説明

高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法

【課題】表面めっき品質に優れた、引張強さ:590MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.5〜1.8%、Mn:1.5〜3.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.02〜0.1%、N:0.005%以下を含む組成の鋼素材に、粗圧延、仕上圧延からなる熱間圧延を施し熱延鋼帯とし、540〜640℃の範囲の温度で巻取ったのち、溶解量を80〜200g/mとする酸洗処理を施す。その後に、冷間圧延、焼鈍処理、溶融亜鉛めっき処理を施して、溶融亜鉛めっき鋼板とする。このような工程とすることにより、冷間圧延性の低下を防止でき、冷延薄鋼帯の製造が可能となり、さらに不めっき、黒シミ等の表面めっき欠陥の原因となる粒界腐食層が除去できる。これにより、優れた表面めっき品質を有する、高張力溶融亜鉛めっき鋼帯を容易に、しかも安定して製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体等の使途に好適な、溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法に係り、とくに比較的Si含有量の高い、高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の表面めっき品質の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全のために、自動車の燃費低減が強く要望され、自動車車体の軽量化が重要な課題となっている。そのため、自動車車体用として使用される鋼板(鋼材)の高強度化が進められている。例えば、440MPa級の鋼板(鋼材)に代えて、550MPa級の鋼板(鋼材)を使用すれば、板厚を20%程度薄くでき、車体の軽量化に貢献できる。この高張力化の傾向は、耐食性に優れ、自動車車体の内板、構造部材等に幅広く使用されている溶融亜鉛めっき鋼板(鋼帯)においても、例外ではなく、自動車車体用として高張力溶融亜鉛めっき鋼板の使用が強く進められている。
【0003】
このような高強度化の恩恵を十分に享受するためには、より高強度の鋼板をより薄物化した、高強度薄鋼板を製造する必要がある。しかし、高強度薄鋼板の製造には、種々の問題がある。例えば、550MPa級鋼板は、必然的に、合金元素を多量に含有させる必要があり、そのため、変形抵抗が増加し、熱延荷重、冷延荷重の増大をもたらす。とくに、連続冷間圧延設備を用いる冷間圧延の場合には、440MPa級鋼板では製造できていた寸法(厚さ、幅)でも、550MPa級鋼板では、圧延機の能力が不足し、製造できなくなる場合が生じる。そのため、圧下量を少なくして2回圧延を行うことが考えられるが、生産性の低下は免れない。また、このような圧延機の能力不足に対しては、鋼板の高強度化に対応した圧延機を新設することが考えられるが、大規模な設備投資が必要となり、経済的な負担が増大するという問題がある。
【0004】
また、自動車車体向け鋼板では、複雑な加工が施される場合が多く、高強度に加えて、伸びなどの加工性に優れることが要求される。強度と加工性を兼備させるために、自動車車体向け鋼板には、C、Si、Mn等の合金元素が添加されている。なかでも、Siは、安価で加工性向上に有効に寄与する重要な元素である。しかし、Siを多量に含有させると、熱間圧延時、あるいは冷間圧延時の変形抵抗の増加が著しくなり、高強度薄鋼板の製造がますます困難となることが懸念される。
【0005】
また、溶融亜鉛めっき鋼板は、一般に、基板を連続焼鈍炉で再結晶焼鈍処理を施したのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理を施し、さらに必要に応じて、めっき層の合金化処理を施して、製造される。連続焼鈍炉では、基板は、予熱帯、加熱帯で加熱され、さらに均熱帯で還元雰囲気にて焼鈍される。基板が、Si、Mnを多量に含有する場合には、均熱帯で、Si、Mnが鋼板表面に濃化し、酸化物を生成する。というのは、連続焼鈍炉の均熱帯の雰囲気は、Feが還元される還元雰囲気ではあるが、Si、Mnにとっては酸化雰囲気となるためである。従来から、鋼板表面に形成されたSi酸化物は、溶融亜鉛の濡れ性を低下させ、めっき性に悪影響を及ぼすことが知られている。このため、表面が美麗なめっき層を形成できる、めっき性に優れた高Si含有溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が要望されている。
