説明

高強度鋼板のスポット溶接方法

【課題】 高強度鋼板のスポット溶接において、継手の疲労強度が高い信頼性ある継手を作製することが可能な、実操業に適した安定した技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板のスポット溶接方法において、片面からプラズマにより接合部に貫通穴を形成した後、該貫通孔内に、降伏応力が270MPaで、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃である溶接金属を形成することにより溶接する高強度鋼板のスポット溶接方法溶接。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車分野などで広く適用されるスポット溶接方法に関し、特に車体の軽量化、衝突安全性向上を目的として、高強度鋼板スポット溶接継手の疲労強度を向上させるスホット溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費化、CO2排出量削減および衝突安全性向上の観点から、自動車の車体や部品等に用いられる素材として高強度鋼板のニーズが高まっており、今後、益々そのニーズは高まるものと考えられる。
【0003】
一方、車体の組立てや部品の取付け等に用いられる溶接法として、抵抗スポット溶接法が広く用いられている。
【0004】
抵抗スポット溶接は、図1に示すように、例えば、高強度鋼板1同士を重ね合わせ、水冷された上下二つの銅電極2で高強度鋼板1を加圧しながら通電し、高強度鋼板1同士の接触部(重ね合わせ面)を溶融させ、通電終了後、その部分を水冷された銅電極で冷却して溶融部を凝固させ、ナゲット3を形成させる溶接法である。
【0005】
抵抗スポット溶接部(溶接継手)の品質指標としては、静的引張強さとともに疲労強度が重要になる。
通常、抵抗スポット溶接継手の静的引張強さは鋼板の引張強さの増加とともに増加する。これに対して抵抗スポット溶接継手の疲労強度は、鋼板の引張強さが増加してもほとんど増加しないことが知られている。
例えば、引張強さが290MPaの軟鋼板の代わりに、引張強さが590MPaの高強度鋼板を用いた場合には、抵抗スポット溶接継手の引張せん断強さ(せん断方向に荷重を負荷した場合の引張強さ)はほぼ2倍の値に向上する。これに対して、同じ鋼板の引張強さの増加条件で抵抗スポット溶接継手の引張せん断疲労強度(せん断方向に繰り返し荷重を負荷した場合の疲労強度、すなわち、応力負荷の回数が一定の値での荷重)は増加せず、軟鋼板の場合とほぼ同じ値を示すのである。
【0006】
このように、鋼板の引張強さを増加しても抵抗スポット溶接継手の疲労強度が向上しない理由として、従来、抵抗スポット溶接部のノッチ形状が疲労強度の低下の原因とする報告されている。すなわち、図2に示すように、抵抗スポット溶接継手では、高強度鋼板1の重ね合わせ面に形成したナゲット3の両端部がノッチ形状となりやすい。このため抵抗スポット溶接継手の引張せん断方向(矢印方向)4に荷重を負荷して疲労試験を行った場合、このノッチ効果によって疲労強度が低下し、鋼板の引張強さを増加させても疲労強度が向上しないのである。
【0007】
特に抵抗スポット溶接中に散り(通電中、鋼板間に形成された溶融部の直径が銅電極の先端直径より大きくなって、鋼板間から溶融金属が飛散する現象)が発生した場合には、鋼板間に形成されたナゲットの端部が鋭い切り欠き形状になるため、その結果、継手の疲労強度は、散りが発生しない場合に比べてさらに低下する場合がある。
【0008】
また、一般的に、鋼板の引張強さが増加すると、下記(1)、(2)式で定義される炭素当量の値も増加する。
Ceqh=C+Si/40+Cr/20 ・・・(1)
Ceqt=C+Si/30+Mn/20+2P+4S ・・・(2)
ここで、C、Si、Cr、Mn、PおよびSは、それぞれ、鋼板中の炭素、珪素、クロム、マンガン、リン、硫黄の含有量(質量%)を示す。
上記(1)式で示されるCeqhは、ナゲット部の硬さに対応する炭素当量であり、この値が増加するほど、ナゲット部の硬さは増加する。
また、上記(2)式で示されるCeqtは、ナゲット部の亀裂発生感受性に対応する炭素当量であり、この値が増加するほど、ナゲット部の亀裂発生感受性は高まる。
【0009】
一般的に、抵抗スポット溶接継手において鋼板の引張強さが増加するほど、上記(1)、(2)式で示される炭素当量Ceqh、Ceqtの値は高くなる。このため、鋼板の引張強さの増加に伴い、抵抗スポット溶接継手におけるナゲット部の硬さが高くなり、また、亀裂発生感受性が高まって、疲労試験時にナゲット部に亀裂が容易に発生するようになる。
高強度鋼板を用いた抵抗スポット溶接継手では、上述したノッチ効果と併せてこれらのナゲット部の硬さや亀裂発生感受性の影響が作用するため、疲労強度が向上しにくくなるのである。
【0010】
一方、抵抗スポット溶接継手の剥離方向(引張せん断方向(矢印方向)4と垂直な方向)に荷重を負荷して疲労試験を行った場合にも、せん断方向に負荷した場合と同様、高強度鋼板溶接継手の疲労強度は軟鋼板の場合と同じ値を示す。この場合も、せん断方向に負荷した場合と同様、ノッチ効果が抵抗スポット溶接継手の疲労強度低下の原因となる。しかし、この場合には、抵抗スポット溶接継手のせん断方向に繰り返し荷重を負荷した場合に比べて、ナゲットの周辺部での応力集中が顕著になり、局部的な応力負荷が高まってそこで亀裂が発生し易くなるため、せん断方向に負荷した場合に比べて疲労強度は一桁程度低下する。
【0011】
また、抵抗スポット溶接継手における鋼板の引張強さが増加すると変形が起こり難くなるため、疲労試験時の変形量が少なくなり、ナゲットの周囲に応力集中が高まるため、この作用によっても継手疲労強度は低下する。さらに、高強度鋼板は軟鋼に比べてスプリングバックが起こり易いため、スポット溶接部には引張の残留応力が発生し易くなることも、スポット溶接継手の疲労強度低下の原因に挙げられる。
【0012】
以上のように、従来の抵抗スポット溶接方法では、鋼板の引張強さを増加しても溶接継手の疲労強度は軟鋼板を用いた場合と同程度にしかならなかった。
そこで、従来から抵抗スポット溶接継手の疲労強度を向上する方法について検討されている。
【0013】
従来、高強度鋼板の抵抗スポット溶接継手の疲労強度を向上させる手段として、抵抗スポット溶接の通電が完了した後、一定時間経過後にテンパー通電を行い、抵抗スポット溶接部におけるナゲット部と熱影響部を焼鈍して硬さを低下させ、残留応力を変化させる方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0014】
しかし、この方法は、テンパー通電の適正な条件範囲の幅が非常に狭く、また、操業条件の変化により再現性が乏しいという実用上の問題がある。特に、めっき鋼板を連続的に打点して抵抗スポット溶接する場合には、打点数の増加とともに、電極先端がめっきとの合金化反応によって劣化し、電極先端径が増大して電流密度が低下し、最適なテンパー通電条件から外れるため、安定的に継手の疲労強度を向上させることが困難となる。
【0015】
これ以外にも、抵抗スポット溶接部の疲労強度を向上させる方法として、下記特許文献1〜6に開示されているように、疲労強度特性が優れた鋼板を用いて抵抗スポット溶接する方法が知られている。
しかし、これらの方法は、何れも軟鋼板の抵抗スポット溶接に関するものであり、高強度鋼板の抵抗スポット溶接部で疲労強度を向上させる方法については、未だ報告された例はない。
【0016】
また、この他にも、抵抗スポット溶接部の疲労強度を向上させる方法として、特許文献7に開示されているように、抵抗スポット溶接部に超音波衝撃処理を施す方法が知られている。
しかし、この方法は、溶接終了後に後処理行程が必要となり、その分、作業工程が増えて、経済的負荷も増加するので、作業性や経済性の点で好ましい方法ではない。
【0017】
