えて、本方法は、20MHzを超える、ある所望の周波数において、分数調波周波数帯域の帯域通過フィルタ処理との組み合わせで、純粋に交互の位相インバージョンの取得を切り替える能力を提供し、周波数が増加する際のCTRの損失を最小限化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する参照
本願は、2009年4月17日に出願された米国仮出願第61/170,451号の利益を主張し、この仮出願が本明細書において参照により援用される。
【0002】
発明の背景
本発明は、非線形超音波撮像の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
微小循環における血流のパターンを把握することは、正常組織と病理組織との間の差異を評価するために、非常に有効な手段となる。微小循環における血流の可視化および定量化に加えて、微小気泡を細胞受容体に対して標的化し、超音波を用いてそれらを検出することは、ヒト疾患の小動物モデルの分子状態について貴重な洞察を得ることができる。微小気泡造影剤は、超音波撮像において、パワーおよびカラードップラー撮像の感度を超える、周辺組織に関する血流の可視化を向上する手段として使用されてきた。これらのミクロンサイズの粒子(約1μm〜10μm、ほぼ赤血球の大きさ)は、脂質シェルで取り囲まれたガスコアから構成され、かつ循環系にきっかり分時拍出量で注入される。
【0004】
標準の高周波数(≧15MHz)のBモード(グレースケール)画像では、入射超音波からの、それらの高いエコー輝度によって微小気泡を可視化することができる。後処理アルゴリズムを用いて、気泡からのこれらの強化されたエコーは、組織から分割することができる。しかしながら、この方法の不利な点は、多くの事例において、組織からの超音波エコーが気泡に対して同程度の大きさを有し、それにより微小気泡と周辺組織との間のコントラストが良好ではないというところにある。この結果は、後処理を経ても、気泡の可視化を困難なものにする。加えて、高周波数の小動物撮像用に使用される単一素子トランスデューサは、一般に固定焦点および狭い被写界深度を有する。これらの特性は、深度の機能としての音圧に大きなばらつきをもたらす可能性があり、結果として気泡の励起および検出に大きなばらつきをもたらし、これは固定焦点以外の画像品質を低下させる。また、単一素子トランスデューサは機械的に走査されなければならず、これはリアルタイムのフレームレートを保ちながら複数のパルス発射を単一の画像の線下に送信する能力を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
線形アレイ技術の最近の進歩により、従来の超音波撮像の周波数は、15MHz〜70MHzの範囲に押し上げられた。これらの周波数での、血流の可視化の向上が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、超音波デバイス、および微小気泡造影剤に対する向上された感度をもたらす方法を提供する。本発明は、伝送超音波パルスを使用し、これは非線形分数調波周波数の検出を可能にする。ある特定の実施形態において、一連のパルスは、非線形基本波および分数調波周波数の同時検出を可能にする。
【0007】
本発明は、後処理以外の方法を通じて、周辺組織由来の信号を除去する。後処理技術の除外はまた、造影剤の可視化をリアルタイムで生じさせることを可能にする。
【0008】
一局面において、本発明は、偏移された位相もしくはスケーリングされた振幅を有する複数の超音波パルス、または両方を被検体に伝送して、微小気泡造影剤によって生成された分数調波信号を検出することによる、非線形超音波撮像のための方法を特徴とする。位相の偏移、すなわちインバージョンが使用される場合、方法はさらに、分数調波信号を検出するが、非線形基本波信号を検出しない、帯域通過フィルタ処理を含むことができる。例えば、2:1の比率の振幅のスケーリングが使用される場合、方法はさらに、微小気泡造影剤によって発生する非線形基本波信号を検出することを含むことができる。帯域通過フィルタ処理はまた、このプロセスでも使用することができる。好ましい方法は、被検体における組織からの線形基本波信号、および/または微小気泡造影剤によって発生する第2高調波信号を検出しない。
【0009】
微小気泡造影剤は、被検体に事前に投与することができ、または本方法の一部として投与することができる。
【0010】
伝送超音波の例示的な中心周波数は、15MHz〜70MHzである。ある特定の実施形態では、伝送される超音波は、組織中の深度とともに200〜500kPaの間で伝送圧力を維持するように、4以上の伝送f値の使用によって、または非標準伝送遅延プロファイルの使用によって、焦点を外される。
【0011】
被検体からのエコーの検出は、直交サンプリングを含むことができ、例えば、
【0012】
【数1】

の形態であり、ここで、nは離散時間変数であり、Tは、サンプリング周期であり、δ(t)は、デルタ関数であり、gは、被検体からの受信された超音波信号であり、gQ2およびgI2は、それぞれ、この信号の直交サンプリングされた部分および同相サンプリングされた部分であり、90度位相がずれている。
【0013】
本方法は、撮像される被検体の脈管系または器官の中の微小気泡造影剤を撮像するように、使用することができる。例示的な被検体は、実験動物である。
【0014】
本方法は、さらに、被検体の線形超音波画像を取得することを含み、被検体の線形および非線形画像は、互いに重複または隣接して表示され得る。
【0015】
関連する局面において、本発明は、アレイ超音波トランスデューサと、偏移された位相もしくはスケーリングされた振幅を有する複数の超音波パルス、または両方を生成することが可能な伝送ビームフォーマと、複数のパルスから反射した超音波信号を受信することが可能な受信ビームフォーマと、分数調波か非線形基本波信号かを判別するように複数のパルスを組み合わせることが可能な受信フィルタと、分数調波または非線形基本波信号から超音波画像を生成することが可能なプロセッサとを含む、超音波システムを特徴とする。
【0016】
本システムはまた、受信された超音波信号を直交サンプリングすることが可能であり、サンプリングは、
【0017】
【数2】

の形態であり、ここで、nは離散時間変数であり、Tは、サンプリング周期であり、δ(t)は、デルタ関数であり、gは、被検体からの受信された超音波信号であり、gQ2およびgI2は、それぞれ、この信号の直交サンプリングされた部分および同相サンプリングされた部分であり、サンプル信号を生成するように、90度位相がずれている。別の実施形態では、本システムは、分数調波および/または非線形基本波信号の検出のための帯域通過フィルタを含む。
【0018】
本発明はまた、被検体から反射した超音波信号を取得して、プロセッサを使用して超音波信号上で直交サンプリングを行うことによる、超音波信号の直交サンプリングのための方法を特徴とし、ここで直交サンプリングは、
【0019】
【数3】

の形態であり、ここで、nは離散時間変数であり、Tは、サンプリング周期であり、δ(t)は、デルタ関数であり、gは、被検体からの受信された超音波信号であり、gQ2およびgI2は、それぞれ、この信号の直交サンプリングされた部分および同相サンプリングされた部分であり、サンプル信号を生成するように、90度位相がずれている。この方法はさらに、サンプリングされた信号から超音波画像を生成することと、超音波画像を表示することとを含むことができる。
【0020】
