説明

高周波測定装置、および、高周波測定装置の校正方法

【課題】 高周波測定装置によって検出された電圧と電流を高い精度で校正する方法を提供する。
【解決手段】 第1の3つの基準負荷の高周波測定装置による測定インピーダンスと真値とに基づいて、校正パラメータXを算出し(S1,2)、校正パラメータXを用いて校正した電圧信号と電流信号とに基づいて、プラズマ処理装置のインピーダンスを算出し(S3)、スミスチャート上で、S3で算出されたインピーダンスを含み、第1の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる3つのインピーダンスを決定し(S4)、当該3つのインピーダンスをそれぞれ有する第2の3つの基準負荷の高周波測定装置による測定インピーダンスと真値とに基づいて、校正パラメータX’を算出し(S5,6)、検出された電圧信号と電流信号とを校正パラメータX、X’を用いて校正する(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電圧および高周波電流を検出しインピーダンス等の高周波パラメータを算出することで測定する高周波測定装置、および、当該高周波測定装置の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波電源装置から出力される高周波電力をプラズマ処理装置に供給し、エッチング等の方法を用いて半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を加工するプラズマ処理システムが開発されている。
【0003】
図10は、一般的なプラズマ処理システムの構成を示すブロック図である。
【0004】
プラズマ処理中にプラズマ処理装置400のインピーダンスは変動するので、当該プラズマ処理装置400の入力端で反射した反射波電力が高周波電源装置100を損傷する虞がある。したがって、プラズマ処理システムA100においては、一般に、高周波電源装置100とプラズマ処理装置400との間にインピーダンス整合装置200が設けられており、当該インピーダンス整合装置200がプラズマ処理装置400のインピーダンス変動に応じて整合動作を行っている。また、プラズマ処理中のプラズマ処理装置400のインピーダンスやプラズマ処理装置400の入力端における高周波電圧および高周波電流などの監視を行う必要がある。
【0005】
プラズマ処理装置400の監視は、プラズマ処理装置400の入力端に設けられた高周波測定装置300が測定する各種高周波パラメータを用いて行われる。また、インピーダンス整合装置200の整合動作は、インピーダンス整合装置200の内部に設けられた高周波測定装置(図示せず)が測定する各種高周波パラメータに基づく制御によって行われる。なお、以下では、高周波測定装置300を例として説明を行う。
【0006】
高周波測定装置300は、高周波電圧(以下、単に「電圧」という。)と高周波電流(以下、単に「電流」という。)を検出し、その検出値から電圧と電流の位相差(以下、単に「位相差」という。)θを求めるとともに、電圧実効値V、電流実効値I、インピーダンスZ=R+jX(測定点がプラズマ処理装置400の入力端近傍なので、プラズマ処理装置400のインピーダンスに相当する。)、反射係数Γ、プラズマ処理装置400に入力される進行波電力Pf、インピーダンス不整合によりプラズマ処理装置400の入力端で反射される反射波電力Prなどの高周波パラメータを算出する。
【0007】
高周波測定装置300は、プラズマ処理装置400に電力を伝送するための棒状の導電体に容量結合させたコンデンサと同胴体部に磁気結合させたコイルとを有し、コンデンサによって電圧v=√2・V・sin(ωt)を、また、コイルによって電流i=√2・I・sin(ωt+θ)を検出する。また、高周波測定装置300は、検出した電圧vおよび電流iから電圧実効値V、電流実効値I、位相差θを求め、これらを用いて下記(1)〜(5)式により上記の高周波パラメータを算出する。すなわち、高周波測定装置300は、電圧vと電流iを検出するセンサとそのセンサの検出値から上記の高周波パラメータを算出する演算処理回路を備えた、いわゆるRFセンサと呼ばれるものである。
【0008】
【数1】

【0009】
一般に、計測装置や測定装置は、センサの感度がばらつき当該センサで検出される検出値が正しい値と異なるため、予め基準となる被測定物を測定して検出値を正しい値に換算する校正パラメータを取得しておき、実際の測定では検出値を当該校正パラメータで正しい検出値に校正して出力する構成となっている。
【0010】
高周波測定装置300が検出した電圧vおよび電流iの校正では、例えば、SOLT(Short-Open-Load-Thru)校正が用いられる。SOLT校正では、まず、インピーダンスの真値があらかじめ特定された標準器に高周波測定装置300を接続し、高周波測定装置300によってインピーダンスを測定する。標準器としては、測定系の特性インピーダンス(測定のために高周波を伝送する伝送線路の特性インピーダンス。一般には50Ω又は75Ω)を有するダミーロード、開放状態のインピーダンス(無限大)、および、短絡状態のインピーダンス(ゼロ)にそれぞれ近いインピーダンスを有するダミーロードが用いられる。次に、高周波測定装置300によって測定された各標準器のインピーダンスと各標準器のインピーダンスの真値とから、電圧vおよび電流iを校正するための校正パラメータを算出して、高周波測定装置300のメモリ(図示せず)に記録する。実際の測定では、検出された電圧vおよび電流iを、メモリに記録されている校正パラメータで校正してから、各種高周波パラメータを算出する。
【0011】
高周波測定装置300のメモリに記録されている校正パラメータは、極限値である開放状態のインピーダンス(無限大)および短絡状態のインピーダンス(ゼロ)にそれぞれ近いインピーダンスと特性インピーダンスとに基づいて算出されているので、インピーダンスの極めて広い範囲で校正を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−163308号公報
【特許文献2】特開2004−309132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の校正パラメータはインピーダンスの極めて広い範囲で校正を行うことができるように求められたものなので、当該校正パラメータによる校正の精度は十分高いものではない。すなわち、上記校正パラメータは、インピーダンスの極めて広い範囲で低い精度で校正を行うことができるものとなっている。しかし、実際にプラズマ処理装置400の監視に高周波測定装置300の測定値を用いる場合、校正の精度が高いことが求められる。
【0014】
例えば、プラズマ処理装置400はプラズマ処理を行っているときに高熱を発するので、プラズマ処理装置400の近くに配置される高周波測定装置300の周囲の温度も高くなる。温度が異なると抵抗成分が変化するので、校正を行ったときの周囲の温度と実際に測定を行うときの周囲の温度とが異なると、校正の精度がさらに低くなる。このことを考慮すると、温度条件も被測定負荷と検出部で同じにして求めることによって導出でき、高い精度で校正ができる校正パラメータを取得しておく必要がある。
【0015】
また、プラズマ処理中は、検出された電圧vと電流iの位相差θは、90°に近い値となることが多い。したがって、位相差θのわずかな誤差でもcosθの変化率は大きくなり、インピーダンスの抵抗成分Rや進行波電力Pfの測定値に大きな影響を与える(上記(1)、(4)式参照)。したがって、位相差θの誤差を抑制するために、高い精度で校正を行う必要がある。
