説明

高密度性能プロセス

【課題】粉体の完全融解及び面の配向により、物体の寸法精度、均質な微細構造及び強度特性を改良し、物体の「溶落」、反り及び「膨張」を軽減する。
【解決手段】ほぼ平坦な1つ以上の面を有する3次元の物体を高密度化するための製造方法が提供される。この方法は、(a)目標面に粉体からなる層を供給する工程と、(b)層のうち、物体の断面スライスに相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライスは面のうちの一部を形成することと、(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層を形成し、層毎に物体の面を造形する工程と、1つ以上の面は目標面に対して一定の角度を有することと、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフィック・プロトタイピングに関する。より詳細には、本発明は完全緻密部品を生成するための選択的レーザ焼結プロセス(selective laser sintering)に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、選択的レーザ焼結によるラピッドプロトタイピングの分野において、高品質部品の製造にはある種の問題が存在する。第一に、ナイロン製の部品その他の細部は、通常、その密度が一般に60%程度と低いために充分な強度特性を示さない。結果として、そうした部品の強度特性は、航空用部品の品質性能に対する厳密な要件を満たさない。これに加えて、慎重な設計及び一貫した製造にもかかわらず、選択的レーザ焼結を利用して製造される部品は、部品の全体を通じて均一な強度特性を有しない場合がある。解析してみると、焼結部品は部品を通じて密度の変化を示すことがしばしばあり、この密度の変化により均一でなく一様でない強度特性が生じる。したがって、部品が密度の要件を満たす場合であっても、部品の微細構造により強度特性は変化し、予測不能かつ許容不能な性能を示すことがある。実際、航空宇宙、製造業などの用途に有用な部品を製造するには、選択的レーザ焼結、即ち、粉末焼結積層造形により製造される部品の部品密度や、均一性及び一貫性が改良される必要がある。
【0003】
従来の選択的レーザ焼結は1990年代の初頭に開発され、複雑な部品の製造が可能な製造プロセスの一つとなった。選択的レーザ焼結は、射出成型、ブロー成型、機械加工(マシニング)など他のプロセスと比較して、その費用効率性、速度及び簡易性のため、プラスチック部品造形用の実行可能なプロセスの一つとなった。このプロセスにより、種々のプラスチックを複雑な設計の部品へと造形することが可能である。また、部品の設計は、対応するコンピュータモデルから直接、選択的レーザ焼結装置へと通信される。このように、選択的レーザ焼結による複雑な3次元物体の造形には、ユーザに対する大きな利益が存在する。
【0004】
選択的レーザ焼結プロセスには幾つかの工程が含まれる。第一に、所望の材料特性を示す粉体材料が選択される。融解温度、軟化温度、材料密度及び粉体の粒径など、種々の考慮事項は全て重要な選択基準である。焼結粉体の特別な処方に関する種々の発明及び組成物が開発されており、それぞれ有利な特性が得られている。
【0005】
選択的レーザ焼結を実行するために利用される装置は、通常、縦方向に運動可能なピストン、回転機構及びレーザ制御機構を備える。これらは全て、装置の温度制御環境内に収容される。部品を製造するために、ローラ機構は粉体からなる層をピストン上に供給する。粉体の供給されるこの領域は、部品台(パーツベッド;part bed)としても知られる。粉体の層の厚さは約125マイクロメートルであるが、異なってもよい。次に、粉体の層はレーザ制御装置を利用して焼結される。焼結とは、粉体の個々の粒子の各々の少なくとも一部が固体であるまま、接触面が粘性流により融解されて一体となる温度まで粉体を加熱することと定義される。したがって装置内部では、焼結が発生するまで、レーザ制御機構が粉体の層へ向けてレーザエネルギーを照射する。レーザ制御機構は粉体を正確な幾何構成に焼結する。層の焼結走査が完了すると、部品の第1の断面領域にあたる第1のスライスが造形される。
【0006】
第1のスライスの造形に続いて、ピストンが下降し、ローラ機構は続く粉体の層を部品台上に供給する。次に、レーザ制御装置は対応する部品の続く断面に従って、続く層を焼
