説明

高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸の製造方法

本発明は、a)溶媒中の超高モル質量ポリエチレンの溶液を作製する工程と、b)該溶液を、延伸比DRfluidをかけながら、少なくとも5つのスピンホールを含有するスピンプレートを通して空隙中へ紡糸して流体フィラメントを形成する工程と、c)流体フィラメントを冷却して溶媒含有ゲルフィラメントを形成する工程と、d)溶媒をフィラメントから少なくとも部分的に除去する工程と、e)フィラメントを、少なくとも4の延伸比DRsolidをかけながら、前記溶媒除去工程の前、その間および/またはその後の少なくとも1つの工程で延伸する工程とを含む高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸の製造方法であって、工程b)で各スピンホールは、特有の寸法の縮小ゾーンと0から25までのL/Dで直径Dおよび長さDの下流ゾーンとを含み、少なくとも150の延伸比DRfluid=DRsp×DRag(式中、DRspが1より大きく、DRagが少なくとも1で、DRspはスピンホールでの延伸比であり、DRagは空隙での延伸比である)をもたらす方法に関する。本発明はさらに、高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸に、および前記糸を含有する半完成または最終用途製品に、特にロープおよび耐弾性複合材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、
a)デカリン中の溶液について135℃で測定される際に約8〜40dl/gの固有粘度を有する超高モル質量ポリエチレンの溶媒中の3〜25質量%溶液を作製する工程と、
b)該溶液を、延伸比DRfluidをかけながら、少なくとも5つのスピンホールを含有するスピンプレートを通して空隙中へ紡糸して流体フィラメントを形成する工程と、
c)流体フィラメントを冷却して溶媒含有ゲルフィラメントを形成する工程と、
d)溶媒をフィラメントから少なくとも部分的に除去する工程と、
e)フィラメントを、少なくとも4の延伸比DRsolidをかけながら、前記溶媒除去工程の前、その間および/またはその後の少なくとも1つの工程で延伸する工程と
を含む高性能ポリエチレン(HPPE)マルチフィラメント糸の連続製造方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸に、および前記糸を含有する半完成または最終用途製品に、特に様々な種類のロープおよび耐弾性複合材料に関する。
【0003】
かかる方法は、国際公開第01/73173A1号パンフレットから公知である。60のフィラメントを含有する糸について4.0GPaの引張強度のポリエチレン・マルチフィラメント糸がこの特許公報に記載されており、それは
a)27dl/gの固有粘度を有する超高モル質量ポリエチレンホモポリマーの鉱油中の8質量%の溶液を作製する工程と、
b)該溶液を、15の延伸比DRfluidをかけながら、それぞれが不特定の寸法の先細り流入ゾーンと約1mm直径および40の長さ/直径比(L/D)の下流ゾーンとを有する、60のスピンホールを含有するスピンプレートを通して約3.2mmの空隙中へ紡糸して流体フィラメントを形成する工程と、
c)流体フィラメントを水急冷浴で冷却して溶媒含有ゲルフィラメントを形成する工程と、
d)溶媒をトリクロロトリフルオロエタンでの抽出によってフィラメントから除去する工程と、
e)フィラメントを、溶媒を除去する工程の前、その間およびその後の5つの工程で延伸して36.5の延伸比DRsolidをかける工程と
を含む連続プロセスによって製造された。
【0004】
高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸は本明細書では、少なくとも約4dl/gの固有粘度(IV、デカリン中に溶液について135℃で測定される際に)を有する超高モル質量、または超高分子量ポリエチレンから製造された少なくとも5つのフィラメントを含有する糸であって、少なくとも3.0GPaの引張強度および少なくとも100GPaの引張弾性率(本明細書では以下単に強度または弾性率とも言われる)を有する糸を意味するものと理解される。かかるHPPE糸は、ロープおよびコード、係船索、漁網、スポーツ用品、医療用途、ならびに耐弾性複合材料のような、様々な半完成および最終用途製品での使用にとってそれらを興味ある材料にする特性プロフィールを有する。
【0005】
本発明の文脈の中で、糸は、それらの長さよりはるかに小さい断面寸法を有する複数の個々のフィラメントを含む細長い物体であると理解される。フィラメントは、実質的に無限の長さのものである、連続フィラメントであると理解される。フィラメントは、様々な幾何学的なまたは不規則な形状の断面を有してもよい。糸内のフィラメントは平行であってもまたは互いに絡み合っていてもよく、糸は線状であっても、撚られていてもまたはさもなければ線状構造から逸脱していてもよい。
【0006】
繊維および糸技術の分野では、マルチフィラメント糸がその個々の構成フィラメントについて測定されるような強度より低いテナシティまたは引張強度を示すことはよく知られている。一般に、糸がより多くのフィラメントを含有するに従って、その引張強度(断面積の単位当たりの破断強度、例えばN/mまたはPa)は低くなる。
【0007】
図1は、それぞれの製造業者のパンフレットおよびウェブサイトから集められ、糸中のフィラメントの数(n)の対数に対してプロットされるように、表示スペクトラ(Spectra)(登録商標)およびダイニーマ(Dyneema)(登録商標)銘柄について引張強度(TS)データを示すことによって、幾つかの商業的に入手可能なHPPE糸について糸中のフィラメント数の増加と共に引張強度の前記低下を裏付けるものである。このように、マルチフィラメント糸の強度はその個々のフィラメントのそれより常に低いと結論される。
【0008】
さらに、高強度マルチフィラメント糸の紡糸は、紡糸されたままの糸中のフィラメント数が高ければ高いほどますます困難になり、その考えられる理由の1つがフィラメント間に生じる、紡糸および延伸条件の差、ならびにその後の特性の差であることはよく知られている。ポリエチレン・マルチフィラメント糸紡糸プロセスが工業的規模で商業的に実現可能であるためには、かかるプロセスが、紡糸されたままの糸中の高い数のフィラメントで、中断なしにおよび高い処理量で連続的に行なわれ得ることが重要である。
【0009】
上述の用途の多くで、使用中の性能を決定するHPPE糸の決定的に重要な特性は、引張特性およびクリープ挙動を含む。このように、業界には、改善された引張特性のような、改善された性能を示すHPPEマルチフィラメント糸に対する変わらないニーズがある。様々な研究は、UHPEフィラメントの理論的な強度が10〜20GPaの範囲にあると提言しているが、入手可能な最強の糸ははるかにより低い強度を示し、例えば、780−フィラメント・ダイニーマ(登録商標)SK75糸は約3.5GPaの強度を有する。それ故より具体的には、工業的規模でかかるより高い引張強度糸の製造を可能にする方法に対するニーズがある。
【0010】
本発明によれば、これは、工程b)で各スピンホールが、8〜75°の範囲の円錐角で直径がDからDへと徐々に減少する縮小ゾーンを含み、かつ、スピンホールが縮小ゾーンの下流に0から25までの長さ/直径比L/Dで一定直径Dのゾーンを含み、少なくとも150の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRag(式中、DRspが1より大きく、DRagが少なくとも1で、DRspはスピンホールでの延伸比であり、DRagは空隙での延伸比である)をもたらす方法によって提供される。
【0011】
本発明による方法で、少なくとも5つのフィラメント、特に紡糸したままの糸を含有するいかなる公知のHPPE糸より高い引張強度を有するHPPEマルチフィラメント糸、より具体的には式TS≧f×(n−0.065)GPa(式中、ファクターfは少なくとも5.8であり、nは少なくとも5である)に従う引張強度を有するnのフィラメントを含有するHPPEマルチフィラメント糸を得ることができる。
【0012】