【0016】
また、高周波測定装置300の測定値を、Eチャックコントローラなどに用いる場合がある。Eチャックコントローラは、プラズマ処理装置400のチャンバー内でウエハを固定するための静電チャックの強さを、測定された電流値および電圧値に基づいて制御する。したがって、測定された電流値および電圧値の誤差を極めて小さい範囲に抑える必要があり、機差特性も最小限におさえなければならない。そのため、高周波測定装置300の検出値の校正は、精度を高くする必要がある。
【0017】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、高周波測定装置によって検出された電圧および電流を高い精度で校正する方法、および、当該校正を行うことができる高周波測定装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0019】
本発明の第1の側面によって提供される校正方法は、プラズマ処理装置を含む負荷とこの負荷に高周波電力を供給する高周波電源装置との間に接続されて、当該接続点における高周波電圧および高周波電流を検出し、検出された電圧値と電流値とに基づいて、当該接続点から負荷側を見たインピーダンスを算出する高周波測定装置の前記電圧値と電流値の校正方法であって、第1の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時に算出されたインピーダンスと前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて、前記電圧値と電流値とを校正するための第1のパラメータを算出して、前記高周波測定装置に設定する第1の行程と、前記高周波測定装置を測定対象の負荷に接続してプラズマ処理を行い、検出された電圧値と電流値とを前記第1のパラメータを用いて校正し、当該校正後の電圧値と電流値とに基づいて、接続点から負荷側を見たインピーダンスを算出する第2の行程と、スミスチャート上で表示した場合に、前記第2の行程で算出されたインピーダンスを含み、かつ、前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる3つのインピーダンスを決定する第3の行程と、前記3つのインピーダンスをそれぞれ有する第2の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時に算出されたインピーダンスと前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて、前記第1のパラメータを用いて校正された電圧値と電流値とをさらに校正するための第2のパラメータを算出して、前記高周波測定装置に設定する第4の行程と、前記高周波測定装置を前記測定対象の負荷に接続して、検出された電圧値と電流値とを前記第1のパラメータおよび第2のパラメータを用いて校正する第5の行程とを備えている。
【0020】
なお、高周波測定装置には、プラズマ処理装置に接続されて当該プラズマ処理装置を監視するために高周波パラメータを測定する高周波測定装置や、インピーダンス整合装置の内部に設けられて整合動作を制御するために高周波パラメータを測定する高周波測定装置などがある。また、検出された電圧値と電流値は、例えば、デジタル変換された電圧値と電流値や、電圧実効値と電流実効値、電圧最大値と電流最大値などである。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第5の行程によって校正された電圧値と電流値とに基づいて、接続点から負荷側を見たインピーダンスを算出する第6の行程と、スミスチャート上で表示した場合に、前記第6の行程で算出されたインピーダンスを含み、かつ、前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる3つのインピーダンスを決定する第7の行程と、前記第7の行程によって決定された3つのインピーダンスをそれぞれ有する第3の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時に算出されたインピーダンスと前記第3の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて、前記第1のパラメータおよび第2のパラメータを用いて校正された電圧値と電流値とをさらに校正するための第3のパラメータを算出して、前記高周波測定装置に設定する第8の行程と、前記高周波測定装置を前記測定対象の負荷に接続して、検出された電圧値と電流値とを前記第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータを用いて校正する第9の行程とをさらに備えている。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1の3つの基準負荷の内の1つの基準負荷は前記高周波測定装置の特性インピーダンスと同一のインピーダンスを有する負荷である。
【0023】
本発明の第2の側面によって提供される高周波測定装置は、プラズマ処理装置を含む負荷とこの負荷に高周波電力を供給する高周波電源装置との間に接続されて、当該接続点における高周波電圧および高周波電流を検出する高周波測定装置であって、前記接続点における高周波電圧を検出する電圧検出手段と、前記接続点における高周波電流を検出する電流検出手段と、前記電圧検出手段によって検出された電圧値と前記電流検出手段によって検出された電流値とを校正する校正手段と、前記校正手段によって校正された前記電圧値と電流値とに基づいて、前記接続点から負荷側を見たインピーダンスを算出するインピーダンス算出手段とを備えており、前記校正手段は、第1の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時の前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスと前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて算出された第1のパラメータを用いて、前記検出された電圧値と電流値とを校正する第1校正手段と、スミスチャート上で表示した場合に前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる第2の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時の前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスと前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて算出された第2のパラメータを用いて、前記第1校正手段によって校正された前記電圧値と電流値とをさらに校正する第2校正手段とを備えている。