結する。これらの工程が反復され、さらなるスライスが造形されるにつれ、スライスは焼結され、一体化されて単一の密着した部品となる。部品が部品台から取り除かれるとき、余分な粉体が部品表面から容易に除去され、続く焼結プロセスにおいて再使用されるように、部品の表面付近の粉体の粒子が焼結される必要はない、即ち、融解温度まで加熱される必要はない。各スライスの境界付近の粉体の粒子が融解温度まで加熱される場合、それらの粒子はスライスや他の粒子に付着し、部品の輪郭の明確さが損なわれる。
【0007】
しかしながら、現在の選択的レーザ焼結プロセスの欠点のうちの一つは、最近の開発により対処されていない。詳細には、選択的レーザ焼結プロセスは、通常、完全緻密でない部品を製造するため、選択的レーザ焼結が用いられる用途は限定されている。用語「完全緻密(fully dense)」は、測定可能な気孔を有しないか、又はその材料の理論密度の99.5%に達する部品を指す。用語「ほぼ完全緻密(near fully dense)」は、完全緻密部品の80%〜95%の密度を有する有孔の部品を言う。焼結プロセス中、粉体粒子の間隙のため、完全緻密部品を得ることは困難である。部品の密度や一貫性又は均一性を高めるように、そうした間隙を充填するための粉体及び方法に関する出願は多くある。しかしながら、そうした粉体は追加の費用や複雑さを生じるほか、完全緻密部品の製造も保証していない。
【0008】
間隙及びその結果生じる焼結部品の気孔のため、通常、そうした部品の強度特性は相当する等方性の部品の強度特性より劣る。例えば、引張強度、圧縮、硬度、応力、弾性などの重要特性により、焼結部品が用いられ得る用途の範囲は限定される。詳細には、そうした用途の一つに、航空用品質の部品が含まれる。この用途においては部品の強度特性要件に対する要求が非常に高く、非完全緻密部品の使用は除外される場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本技術分野においては、完全緻密部品を製造する反復可能で高信頼性の選択的レーザ焼結プロセスが必要である。また、本技術分野においては、均一かつ一様な密度を有する部品を製造するプロセスも必要である。本技術分野においては、均質な微細構造の部品を製造する効率的かつ費用効率に優れた選択的レーザ焼結プロセスが必要である。また、本技術分野においては、特定の寸法要件を満たす完全緻密部品を製造する選択的レーザ焼結プロセスが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ほぼ平坦な1つ以上の面を有する3次元の物体を高密度化するための製造方法が提供される。この方法は、(a)目標面に粉体からなる層を供給する工程と、(b)層のうち、物体の断面スライスに相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライスは面のうちの一部を形成することと、(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層を形成し、層毎に物体の面を造形する工程と、1つ以上の面は目標面に対して一定の角度を有することと、からなる。
【0011】
本発明の一態様では、物体の全ての面は目標面に対して一定の角度を有する。好適には、所与の面は目標面に対して10度〜45度の角度を有する。物体は複数の面を有するように様々に構成され、そうした面は、物体の外面であってもよく、或いは、物体の内面であってもよい。
【0012】
この方法の工程(b)には、層にエネルギーを照射して層の選択位置を液化する工程が含まれてよい。これに関して、レーザを用いて層に45ワット〜60ワットのエネルギーを照射してよい。このレーザのフルエンス(単位面積あたりの出力)のため、粉体は完全に融解される。しかしながら、粉体を完全に融解させるためには他のパラメータも変更さ
れてよい。例えば、層の厚さは約0.076mm(0.003インチ)〜約0.152mm(0.006インチ)であってよい。また、走査間隔は約0.254mm(0.010インチ)〜約0.356mm(0.014インチ)の範囲であってよい。走査回数は好適には2回であるが、変更されてよい。
【0013】
本発明のさらなる態様では、物体の断面スライスは断面周辺部を形成し、工程(b)はオフセット値に応じて断面周辺部から選択位置をずらす工程を含む。以下に述べるように、この変更により部品の「膨潤」の軽減が補助される。
【0014】
層の構成及び配置はコンピュータプログラムにより実行されるので、本発明の方法を実施する際には、他の工程も利用され得る。例えば、この方法には、(d)物体の面を識別する工程と、(e)物体の1つ以上の面が目標面に対して一定の角度を有するように、物体のモデルを配向する工程と、(f)モデルを各々目標面に対して平行な複数の断面スライスに区分する工程と、が含まれる。これらの工程が完了すると、各層に対して最適な断面スライスが得られているか否かを判定するために、モデルが検査され得る。そうした判定は、各々の個別のオペレータにより行われてもよく、所与の計画に関する設計要件その他の仕様が考慮されてもよい。