好ましくは、本発明は、線形アレイトランスデューサを使用するが、機械的な走査を伴わない(例えば、環状アレイのように)、他のタイプのアレイトランスデューサを使用することもできる(例えば、位相、曲線位相、または二次元)。線形アレイトランスデューサを使用することによって、超音波場の被写界深度は変化し得、リアルタイムの多重パルス法を用いて、造影剤の最適化された励起および非線形検出を可能にする。加えて、線形アレイは、単一の画像の線下の複数のパルス発射を用いて造影剤を撮像する能力を提供し、高いフレームレート(>30Hz)での多重パルス信号処理および平均化を可能にする。
【0021】
他の特徴および利点が、以下の説明および特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、超音波を使用する、組織の撮像の例示的な方法のための、機能ブロックの概略図である。
【図2A】図2A〜2Dは、パルスシーケンスならびに、組織および微小気泡の反応を示す概略図である。図2Aは、位相がインバージョンされた2つのパルスに対する組織の反応を示す。図2Bは、位相がインバージョンされた2つのパルスに対する微小気泡造影剤の反応を示す。図2Cは、異なる振幅を有する2つのパルスに対する組織の反応を示す。図2Dは、異なる振幅を有する2つのパルスに対する微小気泡の反応を示す。
【図2B】図2A〜2Dは、パルスシーケンスならびに、組織および微小気泡の反応を示す概略図である。図2Aは、位相がインバージョンされた2つのパルスに対する組織の反応を示す。図2Bは、位相がインバージョンされた2つのパルスに対する微小気泡造影剤の反応を示す。図2Cは、異なる振幅を有する2つのパルスに対する組織の反応を示す。図2Dは、異なる振幅を有する2つのパルスに対する微小気泡の反応を示す。
【図2C】図2A〜2Dは、パルスシーケンスならびに、組織および微小気泡の反応を示す概略図である。図2Aは、位相がインバージョンされた2つのパルスに対する組織の反応を示す。図2Bは、位相がインバージョンされた2つのパルスに対する微小気泡造影剤の反応を示す。図2Cは、異なる振幅を有する2つのパルスに対する組織の反応を示す。図2Dは、異なる振幅を有する2つのパルスに対する微小気泡の反応を示す。
【図2D】図2A〜2Dは、パルスシーケンスならびに、組織および微小気泡の反応を示す概略図である。図2Aは、位相がインバージョンされた2つのパルスに対する組織の反応を示す。図2Bは、位相がインバージョンされた2つのパルスに対する微小気泡造影剤の反応を示す。図2Cは、異なる振幅を有する2つのパルスに対する組織の反応を示す。図2Dは、異なる振幅を有する2つのパルスに対する微小気泡の反応を示す。
【図3】図3は、21MHzの線形アレイの4つの代表的な素子に対する、二方向トランスデューサの応答を示すグラフである。
【図4】図4は、気泡および組織の両方に対する、24MHzのインビトロの位相インバージョンおよび振幅のスケーリングの周波数スペクトルを示すグラフである。
【図5】図5は、24MHzのインビトロのコントラスト対組織比(「CTR」)を示すグラフである。
【図6】図6は、マウスの腎臓の一連の超音波画像である。左側の画像は線形Bモード画像であり、右側の画像は、振幅のスケーリングを用いて取得された非線形画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、新規性のある超音波デバイスおよび微小気泡造影剤の感度を向上させるための方法を提供する。
【0024】
分数調波エコーは、微小気泡からの非線形散乱を通じて発生するが、組織からは発生しないという、一意の特性を有する。一般に、低い周波数の造影剤撮像の方法は、単独で、または非線形基本波信号に加えて、第2高調波での非線形エネルギーを利用する(米国特許第5,577,505号および第6,319,203号)。この方法は、2つの主な理由により、あまり望ましくない。第一に、比較的低いメカニカルインデックス(MI)撮像のためであっても、第2高調波での非線形組織信号の量は、高周波でかなり多くなる(Goertzら“High frequency nonlinear B−Scan imaging of microbubble contrast agents”、IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Cont 2005;52:65−79)。この結果は、組織における非線形伝搬の周波数依存性を示唆する(Hamiltonら、“Nonlinear acoustics:theory and applications”、Academic Press,1998)。2つ目の理由は、超音波の減衰が、周波数の関数として増加するため、高周波数での第2高調波は、低い周波数の場合に比べて、より周波数依存減衰を受けることとなる。
【0025】
したがって、本発明は、第2高調波の代わりに分数調波エネルギーを利用する。Goertzら(上記を参照)は、高周波の分数調波撮像は可能であると論証したが、この取り組みには、アナログフィルタ処理の方法が使用されており、アナログフィルタ処理の方法は、周波数で重複する線形および非線形信号成分を分離する能力を制限する。多重パルス撮像を使用する構想は、重複する線形および非線形周波数成分を分離する能力を有し、結果として、より大きな信号帯域幅をもたらす。交互一連の、位相が偏移された(すなわち、インバージョンされた)パルスもしくは振幅がスケーリングされたパルス(1から4の間の因数によって)のいずれか、または両方を送信し、受信されたエコーに信号処理を適用することによって、微小気泡からの非線形分数調波エネルギーは、非線形基本波エネルギーに加えて、高い伝送周波数(例えば、15MHz以上)において検出することができる。
【0026】
技術説明
図1は、本発明のための機能ブロック図を示す。本発明は、好ましくは、平均直径が1〜3μmの間であり、フッ化炭素のガスコアを含み、かつ脂質シェルでカプセル化された微小気泡造影剤を使用する。他の微小気泡造影剤は、本明細書において説明される。この微小気泡は、高周波数超音波によって励起されるとき、非線形応答をもたらす。
【0027】
非線形撮像は、機械的な走査を必要としない、あらゆるアレイトランスデューサ(例えば、線形、位相、曲線位相、または二次元)を使用して行うことができる。
【0028】
超音波撮像システムは、多くの異なる方向または超音波ビームに沿ってパルスエネルギーを伝送することができ、それにより、被検体の、体を渡る横方向および体内への軸方向距離の両方に関して診断情報を受け取ることができる。この情報は、二次元の「bスキャン」画像として表示することができる。そのような二次元の提示は、体を貫通する平面視、すなわち「スライス」をもたらし、体内の多くの機構および特徴の、位置および相対配向を表す。さらに、全身にわたって超音波センサを傾斜または移動させることによって、三次元を走査して、経時的に表示することができ、それにより、三次元情報を提供することができる。あるいは、超音波応答は、「mスキャン」画像の形で提示することができ、ここで特定のビーム方向に沿った超音波エコーは、時間に対する軸方向距離である2本の軸を伴って、経時的に連続して提示される。したがって、mスキャン表示は、心臓弁等の高速で運動する構造の診断を可能にする。いくつかの超音波システムは、同じ表示内で、bスキャンとmスキャンの両方を組み合わせることができる。
【0029】
他の超音波撮像システムは、bスキャン、mスキャンおよびドップラー画像表示を含む、複数の超音波情報を、EKG信号および/または表音文字等の、他の情報と共に、同時に提示することが出来る。
【0030】
