説明

高密封シール装置を備えた直動案内ユニット

【課題】 この直動案内ユニットは,多量の異物が発生するように厳しい作業環境でも,スライダと軌道レールとの間を高密封シール装置で完全に密封し,異物が軌道レール上を摺動するスライダの端部から侵入するのを防止する。
【解決手段】この直動案内ユニットは,軌道レールを摺動するスライダに高密封シール装置3Aを取り付ける。高密封シール装置3Aは,ホルダケース21の収容部35に配設されたシールプレート20A,潤滑供給プレート60A,及びそれらに接する潤滑供給部材70,並びにホルダケース21の開口部を封鎖する封止プレート9から構成されている。潤滑供給部材70は,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aとの空孔部68,69に嵌挿され,それらに潤滑油を適正に供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散するような厳しい作業環境で使用でき,該異物が軌道レール上を摺動するスライダの端部から侵入するのを防止する高密封シール装置を備えた直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,直動案内ユニットについて,工作機械等の各種の装置について,ワークの加工エリア,設置エリアを拡大し,装置自体のコンパクト化を図るため,設備装置のコストダウン等の観点から,作業環境から軌道レールが剥き出しになって使用される状態が増加しており,従来の防塵装置であるテレスコカバーやジャバラを設けない仕様になっている。
【0003】
従来,本出願人が開発した直動転がり案内ユニットについて,シール装置を設けたものが知られている。該直動転がり案内ユニットは,スライダの端部にシール装置を取り付け,該シール装置が断面略コ字形状のシール用カセット,該シール用カセット内に装着された2枚のシール,該シールの間に狭持した給油用間座,及びシールの外側端面に配置されるスクレーパプレートから構成されていた。また,2枚のシールは,上面部と一対の側面部から成る略コ字の形状で,鉄板製の芯金にゴムを焼き付けたものになっており,ゴム製のリップ部を有していた。また,シールの締めしろは,0.5mmになっており,防塵効果を増すために通常よりも大きく設定されていた(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,リニア軸受ガイド構造について,ダスト排除によるシール機能を持つものが知られている。該リニア軸受ガイド構造は,従来のゴム材によるリップシール及び補強板の外面側に潤滑剤を含油した発泡ウレタンゴム材で形成された自己潤滑性のガイド本体を配設したものであり,ガイド本体の油切れを防止し,摺動抵抗に対する耐久性を維持できるものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,案内装置の防塵構造として,軌道軸に対するスライド部材の摺動抵抗の少なくスムーズに往復運動ができるというものが知られている。該案内装置の防塵構造は,防塵部材が連続気泡の発泡ポリウレタンで形成され,潤滑剤を含浸して潤滑供給部を構成する3枚の弾性部材と,金属板材で形成されて弾性部材の間に介装され,凹溝部を形成するスペーサ部材とからなる潤滑剤ポケット形成部材と,軌道レールとの間に僅かな隙間を維持して摺動台に取り付けられるスクレーパ部材とで構成されている。連続気泡の発泡ポリウレタンは,引張強さ30〜50kg/cm3 ,伸び率300〜500%,及び反発弾性30〜60%程度の物性を有する材料になっており,潤滑剤を重量割合で30〜50重量%に含浸したものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,直動案内軸受装置として,スライダ内部への異物の侵入を防止して早期摩耗や破損を防止せんとするものが知られている。該直動案内軸受装置は,スライダの軸方向の端部に取り付けられた,複数枚の潤滑剤供給部材,プロテクタ,薄肉の樹脂シール材,鋼板にゴムを焼付接着したサイドシール材,及びグリースを含有するフェルトシール材から構成されている(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平9−42284号公報
【特許文献2】特開平11−351252号公報
【特許文献3】特開2000−227115号公報
【特許文献4】特開2005−337407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,上記のような直動転がり案内ユニットのシール装置では,ゴム製のシールになっているために,摺動抵抗が大きくなってしまうこと,シールの耐久性を維持するため潤滑剤を欠かすことができず,潤滑剤の管理が難しいこと等で課題を残していた。
【0008】
また,上記のようなリニア軸受ガイド構造では,リップシールに潤滑剤を常に供給してよいものであるが,シール性が不足し,問題を有していた。
【0009】
また,上記のような案内装置の防塵構造では,弾性部材がクーラント液等を吸収することになるので,弾性部材に次第にゴミ,液状物等の異物が溜まるようになって,弾性部材が異物を除去しきれない状態になっていた。
【0010】
また,上記のような直動案内軸受装置では,多数のシール材を重ねたものであり,シール材のスペースが軸方向に大きなものになっていた。
【0011】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,高密封シール装置を構成するシールプレートとして一般的にパッキン材や衝撃吸収材と使用されている材料,例えば,メカニカルフロスウレタンフォーム製のシート材を利用し,特に,メカニカルフロスウレタンフォームのうちでハードタイプのシート材を所定の形状にカットして作製した3層構造のシールプレート,該シールプレートに接して潤滑供給プレートを積層した積層プレートと共に,潤滑油を含浸させた潤滑供給部材をホルダケースに収容して高密封シール装置を構成し,前記潤滑供給部材による前記シールプレートと前記潤滑供給プレートへの潤滑油の供給を行い,潤滑供給プレートによる軌道レールの軌道溝への潤滑油の供給を確実に行い,シールプレートの軌道レール上での摺動移動をスムーズにし,しかも高密封シール装置をスライダの端部に配設し易い構造に構成したことを特徴とする直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は,長手方向に沿って軌道溝が形成された軌道レール,前記軌道レールに複数の転動体を介して摺動自在なスライダ,及び前記スライダの端面に取り付けられた高密封シール装置を備えている直動案内ユニットにおいて,