ストレッチ比とも言われる、ある一定の延伸比(DRfluid)が溶液または流体状態でフィラメントにかけられる工程を含むHPPEマルチフィラメント糸の製造方法は多数の公報で既に記載されてきたので、本発明による方法が改善された引張特性の糸をもたらすことは驚くべきである。例えば、欧州特許第0472114B1号明細書に、少なくとも3の最小延伸比DRfluidが数センチメートルの空隙でかけられる方法が開示されている。中間モル質量(好ましくは300〜700kg/モル)のポリエチレンからの16−または19−フィラメント糸の製造について、10〜50のDRfluidが最適特性に達するための好ましい範囲として示されている。欧州特許第0200547B1号明細書は、最適DRfluidが溶液の濃度および操作条件に依存して6〜200の範囲にあると提言している。しかしながら、この公報はその実施例でモノフィラメントの紡糸を開示しているにすぎない。欧州特許出願公開第0064167A1号明細書で、非常に多数の実験に基づいて、空隙での延伸は、かなりの延伸が非常に有害であろうから、最小限にされるべきであると結論されている。さらに、欧州特許出願公開第0064167A1号明細書はまた、長い直線キャピラリーがポリエチレン・フィラメント強度を増大させるために円錐状スピンホールより好ましいはずであると明らかに教示している。国際公開第01/73173A1号パンフレットで、延伸比DRfluidは好ましくは少なくとも12であるが、約34のDRfluidで製造された16−フィラメント糸は約23のDRfluidで製造された糸より低い引張特性を有したことが示されている。これらの公報のどれも、より高い強度のマルチフィラメント糸を製造するためにスピンホール(特有のスピンホール・ジオメトリを適用することによって)および空隙の両方での延伸の結果生じる、150の最小延伸比DRfluidをかけることを開示も提案もしていない。
【0013】
本発明による方法の別の利点は、延伸比DRspをスピンホールのジオメトリを選ぶことによって設定することができ、それが空隙での延伸よりはるかに良好にコントロールできることである。さらなる利点は、スピンホールで延伸中の温度が空隙でより良好にコントロールでき、それがフィラメント間のおよび経時的な加工条件の差をさらに減らすことである。ポリエチレン溶液の温度の小さな差でさえもそのレオロジー性、従って延伸挙動に強く影響を及ぼすであろうことは知られている。一層さらなる利点は、より大きい空隙を適用することができ、それが、例えば急冷浴の表面の移動に由来する小さい変動にそれほど重要ではないことである。本発明の方法の明確な利点は、このように改善された加工安定性、およびフィラメント間およびそれに沿った特性のより大きな一貫性である。これらの利点は、紡糸中のフィラメントの数の増加と共により明らかになる。好ましくは、糸中のフィラメント数は少なくとも10、50、100、150、200、300、375であり、またはさらに少なくとも450である。実用的な理由から、紡糸および延伸中の取扱いがますます困難になるので、フィラメントの数は好ましくは約5000までである。
【0014】
スピンプレートは当該技術では紡糸口金とも呼ばれ、オリフィス、ダイ、開口、キャピラリーまたはチャネルとも呼ばれる、多数のスピンホールを含有する。スピンホールの数が紡糸されたままの糸中のフィラメントの最大数を決定する。スピンホールは、縦および横方向に一定のジオメトリを有し、最高の強度をもたらすために好ましくは円形断面のものであるが、他の形のフィラメントが望まれる場合には、他の形状もまた可能である。本発明の文脈の中で、直径は、非円形または不規則形状のスピンホールについては外側境界を連結する仮想的な線間の最大距離である、有効径であることが意味される。
【0015】
本発明の文脈の中で、溶液でのポリエチレン鎖がスピンホールでの伸長流れの場の結果として配向する場合、スピンホールで1より大きい延伸比がかけられ、そのように得られた配向は弛緩過程(スピンホールで起こる)の結果としてその後実質的に失われない。かかる分子配向、および従って1を超える延伸比は、縮小ゾーン、より具体的には本発明による方法では8〜75°の範囲の円錐角で直径がDからDへと徐々に減少するゾーンを含み、かつ、場合により25までの長さ/直径比L/Dで、縮小ゾーンの下流に一定直径Dのゾーンを含むジオメトリを有するスピンホールを通って溶液が流れる場合に生じる。下流は、スピンプレートのより出口側である、流れる溶液の方向に縮小ゾーンの後を意味すると理解される。一定直径のゾーンの長さが25Dを超える場合、縮小ゾーンで導入された分子配向は再び実質的に失われるであろう、すなわち、何の有効な配向も延伸もないであろう。かかるケースでの延伸比はDRsp=1と定義される。
【0016】
円錐角とは、縮小ゾーンで反対壁面の接線間の最大角度を意味する。例えば、円錐状のまたは先細りの縮小のためには接線間の角度は定数、すなわち、円錐角であり、いわゆるトランペット型の縮小ゾーンについては接線間の角度は減少する直径と共に減少するが、ワイングラス型の縮小ゾーンについては接線間の角度は最大値を経験するであろう。
【0017】
より高い円錐角はより多い伸長流れを誘発するが、円錐角が75°を超える場合、乱流のような流れ不安定性が分子の所望の伸長配向を妨げることがある。好ましくは、円錐角はそれ故70°まで、65°まで、60°まで、50°まで、より好ましくは45°までである。円錐角が減少すると共にポリマー分子の配向はより有効ではなくなり、非常に小さい角度は非常に長いスピンホールをもたらすであろう。好ましくは、円錐角は従って少なくとも10°、より好ましくは少なくとも12°、またはさらに少なくとも15°である。
【0018】
スピンホールでの延伸比は、スピンホールの最初の直径または断面および最終直径での溶液流速の比によって表され、それはそれぞれの断面積の比、または円筒形ホールのケースでは最初および最終直径の平方間の比に等しく、すなわちDRsp=(D/Dである。
【0019】
延伸の程度および条件はスピンホールでうまくコントロールすることができるので、好ましくは、スピンホールでの延伸比は少なくとも2、5、10、15、20、25、30、35、40、45またはさらに少なくとも50である。さらに、スピンホールでのより高い延伸比は、空隙での一定の延伸比で、得られる糸のより高い引張強度をもたらすことが分かった。特別な実施形態では、DRspは同じ理由のためにDRagより大きい。
【0020】
スピンホールは縮小ゾーンの下流に一定直径Dのゾーンをさらに含み、このゾーンは25までの長さ/直径比L/Dを有する。このゾーンの長さはまた0であることもでき、かかるゾーンはスピンホールに存在する必要はない。この一定直径ゾーンの存在の利点は、紡糸工程のさらに改善された安定性である。一方、その長さは、縮小ゾーンで導入された分子配向が実質的に失われないために制限されるべきである。それ故、比L/Dは好ましくは20まで、15まで、またはさらに5までである。
【0021】
スピンホールの最終直径は、本方法でかけられる総延伸比および所望の最終フィラメント厚さに依存して、かなり変わってもよい。好適な範囲は0.2〜5mmであり、好ましくは最終直径は0.3〜2mmである。
【0022】
スピンホールはまた、それぞれに場合により一定直径のゾーンが続く、2つ以上の縮小ゾーンを含有してもよい。
【0023】
本発明による方法の特別な実施形態では、スピンプレート中のスピンホールは、少なくともDの一定直径の、および少なくとも5の比L/Dで長さLの流入ゾーンをさらに含む。かかるゾーンの利点は、本方法のさらなる上流の流れ場に由来するプレ配向が消滅するまたは少なくとも有意に減少するように、溶液中のポリマー分子が縮小ゾーンに入る前に少なくとも部分的に弛緩できることである。これは、スピンホールごとに全く異なる流れ履歴およびプレ配向の程度、こうしてフィラメントの延伸挙動の差、および糸中のフィラメント間の特性の差をもたらすことがある、スピンプレートへの複雑な供給チャネルを必要とする、多数のスピンホールのケースで特に有利である。この流入ゾーンが長ければ長いほど、より多くの弛緩が起こり、そしてより良好なフィラメント間均質性または糸一様性が生じることができる。それ故、流入ゾーンは好ましくは少なくとも10、15、20、またはさらに少なくとも25のL/Dを有する。このゾーンでの流速が縮小ゾーンの通過後よりかなり低く、弛緩が起こるために比較的小さいL/Dで十分であることに留意されたい。ある長さより上では、さらなる増加はほとんどいかなる効果も持たないが、かかる長い流入ゾーンは、製造するおよび取り扱うのがより困難である非常に厚いスピンプレートをもたらすであろう。流入ゾーンはこのように好ましくは100まで、または75まで、または50のL/Dを有する。最適長さは、ポリエチレンのモル質量、溶液の濃度、および流速のような因子に依存する。
