説明

高温型燃料電池システムとその運転方法

【課題】省スペースかつ低コストで不活性ガスによる改質器及び燃料電池のパージを行なうことのできる高温型燃料電池システムおよびその緊急停止方法を提供する。
【解決手段】炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、改質ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する高温型燃料電池システムの緊急停止方法であって、緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させ、得られたスチームを改質器および高温型燃料電池のアノード室に供給して、改質器および高温型燃料電池のアノード室の内部をスチームでパージする工程を有する。上記高温型燃料電池システムであって、緊急停止時用水供給設備と、緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させる気化器と、気化器から得られたスチームを改質器および高温型燃料電池のアノード室に供給するラインとをさらに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物電解質形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell。以下場合によりSOFCという。)システムなどの高温型燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
SOFCシステムには、通常、灯油や都市ガスなどの炭化水素系燃料を改質して水素含有ガスとして改質ガスを発生させるための改質器と、改質ガスと空気を電気化学的に発電反応させるためのSOFCが含まれる。SOFCは通常、550〜1000℃の高温で作動させる。
【0003】
SOFCシステムの停止時には、改質器およびSOFCの燃料極室(アノード室)に供給されている改質ガス(可燃性ガス)を、引火しないガスと置換することが望まれる。また、改質器に備わる改質触媒およびアノード電極の酸化劣化を防止する観点から、改質器および燃料極室に不活性ガスを供給することが望ましい。
【0004】
特許文献1(特開平3−257762号公報)には、燃料電池システムの停止時に、置換ガスとして、窒素ガス供給設備より窒素ガスを供給し、改質器および燃料電池燃料極をパージする方法が開示される。
【0005】
また、特許文献2(特開2003−229149号公報)には、燃料電池システムの停止時に、置換ガスとして改質原料(都市ガス)を供給し、改質器および燃料電池燃料極をパージする方法が開示される。
【特許文献1】特開平3−257762号公報
【特許文献2】特開2003−229149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
置換ガスを窒素ガスとする場合、窒素ボンベなどの窒素ガス供給設備が必要となり、設置スペースを広く必要とし、また、窒素ボンベの交換・補充などのコストがかかる。
【0007】
置換ガスを改質原料とする場合、改質原料ガスを浪費することになり、投入原料に対する発電効率を低下させることになる。また、可燃ガスがシステム内に滞留することになるが、可燃性ガスが空気などの酸化剤と混合することも考えられ、このようなことは避けることが望ましい。また、改質触媒あるいは燃料電池本体が高温である場合、炭化水素原料が熱分解し、改質触媒上あるいは燃料電池燃料極上でコーキングし、性能を劣化させるおそれもある。
【0008】
以上のことは、SOFCシステムのみならず溶融炭酸塩型燃料電池システムにもあてはまることである。
【0009】
このように高温型燃料電池システムの停止に際しては検討すべき課題がある。特に、緊急停止時には、行ないうることが限られるため、省スペースかつ低コストで不活性ガスによる改質器及び燃料電池のパージを行なうことは困難であった。
【0010】
本発明の目的は、省スペースかつ低コストで不活性ガスによる改質器及び燃料電池のパージを行なうことのできる高温型燃料電池システムおよびその緊急停止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により、炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、該改質ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する高温型燃料電池システムの緊急停止方法であって、
緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させ、得られたスチームを改質器および高温型燃料電池のアノード室に供給して、改質器および高温型燃料電池のアノード室の内部をスチームでパージする工程
を有する高温型燃料電池システムの緊急停止方法が提供される。
【0012】
この方法において、前記緊急停止時用水供給設備が、加圧状態の水を収容した容器と、緊急停止時に開通する弁とを有することができる。。
【0013】