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記校正手段は、スミスチャート上で表示した場合に前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる第3の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時の前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスと前記第3の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて算出された第3のパラメータを用いて、前記第2校正手段によって校正された前記電圧値と電流値とをさらに校正する第3校正手段をさらに備えている。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記校正手段は、スミスチャート上で表示した場合に前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる第4の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時の前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスと前記第4の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて算出された第4のパラメータを用いて、前記第1校正手段によって校正された前記電圧値と電流値とをさらに校正する第4校正手段と、前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスをスミスチャート上に表示した場合に、前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲に入っているか、前記第4の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲に入っているかを判断する判断手段とをさらに備えており、前記判断手段によって前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲に入っていると判断された場合には前記第2校正手段によって校正を行い、前記判断手段によって前記第4の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲に入っていると判断された場合には前記第4校正手段によって校正を行う。
【0026】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第1の3つの基準負荷の内の1つの基準負荷は前記高周波測定装置の特性インピーダンスと同一のインピーダンスを有する負荷である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、校正された電圧値と電流値とに基づいて、接続点から負荷側を見たインピーダンスが算出される。まず、第1の3つの基準負荷に基づいて算出された第1のパラメータによって、測定対象の負荷を接続して検出した電圧値と電流値とが校正され、インピーダンスが算出される。次に、当該算出されたインピーダンスに基づいて、より狭い範囲の3つのインピーダンスが決定される。当該3つのインピーダンスをそれぞれ有する第2の3つの基準負荷に基づいて算出された第2のパラメータと第1のパラメータとによって電圧値と電流値とが校正される。
【0028】
第2のパラメータは第1のパラメータより狭いインピーダンスの範囲でのみ校正を行うために求められたものなので、インピーダンスが当該範囲に入っている場合は、第2のパラメータによる校正の精度は十分高いものになる。したがって、検出された電圧値と電流値とを高い精度で校正することができる。
【0029】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る校正方法の考え方を説明するための図である。
【図2】第1実施形態に係る高周波測定装置を用いたプラズマ処理システムの構成を説明するためのブロック図である。
【図3】第1実施形態に係る高周波測定装置の内部構成を説明するためのブロック図である。
【図4】第1の校正パラメータおよび第2の校正パラメータを説明するための図である。
【図5】校正パラメータの各要素を算出するために行う、基準負荷のインピーダンスの測定方法を説明するための図である。
【図6】第1実施形態に係る高周波測定装置の校正方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】第2実施形態に係る高周波測定装置の校正回路の内部構成を説明するためのブロック図である。
【図8】第3実施形態に係る高周波測定装置の校正回路の内部構成を説明するためのブロック図である。
【図9】スミスチャート上での各インピーダンスの位置を示すための図である。
【図10】一般的なプラズマ処理システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を、プラズマ処理装置の監視に用いられる高周波測定装置の場合を例として、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0032】
図1は、本発明に係る校正方法の考え方を説明するための図であり、スミスチャート上での各インピーダンスの位置を示すための図である。
【0033】
同図(a)の点A,B,Cはそれぞれ、特性インピーダンスである50Ω、開放状態のインピーダンス(無限大)に近いインピーダンス、短絡状態のインピーダンス(ゼロ)に近いインピーダンスの位置を示している。点A,B,Cのインピーダンスを基準として算出された校正パラメータは、点A,B,Cで囲まれた範囲D、すなわち、スミスチャート上のほぼ全てのインピーダンスの範囲で校正を行うことができる。しかし、高周波測定装置が実際に測定を行うプラズマ処理装置(以下、「測定対象装置」とする。)のインピーダンスがそこまで広いインピーダンスの範囲で変化することはないので、ほぼ全てのインピーダンスの範囲で校正を行う必要はない。つまり、広いインピーダンスの範囲で精度の低い校正を行うより、狭いインピーダンスの範囲で精度の高い校正を行うことが期待される。
【0034】
例えば、測定対象装置のインピーダンスが同図(b)の範囲Eの中でのみ変化する場合、範囲E以外のインピーダンスでの校正を考える必要はない。この場合、範囲Eを囲む点A’,B’,C’のインピーダンスを基準として校正パラメータを算出し当該校正パラメータで校正を行えば、点A,B,Cのインピーダンスを基準として算出した校正パラメータで校正を行う場合より、精度の高い校正を行うことができる。しかし、測定対象装置のインピーダンスが点A’,B’,C’で囲まれた範囲外にある場合、点A,B,Cのインピーダンスを基準として算出した校正パラメータで校正を行うより、校正の精度は低くなる。したがって、測定対象装置のインピーダンスの変化範囲を含むように点A’,B’,C’を決定する必要がある。
【0035】
本発明は、低精度だが広いインピーダンスの範囲で校正可能な校正パラメータで校正を行って測定対象装置のインピーダンスの変化範囲を確認し、当該変化範囲でのみ高精度に校正可能な校正パラメータで校正を行うという、多段階の校正を行うものである。
【0036】