また、従来、溶接継手の疲労強度を向上させるために抵抗スポット溶接打点数(ナゲット数)を増やす方法も知られている。しかし、この方法は、溶接作業効率の低下、溶接施工コストの上昇、および設計自由度の制約等の問題を抱えている。また、この方法は、抵抗スポット溶接打点数(ナゲット数)を増やすことで、継手における1個当たりのナゲット周辺部の応力集中を軽減することを狙うものである。しかし、継手に応力が負荷された場合、各溶接点(ナゲット)に必ずしも均等に応力がかからないため、応力分散効果が十分発揮されず、どちらかの溶接点に応力が集中する。その結果、溶接打点数を、例えば、1点から2点、3点と増やしたとしても、継手の疲労強度は、必ずしも2倍、3倍にはならない。
【0018】
一方、抵抗スポット溶接方法とは異なるスポット溶接方法として、プラズマを利用したスポット溶接方法またはプラズマトーチが、例えば、非特許文献2、特許文献8および9等で知られている。しかし、これらの方法は、何れも軟鋼板や引張強さが比較的低い鋼板を対象とし、溶接材料を用いずに片面溶接する方法における溶接作業性向上を目的とするものである。
これらのプラズマによるスポット溶接方法を用いて高強度鋼板を溶接する場合には、溶接作業効率の低下、溶接施工コストの上昇、および設計自由度の制約等の問題を抱えている。また、この方法を用いることにより、抵抗スポット溶接方法に比べて、溶接材料により溶接金属の成分組成を調整し、鋼板の高強度化に伴う溶接金属の硬さや亀裂発生感受性の上昇による影響を少なくすることが期待されるが、これらの文献では溶接材料について全く開示がない。さらに、スポット溶接継手に特有な鋼板重ね合わせ面に形成される溶接部端部の切り欠き形状の応力集中および引張残留応力に起因する継手疲労強度の低下の問題を解決できるものではない。
【0019】
また、従来から鋼板をアーク溶接して作製した隅肉溶接継手の疲労強度を向上する方法として、例えば、特許文献10や11で開示されるように、低温変態溶接材料を用いて溶接金属の低温側での変態膨張を利用し、継手の溶接部、特にビード止端部近傍の引張残留応力を低減する方法が知られている。
この方法は、凝固後の溶接金属の冷却過程において、オーステナイトからマルテンサイトに変態開始する温度を低くし、相変態に伴う体積膨張を低温で発生させ、変態後の熱収縮量を低減させることにより、隅肉溶接継手のビード止端部近傍の引張残留応力を低減し、継手の疲労強度を向上させる方法である。しかし、この方法は、鋼板同士を重ね合わせて下側鋼板面と上側鋼板端面との隅部をアーク溶接する隅肉溶接継手の疲労向上方法であり、スポット溶接継手の疲労強度向上方法ではない。つまり、この方法により、スポット溶接継手に特有な鋼板重ね合わせ面に形成される溶接部端部の切り欠き形状の応力集中および引張残留応力に起因する継手疲労強度の低下の問題を解決できるものではない。

【特許文献1】特開昭63−317625号公報
【特許文献2】特開平2-163323号公報
【特許文献3】特開平5−263184号公報
【特許文献4】特開平9−268346号公報
【特許文献5】特開平10−8187号公報
【特許文献6】特開平11−279689号公報
【特許文献7】特開2004−122152号公報
【特許文献8】特開昭60−68156号公報
【特許文献9】特開平07−303971号公報
【特許文献10】特開2000−17380
【特許文献11】特開2002−239722
【非特許文献1】「鉄と鋼」第68巻(1982年)第9号第1444〜1451頁
【非特許文献2】溶接技術2002年1月号 78〜83頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
前述のように、従来、高強度鋼板をスポット溶接した継手の疲労強度は、軟鋼板をスポット溶接した継手の疲労強度と変わらないため、自動車分野において高強度鋼板を用いても、高強度鋼板を用いることによる安全性向上や軽量化による低燃費化、CO2排出量削減のメリットを十分に享受することができなかった。
【0021】
本発明では、これらの従来技術における問題点を解決するために、高強度鋼板のスポット溶接において、良好な溶接作業性を確保しつつ溶接継手の疲労強度を向上させることが可能なスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、スポット溶接継手の疲労強度が、ナゲット周辺の残留応力状態に依存することに着目し、スポット溶接継手の疲労強度を向上するためにナゲット周辺の残留応力状態を改善する手段を鋭意検討した。
【0023】
その結果、降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板の片面からプラズマにより接合位置に貫通孔を形成した後、その貫通孔内に、降伏応力が270MPa以上で、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃である溶接金属を形成することによって高強度鋼板の溶接継手における疲労強度を効果的に向上することができることを見い出した。
【0024】
本発明は、上記問題点を解決すべく、発明者らが鋭意研究を重ねた結果得られた結果に基づくものであり、その要旨とするところは、以下の通りである。
(1)降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板のスポット溶接方法において、片面からプラズマにより接合位置に貫通孔を形成した後、該貫通孔内に、降伏応力が270MPa以上で、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃であり、質量%で、
C :0.01〜0.2%、
Si:0.1〜0.5%、
Mn:0.01〜1.5%、
P :0.03%以下、
S :0.02%以下、
Ni:8〜12%を含有し、残部が鉄または不可避不純物からなる溶接金属を形成することにより溶接することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
(2)前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Nb:0.01〜0.4%、
Ti:0.01〜0.4%、
V :0.1〜1.0%
Cr:0.1〜3.0%、
Mo:0.1〜3.0%、
Co:0.1〜2.0%の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
(3)前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Cu:0.05〜0.4%を含有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
(4)降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板のスポット溶接方法において、片面からプラズマにより接合位置に貫通孔を形成した後、該貫通孔内に、降伏応力が270MPa以上で、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃であり、質量%で、
C :0.001〜0.05%、
Si:0.1〜0.7%、
Mn:0.4〜2.5%、
P :0.03%以下、
S :0.02%以下、
Ni:4〜8%、
Cr:10〜15%、
N :0.001〜0.05%を含有し、C及びNの合計量が0.001〜0.06%であり、残部が鉄または不可避不純物からなる溶接金属を形成することにより溶接することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
(5)前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Nb:0.005〜0.3%、
Ti:0.005〜0.3%、
V :0.05〜0.5%、
Mo:0.1〜2.0%、
Co:0.1〜2.0%の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(4)記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
(6)前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Cu:0.05〜0.4%を含有することを特徴とする上記(4)または(5)記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
