説明

高圧下における二酸化炭素の分離装置及びその方法

【課題】被処理ガス中に含まれる二酸化炭素をハイドレート化して分離するにあたり、該被処理ガスから二酸化炭素を高効率に分離することができる二酸化炭素の分離装置及び方法を提供すること。
【解決手段】二酸化炭素を含む被処理ガスと水を原料として二酸化炭素のハイドレートを生成する二酸化炭素ハイドレート生成部と、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過した高圧ガスを、前記二酸化炭素ハイドレート生成部内の圧力よりも低く、大気圧よりも高い圧力にまで下げる降圧部と、大気圧よりも高い圧力下において二酸化炭素を吸着し、吸着時よりも圧力を下げることによって前記二酸化炭素を脱着する二酸化炭素吸着部と、を備えた高圧下における二酸化炭素の分離装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼排ガスやプロセスガス等の被処理ガス中に含まれる二酸化炭素を高圧下において分離する二酸化炭素の分離装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス化複合発電(IGCC)は、石炭をガス化させてガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて発電を行い、石炭を高効率にエネルギー化できる発電方法として注目されている。前記ガス化複合発電では二酸化炭素(CO)と水素(H)を含むプロセスガスが生成され、前記プロセスガスから二酸化炭素を分離し、Hガスをガスタービンにおいて燃焼させて発電するとともに、前記ガスタービンにおいてHガスが燃焼する際に発生した蒸気を用いて蒸気タービンによる発電を行う。尚、前記プロセスガスの二酸化炭素と水素の混合比は、一般的に約4:6程度である。
【0003】
前記ガス化複合発電、石炭火力発電等の発電システムや、鉄鋼プラント、セメントプラント等における燃焼排ガスやシフトガス中に含まれる二酸化炭素を分離する技術として、前記燃焼排ガスやシフトガス等の被処理ガス中の二酸化炭素をハイドレート化することによって前記被処理ガスから二酸化炭素を分離するハイドレート分離法は、水のみを利用して二酸化炭素の分離を行うことができるという点で最もクリーンな方法であり、注目されている。
【0004】
ここで、ガスハイドレートの生成条件はハイドレート化されるガス種によって異なるが、一般的に高圧、低温の条件である。二酸化炭素ハイドレートの場合、被処理ガス中の二酸化炭素濃度により異なるが、例えば圧力5MPa〜20MPa、温度0℃〜4℃において生成する。
一方、二酸化炭素は被処理ガス中に含まれる他のガス成分(水素、窒素など)に比べて水への溶解度が非常に高いことが知られており、その溶解度は圧力が高くなるほど、または温度が低くなるほど大きくなる傾向がある。
【0005】
以上により、反応器内を高圧低温条件にして前記被処理ガス中に含まれる二酸化炭素(ガス)のハイドレート化を行う場合、前記反応器においてハイドレートが生成すると同時に二酸化炭素の溶解が起こることで二酸化炭素分圧が低下し、ハイドレートの生成が止まってしまい、二酸化炭素がガスのまま反応器から流出するため、二酸化炭素の分離効率が低下してしまう。
他方、前記反応器内での二酸化炭素の溶解による二酸化炭素分圧の低下を解消するためには、当該反応器内の圧力を更に高くすれば良いが、この場合、ガスの圧縮動力の増加や反応器製造コストの増加を招き、その結果として二酸化炭素回収コストが増加するという問題がある。
【0006】
この二酸化炭素ハイドレート生成に伴う被処理ガス中の二酸化炭素分圧の低下の問題を解決するため、液化天然ガス(LNG)のガス化時に発生する冷熱を利用して微細氷を作成し、ガスハイドレート生成反応の効率を向上させて二酸化炭素を分離する方法が行われているが(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)、前記微細氷を作成するなどの設備導入コストが必要である。
【0007】
また、被処理ガスから二酸化炭素を分離する技術としては、前述した二酸化炭素のハイドレート化による分離方法の他、PSA法(Pressure Swing Adsorption)、膜分離法、物理吸収法、化学吸収法などがある。例えば、前記PSA法を用いる場合、圧力変化により吸着材への吸着および脱着が行われる吸着塔を複数設けることにより二酸化炭素の分離回収特性を向上させることが行われている(例えば特許文献3を参照)。しかしながら、この場合も複数の吸着塔を設けるための設備導入コストが嵩む上、システムが複雑化する問題がある。