【0006】
このような要望に対し、例えば、特許文献1には、鋼板表面に、P、B、Sのうちの1種または2種以上を合計で0.001〜30.0wt%含有し付着量が0.01〜10g/mのFe系被覆を施した後、溶融亜鉛めっきを行い、ついで合金化処理を行う、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術によれば、Si、Mn等の成分濃化を有した鋼板でも、表面が美麗な合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定して製造することができるとしている。
【0007】
また、特許文献2には、鋼板面に対向してバーナーが分散配置された直火型加熱炉を備えた連続溶融亜鉛めっき装置を用い、鋼板移動方向最下流のバーナー群では、バーナーを空気比0.5〜0.95で燃焼し、それ以外のバーナーでは、空気比1.0以上1.5未満かつ予め定めた燃焼率以上となる条件で燃焼させ、加熱炉雰囲気を制御する、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、Si含有量が0.2%以上であっても、美麗な表面外観を有する溶融亜鉛めっき鋼板を製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平02−38549号公報
【特許文献2】特開2010−202959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、溶融亜鉛めっき処理の前に、予備処理として、Fe系被覆を形成する処理を施す必要があり、溶融亜鉛めっき処理設備に加えて、Fe系被覆を形成するための新たな設備等を必要とし、工程が複雑となるうえ、製造コストの高騰を招くという問題がある。また、特許文献2に記載された技術では、鋼板面に対向してバーナーが分散配置された直火型加熱炉を備えた連続溶融亜鉛めっき装置を用いる必要があるため、加熱炉等の設備改造を必要とし、製造コストの高騰を招くという問題がある。また、さらに、特許文献2に記載された技術で製造された溶融亜鉛めっき鋼帯では、基板の成分組成や化成処理等の前処理条件が異なると、黒シミと呼ばれるめっき外観不良が発生する場合があるという問題もある。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決し、製造工程への負荷を大幅に増加させることなく、比較的Si含有量が高い鋼帯を基板として、表面めっき品質に優れた溶融亜鉛めっき鋼帯を製造できる、引張強さ:590MPa以上の高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法を提供することを目的とする。
なお、ここでいう「表面めっき品質に優れた」とは、めっき後の鋼帯表面を、目視あるいは光学顕微鏡で観察し、不めっき、黒シミ等の欠陥がまったく観察されない、均一なめっき表面が得られた場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、比較的Si含有量が高い鋼板を基板として、溶融亜鉛めっき処理を施した場合に、不めっき、黒シミ等のめっき表面欠陥の発生に及ぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、これらめっき表面欠陥の発生には、熱延鋼帯を巻き取る際に形成される内部酸化層の残存厚さ(粒界腐食層厚さ)が、大きく影響していることを見出した。
【0012】
Siを多量に含有する鋼板(鋼帯)では、熱間圧延後の巻取り時に、巻取温度に依存して、熱延板表層に、内部酸化層と称する、酸化物が生成する場合がある。この内部酸化層は、鋼板表面の酸化物(スケール)中の酸素Oと、鋼板内部のSi、Mnが反応して、結晶粒界に沿って酸化物(粒界酸化物)が形成されて生じるもので、高温での保持時間が長くなると、顕著となる。このような内部酸化層を有する鋼板(鋼帯)に酸洗処理を施すと、粒界酸化物が選択的に溶解され、割れ状の欠陥(粒界腐食層)として、表面に残存する場合があり、この割れ状の欠陥(粒界腐食層)が冷間圧延により押し潰され、最終製品内にも欠陥として残留し、溶融亜鉛めっき鋼帯における黒シミの形成など、表面めっき品質低下の原因となることを見出した。図1は、巻取温度:550℃の熱延鋼帯(1.5%Si含有)について、酸洗による溶解量を変化させて酸洗処理を行ったのちの断面組織を、(a)光学顕微鏡組織写真および(b)そのスケッチ図で示すものであり、酸洗溶解量が35g/m、62g/mである場合には、酸洗処理により、粒界酸化物が優先的に腐食され、割れ状の欠陥(粒界腐食層)が残留していることがわかる。なお、酸洗溶解量を92g/mと多くした例では、割れ状の欠陥(粒界腐食層)がなくなり、平滑に近い表面となっている。
