説明

高温導電部材

【課題】固体酸化物形燃料電池の集電部材み使用可能な、表面電気伝導性の改善と、クロム被毒の防止を同時に改善したステンレス鋼部材を提供する。
【解決手段】Cr:11〜40質量%、Al:1〜6質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材とし、厚さ1〜200μm、Cr含有量0〜2質量%のニッケル被覆層を表層に持つ高温導電部材。この高温導電部材は、使用時において、ニッケル被覆層と基材の間に、ニッケル被覆層中のNiと基材中のAlの反応によって生じたNiAl、Ni3Alの少なくとも1種が存在する厚さ0.5〜50μmの中間層を有するものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、600〜800℃の高温域で電気伝導性、耐酸化性に優れ、かつ水蒸気環境でのクロムの溶出が抑制されるニッケル被覆フェライト系ステンレス鋼部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油を代表とする化石燃料の枯渇化、CO2排出による地球温暖化現象等の問題から、新しい発電システムの実用化が求められている。自動車等の動力源として使える発電システムとしては燃料電池がある。燃料電池にはいくつかの種類があるが、その中でも固体酸化物形燃料電池(SOFC)はエネルギー効率が高く、実用化が期待されている発電システムの一つである。
【0003】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の作動温度は従来1000℃程度と高く、その構成部材には主にセラミックスが使用されており、ステンレス鋼等の金属材料の使用は困難であった。しかし、近年になって固体電解質膜の改良により作動温度が600〜800℃程度まで引き下げられるようになった。これは金属材料の適用が可能な温度域である。
【0004】
このような低温作動形の固体酸化物形燃料電池(SOFC)では集電部材(セパレータ、インターコネクタ、集電板など)に金属材料を使用することがコスト面で有利である。そのような金属材料に要求される特性は、600〜800℃の温度域で良好な電気伝導性(30mΩ・cm2以下)、耐水蒸気酸化性、およびセラミックス系の固体酸化物と同等の低い熱膨張係数(常温〜800℃で13×10-6(1/K)程度)を十分満足することである。加えて、起動・停止を頻繁に繰り返す場合は耐熱疲労性も要求される。
【0005】
高Cr高Niオーステナイト系ステンレス鋼は耐水蒸気酸化性に優れる反面、熱膨張係数が高いため、自動車用途などでは頻繁な起動・停止での膨張・収縮の繰り返しによって酸化スケールが剥離しやすく、適用は困難である。一方、フェライト系ステンレス鋼はセラミックス系固体酸化物と同等の低い熱膨張係数を呈するため、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の構成部材には適している。
【0006】
特許文献1にはCr:11〜30%を含有するフェライト系ステンレス鋼からなる固体酸化物形燃料電池セパレータ用鋼が開示されている。この鋼は700〜950℃程度で良好な電気伝導性を有する酸化皮膜を形成させ、長時間の使用において良好な耐酸化性、耐スケール剥離性を有し、かつ電解質との熱膨張差が小さいという。
【0007】
しかし、ステンレス鋼は表面に形成される酸化皮膜が導電性に乏しいため、無垢材として固体酸化物形燃料電池の集電部材に適用した場合には接触抵抗が大きくなり、電池性能を向上させる上でマイナス要因となる。したがって、接触抵抗を低減させる手法を検討する必要が生じてきた。また、ステンレス鋼の表面に生成するスケールには鋼成分に由来するクロムが高濃度で含まれ、600〜800℃の水蒸気雰囲気に曝される固体酸化物形燃料電池のセパレータ環境では、このクロムが水蒸気と反応して蒸発し、固体酸化物を被毒してしまうという問題がある。このため、ある程度のクロム蒸発を許容して使用するか、あるいはステンレス鋼の表層に高価な銀などを塗布して使用するなどの方法に頼らざるを得ないのが実情である。
【0008】
クロムによる被毒を防止する手法としては、Alを含有するステンレス鋼を基材に使用することが有効であると考えられる(特許文献2、3)。しかし、固体酸化物形燃料電においては、製造段階で集電部材と固体酸化物とを接合するときや、実際の使用中に、部材が高温に加熱される。集電部材にAl含有ステンレス鋼を使用すれば、その加熱時にステンレス鋼表面に絶縁性のAl23が生成し、表面電気伝導性は一層低下してしまう。また、Al含有ステンレス鋼基材の表面に導電性皮膜(例えばAg)をコーティングしたとしても、加熱時に基材とコーティング層の間にAl23の酸化皮膜が生成されてしまい、切断端面からのクロム蒸発は防止できるものの、表面電気伝導性の改善には至らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−105503号公報