(7)降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板のスポット溶接方法において、片面からプラズマにより接合位置に貫通孔を形成した後、該貫通孔内に、降伏応力が270MPa以上で、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃であり、質量%で、
C:0.35〜0.70%、
Si:0.1〜0.8%、
Mn:0.4〜2.0%、
P:0.03%以下、
S:0.02%以下を含有し、残部が鉄または不可避不純物からなる溶接金属を形成することにより溶接することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
(8)前記溶接金属が、質量%で、さらに、Ni、Cr、Nb、Ti、V、Mo、および、Coのうちの1種または2種以上を合計量で0.001〜2.0%含有することを特徴とする上記(7)記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
(9)前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Cu:0.05〜0.4%を含有することを特徴とする上記(7)または(8)記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、自動車分野等における車体の組立てや自動車用部品の取付けで用いられる高強度鋼板のスポット溶接において、良好な作業性を確保しつつ溶接継手の疲労強度を向上させることができる。したがって、これにより、自動車分野等で高強度鋼板適用による安全性向上や軽量化による低燃料費、CO2排出量削減のメリット等を十分に享受でき、社会的な貢献は多大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明について以下に詳細に説明する。
図3に本発明の実施形態の一例を示す。
本発明の高強度鋼板のスポット溶接方法は、高強度鋼板1同士を重ね合わせた後、これらの片面側に設置したプラズマトーチ5から発生するプラズマ6を接合位置に吹き付けて貫通孔7を形成させ(図3(a)、参照)、引き続き、プラズマ6中に溶材8を供給しつつ貫通孔7内に溶融した溶接金属を形成し(図3(b)、参照)、その後、溶接金属を凝固させ溶接金属部9を形成させる(図3(c)、参照)ことで行なわれる。なお、通常のスポット溶接では、鋼板間に隙間がある場合、隙間を埋めるために加圧力をより高く設定しなくてはならないが、本発明の方法を用いれば、鋼板間に隙間がある場合でも溶融した溶材が鋼板同士を橋渡しして接合するため(図3(d)、参照)、容易に接合が可能になる。
【0027】
接合部に貫通孔を開ける方法としては、プラズマの他にも、機械加工やレーザ等の方法が考えられるが、効率よく短時間で、しかも十分な大きさの孔を開けることが可能で、かつ、孔開け工程の直後に溶材を溶かしてその孔を埋める方法としてはプラズマが最適だと考えられるため、本発明ではプラズマを採用した。
【0028】
本発明では、上記実施形態において、後述する理由で、降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板を用い、この片面からプラズマ6により接合位置に貫通孔を形成した後、この貫通孔7内に降伏応力が270MPa以上で、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃である溶接金属を形成することを特徴とする。
【0029】

まず、本発明の技術思想、つまり、スポット溶接継手の疲労強度を向上させるためのスポット溶接部及びその周辺の残留応力を低減する方法について説明する。
鋼板の溶接において、溶接部に残留応力が発生する過程は、概略、次のとおりである。溶接後、溶接金属が凝固し冷却されて、溶接金属の温度が変態開始温度に達すると、溶接金属はオーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態し体積が膨張する。この際、溶接金属は周囲の熱影響部を含む母材部分から拘束されるため、溶接金属の近傍では圧縮残留応力が発生する。しかし、導入された圧縮残留応力は、変態後の溶接金属がさらに冷却される過程で熱収縮が大きければ、室温状態では引張応力状態にまで戻る。従来の抵抗スポット溶接では、溶接材料を用いないため、溶接金属の変態開始温度は鋼板の成分組成で決定され、ステンレス鋼の一部を除き、通常の鋼板を溶接する際には、溶接金属の変態が開始する温度が高いため、溶接金属の変態膨張により一旦溶接止端部近傍に圧縮残留応力が導入されるが、その後の熱収縮により最終的には溶接金属の止端部近傍は引張残留応力となる。
この結果、特に高強度鋼板を抵抗スポット溶接する場合には、上述したナゲット端部のノッチ形状などによる影響に加えて、溶接金属の端部の引張残留応力がスポット溶接継手の疲労強度を低下させる原因となる。
スポット溶接部近傍で発生する残留応力状態は、溶接金属が変態膨張時に周囲の熱影響部を含む母材部分の拘束で生じる圧縮応力と、溶接金属の変態後の熱収縮時に周囲の母材部分の拘束で生じる引張応力との大小関係で決まると考えられる。
【0030】
以上から、スポット溶接継手の溶接止端部近傍の引張残留応力を低減する方法として、変態膨張後の熱収縮に伴う引張応力を低減する方法と、変態膨張時の圧縮応力を増大する方法が考えられる。
上記熱収縮は、溶接金属の変態後から室温までの温度差に熱膨張係数を乗じたものと考えられるから、この温度変化を小さくすれば、熱収縮に伴う引張残留応力を小さくできる。
この具体的手段として、プラズマによるスポット溶接方法を適用するとともに、従来からアーク溶接による隅肉溶接での適用が検討されている、溶接金属の変態開始温度を低くコントロールできる溶接材料を用い、溶接金属の変態膨張をより低温で行なわせ、変態終了後から室温までの熱収縮量を低減させる方法が適用できる。
しかし、この手段だけで溶接端部を圧縮残留応力状態とするには溶接金属の変態開始温度を200℃以下にまで低下しなければならない。また、そのためには必然的に合金含有量を増加することとなり、その結果、溶接材料のコスト増加、溶接作業性の低下、溶接金属の靭性等の機械特性劣化などを招く恐れがあり、好ましくない。
そこで、本発明は、溶接金属の変態開始温度を200℃以上とする条件でも溶接金属の変態膨張を利用して溶接止端部に十分に圧縮残留応力を発生させるための具体的手段を検討した。
溶接金属が変態膨張する過程で溶接端部近傍に導入される圧縮残留応力は、この変態温度域での溶接金属及びこれを周囲から拘束する母材部分の弾性歪み(降伏応力:σy 、ヤング率:Eとすると、弾性歪みはσy/Eで示される)に制限される。つまり、変態膨張により弾性歪みを超えて応力が増加しても、溶接金属及びその周囲の母材部分が降伏し、塑性変形させるだけであって溶接止端部の圧縮残留応力を増加することにはならない。
そこで、本発明では、鋼板および溶接金属の降伏応力と、鋼板の板厚をそれぞれ所定値以上確保することにより、溶接金属の変態膨張時に周囲の拘束力を高め、圧縮残留応力を増大させることを手段とし、溶接金属の変態開始温度を200℃以上とする条件でも溶接止端部に十分に圧縮残留応力を発生させることを技術思想とする。
また、本発明は、比較的板厚が薄い自動車用鋼板を対象とするが、その板厚の増加とともに溶接金属の変態膨張終了後、室温までの熱収縮における周囲の拘束力を受け、引張応力を増加させるため、鋼板板厚の上限を制限することも技術思想とする。
【0031】
本発明は、以上の技術思想および知見を基になされたものであり、スポット溶接継手の疲労強度を向上させる手段として、プラズマを利用したスポット溶接方法を用い、さらに、溶接金属のマルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度、高強度鋼板及び溶接金属の降伏応力、および、高強度鋼板の板厚を適正化するものである。