【0013】
そして、このような内部酸化層の粒界腐食層厚さを低減することが、黒シミの形成を抑制し、溶融亜鉛めっき鋼帯の表面めっき品質を向上させるために、肝要となることを知見した。
また、この内部酸化層の形成は、巻取温度に大きく影響され、巻取温度が低温となるほど、その形成傾向は小さくなる。しかし、巻取温度の低下は、鋼帯の硬質化を招き、冷間圧延性を低下させるため、冷間圧延性を加味して、巻取温度を調整する必要があることを見出した。
【0014】
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
質量%で、0.13%C−1.5%Si−2.4%Mn−0.03%P−0.004%S−0.03%Al−0.003%N−0.11%V−残部Feからなる組成の鋼素材(スラブ)を熱間圧延し、巻取温度を500℃、550℃、600℃の3水準に変化して、巻き取り、熱延鋼帯(板厚:2.6mm)とした。
得られた熱延鋼帯から、JIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を行い、熱延板強度(引張強さTS)を求めた。
【0015】
また、得られた熱延鋼帯から、冷延用試験材(長さ:100mm)を採取し、10%塩酸(液温:90℃)−酸洗処理を施した。
なお、同一の熱延鋼帯から採取した冷延用試験材について、酸洗液に浸漬する時間(浸漬時間)を変化させて、試験材表面からの酸洗量(溶解量)を種々変化させた。一部の試験材については、10%塩酸液に0.1%の酸化抑制剤(インヒビター)を添加して、酸洗力を調整して、酸洗した。また、酸洗処理による酸洗量(溶解量)は、酸洗処理前後の試験材から採取した試験片の重量を測定し、酸洗処理前後の重量差を算出して、求めた。また、酸洗処理後の試験片について、C方向断面を光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察し、残存する粒界腐食層の深さを測定した。
【0016】
ついで、酸洗処理を施された冷延用試験材(鋼帯)に、圧下率:50%の冷間圧延を施して、冷延板(鋼帯)とした。得られた冷延板(鋼帯)を、特許文献2に記載の直火型加熱炉を備えた連続溶融亜鉛めっき装置に装入し、特許文献2に記載の条件で、直火型加熱炉の加熱帯で加熱し、冷延板表面に適正な厚さの鉄系酸化物を形成し、均熱帯で該鉄系酸化物を還元して、再結晶焼鈍を施したのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、両面で、100g/mの溶融亜鉛めっき層を形成した。
【0017】
得られた溶融亜鉛めっき鋼帯について、目視および光学顕微鏡(倍率:500倍)でめっき表面を観察し、不めっき、黒シミ等のめっき欠陥が認められた場合をめっき不良(×)とし、このようなめっき欠陥が認められず、均一なめっき表面が得られた場合をめっき良好(○)として、表面めっき品質(めっき性)を評価した。
得られた結果を図2に示す。
【0018】
図2から、めっき性が良好(○)となるのは粒界腐食層厚さが10μm未満となる場合であり、粒界腐食層厚さが10μm以上の場合には、黒シミ等のめっき欠陥が発生することがわかる。なお、黒シミ部の断面を観察すると、粒界腐食層が観察された。このようなことから、表面めっき品質(めっき性)を良好とするためには、粒界腐食層厚さを10μm未満、すなわち、酸洗による溶解量を80g/m以上とする必要があることを知見した。
【0019】
なお、巻取温度が500℃と低い場合には、粒界酸化物の形成は少なく、したがって、酸洗条件によらず、粒界腐食層の厚さも小さく、表面めっき品質(めっき性)は良好であるが、熱延鋼帯が硬質であるため、冷間圧延が困難となり、冷間圧延性が低下するという問題があることを知見した。
このようなことから、本発明者らは、冷間圧延に過大な負荷をかけることなく、比較的Si含有量が高い優れた表面めっき品質に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板(鋼帯)を得るためには、巻取温度が540〜640℃の範囲の温度となる熱間圧延と、さらに熱延鋼帯に、酸洗による溶解量が80g/m以上となる酸洗処理とを組み合わせて施すことが肝要であるという知見を得た。