【0015】
本発明の別の実施形態では、ほぼ平坦なドミナント面を有する3次元の物体を高密度化するための製造方法が提供される。この方法は、(a)目標面に粉体からなる層を供給する工程と、(b)層のうち、物体の断面スライスに相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライスはドミナント面のうちの一部を形成することと、(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層を形成し、層毎に物体のドミナント面を造形する工程と、ドミナント面は目標面に対して平行でないことと、からなる。
【0016】
ドミナント面は様々に分類され得る。例えば、物体はそれぞれの個別面積を各々画定するほぼ平坦な複数の面を有し、ドミナント面は複数の面のうちの最大の個別面積を画定する。ドミナント面は物体の外面であってもよく、物体の内面であってもよい。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態では、メジャー面又はマイナー面として各々分類されるほぼ平坦な1つ以上の面を有する3次元の物体を高密度化するための製造方法が提供される。この方法は、(a)目標面に粉体からなる層を供給する工程と、(b)層のうち、物体の断面スライスに相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライスは所与の面のうちの一部を形成することと、(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層を形成し、層毎に物体の所与の面を造形する工程と、各々のメジャー面は目標面に対して平行でないことと、からなる。
【0018】
メジャー面及びマイナー面は様々に分類され得る。例えば、該1つ以上の面の各々は個別面積を画定し、集合的に総面積を画定する。この場合、所与のマイナー面の面積は総面積の10%未満であってもよく、或いは、総面積の5%未満であってもよい。メジャー面及びマイナー面は物体の外面であってもよく、物体の内面であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の方法の種々の実施形態を実行するように動作する製造装置10の側面図である。図1に示すように、レーザ出力制御システム12は、コンピュータなどユーザインタフェース14、レーザ16及び走査システム18を備える。これらは各々、電気的に相互に接続されている。さらに製造装置10は、部品チャンバ20、粉体供給システム22、ローラ24及び部品ピストン26を備える。部品ピストン26はモータ28と機械的に接続されている。ローラ24は、目標面34に粉体32からなる層30を供給するように構成されている。部品ピストン26は、作製操作の開始時に目標面34内に位置する
上面36を形成する。粉体32の層30が目標面34に供給された後、造形のため、レーザ16は、層のうち、物体42の断面スライス40に相当する選択部分38を選択的に融解する。レーザ16が選択部分38を完全に融解すると、部品ピストン26は所定の値に相当するまで下降し、粉体32の別の層30が目標面34に供給される。このプロセスが継続するにつれ、作製領域44又は部品台44と呼ばれる場所に、一層毎に物体42が製造される。
【0020】
本発明の一態様では、ほぼ平坦な1つ以上の面46を有する3次元の物体42を高密度化するための製造方法が提供される。この方法は、(a)目標面34に粉体32からなる層30を供給する工程と、(b)層30のうち、物体42の断面スライス40に相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライス40は面46のうちの一部を形成することと、(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層30を形成し、層毎に物体42の面46を造形する工程と、1つ以上の面46は目標面34に対して一定の角度を有することと、からなる。図2に示すように、本発明の実施が完了すると、本発明により造形される物体42の1つ以上の面46は目標面34に対して一定の角度を有することが想定される。
【0021】