【0008】
更に、前記PSA法に用いられる吸着材(例えばゼオライト系吸着材)は、一般的に大気圧において二酸化炭素を吸着し、吸着した二酸化炭素を脱着させる際には該吸着材を真空にまで減圧する必要があるため、その減圧を行うためのエネルギーコストがかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−132664号公報
【特許文献2】特開2006−282403号公報
【特許文献3】特開2007−320791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記問題に鑑み、本発明の目的は、被処理ガス中に含まれる二酸化炭素をハイドレート化して分離するにあたり、前記被処理ガスから二酸化炭素を高効率に分離することができる二酸化炭素の分離装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置は、二酸化炭素を含む被処理ガスと水を原料として二酸化炭素のハイドレートを生成する二酸化炭素ハイドレート生成部と、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過した高圧ガスを、前記二酸化炭素ハイドレート生成部内の圧力よりも低く、大気圧よりも高い圧力にまで下げる降圧部と、大気圧よりも高い圧力下において二酸化炭素を吸着し、吸着時よりも圧力を下げることによって前記二酸化炭素を脱着する二酸化炭素吸着部と、を備えたものである。
【0012】
本態様に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置は、二酸化炭素ハイドレート生成部において、被処理ガス中に含まれる二酸化炭素をハイドレート化することによって分離し、その後段において、二酸化炭素吸着部による二酸化炭素の分離を行うものである。
【0013】
二酸化炭素ハイドレート生成部における二酸化炭素ハイドレートを生成させると、前述のように、前記二酸化炭素ハイドレート生成部においてハイドレートが生成すると同時に二酸化炭素の水への溶解が起こることで二酸化炭素分圧が低下し、ハイドレートの生成が止まってしまい、二酸化炭素がガスのまま二酸化炭素ハイドレート生成部を通過してしまう。
本態様によれば、前記二酸化炭素ハイドレート生成部の後段に二酸化炭素吸着部を設けることにより、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過したガス中に含まれる二酸化炭素を二酸化炭素吸着部において吸着し、短時間且つ高効率で被処理ガスからの二酸化炭素の分離を実現することができる。
【0014】
ここで、二酸化炭素ハイドレートの生成条件は、被処理ガス中の二酸化炭素濃度により異なるが、例えば圧力5MPa〜20MPa、温度0℃〜4℃において生成する。すなわち大気圧より高圧の条件で行われる。したがって、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過したガスは高圧である(以下、二酸化炭素ハイドレート生成部を通過したガスを高圧ガスと称する場合がある)。
【0015】
前記二酸化炭素吸着部は、大気圧よりも高い圧力下において二酸化炭素を吸着する構成であるので、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過した高圧ガスの圧力を利用することができる。そして、前記二酸化炭素吸着部からの二酸化炭素の脱着は、その圧力を吸着時よりも下げることにより行われるので、例えば該二酸化炭素吸着部内を大気開放するだけで脱着することができる。
すなわち、二酸化炭素吸着部における二酸化炭素の吸着および脱着を行うための圧力変化にエネルギーをほとんど要しない。
【0016】
一方、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過した高圧ガスは、二酸化炭素ハイドレート生成部内の温度(0℃〜4℃)における飽和水蒸気を含んでいる。
一般的に、PSA方式による吸着部に用いられる吸着材は水分も吸着するため、二酸化炭素吸着部に導入される高圧ガス中に水分が多く含まれていると該二酸化炭素吸着部における二酸化炭素吸着能が低下する。
【0017】