まず、測定対象装置のインピーダンスの変化範囲を確認するために、精度は低いが広いインピーダンスの範囲で校正を行うことができる第1の校正パラメータを算出して設定する。第1の校正パラメータの算出方法は後述する。次に、高周波測定装置を測定対象装置に接続して、プラズマ処理中のインピーダンスを測定する。このインピーダンス測定値は、第1の校正パラメータで校正された電流値と電圧値とに基づいて算出されたものである。したがって精度は低いが、プラズマ処理中のインピーダンスの範囲を確認することはできる。次に、確認されたインピーダンスの範囲を含む狭いインピーダンスの範囲でのみ精度の高い校正を行うことができる第2の校正パラメータを算出して設定する。第2の校正パラメータの算出方法は後述する。検出した電流値と電圧値を、第1の校正パラメータおよび第2の校正パラメータで校正することにより、精度の高い校正を行うことができる。
【0037】
図2は、第1実施形態に係る高周波測定装置を用いたプラズマ処理システムの構成を説明するためのブロック図である。
【0038】
プラズマ処理システムAは、半導体ウェハや液晶基板などの被加工物に対して高周波電力を供給して、例えばプラズマエッチングといった加工処理を行うものである。同図に示すようにプラズマ処理システムAは、高周波電源装置1、インピーダンス整合装置2、高周波測定装置3、およびプラズマ処理装置4を備えている。高周波電源装置1には、例えば同軸ケーブルからなる伝送線路を介してインピーダンス整合装置2が接続され、インピーダンス整合装置2には、例えば棒状の銅などからなる伝送線路5を介してプラズマ処理装置4が接続されている。高周波測定装置3は伝送線路5上に設置されている。なお、プラズマ処理システムAは、特性インピーダンスが50Ω系として構成されている。
【0039】
高周波電源装置1は、高周波電力を供給するものであって、例えば数百kHz以上の周波数を有する高周波電力を出力することができる電源装置である。
【0040】
インピーダンス整合装置2は、高周波電源装置1とプラズマ処理装置4とのインピーダンスを整合させるものである。インピーダンス整合装置2は、図示しない可変リアクタンス素子(例えば、可変キャパシタ、可変インダクタ等)を備えており、可変リアクタンス素子のリアクタンスを変化させることでインピーダンスを変化させる。インピーダンス整合装置2は、インピーダンス整合装置2の入力端aから負荷側を見たインピーダンスが特性インピーダンスとなるように、インピーダンス整合装置2の出力端bから負荷側を見たインピーダンスを変換する。
【0041】
なお、インピーダンス整合装置2内部の電源側には、図示しない高周波測定装置が設けられている。当該高周波測定装置はインピーダンス整合装置2の入力端aから負荷側を見たインピーダンスを測定するものであり、インピーダンス整合装置2は測定されたインピーダンスが特性インピーダンスになるように、可変リアクタンス素子のリアクタンスを変化させる。
【0042】
プラズマ処理装置4は、半導体ウェハや液晶基板等の被加工物をエッチングやCVD等の方法を用いて加工するための装置である。なお、図示しないが、プラズマ処理装置4は、プラズマを発生させるための窒素ガスやアルゴンガスなどの所定のガスを封入するための容器(チャンバー)と、高周波電源装置1からの高周波電力を容器内のガスに供給するための一対の電極を備えている。
【0043】
高周波測定装置3は、プラズマ処理中のプラズマ処理装置4の状態を監視するために、プラズマ処理装置4のインピーダンスおよび反射係数や、プラズマ処理装置4の入力端cにおける高周波電圧、高周波電流、進行波電力、および反射波電力などの高周波パラメータを測定する、いわゆるRFセンサである。なお、測定されるインピーダンスは高周波電圧および高周波電流を検出する点(測定点)から負荷側を見たインピーダンスであるが、測定点がプラズマ処理装置4の入力端c近傍なので、プラズマ処理装置4のインピーダンスに相当する。
【0044】
図3は、高周波測定装置3の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0045】
同図に示すように、高周波測定装置3は、カレントトランス部31、電流用変換回路32、コンデンサ部33、電圧用変換回路34、実効値算出回路35,36、位相差検出回路37、校正回路38、およびインピーダンス算出回路39を備えている。
【0046】
カレントトランス部31は、伝送線路5に流れる高周波電流に応じた電流を検出するものであり、検出した電流を電流用変換回路32に出力する。電流用変換回路32は、入力された電流をデジタル信号である電流信号iに変換して、実効値算出回路35および位相差検出回路37に出力する。コンデンサ部33は、伝送線路5に生じる高周波電圧に応じた電圧を検出するものであり、検出した電圧を電圧用変換回路34に出力する。電圧用変換回路34は、入力された電圧をデジタル信号である電圧信号vに変換して、実効値算出回路36および位相差検出回路37に出力する。
【0047】
実効値算出回路35は、電流実効値を算出するものである。実効値算出回路35は、電流用変換回路32より入力される電流信号iから電流実効値Iを算出して、校正回路38に出力する。実効値算出回路36は、電圧実効値を算出するものである。実効値算出回路36は、電圧用変換回路34より入力される電圧信号vから電圧実効値Vを算出して、校正回路38に出力する。位相差検出回路37は、電流と電圧の位相差を検出するものである。位相差検出回路37は、電流用変換回路32より入力される電流信号iと電圧用変換回路34より入力される電圧信号vとから位相差θを算出して、校正回路38に出力する。
【0048】
校正回路38は、電流実効値I、電圧実効値V、および位相差θの校正を行うものである。校正回路38は、実効値算出回路35より入力される電流実効値I、実効値算出回路36より入力される電圧実効値V、および位相差検出回路37より入力される位相差θを校正して、校正後の電流実効値I’、電圧実効値V’、および位相差θ’をインピーダンス算出回路39に出力する。
【0049】
校正回路38は、ベクトル変換部381、第1校正部382、第2校正部383、およびベクトル逆変換部384を備えており、ベクトルである電流および電圧に対して2段階で校正を行う。ベクトル変換部381は、入力される電流実効値I、電圧実効値V、および位相差θから、ベクトルである電流信号I0および電圧信号V0を算出して第1校正部382に出力する。電流信号I0および電圧信号V0は、電流信号I0の位相を基準(実数軸、虚数部0)として、I0=I+j0、V0=Vcosθ+jVsinθで算出される。第1校正部382は、図示しないメモリに記録されている第1の校正パラメータXを用いて、ベクトル変換部381から入力される電流信号I0および電圧信号V0に第1段階の校正を行い、校正後の電流信号I1および電圧信号V1を第2校正部383に出力する。第2校正部383は、メモリに記録されている第2の校正パラメータX’を用いて、第1校正部382から入力される電流信号I1および電圧信号V1に第2段階の校正を行い、校正後の電流信号I2および電圧信号V2をベクトル逆変換部384に出力する。ベクトル逆変換部384は、第2校正部383から入力される校正後の電流信号I2および電圧信号V2から、校正後の電流実効値I’、電圧実効値V’、および位相差θ’を算出して出力する。
【0050】
第1の校正パラメータXおよび第2の校正パラメータX’は、それぞれ3つの基準負荷に基づいて算出されて、メモリに記録されている。以下に、第1の校正パラメータXを算出する方法について説明する。
【0051】
ベクトル変換部381から出力される電流信号I0および電圧信号V0と、伝送線路5に流れる高周波電流および伝送線路5に生じる高周波電圧との関係を2端子対回路に置き換えると、電流信号I0および電圧信号V0を電流信号I1および電圧信号V1に校正する第1の校正パラメータXを、図4(a)に示す2次元のベクトル行列と考えることができる。