溶接金属のマルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度、および、降伏応力は、溶接金属の成分組成によって決まる。
本発明では、スポット溶接継手の疲労強度以外の機械的特性および適用用途により、溶接金属の変態開始温度を低減させるための成分系として、Niを主成分としたNi系、NiおよびCrを主成分としたNi−Cr系、Cを主成分としたC系の大きく3つの成分系の溶接金属を適用した。
C系の溶接金属は、Ni系およびNi−Cr系の溶接金属に比べて高価な合金元素を減らせる点で経済的効果が期待できる。C系の溶接金属では、Cの増加に伴う溶接金属の高温凝固割れが発生しやすいが、本発明では板厚の上限を低く制限しているためこの問題を回避できる。
【0032】
以下に、本発明で規定する溶接金属の変態開始温度、溶接金属および鋼板の降伏強度、鋼板の板厚、および、Ni系、Ni−Cr系、C系各溶接金属の成分組成の限定理由について説明する。
【0033】
(溶接金属の変態開始温度:200〜350℃)
本発明では、スポット溶接後に溶接金属が凝固後、冷却してオーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに相変態する際の溶接金属の体積膨張を利用して溶接金属止端部近傍に圧縮残留応力を導入する必要がある。
溶接金属のマルテンサイトまたはベイナイト変態開始温度は、通常の鋼板および溶接金属では500℃以下、多くは450℃以下である。
溶接金属端部近傍で圧縮残留応力を導入させ、室温までその圧縮残留応力を維持するためには、溶接金属の変態開始温度を低下させ、より低温側で溶接金属を変態膨張させるのが好ましい。しかし、溶接金属の変態開始温度を低減するためにNi、Crなどの合金元素量を過度に増加することは、溶接材料のコスト増加、溶接作業性の低下および靭性等の溶接金属機械的特性の劣化を招くため、好ましくない。
したがって、本発明では、Ni系、Ni−Cr系およびC系の何れの溶接金属についても、工業的価値のある溶接材料で実現可能であり、溶接作業性および靭性等の溶接金属の機械的特性を良好に維持するために、マルテンサイトまたはベイナイトに変態開始温度の下限を200℃に規定した。
【0034】
一方、溶接金属のマルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度の上限は、Ni系、Ni−Cr系およびC系溶接金属の何れの場合も、変態開始温度が350℃より高くなると、後述する本発明の溶接金属及び鋼板の降伏応力、鋼板板厚の条件でも、変態膨張後の室温までの熱収縮による引張残留応力の影響が大きくなるため、溶接止端部近傍に十分な圧縮残留応力を導入し室温でその状態を維持できず、スポット溶接継手の疲労強度を十分に向上することができなくなる。
したがって、Ni系、Ni−Cr系およびC系溶接金属の何れも、マルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度の上限を350℃に規定した。なお、溶接止端部近傍に十分な圧縮残留応力を導入するためには、上記変態開始温度の上限はより低い方が好ましく、300℃以下とすることが望ましい。
【0035】
なお、上記変態開始温度の上限を350℃より高い条件であっても、溶接金属及び鋼板の降伏応力が充分高ければ溶接金属の変態膨張時に周囲の拘束力が高まり止端部に大きな圧縮残留応力を導入することができる。しかし、溶接金属及び鋼板の過度な降伏応力の向上も、製造コストおよび機械的特性を低下させる恐れがある。本発明の上記変態開始温度の上限は、後述する工業的価値ある鋼板および溶接材料を用い、本発明の溶接金属及び鋼板の降伏応力の条件下で目的とするスポット溶接継手の疲労強度向上を可能とするために350℃とした。
【0036】
(鋼板および溶接金属の降伏応力:270MPa以上)
本発明では、スポット溶接後に溶接金属が凝固後、冷却してオーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに相変態する際の溶接金属の体積膨張を利用して溶接金属端部近傍に十分に圧縮残留応力を導入するためには、上記溶接金属の変態開始温度の規定に加えて溶接金属および鋼板の降伏応力を所定以上確保する必要がある。
溶接金属が変態膨張する際に溶接止端部近傍に導入される圧縮残留応力は、変態温度域での溶接金属及びこれを周囲から拘束する母材部分の圧縮弾性歪み限界(降伏応力:σy 、ヤング率:Eとすると、圧縮弾性歪み限界はσy/Eで示される)に制限される。つまり、変態膨張により圧縮弾性歪み限界を超えて応力が増加しても、溶接金属及びその周囲の母材部分が降伏し、塑性変形させるだけであって溶接端部の圧縮残留応力を増加することにはならない。したがって、溶接金属端部近傍に十分に圧縮残留応力を導入し、本発明が目的とする継手疲労強度をより確実に向上させるためには、溶接金属および鋼板の降伏応力を所定以上とし圧縮弾性歪限界を大きくすることが重要である。
Ni系、Ni−Cr系およびC系溶接金属の何れの場合も、溶接金属および鋼板の降伏応力が270MPa未満であると、溶接金属がオーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに相変態する際に、溶接金属の体積膨張を十分に周囲から拘束し溶接金属端部近傍に十分な圧縮残留応力を導入することが困難となる。その結果、変態終了後の熱収縮により引張残留応力が導入され、溶接端部近傍の圧縮残留応力状態を十分に維持できなり、スポット溶接継手の疲労強度を十分に向上することができなくなる。したがって、Ni系、Ni−Cr系およびC系溶接金属の何れの場合も、溶接金属および鋼板の降伏応力の下限を270MPaと規定した。
【0037】
一方、溶接金属および鋼板の降伏応力の上限は特に規定するものではないが、降伏応力の過度な増加は、これを実現するための溶接材料及び鋼板の製造コストの増加、溶接作業性および溶接金属の靭性など機械的特性の低下を招くため、好ましくない。C系溶接金属は、Ni系およびNi−Cr系溶接金属に比べて溶接材料のコストの点で優れているが、降伏応力の過度な増加は、炭素当量を増加させ溶接金属の高温割れや亀裂発生感受性を高めるため好ましくない。
これらの点から、Ni系、Ni−Cr系およびC系溶接金属の何れの場合も、溶接金属および鋼板の降伏応力の上限を1300MPaとするのが好ましい。
【0038】
(板厚:1.0〜3.6mm)
本発明では、溶接金属の変態膨張時に溶接金属端部近傍に十分に圧縮残留応力を導入させるためには、上記溶接金属の変態開始温度、溶接金属および鋼板の降伏応力の規定に加えて鋼板の板厚を所定以上確保する必要がある。
鋼板の板厚が1.0mm未満の場合には、溶接金属の変態膨張時に周囲の鋼板が塑性変形してしまい十分な拘束力が働かず、溶接金属止端部近傍に十分な圧縮残留応力を導入できないため鋼板の板厚の下限を1.0mmとした。
一方、本発明では、比較的板厚の薄い自動車鋼板を対象とするが、その板厚が過度に厚くなると、本発明のプラズマによるスポット溶接時に、溶接入熱の周囲母材部分への熱伝達が遅くなり、溶接金属が変態後の熱収縮過程で引張応力を増加させる原因となる。また、鋼板の板厚が3.6mmを越える場合には、本発明のプラズマによるスポット溶接時に鋼板に貫通孔を形成することが困難となるため、板厚の上限を3.6mm以下に規定した。
【0039】
なお、C系溶接金属の場合には、鋼板の板厚増加に伴って溶接金属の高温凝固割れが発生する危険が高くなる。これは、Cの増加により溶接金属の凝固温度が低下し、溶接金属の凝固過程において低融点部分が発生し、これが高温割れの原因となるためである。
本発明では、鋼板の板厚を3.6mm以下と制限することにより、C系溶接金属の場合に、溶接金属の凝固が一様に表面方向に向かうようにし、突き合せ凝固を抑制することで高温凝固割れを回避することができる。
【0040】
次に本発明で適用するNi系、Ni−Cr系、C系のそれぞれの溶接金属における成分組成の限定理由について説明する。
【0041】
(Ni系溶接金属の成分組成)
以下に、Ni系溶接金属について、その成分範囲限定理由について説明する。
【0042】