【0024】
本発明による方法の好ましい実施形態では、少なくとも10のL/Dで一定直径Dの流入ゾーン、10〜60°の範囲の円錐角の少なくとも1つの縮小ゾーン、15までのL/Dで一定直径Dの下流ゾーンを有する少なくとも10の円筒形スピンホールを含むスピンプレート、および少なくとも5の(D/Dが適用されるが、示された好ましい実施形態の任意の他の組合せもまた可能である。
【0025】
本発明による方法では、流体フィラメントは、スピンホールを出た直後の流速より高いピックアップ速度をフィラメントの冷却後に加えることによって、スピンホールを出た直後にさらに延伸することができる。冷却固化前にかけられるこの延伸は、空隙での延伸比DRagと呼ばれ、先行技術ではドローダウンとも言われる。DRagは、ピックアップ速度が流速に等しい場合1.0であることができるが、該延伸比は、フィラメントを十分な張力下に保つためにおよび弛緩を防ぐために好ましくは1を超える。好ましくは、DRagはかけられたDRspと組み合わせてある一定のDRfluidに達するために最適化される。好ましくは、空隙での延伸比は少なくとも2、5、または10である。スピンプレートの出口から急冷浴の表面までの距離である、空隙の寸法は好ましくは一定に保たれ、すべてのフィラメントについて同じものであるが、それは非常に決定的に重要であるとは思われず、数mm〜数cmであることができる。空隙が長すぎる場合、分子弛緩過程が得られた配向の一部を無効にすることがある。好ましくは、空隙は約5〜50mmの長さのものである。
【0026】
流体フィラメントにかけられる、DRsp×DRagである、延伸比DRfluidは少なくとも150、好ましくは少なくとも200、250、またはさらに少なくとも300である。流体フィラメントにかけられるかかる高い延伸比はゲルおよび乾燥フィラメントの改善された延伸性(DRsolid)を、および/または生じた糸の引張強度のような、改善された特性をもたらす。これはまた、それが最大にすぐ下の一定の延伸比で(半)固体状態延伸中にフィラメントが過度にストレスを受ける機会を減らし、こうしてフィラメント切れの頻度を下げるので、本方法の改善された加工安定性と同義的である。これは、欧州特許出願公開第0064167A1号明細書または国際公開第01/73173A1号パンフレットのような先行技術公報での実験が、DRfluidを増やすと、その後固体フィラメントにかけることができるより低い延伸比を、そして糸のより低い引張特性をもたらすことを示しているので、驚くべき結果である。
【0027】
本発明による方法にかけられる超高モル質量ポリエチレンは、紡糸されるべき溶液の加工性と得られるフィラメントの機械的性質とのバランスを提供するために、約8〜40dl/g、好ましくは10〜30、または12〜28、より好ましくは15〜25dl/gの固有粘度(IV、デカリン中の溶液について135℃で測定される際に)を有する。固有粘度は、MおよびMのような実際のモル質量パラメーターより容易に測定することができるモル質量(また分子量とも呼ばれる)の尺度である。IVとMとの間には幾つかの経験的関係があるが、かかる関係はモル質量分布に依存する。方程式M=5.37×10[IV]1.37(欧州特許出願公開第0504954 A1号明細書を参照されたい)に基づいて、4または8dl/gのIVは、それぞれ、約360または930kg/モルのMに等しいであろう。高温でのポリマーの加工中に一般に幾らかの鎖の切断が起こり、出発ポリマーのそれに対してより低いモル質量の生成物の取得につながることはよく知られている。UHPEのゲル紡糸時に、出発モル質量および加工条件に依存して、約1〜3g/dlのIV低下が起こる可能性があることが分かる。
【0028】
好ましくは、UHPEは100個の炭素原子当たり1種未満、好ましくは300個の炭素原子当たり1種未満の分岐の線状ポリエチレンであり、分岐または側鎖または鎖分岐は通常少なくとも10個の炭素原子を含有する。線状ポリエチレンは5モル%以下の1つもしくはそれ以上の、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクテンのような例えばアルケンなどの、コモノマーをさらに含有してもよい。
【0029】
好ましい実施形態では、UHPEはペンディング側基として少量の、好ましくは1000個の炭素原子当たり少なくとも0.2、または少なくとも0.3の比較的小さい、好ましくはC1〜C4アルキル基を含有する。ある一定量のかかる基を含有するポリマーを適用することによって、高強度とさらなる改善されたクリープ挙動との有利な組合せを有する糸をもたらすことが分かる。しかしながら、大きすぎる側基、または多すぎる量の側基は、フィラメントの加工および特に延伸挙動に負の影響を及ぼす。この理由のために、UHPEは好ましくはメチルまたはエチル側基、より好ましくはメチル側基を含有する。側基の量は好ましくは、1000個の炭素原子当たり20まで、より好ましくは10、5までまたは3までである。
【0030】
本発明による方法に適用されるUHPEは、少量の、一般に5質量%未満の、好ましくは3質量%未満の、抗酸化剤、熱安定剤、着色剤、流動促進剤などのような通例の添加剤をさらに含有してもよい。UHPEは単一ポリマー銘柄であることができるが、例えばIVまたはモル質量分布、および/またはコモノマーまたは側基のタイプおよび数が異なる、2つもしくはそれ以上のポリエチレン銘柄の混合物であることもできる。
【0031】
本発明による方法では、UHPEのゲル紡糸に好適な公知の任意の溶媒、例えばパラフィンワックス、パラフィン油もしくは鉱油、灯油、デカリン、テトラリン、またはそれらの混合物を、ポリエチレン溶液を作製するための溶媒として使用することができる。本方法は比較的揮発性の溶媒、好ましくは、大気条件で275℃未満の、より好ましくは250または225℃未満の沸点を有する溶媒に有利であることが分かる。好適な例には、デカリン、テトラリン、および幾つかの灯油グレードが挙げられる。溶媒中のUHPEの溶液は公知の方法を用いて作製することができる。好ましくは、二軸スクリュー押出機がUHPE/溶媒スラリーから均一な溶液を作製するために適用される。溶液は好ましくは計量供給ポンプを使って一定流速でスピンプレートに供給される。UHPE溶液の濃度は3〜25質量%であり、ポリエチレンのモル質量が高ければ高いほどより低い濃度が好ましい。好ましくは、濃度は、15〜25dl/gの範囲のIVのUHPEについて3〜15質量%である。
【0032】
UHPE溶液は好ましくは長期にわたって実質的に一定の組成のものである。その理由は、これが加工安定性をさらに改善し、長期にわたってより一定品質の糸をもたらすからである。実質的に一定の組成とは、UHPE化学組成およびモル質量、ならびに溶液中のUHPEの濃度のようなパラメーターが選ばれた値の前後のある一定の範囲内で変わるにすぎないことを意味する。
【0033】
溶媒含有ゲルフィラメントへの流体フィラメントの冷却は、ガス流れで、または空隙を通過後に液体冷却浴でフィラメントを急冷することによって行われてもよく、該浴は好ましくはUHPE溶液にとっての非溶媒を含有する。ガス冷却が適用される場合、空隙は、フィラメントが固化する前は空気中にある長さである。好ましくは、液体急冷浴は空隙と組み合わせて適用され、利点は、延伸条件がガス冷却によるよりも良好に規定され、コントロールされることである。空隙と呼ばれるけれども、雰囲気は、例えば窒素のような不活性ガス流れの結果として、またはフィラメントからの溶媒蒸発の結果として空気とは異なることができる。好ましくは、何の強制ガス流れもないか、または低い流速のものにすぎない。好ましい実施形態では、フィラメントは、冷却液体を含有する浴で急冷され、その液体は溶媒と混和性ではなく、その温度はコントロールされ、かつ、それは流体フィラメントが急冷浴に入る場所では少なくともフィラメントに沿って流れる。
【0034】