超音波は、伝送されるとすぐに、被検体の組織および造影剤と相互に作用する。超音波は被検体内の構造に反射して、造影剤によって非線形的に散乱する。被検体および造影剤との相互作用によってもたらされるエコーは、超音波撮像システムに戻る。超音波が受信された後、それは画像を形成するように処理される。
【0031】
他の超音波撮像システムは、bスキャン、mスキャンおよびドップラー画像表示を含む、複数の超音波情報を、EKG信号、血圧、呼吸および/または表音文字等の、他の情報と共に、同時に提示することが出来る。画像の取得は、ECG信号を使用して、タイムレジスタまたはタイムトリガとすることができる。代替として、または追加として、画像の取得は、呼吸波形を使用して、ゲートまたはトリガされてもよい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態は、線形アレイベースの超音波撮像システムを使用する。そのようなシステムの1つは、15〜70MHzの範囲で線形アレイを駆動することが可能な、64チャネルの高周波ビームフォーマ(Fosterら“A New 15−50 MHz Array−Based Micro−Ultrasound Scanner for Preclinical Imaging”、Ultrasound Med Biol. 2009;35: 1700− 1708;米国特許出願公開第2007/0239001号;およびPCT出願第WO2010/033867)を含む。そのようなシステムの別の実施例は、30MHz、64素子、74ミクロンピッチの、線形アレイ設計(Lukacsら、“Performance and characterization of new micromachined high−frequency linear arrays”、IEEE Trans Ultrason Ferroelec Freq Contr 2006;53:1719−1729)を含む。そのようなシステムのさらなる別の実施例は、高周波の1−3PZT高分子複合材料を使用する、256素子の高周波(40MHz)線形アレイ(Brownら、“Fabrication and performance of a 40−MHz linear array based on a 1−3 composite with geometric elevation focusing”、IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Cont 2007;54:1888−1894)である。
【0033】
線形アレイは、微小気泡造影剤の励起および検出のための臨界パラメータとなる、向上された被写界深度の利点をもたらす。加えて、線形アレイは、単一の画像の線下の複数のパルス発射を用いて造影剤を撮像する能力を提供し、高いフレームレート(>30Hz)での多重パルス信号処理および平均化を可能にする。撮像フレームレートは、パルス発射の増加に伴い減少するが、単一の線下の複数のパルス発射の数は、最少の2つから、8までまたはそれ以上である。
【0034】
(a)高周波線形アレイ
好ましい高周波線形アレイは、最低256素子を有し、少なくとも70%の近似的な2方向帯域幅を伴い、少なくとも15MHzの中心周波数を有する。図3は、21MHzアレイ(MS−250、VisualSonics)の、4つの代表的な素子に対する2方向トランスデューサ応答の周波数プロットである。
【0035】
(b)送受信電子装置
高周波送信器は好ましくは、例えば、およそ3〜40ボルトピークの範囲で、アレイ素子を励起するための方形波パルス列を生成する。Vevo2100イメージングシステム上では、送信器は2つの電圧源、VP1およびVP2を使用する。これらの電圧は、VP2<=VP1の制限付きで、任意の値に設定することができる。特に振幅のスケーリングの事例では、2つの電圧源が必要であり、位相インバージョンはVP1のみを使用する。VevoTM2100上の送信電子装置の特定の実装形態を用いると、供給電圧VP1およびVP2は、必ずしもトランスデューサ素子を最終的に励起する電圧であるとは限らない。素子を励起する電圧は、送信電子装置における電圧降下により、通常、供給電圧よりもわずかに(0.5〜1V)低い。しかし、トランスデューサ素子を最終的に励起する電圧は、撮像被検体内への伝送のために、音圧に変換されることとなる。これらの音圧の比率は、異なる振幅の伝送から受信されたエコーが適切に補正および取り消しされ得るような比率として知られている。取り消し処理の適用後の任意の残留信号は、造影剤信号とされる。
【0036】
供給電圧を変更し、かつ実電圧V1およびV2を測定することによって、所与のアレイ素子全体にわたって、線形関係を観測することができる。線形回帰を行うことによって、以下の方程式を得ることができる。
V1=A1・VP1+B
および
V2=A2・VP2+B
ここで、A、A、B、およびBは、線形回帰から得た係数である。βtransmit=V1/V2に設定して、上記の2つの方程式系をVP2について解くことによって、以下の経験的関係を表すことができる。
【0037】
【数4】

ここで、βtransmitは、VP1/VP2間の期待比率である。βtransmitの値は、あらかじめ定められ、供給電圧は、伝送回路における任意の電圧降下エラーを考慮して設定され、それにより、トランスデューサ素子に付与される実電圧の比率は、βtransmitの所定の比率を満たす。通常、振幅のスケーリングを行うときは、βtransmit=2である。βtransmit=2であるとき、標準値は、A=1.351、A=1.305、Bi=0.085、B=−1.205であり、実際のVP2は、設定済みのVP1に基づいて算出することができる。あるいは、処理後に基本波周波数帯域において最も低い組織クラッタのレベルをもたらすように、係数を選択することもできる。
【0038】
他の個別の超音波システムのための位相偏移または振幅のスケーリングの方法は、使用者に公知である。
【0039】
受信電子装置は、低い電子雑音を維持しながら、およそミリボルトの小さな受信信号を検出する。
【0040】
(c)高周波ビームフォーミング
ビームフォーマは、例えば、線形アレイの、最大64素子上で一斉に、かつ個別のチャネル上の可変遅延を伴って、超音波信号を伝送および受信する、組み合わせたプロセスを提供する。さらに、超音波エコーを受け取ると、ビームフォーミングは、個々のチャネルのデジタルサンプリングプロセスおよび総和を含む。
【0041】
アレイの個々の素子(チャネル)間の数およびタイミングを変化させる能力は、本発明の好ましい実施形態について、主要な要素である。伝送超音波ビームの焦点をぼかすことによって(例えば、高いf値を使用して、ここで、f値は開口サイズに対する焦点深度の比率として定義され、または、全ての素子が同じ深度に焦点を合わせない、非標準的な遅延プロファイルを使用することによって)、より一貫性のある伝送圧力(例えば、200kPa〜500kPa)を、組織の深度と共に維持することができ、全ての微小気泡が同様に反応することを確実にし、したがって造影剤に対する感度を最大限に高める。焦点をぼかすことは、所与の深度のための伝送ビームを生成するように、より少ない素子の数を使用することによって達成することができる。限られた事例において、単一の素子のみが伝送のために使用され、ビームは、単一の素子の回折限界に基づく点に対して焦点を外され得る。通常この事例は適用されないが、それは少ない数の素子を使用することの効果を示す。非標準的な遅延プロファイルは、異なる深度において焦点を作り出す開口部内の、素子のサブグループを使用することによって達成され得る。全体的効果は、素子のサブグループによって作り出された、重複したビームである、伝送ビームであり得る。伝送圧力は、トランスデューサ素子を励起するために使用される伝送電圧と正比例する。