【特許文献2】特開2003−187828号公報
【特許文献3】特開2006−107936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような現状に鑑み、固体酸化物形燃料電池の集電部材(セパレータ、インターコネクタ、集電板)などの高温に曝される用途に十分対応できるような、表面電気伝導性の改善と、クロム被毒の防止を同時に改善したステンレス鋼部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、Cr:11〜40質量%、Al:1〜6質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材とし、厚さ1〜200μm、Cr含有量0〜2質量%のニッケル被覆層を表層に持つ高温導電部材によって達成される。この高温導電部材は、使用時において、ニッケル被覆層と基材の間に、ニッケル被覆層中のNiと基材中のAlの反応によって生じたNiAl、Ni3Alの少なくとも1種が存在する厚さ0.5〜50μmの中間層を有するものとなる。「高温導電部材」とは、600〜800℃の高温域で表面電気伝導性を呈するものをいう。
【0012】
基材のフェライト系ステンレス鋼としては、質量%で、C:0.1%以下、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Cr:11〜40%、N:0.1%以下、Al:1〜6%であり、必要に応じてさらにMo:4%以下、W:4%以下、Nb:0.8%以下、Ti:0.5%以下、Cu:2%以下、Zr:0.5%以下、V:0.5%以下、Ta:0.5%以下、Ni:2%以下の1種以上、あるいはさらにY:0.1%以下、REM(希土類元素):0.1%以下、Ca:0.01%以下、B:0.01%以下、Mg:0.01%以下の1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するものが挙げられる。
【0013】
前記ニッケル被覆層には、Cr含有量が0〜2質量%である限り、Fe、Co、Ti、Nb、Zr、Ta、V、P、B、Mo、Wの1種以上を合計30質量%以下の範囲で含有してもよい。これらの含有元素の残部はNiおよび不可避的不純物である。
【0014】
また、この高温導電部材は、形状が板状であり、ニッケル被覆層に覆われていない端面部分を有する構造とすることができる。例えば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の集電部材が好適な対象となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温で良好な電気伝導性および耐水蒸気酸化性を有し、コーティングに銀のような高価な金属を用いることなしに、無垢のステンレス鋼またはプレコーティング材で製造したセパレータ等で生じるクロム蒸発(被毒)の問題を解決した高温導電板を提供することができる。例えばこの導電板を固体酸化物形燃料電池の集電部材に適用することにより、集電部材の耐久性向上、電池の性能向上、環境問題の改善が見込まれ、燃料電池の普及につながるものと期待される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、基材にAl含有フェライト系ステンレス鋼を用いる。その基材表面にニッケル被覆層を形成させる。ニッケル被覆層を有する基材を高温に加熱して拡散処理する。基材に含まれるAlとニッケル被覆層のNiが反応して、基材とニッケル被覆層の間にNiAlまたはNi3Alの金属間化合物を含む中間層が形成される。NiAlおよびNi3Alは600〜800℃で導電性を有することから、フェライト系ステンレス鋼基材と当該中間層とニッケル被覆層で構成された部材は、高温導電部材となる。これらの金属間化合物は非常に安定であり、基材側からニッケル被覆層側へのCrの拡散を防止することで表面からのCrの蒸発が抑えられる。材料の高温酸化が進行した場合でもNiAl、Ni3Alは中間層として残存するか、あるいは一部がNiAl24のスピネル型酸化物となって中間層を構成する。このNiAl24は導電物質であるから、表面電気伝導性は維持される。また、基材のステンレス鋼が素材鋼帯の状態にあるときに、連続ラインを用いてニッケル被覆層を形成することができる(プレコート)。このため、所定形状に成形された後に個々の部材にコーティングを施す場合(ポストコート)と比較して、製造性が格段に向上する。プレコートの場合は部材に加工する段階で切断端面に鋼素地露出部(ニッケル被覆層の無い部分)が形成されるが、鋼中に含有されるAlが酸化され、鋼素地露出部は安定なAl23の皮膜で覆われるため、この部分からのクロム蒸発も防止される。