この方法において、前記緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させるために、蓄熱材を備える気化器を用いることができる。
【0014】
この方法において、前記高温型燃料電池システムが、前記緊急停止時用水供給設備とは別に、通常時用水供給設備を有することができる。
【0015】
この方法において、前記改質器が、水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒を備えることができる。
【0016】
本発明により、炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、該改質ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する高温型燃料電池システムであって、
緊急停止時用水供給設備と、
該緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させる気化器と、
該気化器から得られたスチームを改質器および高温型燃料電池のアノード室に供給するラインと
をさらに有する高温型燃料電池システムが提供される。
【0017】
このシステムにおいて、前記緊急停止時用水供給設備が、加圧状態の水を収容可能な容器と、緊急停止時に開通する弁とを有することができる。
【0018】
このシステムにおいて、前記気化器が蓄熱材を備えることができる。
【0019】
このシステムにおいて、前記高温型燃料電池システムが、前記緊急停止時用水供給設備とは別に、通常時用水供給設備を有することができる。
【0020】
このシステムにおいて、前記改質器が、水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒を備えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、省スペースかつ低コストで不活性ガスによる改質器及び燃料電池のパージを行なうことのできる高温型燃料電池システムおよびその緊急停止方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明において、高温型燃料電池システムは、炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、この改質ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する。
【0023】
緊急停止時においては、緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させ、得られたスチームを改質器および高温型燃料電池のアノード室に供給することにより、改質器および高温型燃料電池のアノード室の内部をスチームでパージする工程を行なう。
【0024】
このために、緊急停止時用水供給設備と、この緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させる気化器と、この気化器から得られたスチームを改質器および高温型燃料電池のアノード室に供給するラインとを有する高温型燃料電池システムを用いることができる。なお、このラインは、スチームを改質器とアノード室とに別々に供給可能である必要はなく、スチームを改質器およびアノード室に順次供給可能であってもよい。つまり、スチームを改質器に供給し、改質器から排出されるスチームをアノード室に供給することが可能なラインを用いることができる。
【0025】
以下、図面を用いて本発明の一形態について説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。ここではSOFC近傍に改質器を有する間接内部改質型SOFCを備えるSOFCシステムについて説明する。
【0026】
〔間接内部改質型SOFC〕
図1および2に、間接内部改質型SOFCシステムの一形態を模式的に示す。図1は通常時の状態を表し、図2は緊急停止時の状態を表す。
【0027】
間接内部改質型SOFCは、炭化水素系燃料を改質して改質ガス(水素含有ガス)を製造する改質器2、改質ガスを用いて発電を行うSOFC3、SOFCのアノード室から排出されるアノードオフガスを燃焼させる燃焼領域4を有し、また、改質器、SOFCおよび燃焼領域を収容する筐体5を有する。
【0028】
改質器は、改質触媒層2aを備える。また、アノードオフガスに着火するための着火手段であるイグナイター6が設けられている。
【0029】
間接内部改質型SOFCは、筐体(モジュール容器)5およびその内部に含まれる設備をいう。
【0030】
筐体内には、さらに緊急停止時用の気化器8が収容される。緊急停止時用気化器8には、蓄熱材8aが収容される。
【0031】
蓄熱材としては、使用環境に耐性を有し、蓄熱効果のある物質を適宜用いることができる。例えば、気化器を形成する容器内に、アルミナボール等のセラミックス材を充填することができる。
【0032】
なお、各供給流体は必要に応じて適宜予熱されたうえで改質器もしくはSOFCに供給される。