前記高密封シール装置は,前記軌道レールと前記スライダの端部との隙間を密封するシールプレート,前記シールプレートに接して配置された潤滑供給プレート,及び前記シールプレートと前記潤滑供給プレートとに接し且つ前記シールプレートと前記潤滑供給プレートとに前記潤滑油を供給する潤滑供給部材を備えていることを特徴とする直動案内ユニットに関する。
【0013】
また,この直動案内ユニットは,前記シールプレート及び/又は前記潤滑供給プレートには,前記潤滑供給部材を嵌挿するための空孔部が形成されている。
【0014】
また,前記潤滑供給部材は,前記シールプレート及び前記潤滑供給プレートに形成された前記空孔部に跨がって挿通して配設されている。又は,前記潤滑供給部材は,前記シールプレート及び前記潤滑供給プレートのいずれか一方に形成された前記空孔部に配設され,他方には前記シールプレート及び前記潤滑供給プレートを収容するホルダケースに設けた位置決めピンを嵌合するピン孔が形成されている。
【0015】
また,前記高密封シール装置は,外装部と該外装部の一端側で一体である端面部とから形成されたホルダケース,前記ホルダケース内に配設された複数の前記シールプレートと前記シールプレートに隣接した前記潤滑供給プレート,及び前記外装部の他端側の開口部を封鎖する封止プレートから構成されている。
【0016】
また,この直動案内ユニットは,前記ホルダケースの前記端面部には位置決めピンが設けられ,前記潤滑供給部材には前記位置決めピンを嵌合するピン孔が形成されている。
【0017】
また,この直動案内ユニットにおける高密封シール装置は,前記ホルダケースには前記外装部の中央に摺動方向に沿って延びる給油孔を形成したボス部が一体に設けられ,前記シールプレートと前記潤滑供給プレートには前記ボス部に対応する部分に切欠き部が形成され,前記空孔部は前記シールプレート及び/又は前記潤滑供給プレートの前記切欠き部の両側に幅方向に延びてそれぞれ形成されている。
【0018】
また,前記潤滑供給プレートは,前記軌道レールの前記軌道面に接触可能な摺接面を備えており,それによって前記軌道レールの前記軌道溝における軌道面に潤滑油を供給するものである。場合によっては,前記潤滑供給プレートは,前記軌道レールの前記軌道面に非接触状態に配置されてもよいものであり,ホルダケース内に収容された場合には変形等が発生して前記軌道面への潤滑油の供給を行うことができるものである。
【0019】
また,前記シールプレートは,両側面の表層を形成するゴム状のスキン層,及び前記表層間の中間層を形成するスポンジ層から成る3層構造で構成されている。また,前記潤滑供給部材は,合成樹脂微粒子間が多孔構造に形成された焼結樹脂形成体と前記焼結樹脂形成体の多孔部に含浸された前記潤滑油とで構成されている。更に,前記潤滑供給プレートは,フェルト,熱接着繊維体,焼結樹脂形成体,又は連続気泡の発泡体でなる多孔構造に前記潤滑油を含浸して構成されている。
【0020】
また,この直動案内ユニットにおいて,前記スライダは,前記転動体が転動する軌道面を備えたケーシング,前記ケーシングの端面に取り付けられて前記転動体を方向転換させる方向転換路を備えたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられて前記転動体を潤滑する潤滑プレート,及び前記潤滑プレートの端面に配置されたエンドシールを備えており,前記高密封シール装置は,前記エンドシールの端面に間座を介して配置されている。
【発明の効果】
【0021】
この直動案内ユニットは,上記のように構成されており,スライダに高密封シール装置を設け,スライダと軌道レールとの間を完全に密封しているので,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散して軌道レールに付着するような厳しい作業環境でも,該異物が軌道レール上を摺動するスライダの端部から侵入するのが防止され,異物を軌道レール上から排除することができる。特に,この直動案内ユニットは,十分な潤滑油を含浸保持できる潤滑供給部材がシールプレートと潤滑供給プレートとに接して設けられているので,シールプレートと潤滑供給プレートには潤滑供給部材から潤滑油が常に適正に供給され,シールプレートと潤滑供給プレートとに潤滑油切れによるトラブルが発生することがなく,シールプレートは,軌道レールに対して常にスムーズに摺動でき,スライダ内部への異物の浸入を防止することができる。また,シールプレート間に介在された潤滑供給プレートは,その摺接面が軌道レールの軌道面に接触状態又は非接触状態の接触可能な状態にホルダケース内に配置され,軌道溝への潤滑油の供給の適正化を図ると共にシールプレートに対しても潤滑油を供給し,それによって,シールプレートが軌道レールに対して常にスムーズに摺動でき,それによって,スライダに高密封シール装置を取り付けても,軌道レール上をスライダが摺動するのを妨げることがない。更に,シールプレートをメカニカルフロスウレタンフォームで作製した場合には,シールプレートは,その表層の緻密層に形成されたスキン層が中間層のスポンジ層を両側から被覆した構造を有し,シールプレートはそれぞれ独立してスポンジ層に含浸された潤滑油がスポンジ層に保持されているので,シールプレートは軌道レールの上面や軌道面に接して摺動するが,シールプレートのスポンジ層には軌道レールに付着した冷却液や加工液を吸収することがなく,シールプレートが軌道レールに付着している粉塵,切粉,切屑等の異物を除去して摺動し,シールプレート自体が自己潤滑される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明による直動案内ユニットは,特に,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体や異物が飛散する切削機械,研削機械,木工機械等の工作機械に使用して好ましいものであり,スライダの摺動方向の前後端に装着した高密封シール装置に特徴を有している。本願発明は,先願の特願2006−78719号に開示されている高密封シール装置においてシールプレート間に潤滑供給プレートを介在させると共に潤滑油を含浸させた潤滑供給部材をシールプレートと潤滑供給プレートとに接して設けたものであり,潤滑供給部材及び潤滑供給プレートによってシールプレート,軌道溝等に潤滑油を供給することが可能になり,更に厳しい作業環境にも適用できるものである。また,本願発明は,実施例では,スライダが軌道レールに跨架して摺動するタイプを説明しているが,円筒状等の筒状のスライダに軌道軸即ち軌道レールが嵌挿するタイプの直動案内ユニットにも適用できることは勿論である。この直動案内ユニットは,先出願に比較し,さらに厳しい使用環境にも柔軟に対応可能なものになっている。