本発明の一実施形態の第1の発明態様には、完全緻密でないにせよ、ほぼ完全緻密な物体42(本明細書では「部品」又は「物体」と呼ぶ)を得るために、粉体32を完全に融解することが含まれる。選択的レーザ焼結など従来のラピッドプロトタイピングプロセスでは、本明細書に示すのと同様の装置が利用されるが、利用されるレーザのフルエンスはより低い。定義では、焼結は、粉体をその融点より低い温度で加熱することにより、粉体から物体を造形するプロセスである。レーザのエネルギーの照射は、粒子の内部を固体としたまま粒子の外部を粘性とするのに充分である。外部の粘性のため、粒子が互いに溶融し、焼結部品を形成することが可能となる。焼結プロセスの結果として、通常、そうした部品は間隙、即ち、気孔を有しており、最大密度は理論密度の95%にまで達する場合もあるが、それは稀である。また、焼結部品の微細構造は明らかな層状構造を示しており、部品の構造的な統合性は充分でない。このため、そうしたプロセスでは寸法の正確な部品は製造されるものの、そうした部品は構造的に充分なものではないため、通常、モデルとしてのみ用いられる。したがって、そうしたプロセスでは、寸法が正確であるのみならず、所与の用途において必要な強度特性も示す「航空用品質」の部品は製造されない。これに対して、本発明では、部分的には粉体の完全融解により、ほぼ完全緻密又は完全緻密な部品の強度特性を示す部品を製造する、一貫した、かつ、反復可能なプロセスが実施される。また、粉体を完全に融解することにより、部品の層毎の形成に関連する他の微細構造の問題も除かれる。特に、部品を完全に融解することにより、均質な(層状でない)微細構造が形成される。結果として、完全に融解した部品の強度特性は、選択的レーザ焼結による部品の強度特性よりも充分に高い。また、完全に融解した部品は、理論密度の99.5%にまで達することが可能である。
【0022】
本発明の一実施形態の別の発明態様には、図2及び図3bに示すように、物体42の面46の配向が含まれる。物体42の面46は、目標面34に対して一定の角度を有するか、或いは、少なくとも目標面に対して平行でない。この配向により、特に、2つの主要な利益が得られる。第1に、粉体32を完全に融解するために、レーザ出力又はレーザのフルエンス(単位面積あたりのレーザ出力)が増大され得る。しかしながら、レーザ出力の増大により、「溶落(burn through)」や、それに対応する寸法精度の低下が生じることが多い。「溶落」には、レーザの高出力又は高フルエンスによる、層30の選択位置の直下又は付近の粉体32の望ましくない融解が含まれる。
【0023】
第2に、先述の配向により、面46の反りも軽減される。層30の選択部分38が融解すると、選択部分38と、選択部分38の下又は周辺の粉体32との重量及び密度の差に
より、反りが生じる場合がある。実際、周囲の粉体32により適切に支持されていない場合、選択部分38(一般には部品も)が反りを生じる場合がある。横方向及び縦方向へのわずかな漸増により、連続的な層30の各々の選択部分38は、その下の層30の融解された選択部分38により支持され得る。
【0024】
したがって、上述のように、「溶落」を軽減するため、及び、物体42の寸法精度を向上させて適正な製造を行うために、造形される物体42の面46が目標面34に対して一定の角度を有するように、物体42の連続的な層30が形成される。
【0025】
ここで図3a,3bを参照する。図3a,3bには、目標面34に対して一定の角度を有する面の配向の一例を示す。図3aに示すように、「溶落」は、レーザ16が比較的小さい断面スライス52に相当する最初の層「Y」(符号50で示す)を融解し、直後に、比較的大きい断面スライス56に相当する別の層「X」(符号54で示す)を融解する場合に生じる。この場合、層「X」54と、その大きい断面スライス56に相当する粉体32の融解により、層「Y」50及び層「Z」(符号58で示す)を通じて下への「溶落」が生じ得る。したがって、本発明の一態様では、図3b及び図5に示すように、層「X」54の面46が目標面34に対して一定の角度を有するように配向させることにより、「溶落」が除かれないまでも軽減される。図5に示すように、面46が目標面34に対して一定の角度を有するように配向させること(図5に示すように、通常、平坦な面が各層30に対して整合しないように配向させることと等しい)により、横方向及び縦方向へのわずかな漸増により面46が形成されるため、「溶落」は効果的に軽減される。このため、例えば図3bに示すように、層「X」の選択部分38へ照射されるレーザエネルギーは、その下の既に融解された層「Y」及び層「Z」に散逸する。図3aに示すように、そうした配向なしでは、層「Z」へ照射されるレーザエネルギーは、それより下の層に「溶落」を生じる可能性がある。このように、この配向により、「溶落」を軽減する層毎の横方向及び縦方向への漸増が提供される。
【0026】