【0033】
図1に示すように、通常時(発電時など)には、炭化水素系燃料とスチームが改質器2、特には改質触媒層2aに供給される。このとき、水が通常時用水供給設備から気化器(通常時用気化器)1に供給され、通常時用気化器1からスチームが得られる。
【0034】
通常時用水供給設備には、水を継続して供給可能な設備を適宜用いることができる。ここでは、水道水配管に、緊急停止時に閉止する電磁弁11を接続し、通常時用水供給設備としている。流量調節弁(不図示)等も適宜用いられる。緊急停止時に閉止する弁としてここでは電磁弁を用いているが、その限りではなく、空気により駆動される弁などを用いることができる。この電磁弁として、電源供給が無くなったときに閉止する電磁弁を用いることができる。
【0035】
通常時用気化器1における熱源としては、システム内の高温ガスを適宜利用できる。ここではモジュール容器5から排出されるガスを用いている。
【0036】
また、炭化水素系燃料は適宜改質器に供給することができる。ここでは緊急停止時に閉止する電磁弁12を経由して炭化水素系燃料が改質器に供給される。炭化水素系燃料として灯油等の液体燃料を用いる場合は、炭化水素系燃料を適宜気化したうえで改質器に供給することができる。
【0037】
改質器において炭化水素系燃料が改質され、水素を含む改質ガスが得られる。改質器から得られた改質ガスがSOFC3、特にはそのアノード室に供給される。また、空気が適宜予熱されてSOFCのカソード室に供給される。
【0038】
アノードオフガス(アノードから排出されるガス)中の可燃分がSOFC出口の燃焼領域4において、カソードオフガス(カソードから排出されるガス)中の酸素によって燃焼される。このために、イグナイター6を用いて着火することができる。アノード、カソードともその出口がモジュール容器5内に開口している。燃焼ガスは、モジュール容器から排出され、適宜熱回収されて、システム外に排出される。
【0039】
通常時には、通常時用水供給設備のバルブ11および炭化水素系燃料供給用のバルブ12は開かれ、緊急停止時に用いるバルブ13は閉じられている。
【0040】
緊急停止時には、図2に示すように、バルブ11および12が閉じ、バルブ13が開く。通常時用の水および炭化水素系燃料の供給は停止され、緊急停止時用の水の供給が開始される。カソードガス(空気)の供給も停止される。
【0041】
緊急停止時用水供給設備は、加圧状態の水を収容可能な容器(緊急停止時用水タンク)7と、緊急停止時に開通する電磁弁13とを有する。緊急停止時用水タンク7には、水が圧入されている。バルブ13が開くと、その圧力によって、水が気化器8に供給される。このように水タンク内の圧力を利用して水を供給すれば、電源等の外部からのエネルギー供給が無くとも水供給が可能である。緊急停止時に開通する弁としてここでは電磁弁を用いているが、その限りではなく、空気により駆動される弁などを用いることができる。この電磁弁として、電源供給が無くなったときに開通する電磁弁を用いることができる。
【0042】
緊急停止時用水タンク内に水を圧力状態で収容するために、水を圧縮して緊急停止時用水タンクに入れておくことができる。また、窒素などの不活性ガスを、緊急停止時用水タンク内の一部もしくは水タンクに接続された容器(アキュムレータ)に圧縮して入れておいてもよい。あるいは、水道の圧力を利用して水を水タンクに圧入してもよい。水を緊急停止時用水タンクに圧入する水供給圧力が過剰な場合に備え、水タンクに脱圧弁を備えておいてもよい。これにより、圧力過剰なときに、脱圧弁により、系外へ脱圧することができる。
【0043】
さて、緊急停止時用気化器8には蓄熱材8aが収容されており、この蓄熱材に蓄えられた熱によって水が気化し、スチームが発生する。発生したスチームを改質器に導入することにより、改質器およびSOFCのアノード室にスチームを供給することができ、改質器および高温型燃料電池のアノード室の内部の、残留改質ガスおよび未反応燃料をパージすることが可能である。
【0044】
また、改質触媒が水蒸気改質反応を促進可能な触媒である場合、改質触媒上の残留未反応燃料に、スチームを供給することにより、未反応燃料の完全改質を促進し、未反応燃料をパージすることができる。これにより、改質触媒および改質器下流にある燃料電池のコーク析出による劣化を優れて防止することができる。
【0045】
改質器とSOFCに加えて、緊急停止時用気化器も一つのモジュール容器に収容されモジュール化される。改質器および緊急停止時用気化器はSOFCから受熱可能な位置に配される。例えば改質器および緊急停止時用気化器をSOFCからの熱輻射を受ける位置に配置すれば、発電時にSOFCからの熱輻射によって改質器および緊急停止時用気化器が加熱される。
【0046】
間接内部改質型SOFCにおいて、改質器および緊急停止時用気化器は、SOFCから改質器および緊急停止時用気化器の外表面へと直接輻射伝熱可能な位置に配することが好ましい。従って改質器とSOFCとの間、および緊急停止時用気化器とSOFCとの間には、実質的に遮蔽物は配置しないことが好ましい。つまり改質器とSOFCとの間、および緊急停止時用気化器とSOFCとの間は、空隙にすることが好ましい。また、改質器とSOFCとの距離、および緊急停止時用気化器とSOFCとの距離は、極力短くすることが好ましい。
