説明

高屈折率線状重合体及びその製造方法

【課題】高い屈折率を有し、着色の問題がなく、しかも成形性、加工性等に優れた高屈折率線状重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高屈折率線状重合体。


(式中、A及びBは2価の有機基を表し、Xは酸素原子、−NH−、又は硫黄原子を示し、Dは炭素数1〜8のチオアルキレン基を示す。なお、一般式(1)中にそれぞれ2個あるD、Xは同一であっても異なるものであってもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率線状重合体及びその製造方法に関する。本発明はまた、このような高屈折率線状重合体よりなる光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部品にはガラスを基材とするものが多く使われてきた。例えば、各種レンズにはガラス製レンズが用いられてきた。しかしながら、ガラス製レンズは比重が大きいために、現在各種用途において要望されている軽量、薄型化には十分に対応し得ない。また、ガラスは成形性、加工性にも問題がある。このようなことから、軽量で機械的強度が高く、成形、加工が容易な樹脂製レンズが注目されている。
【0003】
しかしながら、樹脂は屈折率が低いため、所望の光学特性のレンズを成形するためには、その厚みを厚くせざるを得ず、レンズの厚みを薄くすることが困難であった。また、これまで、樹脂そのものの屈折率を高めようとする検討がなされてきたが、屈折率(nD)が1.6以上で実用性のあるものを得ることは難しかった。そこで、より高屈折率の材料を得ようとする動きが強まっている。
【0004】
特許文献1には、ジチオール化合物と多価モノマーとの反応により、高屈折率プラスチックレンズ用樹脂を作成する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ジチオール化合物とジビニルベンゼンとの反応により、光学用樹脂を作成する方法が開示され、また、特許文献3には、ジチオール化合物と2官能モノマーとの反応により、光学用樹脂を作成する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、全芳香族で硫黄を含むポリアミド化合物が示されている。
【特許文献1】特開平2−58001号公報
【特許文献2】特開平2−289622号公報
【特許文献3】特開平5−70524号公報
【特許文献4】特開昭60−226527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に開示される高屈折率樹脂は、いずれもラジカル反応で得られた三次元架橋樹脂であるため、後工程でレンズ等の形に成形することが困難であった。また、他の樹脂や溶媒と混合して射出成形したり、コーティング組成物を作成したりすることも困難であった。
【0008】
また、特許文献4に開示されている樹脂は、ガラス転位温度(Tg)が高いため(188℃〜250℃:実施例)、成形がしにくく、かつ着色があるため光学材料としては使用できないものであった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の欠点を解決し、着色の問題がなく、高い屈折率を有し、しかも成形性、加工性等に優れた高屈折率線状重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を持つ線状重合体の着色が小さく、また高い屈折率を維持し、かつTgが高すぎないため、成形性や加工性に優れた重合体であることを見出し、かかる知見に基いて本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明の第一の要旨は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高屈折率線状重合体、に存する。
【化7】

(式中、A及びBは2価の有機基を表し、
Xは酸素原子、−NH−、又は硫黄原子を示し、
Dは炭素数1〜8のチオアルキレン基を示す。
なお、一般式(1)中にそれぞれ2個あるD、Xは同一であっても異なるものであってもよい。)
【0012】
本発明の第二の要旨は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位からなる高屈折率線状重合体、に存する。
【化8】

(式中、A及びBは2価の有機基を表し、
Xは酸素原子、−NH−、又は硫黄原子を示し、
Rは水素原子又はメチル基を表す。
なお、一般式(2)中にそれぞれ2個あるR、Xは同一であっても異なるものであってもよい。)
【0013】
本発明の第三の要旨は、下記一般式(3)で表されるジチオール化合物、と下記一般式(4)で表されるジビニル化合物とを反応させる上記高屈折率線状重合体の製造方法、に存する。
HS−A−SH (3)
(式中、Aは一般式(2)におけると同義である。)
【化9】

(式中B,R,Xは一般式(2)におけると同義である。)
【0014】
本発明の第四の要旨は、上記高屈折率線状重合体を成形してなる光学材料、に存する。
【0015】
なお、本発明において、屈折率とは、ナトリウムD線(波長589.3nm)の波長で、25℃の温度で測定された値である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、着色の問題がなく、高い屈折率を有し、かつ、Tgが高すぎず、また溶媒溶解性に優れるため、成形性、加工性にも優れた高屈折率線状重合体が提供される。
【0017】
この高屈折率線状重合体は、射出成形、プレス成形等の一般的な成形方法により、容易にレンズ等の光学材料、その他の部材に成形することができ、また、この高屈折率線状重合体を用いてコーティング組成物を調製することも可能である。
【0018】
従って、本発明によれば、光学材料等の分野において、従来のガラス製品を樹脂製品に代替して、その軽量、薄肉化を図ることができ、更に、高屈折率樹脂の用途の拡大を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定はされない。
【0020】
なお、以下において「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」は、それぞれ「アクリレート又はメタクリレート」、「アクリロイル又はメタクリロイル」を意味する。
【0021】
[高屈折率線状重合体]
本発明の高屈折率線状重合体は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する。
【化10】

(式中、A及びBは2価の有機基を表し、
Xは酸素原子、−NH−、又は硫黄原子を示し、
Dは炭素数1〜8のチオアルキレン基を示す。
なお、一般式(1)中にそれぞれ2個あるD、Xは同一であっても異なるものであってもよい。)
【0022】
本発明の高屈折率線状重合体の好ましい一態様としては例えば、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【化11】