本態様では、二酸化炭素吸着部に前記高圧ガスを導入する前に降圧部を設け、該降圧部おいて前記高圧ガス(例えば5MPa〜20MPa)の圧力を、前記二酸化炭素ハイドレート生成部内の圧力よりも低く、大気圧よりも高い圧力(例えば3MPa〜4MPa)にまで下げるように構成されている。前記高圧ガスの圧力を下げる(降圧する)際には冷熱が発生し、該ガス温は下がる。ガス温が下がると該ガスの飽和水蒸気量は減少するため、圧力が下げられた降圧後の高圧ガス(3MPa〜4MPa)に含まれる水分量は減少する。したがって、より水分の少ないガスを二酸化炭素吸着部に送ることができる。
【0018】
以上のように、二酸化炭素ハイドレート生成部の後段に二酸化炭素吸着部を設けることにより、二酸化炭素ハイドレート生成部内における二酸化炭素分圧の変化の影響を抑え、安定した二酸化炭素の分離を行うことができる。二酸化炭素吸着部では、前段の二酸化炭素ハイドレート生成部において二酸化炭素がある程度除かれたガスを処理するため、複数段の吸着部による吸着を行う必要はなく、設備導入コストも抑えることができる。
【0019】
本発明の第2の態様に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置は、第1の態様において、前記二酸化炭素ハイドレート生成部と前記降圧部の間に、前記高圧ガスを貯留するガス貯留部を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過した高圧ガスを前記ガス貯留部に一旦貯留し、該ガス貯留部から前記高圧ガスを前記降圧部に送るので、前記二酸化炭素ハイドレート生成部内の圧力変動を少なくすることができる。以って、該二酸化炭素ハイドレート生成部において二酸化炭素ハイドレートを安定して生成させることができる。
【0021】
本発明の第3の態様に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置は、第1の態様または第2の態様において、前記二酸化炭素のハイドレートを受けて分解し、再ガス化するガスハイドレート分解部を備え、前記ガスハイドレート分解部での前記再ガス化で得られる水は、前記降圧部において前記高圧ガスが降圧するときに発生する冷熱によって冷却されるとともに、前記二酸化炭素ハイドレート生成部に送られるように構成されていることを特徴とするものである。
【0022】
前記二酸化炭素ハイドレートの分解時には比較的低温の分解熱が必要であり、該分解によって生じる水(前記再ガス化で得られる水)は約10〜15℃程度になっている。
ここで、前記再ガス化で得られる水を二酸化炭素ハイドレート生成部に送って循環利用するためには、その水を前記二酸化炭素ハイドレート生成部内における二酸化炭素ハイドレートの生成条件に適した温度に冷却する必要がある。例えば、前記二酸化炭素ハイドレート生成部内の圧力が6〜9MPaのとき、該二酸化炭素ハイドレート生成部内の温度は2〜4℃に設定されるので、二酸化炭素ハイドレート生成部内に送られる水の温度は当該二酸化炭素ハイドレート生成部11内の温度よりも低い1〜2℃であることが望ましい。
【0023】
本態様によれば、前記再ガス化で得られる水を、前記降圧部において前記高圧ガスが降圧するときに発生する冷熱を用いて冷却するので、当該水の冷却にかかる消費エネルギーを低減させることができる。以って装置全体の運転コストを低減することができる。
【0024】
本発明の第4の態様に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置は、第1の態様から第3の態様のいずれか一つにおいて、前記被処理ガスは、有用ガス成分と二酸化炭素とを含む混合ガスであることを特徴とするものである。
【0025】
ここで、「有用ガス成分」とは、ある特定の用途に対して有用なガス成分を指すものである。本態様によれば、被処理ガスに含まれる有用ガス成分と二酸化炭素を高効率に分離することができる。以って、前記有用ガス成分の濃縮、精製を行うことができる。
【0026】
本発明の第5の態様に係る高圧下における二酸化炭素の分離方法は、二酸化炭素を含む被処理ガスと水を原料として二酸化炭素のハイドレートを生成する二酸化炭素ハイドレート生成工程と、前記二酸化炭素ハイドレート生成工程においてハイドレート化しないで通過した高圧ガスを、前記ハイドレート生成工程における圧力よりも低く、大気圧よりも高い圧力にまで下げる降圧工程と、大気圧よりも高い圧力下において二酸化炭素を吸着させ、吸着時よりも圧力を下げることによって前記二酸化炭素を脱着させる二酸化炭素吸着工程と、を有するものである。