【0047】
燃焼領域4において発生するアノードオフガスの燃焼熱によって、改質器2および緊急停止時用気化器8が加熱される。また、SOFCが改質器より高温である場合には、SOFCからの輻射熱によっても改質器が加熱され、SOFCが緊急停止時用気化器より高温である場合には、SOFCからの輻射熱によっても緊急停止時用気化器が加熱される。
【0048】
さらに、改質による発熱によって改質器が加熱される場合もある。改質が部分酸化改質である場合、あるいは自己熱改質(オートサーマルリフォーミング)の場合であって水蒸気改質反応による吸熱より部分酸化改質反応による発熱の方が大きい場合、改質に伴って発熱する。
【0049】
改質器2と気化器8とを一体化することもできる。例えば、一つの容器内の上流側に蓄熱材を収容し、下流側に改質触媒を収容することができる。
【0050】
上に説明した形態では、緊急停止時用水供給設備が、加圧状態の水を収容した容器と、緊急停止時に開通する電磁弁とを有する。この形態は、緊急停止時に、水供給のために外部からのエネルギー供給(電源など)が不要であるという観点から好ましい。
【0051】
上に説明した形態では、緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させるために、蓄熱材を収容した気化器を用いる。この形態は、緊急停止時に、水気化のために外部からのエネルギー供給(電源など)が不要であるという観点から好ましい。
【0052】
燃料電池が発電を行っている通常時に燃料電池が発生する熱を利用して蓄熱材に蓄熱することができる。蓄熱材は筺体内部に備えて、オフガス燃焼熱を利用しても良いし、燃料電池からの輻射伝熱を利用しても良い。また、蓄熱材は筺体内部に限られず、外部に熱交換器を備え、排ガスと熱交換により蓄熱する形態であってもよい。
【0053】
上に説明した形態では、高温型燃料電池システムが、緊急停止時用水供給設備とは別に、通常時用水供給設備を有する。また、水蒸気改質により改質ガスを得る場合について述べているが、水蒸気改質による水素源は、原料である炭化水素に含まれる水素分のみならず、水も水素源となるため、改質ガス中の水素濃度を高める点で好ましい。また、自己熱改質により改質ガスを得る場合においても同様である。
【0054】
上に説明した形態では、改質器が、水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒を収容する。この形態は、緊急停止時に、改質器内に残留する炭化水素系燃料の改質を行なうことができ、SOFCにおけるコーキングをより確実に防止することができるという観点から好ましい。
【0055】
水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒としては、水蒸気改質触媒や自己熱改質触媒を用いることができる。
【0056】
緊急停止時用水供給設備から供給する水の量を、改質器から排ガス出口(燃料電池システムから排ガスが排出される排気口)までの空間を十分にパージできる最小限の量とすることが、システム内での露結を防止する観点から、好ましい。上の形態では、緊急停止時用水タンク7に圧入しておく水の量を、この最小限の量とすることができる。
【0057】
上記十分にパージできる最小限の量としては、改質器容積、改質器からアノード室入口までの容積、アノード室容積、燃焼室(図1に示した形態において筐体内の燃焼ガスが流通可能な部分)容積、および燃焼室から排気口までの排ガスライン容積を合計した容積を採用することができる。この最小限の量は、構造物の容積から算出することができ、また、予備試験によりパージできる量をあらかじめ求めることができる。この最小限の量のスチームを発生可能なように、緊急停止時用水タンクに収容する水の量を決定することができる。
【0058】
加圧状態の水と言った場合の加圧状態とは、改質器および燃料電池電極室を大気圧にて使用する場合には、大気圧より高い圧力まで加圧した状態をさす。また、改質器あるいは燃料電池電極室、または両方を、大気圧よりも加圧して使用する場合には、その使用圧力よりも高い圧力まで昇圧した状態を指す。すなわち、パージされるべき部分の使用圧力よりも高い圧力を意味している。
【0059】
緊急停止時用の水供給圧(緊急停止時用水タンクから水が供給される際の吐出圧力)を燃料電池システムの耐圧以下とすることが、燃料電池システムの損傷防止の観点から好ましい。燃料電池システムの耐圧は、配管、配管接合部、燃料電池部材、筺体など燃料電池システムを構成する部材うちの最低耐圧を意味する。予備試験により各部材の耐圧を求めることができる。緊急停止時用の水供給圧を燃料電池システムの耐圧以下とするために、圧力制御装置により燃料電池システムの耐圧値以下に制御しながら水を加圧充填することができる。耐圧値以上で動作する安全弁を備えることが好ましい。
【0060】