【0017】
NiAl、Ni3Alの1種以上が存在する中間層は、これらの金属間化合物が皮膜状、針状または粒状に形成されている層である。中間層の厚さは0.5μm以上であることが必要であり、1μm以上の厚さであることがより好ましい。ただし、過剰に厚くなると材料の硬化、脆化を招くので、中間層の厚さは50μm以下であることが望ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0018】
上記のような中間層を十分に生成させるためには、ニッケル被覆層の平均厚さを1μm以上とすることが必要であり、2μm以上とすることがより好ましい。欠陥の少ないニッケル被覆層とするためには平均厚さ5μm以上とすることが効果的である。ただしニッケル被覆層が過剰に厚くなると基材とニッケル被覆層との間に熱膨張差による応力が発生し、起動・停止を繰り返す際に、両者の間にボイドが発生しやすくなり、被覆層が剥離する要因となる。種々検討の結果、ニッケル被覆層の平均厚さは200μm以下であることが望ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0019】
ニッケル被覆層中のCr含有量は0〜2質量%とする必要がある。それよりCr含有量が多くなると電池セルへのCrの拡散または蒸発が問題となる。ニッケル被覆層中にはその他の元素として、Fe、Co、Ti、Nb、Zr、Ta、V、Mo、Wの1種以上を含有させることができる。これらの金属元素はニッケル被覆層の耐酸化性、耐スケール剥離性を高める作用を有する。また、基材側へこれらの元素が拡散し、界面および粒界に金属間化合物を形成させることにより電気伝導度を高める効果もある。また、ニッケル被覆層中にはP、Bが含まれていてもよい。P、Bは特に無電解ニッケルめっきまたはニッケルろうとしてニッケル被覆層を形成させる場合に有効な添加元素となる。すなわち無電解めっきの場合はニッケルめっき浴の還元剤として、また、ろう付けの場合はろう材の融点を下げるための元素として添加される。種々検討の結果、ニッケル被覆層中に含有されるこれらFe、Co、Ti、Nb、Zr、Ta、V、P、B、Mo、Wの1種以上の合計含有量は30質量%以下とすることが望ましい。
【0020】
ニッケル被覆層の形成方法は、Al含有フェライト系ステンレス鋼の表面に電気ニッケルめっきを施す手法が採用できる他、無電解ニッケルめっき法、ニッケルろうを被覆する方法、ニッケルまたはニッケル基合金の板または箔をクラッド法により被覆する方法 など、種々の手法が適用できる。クラッド法の場合は、単層の被覆に限らず、例えばニッケル箔、鉄箔、チタン箔を(ニッケル箔の厚さ)/(ニッケル箔、鉄箔およびチタン箔の合計厚さ)が0.7以上となるような多重層クラッド処理としても構わない。
【0021】
NiAlまたはNi3Alの金属間化合物を含む中間層を形成させるための拡散処理は、700〜1200℃で1〜3600分保持する加熱条件が適用できる。この加熱は、固体酸化物形燃料電池の製造段階で集電部材と固体酸化物を接合させるための熱処理や、燃料電池の装置立ち上げ時の稼働による加熱によって兼ねることができる。ただし、大気中での加熱の場合、鋼中のAlが酸化されやすく、NiAlあるいはNi3Alの金属間化合物が形成されるよりも先にAl23が形成されることがあるので、特にニッケル被覆層の厚さが薄い場合には注意が必要である。したがって無酸化または還元雰囲気中での加熱が望ましく、例えば20体積%以上の水素を含み残部が不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴン)からなり、露点が−20℃以下である還元雰囲気が好適である。
【0022】
ステンレス鋼基材の成分組成は例えば以下の範囲とすることが望ましい。以下、基材の成分組成における「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