(式中、A及びBは2価の有機基を表し、
Xは酸素原子、−NH−、又は硫黄原子を示し、
Rは水素原子又はメチル基を表す。
なお、一般式(2)中にそれぞれ2個あるR、Xは同一であっても異なるものであってもよい。)
【0023】
一般式(1),(2)において、Aは2価の有機基を表す。
Aとしては2価の有機基であれば特に限定はされないが、好ましくは炭素数2〜12の脂肪族性の有機基、又は、炭素数6〜12の芳香族基含有の有機基である。脂肪族性の有機基、芳香族基含有の有機基としては、−S−の化学形態の硫黄及び/又は−O−の化学形態の酸素を含んでいてもよい。−S−の化学形態の硫黄及び/又は−O−の化学形態の酸素を含んでいてもよい炭素数2〜12の脂肪族性の有機基の具体例としては次の基が挙げられる。
【0024】
−CH−CH
−CH−CH−CH
−CH−CH−S−CH−CH
−CH−CH−O−CH−CH−O−CH−CH
【0025】
−S−の化学形態の硫黄及び/又は−O−の化学形態の酸素を含んでいてもよい炭素数2〜12の脂肪族性の有機基は、以下のシアノ基で置換されたビニレン基でもよい。
【0026】
【化12】

【0027】
−S−の化学形態の硫黄及び/又は−O−の化学形態の酸素を含んでいてもよい炭素数6〜12個の芳香族基含有の有機基における芳香族基としては、芳香族炭化水素環由来の基や、窒素原子及び/又は硫黄原子を含む芳香族複素環由来の基が好ましい。ここで、窒素原子を含む芳香族複素環は芳香族アミノ基で置換されていてもよい。−S−の化学形態の硫黄及び/又は−O−の化学形態の酸素を含んでいてもよい炭素数6〜12個の芳香族基含有の有機基の具体例としては次の基が挙げられる。
【0028】
【化13】

【0029】
Aとして好ましくは硫黄原子及び/又は芳香族基を含む基である。特に好ましくは、硫黄原子及び芳香族基を含む基である。硫黄原子及び芳香族基を含有することで、屈折率を高くすることができる。
【0030】
一般式(1),(2)中、Bは2価の有機基を表す。Bは、2価の有機基であれば特に限定はないが、好ましくは硫黄原子及び/又は芳香族基を含む基である。特に好ましくは、硫黄原子及び芳香族基を含む基である。硫黄原子及び芳香族基を含有することで、屈折率を高くすることができる。Bは、好ましくは下記一般式(1A)で表される基である。
【化14】

【0031】
一般式(1A)において、Rは炭素数1〜12の2価の炭化水素基を表し、かかる基としては炭素数が1〜12であり、炭素原子及び水素原子より構成され、結合手を2つ有するものであれば特に制限されないが、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基等のアルキレン基が挙げられる。好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基、より好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基である。
【0032】
Arは、フッ素を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜30のアリーレン基、又はフッ素を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数7〜30のアラルキレン基を表す。炭素数6〜30、好ましくは6〜12のアリーレン基としては、具体的には、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。炭素数7〜30、好ましくは7〜14のアラルキレン基としては、−(CH−Ar’−、−Ar’−(CH−、−(CH−Ar’−(CH−が挙げられる。ここでAr’はフェニレン基、ナフチレン基などの炭素数6〜29のアリーレン基を表し、x、yはそれぞれ1〜24の整数を表し、x、y及びAr’で示されるアリーレン基の炭素数の和は7〜30である。これらのアリーレン基、アラルキレン基は通常1〜12個、好ましくは2〜8個のフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。ここで、フッ素原子を除くのは、フッ素原子には屈折率を下げる作用があるためである。
【0033】
Qは、−O−又は−S−を示す。
【0034】
Yは、Qが−O−の場合は、−S−又は−SO−を示す。また、Yは、Qが−S−の場合は、−S−、−SO−、−CO−、炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数7〜30のアラルキレン基、或いは−Ar−(Y−Ar)−が下記一般式(1a)又は下記一般式(1b)で表されるオリゴマーを表す。Qが−S−の場合、Yは好ましくは、−S−又は−SO−である。
【0035】
【化15】

(式中、Rは鎖中にエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を示し、kは平均オリゴマー化度を表す1〜5の数である。)
【0036】
【化16】

(式中、lは平均オリゴマー化度を表す1〜5の数である。)
【0037】
上記Yの炭素数1〜12のアルキレン基としては、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基等が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜6アルキレン基である。炭素数7〜30、好ましくは7〜14のアラルキレン基としては、−(CH−Ar’−、−Ar’−(CH−、−(CH−Ar’−(CH−が挙げられる。ここで、Ar’はフェニレン基、ナフチレン基などの炭素数6〜29のアリーレン基を表し、x、yはそれぞれ1〜24の整数を表し、x、y及びAr’で示されるアリーレン基の炭素数の和が7〜30、好ましくは7〜14である。
【0038】
また、Rで表される、鎖中にエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基としては、炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基中の任意の位置に、通常1〜5個の−O−基を有していてもよい基を挙げることができる。
【0039】
前記一般式(1A)において、m及びnはそれぞれ1〜5、好ましくは1〜3の整数を示し、pは0〜10、好ましくは0〜5の数を示す。
【0040】
前記一般式(1A)において、それぞれ複数個あるR,Ar,Q,Yは同一であっても異なるものであってもよい。
【0041】
A,Bの好適な具体例を以下に示す。
【0042】
【化17】

