説明

高炉スラグコンクリート用混和剤及び高炉スラグコンクリートの調製方法

【課題】水/セメント比の大きな低乃至中強度の高炉スラグコンクリートにおいては、スランプロスが少なく、しかもブリーディング水の発生も少なく、また水/セメント比の小さな高強度の高炉スラグコンクリートにおいては、高炉スラグコンクリートの粘性を小さく抑えて高流動性のものを得ることができる高炉スラグコンクリート用混和剤及びこれを用いた高炉スラグコンクリートの調製方法を提供する。
【解決手段】比較的広範囲の高炉セメントの単位量及び水/セメント比とした高炉スラグコンクリート用の混和剤として、特定の水溶性ビニル共重合体と特定のポリアルキレンオキサイド付加物とを特定割合で含有するものを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炉スラグコンクリート用混和剤及び高炉スラグコンクリートの調製方法に関する。近年、副産物の有効利用、省資源、省エネルギー、地球温暖化炭酸ガスの削減等の観点から、製鉄所から副産する高炉水砕スラグの微粉末と普通ポルトランドセメントとを混合した高炉セメントの重要性が、コンクリートの製造において益々高まっている。しかしながら、一般に高炉セメントを用いて製造する高炉スラグコンクリートは、ポルトランドセメントを用いて製造するコンクリートに比べて、1)水/セメント比の大きな低乃至中強度の高炉スラグコンクリートを調製する場合、練り混ぜ後の流動保持性の低下(以下、スランプロスという)が著しく、しかもブリーディング水が多い、2)逆に水/セメント比の小さな高強度の高炉スラグコンクリートを調製する場合、高炉スラグコンクリートの粘性が大きくて作業性が悪い、等の問題を抱えている。本発明はかかる問題を同時に解決することができる高炉スラグコンクリート用混和剤及びこれを用いた高炉スラグコンクリートの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調製したコンクリートのスランプ保持性の向上、ブリーディング水の発生の抑制、コンクリートの粘性低下等、コンクリートの諸物性を改善するために、各種のセメント分散剤や混和剤が提案されている(例えば特許文献1〜6参照)。しかし、従来の提案では、広範囲の水/セメント比のコンクリートの諸性質を同時に且つ充分に改善することができず、とりわけ広範囲の水/セメント比の高炉スラグコンクリートに対して改善程度が不充分という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−74552号公報
【特許文献2】特開平1−226757号公報
【特許文献3】特開2005−132669号公報
【特許文献4】特表2006−525938号公報
【特許文献5】再公表特許WO2007/086507号公報
【特許文献6】特開2009−161379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、水/セメント比の大きな低乃至中強度の高炉スラグコンクリートにおいては、スランプロスが少なく、しかもブリーディング水の発生も少なく、また水/セメント比の小さな高強度の高炉スラグコンクリートにおいては、高炉スラグコンクリートの粘性を小さく抑えて高流動性のものを得ることができる高炉スラグコンクリート用混和剤及びこれを用いた高炉スラグコンクリートの調製方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、比較的広範囲の高炉セメントの単位量及び水/セメント比とした高炉スラグコンクリート用の混和剤として、特定の水溶性ビニル共重合体と特定のポリアルキレンオキサイド付加物とを特定割合で含有するものが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、高炉セメントの単位量が280〜900kg/mであり、且つ水/セメント比が20〜60%である高炉スラグコンクリート用の混和剤であって、下記のA成分とB成分とから成り、且つA成分を50〜98質量%及びB成分を2〜50質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とする高炉スラグコンクリート用混和剤に係る。
【0007】
A成分:分子中に下記の構成単位Cを45〜85モル%、下記の構成単位Dを15〜55モル%及び下記の構成単位Eを0〜5モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量5000〜100000の水溶性ビニル共重合体。
【0008】
構成単位C:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる1つ又は2つ以上
構成単位D:分子中に7〜150個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位E:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
【0009】
B成分:下記の化1で示される質量平均分子量が2000〜18000のポリアルキレンオキサイド付加物。
【0010】
【化1】