C、Nは、基材ステンレス鋼の高温強度、特にクリープ特性を改善する元素であるが、フェライト系ステンレス鋼に過剰添加すると加工性、低温靱性を低下させる。また、Ti、Nbとの反応によって炭窒化物を生成しやすく、高温強度の改善に有効な固溶Tiや固溶Nbを減少させる。検討の結果、本発明の対象鋼はC、Nともにそれぞれ0.1%以下であることが好ましい。
【0023】
Siは、Cr系酸化物を安定化させる作用を有し、耐水蒸気酸化性の向上に有効である。しかし、過剰のSi含有は、表層に電気抵抗の高いSiO2を生成させる要因となる。また、低温靱性の低下、表面疵の発生、製造性の低下を招く要因となる。Si含有量は1.5%以下の範囲とすることが望ましい。
【0024】
Mnは、フェライト系ステンレス鋼の耐スケール剥離性を改善する作用を有するが、過剰のMn含有は鋼を硬質化し、加工性、低温靱性を低下させる要因となる。Mn含有量は1.5%以下の範囲とすることが望ましい。
【0025】
Pは、0.1%までの含有が許容される。
Sは、熱間加工性、耐溶接高温割れ性に悪影響を及ぼし、また異常酸化の起点にもなるので、0.01%以下とすることが望ましい。
【0026】
Crは、ステンレス鋼に必要な耐食性、耐酸化性、電気伝導性を付与するうえで必要な合成成分である。600℃前後での耐水蒸気酸化性および良好な電気伝導性を確保するためには、11%以上のCr含有量が必要である。特に水蒸気雰囲気に曝される場合の耐久性を重視する場合、15%以上のCr含有量を確保することがより好ましい。ただし、40%を超えるCr含有はフェライト系ステンレス鋼の加工性の低下、低温靭性の低下および475℃脆化感受性の増大を招く。したがって、Cr含有量は40%以下とし、35%以下とすることがより好ましい。
【0027】
Alは、ステンレス鋼の鋼素地表面にAl23酸化皮膜を形成させる合金元素である。このAl23皮膜は耐高温酸化性の顕著な向上をもたらすとともに、特に固体酸化物形燃料電池の集電部材では切断端面で剥き出しとなっている鋼素地からのクロム蒸発を抑止する上で極めて有効に機能する。また、本発明では基材とニッケル被覆層との間にNiAl、Ni3Alの金属間化合物を形成させるためのAl源として、基材中のAlは極めて重要である。前述のとおり、このれらの金属間化合物は部材表面の高温導電性を顕著に改善させる。これらの作用を十分に発揮させるためにはフェライト系ステンレス鋼基材のAl含有量は1%以上とする必要がある。しかし、過剰のAl含有は鋼の加工性・靱性を低下させ、また製造性を損なう要因となる。種々検討の結果、Al含有量は6%以下の範囲に制限される。
【0028】
Mo、Wは、固溶強化により、Cuは固溶強化または析出強化により、高温強度および耐熱疲労特性を向上させる元素であり、これらの1種以上を必要に応じて添加することができる。特にスタックに積層することによるクリープ強度、起動・停止の繰り返しによる熱疲労特性が問題となる用途ではこれらの元素の添加が有効である。Mn、W、Cuとも、0.1%以上の含有量を確保することがより効果的である。ただし、これらの元素の含有量が多くなると鋼が硬質化するので、これらの1種以上を含有させる場合は、Mn、Wはいずれも4%以下、Cuは2%以下の含有量範囲とする。
【0029】
Nb、Ti、Zr、V、Taは、固溶強化または析出強化によりフェライト系ステンレス鋼の高温強度を更に向上させる元素であり、必要に応じてこれらの1種以上を含有させることができる。これらいずれの元素も、0.03%以上の含有量とすることがより効果的である。ただし、過剰の含有は鋼を硬質化させるので、これらの1種以上を含有させる場合は、Nbは0.8%以下、Ti、Zr、V、Taはいずれも0.5%以下の含有量範囲とする。
【0030】
Y、REM(希土類元素)、Caは、酸化皮膜中に固溶し、酸化皮膜の強化および耐酸化性の向上に有効な元素であり、本発明ではこれらの1種以上を必要に応じて含有させることができる。それらの作用を十分に発揮させるためには、Y、REM、Caとも0.0005%以上の含有量とすることがより効果的である。ただし、これらの元素は鋼を硬化させ、また表面疵の原因ともなるので、これらの1種以上を含有させる場合は、Y、REMはそれぞれ0.1%以下、Caは0.01%以下の含有量範囲とする。
【0031】
B、Mgはステンレス鋼の熱間加工性を向上させる元素であり、本発明ではこれらの1種以上を必要に応じて含有させることができる。Bは0.0002%以上、Mgは0.0005%以上の含有量を確保することがより効果的である。ただし、過剰の含有は逆に熱間加工性を低下させるので、これらの1種以上を含有させる場合は、B、Mgとも0.01%以下の含有量範囲とする。
【0032】