【0027】
本態様によれば、第1の態様と同様の作用効果を奏し、二酸化炭素を含む被処理ガス中から二酸化炭素を高効率で分離することができる。
【0028】
本発明の第6の態様に高圧下における二酸化炭素の分離方法は、第5の態様において、前記二酸化炭素のハイドレートを受けて分解し、再ガス化するガスハイドレート分解工程と、前記ガスハイドレート分解工程における前記再ガス化によって得られる水を、前記降圧工程において前記高圧ガスが降圧するときに発生する冷熱によって冷却するとともに、前記二酸化炭素ハイドレート生成工程に送る工程と、を有することを特徴とするものである。本態様によれば、第3の態様と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、被処理ガス中に含まれる二酸化炭素をハイドレート化し、短時間且つ高効率で被処理ガスから二酸化炭素を除去することができるとともに、消費エネルギーを低減させ、装置の運転コストの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置を示す概略構成図である。
【図2】実施例2に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置を示す概略構成図である。
【図3】実施例3に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0032】
[実施例1]
図1は、実施例1に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置の一例を示す概略構成図である。本実施例に係る二酸化炭素の分離装置10は、二酸化炭素を含む被処理ガスGと水を原料として二酸化炭素のハイドレートを生成する二酸化炭素ハイドレート生成部11を備えている。
前記被処理ガスGは、圧縮装置2および冷却器3によって所定の圧力および温度にされて前記二酸化炭素ハイドレート生成部11の下部に設けられた被処理ガス導入口12から該二酸化炭素ハイドレート生成部11内に導入されるように構成されている。尚、被処理ガスGの圧力が高い場合には、前記圧縮装置2は省略することができる。また、前記被処理ガスG中に含まれる水分を除くため、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11の前に被処理ガス脱水器1を設けることが好ましい。
【0033】
前記二酸化炭素ハイドレート生成部11内は、二酸化炭素ハイドレートが生成する所定の圧力および温度(例えば、6〜9MPa、2〜4℃)に設定されており、当該二酸化炭素ハイドレート生成部11内において、前記被処理ガスG中に含まれる二酸化炭素と水を原料として二酸化炭素ハイドレートを生成する二酸化炭素ハイドレート生成工程を行う。
【0034】
前記ガスハイドレート生成部11におけるガスハイドレート生成工程は、水中に微細な気泡を吹き込むバブリング法、ガス中に水を噴霧する噴霧法等の公知の方法によって行うことができる。特にバブリング法は気液接触効率が良く、目的のガスハイドレートを効率よく生成させることができるので好ましい。尚、バブリング法、噴霧法等によって得られる二酸化炭素ハイドレートはスラリーの状態で得られる。
【0035】
二酸化炭素ハイドレート生成時には、二酸化炭素1molあたり65.2kJの生成熱が発生する。該生成熱により二酸化炭素ハイドレート生成部11内の温度が上昇することを防ぎ、当該二酸化炭素ハイドレート生成部11内を所定の温度(例えば2〜4℃)に保持するため、該二酸化炭素ハイドレート生成部11の水を抜き出して循環させるライン17を設け、前記抜き出した水を例えば冷却器18により約1〜2℃に冷却するように構成されていることが望ましい。
【0036】
二酸化炭素ハイドレート生成部11において生成した二酸化炭素ハイドレートスラリーは、ライン15から系外に排出されるように構成されている。そして、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11をハイドレート化しないで通過した高圧ガスGは、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11の上部に設けられた高圧ガス排出口13から排出されて、ライン14を介して後述する降圧部21に送られるように構成されている。