【0020】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.5〜1.8%、Mn:1.5〜3.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.02〜0.1%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、熱延工程、酸洗工程、冷延工程、焼鈍工程、溶融亜鉛めっき工程を、順次施して高張力溶融亜鉛めっき鋼帯とする、高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法において、前記熱延工程を、粗圧延と仕上圧延とからなる熱間圧延を施して熱延鋼帯とし、該熱延鋼帯を、540〜640℃の範囲の巻取温度で巻取る工程とし、前記酸洗工程を、前記熱延鋼帯に溶解量:80〜200g/mとする酸洗処理を施す工程とすることを特徴とする、表面めっき品質に優れ、引張強さ:590MPa以上である高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基板が0.5質量%以上のSiを含有する高張力鋼帯であっても、冷間圧延工程への負荷も少なく、表面めっき品質に優れた溶融亜鉛めっき鋼帯を、容易にしかも安価に製造することができ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】酸洗処理後の、粒界腐食層の残存状況を示す、断面組織写真およびそのスケッチ図である。
【図2】めっき性および粒界腐食層厚さに及ぼす酸洗溶解量の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、鋼素材に、熱延工程、酸洗工程、冷延工程、焼鈍工程、溶融亜鉛めっき工程を、順次施して高張力溶融亜鉛めっき鋼帯とする、高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法である。
まず、使用する鋼素材(スラブ)の組成限定理由について説明する。なお、以下、とくに断わらない限り、質量%は単に%で記す。
【0024】
C:0.03〜0.20%
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するために0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、鋼板の溶接性を著しく低下させる。このため、Cは0.03〜0.20%の範囲に限定した。
Si:0.5〜1.8%
Siは、Cと同様に、鋼の強度を増加させ、さらに加工性の向上にも寄与する、安価な元素であり、本発明において重要な元素である。このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、1.8%を超える含有は、鋼板の低温靭性が著しく低下する。このため、Siは0.5〜1.8%の範囲に限定した。
【0025】
Mn:1.5〜3.5%
Mnは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の高強度を確保するために1.5%以上の含有を必要とする。一方、3.5%を超える含有は、鋼板の溶接性を著しく低下させる。このため、Mnは1.5〜3.5%の範囲に限定した。
P:0.1%以下
Pは、鋼を強化する作用を有する元素であるが、多量の含有は、溶接性、靭性を低下させるため、できるだけ低減することが望ましいが、0.1%までは許容できる。なお、より優れた溶接性、靭性を確保する必要がある使途には、0.05%以下の含有とすることが好ましい。
【0026】
S:0.01%以下
Sは、鋼中では硫化物として存在し、延性、とくに伸びフランジ性、さらには靭性に悪影響を及ぼす元素であり、できるだけ低減することが望ましいが、0.01%までは許容できる。なお、好ましくは0.005%以下である。また、過度の低減は、精錬コストの高騰を招き、経済的に不利となるため、0.001%以上とすることが好ましい。
【0027】
Al:0.02〜0.1%
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合してAlNを形成し、高温における結晶粒の粗大化を抑制する元素である。このような効果を得るためには、0.02%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、鋼の清浄度を低下させる。このため、Alは0.02〜0.1%の範囲に限定した。
【0028】
N:0.005%以下
Nは、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素であるが、溶接性、耐時効性に悪影響を及ぼす。このため、Nは、できるだけ低減することが望ましいが、0.005%までは許容できる。このため、Nは0.005%以下に限定した。