鋼中には製鋼工程において混入されるNiは2%まで許容されるが、0.6%以下であることがより好ましい。その他の混入元素として、Oは0.02%以下、Reは2%以下、Snは1%以下、Coは2%以下、Hfは1%以下、Scは0.1%以下の含有量範囲に抑えるように管理する。
【実施例1】
【0033】
表1に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を溶製し、熱間圧延、焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍、酸洗を経て板厚1.5mmの基材鋼板とした。
【0034】
【表1】

【0035】
各基材鋼板の表面(両面)に電気ニッケルめっきを施した。めっき浴は、硫酸ニッケル約300g/L、塩化ニッケル約50g/L、ホウ酸約40g/L、60℃の水溶液とし、陰極電流密度2〜10A/dm2の範囲で変化させることにより、Niめっき付着量を調整した。このようにして得られたニッケルめっき層は、Ni純度が99.6質量%であり、不可避的不純物としてFe、Coが含まれていた。
【0036】
〔接触抵抗試験〕
得られたニッケルめっき鋼板から20×20mmの試験片を切り出し、試験片の両面に銀ペーストを塗布したのち、両側から直径18mmのLa0.6(Sr)0.4MnO3固体酸化物ペレットで挟み、99.95%アルゴン雰囲気中、900℃×2時間の加熱を行って試験片とペレットを接合させた。この加熱は基材とニッケル被覆層の間にNiAl、Ni3Al金属間化合物の中間層を形成させるための拡散処理を兼ねている。得られた試料の固体酸化物ペレットの両側に電流供給用の白金メッシュ電極を配置して、白金電極/固体酸化物/銀層/ニッケルめっき鋼板/銀層/固体酸化物/白金電極の積層体とし、この積層体を水平盤状に置いて、試料上部に重錘を載せることによって、固体酸化物とニッケルめっき鋼板の間の面圧が0.2MPaとなるようにセットし、白金電極間に10mAの定電流が流れるように電圧を印加した。この状態で積層体を炉に装入し、大気中800℃に保持して、保持時間が1時間、および100時間における800℃での白金電極間の電気抵抗を測定し、電気抵抗率(面積抵抗率)に換算した。この条件で電気抵抗率の値が30mΩ・cm2以下であれば、固体酸化物形燃料電池の集電材料として実用に供しうる性能を有していると判断されるので、電気抵抗率30mΩ・cm2以下のものを高温導電性;○(良好)、それ以外を高温導電性;×(不良)と評価した。
【0037】
測定後に試料の中央部を切断し、断面をバフ研磨した後に、フッ酸、硝酸、グリセリンを調合したエッチング液でエッチングすることにより基材とNi被覆層との間に中間層が形成されていることを確認し、その中間層の平均厚さを測定した。また、中間層にNiAl、Ni3Alの1種以上が存在するかどうかを、X線回折装置(株式会社リガク社製;RINT2500)により調べた。NiAl、Ni3Alの1種以上が存在する平均厚さ0.5μm以上の中間層が認められるものを中間層の構造;○(良好)、NiAl、Ni3Alのいずれも検出されないか、あるいはその存在領域の平均厚さが0.5μm未満であるものを中間層の構造;×(不良)と評価した。なお、○評価のものはいずれも中間層の平均厚さは50μm以下の範囲に収まっていた。
【0038】
〔水蒸気酸化試験〕
上記のニッケルめっき鋼板から25×50mmの試験片を切り出した。固体酸化物形燃料電池のセパレータが曝される環境を想定し、50体積%H2+残部空気となるように水蒸気濃度を調整した雰囲気ガスを300mL/分の速度で流した石英管の中に試験片を入れ、800℃×300時間の高温水蒸気酸化試験を行った。雰囲気ガスの流路は石英管、パイレックス(登録商標)、テフロン(登録商標)で構成されており、雰囲気ガスは系外に放出される前に一旦室温で凝縮させ結露水を捕集できるようになっている。試験片は一度の試験につき2枚を供し、試験中100時間ごとに凝縮水を採取し、その凝縮水中の6価クロム濃度を定量下限0.01ppmのICP発光分光分析装置を用いて測定した。0〜100時間、100〜200時間、200〜300時間のいずれの凝縮水を測定した結果においても6価クロム濃度が定量下限の0.01ppm以下であったものを耐クロム蒸発性;○(良好)、それ以外を耐クロム蒸発性;×(不良)と評価した。
これらの結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2からわかるように、本発明例のものはいずれも800℃での表面電気伝導性が良好であり、かつクロム蒸発による被毒の問題も回避できることが確かめられた。
【0041】