溶媒除去は、公知の方法によって、例えば、比較的揮発性の溶媒を蒸発させることによって、抽出液体を使用することによって、または両方法の組合せによって行うことができる。
【0035】
本発明によるポリエチレン糸の製造方法は、溶液フィラメントを延伸することに加えて、半固体もしくはゲルフィラメントおよび/または冷却および溶媒の少なくとも部分的な除去後の固体フィラメントについて、少なくとも4の延伸比で行われる少なくとも1つの延伸工程でフィラメントを延伸することをさらに含む。好ましくは、延伸は3つ以上の工程で、好ましくは約120〜155℃の増加プロフィールの異なる温度で行われる。(半−)固体フィラメントにかけられる3工程延伸比はDRsolid=DRsolid1×DRsolid2×DRsolid3として表され、すなわち、それは各延伸工程でかけられる延伸比からなる。
【0036】
所与のDRfluidについて得ることができる糸の最高の引張特性に達するために、約35以下の延伸比DRsolidをかけ得ることが分かる。本発明による方法での部分延伸フィラメントの改善された延伸性および強度の結果として、流体フィラメントについてかけられた延伸比にも依存して、好ましくは5〜30の範囲での比較的高い延伸比が頻繁なフィラメント切れが起こることなしにかけられてもよい。本発明による方法はこのように、特に延伸比が最適化された場合に、公知のマルチフィラメント糸より高い引張強度を示すだけでなく、綿毛状になる(切れたフィラメントの存在に起因する)ことも少ないマルチフィラメントHPPE糸をもたらす。
【0037】
本発明による特別な実施形態では、IV 15〜25dl/gの線状UHPEの3〜15質量%溶液が、少なくとも200の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRagおよび5〜30の延伸比DRfluidをかけながら、10〜60°の範囲の円錐角の少なくとも1つの縮小ゾーンを含み、縮小ゾーンの下流に10より小さい長さ/直径比L/Dで一定直径Dのゾーンを含む、少なくとも10のスピンホールを含有するスピンプレートを通して空隙中へ紡糸されるが、前記パラメーター設定の他の組合せもまた良好な結果を提供する。
【0038】
本発明による方法は、例えばスピン仕上げまたはサイジング剤を糸に塗布する工程のような、当該技術で公知の追加の工程をさらに含んでもよい。
【0039】
本発明はさらに、上に規定され、記載されたようなジオメトリおよび好ましい特徴の少なくとも5つのスピンホールを含むスピンプレートに関する。前記スピンプレートの利点は、高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸の製造方法に適用された場合に、それが流体フィラメントへの高程度の延伸および安定した紡糸プロセスを可能にし、増加した強度のおよび個々のフィラメント間の特性に高い一貫性のある糸をもたらすことである。
【0040】
本発明はさらに、本発明による方法によって得ることができるHPPEマルチフィラメント糸であって、少なくとも5つのフィラメントを含有するいかなる公知のHPPE糸より高い引張強度を示す糸に関する。より具体的には、本発明は、IV 8〜40dl/gの線状UHPEから製造された、nのフィラメントを含有する、少なくともf×(n−0.065)GPa(式中、ファクターfは少なくとも5.8であり、nは少なくとも5である)の引張強度を有する、HPPEマルチフィラメント糸に関する。本発明による糸の好ましい実施形態は、上記のようなUHPE銘柄に基づいている。好ましくは、糸は、前記式(ここで、fは少なくとも6.0、6.2またはさらに少なくとも6.4である)に従う引張強度を有する。フィラメントの最大理論強度が何人かの著者によって約10GPaであることが示唆されていることを考えると、ファクターfは10まで、またはさらに9もしくは8までであろう。
【0041】
本発明によるHPPEマルチフィラメント糸は、温度変調示差走査熱量測定(TMDSC)で測定される際に少なくとも200J/gの不可逆転移の総エンタルピーによってさらに特徴づけられる。さらに、あるいはまた、本発明によるHPPEマルチフィラメント糸は、TMDSCによって測定される際に約152℃で少なくとも35J/g、好ましくは少なくとも38または40J/gのエンタルピーを有する最大の、本明細書では以下不可逆ピークと呼ばれる、不可逆TMDSC曲線でのピークによってさらに特徴づけられる。これらのTMDSC結果はまだ十分には理解されておらず、本発明者らはいかなる理論にも拘束されることを望まないが、特に152℃の不可逆ピークは、本発明の紡糸プロセスによって促進されるポリエチレン分子の配向結晶化に相関し、改善された機械的性質をもたらすと現在は考えられる。
【0042】
本発明によるHPPEマルチフィラメント糸は、例えば、600MPaの荷重で70℃で糸について測定されるようなクリープ速度で表される、5×10−6−1まで、好ましくは4×10−6−1までの好都合な耐クリープ性を示すことがさらに分かる。1000個のC原子当たり0.2〜10のC1〜C4アルキル基を持った線状UHPEから製造された本発明によるHPPEマルチフィラメント糸は、高い強度と組み合わせてさらにより良好な耐クリープ性を示す、すなわち、それは、600MPaの荷重で70℃で糸について測定される際に3×10−6−1まで、好ましくは2×10−6−1までまたはさらに1×10−6−1のクリープ速度を有する。
【0043】
好ましくは、本発明による糸中のフィラメントの数は少なくとも10、50、100、150、200、300、375またはさらに少なくとも450である。
【0044】
好ましくは、前記糸は、紡糸されたまままたは製造されたままの糸であり、糸が紡糸および延伸プロセスの直接製品であり、より少ないフィラメントを含有する別々に製造された糸をまとめることによって製造されていないことを意味する。勿論、本発明による製造されたままの糸は、より高いタイターまたは線密度の糸またはロープなどへさらにまとめることができる。
【0045】
かかる高い強度の糸は、頑丈なロープおよびケーブルの製造のような様々な用途に、または改善された保護レベル、もしくは減少した重量を提供する耐弾性複合材料の製造に非常に有用である。例えば5〜300のフィラメントを含有する比較的低いタイターの、しかし極めて高い強度の糸は、例えば、高強度の外科縫合糸およびケーブル、または他の医療移植片の製造に非常に好適である。医療用途向けには、糸中の他の成分または異質材料の量は、その機械的性質に加えて、非常に重要である。本発明はそれ故特にまた、150ppm未満の残留溶媒、特に大気条件で275℃未満の沸点を有する溶媒を含有する、好ましくは100、75もしくはさらに50ppm未満の溶媒を含有する本発明によるHPPEマルチフィラメント糸に、およびかかる糸を含有する医療移植片に関する。
【0046】
本発明は特に、少なくとも20のフィラメントを含有するHPPEマルチフィラメント糸であって、IV 8〜40dl/gのUHPEから製造され、少なくとも20のnおよび少なくとも5.8のfで、少なくともf×(n−0.065)GPaの引張強度を有する糸に関する。特にロープを製造するためには、また約2.5%より多い破断伸びも示す、かかる高い強度のマルチフィラメント糸が、かかるロープのより高い強度効率の故に有利である。本発明はそれ故特に、IV 8〜40dl/gのUHPEから製造された少なくともnのフィラメントを含有するHPPEマルチフィラメント糸であって、少なくとも200、好ましくは少なくとも300または375のnでおよび少なくとも5.8のfで少なくともf×(n−0.065)GPaの引張強度、600MPaの荷重で70℃で測定される際に5×10−6−1までのクリープ速度、および少なくとも2.8%の破断伸びを有する糸に関する。
【0047】
本発明はさらに、本発明による高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸を含有する様々な半完成および最終用途物品、または本発明による方法によって得ることができる高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸に関する。かかる物品の例には、様々なロープおよびコード、漁網、スポーツ用品、縫合糸およびケーブルのような医療移植片、ならびに耐弾性複合材料が挙げられる。これらの用途のほとんどで、糸の引張強度は物品の性能を決定する最も重要なパラメーターである。