【0023】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニットの実施例を説明する。この直動案内ユニットに設けられた高密封シール装置3A,3B,3C,3D(総称は3)は,特に,図5,図14,図25,及び図26に示すように,先願のものに比較して,2枚の潤滑供給プレート60A,60B,60C(総称は60)をシールプレート20A,20B,20C(総称は20)間にそれぞれ挿入し,特に,シールプレート20と潤滑供給プレート60とに形成した空孔部68,69,73,74に潤滑油を含浸した潤滑供給部材70,71,72を嵌挿した構造を有することを特徴としている。潤滑供給部材70,71,72は,潤滑供給プレート60と同等又はそれ以上に潤滑油を保留できる材料で構成することが好ましい。
【0024】
この直動案内ユニットは,図1〜図3に示すように,長手方向の両側面14に軌道溝12を備えた軌道レール1,及び軌道レール1に跨架して摺動自在なスライダ2から構成されている。この実施例では,軌道レール1の軌道溝12に軌道面13を形成し,転動体としてローラを用いるタイプに構成されている。この直動案内ユニットは,軌道レール1に設けた軌道溝12には転動体であるローラ(図示せず)が転走する軌道面13が形成され,スライダ2には軌道レール1の軌道面13に対応する軌道面(図示せず)が設けられ,軌道レール1の軌道面13とスライダ2の軌道面との間の負荷軌道路を,ローラが介在して転動することによって,スライダ2が軌道レール1を長ストロークにスムーズに摺動できるように構成されている。
【0025】
スライダ2は,図1〜図4に示すように,概して,転動体が転動する軌道面を備えたケーシング4,ケーシング4の端面46に取り付けられて転動体を方向転換させる方向転換路を備えたエンドキャップ5,エンドキャップ5の端面47に取り付けられて転動体を潤滑する潤滑プレート6,及び潤滑プレート6の端面に配置されたエンドシール7を備えている。ケーシング4の側面50には,転動体を保持する保持板(図示せず)を取り付けるため,保持ねじ18が挿通している。ケーシング4の上面45には,他の相手部材に取り付けるための取付け用ねじ穴17が形成されている。また,エンドキャップ5には,転動体に潤滑剤を供給するためのグリースニップル56を取り付けるための取付け用ねじ穴16が形成されている。グリースニップル56が取り付けられていない取付け用ねじ穴16には止めプラグ57で栓がされている。この実施例は,標準装備ではエンドキャップ5の端面47にエンドシール7が配設されているが,劣悪な環境下で使用されることを考慮すると,潤滑性を高めるために,エンキャップ5とエンドシール7との間に潤滑剤を供給するための潤滑プレート6を配設することが好ましい。潤滑プレート6は,軌道面13への潤滑剤を供給するために,少なくとも軌道面13に摺接している。更に,この直動案内ユニットは,エンドシール7の外端面にスペーサである間座8を介して高密封シール装置3を配設した構造に構成されている。間座8は,エンドシール7のリップ部48を覆うように収容できるコ字状の金属体で形成されている。また,高密封シール装置3の外端面には,スクレーパ10が取り付けられている。スクレーパ10は,大きなゴミ等の異物がスライダ2内へ侵入するのを防止するものであり,金属製の薄板で形成されている。
【0026】
また,この直動案内ユニットは,軌道レール1とスライダ2及び高密封シール装置3との間の密封性を高めるために,高密封シール装置3の下面40を含めてスライダ2の下面40の全体にわたってスライダ2を軌道レール1に対してシールするため,下面シール11が配設されている。下面シール11は,軌道レール1の側面14に摺接するリップ部55を有し,軌道レール1とスライダ2及び高密封シール装置3との間を良好に密封している。この実施例では,下面シール11は,間座8に固定ねじ19によって固定されている。高密封シール装置3は,直動案内ユニットのスライダ2の端部に配設され,粉塵やクーラント液が飛散して舞う劣悪な環境下に使用されても,長期間にわたり粉塵,切粉,切屑,クーラント液,加工液等の異物がスライダ2内に侵入することを防止できる機能を有している。また,高密封シール装置3は,複数のシールプレート20を配列することによって,一層の密封性能を完全なものにすることができる。また,この実施例では,高密封シール装置3の外端面には,スクレーパ10が配設され,スクレーパ10は,軌道レール1に跨架するための凹部51と軌道レール1の軌道溝12へと延びる凸部52とを備えている。
【0027】
この直動案内ユニットは,特に,高密封シール装置3の構成に特徴を有しており,高密封シール装置3は,スライダ2の端面に固定ねじ15で固定され,軌道レール1に跨架してスライダ2と一緒に摺動するものであり,外装部22と外装部22の一端側で一体である端面部23とから形成されたホルダケース21,ホルダケース21の収容部35内に収容され且つ軌道レール1とスライダ2の端部との隙間を密封する少なくとも1枚のシールプレート20,シールプレート20に接して配置された潤滑供給プレート60,及びシールプレート20と潤滑供給プレート60とに接し且つシールプレート20と潤滑供給プレート60とに潤滑油を供給する潤滑供給部材70,71,72を備えていることを特徴としている。また,この直動案内ユニットは,シールプレート20,潤滑供給プレート60及び潤滑供給部材70,71,72の形状及びそれらの構造,高密封シール装置3が間座8の前端面に配置されていることと,高密封シール装置3の構成そのものに特徴を有している。
【0028】