Cは、それを鉄に添加することにより、マルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度を下げる働きをする。しかし、その一方で、過度の添加は、溶接金属の靱性劣化と溶接金属割れの問題を引き起こすため、その含有量の上限を0.2%とした。しかし、Cが無添加の場合は、マルテンサイトまたはベイナイトが得られにくく、また他の高価な元素のみで残留応力低減を図らなければならず経済的とはいえない。C含有量を0.01%以上に限定したのは、安価な元素であるCを利用し、その経済メリットが出る最低限の値として設定した。なお、C含有量の上限は、溶接金属割れの観点から、好ましくは0.15%に設定することが望ましい。
【0043】
Siは、脱酸元素として知られている。Siは、溶接金属の酸素レベルを下げる効果がある。特に溶接中には、空気が混入する危険性があるため、Si含有量を適切な値にコントロールすることは極めて重要である。まず、Si含有量の下限についてであるが、溶接金属に添加するSi含有量として0.1%に満たない場合、脱酸効果が薄れ溶接金属中の酸素レベルが高くなりすぎ、機械的特性、特に靱性の劣化を引き起こす危険性がある。そのため、溶接金属については、その下限を0.1%とした。一方、過度のSi添加も靱性劣化を発生せしめるため、その含有量の上限を0.5%とした。
Mnは、強度を上げる元素として知られている。そのため、本発明における残留応力低減メカニズムである変態膨張時の降伏応力確保という観点から有効利用すべき元素である。Mn含有量の下限0.01%は強度確保という効果が得られる最低限の値として設定した。一方、過度の添加は、母材と溶接金属の靱性劣化を引き起こすため、その含有量の上限を1.5%とした。
【0044】
PおよびSは、本発明では不純物である。しかし、これら元素は、溶接金属に多く存在すると靱性が劣化するため、その含有量の上限をそれぞれ0.03%、0.02%とした。
【0045】
Niは、単体で面心構造を持つ金属であり、鉄系の溶接金属に添加することによりオーステナイトの状態をより安定な状態にする元素である。鉄そのものは、高温域でオーステナイトすなわち面心構造になり、低温域でフェライトすなわち体心構造になる。Niは、それを添加することにより、鉄の高温域における面心構造をより安定な構造にするため、無添加の場合に比べ、より低温度域においても面心構造となる作用をする。このことは、体心構造に変態する温度が低くなることを意味する。Ni含有量の下限の8%は、残留応力低減効果が現れる最低限の添加量という意味で決定した。Ni含有量の上限の12%は、残留応力低減の観点からはこれ以上添加してもあまり効果が変わらない上、これ以上添加するとNiが高価であるという経済的デメリットが生じてくるためである。
【0046】
以上が、本発明のNi系溶接金属の基本成分であるが、本発明の目的とする溶接金属の特性を阻害害さない範囲で、以下の目的でさらに以下のNb、Ti、V、Cr、Mo、および、Coの1種または2種以上、さらには、Cuをそれぞれ適量添加することができる。
【0047】
Nbは、溶接金属中においてCと結合し炭化物を形成する。Nb炭化物は、少量で溶接金属の強度を上げる働きがあるため、有効利用する経済的メリットは大きい。また、本発明における技術思想である変態開始温度における降伏応力を高める意味からもメリットは大きい。しかし、一方で過度の炭化物形成は、靱性劣化の原因となるため自ずと含有量の上限が設定される。Nb含有量の下限値としては、炭化物を形成せしめ、強度向上効果が期待できる最低の値として0.01%を設定した。含有量の上限は、靱性劣化による溶接部の信頼性が損なわれない値として0.4%とした。
【0048】
TiもNbと同様、炭化物を形成し析出硬化を生じせしめる。しかし、Tiでの析出硬化量はNbの場合とは異なる。そのため、Tiの含有量の範囲はNbと異なった範囲が設定される。Ti含有量の下限0.01%は、その効果が期待できる最低量として、含有量の上限の0.4%は靱性劣化を考慮して決定した。
【0049】
VもNb、Tiと同様な働きをする元素である。しかし、NbやTiと異なり、同じ析出効果を期待するためには、含有量を多くする必要性がある。V含有量の下限0.1%は、添加することにより析出硬化が期待できる最低値として設定したが、好ましい含有量の下限値は0.3%である。V含有量の上限は、これより多く添加すると析出硬化が顕著になりすぎ靱性劣化を引き起こすために1.0%とした。
【0050】
Crは、Nb、V、Ti同様析出硬化元素である。また、Crはマルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度を低減させる効果も併せ持つので有効活用すべき元素である。しかし、本発明におけるNi系溶接金属は、主としてNi添加によりマルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度低減を達成しているため、Cr添加量はNiより少なくすべきである。過度のCr添加は必ずしも残留応力低減効果を向上させず、Crが高価であるため産業上好ましくはない。Cr含有の下限0.1%は、これを添加し残留応力低減効果が得られる最低限の値として設定した。Cr含有量の上限3.0%は、Ni系溶接金属については、マルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度がNi添加によりすでに低減されていること、他の析出元素により強度も確保されていることから、これ以上添加しても残留応力低減効果があまり変わらなくなり、靱性劣化が顕著になることにより設定した。
【0051】
MoもCrと同様の効果を持つ元素である。しかし、Moは、Cr以上に析出硬化が期待できる元素である。そのため、添加範囲はCrより狭く設定した。含有量の下限の0.1%は、Mo添加の効果が期待できる最低限の値として設定した。含有量の上限の3.0%は、これ以上添加すると、硬化しすぎるため靱性劣化が顕著になってくるため設定した。
【0052】
Coは、Ti等と異なり、強い析出硬化を生じせしめる元素ではない。しかし、Coは、それを添加することにより強度増加をもたらし、かつ強度増加を期待しながら靱性を確保するという観点からは、Niより好ましい元素である。しかし、Niは、残留応力低減効果を期待できる程度の低い変態開始温度を確保するために溶接金属に添加しているため、Co含有量の下限0.1%は、Co添加の効果が期待できる最低限の値として設定した。一方、過度の添加は、強度増加が過大となり靱性劣化をもたらすため、その含有量の上限を2.0%とした。
【0053】
Cuは、溶接ワイヤにめっきすることにより導電性をよくする効果があるため、溶接作業性を改善するために有効な元素である。また、Cuは焼入性を向上させる元素でもあるため、溶接金属に添加することによりマルテンサイトまたはベイナイトの変態を促進させるという効果も期待できる。したがって、これらの目的で溶接金属中にCuを含有させても良い。Cu含有量の下限は、作業性改善やマルテンサイトまたはベイナイトの変態促進のために必要な最低限の値として0.05%とする。しかし、Cuの過度の添加は、作業性改善の効果がないだけでなく、ワイヤ製造コストを上げるため産業上も好ましくはない。そのため、その含有量の上限は0.4%とする。
【0054】
(Ni−Cr系溶接金属の成分組成)
以下に、Ni−Cr系溶接金属について、その成分範囲限定理由について説明する。
【0055】
Cは、それを鉄に添加することにより、マルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度を下げる働きをする。しかし、その一方で、過度の添加は、溶接割れの問題や靱性劣化の問題を引き起こすため、その含有量の上限値を0.05%とした。しかし、Cが無添加の場合は、マルテンサイトまたはベイナイトが得られにくく、また、他の高価な元素のみで残留応力低減を図らなければならないため経済的とはいえない。C含有量を0.001%以上と限定したのは、安価な元素であるCを利用し、その経済的メリットが出る最低限の値として設定した。
【0056】
