説明

高炉内装入物の挙動検出装置

【課題】 高炉内にセンサを挿入することなく、炉外から、コークスと焼結鉱との層境界を連続的かつ安定的に、精度よく検出し、各層の厚みと降下速度を測定する。
【解決手段】 炉外上下方向に一定距離だけ離して2台の境界検出器1及び4を設置し、それぞれの検出器はマイクロ波送信機10を有し、炉を構成する耐火物に向かってマイクロ波を送信し、挿入物23の表面で反射或いは散乱したマイクロ波を、結像系13を通じて結像させ、結像面内に並列に配置或いは面内を走査する機構を有するマイクロ波検出器アレイ14及び距離識別・画像生成処理部15で検出して画像化し、該画像を画像信号処理手段2で処理することによって層状の装入物境界を検出し、2台の検出結果の時系列データから装入物の降下速度と各層厚を測定することを特徴とする高炉炉内装入物の挙動検出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉炉内装入物の層厚及び降下速度を測定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業において高炉では、炉頂部より還元剤及び熱源としてのコークスと、被還元物としての焼結鉱とを層状に装入している。これは、層状にすることによって層内の空間率を高めに維持し、ガス還元効率を高くすることを狙っているためである。高炉の操業に伴って、シャフト部分に位置する装入物は下方に降下していくが、その降下速度や各々の層厚は常時変動する。その変動が高炉内上下方向、円周方向で一様でないため、高炉内における反応も前記変動に伴って変化することになる。例えば、焼結鉱の層厚分布などにより、ガス流れの経路は変化するが、ガス流れが著しく偏流した場合には、円周方向の降下バランスが崩れ、スリップや吹き抜けなどのトラブルが起こり、高炉の正常な操業が維持できなくなる。従って、高炉炉内の装入物の層厚や降下速度を計測することは、高炉内の装入物の挙動を的確に把握し、適正な操業管理、制御を行う上できわめて重要である。
【0003】
これまでにも、炉稼働中の装入物降下速度及び層厚を測定する手段として、種々の方法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、コークスと焼結鉱の電気抵抗の違いに基づく測定法が開示されている。これは、電極が設置されたセンサを内部の装入物に直接接触させる方式である。しかし、この方式は、鉄皮から耐火物に貫通するセンサ挿入用の穴を必要とし、このセンサ挿入穴に挿入された、ゾンデで構成された測定系部品の先端が高炉内に突出する構成である。従って、挿入物の降下に伴って、測定系部品への装入物の目詰まりや付着が発生し、測定精度を維持することが難しい。また、装入物による突出部の磨耗や破損が回避できないため、頻繁に部品を交換せねばならず、保守上、ランニングコストの問題もあった。更に、測定系部品の先端がスムーズな装入物降下の障害要因になる可能性もあり、連続的かつ安定的にわたって測定することは困難であった。一方、測定精度の観点からみると、装入物が数十〜百ミリメータ程度の塊であることから容易に推察できるように、それらは空隙を有する複雑な表面形状を持ったまま降下する。このような移動物体に対して、定常的に電極を接触させて、安定した測定を実現することが難しいこともあった。
【0005】
特許文献2には、高炉外から中性子線を照射し、内容物による散乱を検出する方法が開示されている。この手法は、炉壁に穴を設けるといった加工の必要がないというメリットがある。しかし、中性子線の減衰や散乱のある鉄皮や耐火物を通じて測定するため、空間的な測定精度が低くなり、精度よく層境界を検出することは難しいという問題があった。
【0006】
また、特許文献1及び特許文献2に開示された方法に共通しているのは、測定対象の一点のみを測定することである。上記のように、測定対象であるコークスと焼結鉱は、サイズや形状が大きく異なっていることから、測定する領域によって、信号がばらつく問題があった。測定精度を上げるためには、測定領域、例えば特許文献2では、中性子線の照射領域を小さくする必要があるが、測定のばらつきが大きくなる。一方、照射領域を大きくすれば、平均化された信号が得られるため、測定自体は安定するが、その分精度が低下するため、測定の安定性と精度を両立させることは困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開昭52−14447号公報
【特許文献2】特開平11−181509号公報