【0011】
化1において、
:炭素数3〜6の脂肪族炭化水素基
:分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成され且つオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=20/80〜80/20(モル%)の割合で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
【0012】
また本発明は、前記の本発明に係る高炉スラグコンクリート用混和剤を、高炉セメント100質量部当たり0.1〜2質量部の割合となるよう用いることを特徴とする高炉スラグコンクリートの調製方法に係る。
【0013】
先ず、本発明に係る高炉スラグコンクリート用混和剤(以下、本発明の混和剤という)について説明する。本発明の混和剤は、A成分とB成分とから成るものである。
【0014】
A成分は、分子中に構成単位Cを45〜85モル%、構成単位Dを15〜55モル%及び構成単位Eを0〜5モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量5000〜100000の水溶性ビニル共重合体であり、好ましくは構成単位Cを50〜80モル%、構成単位Dを20〜50モル%及び構成単位Eを0〜3モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量10000〜80000の水溶性ビニル共重合体である。本発明において、A成分の水溶性ビニル共重合体の質量平均分子量はGPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法、以下同じ)で測定したプルラン換算の質量平均分子量である。
【0015】
構成単位Cはメタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上である。具体的には、1)メタクリル酸から形成された構成単位、2)メタクリル酸塩から形成された構成単位、3)メタクリル酸から形成された構成単位とメタクリル酸塩から形成された構成単位の双方が挙げられる。ここで、メタクリル酸塩から形成された構成単位としては、イ)メタクリル酸のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩から形成された構成単位、ロ)メタクリル酸のジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩から形成された構成単位が挙げられるが、なかでもメタクリル酸のアルカリ金属塩から形成された構成単位が好ましく、メタクリル酸のナトリウム塩から形成された構成単位がより好ましい。
【0016】
構成単位Dは分子中に7〜150個のオキシエチレン単位、好ましくは15〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位である。
【0017】
構成単位Eは(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上である。(メタ)アリルスルホン酸塩の塩の種類については構成単位Cのメタクリル酸塩について前記したことと同様であるが、なかでもメタリルスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。
【0018】
以上説明したA成分の水溶性ビニル共重合体自体は公知の方法で合成できる。これには例えば、特開昭58−74552号公報や特開平1−226757号公報等に記載されている方法が挙げられる。
【0019】
B成分は、化1で示されるポリアルキレンオキサイド付加物である。化1中のRは、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、またこれらの異性体等、炭素数3〜6の脂肪族炭化水素基であるが、なかでも炭素数4のブチル基が好ましい。
【0020】
また化1中のAは、分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成され且つオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=20/80〜80/20(モル%)の割合で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基であるが、分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成され且つオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=30/70〜70/30(モル%)の割合で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基が好ましい。
【0021】
B成分の化1で示されるポリアルキレンオキサイド付加物それ自体は炭素数3〜6の低級脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを前記の比率で付加させる公知の方法で合成できる。その場合、オキシエチレン基とオキシプロピレン基の結合様式はブロック状であってもランダム状であってもかまわないが、ランダム状が好ましい。またB成分の化1で示されるポリアルキレンオキサイド付加物の質量平均分子量はGPC法で測定したポリスチレン換算で2000〜18000の範囲とするが、3000〜15000の範囲とするのが好ましい。本発明において、B成分のポリアルキレンオキサイド付加物の質量平均分子量はGPC法で測定したポリスチレン換算の質量平均分子量である。以上説明したB成分は、高炉セメントの粒子表面に濡れ性と潤滑性を付与し、主に高炉セメント粒子の分散剤として作用するA成分と併用したときに相乗効果として練り混ぜ性を大きく助長し、更には凝結遅延性を小さくする効果も加わって、材齢7日までの初期強度の発現性に優れるという特長を有する。
【0022】
以上説明した本発明の混和剤は、前記したA成分とB成分とから成り、A成分を50〜98質量%及びB成分を2〜50質量%(合計100%)、好ましくはA成分を60〜95質量%及びB成分を5〜40質量%(合計100%)の割合で含有して成るものである。A成分及びB成分がかかる割合から外れると、水/セメント比の大きな高炉スラグコンクリートの場合にスランプロスが大きく、またブリーディング水の発生も多くなり、逆に水/セメント比の小さな高炉スラグコンクリートの場合に高炉スラグコンクリートの粘性が高くなって、どちらの場合も作業性の優れた高流動性の高炉スラグコンクリートを調製することが難しくなる。
【0023】
本発明の混和剤は、セメントとして普通ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末とを混合した高炉セメントを用いた高炉スラグコンクリートの調製に用いる。かかる高炉セメントとしては、高炉セメントA種、高炉セメントB種、高炉セメントC種、更には高炉スラグ微粉末をより高い比率で含有する特殊高炉セメントが挙げられるが、なかでも高炉セメントB種又は高炉セメントC種を用いるのが好ましい。
【0024】
かかる高炉セメントを使用する場合には、高炉スラグコンクリート中の高炉セメントの単位量が280〜900kg/m、好ましくは300〜800kg/mとなり、また水/セメント比が20〜60%、好ましくは25〜55%となるように使用する。