Siは、脱酸元素として知られる。Siは、溶接金属の酸素レベルを下げる効果がある。特に溶接施工において、溶接中に空気が混入する危険性があるため、Si含有量を適切な値にコントロールすることはきわめて重要である。まず、Siの下限についてであるが、溶接金属に添加するSi含有量として0.1%に満たない場合、脱酸効果が薄れ溶接金属中の酸素レベルが高くなりすぎ、機械的特性、特に靱性の劣化を引き起こす危険性がある。そのため、溶接金属については、その含有量の下限を0.1%とした。一方、過度のSi添加も靱性劣化を発生せしめるため、その含有量の上限を0.7%とした。
【0057】
Mnは、強度を上げる元素として知られている。そのため、本発明における技術思想である変態膨張時の降伏応力確保という観点から有効利用すべき元素である。Mn含有量の下限0.4%は強度確保という効果が得られる最低限の値として設定した。一方、過度の添加は、溶接金属の靱性劣化を引き起こすため、その含有量の上限を2.5%とした。
【0058】
PおよびSは、本発明では不純物である。しかし、これら元素は、溶接金属に多く存在すると靱性が劣化するため、その含有量の上限を、それぞれ、0.03%、0.02%とした。
【0059】
Niは、単体で面心構造を持つ金属である。鉄そのものは、高温域でオーステナイトすなわち面心構造になり、低温域でフェライトすなわち体心構造になる。Niは、それを添加することにより、鉄の高温域における面心構造をより安定な構造にするため、無添加の場合に比べ、より低温度域においても面心構造となるよう作用する。このことは、体心構造に変態する温度が低くなることを意味する。また、Niは、それを添加することにより、溶接金属の靱性を改善するという効果を持つ。Ni、Cr系溶接金属におけるNi含有量の下限4%は、残留応力低減効果が現れる最低限の添加量および靱性確保の観点から決定した。Ni含有量の上限8%は、Ni、Cr系溶接金属においては、次に述べるCr含有によりある程度マルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度が低減されていること、および残留応力低減の観点からはこれ以上添加してもあまり効果が変わらない上、これ以上添加するとNiが高価であるという経済的デメリットが生じてくるためこの値を設定した。
【0060】
Crは、Niと異なり、フェライト形成元素ある。しかし、Crは、それを鉄に添加すると、高温度域ではフェライトであるものの、中温度域ではオーステナイトを形成し、さらに温度が低くなると、再びフェライトを形成する。溶接部では、溶接入熱量による熱履歴によって、低い温度側でのフェライトは形成されず、マルテンサイトまたはベイナイトが形成される。これは、Cr添加によって、焼入性が増加することが原因である。すなわち、Cr添加によるマルテンサイトまたはベイナイトの変態は、焼入性が増加することによってフェライト変態が生じないということと、マルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度そのものが低くなるということの2つを意味する。これら両方の効果を満たしながら残留応力を低減させるための変態膨張を有効利用するCr含有範囲として、含有量の下限10%を設定した。含有量の上限15%は、これを上回る量を添加してもその効果が大きくならない上、経済的にもデメリットが大きくなるため、この値を設定した。
【0061】
Nは、オーステナイト形成元素として知られている元素である。Nを添加することによりマルテンサイトまたはベイナイトが得られやすくなるため、最低限の添加は必要である。N含有量の下限0.001%は、C同様、低い変態開始温度が得られるための最低値として定めた。しかし、過大な添加は窒化物を形成し、靱性劣化や延性劣化の問題が発生するため、その含有量の上限を0.05%とした。
【0062】
CとNは、それぞれ炭化物、窒化物を形成し、また、オーステナイト形成元素であるなど、その働きが似ており、CおびNの合計量も上限、下限を設定する必要がある。CおびNの合計量の下限0.001%は、マルテンサイトまたはベイナイトを得やすくし、かつマルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度を低くするための最低限の値として、またCおびNの合計量の上限の0.06%は、炭化物、窒化物による靱性劣化および延性劣化の問題が発生しない限界値として定めた。
【0063】
以上が、本発明のNi−Cr系溶接金属の基本成分であるが、本発明の目的とする溶接金属の特性を阻害害さない範囲で、以下の目的でさらに以下のNb、Ti、V、Cr、Mo、および、Coの1種または2種以上、さらには、Cuをそれぞれ適量添加することができる。
【0064】
Nbは、溶接金属中においてCと結合し炭化物を形成する。Nb炭化物は、少量で溶接金属の強度を上げる働きがあり、従って、有効利用することの経済的メリットは大きい。また、本発明における残留応力低減技術である、マルテンサイトまたはベイナイトの変態開始温度における降伏応力を高める意味からもメリットは大きい。しかし、一方で過度の炭化物形成は、靱性劣化が発生するため自ずと上限が設定される。Nb含有量の下限は、炭化物を形成せしめ強度増加効果が期待できる最低の値として0.005%を設定した。含有量の上限は、靱性劣化による溶接部の信頼性が損なわれない値として0.3%とした。
【0065】
TiもNbと同様、炭化物を形成し析出硬化を生じせしめる。しかし、Tiの析出硬化量はNbと異なる。そのため、Ti含有量の範囲もNbと異なった範囲が設定される。Ti含有量の下限0.005%は、その効果が期待できる最低量として、含有量の上限の0.3%は靱性劣化を考慮して決定した。
【0066】
VもNb、Tiと同様な働きをする元素である。しかし、Nb、Tiと異なり、同じ析出効果を期待するためには、Nb、Tiより添加量を多くする必要性がある。V含有量の下限0.05%は、添加することにより析出硬化が期待できる最低値として設定した。V含有量の上限は、これより多く添加すると析出硬化が顕著になりすぎ、靱性劣化を引き起こすために0.5%とした。
【0067】
Moも、Nb、Ti、Vと同様、析出硬化が期待できる元素である。しかし、Moは、Nb、Ti、Vと同等な効果を得るためには、Nb、V、Ti以上に添加する必要がある。Mo含有量の下限0.1%は、析出硬化による降伏強度増加が期待できる最低値として設定した。また、含有量の上限の2.0%は、Nb、V、Tiと同様、靱性劣化を考慮して決定した。
【0068】
Coは、Ti等と異なり、強い析出硬化を生じせしめる元素ではない。しかし、Coは、それを添加することにより強度増加をもたらし、かつ強度増加を期待しながら靱性を確保するという観点からは、Niより好ましい元素である。しかし、Niは、残留応力低減効果を期待できる程度の低い変態開始温度を確保するために溶接金属に添加しているため、Co含有量の下限0.1%は、Co添加の効果が期待できる最低限の値として設定した。一方、過度の添加は、強度増加が過大となり靱性劣化をもたらすため、その含有量の上限を2.0%とした。
【0069】
Cuは、溶接ワイヤにめっきすることにより導電性をよくする効果があるため、溶接作業性を改善するために有効な元素である。また、Cuは焼入性を向上させる元素でもあるため、溶接金属に添加することによりマルテンサイトまたはベイナイトの変態を促進させるという効果も期待できる。したがって、これらの目的で溶接金属中にCuを含有させても良い。Cu含有量の下限は、作業性改善やマルテンサイトまたはベイナイトの変態促進のために必要な最低限の値として0.05%とする。しかし、過度の添加は、作業性改善の効果がないだけでなく、ワイヤ製造コストを上げるため産業上も好ましくはない。そのため、その含有量上限は0.4%とする。
【0070】
(C系溶接金属の成分組成)
以下に、C系溶接金属について、技術思想とその成分範囲限定理由について説明する。
【0071】
Cは、溶接金属の強度を増加させ、またマルテンサイトまたはまたはベイナイトの変態開始温度を下げるという意味において本発明で最も重要な成分である。C含有量の下限0.35%は、これを下回る量では変態温度が充分低減されないため残留応力が低減されず、結果的に疲労強度が向上しないからである。また、Cの上限0.70%は、これを上回る量を添加しても、その効果が同じとなり、また溶接ワイヤを作製するときの製造工程負荷が増加するため、その含有量の上限を0.70%とした。