【0052】
高周波測定装置3を3つの基準負荷に接続して、それぞれ高周波測定装置3でインピーダンスを測定し、これらのインピーダンス測定値と3つの基準負荷のインピーダンスの真値とから第1の校正パラメータXの各要素X11、X12、X21、X22を算出することができる。なお、当該算出を行うためには、基準となる電圧値と電流値の絶対値が必要となる。電圧値と電流値の絶対値を基準値として利用するには、精度の高い電力測定値が必要となる。精度の高い電力測定値を測定するには、反射電力が0となる負荷を接続して測定するのが最もよい。したがって、本実施形態では、反射電力0を実現するために、特性インピーダンスと同一のインピーダンス(すなわち、50Ω)を有する負荷を基準負荷の1つに選定している。なお、上述したように、基準負荷の1つを特性インピーダンスを有する負荷としているのは精度の高い電力測定値を測定するためであるので、電力測定値を高い精度で測定できるのであれば、特性インピーダンス以外の負荷を用いるようにしてもよい。
【0053】
実際に基準負荷に高周波測定装置3を接続して基準負荷のインピーダンスを測定した場合、高周波測定装置3は基準負荷の入力端でのインピーダンスを測定することができず、測定されたインピーダンスには高周波測定装置3自体のインピーダンスも含まれることになる。したがって、基準負荷のみのインピーダンスを真値として第1の校正パラメータXを算出することはできない。本実施形態では、接続された負荷に高周波測定装置3を含めた全体を基準負荷とみなして、当該基準負荷のインピーダンスをインピーダンスアナライザで測定し、当該測定値を基準負荷の真値として第1の校正パラメータXを算出する。
【0054】
なお、基準負荷のうちの2つは、できるだけ広いインピーダンスの範囲を含めるために、開放状態のインピーダンスおよび短絡状態のインピーダンスにそれぞれ近いインピーダンスを有する負荷とすることが望ましい。一方、基準負荷として開放状態または短絡状態に近すぎるインピーダンスを有する負荷を用いた場合、高周波測定装置3によって検出される電圧値または電流値の一方が他方に比べ極めて小さい値になる。この場合、第1の校正パラメータXの各要素X11、X12、X21、X22を適切に算出することができない。したがって、本実施形態では、反射係数の大きさが例えば0.9以下である負荷を基準負荷としている。
【0055】
図5は、第1の校正パラメータXの各要素X11、X12、X21、X22を算出するために行う、基準負荷のインピーダンスの測定方法を説明するための図である。
【0056】
当該測定は、同図に示すように、高周波測定装置3の出力端cにダミーロード6を接続し、高周波測定装置3の入力端bにインピーダンスアナライザ7を接続して行われる。
【0057】
ダミーロード6は、所定の基準負荷を再現するための負荷装置であり、高周波測定装置3の入力端bから負荷側を見たインピーダンス、すなわちダミーロード6および高周波測定装置3全体のインピーダンスを所定の基準負荷のインピーダンスにする。ダミーロード6は、図示しない可変リアクタンス素子(例えば、可変キャパシタ、可変インダクタ等)のリアクタンスを変化させることでインピーダンスを変化させる。ダミーロード6は、特性インピーダンス(50Ω)を有する基準負荷と、開放状態のインピーダンスおよび短絡状態のインピーダンスにそれぞれ近く反射係数が0.9以下である2つの基準負荷とを、所定の基準負荷として再現できるようにあらかじめ設定されている。なお、ダミーロード6を接続して設定を切り替えることで3つの所定の基準負荷を再現する代わりに、所定の基準負荷を再現するための3つの負荷を順に接続するようにしてもよい。
【0058】
インピーダンスアナライザ7は、インピーダンスを測定するものであり、高周波測定装置3の入力端bから負荷側を見たインピーダンス、すなわち基準負荷のインピーダンスを測定する。
【0059】
第1の校正パラメータXの算出のための基準負荷のインピーダンスの測定は、各基準負荷を再現してインピーダンスアナライザ7と高周波測定装置3とでそれぞれインピーダンスを測定することで行われる。なお、高周波測定装置3が測定するインピーダンスの真値を得る方法があれば、インピーダンスアナライザ7を用いなくてもよい。
【0060】
高周波測定装置3によって測定される3つの基準負荷のインピーダンス測定値と、当該3つの基準負荷のインピーダンスの真値とから、第1の校正パラメータXの各要素X11、X12、X21、X22を算出することができる。算出された第1の校正パラメータXを用いて、図4(a)より、電流信号I0および電圧信号V0を校正後の電流信号I1および電圧信号V1に変換することができる。すなわち、図4(a)より導かれる下記(6)、(7)式より、校正後の電流信号I1および電圧信号V1を算出することができる。
【0061】
【数2】

【0062】
第2の校正パラメータX’を算出する方法も、上記第1の校正パラメータXを算出する方法と同様である。上記と同様に、第1校正部382から出力される電流信号I1および電圧信号V1と、伝送線路5に流れる高周波電流および伝送線路5に生じる高周波電圧との関係を2端子対回路に置き換えると、電流信号I1および電圧信号V1を電流信号I2および電圧信号V2に校正する第2の校正パラメータX’を、図4(b)に示す右側の2次元のベクトル行列と考えることができる。なお、図4(b)全体としては、電流信号I0および電圧信号V0を2次元のベクトル行列である第1の校正パラメータXおよび第2の校正パラメータX’によって変換して校正後の電流信号I2および電圧信号V2を出力する校正回路38を示している。
【0063】
第2の校正パラメータX'の各要素X'11、X'12、X'21、X'22も、上記と同様に、3つの基準負荷を再現したときにそれぞれ高周波測定装置3によって測定される基準負荷のインピーダンス測定値と、当該3つの基準負荷のインピーダンスの真値とから算出される。
【0064】
なお、3つの基準負荷の内の1つは、上記と同様に特性インピーダンス(50Ω)を有する負荷とする必要があるが、残り2つの基準負荷は、プラズマ処理装置4のプラズマ処理中のインピーダンスの変化範囲に基づいて決定される。すなわち、当該インピーダンスの変化範囲を含む狭いインピーダンスの範囲Eを特性インピーダンスを示す点A’との間で囲むように点B',C'が決定され(図1(b)参照)、点B',C'が示すインピーダンスを有する負荷が基準負荷に決定される。
【0065】
算出された第2の校正パラメータX'を用いて、図4(b)より、電流信号I1および電圧信号V1を校正後の電流信号I2および電圧信号V2に変換することができる。すなわち、図4(b)より導かれる下記(8)、(9)式より、校正後の電流信号I2および電圧信号V2を算出することができる。
【0066】
【数3】

【0067】
インピーダンス算出回路39は、インピーダンスを算出するものである。インピーダンス算出回路39は、校正回路38より入力される校正後の電流実効値I’、電圧実効値V’、および位相差θ’から、上記(1)〜(3)式により、インピーダンスZを算出して出力する。なお、高周波測定装置3は、進行波電力Pfや反射波電力Prなどの高周波パラメータも算出して出力するが、同図においてはこれらを算出する構成の記載を省略している。
【0068】
次に、高周波測定装置3の校正を行う手順について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0069】