VevoTM2100では、最低伝送電圧は3Vであり、これは、伝送焦点および路程の減衰の場所によっては、500kPaを超える伝送圧力に対応することができる。伝送ビームに対して高いf値を使用することによって、一旦、伝送電圧の下限に到達されると、伝送圧力はさらに低減され得、これは組織の非線形性を最小限化する。伝送圧力の低減および被写界深度の向上の目的のために使用される、典型的な伝送f値は、4から16である。このf値は、伝送ビームにおける方位分解能の喪失をもたらすが、このほとんどは、ビームフォーマの受信部分で受信ビームの焦点が合った状態を動的に保つことによって取り戻される。撮像システムの方位分解能は、伝送および受信の両方の関数となり得る。個々のチャネル上で、総和の前の超音波エコーの受信の間、開口サイズおよび信号の遅延を動的に変化させることによって、受信ビームフォーミングのプロセスは、受信超音波ビームを、画像深度全体にわたって焦点の合った状態に保つことができる。システムの全体的な2方向の分解能は、伝送ビームおよび受信ビームの関数であるため、それは、より小さいビーム幅、この事例では受信ビームによって支配されることとなる。
【0042】
本発明はまた、現在の直交サンプリング技術の帯域幅を倍増する、新規のベースバンド直交サンプリングスキームを利用する。このスキームは、造影剤からの高調波成分(すなわち、分数調波)、ならびに広帯域の基本波信号の検出を可能にする。このスキームはまた、組織からの不要な第2高調波信号は適切にサンプリングされて、エイリアシングを通じて被検体の周波数範囲内に折り返さないことを確実にする。サンプリングプロセスは、0からfの範囲のスペクトルを有する信号の、エイリアシングのない直交サンプリングを可能にする。同相サンプルおよび直交サンプルは、直交サンプルと同相サンプルとの間のT/2の遅延(ここでは、T=1/f)で、fの比率で取得され、交互の直交サンプルの対は、−1を乗じられる必要がある。サンプリングプロセスは、代数的に以下のように表される。
【0043】
【数5】

ここで、nは離散時間変数であり、Tは、サンプリング周期であり、δ(t)は、デルタ関数であり、g(t)は、組織および微小気泡の両方から受信された超音波信号であり、g(t)およびg(t)は、それぞれこの信号の直交サンプリングされた部分および同相サンプリングされた部分であり、90度位相がずれている。この同じサンプリング方法は、組織の超音波画像を生成するために適用される(Bモード)。
【0044】
(d)非線形信号処理
説明される方法において、2つ以上のパルスの偶数の長さの数列は、交互位相および/または振幅のうちのいずれかで伝送される。この交番は、一般に係数βreceiveによって表され、これは、数列において、受信されたエコー、g(t)に対して1つおきに適用されなければならない。受信されたエコーに受信フィルタ処理を行って、微小気泡、y(t)から非線形信号を抽出する。受信フィルタは、伝送された超音波の振幅のスケーリングまたは位相偏移を補うように、エコーをスケーリングする。2つのパルスの事例(N=2)では、受信フィルタは、
【0045】
【数6】

である。サンプリングされた成分に関して、受信フィルタは、
【0046】
【数7】

である。第2の伝送パルスが第1の伝送パルスの振幅の2分の1である事例では、βreceiveは、−2に等しい。第2の伝送パルスが第1の伝送パルスに対して位相インバージョンされている事例では、βreceiveは、1に等しい。第2の伝送パルスが位相インバージョンされ、かつ振幅が2分の1に縮小されている事例では、βreceiveは、2に等しい。組織および微小気泡のための、例示的な伝送されたパルスおよび受信されたパルスは、図2A〜図2Dにおいて概略的に示される。図2Aでは、2つの位相インバージョンされたパルスが被検体内に伝送され、組織から受信されたエコーは、信号なしとなるように組み合わされる。図2Bでは、2つの位相インバージョンされたパルスが被検体内に伝送され、微小気泡から受信されたエコーは、検出可能な信号を生成するように組み合わされる。図2Cでは、2つの振幅のスケーリングされたパルスが被検体内に伝送され、組織から受信されたエコーは、信号なしとなるように組み合わされる。図2Bでは、2つの振幅のスケーリングされたパルスが被検体内に伝送され、微小気泡から受信されたエコーは、検出可能な信号を生成するように組み合わされる。
【0047】
より一般には、本方法は、以下の受信フィルタを、2つのパルスよりも多い、偶数の長さの数列に適用する。
【0048】
【数8】

そして再び、サンプリングされた成分に関して、受信フィルタは、
【0049】
【数9】

である。このパルス列は、位相偏移されたパルスおよび/または振幅のスケーリングされたパルスを伴う標準パルスの対を含む。特定の実施形態において、標準パルスの変調は、列の各対において同じである。他の実施形態では、標準パルスの変調は、列における対の中で異なり得る。受信フィルタの出力、y(t)は次いで、用途に応じて適した周波数について帯域通過フィルタ処理され得る。帯域通過フィルタのための典型的なカットオフ周波数は、基本波周波数、分数調波周波数、または両方を中心とする。フィルタのカットオフの帯域幅は、コントラスト画像を形成するために使用される伝送された超音波パルスの帯域幅に応じて設定されるべきである。これは通常、50%〜100%の範囲の、−6dBの2方向比帯域幅(中心周波数に対して)に対応する。次いで、標準的な超音波画像処理技術が、フィルタ処理されたy(t)信号に適用される。これは、包絡線検波、対数圧縮、走査変換、および表示マッピングを含む。
【0050】
(e)画像処理および表示
Becherら、“Handbook of contrast echocardiography”、Berlin:Springer、2000において記載される通りの、従来の超音波画像処理の方略を適用することができる。例えば、画像フレーム内に空間フィルタを適用して、画像フレーム間にパーシステンスアルゴリズムを適用する。これらのアルゴリズムは、画像品質および組織の描写を高める。別法として、本発明は、時間の関数として、未加工の微小気泡エコー電力(raw microbubble echo power)の定量分析を使用することができる。
【0051】
他の画像処理および表示の方略は、造影剤を伴う、線ベースの画像再構成を使用して超音波画像を作り出すためのシステムおよび本明細書に提供される方法を含む。そのようなシステムの一例は、PCT国際公開第WO2010/033867号,米国特許第7,052,460号、および米国特許出願公開第2004/0236219号に記載されているような構成要素を有することができ、それらは、参照により本明細書に援用される。超音波画像は、複数のパルスエコー事象の分析および融合によって形成される。画像は、「Aスキャン」と呼ばれる、個別のパルスエコー事象を使用して所望の撮像面内の領域を走査すること、または超音波の線によって、効果的に形成される。それぞれのパルスエコー事象は、音響エネルギーが被検体内に伝搬され、かつトランスデューサに戻るための最短時間を必要とする。画像は、被検体の生体構造の十分な詳細を表示できるように、所望の撮像領域を「ペインティングイン(painting in)」すると呼ばれる、所望の画像領域を十分な数の走査線で「覆う」ことによって完成する。取得される線の数および順序は、超音波システムによって制御することができ、これはまた、画像内に取得された生データを変換する。「走査変換」と呼ばれる、すなわち画像構成のプロセスにおいて、ハードウェア機器およびソフトウェア命令の組み合わせを使用して、得られた超音波画像は、表示を観察している使用者が撮像されている被検体を観察できるように、レンダーリングされる。造影剤を撮像する場合、組織のインターリーブ画像フレーム(Bモード)および造影剤は、同時に互いのそばに、または造影剤の画像がBモード画像の上に重複して表示され得る。