【0072】
Siは主として脱酸元素として添加されるべき元素である。Si含有量の下限0.1%は、これを下回る添加量では脱酸効果が不十分で溶接金属中の酸素を充分低減できない危険性がある。酸素の増加は機械的特性、特に靱性の劣化を招くため含有量の下限を0.1%とした。含有量の上限は、0.8%を上回る量を添加すると靱性劣化を招くため0.8%と設定した。
【0073】
Mnは、強度を上げかつ変態温度を下げる効果を持つため添加する。Mn含有量の下限0.4%は強度確保という効果が得られる最低限の値として設定した。変態温度を下げるという観点からは、Mnの含有量は本発明にある上限2.0%を上回っても問題はないが、本発明ではすでに説明したCで変態温度が充分低減されていること、および過度のMn添加は溶接材料が高価になり本発明の本意からはれるため含有量の上限を2.0%とした。
【0074】
PおよびSは、本発明では不純物である。しかし、これら元素は、溶接金属に多く存在すると靱性が劣化するため、その含有量の上限をそれぞれ0.03%、0.02%とした。
【0075】
以上が、本発明のC系溶接金属の基本成分であるが、本発明の目的とする溶接金属の特性を阻害害さない範囲で、以下の目的で以下のNi、Cr、Nb、Ti、V、MoおよびCoの1種または2種以上、さらには、Cuをそれぞれ適量添加することができる。
【0076】
Ni、Cr、Nb、Ti、V、Mo、Coは、溶接金属の強度、さらには靱性を向上させる作用を有する成分元素であり、溶接金属の要求特性に応じてこれらの1種または2種以上を添加することができる。しかし、溶接金属の強度、靱性のみに着目してこららの合金元素を多量に添加させると、安価な材料で溶接継手の疲労強度を向上させるという目的に反する結果になりかねない。
本発明では、継手の疲労強度向上以外の目的、例えば、溶接金属の強度、靱性改善などの目的でさらなる添加元素として、Ni、Cr、Nb、Ti、V、MoおよびCoの1種または2種以上を、これら合計で0.001%以上添加することができる。これら含有量の合計量の下限:0.001%は、これら合金元素を添加し、靱性改善効果が期待できる最低限の含有量として規定した。一方、安価な材料で疲労強度を向上させるという目的のためには、これらの合計を2.0%以下に抑える必要であり、好ましくはこれら合金元素の合計1.0%以下とすることが望ましい。
【0077】
Cuは、溶接ワイヤにめっきすることにより導電性をよくする効果があるため、溶接作業性を改善するために有効な元素である。また、Cuは焼入性を向上させる元素でもあるため、溶接金属に添加することによりマルテンサイトまたはベイナイトの変態を促進させるという効果も期待できる。したがって、これらの目的で溶接金属中にCuを含有させても良い。Cu含有量の下限は、作業性改善やマルテンサイトまたはベイナイトの変態促進のために必要な最低限の値として0.05%程度が良い。しかし、過度の添加は、作業性改善の効果がないだけでなく、ワイヤ製造コストを上げるため産業上も好ましくはない。そのため、その含有量上限は0.4%とする。
【0078】
以上、本発明の溶接金属の成分についてその範囲限定理由について述べたが、Ni系、Ni−Cr系、C系の、それぞれの溶接金属の成分組成を制御する方法として、溶接ワイヤ、溶接ワイヤおよびフラックス、あるいは溶接心線および被覆フラックスのそれぞれの成分を調整することで実現可能である。
【0079】
なお、本発明のスポット溶接においては、鋼板の種類について特に限定する必要がなく、固溶型、析出型(例えば、Ti析出型、Nb析出型)、2相組織型(例えば、フェライト中にマルテンサイトを含む組織、フェライト中にベイナイトを含む組織)、加工誘起変態型(フェライト中に残留オーステナイトを含む組織)、微細結晶型(フェライト主体組織)など、いずれの型の鋼板を用いる場合でも、本発明のスポット溶接方法の適用により、鋼板の特性を損なうことなく、優れた疲労強度を有する継手を実現することができる。
【0080】
また、上記鋼板表層にめっきを施した、高強度めっき鋼板を本発明法によりスポット溶接する場合も、高強度めっき鋼板の特性を損なうことなく、優れた疲労強度を有する継手を実現することができる。
特に、本発明法により高強度めっき鋼板をスポット溶接する場合は、プラズマによる貫通孔の形成時に鋼板メッキ層中のZn等の低融点メッキ成分は蒸発、離散し、その後、貫通孔内に溶材を供給しナゲットを形成するため、従来の抵抗スポット溶接で問題となる、溶接時に鋼板間の溶融金属中に閉じ込められたZn蒸気の内圧による溶融金属の爆飛や、ブローホール欠陥などの発生を抑制することができる。
【0081】
なお、高強度めっき鋼板の表層に施されるめっき層の種類は、特に限定するものではなく、Zn系のものなら、例えば、Zn、Zn−Fe、Zn−Ni、Zn−Al、Sn−Znなどいずれのもので良く、これらのめっき層の目付量は両面で100/100g/m2以下のものが望ましい。
また、本発明の方法は、同種同厚鋼板組合せに限定されるものではなく、規定を満たしているのであれば、同種異厚、異種同厚、異種異厚組合せであっても良い。
【実施例】
【0082】
以下に実施例により本発明の効果を説明するが、本発明は、実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
プラズマスポット溶接用の溶接材料として、表1に示した、直径1.2mmの、Ni系溶材(WA1〜WA5)、Ni−Cr系溶材(WB1〜WB5)、C系溶材(WC1〜WC4)を試作した。また、比較用の溶接材料として、直径1.2mmの490、590、780、980MPa級鋼板用の溶材(MAG溶接用市販品、WD1:490MPa級鋼板用、WD2:590MPa級鋼板用、WD3:780MPa級鋼板用、WD4:980MPa級鋼板用)を用いた。
供試材として、表2に示した、板厚が0.8、1.6mmで引張強さが270MPa級の軟裸鋼板(270E)、板厚が1.6mmで引張強さが370MPa級の高強度裸鋼板(370R:370MPa級固溶強化型鋼板)、板厚が0.8、1.6、4.2mmで引張強さが590MPa級の高強度裸鋼板(590T:590MPa級TRIP型複合組織鋼板)を用いた。また、表3に示した、板厚が1.2mmで引張強さが270MPa級の軟裸鋼板(270E)、引張強さが440、590、780、980、1180、1470MPa級の高強度裸鋼板(440W:440MPa級固溶強化型鋼板、590R:590MPa級析出強化型鋼板、590Y:590MPa級DP型複合組織鋼板、590T:590MPa級TRIP型複合組織鋼板、780Y:780MPa級DP型複合組織鋼板、780T:780MPa級TRIP型複合組織鋼板、980Y:980MPa級DP型複合組織鋼板、1180Y:1180MPa級DP型複合組織鋼板、1470Y:1470MPa級DP型複合組織鋼板)、および板厚が1.2mmで引張強さが590、780MPa級の高強度合金化亜鉛めっき鋼板(590Y:590MPa級DP型複合組織鋼板、780Y:780MPa級DP型複合組織鋼板、目付量:片面45/45 g/m2)を用いた。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づいて、上記供試材から引張せん断疲労試験片を切り出し、図3で示したように、試験片を重ね合わせてプラズマスポット溶接し疲労試験用の継手を作製した。なお、プラズマガスとしては、Ar+7%H組成のものを、シールドガスとしては、裸鋼板ではAr+7%H組成のものを、合金化亜鉛めっき鋼板ではAr+50%O組成のものを用いた。また、比較のため、抵抗スポット溶接法で疲労試験用の継手を作製した。
次に、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づいて、繰返し周波数:20Hz、応力比:0.05の条件で引張せん断疲労試験を実施し、繰返し数が2×10回における荷重を疲労強度とした。
【0087】
