説明

高歪み点ガラス

高い歪み点、透明度、および低い熱膨張係数を示す、SiO2−Al23−P25三成分系からのガラスの一群が開示されている。これらのガラスは、酸化物基準のガラスバッチから計算して、モルパーセントで表して、以下の組成:55〜80%のSiO2、12〜30%のAl23、および2〜15%のP25を有する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2003年12月30日に出願された米国仮特許出願第60/533765号からの優先権の恩恵を主張する。その内容をここに引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、高い歪み点、低い熱膨張係数、および比較的低い密度により特徴付けられる、Al23−P25−SiO2ガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の材料が電子素子のための基板の候補であることが最も重要である。液晶ディスプレイ(LCD)、太陽電池、電子部品、マイクロエレクトロニクス製品などの電子デバイスの製造におけるいくつかのプロセスは、非常に高い温度で行われる工程を含む。例えば、アクティブ・マトリクスLCDでは、各ピクセルでダイオードまたは薄膜トランジスタなどのアクティブ・デバイスを用い、それによって、高いコントラストおよび速い応答速度が可能になる。多くのディスプレイ装置では現在、その加工が450℃未満の温度で行われている非晶質シリコン(a−Si)を用いているが、多結晶シリコン(poly−Si)加工が好ましい。poly−Siはずっと高い駆動電流および電子移動度を有し、それによって、ピクセルの応答時間が増す。さらに、poly−Siを用いると、ディスプレイの駆動回路をガラス基板上に直接構築することが可能である。これとは反対に、a−Siは、集積回路実装技法を用いて、ディスプレイの周囲に取り付けなければならない別個のドライバ・チップが必要である。最も効率的なpoly−Si加工方法は、少なくとも800℃の温度で動作する。そのようなプロセスでは、非常に高い電子移動度(迅速な切換えのため)および大面積に亘る優れたTFT均一性を有するpoly−Siフイルムを形成することができる。この製造プロセスは一般に、基板が800℃の範囲の温度に加熱されることとなる高温プロセスを用いた薄膜の連続成膜およびパターン形成からなる。溶融シリカは、990〜1000℃の十分に高い歪み点を有するが、その熱膨張係数(CTE)は、シリコンの熱膨張係数よりも著しく低い(CTE 5×10-7/℃対CTE 37×10-7/℃)。
【0004】
他の電子デバイスに関しては、一般的な加工工程も、加工に耐えるために高温基板が必要である。最も高いレベルの電子製造では、ゲート酸化膜およびドーパントの活性化のアニーリングが必要である。これらのプロセスは、800℃を超える温度で行われる。
【0005】
基板に結合した単結晶シリコンの薄層を用いる単結晶シリコン(x−Si)製造技法の場合でさえも、高温基板が必要とされる。単結晶シリコンは、poly−Siにより達成されたものよりもさらに大きい電子移動度が可能になる。結合工程は、前述したように、高温並びにゲート酸化膜およびドーパントの活性化工程を必要とすることが多い。
【0006】
よって、(1)高い歪み点(>800℃)を有し、(2)製造後の費用のかかる熱処理を必要とせず、(3)シリコンのCTEに緊密に一致したCTEを有し、(4)従来の溶融装置内で溶融できる、ガラスが必要とされている。さらに、ガラスが、可視光に対して透明であり、化学的耐久性であることが好ましい。これらのいくつかの品質は、フラット・パネル・ディスプレイ、光電池、フォトマスク、光磁気ディスク、並びに高温での安定性を必要とするチューブおよびファイバ用途などの様々な製品を製造するためのガラスに要求される。
【0007】
フラット・パネル・ディスプレイでは、可視波長並びに紫外波長で必ず透明であるガラスシートが用いられる。そのガラスシートは、ガラス表面にシリコン層を製造するのに適合される必要がある。最初に、施されるシリコン層は非晶質シリコン(a−Si)であった。そのようなデバイスの製造には、350℃以下の温度しか必要とされなかった。適切なガラスは、これらの条件下で使用するのに容易に入手可能であった。
【0008】
コーティング材料としてa−Siからpoly−Siおよびx−Siへの発展は、ガラス基板の使用に重大な課題をもたらした。poly−Siおよびx−Siのコーティングには、600〜1000℃の範囲にある、ずっと高い加工温度が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主要な目的は、表面へのpoly−Siおよびx−Siコーティングの製造に適した性質を有するガラスを提供することにある。
【0010】
別の目的は、800〜900℃での加工を可能にするために十分に高い歪み点を有するガラスを製造することにある。
【0011】