【0025】
次に、本発明に係る高炉スラグコンクリートの調製方法(以下、本発明の調製方法という)について説明する。本発明の調製方法は、前記した本発明の混和剤を、高炉セメント100質量部当たり0.1〜2質量部、好ましくは0.2〜0.8質量部の割合となるよう用いることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の混和剤の使用方法としては、高炉スラグコンクリートの調製時に混ぜ水と一緒に添加する方法、練り混ぜ後の高炉スラグコンクリートに後から添加する方法等が挙げられる。
【0027】
本発明の混和剤の使用に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて空気連行剤、消泡剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、防錆剤、防水剤等の添加剤を併用することができる。かかる添加剤の使用方法としては、高炉スラグコンクリートの調製時に練り混ぜ水と一緒に添加する方法、練り混ぜ後の高炉スラグコンクリートに後添加する方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、水/セメント比の大きな高炉スラグコンクリートでは、スランプロスを抑えると同時にブリーディング水の発生をも抑えて、作業性に優れた均質なコンクリートを製造することができ、その一方で、水/セメント比の小さな高炉スラグコンクリートでは、高炉スラグコンクリートの粘性を低く抑えて、作業性の優れた高流動性のコンクリートを調製することができる。本発明によると、水/セメント比の広い範囲で、流動性及び作業性の優れた高品質の高炉スラグコンクリートを調製できるのである。
【0029】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0030】
試験区分1(A成分等としての水溶性ビニル共重合体の合成)
・水溶性ビニル共重合体(a−1)の合成
メタクリル酸60g(0.7モル)、メトキシポリ(オキシエチレン単位が23個、以下n=23とする)エチレングリコールメタクリレート300g(0.27モル)、メタリルスルホン酸ナトリウム5g(0.03モル)、3−メルカプトプロピオン酸3g及び水490gを反応容器に仕込んだ後、48%水酸化ナトリウム水溶液58gを加え、攪拌しながら部分中和して均一に溶解した。反応容器内の雰囲気を窒素置換した後、反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液25gを加えてラジカル重合反応を開始し、5時間反応を継続して反応を終了した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液23gを加えて反応物を完全中和し、水溶性ビニル共重合体(a−1)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(a−1)を分析したところ、メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位/メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位/メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位=70/27/3(モル%)の割合で有する質量平均分子量35500の水溶性ビニル共重合体であった。
【0031】
水溶性ビニル共重合体(a−2)、(a−3)及び(ar−1)〜(ar−3)の合成
水溶性ビニル共重合体(a−1)と同様にして、水溶性ビニル共重合体(a−2)、(a−3)及び(ar−1)〜(ar−3)を合成した。以上で合成したA成分等としての水溶性ビニル共重合体の内容を表1にまとめて示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1において、
A−1:メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位
A−2:メタクリル酸から形成された構成単位
B−1:メトキシポリ(23モル)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
B−2:メトキシポリ(70モル)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
C−1:メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位
C−2:アリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位
C−3:メチルアクリレートから形成された構成単位
【0034】
試験区分2(B成分等としてのポリアルキレンオキサイド付加物の合成)
・ポリアルキレンオキサイド付加物(b−1)の合成
ノルマルブチルアルコール111g(1.5モル)をオートクレーブに仕込み、触媒として水酸化カリウムを14.3g加えた後、オートクレーブ内を窒素置換した。攪拌しながら、反応温度を110〜135℃に保ち、エチレンオキサイド5808g(132モル)とプロピレンオキサイド7670g(132モル)との混合液を圧入してランダム付加反応を行なった。圧入終了後、同温度で2時間熟成して反応を終了し、生成物を得た。この生成物を吸着材で処理した後、濾別精製した。精製物を分析したところ、化1中のRがブチル基であり、Aが分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成され且つオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=50/50(モル%)の割合で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である質量平均分子量が9000のポリアルキレンオキサイド付加物(b−1)であった。
【0035】
ポリアルキレンオキサイド付加物(b−2)〜(b−5)及び(br−1)〜(br−4)の合成
ポリアルキレンオキサイド付加物(b−1)と同様にして、ポリアルキレンオキサイド付加物(b−2)〜(b−6)及び(br−1)〜(br−4)を合成した。以上で合成したB成分等としてのポリアルキレンオキサイド付加物の内容を表2にまとめて示した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2において、
,A:化1中の記号に相当
【0038】
試験区分3(高炉スラグコンクリート用混和剤の調製)
・実施例1{混和剤(P−1)の調製}
A成分として試験区分1で合成した水溶性ビニル共重合体(a−1)の40%水溶液188部、B成分として試験区分2で合成したポリアルキレンオキサイド付加物(b−1)25部及び水37部を混合して、実施例1の混和剤(P−1)の40%水溶液250部を調製した。
【0039】
・実施例2〜12及び比較例1〜14{混和剤(P−2)〜(P−12)及び(R−1)〜(R−13)の調製}
実施例1の混和剤(P−1)の調製と同様にして、実施例2〜12の混和剤(P−2)〜(P−12)及び比較例1〜13の混和剤(R−1)〜(R−13)を調製した。以上で調製した各例の混和剤の内容を表3にまとめて示した。