通常時用水気化器については、図1および2に示した形態では筺体の外部にあるがこの限りではなく、筐体内部に備わっていてもよい。また、気化するのは水だけでなく、液体燃料を使用する場合、液体燃料も気化することができる。液体燃料の通常時用気化器は通常時用水気化器と別体であっても、一体であってもよい。また、通常時用水気化器は改質器と一体としてもよいし、別体であってもよい。
【0061】
水気化を必要としない原料を利用する場合(炭化水素系燃料がLPGやメタンのようなガス体で、かつ、部分酸化による改質を行う場合)については、通常時用水気化器は不要である。ただし、炭化水素系燃料を加湿する場合は、適宜気化器を用いて気化させてもよい。
【0062】
なお、緊急停止時は、例えば、燃料電池システム補機(原料供給系、制御系、測定系など)への電力の供給が停止した停電時や、システム内温度異常、制御異常、安全装置作動、地震などにより、制御が困難な状態や外部からのエネルギー供給されない状態で、通常の停止工程を行わず(行うことができず)、システムの運転を緊急に停止する状態のときを意味する。
【0063】
緊急停止時用水供給設備は、制御・外部からのエネルギー供給がなくても、独立して作動可能な水供給設備を意味する。
【0064】
「通常時」は、緊急停止時のような異常が発生していない状態で、手動あるいは自動での発電を行っている状態のときを意味する。この状態では燃料電池から電力と熱の供給が行われている。
【0065】
通常時用水供給設備は、例えば、水蒸気改質反応を行う場合の改質原料用の水を供給する設備を意味する。改質ガスを自己熱改質により得る場合にも適用可能である。他に、部分酸化改質を行なう場合において燃料を加湿するような場合にも適用可能である。
【0066】
蓄熱材は、通常時に受熱して、蓄熱できる材料を意味する。緊急停止時に水を気化させる観点、緊急停止時用気化器の容積を小さくする観点から、熱容量が大きいものが好ましい。
【0067】
〔筐体〕
間接内部改質型SOFCに用いる筐体(モジュール容器)としては、SOFC、改質器および燃焼領域を収容可能な適宜の容器を用いることができる。その材料としては、例えばステンレス鋼など、使用する環境に耐性を有する適宜の材料を用いることができる。容器には、ガスの取り合い等のために、適宜接続口が設けられる。
【0068】
モジュール容器の内部と外界(大気)とが連通しないように、モジュール容器が気密性を持つことが好ましい。
【0069】
〔燃焼領域〕
燃焼領域は、SOFCのアノードから排出されるアノードオフガスを燃焼可能な領域である。例えば、アノード出口を筐体内に開放し、アノード出口近傍の空間を燃焼領域とすることができる。酸素含有ガスとして例えばカソードオフガスを用いてこの燃焼を行なうことができる。このために、カソード出口を筐体内に開放することができる。
【0070】
燃焼用燃料もしくはアノードオフガスを燃焼させるために、イグナイターなどの着火手段を適宜用いることができる。
【0071】
以上、間接内部改質型SOFCシステムを例にとって説明したが、その限りではなく、外部改質型SOFCシステムにも本発明を適用することができる。
【0072】
また本発明は、高温型燃料電池に適用することができる。つまり、SOFCの他に溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)システムにも本発明を適用することができる。
【0073】
〔炭化水素系燃料〕
炭化水素系燃料としては、改質ガスの原料として高温型燃料電池の分野で公知の、分子中に炭素と水素を含む(酸素など他の元素を含んでもよい)化合物もしくはその混合物から適宜選んで用いることができ、炭化水素類、アルコール類など分子中に炭素と水素を有する化合物を用いることができる。例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、LPG(液化石油ガス)、都市ガス、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等の炭化水素燃料、また、メタノール、エタノール等のアルコール、ジメチルエーテル等のエーテル等である。
【0074】
なかでも灯油やLPGは、入手容易であり好ましい。また独立して貯蔵可能であるため、都市ガスのラインが普及していない地域において有用である。さらに、灯油やLPGを利用したSOFC発電装置は、非常用電源として有用である。特には、取り扱いも容易である点で、灯油が好ましい。
【0075】
〔改質器〕
改質器は、炭化水素系燃料から水素を含む改質ガスを製造する。
【0076】
改質器においては、水蒸気改質、部分酸化改質、および、水蒸気改質反応に部分酸化反応が伴うオートサーマルリフォーミングのいずれを行ってもよい。
【0077】
改質器には、水蒸気改質能を有する水蒸気改質触媒、部分酸化改質能を有する部分酸化改質触媒、部分酸化改質能と水蒸気改質能とを併せ持つ自己熱改質触媒を適宜用いることができる。
【0078】
改質器の構造は、改質器として公知の構造を適宜採用できる。例えば、密閉可能な容器内に改質触媒を収容する領域を有し、改質に必要な流体の導入口と改質ガスの排出口を有する構造とすることができる。