【0048】
ロープは特に、揚錨、地震探査、掘削リグおよび生産プラットフォームの係留、および曳航のような、海洋および沖合作業での利用のための頑丈なロープを含む。好ましくは、かかるロープは、少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも75、またはさらに90質量%の本発明による糸を含有する。最も好ましくは、ロープは本質的に本発明によるHPPE糸からなる。かかる製品はまた、より高い強度に加えて、減少したクリープおよび連続荷重条件下で破壊までのより長い時間のような、改善された性能をも示す。高い量のHPPE糸を含有する製品は、おそらく水よりも低い、低い相対密度を有し、それは海洋および沖合用途で有利である。
【0049】
本発明はさらに、本発明によるHPPE糸を含む複数の単層を含有する多層耐弾性アセンブリに、およびかかるアセンブリを含む耐弾性物品に関する。HPPE糸は、織布および不織布をはじめとする、様々な形で単層中に存在することができる。好ましくは、単層は、各単層での繊維方向が隣接単層での繊維方向に関して回転する状態で、単層が一方向延伸フィラメントを含有する。単層は、基本的にはフィラメントを一緒に保持するためのバインダー材料をさらに含んでもよい。バインダー材料は様々な技法によって、例えば、フィルムとして、横接合ストリップもしくは繊維(一方向フィラメントに関して横の)として、またはマトリックスを、例えば液体中のマトリックス材料の溶液または分散系をフィラメントに含浸させるおよび/または埋め込むことによってこれまで付けることができた。バインダー材料の量は好ましくは層の質量を基準にして30質量%未満、より好ましくは20もしくは15質量%未満である。単層は少量の補助成分をさらに含んでもよく、他のフィラメントを含んでもよい。好ましくは、単層は強化繊維としてHPPEフィラメントを含むにすぎない。かかる単層はそれ故本質的にHPPEフィラメントからなる単層とも言われる。
【0050】
多層耐弾性アセンブリはまた、少なくとも2つの予備成形シート層のアセンブリであって、シート層が高性能繊維およびバインダー材料を含む少なくとも2つの単層と、場合によりフィルムまたは布のような他の層とを含む、互いに一体化されたまたは貼り付けられたアセンブリであることができる。かかる多層耐弾性アセンブリまたはパネル、およびそれらの製造は、例えば米国特許第4,916,000号明細書、米国特許第4,623,574号明細書、欧州特許出願公開第0705162A1号明細書または欧州特許出願公開第0833742A1号明細書から当該技術で公知である。
【0051】
車両外装のようないわゆる硬い弾道用途向けには、HPPE糸を含有する複数の単層から(圧縮)成形された堅いパネルが一般に付けられる。防弾チョッキのような柔らかい弾道用途向けには、例えば、単層または予備成形シートを積み重ね、例えば角をまたはエッジ周りを縫い合わせるにより、またはエンベロープを内側に置くことにより該積み重ねを固定することによって、HPPE糸を含有する複数の単層から組み立てられた柔軟なパネルが好ましい。
【0052】
本質的に本発明によるHPPE糸からなる単層を含有する多層耐弾性アセンブリは驚くべきことに、公知のアセンブリまたはパネルの性能を超える良好な抗弾性を示す。例えば、NIJ II要件(367m/秒の衝撃速度で8.0gの9mmパラベラム(Parabellum)FMJ(フルメタル・ジャケット)弾丸、および436m/秒の速度で10.2gの0.357マグナム(Magnum)JSP(ジャケット・ソフトポイント)弾丸の停止)を満たす柔軟なアセンブリは最先端パネルのそれよりも約25%以上低い面密度を有することが分かる。減量は、個人保護および車両外装などの両方で明らかな利点である。
【0053】
本発明はより具体的には、本質的にHPPEマルチフィラメント糸からなる複数の単層を含む耐弾性アセンブリであって、少なくとも1.5kg/mの面密度(AD)とスタナッグ(Stanag)2920に基づいた試験手順に従って9×19mmFMJパラベラム弾丸に対して測定される際に少なくとも300J.m/kgの比エネルギー吸収(SEA)とを有するアセンブリに関する。好ましくは、アセンブリは少なくとも325、または少なくとも350J.m/kgのSEAを有する。面密度は表面積当たりの質量で表され、面質量または面重量とも言われる。
【0054】
本発明はさらに、本質的にHPPEマルチフィラメント糸からなる複数の単層を含む耐弾性成形パネルであって、スタナッグ2920に基づいた試験手順に従ってAK−47弾丸に対して測定される際に少なくとも165J.m/kgの比エネルギー吸収(SEA)を有するパネルに関する。好ましくは、パネルは170、または少なくとも175J.m/kgのSEAを有する。
【実施例】
【0055】
本発明は、次の実施例および比較実験によってさらに明らかにされる。
【0056】
方法
・IV:固有粘度は、方法PTC−179(ハーキュレス社、改訂版(Hercules Inc.Rev.)1982年4月29日)に従ってデカリン中135℃で測定し、溶解時間は16時間であり、2g/l溶液の量で抗酸化剤としてのDBPC入りで、異なる濃度で測定されるような粘度をゼロ濃度に外挿することによって求める。
【0057】
・側鎖:UHPEサンプル中の側鎖の数は、2mm厚さの圧縮成形フィルムについてFTIRによって、NMR測定値に基づく検量線を用いて1375cm−1の吸収を定量化することによって測定する(例えばEP 0269151号明細書に記載のように)。
【0058】
・引張特性:引張強度(または強度)、引張弾性率(または弾性率)および破断伸び(またはeab)は、500mmの繊維の公称ゲージ長、50%/分のクロスヘッド速度およびタイプ繊維グリップ(Fibre Grip)D5618Cのインストロン(Instron)2714クランプを用いて、ASTM D885Mに従った手順でマルチフィラメント糸について規定し、測定する。測定された応力−歪み曲線に基づき弾性率は0.3〜1%の間の歪み勾配として求める。弾性率および強度の計算のために、測定された引張力を、10メートルの繊維の重さを量ることによって測定されるような、タイターで割り、GPa単位の値は0.97g/cmの密度を仮定して計算する。
【0059】
・温度変調示差走査熱量測定(TMDSC)実験は、冷凍冷却システム(Refrigerated Cooling System)(RCS)を備えたTAインスツルメンツ・ヒートフラックス(TA Instruments Heatflux)DSC 2920で実施した。ヘリウムをパージガスとして使用した(35ml/分)。アルミニウムるつぼ(パーキン・エルマー(Perkin Elmer)、ロボットパン)をサンプル・ホルダーとして使用した。繊維を分析前に1〜2mmの長さにカットした。較正手順は、水およびインジウムでの温度較正、インジウムでのエンタルピー較正、および標準対照材料(Standard Reference Material)1484線状ポリエチレン(Linear Polyethylene)150℃でCp=2.57J/℃での熱容量較正を含んだ(規格基準局 ワシントンD.C.(National Bureau of Standards D.C.))。
【0060】
適用される測定条件は、UHPE粉末についてのジー.ヘーネ(G.Hohne)による刊行物(Thermochimica Acta、396(2003)、97−108頁)に基づく。測定方法は、80℃での平衡、毎80秒での変調±0.20℃、および180℃まで1.00℃/分の速度での走査を含んだ。可逆および不可逆転移についてのTMDSC曲線は、測定された総熱流量およびコンプレックス熱容量から計算した。様々なピークのピーク温度およびエンタルピーについての報告値は、140℃未満の(広い)最大値、140〜144(142)℃の範囲の、および150〜153(152)℃の範囲の最大値を有するピークについて、連続ベースラインを仮定する標準ソフトウェアで計算した。
【0061】