【0043】
【化18】

【0044】
【化19】

【0045】
【化20】

【0046】
前記一般式(1)中、Dは炭素数1〜8のチオアルキレン基、即ち、アルキレン基の末端に硫黄原子が連結した基を示す。ここで、D中のAと結合する部分は硫黄原子である。また、チオアルキレン基は鎖状であっても、分枝状であっても構わない。好ましくは炭素数1〜4のチオアルキレン基である。
【0047】
また、一般式(1)中、Xは酸素原子、−NH−、又は硫黄原子を表す。好ましくは酸素原子又は−NH−であり、さらに好ましくは−NH−である。
【0048】
なお、一般式(1)中にそれぞれ2個あるD、X及び一般式(2)において2個あるXは同一であっても異なるものであってもよい。
【0049】
特に、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する本発明の高屈折率線状重合体は、前記一般式(2)において、Aが下記一般式で表され、Xが酸素原子であり、かつBが下記一般式(B−1)〜(B−3)で表されるものであることが、より高屈折率の重合体を得ることができる点において好ましい。
【0050】
【化21】

【0051】
【化22】

(式中、e及びfは、それぞれ独立して、1〜6の整数を表す。)
【0052】
【化23】

(式中、g,h,i及びjは、それぞれ独立して、1〜6の整数を示す。)
【0053】
本発明の高屈折率線状重合体として更に好ましい重合体の例としては、以下の重合体を挙げることができる。
【0054】
【化24】

【0055】
このような本発明の高屈折率線状重合体の屈折率は1.55以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.6以上、特に好ましくは1.65以上である。高屈折率線状重合体の屈折率は高い方が好ましいが、通常上限は、1.9以下である。
【0056】
また、本発明の高屈折率線状重合体の重量平均分子量(Mw)は1,000以上が好ましく、さらに好ましくは5,000以上、特に好ましくは10,000以上である。重量平均分子量の上限は10,000,000以下が好ましく、さらに好ましくは1,000,000以下、特に好ましくは100,000以下である。高屈折率線状重合体の重量平均分子量(Mw)が大き過ぎると溶媒に溶解しにくくなり、小さすぎると屈折率が低下する。
【0057】
また、本発明の高屈折率線状重合体は、その良溶媒に対する溶解性が1重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上である。ここで溶解とは溶媒中で透明で均一になる状態のことを指し、架橋樹脂で見られる、透明なまま膨潤したり、ミクロゲルが分散した形態は含まない。
【0058】
なお、本発明の高屈折率線状重合体の良溶媒とは、当該高屈折率線状重合体を上記溶解度で溶解する溶媒であれば特に限定はないが、テトラヒドロフラン、ピロリドン等の複素環溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0059】
また、本発明の高屈折率線状重合体のTgは、通常0〜180℃、好ましくは40〜180℃、さらに好ましくは80〜180℃である。Tgが高すぎると射出成形で成形しにくい、着色しやすいという問題点があり、低すぎると光学部品として使用する際、環境の温度変化で変形しやすいという問題点がある。
【0060】
[高屈折率線状重合体の製造方法]
前記一般式(1)で表される本発明の高屈折率線状重合体の製造方法には特に制限はなく、公知の方法で製造することができるが、好ましくは、本発明の高屈折率線状重合体は、次の[1],[2]又は[3]の方法で製造することができる。
[1]ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアミン化合物の重合による方法
[2]ジチオール化合物とジビニル化合物の重合による方法
[3]ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアルコール化合物の重合による方法
【0061】
[1]ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアミン化合物の重合による方法
ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアミン化合物の重合により本発明の高屈折率線状重合体を製造するに当たり用いるモノマーの種類としては、任意のジカルボン酸及び/又はその酸ハライドとジアミンを使用することができる。
【0062】
(ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物)
ジカルボン酸及び/又はその酸ハライドとして好ましいのは、下記一般式[1-a]で表される化合物である。
G−D−A−D−G [1-a]
(式中、A,Dは前記一般式(1)におけると同義である。
Gは−COOH、又は−COCl等の酸ハライド基である。)
【0063】
ジカルボン酸及び/又はその酸ハライドの好ましい具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【0064】
【化25】

【0065】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0066】
重合反応に供されるジカルボン酸及び/又はその酸ハライドの屈折率は通常1.4以上、好ましくは1.50以上、さらに好ましくは1.55以上、更に好ましくは1.6以上である。屈折率は高い方が好ましいが、通常上限は、1.9以下である。
【0067】
(ジアミン化合物)
ジアミン化合物としては、特に限定はないが、好ましくは下記一般式[1-b]で表される任意のジアミン化合物を用いることができる。
N−B−NH [1-b]
(式中、Bは前記一般式(1)におけると同義である。)
【0068】
ジアミン化合物として好ましい具体例としては、Bとして好ましい例として例示した構造を有するものを挙げることができ、好ましくは、下記構造を有するジアミンが挙げられる。
【0069】
【化26】

【0070】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0071】
本発明で重合反応に供されるジアミン化合物の屈折率は通常1.4以上、好ましくは1.50以上、さらに好ましくは1.55以上、更に好ましくは1.6以上である。屈折率は高い方が好ましいが、通常上限は、1.9以下である。
【0072】
本発明の高屈折率線状重合体の屈折率は後述の如く1.60以上であることが好ましいが、屈折率が1.60以上の高屈折率線状重合体を得るためには、上記ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアミン化合物の屈折率を選択することによって、得られる高屈折率線状重合体の高屈折率を高いものとすることが好ましい。
【0073】
例えば、高屈折率線状重合体の合成反応に供する2種類のモノマーのうち一方のモノマーの屈折率が1.55以下である場合でも、もう一方のモノマーの屈折率を1.55以上として、バランスを取ることにより、屈折率1.55以上の高屈折率線状重合体を得ることができる。
【0074】
(重合方法)
重合方法としては、各種方法を用いることができるが、一例としては、ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアミン化合物を溶媒中で混合した後、触媒を加えて加熱する方法が挙げられ、このような方法により縮合反応が起こり、所望の重合体を得ることができる。触媒としては通常、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミンが用いられる。
【0075】
溶媒中のモノマーの量は任意であるが、通常1〜50重量%、好ましくは10〜30重量%で実施される。触媒の量も任意であるが、モノマーに対して通常0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%の間で実施される。加熱の温度及び/又は時間も任意であるが、通常加熱温度は20℃〜150℃の間で実施される。
【0076】
[2]ジチオール化合物とジビニル化合物の重合による方法
ジチオール化合物とジビニル化合物の重合による方法で高屈折率線状重合体を製造する場合、例えば、下記一般式(3)で表されるジチオール化合物と、下記一般式(4)で表されるジビニル化合物とを反応させることにより製造することができる。
【0077】
HS−A−SH (3)
(式中、Aは一般式(1),(2)におけると同義である。)
【0078】
【化27】