本発明の一態様では、完全に融解する工程には、層30にエネルギーを照射して層30の選択位置を完全に融解する工程が含まれる。したがって、図1に示すように、レーザ16から走査システム18を通じてエネルギーが照射される。レーザ16はCOレーザであることが想定される。さらに、レーザ16を用いて層30に45ワット〜60ワットのエネルギーを照射することが想定される。そのようなエネルギー量は、従来のラピッドプロトタイピングのエネルギー量に比べ、非常に大きい。当業者には認められるように、粉体32を完全に融解するために粉体32の特性に応じてエネルギーが増大されてよい。例えば、密度、融解温度、粒子寸法その他の特性が考慮されてよい。これに加えて、粉体32が先の作製操作で使用されているか否かなど他の考慮事項により、完全融解を行うためにレーザ16からより大きな量のエネルギーが必要となる場合もある。したがって、好適な範囲は45ワット〜60ワットであるが、粉体32の特性に応じて、レーザ16がより大きな出力を照射することも想定される。
【0027】
粉体32は、非晶質の粉体、有機重合体又は金属であってよい。粉体32の材料は、所与の用途に必要な強度特性に従い選択されてよい。本発明の実施は、一様に理論密度の99.5%、即ち、完全緻密な密度を与えるように決定されている。したがって、本発明を実施して「航空用品質」部品を製造することが可能である。本発明を実施して、射出成型又は機械加工による高価な部品製造に対する実行可能な代替手段を提供することが想定される。製造費用の節約の可能性は、特に、限定数の部品しか必要でない場合に重要である。本発明の実施により、高価な射出成型又は機械加工の費用を負担することなく、「航空用品質」部品を製造することが可能である。
【0028】
本発明のさらなる有利な一態様には、物体42の微細構造を改良することが含まれる。
粉体32の完全融解により、物体42の微細構造は均質となる。これは、融解プロセスにより粉体32を定常状態とすることによって達成される。したがって、各層30において各断面スライス40に相当する粉体32を供給し、完全に融解することによって、固体から液体へ、また冷却時に固体へと遷移させることにより、部品が製造される。
【0029】
本発明の実施形態により、微細構造の均質性、即ち、部品内に空気による間隙が存在しないこと、及び、部品が層毎に造形された部品の微細構造の欠点を有しないことが保証される。当業者には知られているように、間隙、即ち、気孔は物体42の強度特性を減少させる。これに加えて、層毎の微細構造により、部品が剪断、屈曲その他の応力による不充分な強度特性を示す場合がある。しかしながら、本発明の態様により、部品が層毎に製造される場合にも部品の微細構造は層毎の製造の特性を示さない。したがって、この部品は、例えば、均質な固体材料の単一のブロックから機械加工された、又は、射出成型された同じ構成の部品に匹敵する強度特性を示す。
【0030】
上述のように、選択的レーザ焼結など従来のラピッドプロトタイピングプロセスでは、明らかな層状の微細構造を示し、それに対応する不充分な強度特性を有する部品が製造される。さらに、そうした部品はほぼ完全緻密でもなく、完全緻密でもない。これに対して、物体42の断面に相当する選択位置を完全に融解することにより、物体42の連続的な断面スライス40は完全に融解し、均質な微細構造が形成される。また、各断面スライス40を完全に融解することにより、物体42が全体を通じて均一な特性を有することが保証されるが、このことは選択的レーザ焼結のみならず射出成型においても有利である。
【0031】
再び図3bを参照する。この方法の実施が完了すると、物体42は作製領域44又は部品台44内で粉体32に囲まれている。上述のように、1つ以上の面46は目標面34に対して一定の角度を有することが想定される。これに加えて、面46は所与の層30に対して一定の角度を有し得る。このようにして、粉体32の「溶落」は軽減される。当業者には認められるように、物体42は異なった構成であってもよい。例えば、物体42は立方体又は円柱など、外部にごくわずかな細部しか有しない固体であってよい。しかしながら、物体42は、内部の空洞、階層、穴、フランジ、穿孔及び内部設計又は外部設計を含む非常に精密な構成や、その他、細部を形成する任意の種々の可能性を有してもよい。したがって、上述の面46は物体42の外面であってもよく、内面であってもよい。上述のように、面46は、ほぼ平坦であると想定される。これに関して、面46は幾らか曲がっていてもよく、くぼみを有してもよい。ほぼ平坦な面46は、冷却時、物体42が種々の方向に縮小するときに形成される面であり、ほぼ平坦となるように設計された面には、部分的な反りが生じると想定される。しかしながら、ほぼ平坦な面46は、上述のように、設計による内外への湾曲を含む面である場合もある。また、面46には、平坦な縁などの幾何構成が含まれてもよい。例えば、平坦な縁は、円柱の対向する両端面の間に伸びる直線である。この円柱が本発明を実施して製造される場合、円柱の縁は目標面34に対して一定の角度を有する。