・糸のクリープ特性は、温度調節されたチャンバー、滑らかな表面を有する円筒形スチール棒でのサンプル固定、ならびにサンプルに負荷をかけるための、かつ、加えられた重りの変位対時間を監視するための自動化システムを含む実験セットアップで測定した。予想される伸びに依存して200〜1000mmの好適な長さの糸サンプルの端をスチール棒の周りに数回巻き付け、結び目で固定する。サンプルを次にクリープ・チャンバー中に置き、1〜30秒間プレローディングおよびその後の弛緩後に測定を開始する。観察される伸び対時間は典型的には3つの型を示す:最初に比較的速い伸びの後にクリープ速度の水平域に達する(型2、定常状態クリープとも呼ばれる)。第3型では、分子鎖切断効果は塑性クリープに加えてある役割を果たし、最終的には糸切れをもたらす。報告されるクリープ値は、糸について70℃でそして600MPa荷重で行われた実験値から計算されるような、型2に関係する。クリープ寿命値は型2から型への移行として測定された。
【0062】
・弾道性能:複合パネルのV50およびSEAは、9mm×19mmのFMJパラベラム弾丸(ダイナミット・ノーベル(Dynamit Nobel)製)、1.1グラムおよび5.38mmの断片シミュレート発射体(Fragment Simulating Projectile)(FSP)、または8.0gの7.62×39mmのAK−47軟鋼コア(Mild Steel Core)弾丸(コンジョイ、英国(Conjoy,UK)製)を用いて、スタナッグ2920に従った試験手順で21℃で測定した。21℃および65%相対湿度で少なくとも16時間順化させた後、層のアセンブリを、35℃で予め順化させた、ローマ・プラスチリン(Roma Plastilin)裏当て材を充填されたサポート上に柔軟なストラップを用いて固定した。AK−47弾薬のケースでは、パネルを鉄骨上へ固定し、裏当てなしで狙撃した。
【0063】
実施例1〜2
38/62〜42/58の比のシス/トランス異性体を含有する、1000個の炭素原子当たり0.3未満の側基および27.0dl/gのIVを有するUHPEホモポリマーのデカリン中の6質量%溶液を作り、ギアポンプを備えた25mm二軸スクリュー押出機でホール当たり1.0g/分の速度で24スピンホールを有するスピンプレートを通して180℃の温度設定で窒素雰囲気中へ押し出した。スピンホールは、3.0mm直径および18のL/Dの初期円筒形チャネル、引き続き1.0mm直径および10のL/Dの円筒形チャネルへ円錐角45°の円錐状縮小部を有した。溶液フィラメントを約35℃に保たれたおよび水浴に入るフィラメントに垂直に約5cm/秒の水流速の水浴で冷却し、15mmの空隙で15の延伸比が紡糸されたままのフィラメントにかけられるような速度で巻き取った。フィラメントはその後130℃のオーブンに入った。フィラメントを約4の延伸比をかけることによってさらに延伸し、そのプロセスの間ずっとデカリンがフィラメントから蒸発した。総延伸比DRoverall(=DRfluid×DRsolid)は1440に達した。このようにして得られた糸は5.2GPaの引張強度および202GPaの弾性率を有した。関連データを表1に示す。
【0064】
実施例2では、半固体状態で5の延伸比をかけて、実験を繰り返した。より高い延伸比の結果として、より高い引張特性がまた見いだされた。
【0065】
比較実験A
この実験では、空隙での延伸比を下げて、135のDRfluidをもたらした。測定された引張強度は、より高い延伸比についてよりかなり低かった。
【0066】
実施例3
この実験は、次の修正を加えて、前述と同じように行う:スピンプレートは直径4.5mmおよびL/D=10の流入チャネル、円錐角20°の縮小ゾーン、および直径0.3mmおよび5のL/Dのその後のチャネルを有し、225のDRspをもたらし、空隙での延伸比は巻取速度を流速とマッチさせることによって約1.01である。延伸比を5にセットして固化フィラメントにかけ、生じた糸は極めて高い引張強度および弾性率を示す。
【0067】
比較実験B〜C
これらの実験では、1000個の炭素原子当たり0.3未満の側基および19.8dl/gのIVを有するUHPEポリマーのデカリン中の溶液を、ギアポンプを備えた40mm二軸スクリュー押出機でホール当たり2.2g/分の速度で195スピンホールを有するスピンプレートを通して180℃の温度設定で空隙中へ押し出した。スピンホールは、実施例1〜2と同じジオメトリを有したが、円錐角60°であった。実験Bでは8質量%溶液を、実験Cでは9質量%溶液を使用した。急冷浴中の水は30〜40℃に保ち、フィラメント近くで約3cm/秒の流速を有した。固体状態延伸を2工程で、先ず約110〜140℃の温度勾配で、次に約151℃で行った。空隙での延伸比は、例えば実施例1とは違って、加工不安定性(フィラメント切れ)が起こることなしに余りにも多く増大させることはできなかったが、それは、使用されたより低いモル質量UHPEに関係する可能性がある。生じた糸は公知の糸に匹敵する強度を有した。表1および図2を参照されたい。
【0068】
実施例4〜5
比較実験B〜Cと同じ紡糸および延伸装置および条件を用いたが、スピンプレートは、12.25のDRspをもたらす、直径3.5mmおよびL/D=18の流入チャネル、円錐角60°の縮小ゾーン、ならびにその次の直径1.0mmおよび10のL/Dのチャネルを有した。紡糸速度はホール当たり1.7g/分であった。空隙での延伸比は増大させることができ、非常に高い強度の糸の安定した製造をもたらした。表1および図2を参照されたい。
【0069】
実施例6
実施例4を、同様なジオメトリの195ホールを有するが、30°の円錐角のスピンプレートで繰り返した。
【0070】
比較実験D〜F
比較実験B〜Cと同じように、しかし同じジオメトリの390のスピンホールを含有するスピンプレートで糸を製造した。HDPE溶液はそれぞれ8、8および9質量%であった。実験結果はまた非常に匹敵するものであり、糸はより多い数のフィラメントに対して予期されるものより僅かに低い引張強度を示した。
【0071】
実施例7〜10および比較実験G
比較実験Dと同じセットアップおよび条件を用いて、糸を、実施例4〜5のようなジオメトリの390スピンホールを有するスピンプレートを適用して紡糸した。実施例10では、紡糸速度をホール当たり1.7g/分に下げた。再び、高い延伸比を流体フィラメントにかけ、非常に良好な引張特性をもたらした。表1および図2を参照されたい。DRfluidを空隙で比較的小さい延伸比をかけることによって減らす場合、引張強度はかなり低下した(比較実験G)。
【0072】
実施例11〜12
マルチフィラメント糸を、ギアポンプを備えた130mm二軸スクリュー押出機を用いて、直径3.5mmおよび18のL/Dの流入ゾーン、円錐角60°の円錐状縮小ゾーン、および直径0.8mmおよびL/D10のその後のキャピラリーを有する588のスピンホールを含有するスピンプレートを通してIV 19.8dl/gの8質量%のUHPEを含有するデカリン溶液から紡糸した。スピンホールでの延伸比はこうして19.1であり、空隙での延伸比は16.2および18.1であった(スピンホール当たり2.2および2.0g/分の紡糸速度で)。冷却浴での水流速は約6cm/秒であった。糸の引張特性は、同様な条件下に製造された、しかしより少ないフィラメントを含有する糸を一致する(表1および図2を参照されたい)。
【0073】
実施例13
実施例11の実験を、しかし1176のスピンホールを含有する同様なスピンプレートで繰り返した。1176のフィラメントを含有する、非常に高い引張強度を有するマルチフィラメント糸を高い加工安定性で製造することができた。
【0074】
比較実験H
比較実験Fの実験を、しかし780のスピンホールを含有するスピンプレートで、本質的に同じ結果で繰り返した。
【0075】
実施例14〜16
実施例4の実験セットアップおよび条件を用いて、糸を、IV 21.4および1000個の炭素原子当たり0.3未満の側基のUHPEの7質量%溶液から、スピンホール当たり1.7g/分の紡糸速度で紡糸した。得られた糸の引張強度は、より低いモル質量のUHPEから製造された匹敵する製品のそれより幾分高かった。
【0076】
実施例17〜20
1000個の炭素原子当たり0.65のメチル側基および23dl/gのIVを有するUHPEの8質量%溶液を、実施例4と同じジオメトリの、しかし30°の円錐角の390のスピンホールを含有するスピンプレートを用いて糸へ紡糸した。他の紡糸および延伸条件は同じものであったが、空隙での延伸比を変えた。得られた糸の強度は、コモノマーとして非常に少ないプロピレンを含有するポリマーでの結果に匹敵するが、クリープ特性はかなり改善される。表1および2を参照されたい。