【0079】
改質器の材質は、改質器として公知の材質から、使用環境における耐性を考慮して適宜選んで採用できる。
【0080】
改質器の形状は、直方体状や円管状など適宜の形状とすることができる。
【0081】
炭化水素系燃料(必要に応じて予め気化される)および水蒸気、さらに必要に応じて空気等の酸素含有ガスをそれぞれ単独で、もしくは適宜混合した上で改質器(改質触媒層)に供給することができる。また、改質ガスは高温型燃料電池のアノードに供給される。
【0082】
〔高温型燃料電池〕
本発明は、燃料電池が高温で、その熱を通常運転時に蓄熱して緊急停止時に利用することができる、高温型燃料電池を備えるシステムに好適に適用することができる。このような燃料電池としては、SOFCやMCFCがある。
【0083】
SOFCとしては、平板型や円筒型などの各種形状の公知のSOFCから適宜選んで採用できる。SOFCでは、一般的に、酸素イオン導電性セラミックスもしくはプロトンイオン導電性セラミックスが電解質として利用される。
【0084】
MCFCについても、公知のMCFCから適宜選んで採用できる。
【0085】
SOFCやMCFCは単セルであってもよいが、実用上は複数の単セルを配列させたスタック(円筒型の場合はバンドルと呼ばれることもあるが、本明細書でいうスタックはバンドルも含む)が好ましく用いられる。この場合、スタックは1つでも複数でもよい。
【0086】
〔改質触媒〕
改質器で用いる水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒、自己熱改質触媒のいずれも、それぞれ公知の触媒を用いることができる。部分酸化改質触媒の例としては白金系触媒、水蒸気改質触媒の例としてはルテニウム系およびニッケル系、自己熱改質触媒の例としてはロジウム系触媒を挙げることができる。燃焼を促進可能な改質触媒の例としては白金系およびロジウム系触媒を挙げることができる。
【0087】
〔改質器の運転条件〕
以下、水蒸気改質、自己熱改質、部分酸化改質のそれぞれにつき、改質器における定格運転時および停止運転時の条件について説明する。
【0088】
水蒸気改質では、灯油等の改質原料にスチームが添加される。水蒸気改質の反応温度は例えば400℃〜1000℃、好ましくは500℃〜850℃、さらに好ましくは550℃〜800℃の範囲で行うことができる。反応系に導入するスチームの量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する水分子モル数の比(スチーム/カーボン比)として定義され、この値は好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5とされる。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は炭化水素系燃料の液体状態での流速をA(L/h)、触媒層体積をB(L)とした場合A/Bで表すことができ、この値は好ましくは0.05〜20h-1、より好ましくは0.1〜10h-1、さらに好ましくは0.2〜5h-1の範囲で設定される。
【0089】
自己熱改質ではスチームの他に酸素含有ガスが改質原料に添加される。酸素含有ガスとしては純酸素でも良いが入手容易性から空気が好ましい。水蒸気改質反応に伴う吸熱反応をバランスし、かつ、改質触媒層やSOFCの温度を保持もしくはこれらを昇温できる発熱量が得られるように酸素含有ガスを添加することができる。酸素含有ガスの添加量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する酸素分子モル数の比(酸素/カーボン比)として好ましくは0.005〜1、より好ましくは0.01〜0.75、さらに好ましくは0.02〜0.6とされる。自己熱改質反応の反応温度は例えば400℃〜1000℃、好ましくは450℃〜850℃、さらに好ましくは500℃〜800℃の範囲で設定される。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は、好ましくは0.05〜20、より好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.2〜5の範囲で選ばれる。反応系に導入するスチームの量は、スチーム/カーボン比として好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5とされる。
【0090】
部分酸化改質では酸素含有ガスが改質原料に添加される。酸素含有ガスとしては純酸素でも良いが入手容易性から空気が好ましい。反応を進めるための温度を確保するため、熱のロス等において適宜添加量は決定される。その量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する酸素分子モル数の比(酸素/カーボン比)として好ましくは0.1〜3、より好ましくは0.2〜0.7とされる。部分酸化反応の反応温度は、例えば450℃〜1000℃、好ましくは500℃〜850℃、さらに好ましくは550℃〜800℃の範囲で設定することができる。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜30の範囲で選ばれる。反応系においてすすの発生を抑制するためにスチームを導入することができ、その量は、スチーム/カーボン比として好ましくは0.1〜5、より好ましくは0.1〜3、さらに好ましくは1〜2とされる。