【0032】
本発明の好適な一実施形態では、面46は目標面34に対して10度〜45度の角度を有する。また、角度は目標面34に対して90度までの任意の角度であることが想定される。角度は、製造される部品の幾何、即ち、構成により決定される。
【0033】
図4に示すように、物体42の断面スライス40は断面周辺部60を形成し、完全に融解する工程はオフセット値62に応じて断面周辺部60から選択位置をずらす工程を含む。粉体32の完全融解により、融解した粉体32が高温であるために部品の表面に余分な粉体32が蓄積する、「膨張(スウェル)」として知られる問題が生じる。「膨張」を軽減するために、断面周辺部60から断面スライス40の選択位置がずらされる。オフセット値62は、粉体32の融解温度、密度その他の特性に基づき決定される。したがって、
異なる粉体32材料の使用には、異なるオフセット値62が必要であることが想定される。さらに、物体42の異なる幾何構成にも、異なるオフセット値62が必要であることが想定される。詳細には、所与の部品は、層30の選択位置の構成や、物体42の外部及び内部の構成全体に応じて、種々のオフセット値を有する。また、この方法には、「膨張」を軽減し、寸法精度の高い部品を製造するために、断面スライス40の断面周辺部60の輪郭を取る工程が含まれてよい。レーザ16により断面スライス40が融解される前又はされた後に、断面周辺部60の輪郭が取られてよい。図4にも示すように、レーザ16の経路63は、レーザ16の走査回数、走査間隔及び走査速度により決定される。
【0034】
本発明の別の態様では、層30の厚さは約0.076mm(0.003インチ)〜約0.152mm(0.006インチ)である。本発明の好適な一実施形態では、層30の厚さは約0.102mm(0.004インチ)である。層30の厚さは、断面スライス40など物体42の構成や、融点、粉体密度及び粉体32の材料の密度など粉体32の特性に応じて変更され得ることが想定される。
【0035】
完全に融解する工程(b)には、レーザ16の走査回数、走査間隔及び走査速度などのパラメータを変更する工程が含まれる。本発明の好適な一実施形態では、走査間隔は約0.254mm(0.010インチ)〜約0.356mm(0.014インチ)であり、走査回数は2回である。部品チャンバ20内の温度やローラ速度など他のパラメータは、この方法の実施の性能を向上させるように操作されてよい。例えば、当業者には認められるように、選択的レーザ焼結プロセスでは、粉体供給システムにより部品台を通じて供給されているときに粉体を「塊化(cake)」(即ち、自身又は部品台へ付着)させることなく、粉体が低出力のレーザにより容易に焼結されるように、部品チャンバ内で粉体を粉体の「軟化」終了温度付近の温度まで加熱することがしばしばある。しかしながら、この方法の一実施例では、部品チャンバ20の温度を粉体32の「軟化」温度付近に精密に保持することは不要である。代わりに、部品チャンバ20が目標面34に粉体32の均等な供給を保証する温度に保持されてもよい。
【0036】
図3bに示すように、完了時、各層30のうち、物体42の断面スライス40に相当する選択位置を層毎に融解することにより、物体42が造形される。当業者には認められるように、物体42の各断面スライス40の構成は、コンピュータ支援設計(CAD)又はコンピュータ支援製造(CAM)システムの使用により、コンピュータ、即ち、ユーザインタフェース14にて計算されてよい。これに関して、この方法はさらに、(d)物体42の面46を識別する工程と、(e)物体42の1つ以上の面46が目標面34に対して一定の角度を有するように、物体42のモデルを配向する工程と、(f)モデルを各々目標面34に対して平行な複数の断面スライス40に区分する工程と、を含む。これらの工程の完了時、コンピュータはレーザ出力制御システム12を介してレーザ16に、それぞれの層30の選択位置を完全に融解するように指示する。
【0037】
本発明の別の実施例では、ほぼ平坦なドミナント面64を有する3次元の物体42を高密度化するための製造方法が提供される。この方法は、(a)目標面34に粉体32からなる層30を供給する工程と、(b)層30のうち、物体42の断面スライス40に相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライス40はドミナント面64のうちの一部を形成することと、(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層30を形成し、層毎に物体42のドミナント面64を造形する工程と、ドミナント面64は目標面34に対して平行でないことと、からなる。