図6は、高周波測定装置3の校正の手順を説明するためのフローチャートである。当該フローチャートは、高周波測定装置3でプラズマ処理装置4(測定対象装置)のインピーダンスを測定する場合の、検出された電流信号I0および電圧信号V0の校正を行う処理手順を示している。
【0070】
まず、高周波測定装置3にダミーロード6とインピーダンスアナライザ7とを接続して(図5参照)、ダミーロード6によって第1の基準負荷の再現を行い、インピーダンスアナライザ7と高周波測定装置3とでそれぞれインピーダンスを測定する(S1)。なお、第1の基準負荷は3つ設定されているので、それぞれの第1の基準負荷を再現して、それぞれインピーダンスアナライザ7と高周波測定装置3とでインピーダンスを測定する。当該第1の基準負荷は、特性インピーダンス(50Ω)を有する基準負荷と、開放状態のインピーダンスおよび短絡状態のインピーダンスにそれぞれ近く反射係数が0.9以下である2つの基準負荷としている。
【0071】
ステップS1でインピーダンスアナライザ7と高周波測定装置3によって測定された、3つの第1の基準負荷のそれぞれのインピーダンスから、第1の校正パラメータXを算出して、高周波測定装置3の図示しないメモリに記録する(S2)。本実施形態では、高周波測定装置3の図示しない演算回路が、インピーダンス算出回路39で算出されるインピーダンスとインピーダンスアナライザ7から入力されるインピーダンスとをメモリに記録しておき、3つの第1の基準負荷を測定した後に第1の校正パラメータXの各要素を算出してメモリに記録する。なお、第1の校正パラメータXの算出は高周波測定装置3の演算回路が行う場合に限定されず、例えば、作業者が別途行うようにしてもよい。この場合、作業者が高周波測定装置3の図示しない入力手段で第1の校正パラメータXを入力することで、メモリに記録すればよい。
【0072】
次に、高周波測定装置3を実際に使用されるプラズマ処理システムAに設置して(図2参照)、実際にプラズマ処理を行っているときのプラズマ処理装置4(測定対象装置)のインピーダンスを測定する(S3)。このとき、高周波測定装置3は、電流信号I0および電圧信号V0をメモリに記録された第1の校正パラメータXで校正して、校正後の電流信号I1および電圧信号V1に基づいてインピーダンスZを算出する。したがって、高周波測定装置3によって測定されたインピーダンスZは、精度は高くないがある程度信用できるものである。
【0073】
ステップS3で高周波測定装置3によって測定されたインピーダンスから、プラズマ処理を行っているときのプラズマ処理装置4のインピーダンスの変化範囲を確認し、第2の基準負荷を決定する(S4)。第2の基準負荷のうちの1つは、特性インピーダンス(50Ω)を有する基準負荷とされ、残り2つの基準負荷は、プラズマ処理装置4のプラズマ処理中のインピーダンスの変化範囲に基づいて決定される。本実施形態では、高周波測定装置3の図示しない演算回路が、インピーダンス算出回路39で算出されるインピーダンスZに基づいて、残り2つの基準負荷のインピーダンスを決定する。なお、残り2つの基準負荷のインピーダンスの決定は高周波測定装置3の演算回路が行う場合に限定されず、例えば、作業者がインピーダンスの測定値に基づいて別途行うようにしてもよい。
【0074】
次に、ふたたび高周波測定装置3にダミーロード6とインピーダンスアナライザ7とを接続して(図5参照)、ダミーロード6によって第2の基準負荷の再現を行い、インピーダンスアナライザ7と高周波測定装置3とでそれぞれインピーダンスを測定する(S5)。なお、第2の基準負荷は3つ設定されているので、それぞれの第2の基準負荷を再現して、それぞれインピーダンスアナライザ7と高周波測定装置3とでインピーダンスを測定する。
【0075】
ステップS5でインピーダンスアナライザ7と高周波測定装置3によって測定された、3つの第2の基準負荷のそれぞれのインピーダンスから、第2の校正パラメータX’を算出して、高周波測定装置3のメモリに記録する(S6)。本実施形態では、高周波測定装置3の演算回路が、インピーダンス算出回路39で算出されるインピーダンスとインピーダンスアナライザ7から入力されるインピーダンスとをメモリに記録しておき、3つの第2の基準負荷を測定した後に第2の校正パラメータX’の各要素を算出してメモリに記録する。なお、第2の校正パラメータX’の算出は高周波測定装置3の演算回路が行う場合に限定されず、例えば、作業者が別途行うようにしてもよい。この場合、作業者が高周波測定装置3の図示しない入力手段で第2の校正パラメータX’を入力することで、メモリに記録すればよい。
【0076】
次に、ふたたび高周波測定装置3を実際に使用されるプラズマ処理システムAに設置して(図2参照)、実際にプラズマ処理を行っているときのプラズマ処理装置4(測定対象装置)のインピーダンスを測定する(S7)。このとき、高周波測定装置3は、電流信号I0および電圧信号V0をメモリに記録された第1の校正パラメータXおよび第2の校正パラメータX’で校正して、校正後の電流信号I2および電圧信号V2に基づく電流実効値I’、電圧実効値V’、および位相差θ’からインピーダンスZを算出する。第2の校正パラメータX’による校正の精度は十分高いものなので、電流信号I0および電圧信号V0を高い精度で校正することができる。したがって、高周波測定装置3によって測定された電流実効値I’、電圧実効値V’、およびインピーダンスZは、精度が高く信用できるものである。
【0077】
なお、上記校正の処理手順は、高周波測定装置3のメモリに第1の校正パラメータXおよび第2の校正パラメータX’が記録されていない場合の処理手順である。上記処理手順のうちステップS1およびS2については毎回行なう必要はなく、1度行ってメモリに第1の校正パラメータXを記録しておけばよい。この処理は、高周波測定装置3の製造時に、製造メーカが行っておいてもよい。一方、ステップS3以降の処理は、プラズマ処理の内容(使用するガスの種類やガスの圧力など)や、高周波測定装置3を設置するプラズマ処理装置4が変わるたびに行う必要がある。
【0078】
上記のように、本発明においては、2段階の校正が行われる。すなわち、まず、低精度だが広いインピーダンスの範囲で校正可能な第1の校正パラメータXで校正が行われて測定対象装置のインピーダンスの変化範囲が確認され、次に、当該変化範囲でのみ高精度に校正可能な第2の校正パラメータX’で校正が行われる。第1の校正パラメータXは低精度だが広いインピーダンスの範囲で校正を行うことができるので、当初はどこに位置するかわからない測定対象装置のインピーダンスの変化範囲を確認することができる。第2の校正パラメータX’は第1の校正パラメータXより狭いインピーダンスの範囲でのみ校正を行うために求められたものなので、インピーダンスが当該範囲に入っている場合に、第2の校正パラメータX’による校正の精度は十分高いものになる。したがって、検出された電圧および電流を高い精度で校正することができる。
【0079】
なお、上記実施形態では2段階の校正を行う場合について説明したが、校正は2段階に限定されない。校正の段階数を多くすれば、校正の精度をさらに高いものにすることができる。以下に、3段階の校正を行う場合を第2実施形態として説明する。
【0080】
図7は、第2実施形態に係る高周波測定装置の校正回路の内部構成を説明するためのブロック図である。なお、同図において、図3に示す高周波測定装置3の校正回路38と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。図7に示す校正回路38'は、第3校正部385を備えている点で、図3に示す校正回路38と異なる。