これに対し、比較例No.4、15、19はニッケル被覆層の平均厚さが薄すぎたことにより基材とニッケル被覆層の間にはAl23が優先的に形成され、NiAl、Ni3Alが形成されなかった。そのため、高温導電性は改善されなかった。No.22〜26は基材鋼板のAl含有量が少ないため、基材とニッケル被覆層の間に絶縁性のAl23が形成されることによる高温導電性の低下は回避されたが、凝縮液から六価クロムが検出された。これは、切断端面の鋼素地露出部がAl23により十分に被覆されなかったことによるものと考えられる。
【実施例2】
【0042】
表3に示すニッケル基合金を溶製し、板厚0.3mmの冷延焼鈍酸洗板とし、150×5500mmのニッケル基合金試料を得た。一方、表1の鋼Hを用いた板厚1.5mmの基材鋼板から150×500mmの基材試料を得た。2枚のニッケル基合金試料の間に1枚の基材鋼板を挟んで、端面を溶接接合したサンドイッチ状積層板(板厚2.1mm)を作製し、これを冷間圧延して板厚0.7mmとし、その後、75%水素−25%窒素雰囲気中で1000℃×均熱10分の拡散焼鈍を施し、クラッド供試材とした。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例1のニッケルめっき鋼板に代えて、上記のクラッド供試材を使用したことを除き、実施例1と同様の手法で高温導電性、中間層の構造および耐クロム蒸発性を評価した。その結果、いずれもニッケル被覆層の片面あたりの平均厚さは80〜120μmの範囲にあった。本発明例のものはいずれもNiAl、Ni3Alの1種以上が存在する平均厚さ1〜50の中間層の形成が認められ、800℃での高温導電性も良好で、かつ耐クロム蒸発性も良好であった。これに対し、Cr量が高いニッケル被覆層を形成させたNo.hのものでは、凝縮水中の6価クロム濃度が0.01ppmを超える結果となり、本用途には不適であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr:11〜40質量%、Al:1〜6質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材とし、厚さ1〜200μm、Cr含有量0〜2質量%のニッケル被覆層を表層に持つ高温導電部材。
【請求項2】
ニッケル被覆層と基材の間に、ニッケル被覆層中のNiと基材中のAlの反応によって生じたNiAl、Ni3Alの少なくとも1種が存在する厚さ0.5〜50μmの中間層を有する請求項1に記載の高温導電部材。
【請求項3】
基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、C:0.1%以下、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Cr:11〜40%、N:0.1%以下、Al:1〜6%、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する請求項1または2に記載の高温導電部材。
【請求項4】
基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、さらにMo:4%以下、W:4%以下、Nb:0.8%以下、Ti:0.5%以下、Cu:2%以下、Zr:0.5%以下、V:0.5%以下、Ta:0.5%以下、Ni:2%以下の1種以上を含有するものである請求項3に記載の高温導電部材。
【請求項5】
基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、さらにY:0.1%以下、REM(希土類元素):0.1%以下、Ca:0.01%以下、B:0.01%以下、Mg:0.01%以下の1種以上を含有するものである請求項3または4に記載の高温導電部材。
【請求項6】
ニッケル被覆層中にFe、Co、Ti、Nb、Zr、Ta、V、P、B、Mo、Wの1種以上を合計30質量%以下の範囲で含有し、Cr含有量は0〜2質量%である請求項1〜5に記載の高温導電部材。
【請求項7】
当該部材が板状部材であり、ニッケル被覆層に覆われていない端面部分を有する請求項1〜6のいずれかに記載の高温導電部材。
【請求項8】
当該部材が固体酸化物形燃料電池(SOFC)の集電部材である請求項1〜7のいずれかに記載の高温導電部材。

【公開番号】特開2010−236012(P2010−236012A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84872(P2009−84872)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】