まず,図5〜図13を参照して,この直動案内ユニットの第1実施例としての高密封シール装置3Aについて説明する。高密封シール装置3Aは,概して,外装部22と端面部23から形成されたホルダケース21,ホルダケース21内に配設された3枚の密封シール即ちシールプレート20A,シールプレート20A間に配置され且つシールプレート20Aと軌道レール1の軌道面13に潤滑油を供給する2枚の潤滑供給プレート60A,シールプレート20Aに幅方向に延びて形成された一対の空孔部68と潤滑供給プレート60Aに幅方向に延びて形成された一対の空孔部69とにそれぞれ嵌挿した一対の潤滑供給部材70,及び外装部22の端部開口部を封鎖するため配設された封止プレート9から構成されている。潤滑供給部材70は,図5に示すように,ホルダケース21の中央部分である給油孔59の部分で上部78が左右(幅方向)に分割された一対の部材に形成されている。潤滑供給部材70は,潤滑油を可及的に保留できるように,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aとの外形形状に対応する上部78と袖部79から成る形状に形成されている。潤滑供給部材70は,特に,潤滑油の供給を適正に達成できるようにシールプレート20Aの凸部28と潤滑供給プレート60Aの凸部61に対応して凸部77が形成されている。ホルダケース21には,外装部22の中央に摺動方向に沿って延びる給油孔59を形成したボス部66が一体に設けられ,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aにはボス部66に対応する部分に切欠き部32,63が形成されている。空孔部68,69は,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aの外形を残す状態に,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aの中央の切欠き部32,63の両側に幅方向に延びてそれぞれ形成されている。
【0029】
ホルダケース21は,図5にも示すように,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aの上面,下面,及び両側面を覆ってシールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aを配設する収容部35を形成した外装部22,及び外装部22の一方の端部である外端面を塞いだ態様で軌道レール1の外形,即ち上面54と側面14に接触することなく,隙間を形成する形状の端面部23から形成されている。外装部22は,その内面がシールプレート20Aに密接してシールプレート20Aの軌道レール1とのシメシロを確保できるように構成されている。即ち,シールプレート20Aの内周の全周は,軌道レール1の外周にシメシロを有して摺接する形状に形成され,スライダ2内への異物の浸入を防止している。また,ホルダケース21には,スライダ2の端部に取り付けるために,孔周りを肉厚にしたボス部53に固定ねじ15が貫通する4つの取付け用孔24が設けられている。更に,ホルダケース21は,上部の外装部22の中央に給油孔59がボス部66を備えており,ボス部66の給油孔59にはグリースニップル(図示せず)が取り付けられる。給油孔59は,主として,エンドキャップ5の給油路へと潤滑剤即ち潤滑油を供給するものであるが,場合によっては,ボス部66に通孔を形成してシールプレート20Aや潤滑供給プレート60Aに潤滑剤即ち潤滑油を供給できるように構成することもできる。
【0030】
また,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aには,固定ねじ15及び給油孔用ボス部66が挿通する領域に切欠き部32,63が形成され,ボス部66が嵌着する切欠き部32,63の両側には潤滑供給部材70を嵌挿するため幅方向に延びる空孔部68,69がそれぞれ形成されている。ホルダケース21は,軌道レール1の軌道溝12へと延び出す両側の凸部26に,シールプレート20Aを軌道レール1の上面54と側面14に密接状態に位置決めするため4本の位置決めピン25が設けられている。潤滑供給部材70には,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aとの空孔部68,69にそれぞれ嵌挿され,シールプレート20Aを軌道レール1に対して密接状態に位置決めし,且つ,潤滑供給プレート60Aを軌道レール1の軌道溝12の軌道面13に対して接触又は非接触の接触可能状態に位置決めするため,位置決めピン25が挿通するピン孔75が形成されている。即ち,シールプレート20Aと軌道レール1との密封度合い即ちシメシロは,シールプレート20Aの凸部28を軌道レール1の軌道溝12に密接状態に接触させるためであり,シールプレート20Aの凸部28間の距離は軌道レール1の軌道溝12の距離より小さく形成されている。ホルダケース21の他方の端部は,シールプレート20Aと潤滑供給部材60Aを収容部35に配設するため開放状態であるので,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aとを積層し且つ潤滑供給部材70をシールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aの空孔部68,69に嵌合して収容部35に配設した状態で,封止プレート9によって蓋をするように構成されている。シールプレート20Aは,封止プレート9によってスライダ2の端部である間座8の端部に変形しないように平らな状態で配置されている。高密封シール装置3Aは,軌道レール1に跨架してスライダ2と共に摺動移動するために,ホルダケース21の端面部23に凹部37,シールプレート20Aに凹部38,潤滑供給部材60Aに凹部64,及び封止プレート9に凹部39が形成されている。封止プレート9には,固定ねじ15が挿通する取付け用孔29,シールプレート20Aの凸部28に対応してそれより若干小さい凸部30,位置決めピン25が挿通するピン孔31,ホルダケース20の凹部37に対応する凹部39,及びホルダケース21の給油孔59に対応する給油孔67が形成されている。
【0031】
また,高密封シール装置3Aは,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aヘの潤滑油量を潤沢に且つ常に適正に供給できるようにするために,軌道レール1とスライダ2との隙間を密封するシール部材であるシールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aとの同一形状の空孔部68,69を形成し,それらの空孔部68,69に潤滑供給部材70をそれぞれ嵌挿したものになっている。また,ホルダケース21の収容部35には,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aとが積層されて収納されている。実施例では,高密度シール装置3は,3枚のシールプレート20Aとシールプレート20A間に介在された2枚の潤滑供給プレート60Aを積層してホルダケース21に入れて構成されている。潤滑供給部材70は,3枚のシールプレート20Aとシールプレート20A間に配設された2枚の潤滑供給プレート60Aとに跨がって嵌挿しているブロックであり,従って,潤滑供給部材70の厚さは,シールプレート20Aの3枚分の厚さと潤滑供給プレート20Aの2枚分の厚さとを合計した厚さに相当したサイズに形成されている。
【0032】