【0081】
第3校正部385は、メモリに記録されている第3の校正パラメータX”を用いて、第2校正部383から入力される電流信号I2および電圧信号V2に第3段階の校正を行い、校正後の電流信号I3および電圧信号V3を出力する。第3の校正パラメータX”は、上記第2の校正パラメータX’を算出する方法と同様の方法で算出される。すなわち、第3の3つの基準負荷を再現したときにそれぞれ高周波測定装置3によって測定される基準負荷のインピーダンス測定値と、当該3つの基準負荷のインピーダンスの真値とから算出される。第3の3つの基準負荷の内の1つは、上記と同様に特性インピーダンス(50Ω)を有する負荷とされ、残り2つの基準負荷は、プラズマ処理装置4のプラズマ処理中のインピーダンスの変化範囲に基づいて決定される。このとき、測定されるプラズマ処理装置4のインピーダンスは、第1の校正パラメータXおよび第2の校正パラメータX'を用いて高い精度で校正された校正後の電流信号I2および電圧信号V2から算出されるので、精度が高く信頼性の高い測定値となる。したがって、インピーダンスの変化範囲を含むインピーダンスの範囲をより狭い範囲として設定することができるので、第3の校正パラメータX”による校正の精度を、第2の校正パラメータX’による校正の精度より高いものとすることができる。
【0082】
上記第1実施形態および第2実施形態の場合、プラズマ処理装置4のプラズマ処理の内容(使用するガスの種類やガスの圧力など)を変更したりするたびに、図6に示すフローチャートのステップS3〜S6の処理手順を行なう必要がある。プラズマ処理装置4の処理内容毎の第2の校正パラメータX’をメモリに記録しておき、処理内容毎に第2の校正パラメータX’を切り替えるようにすれば、校正の処理手順を簡略化することができる。以下に、2種類の処理内容毎の第2の校正パラメータX’を記録しておく場合を第3実施形態として説明する。
【0083】
図8は、第3実施形態に係る高周波測定装置の校正回路の内部構成を説明するためのブロック図である。なお、同図において、図3に示す高周波測定装置3の校正回路38と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。図8に示す校正回路38”は、第4校正部386および選択部387を備えている点で、図3に示す校正回路38と異なる。
【0084】
第4校正部386は、メモリに記録されている第4の校正パラメータX'''を用いて、
第1校正回路382から入力される電流信号I1および電圧信号V1に第2段階の校正を行い、校正後の電流信号I2'および電圧信号V2'を出力する。第4の校正パラメータX'''は、上記第2の校正パラメータX’を算出する方法と同様の方法で算出される。ただし、第2の校正パラメータX’を算出したときとはプラズマ処理装置4のプラズマ処理内容が異なるものなので、プラズマ処理装置4のインピーダンスの変化範囲も異なるものとなる。このインピーダンスの変化範囲に基づいて第4の基準負荷が決定され、第4の校正パラメータX’’’が算出される。
【0085】
図9は、スミスチャート上での各インピーダンスの位置を示すための図である。範囲Eを囲む点A’,B’,C’は、第2の基準負荷のインピーダンスの位置を示しており、範囲Fを囲む点A”,B”,C”は、第4の基準負荷のインピーダンスの位置を示している。なお、点A’および点A”は、ともに特性インピーダンスである50Ωの位置を示している。プラズマ処理中の高周波測定装置3のインピーダンスが範囲E内にある場合、範囲Eを囲む点A’,B’,C’のインピーダンスを基準として算出された第2の校正パラメータX’を用いれば高い精度で校正を行うことができる。また、プラズマ処理中の高周波測定装置3のインピーダンスが範囲F内にある場合、範囲Fを囲む点A”,B”,C”のインピーダンスを基準として算出された第4の校正パラメータX'''を用いれば高い精度で校正を行うことができる。
【0086】
選択部387は、第2段階の校正で第2の校正パラメータX'と第4の校正パラメータX'''のいずれを用いるかを選択するものである。選択部387は、インピーダンス算出回路39から出力されるインピーダンスZが入力され、当該インピーダンスZが範囲E内にあるか範囲F内にあるかを判別する。インピーダンスZが範囲E内にあると判別した場合、第2校正部383から入力される校正後の電流信号I2および電圧信号V2を出力する。一方、インピーダンスZが範囲F内にあると判別した場合、第4校正部386から入力される校正後の電流信号I2'および電圧信号V2'を出力する。
【0087】
第3実施形態によると、インピーダンス算出回路39から出力されるインピーダンスZに基づいて、第2段階の校正で用いるパラメータを第2の校正パラメータX'と第4の校正パラメータX'''とで自動的に切り替えることができる。したがって、プラズマ処理の内容を変更するたびに校正のための処理手順を行う必要がない。なお、インピーダンス算出回路39から出力されるインピーダンスZに基づいて自動的に切り替える代わりに、プラズマ処理の内容に応じて作業者が手動で切り替えるようにしてもよい。また、第2段階の校正で用いるパラメータを3種類以上用意するようにしてもよい。
【0088】
本発明に係る高周波測定装置、および、高周波測定装置の校正方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る高周波測定装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0089】
A プラズマ処理システム
1 高周波電源装置
2 インピーダンス整合装置
3 高周波測定装置
31 カレントトランス部(電流検出手段)
32 電流用変換回路(電流検出手段)
33 コンデンサ部(電圧検出手段)
34 電圧用変換回路(電圧検出手段)
35 実効値算出回路
36 実効値算出回路
37 位相差検出回路
38,38',38” 校正回路
381 ベクトル変換部
382 第1校正部
383 第2校正部
384 ベクトル逆変換部
385 第3校正部
386 第4校正部
387 選択部(判断手段)
39 インピーダンス算出回路
4 プラズマ処理装置
5 伝送線路
6 ダミーロード
7 インピーダンスアナライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置を含む負荷とこの負荷に高周波電力を供給する高周波電源装置との間に接続されて、当該接続点における高周波電圧および高周波電流を検出し、検出された電圧値と電流値とに基づいて、当該接続点から負荷側を見たインピーダンスを算出する高周波測定装置の前記電圧値と電流値の校正方法であって、
第1の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時に算出されたインピーダンスと前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて、前記電圧値と電流値とを校正するための第1のパラメータを算出して、前記高周波測定装置に設定する第1の行程と、
前記高周波測定装置を測定対象の負荷に接続してプラズマ処理を行い、検出された電圧値と電流値とを前記第1のパラメータを用いて校正し、当該校正後の電圧値と電流値とに基づいて、接続点から負荷側を見たインピーダンスを算出する第2の行程と、