【0052】
造影剤
市販の微小気泡造影剤の実施例は、限定はされないが、MicroMarkerTM、Definity(登録商標)、SonovueTM、LevovistTM、およびOptison(登録商標)を含む。微小気泡造影剤の実施例は、米国特許第5,529,766号、第5,558,094号、第5,573,751号、第5,527,521号、第5,547,656号、第5,769,080号、第5,552,782号、第5,425,366号、第5,141,738号、第4,681,119号、第4,466,442号、第4,276,885号、第6,200,548号、第5,911,972号、第5,711,933号、第5,686,060号、第5,310,540号、および第5,271,928号に記載されている。他の好適な造影剤は、WO2005/070472号に記載されており、それは、参照により本明細書に援用される。
【0053】
典型的な造影剤は、アルブミン、脂質、または窒素もしくはペルフルオロカーボン等の気体を閉じ込めるポリマーから成る、薄い可撓性もしくは剛性のシェルを含む。他の代表的な気体は、空気、酸素、二酸化炭素、水素、亜酸化窒素、不活性ガス、フッ化硫黄、炭化水素、およびハロゲン化炭化水素を含む。
【0054】
リポソームまたは他の微小気泡もまた、米国特許第5,316,771号に記載されるように、気体または気体を形成することが可能な物質をカプセル化するように設計することができる。別の実施形態では、気体または気体を発生させることが可能な組成物は、微小気泡造影剤を形成するように、ウィルス、細菌、または細胞内に閉じ込めることができる。
【0055】
造影剤は、多孔質膜を使用するマイクロまたはナノろ過による等の、フィルタ処理のプロセスによって、所望の体積百分率に達するように修正することができる。造影剤はまた、溶液中で小さい気泡に対して大きい気泡を分離することを可能にすることによって修正することができる。例えば、造影剤は、小さい気泡に比べて、溶液中で大きい気泡がより高く浮くことを可能にすることによって修正することができる。所望の体積百分率を達成するための適切なサイズの微小気泡の集団を、続いて選択することができる。ミクロンサイズおよびナノサイズの粒子を分離するための、他の諸方法が当該分野において使用可能であり、参照により本明細書に援用されるWO2005/070472号に記載される方法等の、遠心分離等によって、サブミクロン気泡の所望の体積の微小気泡集団を選択するように適合することができる。光無相関(optical decorrelation)の方法のために、MalvernTMZetasizerまたは同様の装置を使用することができる。
【0056】
好適な微小気泡造影剤はまた、標的造影剤を含む。いくつかの方略は、超音波造影剤を所望の標的に導くために使用することができる。1つの方略は、微小気泡シェルの成分の固有の化学的な特性を利用する。例えば、アルブミンまたは脂質の微小気泡は、細胞受容体を介して標的細胞の表面に付着させることができる。別の方略は、所望のマーカーに結合する特異的リガンドまたは抗体の接合を含む。
【0057】
標的造影剤は、所望の標的に、選択的にまたは特異的に結合することのできる超音波造影剤である。そのような選択的または特異的な結合は、本明細書に記載される方法およびデバイスを使用して、容易に確定することができる。例えば、選択的または特異的な結合は、標的造影剤を投与して、造影剤から散乱する非線形超音波の、所望の標的への結合の増加を検出することによって、インビボまたはインビトロで確定することができる。このように、標的造影剤は、標的リガンドを除いて、標的造影剤の全ての成分を有する制御造影剤と比較することができる。制御造影剤と対比して標的造影剤からの増加された非線形共鳴または散乱を検出することによって、結合の特異性または選択性を確定することができる。抗体または同様の標的機構が使用される場合、標的に対する選択的または特異的結合は、標準の抗原エピトープ抗体の相補的結合関係に基づいて確定することができる。
【0058】
さらに、他の制御を使用することができる。例えば、微小気泡の特異的または選択的標的は、標的微小気泡を制御組織に暴露することによって確定することができ、制御組織は、所望の標的リガンドまたはエピトープを除いて、検査組織の全ての成分を含む。制御サンプルを検査サンプルと比較するために、向上された超音波撮像によって非線形共鳴のレベルを検出することができる。
【0059】
特異的または選択的標的造影剤は、例えば、説明される方法を使用して、当該分野で周知の方法によって製造することができる。例えば、標的造影剤は、Villanuevaら“Microbubbles Targeted to Intracellular Adhesion Molecule− 1 Bind to Activated Coronary Artery Endothelial Cells”、Circulation 1998;98:1−5に記載されるように、被検体内の標的リガンドに結合するためのリガンドとして、シェル上にモノクローナル抗体を有する、ペルフルオロカーボンまたは他の気体が充填された微小気泡として作ることができる。例えば、パーフルオロブタンは、ホスファチジルコリンを含有する水媒体、界面活性剤、およびカルボキシル基を含有するリン脂質派生物における超音波処理によって分散され得る。パーフルオロブタンは、超音波処理中に脂質シェルによってカプセル化される。カルボン酸基は、水性の環境に暴露され、以下のステップによって、抗体を微小気泡に共有結合するために使用される。まず、水相において分散した非結合の脂質を気体が充填された微小気泡から、浮選によって分離する。次に、微小気泡シェル上のカルボン酸基は、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドによって活性化され、次いで抗体は、その第1級アミノ基を介して、アミド結合の形成で共有結合する。
【0060】
標的微小気泡はまた、Wellerら“Modulating Targeted Adhesion of an Ultrasound Contrast Agent to Dysfunctional Endothelium,”Ann. Biomed. Engineering 2002;30:l012−1019に記載されるように、ビオチン化シェルで作ることもできる。例えば、脂質ベースのペルフルオロカーボンが充填された微小気泡は、以下の手順を用いて、アビジン−ビオチン架橋の化学的性質を利用する、シェル上のモノクローナル抗体で作ることができる。パーフルオロブタンは、当該分野で説明されるように、ホスファチジルコリンを含有する食塩水、ポリエチレングリコール(PEG)ステアリン酸塩、およびホスファチジルエタノールアミンのビオチン化派生物における超音波処理によって分散される。超音波処理は、脂質単分子層シェルでコーティングされ、かつビオチン標識を担持する、パーフルオロブタン微小気泡の形成をもたらす。抗体のシェルへの接合は、アビジン−ビオチン架橋の化学的性質を介して達成される。ビオチン化微小気泡のサンプルは、微小気泡シェル内に組み込まれなかった脂質を除去するように、遠心分離によってリン酸緩衝生理食塩水(PBS)内で洗浄される。次に、微小気泡は、PBS内でストレプトアビジンの溶液(0.1μg/mL〜10μg/mL)において培養される。余分なストレプトアビジンは、PBSで洗浄することによって除去される。次いで微小気泡は、PBS内でビオチン化モノクローナル抗体の溶液において培養され、再び洗浄される。結果として得られる微小気泡は、ビオチン−ストレプトアビジン−ビオチン結合を介して脂質シェルに接合した抗体を有する。別の実施例では、標的微小気泡のために、デカフルオロブタンガス、ジステアロイルホスファチジルコリン、ポリエチレングリコール−(PEG−)ステアリン酸塩、およびジステアロイル−ホスファチジルエタノールアミン−PEG−ビオチンの水分散液の超音波処理によってビオチン化微小気泡を作ることができる。次いで微小気泡は、ストレプトアビジンと結合され、洗浄されて、ビオチン化エキスタチンと結合され得る。