さらに別の目的は、従来の工程により溶融でき、高品質のpoly−Siまたはx−Si膜を施すための基板を提供できるガラスを提供することにある。
【0012】
さらに別の目的は、その表面に高品質のpoly−Siまたはx−Si薄膜を有する電子デバイス、特に、フラット・パネル・ディスプレイを提供することにある。
【0013】
また別の目的は、Al23−P25−SiO2から実質的になり、必要に応じて、アルカリ、アルカリ土類、遷移金属の酸化物、並びにランタニド系列の酸化物などの選択された酸化物を含有する、新規のガラス群を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、一部には、1より大きいAl23/P25モル比、800℃を超える歪み点、1650℃以下の溶融温度、無色透明の透明度、および5〜40×10-7/℃の熱膨張係数を有する、三成分アルミノホスホケイ酸塩(aluminophoshposilicate)ガラスの一群にある。
【0015】
本発明はさらに、1より大きいAl23/P25モル比、800℃を超える歪み点、および5〜40×10-7/℃の熱膨張係数を有する透明なガラス基板上にpoly−シリコン膜を有する電子デバイスにある。
【0016】
本発明のガラスは、広く、酸化物基準のガラスバッチから計算して、モル%で表して、以下の範囲:55〜80%のSiO2、12〜30%のAl23、2〜15%のP25、および0〜15%のROの範囲に入る組成を有する。
【0017】
所望の特徴を与えるために、バッチに、いくつの融剤(改質酸化物)を加えてもよい。これらの融剤は元のガラスの歪み点を一般に低下させるが、それら融剤は、以下の目的のいくつかまたは全てにとって必要であることが多い:CTEを上昇させる、液相線温度を低下させる、圧密に好ましい歪み点を得る、特定の波長での吸収、溶融を容易にする、密度を変える、または耐久性を変える。特定の酸化物がガラスの物理的および化学的特性に対して持つ作用が一般に知られている。融剤は、15%までの量で、または溶解度により限られるように、加えてよい。改質酸化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の酸化物、並びにランタニド系列の酸化物から選択してよい。特定の例としては、Y23、ZrO2、HfO2、MgO、CaO、SrO、BaO、As23、SnO2、Li2O、La23、GeO2、Ga23、Sb23、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、BeO、Sc23、TiO2、Nb25、Ta25、ZnO、CdO、PbO、Bi23、Gd23、Lu23および/またはB23が挙げられる。したがって、本発明の目的のために、Rは、Mg、Ca、Y、Sr、Zr、Hf、As、Sn、Li、La、Ge、Ga、Sbまたは上述した適切な改質剤の定義に適合する任意の他の元素である。
【0018】
これらのガラスは以下の特徴を有する:
歪み点 >800℃
CTE >8×10-7/℃
溶融 <1650℃
密度 >2.2g/cm2
【0019】
好ましい実施の形態は、ガラスバッチから計算した、酸化物基準のモル%で表して、以下に指定した範囲に含まれる組成を有する:60〜70%のSiO2、15〜25%のAl23、5〜10%のP25、および7%未満のRO。
【実施例】
【0020】
以下の表IおよびIIは、本発明の組成範囲を例証する、酸化物基準のモル%で表したいくつかの組成を示している。実際にバッチ成分は、他のバッチ成分と一緒に溶融されたときに、適切な比率で所望の酸化物に転化される、酸化物または他の化合物いずれかの任意の材料を含んでいてよい。
【0021】
バッチ成分を配合し、均質な溶融物を生成するのに役立つように完全に一緒にタンブル混合し、白金坩堝中に装填した。その上に蓋を配置した後、坩堝を、1600〜1650℃の温度で動作している炉内に移した。次いで、約16時間後に坩堝を取り出し、そのように形成された溶融物を鋼製金型中に注型した。次いで、金型からガラス・パテを取り出し、ガラスのアニール点の温度(約900℃)のアニール炉内に配置した。次いで、ガラスをアニール炉から取り出し、冷却させた。
【0022】
表IおよびIIは、ガラス業界における従来の技法にしたがってガラスに測定したいくつかの物理的および化学的性質の測定値を列記している。それゆえ、0〜300℃の温度範囲に亘る線熱膨張係数(CTE)は、×10-7/℃で表され、膨脹計により測定され;軟化点は、平行板粘度計により測定されて℃で表され;歪み点およびアニール温度は、ビーム・ベンディング式粘度計により測定されて℃で表されている。HCl中の耐久性は、24時間に亘り95℃で5質量%HCl水溶液の浴中に浸漬した後に損失質量(mg/cm2)を測定することにより決定した。液相線温度は、標準的な勾配炉試験を用いて測定した。溶融温度は、ガラス溶融物が300ポアズの粘度を示す温度である。
【0023】
必ずしも全ての組成について全試験が行われた訳ではないことが表から分かる。
【表1】