【0040】
【表3】

【0041】
表3において、
a−1〜a−3,ar−1〜ar−3:試験区分1で合成した表1に記載の水溶性ビニル重合体
b−1〜b−5,br−1〜br−4:試験区分2で合成した表2に記載のポリアルキレンオキサイド付加物
d−1:ナフタレンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩
【0042】
試験区分4(高炉スラグコンクリートの調製及び評価)
・水/セメント比の高い高炉スラグコンクリートの調製
実施例13〜24及び比較例14〜26
試験区分3で調製した表3に記載の混和剤を用いて、表4に記載の配合No.1の条件で、50リットルのパン型強制練りミキサーに高炉セメントB種、細骨材(大井川水系砂、密度=2.58g/cm)、練り混ぜ水(水道水)、混和剤(p−1)及びAE調節剤(竹本油脂社製の商品名AE300)の各所定量を順次投入し、均一なスラリーとなるまで練り混ぜた。次に、粗骨材(岡崎産砕石、密度=2.68g/cm)を投入して30秒間練り混ぜ、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±0.5%の実施例13の高炉スラグコンクリートを調製した。同様の方法により、表5に記載した実施例14〜24及び比較例14〜26の高炉スラグコンクリートを調製した。
【0043】
・水/セメント比の低い高炉スラグコンクリートの調製
実施例25〜40及び比較例27〜46
試験区分3で調製した表3に記載の混和剤を用いて、表4に記載の配合No.2の条件で、50リットルのパン型強制練りミキサーに高炉セメントC種、細骨材(大井川水系砂、密度=2.58g/cm)、練り混ぜ水(水道水)、混和剤(p−1)及びAE調節剤(竹本油脂社製の商品名AE300)の各所定量を順次投入し、均一なスラリーとなるまで練り混ぜた。次に、粗骨材(岡崎産砕石、密度=2.68g/cm)を投入して60秒間練り混ぜ、目標スランプフローが55±5cm、目標空気量が3.5±0.5%の実施例25の高炉スラグコンクリートを調製した。同様の方法により、表6に記載した実施例26〜36及び比較例27〜39の高炉スラグコンクリートを調製した。また同様にして、但し配合No.3の条件で、実施例37〜40及び比較例40〜46の高炉スラグコンクリートを調製した。
【0044】
【表4】

【0045】
表4において、
*1:高炉セメントB種(密度=3.04g/cm、ブレーン値3850cm/g)
*2:高炉セメントC種(密度=3.01g/cm、ブレーン値4180cm/g)
*3:細骨材(大井川水系砂、密度=2.58g/cm
*4:粗骨材(岡崎産砕石、密度=2.68g/cm
【0046】
・高炉スラグコンクリートの物性評価
調製した各例の高炉スラグコンクリートについて、表5又は表6に記載したように、ブリーディング、Lフロー初速度、空気量、スランプ、スランプフロー、練り混ぜ直後から60分間静置後のスランプ及びスランプフロー、更に硬化体の圧縮強度を下記のように求め、結果を表5及び表6にまとめて示した。
【0047】
・ブリーディング(%):水/セメント比の高い高炉スラグコンクリートについてのみ、JIS−A1123に準拠して測定した。数値が小さいほど、ブリーディングの水の発生が少なく、上表面の沈下が小さくて均質であることを示す。
・Lフロー初速度:水/セメント比の低い高炉スラグコンクリートについてのみ、Lフロー試験器(日本建築学会の「高流動コンクリートの材料・製造・施工指針(案)・同解説」に記載のもの)を用いて測定した。Lフロー初速度は、Lフロー試験器の流れ始動面より5cmから10cmの間の流動速度とした。スランプフローが同一である場合、Lフロー初速度の大きいものが粘性が小さくて施工生に優れていることを示す。
・空気量(容量%):練り混ぜ直後及びそれから60分間静置後の高炉スラグコンクリートについて、JIS−A1128に準拠して測定した。
・スランプ(cm):練り混ぜ直後及びそれから60分間静置後の高炉スラグコンクリートについて、JIS−A1101に準拠して測定した。
・スランプフロー(cm):練り混ぜ直後及びそれから60分間静置後の高炉スラグコンクリートについて、JIS−A1150に準拠して測定した。
・スランプ残存率(%):(60分間静置後のスランプ値/練り混ぜ直後のスランプ値)×100で求めた。
・スランプフロー残存率(%):(60分間静置後のスランプフロー値/練り混ぜ直後のスランプフロー値)×100で求めた。
・圧縮強度(N/mm):JIS−A1108に準拠し、材齢28日の供試体について測定した。
【0048】
【表5】