表2の条件No.11〜No.14で示した比較例である、抵抗スポット溶接で作製した継手では、590T継手の疲労強度が270E継手と同レベルの値を示し、鋼板の引張強さが増加しても継手の疲労強度が増加しない結果であった。
これに対して、本発明で規定した成分組成の溶接材料を使用し、プラズマスポット溶接法により溶接した表2の条件No.1〜No.10に示した本発明例である、590T継手では、いずれの場合も、比較例(条件No.13〜No.14)の抵抗スポット溶接継手に比べてその疲労強度が高い値を示した。
また、プラズマスポット溶接法を用いたが、本発明で規定する範囲外である成分組成の溶接材料を用いた表2の条件No.15〜No.19に示す比較例や、本発明で規定する範囲外である降伏応力の鋼板を用いた表2の条件No.20〜No.21に示す比較例では、抵抗スポット溶接で作製した溶接継手と同等以下の低い疲労強度であった。
また、プラズマスポット溶接法を用いたが、本発明で規定する鋼板の板厚範囲より低い場合の表2の条件No.22に示す比較例も、抵抗スポット溶接で作製した溶接継手と同等以下の低い疲労強度であった。
また、プラズマスポット溶接法を用いたが、本発明で規定する鋼板の板厚範囲より高い場合の表2の条件No.23に示す比較例では、健全なスポット溶接部(ナゲット)を形成させることが不可能であった。
【0088】
(実施例2)
前記(実施例1)と同じ要領で、表1に示した溶接材料を用い、表3で示したように、板厚1.2mm、引張強さが270〜1470MPa級の様々な裸鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板(表3、参照)を用いて、同様に継手を作製し、継手の疲労強度を調べた。
本発明の溶接材料を用いてプラズマスポット溶接して作製した継手は(表3の条件No.1〜No.33参照)、抵抗スポット溶接により作製した継手(表3の条件No.34〜No.45参照)および本発明の規定範囲から外れた溶接材料を用いて作製した継手(表3の条件No.46〜No.57参照)に比べて継手疲労強度が高い値を示し、優れた疲労強度を得ることができた。
【0089】
【表3】

【0090】
上記において、板厚の異なる鋼板を用いても、他の鋼種を用いても、また、めっき種が異なる鋼板を用いても、実験結果は同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、例えば、自動車分野におけるボディ部品、足廻り部品、衝突安全対策用補強部品だけでなく、高い疲労強度が要求され、かつ、軽量化が必要とされる部品に対して活用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】高強度鋼板の抵抗スポット溶接を説明するための断面図である。
【図2】抵抗スポット溶接継手の引張せん断疲労試験を説明するための断面図である。
【図3】本発明のプラズマスポット溶接の実施形態の一例を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0093】
1…高強度鋼板
2…銅電極
3…ナゲット
4…荷重負荷方向
5…プラズマトーチ
6…プラズマ
7…貫通穴
8…低温変態溶材
9…溶接金属部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板のスポット溶接方法において、片面からプラズマにより接合位置に貫通孔を形成した後、該貫通孔内に、降伏応力が270MPa以上で、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃であり、質量%で、
C :0.01〜0.2%、
Si:0.1〜0.5%、
Mn:0.01〜1.5%、
P :0.03%以下、
S :0.02%以下、
Ni:8〜12%を含有し、残部が鉄または不可避不純物からなる溶接金属を形成することにより溶接することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
【請求項2】
前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Nb:0.01〜0.4%、
Ti:0.01〜0.4%、
V :0.1〜1.0%
Cr:0.1〜3.0%、
Mo:0.1〜3.0%、
Co:0.1〜2.0%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
【請求項3】
前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Cu:0.05〜0.4%を含有することを特徴とする請求項1または2記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
【請求項4】
降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板のスポット溶接方法において、片面からプラズマにより接合位置に貫通孔を形成した後、該貫通孔内に、降伏応力が270MPa以上で、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃であり、質量%で、
C :0.001〜0.05%、
Si:0.1〜0.7%、
Mn:0.4〜2.5%、
P :0.03%以下、
S :0.02%以下、
Ni:4〜8%、
Cr:10〜15%、
N :0.001〜0.05%を含有し、C及びNの合計量が0.001〜0.06%であり、残部が鉄または不可避不純物からなる溶接金属を形成することにより溶接することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
【請求項5】
前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Nb:0.005〜0.3%、
Ti:0.005〜0.3%、
V :0.05〜0.5%、
Mo:0.1〜2.0%、
Co:0.1〜2.0%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項4記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
【請求項6】
前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Cu:0.05〜0.4%を含有することを特徴とする請求項4または5記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
【請求項7】
降伏応力が270MPa以上で、かつ板厚が1.0〜3.6mmの高強度鋼板のスポット溶接方法において、片面からプラズマにより接合位置に貫通孔を形成した後、該貫通孔内に、降伏応力が270MPa以上で、オーステナイトからマルテンサイトまたはベイナイトに変態を開始する温度が200〜350℃であり、質量%で、
C:0.35〜0.70%、
Si:0.1〜0.8%、
Mn:0.4〜2.0%、
P:0.03%以下、
S:0.02%以下を含有し、残部が鉄または不可避不純物からなる溶接金属を形成することにより溶接することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
【請求項8】
前記溶接金属が、質量%で、さらに、Ni、Cr、Nb、Ti、V、Mo、および、Coのうちの1種または2種以上を合計量で0.001〜2.0%含有することを特徴とする請求項7記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
【請求項9】
前記溶接金属が、質量%で、さらに、
Cu:0.05〜0.4%を含有することを特徴とする請求項7または8記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−35256(P2006−35256A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217929(P2004−217929)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】