【0061】
標的微小気泡はまた、当該分野で周知である、アビジン化されたシェルで作ることもできる。好ましい実施形態では、ポリマー気泡は、アビジン化またはストレプトアビジン化されたシェルで作ることができる。例えば、特許出願PCT/EP01/02802号に記載されるように、官能基化ポリアルキルシアノアクリレートを含むポリマー造影剤を使用することができる。ストレプトアビジンは、官能基化ポリアルキルシアノアクリレートの官能基を介して造影剤に結合することができる。好ましい実施形態では、アビジン化微小気泡は、本明細書に説明される方法において使用することができる。
【0062】
アビジン化微小気泡を使用する場合、ビオチン化抗体もしくはその断片、または別のビオチン化標的分子もしくはその断片を被検体に投与することができる。例えば、抗体等のビオチン化標的リガンド、タンパク質、または他のバイオコンジュゲートを使用することができる。このようにして、ビオチン化抗体、標的リガンドまたは分子、もしくはその断片は、被検体内の所望の標的に結合することができる。所望の標的に一旦結合されると、アビジン化シェルを伴う造影剤は、ビオチン化抗体、標的分子、またはその断片に結合することができる。このようにして結合された場合、高周波の超音波エネルギーは、結合された造影剤に伝送され得、これは、伝送された超音波エネルギーの非線形散乱を発生させることができる。アビジン化造影剤はまた、被検体に投与される前に、ビオチン化抗体、標的リガンドもしくは分子、またはその断片に結合され得る。
【0063】
ビオチン化シェルまたはアビジン化シェルを伴う標的造影剤を使用する場合、標的リガンドまたは分子を被検体に投与することができる。例えば、抗体等のビオチン化標的リガンド、タンパク質、または他のバイオコンジュゲートは、被検体に投与されて、標的部位で蓄積することが可能となり得る。標的リガンドまたは分子の断片もまた、使用することができる。
【0064】
ビオチン化シェルを伴う標的造影剤を使用する場合、ビオチン化標的リガンドに結合するアビジンリンカー分子を被検体に投与することができる。次いで、ビオチン化シェルを伴う標的造影剤が被検体に投与される。標的造影剤は、アビジンリンカー分子に結合し、これは、ビオチン化標的リガンドに結合され、それ自体が所望の標的に結合される。このようにして、3つのステップの方法は、所望の標的を造影剤が標的にするために使用され得る。中間体の標的リガンドは、当業者には明らかとなり得るように、具体的に上述した、所望の標的の全てに結合することができる。
【0065】
標的造影剤または非標的造影剤はまた、種々のマーカー、検出可能な部分、または標識を含む。したがって、微小気泡のシェル内に組み込まれた標的リガンドまたは抗体を備えた微小気泡造影剤はまた、別の検出可能な部分または標識を含むこともできる。本明細書で使用される用語「検出可能な部分」は、酵素、フルオロフォア、ビオチン、発色団、放射性同位体、着色粒子、電気化学的な部分、化学修飾部分、または化学発光部分を含むが、これらに限定されない、あらゆる好適な標識を意味することを意図する。
【0066】
非標的造影剤と同様に、標的造影剤は、高周波撮像のために、フィルタ処理プロセス、例えば、多孔質膜を使用するマイクロまたはナノろ過等によって、所望の体積百分率を達成するように修正することができる。微小気泡のサイズ決めは、微小気泡が標的とされるように適合される前または後に存在し得る。例えば、所望のサイズの微小気泡集団は、標的微小気泡造影剤の製造のための、上述の具体的な手順を実施する前に選択することができる。
【0067】
したがって、標的および非標的超音波造影剤のための、微小気泡の体積百分率は、造影剤の非線形散乱によって超音波撮像を向上させるように選択することができ、したがって超音波撮像を向上させる。そのような集団は、上記に説明されるように選択することができ、制御集団と比較して、微小気泡のサイズの差異を除いて、微小気泡の検査サンプルの全ての成分を有する。
【0068】
本発明の造影撮像剤の投与は、種々の投薬形態を使用して、例えば、経脈管的に、リンパ内に、非経口的に、皮下に、筋肉内に、腹腔内に、細胞間に、高比重で、経口で、または腫瘍内に等のように、種々の様式で行うことができる。1つの好ましい投与の経路は、経脈管的な経路である。血管内の使用のために、造影剤は、一般に静脈内に注入されるが、動脈内に注入することもできる。投与されるべき有用な投与量および投与方法は、被検体の年齢および体重に依存し、また目的とする特定の用途に依存して変化し得る。通常、投与量は、低いレベルから開始され、所望のコントラストの増強が達成されるまで増加される。一般に、本発明の実施形態によって解釈される造影剤は、水または食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)等の水性懸濁液の形状で投与される。水は、無菌とすることができ、食塩水は、高張食塩水(例えば、約0.3%から約0.5%のNaCl)とすることができるが、所望される場合は、食塩水は等張性とすることができる。溶液はまた、所望される場合、pH6.8からpH7.4のpHの範囲を提供するように、緩衝化することができる。さらに、媒体中にブドウ糖を含むこともできる。
【0069】
造影剤は、実験動物に対して静脈内に投与することができる。実験動物は、限定はされないが、マウスまたはラット等のげっ歯動物を含む。本明細書で使用される、実験動物という用語はまた、小動物、実験用小動物、または被検体と同じ意味で使用され、これらは、マウス、ラット、ネコ、イヌ、魚、ウサギ、モルモット、げっ歯類等を含む。実験動物という用語は、特定の年齢または性別を表さない。したがって、雄であれ雌であれ、成体動物および新生動物、ならびに胎児(胚を含む)が含まれる。
【0070】
一実施形態では、造影剤は、マウスまたはラットに対して、静脈内に投与される。別の実施形態では、造影剤は、マウスまたはラットの尾静脈内に投与される。静脈注射は、単回ボーラス投与として、または反復注射もしくは持続注入によって投与することができる。組成物を投与するための、効果的な投与量およびスケジュールは、経験的に決定することができ、そのような決定は、当該技術の範囲でなされる。組成物の投与のための投与量の範囲は、所望の超音波撮像効果を生じさせるために十分に大きい範囲である。そのような効果は通常、周辺組織からの低減された戻りに対する造影剤からの増加された戻りを含む。投与量は、有害な副作用を生じさせるほど多くするべきではない。一般に、投与量は、超音波撮像の手順および所望の結像特性によって変化し得、当業者によって決定することができる。投与量は、個々の研究者によって調節することができる。投与量は変化し得、1日または数日にわたって、1回または複数回投与で毎日投与することができる。超音波は、造影剤の投与の直後に、または造影剤投与の後の任意の時間間隔で伝送することができる。超音波撮像はまた、投与の前に開始し、投与のプロセスの間継続して、投与の完了後に継続することができる。撮像はまた、造影剤の投与の前、最中、または後の任意の離散時間において行うことができる。