上記した成分が基本の成分であるが、必要に応じて、これら基本の組成に加えて、選択元素として、Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上、を選択して含有できる。
【0029】
Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%のうちから選ばれた1種または2種以上
Nb、Ti、Vはいずれも、炭窒化物を形成し、析出強化により、鋼板の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して、1種または2種以上含有できる。このような効果を得るためには、Nb:0.005%以上、Ti:0.005%以上、V:0.005%以上の含有を必要とする。一方、Nb:0.15%、Ti:0.15%、V:0.15%を、それぞれ超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%の範囲にそれぞれ限定することが好ましい。
【0030】
Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Moはいずれも、固溶強化を介して鋼の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果を得るためには、それぞれ、Cu:0.01%以上、Ni:0.01%以上、Cr:0.01%以上、Mo:0.01%以上、含有することが望ましい。一方、Cu:0.20%、Ni:0.20%、Cr:0.20%、Mo:0.20%、をそれぞれ超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%、のそれぞれの範囲に限定することが望ましい。
【0031】
上記した成分の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
上記した成分組成を有する鋼素材の製造方法は特に限定する必要はなく、転炉、電気炉等の通常公知の溶製炉をもちいて、或いはさらにRH脱ガス・脱硫等の取鍋精錬を行って、上記した組成の溶鋼を溶製し、連続鋳造法等の、通常公知の鋳造法を用いてスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
【0032】
ついで、上記した成分組成を有する鋼素材に熱延工程を施す。熱延工程では、まず、鋼素材を、再加熱し、あるいは所定の熱量を保持している場合は再加熱することなく直接、熱間圧延を施す。
熱間圧延のための再加熱温度は、熱間圧延が可能な温度であればよく、とくに限定する必要はないが、1150〜1300℃の範囲の温度とすることが好ましい。再加熱温度が1150℃未満では、変形抵抗が大きくなりすぎ、圧延機への負荷が過大となる。一方、1300℃を超えると、結晶粒が粗大化しすぎて、所望の特性を確保できない場合がある。
【0033】
再加熱された鋼素材は、ついで、粗圧延、仕上圧延からなる熱間圧延を施され、熱延板(熱延鋼帯)とされる。粗圧延は、所望の寸法のシートバーとすることができればよく、とくにその条件を限定する必要はない。なお、粗圧延の前に、サイジングプレスによる幅方向寸法の調整を行ってもよいことは言うまでもない。
仕上圧延は、所望の寸法形状の熱延板(熱延鋼帯)とすることができればよく、その条件はとくに限定する必要はないが、巻取温度が所望の温度範囲の温度とすることができるように、仕上圧延終了温度を、750〜900℃の範囲とすることが望ましい。
【0034】
仕上圧延終了後、熱延板(熱延鋼帯)は、所定の巻取温度まで冷却され、コイル状に巻き取られる。巻取温度は、540〜640℃の範囲の温度とする。
巻取温度:540〜640℃
本発明では、冷間圧延の負荷を軽減するために、ベイナイト等の硬質相の生成を抑制して、軟質の組織を有する熱延板とすることが好ましい。このため、本発明では、巻取温度を、540〜640℃の範囲の温度とする。
【0035】
巻取温度が540℃未満では、粒界酸化を大幅に抑制することができるが、熱延板が硬質化する。一方、640℃を超えて高温となると、表層の脱炭が激しくなることや、コイル潰れが発生するという問題がある。このため、巻取温度は540〜640℃の範囲の温度に限定した。
熱延工程を施された熱延板(熱延鋼帯)は、ついで、酸洗工程を施される。
【0036】