【非特許文献1】“Ground surface sensing through plant foliage using an FM-CWradar”, Yonatan Noyman, Itzhak Shmulevich, Computers and Electronics in Agriculture 15 (1996) 181-193
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような従来技術の問題点に鑑みて本発明の目的は、高炉内にセンサを挿入することなく、高炉外から、コークスと焼結鉱との層境界を連続的かつ安定的に、従来よりも精度よく検出し、各層の厚みと降下速度を測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
こうした問題に対し、本発明は、高炉外に設置したマイクロ波送信器でマイクロ波を高炉側面で高炉内方向に照射し、結像系を通して、その反射波或いは散乱波の分布を検出し、画像化した後に、画像処理によって層境界を認識する手段をとっている。
【0010】
本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)高炉の側面からマイクロ波を送受信して高炉内装入物の画像を取得して、該高炉内装入物の動きを測定する高炉内装入物の挙動検出装置であって、高炉の側面の第1の鉄皮開口部に対向して配設され、該鉄皮開口部にマイクロ波を送受信して高炉耐火物越しに高炉内装入物の画像を取得する第1のマイクロ波画像取得手段と、前記第1の鉄皮開口部の下方に設けられた第2の鉄皮開口部に対向して、第1のマイクロ波画像取得手段から高さ方向に所定の間隔をおいて配設され、該第2の鉄皮開口部にマイクロ波を送受信して高炉耐火物越しに高炉内装入物の画像を取得する第2のマイクロ波画像取得手段と、前記第1のマイクロ波画像取得手段から出力される画像と前記第2のマイクロ波画像取得手段から出力される画像を基に、当該各画像について画像処理を施して所定の処理でコークス層と焼結鉱層を識別し、高炉内装入物の降下速度を測定して出力する画像信号処理手段と、前記画像信号処理手段から出力される高炉内装入物の降下速度の測定値を表示する表示手段とを具備することを特徴とする高炉内装入物の挙動検出装置。
(2)前記第1のマイクロ波画像取得手段及び第2のマイクロ波画像取得手段はそれぞれ、前記第1又は第2の鉄皮開口部越しに高炉内装入物にマイクロ波を照射するマイクロ波送信器と、前記マイクロ波の反射波を受信し、高炉内装入物からの反射信号を抽出して高炉内装入物の二次元画像を出力するための二次元マイクロ波画像検出器と、前記マイクロ波の反射波を前記二次元マイクロ波画像検出器に結像させる結像系とを具備し、前記二次元マイクロ波画像検出器は、前記反射波を検知するマイクロ波検出器を一次元又は二次元に配列した検知器アレイと、該検知器アレイからの出力信号から前記高炉内装入物からの反射波を識別し、二次元画像を作成して出力する距離識別・画像生成処理部とからなることを特徴とする(1)に記載の高炉内装入物の挙動検出装置。
(3)前記マイクロ波送信器は、所定の周波数変調したマイクロ波(FMCW)を送信し、前記距離識別・画像生成処理部は、FMCW方式の測距方法を用いて所定の処理で高炉装入物からの反射マイクロ波を弁別することを特徴とする(2)に記載の高炉内装入物の挙動検出装置。
(4)前記画像信号処理手段は、前記第1のマイクロ波画像取得手段で検出した高炉内装入物の画像、及び前記第2のマイクロ波画像取得手段で検出した高炉内装入物の画像について各画像内の明るさムラを補正するシェーディング補正処理部と、シェーディング補正された画像に対して、所定の閾値で0と1とに2値化する2値化処理部と、2値化処理部から出力された画像について、1が埋め込まれた部分が連なっている領域に同一のラベルを付けて一塊として認識させるラベリング処理部と、ラベリング処理部から出力された画像に基づいて、コークス層と焼結鉱層とを所定の処理で判別する領域検出部と、領域検出部の出力に基づいてコークス層と焼結鉱層との境界を検出して、その移動速度を同一の境界が第1及び第2のマイクロ波画像取得手段位置を通過する時間差から導出する挙動演算部とからなる(1)〜(3)のうちの一つに記載の高炉内装入物の挙動検出装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高炉炉内挿入物挙動の測定装置を単独で、または、これを同一高さの円周方向に複数設置することによって、高炉外から、コークスと焼結鉱との層境界を連続的かつ安定的に、精度よく検出し、各層の厚みと降下速度を測定することが可能となる。
【0012】