【表2】

【0024】
歪み点は、溶融シリカよりもいくぶん低い。しかしながら、それらは、入手できる従来のように溶融したガラスよりも明らかに高く、意図する目的にとって極めて適している。三成分酸化物に関するガラス転移温度は全て900℃より高く、このことは転じて、全て、850℃を超える歪み点を示すことに留意されたい。
【0025】
いくつかの組成について、液相線温度は1500℃未満である。好ましい組成は、1450℃の液相線温度を有する(891HZC)。
【0026】
図1は、幅広い温度範囲に亘る好ましい組成(891HTS)の粘度を示す曲線である。
【0027】
これらのガラスの低い熱膨張特性のために、耐火性および耐熱衝撃性を必要とする技術的状況の優れた候補となるのがさらに認識されよう。
【0028】
本発明のガラスを、シリコンの薄層を支持する基板として使用すべき状況において、シリコンがガラスにより汚染されるのを保護するバリア層で表面を被覆することが必要であろう。そのようなバリア層は、一般的であり、当業者に公知である。適切なバリア層の例としては、シリカ並びに窒化ケイ素が挙げられる。
【0029】
他の用途において、ガラスを着色することが有益であろう。遷移金属酸化物を添加すると、ガラスに色が与えられることが知られている。例えば、少量のコバルトは、ガラスにブルーまたはグレーの色を与えることが知られている。
【0030】
本発明を限られた数の実施の形態に関して説明してきたが、この開示の恩恵を受けた当業者には、ここに開示した本発明の範囲から逸脱しない他の実施の形態も考え出せることが認識されよう。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定義されている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の好ましい組成物に関する粘度曲線を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のバッチから、モルパーセントで計算したときに、以下の組成:55〜80%のSiO2、12〜30%のAl23、および2〜15%のP25を有するガラス組成物。
【請求項2】
酸化物基準のバッチから、モルパーセントで計算したときに、以下の組成:60〜70%のSiO2、15〜25%のAl23、および5〜10%のP25を有する請求項1記載のガラス組成物。
【請求項3】
0から300℃の温度範囲に亘り5〜40×10-7/℃の線熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1記載のガラス組成物。
【請求項4】
約1650℃未満の溶融温度を有することを特徴とする請求項1記載のガラス組成物。
【請求項5】
800℃より高い歪み点を有することを特徴とする請求項1記載のガラス組成物。
【請求項6】
改質酸化物をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のガラス組成物。
【請求項7】
約2.5g/cm3未満の密度および約800℃より高い歪み点を示すアルミノホスホケイ酸塩ガラスであって、酸化物基準のモルパーセントで計算して、以下の組成::55〜80%のSiO2、12〜30%のAl23、および2〜15%のP25を有するガラス。
【請求項8】
約1650℃以下の溶融温度、透明無色の透明度、および8〜40×10-7/℃の線熱膨張係数を示すことを特徴とする請求項7記載のガラス。
【請求項9】
酸化物基準のモルパーセントで計算して、以下の組成::55〜80%のSiO2、12〜30%のAl23、および2〜15%のP25を有する、電子ディスプレイ装置のためのガラス基板。
【請求項10】
酸化物基準のバッチから、モルパーセントで計算したときに、以下の組成:60〜70%のSiO2、15〜25%のAl23、および5〜10%のP25を有する請求項9記載のガラス基板。

【図1】
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【公表番号】特表2007−516932(P2007−516932A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547540(P2006−547540)
【出願日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/043841
【国際公開番号】WO2005/066091
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】