【0038】
図3bを参照すると、ドミナント面64は様々に形成され得る。一実施形態では、物体42はそれぞれの個別面積66を各々画定するほぼ平坦な複数の面46を有する。この場合、ドミナント面64はほぼ平坦な複数の面46のうちの最大の個別面積66を画定する
。また、物体42の構造的又は機能的により重要な面をドミナント面64とすることにより、その面の製造に対する注意を喚起してもよい。このことは物体42の用途から明らかであり、そうした決定は当業者により行われることが想定される。上述の理由から、ドミナント面64を目標面34に対して平行でないように配向することにより、「溶落」、反り及び「膨張」の問題は軽減され得る。したがって、ドミナント面64における部品の寸法精度は向上する。上述と同様に、ドミナント面64は物体42の内面であってもよく、外面であってもよい。
【0039】
本発明の別の実施例では、メジャー面68又はマイナー面70として各々分類されるほぼ平坦な1つ以上の面46を有する3次元の物体42を高密度化するための製造方法が提供される。この方法は(a)目標面34に粉体32からなる層30を供給する工程と、(b)層30のうち、物体42の断面スライス40に相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライス40は所与の面46のうちの一部を形成することと、(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層30を形成し、層毎に物体42の所与の面46を造形する工程と、各々のメジャー面68は目標面34に対して平行でないことと、からなる。
【0040】
図3a,3bを参照すると、メジャー面68及びマイナー面70もまた様々に形成され得る。例えば、物体42のほぼ平坦な面46の各々は個別面積66を画定するとともに、集合的に総面積を画定する。一例では、所与のマイナー面70の個別面積66は総面積の10%未満である。しかしながら、物体42の構成に応じて他の比率がさらに有利であり得ることが想定される。さらにまた、所与のマイナー面70の個別面積66は総面積の5%未満であってもよい。また、物体42の構造又は機能に対し比較的重要でないために、ある面がマイナー面70として分類されることが想定される。メジャー面68は、総面積のうちの一定のパーセンテージを超える個別面積66を有する面として定義される。マイナー面70と同様に、面46がメジャー面68であるか否かの判定は、総面積のパーセンテージにより異なる。また、面46の構造又は機能の重要性により、そうした面がメジャー面68であるか否かがさらに判定されてよい。さらに、複数のメジャー面68が目標面34に対して平行でないことが想定される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態により目標面に粉体からなる最初の層が供給されている製造装置の側面概略図。
【図2】本発明の別の実施形態により物体を造形した製造装置の側面概略図。
【図3a】面が目標面に整合するように製造される物体の側面図。
【図3b】本発明の別の実施形態により面が目標面に対して一定の角度を有するか、或いは少なくとも目標面に対して平行でないように製造される物体の側面図。
【図4】本発明の別の実施形態による物体の平面図。
【図5】本発明の別の実施形態による面の層毎の形成を強調した図3の(b)に示す物体の外観の拡大側面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ平坦な1つ以上の面を有する3次元の物体を高密度化するための製造方法であって、
(a)目標面に粉体からなる層を供給する工程と、
(b)層のうち、物体の断面スライスに相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライスは面のうちの一部を形成することと、
(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層を形成し、層毎に物体の面を造形する工程と、
1つ以上の面は目標面に対して一定の角度を有することと、からなる方法。
【請求項2】
物体の全ての面は目標面に対して一定の角度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
面は目標面に対して10度〜45度の角度を有する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