(式中、B,R,Xは一般式(1),(2)におけると同義である。)
【0079】
(ジオール化合物)
ジオール化合物としては、一般式(3)で表される任意のジオール化合物を用いることができ、一般式(3)において、Aの好ましい具体例も前述の通りであるが、ジチオール化合物の好ましい具体例としては、下記構造を有するジチオールを挙げることができる。
【0080】
【化28】

【0081】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0082】
本発明で使用されるジチオール化合物の屈折率は通常1.4以上、好ましくは1.50以上、さらに好ましくは1.55以上、特に好ましくは1.6以上である。ジチオール化合物の屈折率は高い方が好ましいが、通常上限は、1.9以下である。
【0083】
(ジビニル化合物)
ジビニル化合物としては、前記一般式(4)で表される任意のジビニル化合物を用いることができる。
【0084】
高屈折率線状重合体を得る目的からは、より屈折率の高い下記一般式(4−A)で表される硫黄含有(メタ)アクリレート化合物を使用することが望ましい。
【0085】
【化29】

【0086】
一般式(4−A)において、Rは水素原子又はメチル基を表し、R,Ar,Q,Yは、前記一般式(1A)におけると同義である。
【0087】
Zは−O−又は−S−を示す。m及びnはそれぞれ1〜5、好ましくは1〜3の整数を示し、pは0〜10、好ましくは0〜5の数を示す。
【0088】
前記一般式(4−A)において、それぞれ複数個あるR,R,Ar,Z,Q,Yは同一であっても異なるものであってもよい。
【0089】
前記一般式(4−A)で表されるイオウ含有(メタ)アクリレートを具体的に例示すれば、p−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)キシレン、p−ビス(β−(メタ)アクリロイルチオエチルチオ)キシレン、m−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)キシレン、m−ビス(β−(メタ)アクリロイルチオエチルチオ)キシレン、α、α’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)−2,3,5,6−テトラクロロ−p−キシレン、α、α’−ビス(β−(メタ)アクリロイルチオエチルチオ)−2,3,5,6−テトラクロロ−p−キシレン、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)ジフェニルスルフィド、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルチオエトキシ)ジフェニルスルフィド、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルチオエトキシエトキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルスルフィド、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルチオエチルチオ)ジフェニルスルフィド、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルスルホン、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルチオエチルチオ)ジフェニルスルホン、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルケトン、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルチオエチルチオ)ジフェニルケトン、2,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルケトン、2,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルチオエチルチオ)ジフェニルケトン、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)−3,3’,5,5’−テトタブロモジフェニルケトン、4,4’−ジ(β−(メタ)アクリロイルチオエチルチオ)−3,3’,5,5’−テトタブロモジフェニルケトン、β,β’−ビス(p−(メタ)アクリロイルオキシフェニルチオ)ジエチルエーテル、β,β’−ビス(p−(メタ)アクリロイルチオフェニルチオ)ジエチルエーテル、β,β’−ビス(p−(メタ)アクリロイルオキシフェニルチオ)ジエチルチオエーテル、β,β’−ビス(p−(メタ)アクリロイルチオフェニルチオ)ジエチルチオエーテルなどが挙げられる。
【0090】
ジビニル化合物としては、上記に挙げた化合物の中で、特に好ましくは、下記一般式(3−i)〜(3−v)で表される分子内に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物、とりわけ好ましくは、下記一般式(3−i),(3−ii)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を挙げることができる。
【0091】
【化30】

(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、e及びfは、それぞれ独立して、1〜6の整数を示す。)
【0092】
【化31】

(式中、R21及びR22は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、g,h,i及びjは、それぞれ独立して、1〜6の整数を示す。)
【0093】
【化32】

【0094】
【化33】

【0095】
【化34】

【0096】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0097】
本発明で使用されるジビニル化合物の屈折率は、通常1.4以上、好ましくは1.50以上、さらに好ましくは1.55以上、特に好ましくは1.6以上である。ジビニル化合物の屈折率は高い方が好ましいが、通常上限は、1.9以下である。
【0098】
本発明の高屈折率線状重合体の屈折率は、後述の如く、1.55以上であることが好ましいが、屈折率1.55以上の高屈折率線状重合体を得るためには、原料となるモノマーの上記ジチオール化合物とジビニル化合物の屈折率を適当に選択することが重要である。例えば、ジチオール化合物とジビニル化合物の一方の屈折率が1.55未満である場合、もう一方のモノマーの屈折率を1.55以上にして、屈折率のバランスを取ることにより、屈折率1.55以上の高屈折率線状重合体を得ることができる。
【0099】
(重合方法)
本発明の高屈折率線状重合体の製造方法としては、各種方法を用いることができるが、一例としては、上述のジチオール化合物とジビニル化合物を溶媒中で混合した後、触媒を加えて加熱することにより、下記のマイケル付加反応を起こして線状重合体を得る方法が挙げられる。
【0100】
【化35】