【0071】
使用
本発明は、被検体(例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳類(マウス、ラット、モルモット、またはウサギ等)の脈管系を撮像するために使用することができる。上記の方法はまた、実験動物の器官を撮像するために使用することもできる。撮像される器官は、肺、心臓、能、腎臓、肝臓、および血液を含むことができるが、これらに限定はされない。一実施形態では、撮像される器官は、マウスまたはラットの器官である。組成物および方法はまた、実験動物における血管形成または腫瘍性の状態等の、生理的または病理学的な過程を撮像するために使用することもできる。
【0072】
超音波撮像の他の従来の使用を、Lindner、“Molecular imaging with contrast ultrasound and targeted microbubbles,”J Nucl Cardiol 2004; 11:215−221に記載されるように適用することができる。他の使用は、標的造影剤を使用する、標的の分子撮像、血管形成の撮像、および他の医用画像応用例を含む(Lyshchikら“Molecular imaging of vascular endothelial growth factor receptor 2 expression using targeted contrast−enhanced high−frequency ultrasonography,”J Ultrasound Med 2007;26:1575−1586;Ritterら“A 30 MHz piezo−composite ultrasound array for medical imaging applications,”IEEE Ultrason Ferroelec Freq Cont 2002;49:217−230; Rychakら“Microultrasound molecular imaging of vascular endothelial growth factor receptor 2 in a mouse model of tumor angiogenesis,”MoI Imaging 2007;6:289−296)。
【0073】
本明細書に記載される方法は、諸実施形態を含み、ここで造影剤は、超音波のパルスによって崩壊または破壊される。超音波のパルスは、撮像周波数超音波を生成するトランスデューサと同じまたは異なるトランスデューサによって生成され得る。したがって、上記の方法は、複数の超音波プローブおよび周波数を使用することを考慮する。
【0074】
本方法の他の考えられる使用は、超音波に対して本質的に低いエコー輝度を有する、液体が充填されたサブミクロンサイズの粒子の撮像を含む。この粒子を高出力の超音波パルスに暴露することによって、それらは気化して気泡に変換され得る(Kripfgansら、Ultrasound Med.Biol,26:1177−1189,2000)。結果として得られる気泡は、本明細書に記載される方法で、液体粒子と比較して向上されたコントラストおよび感度を伴って撮像することができる。これらの液体粒子は、微小気泡造影剤よりもはるかに小さいため、それらは気化して撮像される前に脈管性間隙から抜けることができる。この技術は、粒子が、気化して撮像される前に、血管内皮細胞上で見られるもの以外の細胞受容体を標的とすることを可能にする。
【実施例】
【0075】
実施例1
図4は21MHzの線形アレイ(MS−250、VisualSonics、Toronto)を用いて、24MHzの伝送周波数で収集されたデータを示す。アレイをVisualSonics Vevo 2100のマイクロ超音波イメージングシステムに接続した。システムは、64チャネルのデータをビームフォーミングすることが可能である。64チャネルから結果として得られた総和を、処理および分析のために、ベースバンド直交形式で、かつシステムから放出して、デジタル化して記録し得る。データは、MicroMarker(VisualSonics、Toronto)からのものであり、高周波の造影剤は、位相インバージョンまたは振幅のスケーリングのいずれかを使用して組織の模倣培地中を流れる。図3は、全ての曲線が生の未処理のデータ(図示せず)を基準にする、受信された超音波エコーの周波数プロットである。図4に示すように、位相インバージョンおよび振幅のスケーリングの両方は、12MHzで非線形分数調波エネルギーを検出する。振幅のスケーリングの事例では、追加の非線形エネルギーは、基本波周波数(24MHz)で検出される。さらに、位相インバージョンは、特に基本波帯域において、組織からの信号を抑制するのにより好ましい。データは比較的低い音圧(350kPa)で収集されたにも関わらず、振幅のスケーリングによって検出される、基本波周波数における残留組織信号は事実上非線形である。
【0076】
帯域通過フィルタ処理(BPF)を、図4に示されるデータに適用することによって、特定の周波数におけるエネルギーは隔離され得る。そのようなフィルタ処理は、帯域幅(すなわち、距離分解能)が低減するという代償を伴って、感度を増加させる。図5は、異なる帯域通過フィルタを伴う、コントラスト対組織比(CTR)に関する24MHzのデータの結果を要約する。帯域通過フィルタを適用することによって、CTRは、生の未処理のデータのCTRを超えて増加され得る。さらに、図4は、分数調波信号のみの周りに帯域通過フィルタを適用する(SH BPF)ことによって、位相インバージョン(PI)によってもたらされる向上された組織の抑制を利用することが可能であることを明示する。そのような組織の抑制は、伝送周波数は増加され(例えば、30MHz以上)、非線形組織信号はより多く見られるようになるため、望ましい。例えば、15〜30MHzの中間周波数では、振幅のスケーリング(AM)を、軸方向の次元における、パルスインバージョンで得られるよりも高い空間分解能で、分数調波および非線形基本波信号(SH+FUND BFP)を検出するように適用することができる。
【0077】
実施例2
雌マウスの成体は、単回の50−μlボーラスのMicroMarker造影剤(1ボーラス当たり1.2×10の気泡)が投与され、Vevo2100超音波イメージングプラットフォーム(VisualSonics)を使用して、18MHzにおける振幅のスケーリングで撮像した。図6に、非線形造影剤信号(右)をBモード画像(左)とともに同時に示す。一連の画像は、経時的にボーラスに起因するコントラストの促進を示す。走査平面は、腎臓の長い部分を貫通して、マウスの背面から配向された。
【0078】
他の実施形態
本明細書全体を通して、様々な刊行物が参照される。これらの刊行物の開示は、それらの全てが参照により、本明細書に援用される。
【0079】
明示的に別段の言及がなされない限り、本明細書に記載されるいずれの方法も、それらのステップを特定の順序で行うことを必要とすると解釈されることは決して意図されない。したがって、方法の特許請求が、そのステップによって従われるべき順序を実際に列挙しない、または、特許請求の範囲もしくは説明にステップは特定の順序に制限されるべきであると特に明示されていない場合、いかなる点においても、順序が推定されることは決して意図されない。これは、ステップまたは操作の流れの準備、文法構成もしくは句読点から生じる平易な意味、および明細書に記載される実施形態の数もしくは種類に対する論理的な問題を含む、任意の存在し得る明示されない解釈の根拠についても同様である。
【0080】