スミスチャート上で表示した場合に、前記第2の行程で算出されたインピーダンスを含み、かつ、前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる3つのインピーダンスを決定する第3の行程と、
前記3つのインピーダンスをそれぞれ有する第2の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時に算出されたインピーダンスと前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて、前記第1のパラメータを用いて校正された電圧値と電流値とをさらに校正するための第2のパラメータを算出して、前記高周波測定装置に設定する第4の行程と、
前記高周波測定装置を前記測定対象の負荷に接続して、検出された電圧値と電流値とを前記第1のパラメータおよび第2のパラメータを用いて校正する第5の行程と、
を備えている校正方法。
【請求項2】
前記第5の行程によって校正された電圧値と電流値とに基づいて、接続点から負荷側を見たインピーダンスを算出する第6の行程と、
スミスチャート上で表示した場合に、前記第6の行程で算出されたインピーダンスを含み、かつ、前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる3つのインピーダンスを決定する第7の行程と、
前記第7の行程によって決定された3つのインピーダンスをそれぞれ有する第3の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時に算出されたインピーダンスと前記第3の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて、前記第1のパラメータおよび第2のパラメータを用いて校正された電圧値と電流値とをさらに校正するための第3のパラメータを算出して、前記高周波測定装置に設定する第8の行程と、
前記高周波測定装置を前記測定対象の負荷に接続して、検出された電圧値と電流値とを前記第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータを用いて校正する第9の行程と、
をさらに備えている、請求項1に記載の校正方法。
【請求項3】
前記第1の3つの基準負荷の内の1つの基準負荷は前記高周波測定装置の特性インピーダンスと同一のインピーダンスを有する負荷である、請求項1または2に記載の校正方法。
【請求項4】
プラズマ処理装置を含む負荷とこの負荷に高周波電力を供給する高周波電源装置との間に接続されて、当該接続点における高周波電圧および高周波電流を検出する高周波測定装置であって、
前記接続点における高周波電圧を検出する電圧検出手段と、
前記接続点における高周波電流を検出する電流検出手段と、
前記電圧検出手段によって検出された電圧値と前記電流検出手段によって検出された電流値とを校正する校正手段と、
前記校正手段によって校正された前記電圧値と電流値とに基づいて、前記接続点から負荷側を見たインピーダンスを算出するインピーダンス算出手段と、
を備えており、
前記校正手段は、
第1の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時の前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスと前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて算出された第1のパラメータを用いて、前記検出された電圧値と電流値とを校正する第1校正手段と、
スミスチャート上で表示した場合に前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる第2の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時の前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスと前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて算出された第2のパラメータを用いて、前記第1校正手段によって校正された前記電圧値と電流値とをさらに校正する第2校正手段と、
を備えている高周波測定装置。
【請求項5】
前記校正手段は、スミスチャート上で表示した場合に前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる第3の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時の前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスと前記第3の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて算出された第3のパラメータを用いて、前記第2校正手段によって校正された前記電圧値と電流値とをさらに校正する第3校正手段をさらに備えている、請求項4に記載の高周波測定装置。
【請求項6】
前記校正手段は、
スミスチャート上で表示した場合に前記第1の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲より狭い範囲を囲むことになる第4の3つの基準負荷に前記高周波測定装置を接続した時の前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスと前記第4の3つの基準負荷のインピーダンスとに基づいて算出された第4のパラメータを用いて、前記第1校正手段によって校正された前記電圧値と電流値とをさらに校正する第4校正手段と、
前記インピーダンス算出手段によって算出されたインピーダンスをスミスチャート上に表示した場合に、前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲に入っているか、前記第4の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲に入っているかを判断する判断手段と、
をさらに備えており、
前記判断手段によって前記第2の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲に入っていると判断された場合には前記第2校正手段によって校正を行い、前記判断手段によって前記第4の3つの基準負荷のインピーダンスによって囲まれる範囲に入っていると判断された場合には前記第4校正手段によって校正を行う、
請求項4に記載の高周波測定装置。
【請求項7】
前記第1の3つの基準負荷の内の1つの基準負荷は前記高周波測定装置の特性インピーダンスと同一のインピーダンスを有する負荷である、請求項4ないし6のいずれかに記載の高周波測定装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図1】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−196932(P2011−196932A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66472(P2010−66472)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】