【0101】
この場合、触媒としては通常、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミンの1種又は2種以上が用いられる。
【0102】
ジチオール化合物とジビニル化合物とは理論的には1:1で反応するため、反応にはジチオール化合物とジビニル化合物とは1:0.9〜1.1のモル比で用いることが好ましい。
【0103】
溶媒としては、ジチオール化合物及びジビニル化合物と、合成される高屈折率線状重合体の溶解性に優れるもので沸点が室温(20℃)以上のものであればよく、例えばテトラヒドロフラン、ピロリドン等の複素環溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0104】
また、溶媒中のモノマーの量は任意であるが、通常1〜50重量%、好ましくは10〜30重量%で実施される。触媒の量も任意であるが、反応に供するモノマーに対して通常0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%の範囲で用いられる。
【0105】
加熱の温度、時間も任意であるが、加熱温度については、前記一般式(1)中、XがNの場合は−30〜20℃、XがSの場合は0℃〜100℃、XがOの場合は20℃〜150℃の間で実施される。加熱温度が高過ぎると反応の速度が速すぎ、コントロールしにくく、低過ぎると反応が進行しない。
【0106】
なお、前述のジチオール化合物とジビニル化合物とを反応させる場合、ラジカル開始剤を触媒とすると線状重合体ではなく、三次元架橋樹脂となる。従って、本発明においてはジチオール化合物とジビニル化合物とを線状に重合するために、触媒をアミン系することが重要である。
【0107】
[3]ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアルコール化合物の重合による方法
ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアルコール化合物の重合による方法で用いられるモノマーの種類としては、特に制限はなく、任意のジカルボン酸及び/又はその酸ハライドとジアルコールを使用することができる。
【0108】
(ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド)
ジカルボン酸及び/又はその酸ハライドとして好ましいのは、下記一般式[3-a]で表される化合物である。
G−D−A−D−G [3-a]
(式中、A,Dは前記一般式(1)におけると同義である。
Gは−COOH、又は−COCl等の酸ハライド基である。)
【0109】
ジカルボン酸及び/又はその酸ハライドの好ましい具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0110】
【化36】

【0111】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0112】
本発明で使用されるジカルボン酸及び/又はその酸ハライドの屈折率は通常1.4以上、好ましくは1.50以上、さらに好ましくは1.55以上、更に好ましくは1.6以上である。屈折率は高い方が好ましいが、通常上限は、1.9以下である。
【0113】
(ジアルコール化合物)
ジアルコール化合物としては、特に限定はないが、下記一般式[3-b]で表される任意のジアルコール化合物を用いることができる。
HO−B−OH [3-b]
(式中、Bは前記一般式(1)におけると同義である。)
【0114】
ジアルコール化合物として好ましい具体例としては、Bとして好ましい例として例示した構造を有するものを挙げることができ、好ましくは、下記構造を有するジアルコール化合物が挙げられる。
【0115】
【化37】

【0116】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0117】
ジアルコール化合物の屈折率は通常1.4以上、好ましくは1.50以上、さらに好ましくは1.55以上、更に好ましくは1.6以上である。屈折率は高い方が好ましいが、通常上限は、1.9以下である。
【0118】
本発明の高屈折率線状重合体の屈折率は後述の如く、1.60以上であることが好ましいが、1.60以上の線状高分子を得るためには、上記ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアルコール化合物の屈折率を選択することによって、得られる高屈折率線状重合体の高屈折率を高いものとすることが好ましい。
【0119】
例えば、高屈折率線状重合体の合成反応に供する2種類のモノマーのうち一方のモノマーの屈折率が1.55以下である場合でも、もう一方のモノマーの屈折率を1.55以上として、バランスを取ることにより、屈折率1.55以上の高屈折率線状重合体を得ることができる。
【0120】
(重合方法)
重合方法としては、各種方法を用いることができるが、一例としては、ジカルボン酸及び/又はその酸ハライド化合物とジアルコール化合物を溶媒中で混合した後、触媒を加えて加熱する方法が挙げられ、このような方法により縮合反応が起こり所望の重合体を得ることができる。触媒としては通常、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミンが用いられる。
【0121】
溶媒中のモノマーの量は任意であるが、通常1〜50重量%、好ましくは10〜30重量%で実施される。触媒の量も任意であるが、通常モノマーに対して0.001〜1重量%、好ましくは0.01重量%〜0.1重量%の間で実施される。加熱の温度及び時間も任意であるが、通常加熱温度は20℃〜150℃の間で実施される。
【0122】
[成形方法]
本発明の高屈折率線状重合体は成形性、加工性に優れるため、これを用いて光学材料、例えばレンズを得ることができる。この場合、例えば、本発明の高屈折率線状重合体を射出成形、プレス成形等の手法により成形する方法が挙げられる。
【0123】
本発明の高屈折率線状重合体の成形に際しては、得られる成形体の物性を損なわない範囲で、高屈折率線状重合体以外の成分を添加した組成物としてもよい。このような成分としては、ナノ粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、染顔料、充填剤などが挙げられる。
【0124】
このうち、ナノ粒子としては、酸化チタンや酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化アンチモン、酸化セレン、酸化セリウム、酸化イットリウム、CdO、PbO、HfO、Sb等の酸化物ナノ粒子;チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸塩類;CdS、CdSe、ZnSe、CdTe、ZnS、HgS、HgSe、PdS、SbSe等の硫化物、セレン化物、テルル化物等のナノ粒子が挙げられる。これらは1種類を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0125】
また、ナノ粒子を他の物質で被覆した、いわゆるコア−シェル型ナノ粒子を使用することもできる。
【0126】
これらのナノ粒子の中で、好ましいのは、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸塩類のナノ粒子であり、特に好ましいのは酸化チタンナノ粒子である。
【0127】
これらのナノ粒子の平均粒子径は1〜100nmであることが好ましい。ナノ粒子の粒子径を100nm以下に抑えることにより、透明性に優れたナノ粒子分散成形体を得ることができる。なお、ナノ粒子の粒径はXRD(粉末X線解析)などで測定された値で示す。ナノ粒子の粒径は、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下である。
【0128】
このようなナノ粒子を配合する場合、その配合量が多過ぎると透明性が低下するし、少な過ぎると屈折率を上げる効果が低いことから、高屈折率線状重合体に対して、10〜80重量%、特に30〜70重量%とすることが好ましい。
【実施例】
【0129】
以下に、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0130】
<合成例1:ジカルボン酸1の合成>
下記ジチオール(2−1)(MPS、住友精化社製)2.0gを10重量%KOH水溶液に加え、事前にKOHで中和したClCHCOOH16gと共に1時間、50℃で加温した。その後、塩酸で中和し、濾過をすることで目的のジカルボン酸1を得た。収率90%。
【0131】
【化38】