シールプレート20Aは,メカニカルフロスウレタンフォーム,特に,メカニカルフロスウレタンフォームでなるZULEN(登録商標)のなかでもハードタイプのシート材を所定の形状にカットし,両側面の表層33を形成するゴム状のスキン層43,及び表層33間の中間層34を形成するスポンジ層42から成る3層構造で構成され,スポンジ層42には強制的に潤滑油を含浸したもので作製することが好ましい。また,潤滑供給プレート60Aは,フェルト,熱接着繊維体,焼結樹脂,連続気泡の発泡体(例えば,発泡剤で発泡させた従来のウレタンフォーム)等の多孔構造の多孔部に潤滑剤を含浸した構造に構成されている。また,潤滑供給プレート60Aは,合成樹脂微粒子と潤滑剤とを混合して加熱溶融し,所定の金型に注入して冷却固化させ成形した潤滑剤含有部材でもよいものになっている。更に,潤滑供給部材70は,潤滑供給プレート60Aと同等又はそれ以上の潤滑油量を含浸できる材料,例えば,合成樹脂微粒子間が多孔構造に形成された焼結樹脂形成体と該焼結樹脂形成体の多孔部に含浸された潤滑油とで構成されている。
【0033】
また,潤滑供給部材70は,図5に示すように,ホルダケース21の端面部23に形成された4本の位置決めピン25に対応してピン孔75が形成され,シールプレート20A及び潤滑供給プレート60Aを位置決め支持するものになっている。潤滑供給部材70を形成する焼結樹脂形成体は,保形性に富んでいるので,シールプレート20A,及び潤滑供給プレート60Aを安定して堅固に支持することができる。また,潤滑供給部材70は,空孔部68,69の周面に接して嵌挿された最大の大きさに形成されることが好ましいが,シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Aとを軌道レール1に対して適正に位置決めできれば,適宜な大きさに適正に形成することができる。潤滑供給プレート60Aは,凸部61がR形状に形成され,凸部61の一部分の摺接面65が軌道レール1の軌道面13に摺接するものであり,特に,軌道面13への潤滑切れを防止するものになっている。潤滑供給プレート60Aは,摺接しない軌道レール1の他の部分には,隣接するシールプレート20Aを通じて潤滑油が供給できるものになっている。しかしながら,潤滑供給プレート60Aは,使用環境が厳しい場合などでは,軌道レール1の外周の全周にシメシロが零の状態で接触するように形成し,潤滑機能と密封機能とを兼ね備えるように構成してもよいことは勿論である。
【0034】
シールプレート20Aは,メカニカルフロスウレタンフォームであるZULEN(登録商標)で作製されており,その中で密度0.45g/cm3 ,アスカC硬度67,伸び率160%,引張強度31.8kg/cm2 ,引裂強度8.3kg/cm,反発弾性30%,圧縮残留歪5.9%の物性を有するものが選択されており,厚み(板厚)が2.0mmの形状を有している。シールプレート20Aとしては,種々の材料を試験した結果,上記の物性を持つメカニカルフロスウレタンフォームで形成したところ良好であるとの試験結果が得られた。メカニカルフロスウレタンフォームは,一般的に,衝撃吸収材,パッキン等のシール材として使用されているものである。シールプレート20Aとしては,ZULENには種々の構造を持ったものがあるが,そのうちのハードタイプが性状として適していることが分かった。シールプレート20Aは,従来のウレタンフォームと異なり,図7〜図9に示すように,表面即ち表層33が目潰し状態になっている緻密質のスキン層43を有するものであり,所々に開口44が存在したゴム膜の形状になっており,内部の中間層34は,泡があるスポンジ層42に形成されている。スキン層43のゴム膜は,数μm程度の薄膜の状態になっている。スポンジ層42は,図8に示すように,大半が独立気泡状態のセル36に形成されており,セル36同士が接触した部分で連通し,また,セル36同士が気泡連通部41で連通してオープンポアの構造を有している。しかしながら,高密封シール装置3Aでは,潤滑供給部材70を空孔部68,69に挿入するタイプであるので,潤滑油量が潤沢なものになるので,シールプレート20Aは,必ずしもメカニカルフロスウレタンフォームで作製することなく,一般的な合成ゴム部材で作製することもできるものである。
【0035】
この実施例では,シールプレート20Aは,常態では潤滑油や液体に浸漬してもそれらが全く含浸しない状態の構造に構成されており,シールプレート20Aに潤滑油を含浸させるには,素材を圧縮して潰しておき,それを潤滑油に浸漬した状態で圧縮状態を解き,元に復元させることによって,潤滑油をスポンジ層42のセル36に吸引する状態即ち強制的に吸引して潤滑油をスポンジ層42に含浸させて初めてシールプレート20Aが形成されている。その時,潤滑油の含浸量は,10〜15%程度になっていた。スキン層43は,図9に一方の面を示すように,泡の一部が破れたものがあり,ところどころ開口44の部分が見られる。シールプレート20Aの表層33は,泡は見られず目潰しされた状態になっており,極薄なゴム膜状のスキン層43に形成されている。即ち,シールプレート20Aのシート材を作る時に,メカニカルフロスウレタンフォームの素材と型表面との接触面において,スキン層43が形成されたものと思料される。高密封シール装置3を構成するシールプレート20Aは,メカニカルフロスウレタンフォームのシート材を図6に示す形状に打ち抜いて形成したものであり,図7に示すように,外周から内周の全周は,切断面においてスキン層43及びスキン層43間のスポンジ層42が見える状態になって形成されている。
【0036】
また,潤滑供給プレート60Aは,軌道レール1の軌道面13に接して潤滑剤(潤滑油)を供給すると共に,シールプレート20Aに潤滑剤(潤滑油)を供給してシールプレート20Aの摺接抵抗を小さなものにし,及びシールプレート20Aの摺接による摩耗を小さくして耐久性を増加するものになっており,軌道レール1の軌道面13等への潤滑量が増え,油膜切れを防止する機能を有している。潤滑供給プレート60Aの凸部61の内周の摺接面65は,軌道レール1の外形(外周)と接触しても非接触でもよいものになっている。潤滑供給プレート60Aの摺接面65が軌道面13に非接触である場合でも,潤滑剤は潤滑供給プレート60Aから滲み出て,シールプレート20Aの表層であるスキン層43に沿って流動し,シールプレート20Aと軌道レール1との摺接部まで供給可能になっている。また,潤滑供給プレート60Aは,摺接面65の軌道面13への非接触の場合に,潤滑供給プレート60Aの内周と軌道レール1の外形との間に隙間が形成され,その隙間にシールプレート20Aを潜り抜けた徴細な異物を留保することも可能になっている。また,潤滑供給プレート60Aは,摺接面65の軌道面13への接触する場合に,全周が接触する場合と部分的に接触する場合とになり,潤滑供給プレート60Aの摺接抵抗を小さなものにする場合は,部分的に接触するように構成すればよいものになっている。また,潤滑供給プレート60Aは,その全周が軌道レール1に接触する場合は,厳しい使用環境にも防塵の機能を発揮できるものになっており,摺接面65の軌道面13への接触する場合は,シメシロが零状態で当接するだけでよいものになっている。