当業者には、本発明において、本発明の範囲または精神から逸脱することなく様々な変更および変化がなされ得ることが明らかとなるであろう。本発明の他の実施形態は、明細書の検討および本明細書に開示される本発明の実施から、当業者には明らかとなるであろう。本明細書および実施例は、例示としてのみ見なされることを意図し、本発明の真の範囲および精神は、後続の特許請求の範囲によって示される。
【0081】
他の実施形態は特許請求の範囲に存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形超音波撮像のための方法であって、
該方法は、
(i)偏移された位相またはスケーリングされた振幅、あるいは両方を有する複数の超音波パルスを、被検体内に伝送することと、(ii)微小気泡造影剤によって生成された分数調波信号を検出することにより、該被検体を非線形的に撮像することとを含む、方法。
【請求項2】
ステップ(i)における前記超音波パルスは、偏移された位相を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分数調波信号を検出するが、非線形基本波信号は検出しないように、帯域通過フィルタ処理を使用することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(i)における前記超音波パルスは、スケーリングされた振幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(ii)はさらに、前記微小気泡造影剤によって生成された非線形基本波信号を検出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記被検体内の組織からの線形基本波信号は検出されない、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記分数調波および非線形基本波信号を検出するように、帯域通過フィルタ処理を適用することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記微小気泡造影剤によって生成された第2高調波信号は、ステップ(ii)において検出されない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記微小気泡造影剤は、前記被検体に事前に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(i)の前に、前記被検体に前記微小気泡造影剤を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記伝送される超音波の中心周波数は、15MHz〜70MHzである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(i)において伝送される前記超音波は、組織中の深度によって200kPa〜500kPaの間で伝送圧力を維持するように、4以上の伝送f値の使用によって、または非標準伝送遅延プロファイルの使用によって、焦点を外される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(i)およびステップ(ii)は、線形アレイトランスデューサを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(ii)は、直交サンプリングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記直交サンプリングは、
【数10】

の形態であり、ここで、nは離散時間変数であり、Tは、サンプリング周期であり、δ(t)は、デルタ関数であり、gは、前記被検体からの受信された超音波信号であり、gQ2およびgI2は、それぞれ、前記信号の前記直交サンプリングされた部分および同相サンプリングされた部分であり、90度位相がずれている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記被検体の脈管系または器官の中の前記微小気泡造影剤が撮像される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記被検体は、実験動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記被検体の線形超音波画像を取得することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記被検体の線形画像および非線形画像は、互いに重複または隣接して表示される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
超音波信号の直交サンプリングのための方法であって、
(i)被検体から反射される超音波信号を取得するステップと、
(ii)プロセッサを使用して、該超音波信号に直交サンプリングを行うステップと、
を含み、該直交サンプリングは、
【数11】

の形態であり、ここで、nは離散時間変数であり、Tは、サンプリング周期であり、δ(t)は、デルタ関数であり、gは、該被検体から受信された超音波信号であり、gQ2およびgI2は、それぞれ、該信号の直交サンプリングされた部分および同相サンプリングされた部分であり、サンプル信号を生成するように90度位相がずれている、方法。
【請求項21】
前記サンプリングされた信号から超音波画像を生成することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記超音波画像を表示することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(i)アレイ超音波トランスデューサと、
(ii)偏移された位相またはスケーリングされた振幅、あるいは両方を有する、複数の超音波パルスを生成することが可能な伝送ビームフォーマと、
(iii)該複数のパルスから反射された超音波信号を受信することが可能な受信ビームフォーマと、
(iv)分数調波または非線形基本波信号を判定するように、該複数のパルスを組み合わせることが可能な受信フィルタと、
(iv)分数調波または非線形基本波信号から、超音波画像を生成することが可能なプロセッサと
を備える、超音波システム。
【請求項24】
前記システムは、前記受信された超音波信号を直交サンプリングすることが可能であり、該サンプリングは、
【数12】

の形態であり、ここで、nは離散時間変数であり、Tは、サンプリング周期であり、δ(t)は、デルタ関数であり、gは、前記被検体からの受信された超音波信号であり、gQ2およびgI2は、それぞれ、該信号の直交サンプリングされた部分および同相サンプリングされた部分であり、サンプル信号を生成するように90度位相がずれている、請求項23に記載の超音波システム。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−523904(P2012−523904A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505998(P2012−505998)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/031637
【国際公開番号】WO2010/121265
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(504461529)ビジュアルソニックス インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】