【0132】
【化39】

【0133】
<合成例2:ジアミン2の合成>
1,4−ジブロモベンゼン5.89g(0.025mol)と4−アミノチオフェノール6.88g(0.025mol)と炭酸カリウム9.12g(0.66mol)を溶剤NMP(N−メチル−2−ピロリドン)に溶解させた。混合物を50℃で1時間加熱し、更に150℃で2時間と210℃で1時間加熱した。NMPをエバポレーションで除去し、生成物を水から再沈精製した。更にエタノールから再結晶して目的のジアミン2が得られた。収率85%。
【0134】
【化40】

【0135】
<合成例3:ジアミン3の合成>
1,3−ジブロモベンゼン5.89g(0.025mol)と4−アミノチオフェノール6.88g(0.025mol)と炭酸カリウム9.12g(0.66mol)を溶剤NMPに溶解させた。混合物を50℃で1時間加熱し、更に150℃で2時間と210℃で1時間加熱した。NMPをエバポレーションで除去し、生成物を水から再沈精製した。更にエタノールから再結晶して目的のジアミン3が得られた。収率55%。
【0136】
【化41】

【0137】
<合成例4:酸クロライド1の合成>
4gのジカルボン酸1に10mlのSOClと10mlの塩化メチレンを加え、溶解した後50mlのフラスコに移した。次に1,2滴のDMF(ジメチルホルムアミド)を触媒として加えた。発生ガスはNaOH溶液にトラップしながら、反応は40〜45℃で36時間行った。減圧でSOClを除き、クルードな生成物を得た。トルエンで再結晶して目的の酸クロライド1を収率50%で得た。
【0138】
【化42】

【0139】
<合成例5:ジカルボン酸2の合成>
前記ジチオール(2−1)(MPS、住友精化社製)2.0gを10重量%KOH水溶液に加え、事前にKOHで中和した2−ブロモプロピオン酸16gと共に6時間70℃で加温した。塩酸で中和し、濾過をすることで目的のジカルボン酸2を得た。収率80%。
【0140】
【化43】

【0141】
<実施例1>
下記ジチオール化合物(2−1)(MPS、住友精化社製、屈折率1.68)0.75g(0.003mol)と下記ジビニル化合物(3−1)(MPMSA、住友精化社製、屈折率1.63)1.16g(0.003mol)をテトラヒドロフラン(THF)10mlに溶解させた。ここに、トリエチルアミン3滴を添加後、窒素雰囲気下、25℃で5時間反応を行った。得られたポリマー溶液に更に20mlのTHFを添加し、その溶液を強攪拌中のメタノールに滴下してポリマーの再沈精製を実施した。得られたポリマーを濾過し、70℃で2時間乾燥して透明な重合体を得た。収率は89.5%であり、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)は92,500であった。
【0142】
【化44】

【0143】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0144】
【化45】

【0145】
<実施例2>
下記ジチオール化合物(2−1)(MPS、住友精化社製、屈折率1.68)0.75g(0.003mol)と下記ジビニル化合物(3−2)(屈折率1.54)1.16g(0.003mol)をTHF10mlに溶解させた。ここにトリエチルアミン3滴を添加後、窒素雰囲気下、25℃で5時間反応を行った。得られたポリマー溶液に更に20mlのTHFを添加し、その溶液を強攪拌中のメタノールに滴下してポリマーの再沈精製を実施した。得られたポリマーを濾過し、70℃で2時間乾燥して透明な重合体を得た。収率は80.0%であり、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)は19,000であった。
【0146】
【化46】

(式中、R21及びR22はメチル基を表し、g及びjは2、h及びiは1の整数を示す。)
【0147】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0148】
【化47】

【0149】
<実施例3>
下記ジチオール化合物(2−1)(MPS、住友精化社製、屈折率1.68)0.50g(0.002mol)と下記ジビニル化合物(3−3)(屈折率1.60)1.01g(0.002mol)をTHF7mlに溶解させた。ここにトリエチルアミン5滴を添加後、窒素雰囲気下、THF還流下(65℃)で24時間反応を行った。得られたポリマー溶液を強攪拌中のメタノールに滴下してポリマーの再沈精製を実施した。得られたポリマーを濾過し、室温で減圧下、20時間乾燥して透明な重合体を得た。収率は80%でGPCで測定した重量平均分子量(Mw)は21,000であった。
【0150】
【化48】

(式中、R11及びR12はメチル基を表し、e及びfは2の整数を表す。)
【0151】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0152】
【化49】