【0037】
潤滑供給プレート60Aは,実施例では,図5,及び図10〜図12に示すように,凸部61に形成された摺接面65で軌道レール1に部分的に接触するものであり,凸部61がR形状に形成され,そのR形状の部分が軌道レール1の軌道面13と接触可能な状態になっており,シールプレート20Aへの潤滑剤の供給と共に,軌道面13の油膜切れを防止するものである。実施例では,潤滑供給プレート60Aは,フェルトで形成されている。潤滑供給プレート60Aを構成するフェルト等の繊維体は,シールプレート20Aを潜り抜けた微細な異物を絡め取る機能を有している。潤滑供給プレート60Aは,潤滑剤の供給だけでなく,潤滑剤の吸収・保持,シールプレート20Aを潜り抜けた微細な異物の留保,シールプレート20Aを潜り抜けたクーラント等の切削液の吸収・保持等の機能を有するものであり,材料によってもそれぞれ異なった特性を有するものになっている。従って,潤滑供給プレート60Aは,機械装置等の使用環境によって材料を使い分けすればよいものになっている。高密封シール装置3は,図5,図13及び図14に示すように,スライダ2の端面の中央部からも給油できるように,ホルダケース21に給油孔59が形成されており,給油孔59には,グリースニップル等が取付け可能になっている。実施例では,図1と図2に示すように,一方のエンドキャップ5の側面にはグリースニップル56が取り付けられ,図1に示すように,他方のエンドキャップ5の側面の給油孔16は止プラグ57で塞がれている。また,実施例では,ホルダケース21の給油孔59は,端面に配設されたスクレーパ10により塞がれ,対応するエンドキャップ端面の給油孔が止プラグで塞がれている。ホルダケース21の給油孔59にグリースニップルを設ける場合には,スクレーパ10の対応する部分にグリースニップル取付け用の取付け孔を形成すればよい。スクレーパ10は,図1〜図4に示すように,スライダ2の最外側である端面に配設され,切削屑等の大きな異物がスライダ2内に侵入するのを防止するものになっており,薄鋼板製のものになっている。スクレーパ10の内周は,軌道レール1と接触することなく僅かな隙間になっている。また,ホルダケース21の端面部の内周は,軌道レール1の外周とは非接触になっており,僅かな隙間になっている。また,封止プレート9の内周も軌道レール1の外周とは非接触になっており,僅かな隙間になっている。
【0038】
次に,図14〜図24を参照して,この直動案内ユニットにおける高密封シール装置3の第2実施例の高密封シール装置3Bについて説明する。第2実施例の高密封シール装置3Bは,第1実施例の高密封シール装置3Aと比較して,シールプレート20Aに空孔部68が形成されているが,潤滑供給プレート60Cには空孔部が形成されておらず,潤滑供給部材71がシールプレートAの空孔部68に嵌挿されている点が相違する以外は,同一の構成を有するものである。シールプレート20Aと潤滑供給プレート60Cには,第1実施例と同様に,切欠き部32,63,及び凸部28,61が形成されている。また,潤滑供給プレート60Cは,一枚板で形成されて軌道レール1の軌道溝12に延び出す凸部61を備え,軌道レール1の軌道面13に接触可能な摺接面65が形成されている。また,潤滑供給プレート60Cは,位置決めピン25が挿通するピン孔62,及びボス部53,66が挿通する切欠き部63が形成されている。潤滑供給部材71は,シールプレート20Aの厚さの1枚分に相当する厚さに形成されている。潤滑供給部材71は,潤滑油を可及的に保留できるように,シールプレート20Aの外形形状に対応する上部84とその両側の一対の袖部85から成る形状に形成され,特に,潤滑油の供給を適正に達成できるようにシールプレート20Aの凸部28に対応するように凸部83に形成されている。高密封シール装置3Bは,潤滑供給部材71がシールプレート20Aに嵌挿されているので,潤滑油量が潤沢に適正に供給できる。潤滑供給部材71は,第1実施例と同様に,合成樹脂微粒子間が多孔構造に形成された焼結樹脂形成体と該焼結樹脂形成体の多孔部に含浸された潤滑油とで構成されている。潤滑供給プレート60Cは,空孔部が形成されていないので,4本の位置決めピン25が挿通するピン孔62がそれぞれ形成されている。潤滑供給プレート60Cは,潤滑供給部材71からも潤滑油が供給される構造であるので,潤滑油量が潤沢にして,シールプレート20Aに潤滑油を供給してシールプレート20Aの摺接抵抗を小さなものにし,シールプレート20Aの摺接による摩耗を小さくし,耐久性を増加するものになっている。また,高密封シール装置3Bは,潤滑供給部材71を備えることにより,軌道レール1の軌道面13等への潤滑量が増え,油膜切れを防止するものになっている。
【0039】
次に,図25を参照して,この直動案内ユニットにおける高密封シール装置3の第3実施例の高密封シール装置3Cについて説明する。第3実施例の高密封シール装置3Cは,第1実施例の高密封シール装置3Aと比較すると,ホルダケース21には,給油孔を形成したボス部が形成されておらず,それに対応してシールプレート20Bと潤滑供給プレート60Bとにボス部を挿通するための切欠き部が形成されておらず,シールプレート20Bと潤滑供給プレート60Bとに幅方向に延びる一連の空孔部73,74がそれぞれ形成されている。シールプレート20Bと潤滑供給プレート60Bには,第1実施例と同様に,切欠き部32,63,及び凸部28,61が形成されている。また,潤滑供給プレート60Bは,軌道レール1の軌道面13に接触可能な摺接面65が形成されている。潤滑供給部材72は,ホルダケース21の給油孔が無いタイプであり,上部90が分割されることなく,一つの部材即ち上部90と両側の袖部91とで一体構造に形成されている。また,潤滑供給部材72は,シールプレート20Bと潤滑供給プレート60Bとの空孔部73,74に跨がって嵌挿されている。潤滑供給部材72は,潤滑油を可及的に保留できるように,シールプレート20Bと潤滑供給プレート60Bとの外形形状に対応する上部90とその両側の一対の袖部91から成る形状に形成されており,特に,潤滑油の供給を適正に達成できるようにシールプレート20Bの凸部28と潤滑供給プレート60Bの凸部61に対応するように凸部89に形成されている。また,封止プレート9には,給油孔が形成されておらず,位置決めピン25が嵌合するピン孔31及び固定ねじ15が挿通する取付け用孔29が形成されている。