【0037】
降圧部21は、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11を通過した高圧ガスGの圧力を下げる構成のものであり、例えばガスエキスパンダーが用いられる。該降圧部21において、ライン14によって送られた高圧ガスGの圧力は、前記二酸化炭素ハイドレート生成部内の圧力よりも低く、大気圧よりも高い圧力にまで下げられる。前記降圧部21を通過したガス(以下、ガスGと称する)は、依然として大気圧よりも高圧のガスである。
【0038】
前記降圧部21を通過したガスGは、ライン23によって二酸化炭素吸着部31に送られる。符号24はバルブである。
本実施例では、二酸化炭素吸着部31aと二酸化炭素吸着部31bを備え、一方の二酸化炭素吸着部(例えば符号31a)において二酸化炭素の脱着を行っている間に、他方の二酸化炭素吸着部(例えば符号31b)において二酸化炭素の吸着を行い、全体として連続的に二酸化炭素吸着工程を行うことができるように構成されている。尚、符号32a、32b、33a、33b、34a、34b、35a、35b、はバルブであり、これらのバルブの開閉によって2つの二酸化炭素吸着部31aおよび二酸化炭素吸着部31bにおいて交互に吸脱着を行うことができるように構成されている。各構成部を繋ぐ他のラインにも適宜バルブを設けることができる(例えばバルブ24、バルブ36、バルブ38、バルブ41)。
【0039】
二酸化炭素吸着部31aおよび二酸化炭素吸着部31bには、大気圧よりも高い圧力下において二酸化炭素を吸着し、吸着時よりも圧力を下げることによって前記二酸化炭素を脱着する吸着材が用いられる。例えば、無機系の炭酸ガス吸着材等を用いることができる。
【0040】
二酸化炭素吸着部31における二酸化炭素の吸脱着について更に詳細に説明する。まず、二酸化炭素吸着部31aにおいて吸着を行う場合について説明する。
バルブ32aおよびバルブ34aを開き、バルブ33aおよびバルブ35aを閉じ、二酸化炭素吸着部31aに前記降圧部21を通過した大気圧よりも高圧のガスGが送られる。そして、該二酸化炭素吸着部31aにおいてガスG中に含まれる二酸化炭素が吸着される。二酸化炭素吸着部31aを通過して二酸化炭素が除かれた処理ガスGがライン39によって送られる。
被処理ガスGが、例えば前記ガス化複合発電(IGCC)のプロセスガスのような水素等の有用ガス成分と二酸化炭素とを含む混合ガスである場合、二酸化炭素が分離された処理ガスG(例えば水素)は製品として貯蔵タンク(図示せず)等に貯留される。尚、処理ガスGは、後述する二酸化炭素吸着部31aのパージのために用いるため、一部をバッファータンク37に貯留することが望ましい。
【0041】
二酸化炭素吸着部31aに吸着された二酸化炭素の脱着は、吸着時よりも圧力を下げることにより行われる。ここで二酸化炭素の吸着は、前述のとおり、大気圧よりも高い圧力下において行われている。従って、二酸化炭素の脱着は、前記二酸化炭素吸着部31a内を大気開放するだけで行うことができる。
尚、二酸化炭素吸着部31内を減圧にすればより効率がよく脱着を行うことができる。このときの減圧度は真空付近までの減圧を必要としないので、減圧操作にかかるコストを抑えることができる。
【0042】
二酸化炭素吸着部31aの圧力を下げて二酸化炭素の脱着を行った後、二酸化炭素を含まないガスを用いて二酸化炭素吸着部31a内のパージを行う。このパージガスとしては、前記バッファータンク37に貯留された処理ガスGを用いることができる。
処理ガスGはライン40によって二酸化炭素吸着部31aに送られる。このとき、バルブ32aおよびバルブ34aは閉、バルブ33aおよびバルブ35aは開である。パージ後の排ガスGexはライン42によって排出される。排ガスGexは再度二酸化炭素ハイドレート生成部11に戻して再精製してもよい。
また、バッファータンク37内の処理ガスGの圧力は、前記二酸化炭素吸着部31aおよび二酸化炭素吸着部31bにおける二酸化炭素吸着時の圧力と同じ程度(3〜4MPa)である。従って、このパージによって二酸化炭素吸着部31a内の再昇圧が可能である。
【0043】
次に、本実施例に係る二酸化炭素の分離装置10および該二酸化炭素の分離装置10を用いた高圧下における二酸化炭素の分離方法についての作用効果を説明する。