【0153】
<実施例4>
下記ジチオール化合物(2−2)(東洋化成社製、屈折率1.63)0.62g(0.004mol)と下記ジビニル化合物(3−1)(住友精化社製、屈折率1.63)1.55g(0.004mol)とをTHF10mlに溶解させた。ここにトリエチルアミン5滴を添加後、窒素雰囲気下、室温で5時間反応を行った。得られたポリマー溶液に5mlのTHFを加えて希釈し、強攪拌中のメタノールに滴下してポリマーの再沈精製を実施した。得られたポリマーを濾過し、室温で減圧下、20時間乾燥して透明な重合体を得た。収率は85%でGPCで測定した重量平均分子量(Mw)は50,000であった。
【0154】
【化50】

【0155】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0156】
【化51】

【0157】
<実施例5>
1.25mmolの下記ジアミン1と下記ジカルボン酸1をNMP溶媒に溶解した。そこに2.5mmol(約0.9ml)のトリフェニルオスフェート(TPP)と1.2mlのピリジンを5mlのNMPに溶解したものと、0.3gの塩化カルシウムの混合物を加えた。105℃に加熱し3時間反応を行った。縮合が進むにつれて溶液は徐々に粘調になった。得られた粘調液体をすぐに、250mlのメタノールに攪拌しながら、滴下した。繊維状の沈殿を濾過で回収し、メタノールで洗浄、80℃で乾燥して、目的のポリマーを得た。収率は90%で、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)は110,000であった。
【0158】
【化52】

【0159】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0160】
【化53】

【0161】
<実施例6>
1.25mmolの下記ジアミン2と下記ジカルボン酸1をNMP溶媒に溶解した。そこに2.5mmol(約0.9ml)のトリフェニルオスフェート(TPP)と1.2mlのピリジンを5mlのNMPに溶解したもの、0.3gの塩化カルシウムの混合物を加えた。105℃に加熱し3時間反応を行った。縮合が進むにつれて溶液は徐々に粘調になった。得られた粘調液体をすぐに、500mlのメタノールに攪拌しながら、滴下した。繊維状の沈殿を濾過で回収し、メタノールで洗浄、80℃で乾燥して、目的のポリマーを得た。収率は92%で、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)は36,000であった。
【0162】
【化54】

【0163】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0164】
【化55】

【0165】
<実施例7>
1.25mmolの下記ジアミン3と下記ジカルボン酸1をNMP溶媒に溶解した。そこに2.5mmol(約0.9ml)のトリフェニルオスフェート(TPP)と1.2mlのピリジンを5mlのNMPに溶解したもの、0.3gの塩化カルシウムの混合物を加えた。105℃に加熱し3時間反応を行った。縮合が進むにつれて溶液は徐々に粘調になった。得られた粘調液体をすぐに、500mlのメタノールに攪拌しながら、滴下した。繊維状の沈殿を濾過で回収し、メタノールで洗浄、80℃で乾燥して、目的のポリマーを得た。収率は90%で、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)は20,000であった。
【0166】
【化56】

【0167】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0168】
【化57】

【0169】
<実施例8>
0.2504g(1mmol)の市販の下記ジチオール化合物(2−1)(MPS、住友精化社製、屈折率1.68)と0.2226g(2.2mmol)のトリエチレンアミン、2.5mlの乾燥NMPを25mlのフラスコに加えた。0.4034g(1mmol)の酸クロライド1を2.5mlのTHFに溶解し、フラスコに0℃で10分かけて滴下した。滴下後、0℃で2時間、室温で5時間攪拌した。得られたポリマー溶液をNMPで希釈し、メタノールに攪拌しながら滴下して再沈精製した。得られたポリマーを濾過し、メタノールで数回洗浄した。得られたポリマーを70℃で24時間乾燥し、目的のポリマーを得た。収率は90%で、NMPに僅かに溶解し、溶剤に溶けにくいため分子量の測定は不能であった。
【0170】
【化58】

【0171】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0172】
【化59】

【0173】
<実施例9>
0.2183g(1mmol)の市販の4,4’−チオジフェノールと0.2225g(2.2mmol)のトリエチレンアミン、2.5mlの乾燥NMPを25mlのフラスコに加えた。0.4034g(1mmol)の酸クロライド1を2.5mlのTHFに溶解し、フラスコに0℃で10分かけて滴下した。滴下後、0℃で2時間、室温で5時間攪拌した。得られたポリマー溶液をNMPで希釈し、メタノールに攪拌しながら滴下して再沈精製した。得られたポリマーを濾過し、メタノールで数回洗浄した。得られたポリマーを70℃で24時間乾燥し、目的のポリマーを得た。収率は92%で、溶剤に溶けないため分子量の測定は不能であった。
【0174】
【化60】

得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0175】
【化61】

【0176】
<実施例10>
1.25mmolのジアミン3とジカルボン酸2をNMP溶媒に溶解した。そこに2.5mmol(約0.9ml)のトリフェニルオスフェート(TPP)と1.2mlのピリジンを5mlのNMPに溶解したもの、0.3gの塩化カルシウムの混合物を加えた。105℃に加熱し3時間反応を行った。縮合が進むにつれて溶液は徐々に粘調になった。得られた粘調液体をすぐに、250mlのメタノールに攪拌しながら、滴下した。繊維状の沈殿を濾過で回収し、メタノールで洗浄、80℃で乾燥して、目的のポリマーを得た。収率は90%で、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)は20,000であった。
【0177】
【化62】