【0040】
次に,図26及び図27を参照して,この直動案内ユニットにおける高密封シール装置3の第4実施例の高密封シール装置3Dについて説明する。第4実施例の高密封シール装置3Dは,第2実施例の高密封シール装置3Bと比較すると,シールプレート20Cには空孔部が形成されておらず,潤滑供給プレート60Aに空孔部69が形成されている点が相違する以外は,同一の構成を有するものである。シールプレート20Cは,一枚板で形成されて軌道レール1の軌道溝12に延び出す凸部28を備え,位置決めピン25が挿通するピン孔27,及びボス部53,66が挿通する切欠き部32が形成されている。潤滑供給プレート60Aは,第1実施例のものと同一形状に形成されている。潤滑供給部材71は,第2実施例のものと同様に形成されており,潤滑供給プレート60Aの1枚の厚さ相当する厚さに形成されている。また,潤滑供給プレート60Aは,軌道レール1の軌道面13に接触可能な摺接面65が形成されている。高密封シール装置3Dは,潤滑供給部材71が潤滑供給プレート60Aに嵌挿されているので,潤滑油量が潤沢になってシールプレート20Cと潤滑供給プレート60Aとに適正に供給でき,軌道レール1に対するシールプレート20Cの摺動をスムーズにして軌道レール1上の異物を排除できるものである。
【0041】
この直動案内ユニットは,上記のように構成されているので,潤滑剤を含浸したシールプレート20と潤滑供給プレート60とは,次のような特徴を有している。エンドシール7は,図1及び図2に示しているが,従来のゴムシールであり,芯金49にリップ部48のゴムを焼き付けたものになっており,スライダ2の端部に取り付け易い構造を有している。これに対して,この直動案内ユニットにおけるシールプレート20と潤滑供給プレート60は,弾性があって柔軟であるので,ホルダケース21に収容してシールプレート20の形状を維持して密封性を良好にした構造にホルダケース21で保持する必要がある。高密封シール装置3は,特に,シールプレート20,潤滑供給プレート60及び潤滑供給部材70,71,72の組み合わせであり,次の特徴を有している。
【0042】
第1に,シールプレート20は,高密封シールを達成するために,従来のリップ部48を有するゴムシールであるエンドシール7と比較すると,軌道レール1ヘのシールのシメシロを大きくした場合,例えば,0. 5mm程度のシメシロに設計した場合に,従来のエンドシール7は,リップ部48で軌道レール1の潤滑剤を次第に拭き取ってしまい潤滑剤が切れてしまう状態になり,リップ部48の先端の摺接部の摩耗が大きくなって,軌道レール1に対するエンドシール7の摺動抵抗が大きくなってしまい,その結果,エンドシール7の軌道レール1に対する密封性能がなくなってしまっていたが,シールプレート20と潤滑供給プレート60とは,エンドシール7と対比すると,潤滑剤を含浸したものであり,シメシロが大きくなっても中間層34であるスポンジ層42と潤滑供給プレート60とにより締め圧が緩和され,更に,シールプレート20の自己潤滑性と潤滑供給プレート60による潤滑性に加えて,潤滑供給部材70,71,72により潤沢に潤滑油が供給されることによる潤滑性により軌道レール1の潤滑剤が切れてしまうことが無いものになっており,しかも,シールプレート20をメカニカルフロスウレタンフォームで作製した場合には,シールプレート20の表層33であるスキン層43が緻密にゴム膜状になっているので,軌道レール1に付着している小さなゴミ等の異物,クーラント,加工液,潤滑油等の液体を排除できるものになっており,また,シールプレート20のスキン層43は,耐摩耗性があり,耐久性があるものになっている。
第2に,シールプレート20は,メカニカルフロスウレタンフォームで作製した場合には,従来のフェルト,ウレタンフォーム等と異なり,高密度で,細かく均一な大半が独立したセル36を持っており,潤滑剤を十分に含浸した状態であるので,それ以上のクーラント等の液状物を吸収することができず,従って,吸収したものが中で固化すること等が無いので,いつまでもシール機能を発揮すると共に潤滑機能を発揮することが可能になっており,従来のフェルト,ウレタンフォーム等の含油量に比較して,10〜15体積%程度と小さいものになっており,従来の含油ゴムシールの含油量(5%程度)よりも大きくなっているので,自己潤滑性に富んでいると考えている。
第3に,シールプレート20は,メカニカルフロスウレタンフォームで作製した場合には,表層33がスキン層43になって極薄なゴム膜状になっているので,複雑な外形形状に対しても,硬化すること無く柔軟に追従し,ヘたりが無いものになっており,耐油性,耐薬品性,及び耐摩耗性に優れた性質を持っており,耐久性に富み,長寿命化に富んだものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明による高密封シール装置を備えた直動案内ユニットは,例えば,切削機械,研削機械,木工機械等の工作機械等の各種装置が作動されて,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散するような厳しい作業環境で使用し,該異物が軌道レール上を摺動するスライダの端部から侵入するのを防止するのに適用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明による高密封シール装置を備えた直動案内ユニットの一実施例を示す正面図である。
【図2】図1の直動案内ユニットを示す平面図である。
【図3】図1の直動案内ユニットを示す側面図である。
【図4】図1の直動案内ユニットにおけるスライダの片側端部を分解して示す説明図である。
【図5】図1の直動案内ユニットにおける高密封シール装置の第1実施例を示す分解斜視図である。
【図6】図5の高密封シール装置におけるシールプレートを示す正面図である。
【図7】図6のシールプレートを示し,(A)はシールプレートの側面図であり,(B)は(A)の符号C部分の拡大側面図である。
【図8】図7の(B)に示すシールプレートにおける中間層について顕微鏡による写真を示す拡大側面図である。
【図9】図7の(B)に示すシールプレートにおける表層について顕微鏡による写真を示す拡大正面図である。
【図10】図5の高密封シール装置における潤滑供給プレートを示す正面図である。
【図11】図10に示す潤滑供給プレートの側面図である。
【図12】図5の高密封シール装置における潤滑供給部材を示す正面図である。
【図13】図12に示す潤滑供給部材の側面図である。
【図14】図1の直動案内ユニットにおける高密封シール装置の第2実施例を示す分解斜視図である。