本実施例に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置10は、二酸化炭素ハイドレート生成部11において、被処理ガスG中に含まれる二酸化炭素をハイドレート化することによって分離し、その後段において、二酸化炭素吸着部31による二酸化炭素の分離を行うものである。
【0044】
二酸化炭素ハイドレート生成部11における二酸化炭素ハイドレートを生成させると、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11においてハイドレートが生成すると同時に二酸化炭素の水への溶解が起こることで二酸化炭素分圧が低下し、ハイドレートの生成が止まってしまい、二酸化炭素がガスのまま二酸化炭素ハイドレート生成部11を通過してしまう。
本実施例によれば、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11の後段に二酸化炭素吸着部31を設けることにより、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11を通過したガス中に含まれる二酸化炭素を二酸化炭素吸着部31において吸着し、短時間且つ高効率で被処理ガスGからの二酸化炭素の分離を実現することができる。
【0045】
ここで、二酸化炭素ハイドレートの生成条件は、被処理ガスG中の二酸化炭素濃度により異なるが、例えば圧力5MPa〜20MPa、温度0℃〜4℃において生成する。すなわち大気圧より高圧の条件で行われる。したがって、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過したガスGは高圧である(高圧ガスG)。
【0046】
一方、前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過した高圧ガスGは、二酸化炭素ハイドレート生成部内の温度(0℃〜4℃)における飽和水蒸気を含んでいる。
一般的に、PSA方式による吸着部に用いられる吸着材は水分も吸着するため、二酸化炭素吸着部31に導入される高圧ガス中に水分が多く含まれていると該二酸化炭素吸着部31における二酸化炭素吸着能が低下する。
【0047】
本実施例では、二酸化炭素吸着部31に前記高圧ガスGを導入する前に降圧部21を設け、該降圧部21おいて前記高圧ガスG(例えば5MPa〜20MPa)の圧力を、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11内の圧力よりも低く、大気圧よりも高い圧力(例えば3MPa〜4MPa)にまで下げるように構成されている。前記高圧ガスGの圧力を下げる(降圧する)際には冷熱が発生し、該ガス温は下がる。ガス温が下がると該ガスの飽和水蒸気量は減少するため、圧力が下げられた降圧後の高圧ガスG(3MPa〜4MPa)に含まれる水分量は減少する。したがって、より水分の少ない高圧ガスGを二酸化炭素吸着部31に送ることができる。
尚、降圧部21の上流側(ライン14上)に吸着材を用いた予備的な脱湿部(図示せず)を設けることも可能である。
【0048】
また、前記二酸化炭素吸着部31は、大気圧よりも高い圧力下において二酸化炭素を吸着する構成であり、前記二酸化炭素吸着部31からの二酸化炭素の脱着は、その圧力を吸着時よりも下げることにより行われるので、該二酸化炭素吸着部31内を大気開放するだけで二酸化炭素の脱着を行うことができる。
すなわち、二酸化炭素吸着部31における二酸化炭素の吸着および脱着を行うための圧力変化にエネルギーをほとんど要しない。
【0049】
以上のように、二酸化炭素ハイドレート生成部11の後段に二酸化炭素吸着部31を設けることにより、二酸化炭素ハイドレート生成部11内における二酸化炭素分圧の変化の影響を抑え、安定した二酸化炭素の分離を行うことができる。二酸化炭素吸着部31では、前段の二酸化炭素ハイドレート生成部11において二酸化炭素がある程度除かれたガスを処理するため、複数段の吸着部による吸着を行う必要はなく、設備導入コストも抑えることができる。
【0050】
また、前記降圧部21を設けることによって、二酸化炭素ハイドレート生成時の高圧を利用しつつ、水分含有量の少ない高圧ガスGを二酸化炭素吸着部31に送ることができる。以って、二酸化炭素吸着部31の吸着材の吸着能の低下を抑え、効率のよい二酸化炭素の分離を実現することができる。
【0051】
[実施例2]