【0077】
比較実験I〜J
実施例17〜20と同じように、しかしより低い空隙での延伸比およびDRfluidで糸を製造し、より低い強度をもたらした。
【0078】
図2に、すべての上の実験で測定されるような引張強度を、それぞれの糸中のフィラメントの数の対数に対してプロットした。市販サンプルについての図1からのものだけでなく、国際公開第01/73173号パンフレットに報告されている実験からのデータポイントもまた含まれる。実施例1〜20が公知の糸および比較実験A〜Hで製造された糸より高い強度を示すこと、およびこれらの強度値がなくとも5のnで少なくとも5.8×(n−0.065)GPaであることが明らかに分かり、その式は図2に太い線で表される。
【0079】
表2に、幾つかの選択されたサンプルについて600MPaの荷重で70℃で行われたクリープ測定の結果をまとめる。より高い延伸比を流体フィラメントにかけて製造された、より高い引張特性を示す糸はまた、より良好な耐クリープ性をも示す:クリープ速度の点で3倍の改善が同じポリマーから製造された糸について(実施例16対比較例H)、および約10倍の改善がコモノマーとして少量のプロピレン入りUHPEポリマーから製造された糸について(実施例20)見いだされると結論付けることができる。
【0080】
多数の糸サンプルをTMDSCで研究した。結果を表3に示す。様々なサンプルは可逆転移に対するエンタルピー効果に明確な傾向を示すように見えないが、本発明による糸は不可逆転移に対してより高い総エンタルピー、および特に約152℃でその最大のより大きいピークを示すと結論することができる。
【0081】
実施例29
実施例19の実験を繰り返したが、固体フィラメントについての最終延伸工程はここで、糸をより低い速度でオーブンに2回通すことによって、2段階で行った。6.4のDRsolid2での最終延伸工程の代わりに、ここで5×1.7=8.4のDRsolid2×DRsolid3をかけた。オーブン中の滞留時間はこのように約2分から約6.3分に増加した。得られた糸は4.1GPaの引張強度、182GPaの弾性率、および16ppmのデカリン含量を有した。
【0082】
実施例19は135ppmのデカリン含量の糸をもたらした。ちなみに、比較例Gの糸は約1150ppmのデカリン、比較例Dは890ppmおよび比較例Eは400ppmのデカリンを含有し、該減少はフィラメント厚さの減少と概略相関することが分かった(オーブン滞留時間はほぼ一定であった)。
【0083】
実施例30
実施例29を繰り返したが、最終の固体状態の2段階延伸工程はここで、可能な酸化分解を防ぐために、空気中の代わりに不活性窒素雰囲気下に行った。得られた糸は改善された引張特性(強度4.6GPaおよび弾性率179GPa)、ならびに非常に低いデカリン含量(約18ppm)を示した。
【0084】
実施例21
930デシテックスのタイターを有する、実施例13のマルチフィラメント糸を使用して、クリールからの幾つかのパッケージから糸を供給し、マトリックス材料としてクレイトン(Kraton)(登録商標)D1107スチレン−イソプレン−スチレン・ブロック共重合体の水性分散系をフィラメントに含浸させることによって一方向(UD)単層を製造した。乾燥後にUD単層は22.2g/mの面密度および約23質量%のマトリックス含量を有した。40×40cmサイズの4つのこれら単層を十字形様に(各層中の繊維方向が隣接層中の方向と90°の角度で)積み重ね、約7g/mのポリエチレンフィルムを該積み重ねの両側上に置き、パッケージを約110℃および約0.5MPaで圧縮することによって一体化させた。この予備成形されたシートの面密度は103.8g/cmであった。
【0085】
多数のこれらのシートを積み重ね、アセンブリを各角で幾つかの縫い合わせによって安定化させた。アセンブリの弾道性能を9mmパラベラム弾丸(上記を参照されたい)で試験した。表4に、結果を3つの異なる面密度のアセンブリについてまとめる。
【0086】
実施例22〜23
実施例21を繰り返したが、単層はここでAD20.2g/mおよびマトリックス含量15質量%を有した(実施例22)。実施例23は465デシテックスの実施例11の糸で製造し、単層は18.4g/mのADおよび15質量%のマトリックスを有した。より詳細を表4に示す。
【0087】
比較実験K
実施例21と同じようにアセンブリを、780のフィラメントを含有する、TS3.5GPaの市販マルチフィラメントHPPE糸(ダイニーマ(登録商標)SK76 1760デシテックス)から製造した。単層は32.8g/mのADおよび18質量%のマトリックス含量を有した。
【0088】
表4のデータから、本発明による糸で製造されたパネルはそれらの面密度に関してかなりより良好な弾道性能を示すことが明らかである。図3で、これは、実施例21〜23および比較実験KについてV50値(弾丸がパネルに穴を開けるであろう推定確率が50%である速度)対面密度をプロットすることによってさらに例示される。
【0089】
実施例24
UD単層を、37.6g/mのADおよび約10質量%のマトリックス含量で実施例21でのように製造した。予備成形シートを、両側に7g/mのポリエチレンフィルム付きで2つの単層を十字形様に置き、圧縮により一体化させることによって製造した。そのADは89.2g/mであった。
【0090】
多数のこれらのシートを積み重ね、縫い合わせで安定化させ、前記のように抗弾性能について試験した。
【0091】
実施例25〜26
AD 40.3g/mおよび15質量%のマトリックスの単層から出発して、実施例24を繰り返した。
【0092】
実施例26では実施例24の実験を繰り返したが、2つの単層の代わりに4つの単層を十字形様に置き、シートへ一体化させた。
【0093】
比較実験L
単層およびシートを比較実験Kのように製造した。単層は58.5g/mのADおよび16質量%のマトリックス含量を有した。
【0094】
表4に示された結果は、実施例21〜23とは異なる構造の組み立てパネルについてもまた、本発明による糸から製造されたパネルが最新技術によるパネルより同じ面密度でかなり良好な保護レベルを有することを示す。図4で、これはV50値対面密度をプロットすることによってさらに例示される。
【0095】
実施例27
実施例25の単層を、実施例21について記載した手順と同じように、しかしポリエチレンフィルムを使用することなしに2つの層を十字形様に置き、それらを一体化させることによって予備成形シートにした。その次に、異なる重量の40×40cmパネルを、前記予備成形シートの積み重ねから、積み重ねをプレスの加熱圧盤の間に置き、積み重ねを約6.5MPaでおよび125℃で少なくとも30分間圧縮し、温度が60℃より低くなるまで前記圧力下に冷却することによって圧縮成形し、16kg/mのパネルを16.5MPaで少なくとも35分間圧縮した。表5に、圧縮パネルの面密度、および異なる弾薬での弾道試験の結果を提示する。
【0096】
実施例28
実施例22の単層を、前に記載した手順に従ってポリエチレンフィルムを使用することなしに4つの層を十字形様に置き、それらを一体化させることによって予備成形シートにした。パネルを実施例27について記載したように成形した。弾道試験の結果を表5にまとめる。
【0097】
比較実験M
比較実験Kと同じように、SK76繊維および約18質量%のマトリックスを含有する、65.5g/mのADを有する単層を製造した。4つの前記単層を含有する予備成形シートを、カバーフィルムなしに、前記のように製造し、パネルを実施例27について記載したように成形した。結果を表5にまとめる。
【0098】
表5のデータは、本発明の改善されたHPPE糸から製造されたパネルが改善された弾道性能:SEA値が約65%以下より高いことを示し、公知のパネルと同じ保護レベルを提供しながらかなりの軽量化が可能であることを示唆する。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】市販サンプルについて、糸中のフィラメントの数の対数に対して引張強度をプロットしたグラフである。
【図2】引張強度を、それぞれの糸中のフィラメントの数の対数に対してプロットしたグラフである。