面は物体の外面である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
面は物体の内面である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)は層にエネルギーを照射して層の選択位置を液化する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
レーザを用いて層に45ワット〜60ワットのエネルギーを照射する請求項2に記載の方法。
【請求項8】
層の厚さは約0.076mm(0.003インチ)〜約0.152mm(0.006インチ)である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
走査間隔は約0.254mm(0.010インチ)〜約0.356mm(0.014インチ)である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
走査回数は2回である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(d)物体の面を識別する工程と、
(e)物体の1つ以上の面が目標面に対して一定の角度を有するように、物体のモデルを配向する工程と、
(f)モデルを各々目標面に対して平行な複数の断面スライスに区分する工程と、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
物体の断面スライスは断面周辺部を形成することと、
工程(b)はオフセット値に応じて断面周辺部から選択位置をずらす工程を含むことと、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ほぼ平坦なドミナント面を有する3次元の物体を高密度化するための製造方法であって、
(a)目標面に粉体からなる層を供給する工程と、
(b)層のうち、物体の断面スライスに相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライスはドミナント面のうちの一部を形成することと、
(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層を形成し、層毎に物体のドミナント面を造形する工程と、
ドミナント面は目標面に対して平行でないことと、からなる方法。
【請求項14】
物体はそれぞれの個別面積を各々画定するほぼ平坦な複数の面を有することと、
ドミナント面は複数の面のうちの最大の個別面積を画定することと、を含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ドミナント面は物体の外面である請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ドミナント面は物体の内面である請求項13に記載の方法。
【請求項17】
メジャー面又はマイナー面として各々分類されるほぼ平坦な1つ以上の面を有する3次元の物体を高密度化するための製造方法であって、
(a)目標面に粉体からなる層を供給する工程と、
(b)層のうち、物体の断面スライスに相当する選択位置を完全に融解する工程と、断面スライスは所与の面のうちの一部を形成することと、
(c)工程(a)及び(b)を反復して連続的な層を形成し、層毎に物体の所与の面を造形する工程と、
各々のメジャー面は目標面に対して平行でないことと、からなる方法。
【請求項18】
前記1つ以上の面の各々は個別面積を画定し、かつ、集合的に総面積を画定することと、
所与のマイナー面の面積は総面積の10%未満であることと、を含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上の面の各々は個別面積を画定し、かつ、集合的に総面積を画定することと、
所与のマイナー面の面積は総面積の5%未満であることと、を含む請求項17に記載の方法。
【請求項20】
メジャー面は外面及び内面のうちの一方である請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−106108(P2007−106108A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196741(P2006−196741)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(397017191)ノースロップ グラマン コーポレーション (30)
【Fターム(参考)】