【0091】
〔他の機器〕
高温型燃料電池システムの公知の構成要素は、必要に応じて適宜設けることができる。具体例を挙げれば、液体を気化させる気化器、各種流体を加圧するためのポンプ、圧縮機、ブロワなどの昇圧手段、流体の流量を調節するため、あるいは流体の流れを遮断/切り替えるためのバルブ等の流量調節手段や流路遮断/切り替え手段、熱交換・熱回収を行うための熱交換器、気体を凝縮する凝縮器、スチームなどで各種機器を外熱する加熱/保温手段、炭化水素系燃料(改質原料)や燃焼用燃料の貯蔵手段、計装用の空気や電気系統、制御用の信号系統、制御装置、出力用や動力用の電気系統、燃料中の硫黄分濃度を低減する脱硫器などである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、例えば定置用もしくは移動体用の発電装置やコージェネレーションシステムに利用される高温型燃料電池システムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明を適用することのできる間接内部改質型SOFCシステムの概要を示す模式図であって、通常時の状態を説明するための図である。
【図2】本発明を適用することのできる間接内部改質型SOFCシステムの概要を示す模式図であって、緊急停止時の状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0094】
1 通常時用水気化器
2 改質器
2a 改質触媒層
3 SOFC
4 燃焼領域
5 筐体
6 イグナイター
7 緊急停止時用水タンク
8 緊急停止時用水気化器
8a 蓄熱材
11 バルブ(緊急停止時閉)
12 バルブ(緊急停止時閉)
13 バルブ(緊急停止時開)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、該改質ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する高温型燃料電池システムの緊急停止方法であって、
緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させ、得られたスチームを改質器および高温型燃料電池のアノード室に供給して、改質器および高温型燃料電池のアノード室の内部をスチームでパージする工程
を有する高温型燃料電池システムの緊急停止方法。
【請求項2】
前記緊急停止時用水供給設備が、加圧状態の水を収容した容器と、緊急停止時に開通する弁とを有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させるために、蓄熱材を備える気化器を用いる請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記高温型燃料電池システムが、前記緊急停止時用水供給設備とは別に、通常時用水供給設備を有する請求項1から3の何れか一項記載の方法。
【請求項5】
前記改質器が、水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒を備える請求項1から4の何れか一項記載の方法。
【請求項6】
炭化水素系燃料を改質して改質ガスを製造する改質器と、該改質ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する高温型燃料電池システムであって、
緊急停止時用水供給設備と、
該緊急停止時用水供給設備から供給した水を気化させる気化器と、
該気化器から得られたスチームを改質器および高温型燃料電池のアノード室に供給するラインと
をさらに有する高温型燃料電池システム。
【請求項7】
前記緊急停止時用水供給設備が、加圧状態の水を収容可能な容器と、緊急停止時に開通する弁とを有する請求項6記載の高温型燃料電池システム。
【請求項8】
前記気化器が蓄熱材を備える請求項6または7記載の高温型燃料電池システム。
【請求項9】
前記高温型燃料電池システムが、前記緊急停止時用水供給設備とは別に、通常時用水供給設備を有する請求項6から8の何れか一項記載の高温型燃料電池システム。
【請求項10】
前記改質器が、水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒を備える請求項6から9の何れか一項記載の高温型燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−224115(P2009−224115A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65846(P2008−65846)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】