酸洗工程では、熱延時、或いは巻取り時に生成した酸化物を除去することを目的に、酸洗処理を行うが、本発明における酸洗処理では、さらに巻取り時に生成した粒界酸化物を完全に除去することを目的とする。そのために、酸洗処理による溶解量を80〜200g/mとする。溶解量の調整は、酸洗液中の浸漬時間で調整することが好ましい。また、使用する酸洗液は、とくに限定されないが、生産性の観点から、塩酸、好ましくは5〜20質量%塩酸水溶液とすることが好ましい。酸洗液の液温は、60〜90℃とすることが、酸洗工程の生産性の観点から好ましい。また、酸洗効率の調整のために、酸洗液に、0.1〜0.5質量%程度の酸化抑制剤(インヒビター)を添加してもよい。なお、酸洗処理前に、ショットブラスト処理、ブラシ研削等のメカニカルデスケーリングを行ってもよい。メカニカルデスケーリングと酸洗処理とを併用することにより、粒界酸化物等の酸化物除去が促進される。また、酸洗処理を施されたのち、熱延板は水洗等の洗浄処理を施されることは言うまでもない。
【0037】
酸洗処理による溶解量:80〜200g/m
酸洗処理による溶解量:80g/m未満では、生成した粒界酸化物が完全に除去できず、粒界腐食層として10μm以上残存し、黒シミ等の表面めっき欠陥が発生する。一方、200g/mを超えて溶解量が多くなると、鋼帯歩留の低下を招く。このため、酸洗処理による溶解量:80〜200g/mの範囲に限定した。この溶解量は、厚み減少量に換算すると、10〜25μmに相当する。
【0038】
酸洗工程を施された熱延板(熱延鋼帯)は、ついで、冷延工程を施される。
冷延工程では、酸洗処理された熱延板(熱延鋼帯)に冷間圧延を施し、所定寸法の冷延板(冷延鋼帯)とする。冷間圧延は、通常公知のタンデム冷間圧延機がいずれも適用できる。冷間圧延の条件は、所定寸法の冷延鋼帯が製造できる条件であればよく、とくに限定する必要はない。
【0039】
冷延鋼帯は、ついで、焼鈍工程、さらに好ましくは連続して溶融亜鉛めっき工程を施される。
焼鈍工程では、冷延板に焼鈍処理を施し、冷延焼鈍板とする工程とする。焼鈍処理は、冷間加工された結晶粒が再結晶する条件であればよく、とくに限定する必要はなく、通常公知の条件がいずれも適用できる。なお、焼鈍処理は、とくにSiの表面濃化を防止するために、特開2010−202959号公報に記載された条件で行うことが好ましい。すなわち、直火型加熱炉で、鋼板移動方向の上流側ではバーナーを、空気比1.0以上1.5未満かつ燃焼率70〜80%の酸化条件で燃焼させ、鋼帯表面にFe系酸化物を生成させ、鋼板移動方向最下流のバーナーでは、空気比0.5〜0.95かつ燃焼率100%程度の還元条件で燃焼させ、鋼帯表面のFe系酸化物を還元するように、加熱し、さらに還元雰囲気の均熱帯で、再結晶焼鈍することが好ましい。なお、加熱帯出側温度は500〜700℃の範囲の温度とし、均熱帯の温度は700〜800℃とすることが好ましい。
【0040】
焼鈍処理を施された冷延焼鈍板(冷延焼鈍鋼帯)は引続いて、溶融亜鉛めっき工程を施される。焼鈍工程と溶融亜鉛めっき工程とは、焼鈍炉を備える連続溶融亜鉛めっき装置を用いて、連続して行うことが好ましい。
溶融亜鉛めっき工程では、冷延焼鈍鋼帯を溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、鋼帯表面に所定厚さの溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理を行う。本発明における溶融亜鉛めっき処理では、鋼帯表面に、所定厚さの溶融亜鉛めっき層を形成することができればよく、その条件を限定する必要はとくになく、通常公知の溶融亜鉛めっき処理方法がいずれも適用できる。
【0041】
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0042】
表1に示す組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブ(鋼素材:肉厚250mm)とした。これらスラブを1250℃に再加熱し、サイジングプレスで幅方向寸法を調整したのち、粗圧延、仕上圧延を施し、熱延鋼帯(3.0mm厚×1400mm幅×約600m長さ)とし、表2に示す巻取温度で巻き取る熱延工程を施した。なお、仕上圧延終了温度(仕上圧延出側温度)は、800℃と一定にした。
【0043】
得られた熱延鋼帯に、ついで表2に示す酸洗処理を行う酸洗工程を施した。酸洗処理は、濃度:10〜12%の塩酸水溶液(液温:85〜95℃)を基準の酸洗液とし、一部ではインヒビター(酸化抑制剤)を含有させて、浸漬時間を表2に示すように種々変化させて行い、酸洗処理による溶解量を変化させた。なお、インヒビター(酸化抑制剤)は、特公昭52−37977号公報に記載のものを使用した。
【0044】
酸洗処理の前後で試験片を採取し、酸洗処理の前後での重量変化(重量差)を測定し、酸洗処理による溶解量を算出した。また、酸洗処理後の試験片について、断面組織を光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察し、粒界腐食層の厚さを測定した。