【図15】図14の高密封シール装置におけるシールプレートと潤滑供給部材との関係を示す斜視図である。
【図16】図15の潤滑供給部材が嵌挿されたシールプレートを示す正面図である。
【図17】図16のシールプレートを示す側面図である。
【図18】図15の潤滑供給部材を示す正面図である。
【図19】図16の潤滑供給部材を示す側面図である。
【図20】図14の高密封シール装置における潤滑供給プレートを示す正面図である。
【図21】図20の潤滑供給プレートを示す側面図である。
【図22】図20に示す潤滑供給プレートに図1に示す軌道レールが嵌挿した状態において,潤滑供給プレートが軌道レールの軌道面に接触した状態を示す説明図である。
【図23】図5の高密封シール装置におけるホルダケースを示す背面図である。
【図24】図23のD−D断面におけるホルダケースを示す断面図である。
【図25】図1の直動案内ユニットにおける高密封シール装置の第3実施例を示す分解斜視図である。
【図26】図1の直動案内ユニットにおける高密封シール装置の第4実施例を示す分解斜視図である。
【図27】図26の高密封シール装置における潤滑供給プレートと潤滑供給部材との関係を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
1 軌道レール
2 スライダ
3,3A,3B,3C,3D 高密封シール装置
4 ケーシング
5 エンドキャップ
6 潤滑プレート
7 エンドシール
8 間座
9 封止プレート
12 軌道溝
13 軌道面
20,20A,20B,20C シールプレート
21 ホルダケース
22 外装部
23 端面部
25 位置決めピン
27,62,75,81,87 ピン孔
32,63 切欠き部
33 表層
34 中間層
42 スポンジ層
43 スキン層
59 給油孔
60,60A,60B,60C 潤滑供給プレート
65 摺接面
66 ボス部
68,69,73,74 空孔部
70,71,72 潤滑供給部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って軌道溝が形成された軌道レール,前記軌道レールに複数の転動体を介して摺動自在なスライダ,及び前記スライダの端面に取り付けられた高密封シール装置を備えている直動案内ユニットにおいて,
前記高密封シール装置は,前記軌道レールと前記スライダの端部との隙間を密封するシールプレート,前記シールプレートに接して配置された潤滑供給プレート,及び前記シールプレートと前記潤滑供給プレートとに接し且つ前記シールプレートと前記潤滑供給プレートとに前記潤滑油を供給する潤滑供給部材を備えていることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】
前記シールプレート及び/又は前記潤滑供給プレートには,前記潤滑供給部材を嵌挿するための空孔部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記潤滑供給部材は,前記シールプレート及び前記潤滑供給プレートに形成された前記空孔部に跨がって挿通して配設されていることを特徴とする請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記潤滑供給部材は,前記シールプレート及び前記潤滑供給プレートのいずれか一方に形成された前記空孔部に配設され,他方には前記ホルダケースに設けた位置決めピンを嵌合するピン孔が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記高密封シール装置は,外装部と該外装部の一端側で一体である端面部とから形成されたホルダケース,前記ホルダケース内に配設された複数の前記シールプレートと前記シールプレートに隣接した前記潤滑供給プレート,及び前記外装部の他端側の開口部を封鎖する封止プレートから構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記ホルダケースの前記端面部には位置決めピンが設けられ,前記潤滑供給部材には前記位置決めピンを嵌合するピン孔が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記ホルダケースには前記外装部の中央に摺動方向に沿って延びる給油孔を形成したボス部が一体に設けられ,前記シールプレートと前記潤滑供給プレートには前記ボス部に対応する部分に切欠き部が形成され,前記空孔部は前記シールプレート及び/又は前記潤滑供給プレートの前記切欠き部の両側に幅方向に延びてそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】
前記潤滑供給プレートには,前記軌道レールの前記軌道面に接触可能な摺接面が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項9】
前記シールプレートは,両側面の表層を形成するゴム状のスキン層,及び前記表層間の中間層を形成するスポンジ層から成る3層構造で構成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項10】
前記潤滑供給部材は,合成樹脂微粒子間が多孔構造に形成された焼結樹脂形成体と前記焼結樹脂形成体の多孔部に含浸された前記潤滑油とで構成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。

【請求項11】
前記潤滑供給プレートは,フェルト,熱接着繊維体,焼結樹脂形成体,又は連続気泡の発泡体でなる多孔構造に前記潤滑油を含浸して構成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項12】
前記スライダは,前記転動体が転動する軌道面を備えたケーシング,前記ケーシングの端面に取り付けられて前記転動体を方向転換させる方向転換路を備えたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられて前記転動体を潤滑する潤滑プレート,及び前記潤滑プレートの端面に配置されたエンドシールを備えており,前記高密封シール装置は,前記エンドシールの端面に間座を介して配置されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2007−285479(P2007−285479A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116016(P2006−116016)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】