次に、本発明に係る二酸化炭素の分離装置の他の例について説明する。図2は、実施例2に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置20を示す概略構成図である。尚、実施例1と同様の部材には同じ符号を付し、その説明は省略する。
本実施例に係る二酸化炭素の分離装置20は、前記実施例1と同様、二酸化炭素ハイドレート生成部11と、降圧部21と、二酸化炭素吸収部31を備え、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11と前記降圧部21の間に、二酸化炭素ハイドレート生成部11を通過した高圧ガスGを貯留するガス貯留部51を備えている。符号52はバルブである。
【0052】
本実施例によれば、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11を通過した高圧ガスGを前記ガス貯留部51に一旦貯留し、該ガス貯留部51から前記高圧ガスGを前記降圧部21に送るので、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11内の圧力変動を少なくすることができる。以って、該二酸化炭素ハイドレート生成部11において二酸化炭素ハイドレートを安定して生成させることができる。
【0053】
[実施例3]
次に、本発明に係る二酸化炭素の分離装置の更に他の例について説明する。図3は、実施例3に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置30を示す概略構成図である。尚、実施例2と同様の部材には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0054】
本実施例に係る高圧下における二酸化炭素の分離装置30は、前記実施例2と同様、二酸化炭素ハイドレート生成部11と、ガス貯留部51と、降圧部21と、二酸化炭素吸収部31とを備え、更に、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11において生成した二酸化炭素のハイドレートを受けて分解し、再ガス化するガスハイドレート分解部61を備えている。
【0055】
そして、前記ガスハイドレート分解部61での前記再ガス化で得られる水は、前記降圧部21において前記高圧ガスGが降圧するときに発生する冷熱を利用した熱交換器等の冷却部66によって冷却され、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11に送られるように構成されている。符号63および符号67は水を送るラインであり、符号65はポンプである。
【0056】
二酸化炭素ハイドレートの分解時には比較的低温の分解熱が必要であり、該分解によって生じる水(前記再ガス化で得られる水)は約10〜15℃程度になっている。
例えば、ガスハイドレート分解部61内の圧力を約4MPaにする場合、該ガスハイドレート分解部61内の温度は約10℃に設定される。前記ガスハイドレート分解部61は加温部64を備え、当該加温部64によって熱を供給するように構成されている。
尚、二酸化炭素ハイドレートの分解に必要な分解熱は二酸化炭素1molあたり65.2kJであるので、加温部64としては、例えば10〜15℃程度の海水や、化学プラントなどから発生する低温排熱等を循環させる構成のものを用いることができる。
【0057】
ここで、前記再ガス化で得られる水を二酸化炭素ハイドレート生成部11に送って循環利用するためには、その水を前記二酸化炭素ハイドレート生成部11内における二酸化炭素ハイドレートの生成条件に適した温度に冷却する必要がある。例えば、前記二酸化炭素ハイドレート生成部11内の圧力が6〜9MPaのとき、二酸化炭素ハイドレート生成部11内の温度は2〜4℃に設定されるので、二酸化炭素ハイドレート生成部11内に送られる水の温度は当該二酸化炭素ハイドレート生成部11内の温度よりも低い1〜2℃であることが望ましい。
【0058】