ついで、酸洗処理を施された熱延鋼帯に、5スタンドタンデム冷間圧延機(ロール径:600mmφ)による冷間圧延を施し、1.4mm厚の冷延鋼帯とする、冷延工程を施した。なお、一部の鋼帯では、変形抵抗が増大し、冷間圧延の圧延荷重が過大となり、1.4mm厚まで冷間圧延ができなかった。この場合、冷間圧延性が不良(×)と評価し、1.4mm厚まで冷間圧延ができた場合には、冷間圧延性良好(○)と評価した。なお、1.4mm厚まで冷間圧延ができなかった鋼帯も、他の鋼帯と同様に、後工程を施した。
【0045】
ついで、得られた冷延鋼帯に、直火型加熱炉を有する連続溶融亜鉛めっきラインを利用し、焼鈍工程と溶融亜鉛めっき工程を施し、溶融亜鉛めっき鋼帯とした。なお、焼鈍工程では、直火型加熱炉の加熱帯上流側のバーナーを空気比1.05〜1.10かつ燃焼率70〜80%の酸化条件で燃焼させ、鋼帯表面にFe系酸化物を生成させ、加熱帯最下流側のバーナーを、空気比0.90〜0.95かつ燃焼率100%の還元条件で燃焼させ、鋼帯表面のFe系酸化物を還元するように、加熱帯出側温度を590〜610℃の範囲として加熱し、さらに還元雰囲気の均熱帯で、840〜860℃の範囲で再結晶焼鈍処理した。焼鈍処理後、鋼帯を、めっき浴温度近傍まで冷却し、溶融亜鉛めっき浴(浴温:460℃)に浸漬して、鋼帯表面に溶融亜鉛めっき層を形成し、溶融亜鉛めっき鋼帯を得た。なお、溶融亜鉛めっき層の厚さは3〜10μmに調整した。
【0046】
得られた溶融亜鉛めっき鋼帯について、全長にわたり、めっき表面を目視で観察し、不めっき、黒シミ等の表面めっき欠陥の有無を観察しめっき性を評価した。不めっき、黒シミ等の表面めっき欠陥が発生することなく、良好な表面めっきが得られている場合には、めっき性良好(○)と評価し、一方、不めっき、黒シミ等の表面めっき欠陥の発生が認められる場合には、めっき性不良(×)と評価した。
【0047】
得られた結果を表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
本発明例はいずれも、Si含有量が0.7%以上と多量に含有する場合であっても、冷間圧延性に優れ、さらに、不めっき、黒シミ等の表面めっき欠陥の発生がない、良好な表面めっき品質を有する高張力溶融亜鉛めっき鋼帯となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、冷間圧延性が低下しているか、表面めっき品質が低下した高張力溶融亜鉛めっき鋼帯となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03〜0.20%、 Si:0.5〜1.8%、
Mn:1.5〜3.5%、 P:0.1%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.02〜0.1%、
N:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、熱延工程、酸洗工程、冷延工程、焼鈍工程、溶融亜鉛めっき工程を、順次施して高張力溶融亜鉛めっき鋼帯とする、高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法において、
前記熱延工程を、粗圧延と仕上圧延とからなる熱間圧延を施して熱延鋼帯とし、該熱延鋼帯を、540〜640℃の範囲の巻取温度で巻取る工程とし、
前記酸洗工程を、前記熱延鋼帯に溶解量:80〜200g/mとする酸洗処理を施す工程と、
することを特徴とする、表面めっき品質に優れ、引張強さ:590MPa以上である高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.005〜0.15%、Ti:0.005〜0.15%、V:0.005〜0.15%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.20%、Ni:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mo:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高張力溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−172230(P2012−172230A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37460(P2011−37460)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】