【図3】実施例21〜23および比較実験KについてV50値対面密度をプロットしたグラフである。
【図4】実施例24〜26および比較実験LについてV50値対面密度をプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)デカリン中の溶液について135℃で測定される際に約8〜40dl/gの固有粘度を有する超高モル質量ポリエチレンの溶媒中の3〜25質量%溶液を作製する工程と、
b)前記溶液を、流体延伸比DRfluidをかけながら、少なくとも5つのスピンホールを含有するスピンプレートを通して空隙中へ紡糸して流体フィラメントを形成する工程と、
c)前記流体フィラメントを冷却して溶媒含有ゲルフィラメントを形成する工程と、
d)前記溶媒を前記フィラメントから少なくとも部分的に除去する工程と、
e)前記フィラメントを、少なくとも4の延伸比DRsolidをかけながら、前記溶媒除去工程の前、その間および/またはその後の少なくとも1つの工程で延伸する工程と
を含む高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸の製造方法であって、
工程b)で各スピンホールは、8〜75°の範囲の円錐角で直径がDからDへと徐々に減少する縮小ゾーンを含み、前記スピンホールは縮小ゾーンの下流に0から25までの長さ/直径比L/Dで一定直径Dのゾーンを含み、少なくとも150の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRag(式中、DRspが1より大きく、そしてDRagが少なくとも1で、DRspはスピンホールでの延伸比であり、かつDRagは空隙での延伸比である)をもたらすことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記円錐角が10〜60°である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スピンホールでの前記延伸比が少なくとも2である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記スピンホールでの前記延伸比が少なくとも5である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記スピンホールでの前記延伸比が少なくとも10である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記比L/Dが20までである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記比L/Dが15までである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記スピンホールが、少なくとも5の比L/Dで、少なくともDの一定直径の流入ゾーンをさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記比L/Dが少なくとも10である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記スピンプレートが、少なくとも10のL/Dで一定直径Dの流入ゾーン、10〜60°の範囲の円錐角の縮小ゾーン、15までのL/Dで一定直径の下流ゾーンを有する少なくとも10の円筒形スピンホールを含み、少なくとも5の(D/Dが適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
流体フィラメントにかけられる前記延伸比DRfluidが少なくとも250である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
IV 15〜25dl/gの線状UHPEの3〜15質量%溶液が、少なくとも200の流体延伸比DRfluid=DRsp×DRagおよび5〜30の延伸比DRsolidをかけながら、少なくとも10のスピンホールを含有するスピンプレートを通して空隙中へ紡糸される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法であって、前記スピンホールが10〜60°の範囲の円錐角の縮小ゾーンを含み、かつ、縮小ゾーンの下流に10より小さい長さ/直径比L/Dの一定直径Dのゾーンを含む方法。
【請求項13】
IV 8〜40dl/gの線状超高モル質量ポリエチレンから製造された高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸であって、nのフィラメントを含有し、そして少なくともf×(n−0.065)GPa(式中、ファクターfは少なくとも5.8であり、そしてnは少なくとも5である)の引張強度を有する糸。
【請求項14】
fが6.0〜10の値を有する請求項13に記載の高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸。
【請求項15】
温度変調示差走査熱量測定で測定される際に、約152℃で最大の、かつ、少なくとも35J/gのエンタルピーを有する不可逆ピークを示す、請求項13または14に記載の高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸。
【請求項16】
糸について600MPaの荷重で70℃で測定される際に5×10−6−1までのクリープ速度を有する、請求項13〜15のいずれか一項に記載の高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸。
【請求項17】
少なくとも200のフィラメントを含有する、請求項13〜16のいずれか一項に記載の高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸。
【請求項18】
大気条件で275℃未満の沸点を有する150ppmの残留溶媒を含有する、請求項13〜16のいずれか一項に記載の高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸。
【請求項19】
請求項13〜18のいずれか一項に記載の高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸を含有する半完成および最終用途物品。
【請求項20】
請求項18に記載の糸を含有する医療移植片。
【請求項21】
本質的に高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸からなる複数の単層を含む耐弾性アセンブリであって、少なくとも1.5kg/mの面密度とスタナッグ(Stanag)2920に基づいた試験手順に従って9×19mmFMJパラベラム(Parabellum)弾丸に対して測定される際に少なくとも300J.m/kgの比エネルギー吸収とを有するアセンブリ。
【請求項22】
各単層での繊維方向が隣接単層での繊維方向に関して回転する状態で、前記単層が一方向延伸フィラメントを含有する、請求項21に記載の耐弾性アセンブリ。
【請求項23】
パネルの比エネルギー吸収が少なくとも325J.m/kgである、請求項21または22に記載の耐弾性アセンブリ。
【請求項24】
本質的に高性能ポリエチレン・マルチフィラメント糸からなる複数の単層を含む耐弾性成形パネルであって、スタナッグ2920に基づいた試験手順に従ってAK−47弾丸に対して測定される際に少なくとも165J.m/kgの比エネルギー吸収を有するパネル。
【請求項25】
各単層での繊維方向が隣接単層での繊維方向に関して回転する状態で、前記単層が一方向延伸フィラメントを含有する、請求項24に記載の耐弾性パネル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−522351(P2007−522351A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546871(P2006−546871)
【出願日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000903
【国際公開番号】WO2005/066401
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】