【0178】
得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0179】
【化63】

【0180】
<比較例1>
下記ジチオール化合物(2−1)(MPS、住友精化社製、屈折率1.68)0.75g(0.003mol)と下記ジビニル化合物(3−1)(MPMSA、住友精化社製、屈折率1.63)1.16g(0.003mol)をTHF10mlに溶解させた。ここにアゾイソブチロニトリル20mgを添加後、窒素雰囲気下、80℃で5時間反応を行った。得られたポリマー溶液に更に20mlのTHFを添加し、その溶液を強攪拌中のメタノールに滴下してポリマーの再沈精製を実施した。得られたポリマーを濾過し、70℃で2時間乾燥して透明な重合体を得た。収率は85%であった。この重合体について、GPCで重量平均分子量を測定しようとしたが、架橋樹脂であるためTHFへの溶解性が悪く、測定不能であった。
【0181】
即ち、この比較例では、実施例1と同様にジオール化合物(2−1)とジビニル化合物(3−1)を用いたが、触媒がラジカル開始剤であったために、重合体は線状重合体とはならず、三次元架橋構造となった。
【0182】
【化64】

【0183】
<比較例2(特開昭60−226527)>
特開昭60−226527の、実施例4の方法を用いて、ポリマーの合成を行った。
用いたジカルボン酸(クロライド)はテレフタル酸クロライドとイソフタル酸クロライドの混合物(A)であり、ジアミンは、4、4’−ビス(4−アミノフェニルチオ)ベンゾフェノン(B)である。得られた重合体の構造は下記の通りである。
【0184】
【化65】

【0185】
実施例1〜10及び比較例1〜2で得られた重合体について、以下の方法で屈折率の測定とTHFに対する溶解性の評価とTgの測定を行って、結果を表1に示した。
【0186】
(屈折率の測定法1)
実施例1〜4の重合体の屈折率は、得られた各重合体の10重量%THF溶液を調製し、アタゴ社製アッベ屈折率計DR−M2を用いて、ナトリウムD線の波長(波長589.3nm)光の屈折率を測定した。測定値を100重量%に外挿し、重合体の屈折率を得た。
【0187】
(屈折率の測定法2)
実施例5〜10、比較例2の重合体の屈折率は、得られた重合体の1〜10重量%THFもしくはNMP溶液を調整し、ガラス基板に塗布乾燥して各ポリマーの薄膜を得た。 得られた薄膜の屈折率をプリズムカップリング法で測定し、波長(波長633nm)の重合体の屈折率を得た。
【0188】
(THFとの溶解性判別方法)
得られた各重合体の10重量%THF溶液を調製し、その溶液について、光電比色計モデル4C(平間理化社製)1cmの石英セルで630nm透過率を測定し、透過率80%以上のものを溶解性良(○)、透過率は80%以上であるが溶け残りがある場合を溶解性(△)、殆ど溶けない場合を(×)とした。重合体が架橋構造である場合、THFに対する溶解性が悪く、透過率80%以上になることはないが、重合体が線状であれば、THFに対する溶解性がよく、透過率80%以上となる。
【0189】
(Tgの測定法)
得られた重合体のTgをTG−DTA装置を用いて測定した。
【0190】
【表1】

【0191】
以上の結果から、本発明によれば、着色の問題がなく、高屈折率で、Tgが比較的低く、各種の成形、加工に対応し得る、溶媒溶解性に優れた線状重合体が提供されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高屈折率線状重合体。
【化1】

(式中、A及びBは2価の有機基を表し、
Xは酸素原子、−NH−、又は硫黄原子を示し、
Dは炭素数1〜8のチオアルキレン基を示す。
なお、一般式(1)中にそれぞれ2個あるD、Xは同一であっても異なるものであってもよい。)
【請求項2】
ガラス転位温度が0℃以上、180℃以下である請求項1に記載の高屈折率線状重合体。
【請求項3】
屈折率が1.55以上である請求項1又は2に記載の高屈折率線状重合体。
【請求項4】
Xが酸素原子又は−NH−である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高屈折率線状重合体。
【請求項5】
Xが−NH−である請求項4に記載の高屈折率線状重合体。
【請求項6】
Dが炭素数1〜4のチオアルキレン基である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高屈折率線状重合体。
【請求項7】
下記一般式(2)で表される繰り返し単位からなる高屈折率線状重合体。
【化2】

(式中、A及びBは2価の有機基を表し、
Xは酸素原子、−NH−、又は硫黄原子を示し、
Rは水素原子又はメチル基を表す。
なお、一般式(2)中にそれぞれ2個あるR、Xは同一であっても異なるものであってもよい。)
【請求項8】
Aが下記一般式で表される請求項7に記載の高屈折率線状重合体。
【化3】

【請求項9】
Xが酸素原子であり、かつBが下記一般式(B−1)又は(B−2)で表される請求項7又は8のいずれか一項に記載の高屈折率線状重合体。
【化4】

(式中、e及びfは、それぞれ独立して、1〜6の整数を表す。)
【化5】

(式中、g,h,i及びjは、それぞれ独立して、1〜6の整数を示す。)
【請求項10】
重量平均分子量(Mw)が1,000〜10,000,000である請求項1ないし9のいずれか1項に記載の高屈折率線状重合体。
【請求項11】
下記一般式(3)で表されるジチオール化合物、と下記一般式(4)で表されるジビニル化合物とを反応させる請求項7ないし10のいずれか1項に記載の高屈折率線状重合体の製造方法。
HS−A−SH (3)
(式中、Aは一般式(2)におけると同義である。)
【化6】

(式中B,R,Xは一般式(2)におけると同義である。)
【請求項12】
ジチオール化合物が、屈折率1.55以上である請求項11に記載の高屈折率線状重合体の製造方法。
【請求項13】
ジビニル化合物が、屈折率1.55以上である請求項11又は12に記載の高屈折率線状重合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし10いずれか1項に記載の高屈折率線状重合体を成形してなる光学材料。

【公開番号】特開2007−308693(P2007−308693A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109578(P2007−109578)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】