【0049】
【表6】

【0050】
表5及び表6において、
混和剤の種類:表3に示した混和剤
混和剤の使用量:高炉セメント100質量部に対する混和剤の質量部
圧縮強度:材齢28日の圧縮強度
*5:目標のスランプ又はスランプフロー値が得られなかったので測定しなかった。
【0051】
表5の結果からも明らかなように、低乃至中強度の高炉スラグコンクリートを対象にした水/セメント比の大きな高炉スラグコンクリートの場合、本発明の混和剤を使用すると、ブリーディングが低く抑えられ、しかもスランプフロー残存率が高い。また表6の結果からも明らかなように、高強度の高炉スラグコンクリートを対象にした水/セメント比の小さな高炉スラグコンクリートの場合、本発明の混和剤を使用すると、Lフロー初速度が大きくなり、高炉スラグコンクリートの粘性が小さく抑えられ、しかもスランプフロー残存率が高い。本発明の混和剤によると、広範囲の水/セメント比の高炉スラグコンクリートにおいて、流動保持性を備えた高流動性の高炉スラグコンクリートを調製できるのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉セメントの単位量が280〜900kg/mであり、且つ水/セメント比が20〜60%である高炉スラグコンクリート用の混和剤であって、下記のA成分とB成分とから成り、且つA成分を50〜98質量%及びB成分を2〜50質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とする高炉スラグコンクリート用混和剤。
A成分:分子中に下記の構成単位Cを45〜85モル%、下記の構成単位Dを15〜55モル%及び下記の構成単位Eを0〜5モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量5000〜100000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位C:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位D:分子中に7〜150個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位E:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
B成分:下記の化1で示される質量平均分子量が2000〜18000のポリアルキレンオキサイド付加物。
【化1】

(化1において、
:炭素数3〜6の脂肪族炭化水素基
:分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成され且つオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=20/80〜80/20(モル%)の割合で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基)
【請求項2】
A成分を60〜95質量%及びB成分を5〜40質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る請求項1記載の高炉スラグコンクリート用混和剤。
【請求項3】
A成分が分子中に構成単位Cを50〜80モル%、構成単位Dを20〜50モル%及び構成単位Eを0〜3モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量10000〜80000の水溶性ビニル共重合体である請求項1又は2記載の高炉スラグコンクリート用混和剤。
【請求項4】
A成分の構成単位Dが、分子中に15〜100個のオキシエチレン単位から構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成されたものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の高炉スラグコンクリート用混和剤。
【請求項5】
B成分が、化1中のAが分子中にオキシエチレン単位/オキシプロピレン単位=30/70〜70/30(モル%)の割合で構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である場合の化1で示される質量平均分子量3000〜15000のポリアルキレンオキサイド付加物である請求項1〜4のいずれか一つの項記載の高炉スラグコンクリート用混和剤。
【請求項6】
高炉セメントが高炉セメントB種又は高炉セメントC種である請求項1〜5のいずれか一つの項記載の高炉スラグコンクリート用混和剤。
【請求項7】
高炉スラグコンクリートが、高炉セメントの単位量が300〜800kg/mであり、且つ水/セメント比が25〜55%である場合のものである請求項1〜6のいずれか一つの項記載の高炉スラグコンクリート用混和剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つの項記載の高炉スラグコンクリート用混和剤を、高炉セメント100質量部当たり0.1〜2質量部の割合となるよう用いることを特徴とする高炉スラグコンクリートの調製方法。

【公開番号】特開2013−112565(P2013−112565A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259896(P2011−259896)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】