本実施例によれば、前記再ガス化で得られる水を、前記降圧部21において前記高圧ガスGが降圧するときに発生する冷熱を用いて冷却するので、当該水の冷却にかかる消費エネルギーを低減させることができる。以って装置全体の運転コストを低減することができる。また、前記再ガス化によって得られた純度の高い二酸化炭素は、回収して他の用途に用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、二酸化炭素を含む被処理ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素の分離装置及び分離方法に利用可能である。特に、前記ガス化複合発電(IGCC)、石炭火力発電等の発電システムや、鉄鋼プラント、セメントプラント等における燃焼排ガスやプロセスガス中に含まれる二酸化炭素の分離装置及び分離方法に有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 被処理ガス脱水器、 2 圧縮装置、 3 冷却器、
10 高圧下における二酸化炭素の分離装置、 11 二酸化炭素ハイドレート生成部、
12 被処理ガス導入口、 13 高圧ガス排出口、14 ライン、
20 高圧下における二酸化炭素の分離装置、 21 降圧部、
30 高圧下における二酸化炭素の分離装置、
31、31a、31b 二酸化炭素吸着部、
37 バッファータンク、
51 ガス貯留部、 52 バルブ、
61 ガスハイドレート分解部、 64 加温部、 66 冷却部
被処理ガス、
二酸化炭素ハイドレート生成部11を通過した高圧ガス、
降圧部21を通過した高圧ガス、
処理ガス、 Gex パージ後の排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含む被処理ガスと水を原料として二酸化炭素のハイドレートを生成する二酸化炭素ハイドレート生成部と、
前記二酸化炭素ハイドレート生成部を通過した高圧ガスを、前記二酸化炭素ハイドレート生成部内の圧力よりも低く、大気圧よりも高い圧力にまで下げる降圧部と、
大気圧よりも高い圧力下において二酸化炭素を吸着し、吸着時よりも圧力を下げることによって前記二酸化炭素を脱着する二酸化炭素吸着部と、を備えた高圧下における二酸化炭素の分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載された高圧下における二酸化炭素の分離装置において、前記二酸化炭素ハイドレート生成部と前記降圧部の間に、前記高圧ガスを貯留するガス貯留部を備えたことを特徴とする高圧下における二酸化炭素の分離装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された高圧下における二酸化炭素の分離装置において、前記二酸化炭素のハイドレートを受けて分解し、再ガス化するガスハイドレート分解部を備え、
前記ガスハイドレート分解部での前記再ガス化で得られる水は、前記降圧部において前記高圧ガスが降圧するときに発生する冷熱によって冷却されるとともに、前記二酸化炭素ハイドレート生成部に送られるように構成されていることを特徴とする高圧下における二酸化炭素の分離装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された高圧下における二酸化炭素の分離装置において、前記被処理ガスは、有用ガス成分と二酸化炭素とを含む混合ガスであることを特徴とする高圧下における二酸化炭素の分離装置。
【請求項5】
二酸化炭素を含む被処理ガスと水を原料として二酸化炭素のハイドレートを生成する二酸化炭素ハイドレート生成工程と、
前記二酸化炭素ハイドレート生成工程においてハイドレート化しないで通過した高圧ガスを、前記ハイドレート生成工程における圧力よりも低く、大気圧よりも高い圧力にまで下げる降圧工程と、
大気圧よりも高い圧力下において二酸化炭素を吸着させ、吸着時よりも圧力を下げることによって前記二酸化炭素を脱着させる二酸化炭素吸着工程と、を有する高圧下における二酸化炭素の分離方法。
【請求項6】
請求項5に記載された二酸化炭素の高圧下における分離方法において、前記二酸化炭素のハイドレートを受けて分解し、再ガス化するガスハイドレート分解工程と、
前記ガスハイドレート分解工程における前記再ガス化によって得られる水を、前記降圧工程において前記高圧ガスが降圧するときに発生する冷熱によって冷却するとともに、前記二酸化炭素ハイドレート生成工程に送る工程と、を有することを特徴とする高圧下における二酸化炭素の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−251864(P2011−251864A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125882(P2010−125882)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】