そして、操業時における炉内各部の挿入物の降下速度並びに焼結鉱及びコークスの層厚の変化、差異もしくは不均一性、さらに同一層の傾斜角等の挙動が把握でき、この装入物の挙動に応じて、例えば送風羽口ごとの吹込風量や微粉炭量の制御、炉頂からの装入物装入分布の制御を行うことによって炉況に応じた的確な処置が行え、安定した操業を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、高炉外に設置したマイクロ波送信器でマイクロ波を高炉側面に向けて高炉内方向に照射し、コークスと焼結鉱との層境界を連続的かつ安定的に、精度よく検出する技術である。
【0014】
まず、マイクロ波を送受信して、物体を認識する技術の説明をする。通常、アンテナから放射されるマイクロ波は、波長やアンテナ形状などにより、特定の放射角を持って放射される。放射角が既知のアンテナを用い、幾何学的に高炉の測定対象面を照射するように配置すると、放射マイクロ波は測定対象に照射される。測定対象のマイクロ波に対する、反射、散乱、及び吸収の特性に応じて、放射されたマイクロ波の一部が照射した方向と異なる方向に進路が変わる。このとき、高炉側面方向で高炉外方向に進むマイクロ波(反射マイクロ波)を、結像系を用いて集波し、特定の結像面上に像を結ばせることができる。この結像面にマイクロ波検出器を平面状に配置、或いは、複数のアンテナを並べることで、測定対象を照射エリア毎に分割した信号強度のパターンが得られ、これを画像化することができる。
【0015】
高炉への装入物質であるコークス及び焼結鉱は、それぞれ直径が50mm程度及び10mm程度の塊であり、表面形状及び物性が異なる。コークスの表面は、比較的なだらかな曲面で構成されており、物性的には、高い電気伝導度を有し、マイクロ波に対して鏡面反射体として作用する。マイクロ波を照射し、反射波を結像して検出する場合、マイクロ波の照射方向に対するコークス表面の傾斜に応じて反射方向が変化する、或いは、表面の凹凸に応じて、反射波の立体角が変化する。これらのうち、画像検出器に導かれる立体角内に反射したマイクロ波成分のみが検出される。例えば、表面が緩やかな凸形であれば、反射マイクロ波の立体角は大きく、つまり、拡散するように反射されるため、レンズ或いは反射ミラーに戻るマイクロ波強度は低下する。このように、結像系を通って、画像検出器で検出されるマイクロ波の強度は被測定対象表面の形状に応じて変化することになる。本発明の高炉内装入物の挙動検出装置では、このような反射マイクロ波の強度を、マイクロ波検出器やホーンアンテナを一次元的に並べて走査する、或いは、二次元的にアレイ化することで、画像として検出することを特徴としている。
【0016】
このようにして得られた画像から、測定対象を特定することができる。上述のように、コークス表面はなだらかに変化しているため、得られる画像では、検出強度が強い領域が比較的大きな面積を持って検出される。一方、焼結鉱は表面に数mmオーダーの凹凸があるためマイクロ波が散乱される上、組成物質のひとつであるマグネタイトがマイクロ波の吸収体として作用するので、検出される信号が全体的に低くなり、信号強度が強い大面積の領域は発生しない。こうした物質の形状やマイクロ波に対する散乱、吸収特性の違いから、マイクロ波の反射強度分布を測定することにより、測定領域内の物質を特定し、それらの層の境界を明瞭に検出できる。コークス層と焼結鉱層の境界の検出では、画像を2値化しラベリング処理することによって、2値化画像において一定以上の反射強度がある領域の位置及び面積を求める。この中で、一定以上の面積を有する塊がある領域をコークス層とし、コークスの有無を判断することで、境界を検出できる。
【0017】
また、このような層境界の検出結果は、測定周期毎に得られるので、マイクロ波送受信器を、高炉の上下方向の2箇所に設置することで降下速度と層厚が同時に測定できる。例えば、図1(a)に示すようにそれぞれの検出装置の中心位置の距離をL、画像中心を層が横切るときの時間差をΔtとすると、降下速度v=L/Δtで求められ、コークス又は焼結鉱の各層が検出装置の位置に存在する時間をそれぞれtc、toとすると、v×tc、v×toでコークス又は焼結鉱の各層厚が求められる。
【0018】
炉外から観測できることについて記述する。高炉の炉頂及び炉腹部の炉壁は、数百mmの厚さの耐火物の外側を数十mm厚の鉄皮が覆った構造になっている。これらのうち、耐火物の材料であるアルミナ系焼結体は、室温〜1200℃の広い温度領域に渡って、100GHz程度以下のマイクロ波を透過する。装入物自体が輻射するマイクロ波は微弱であるため、壁外からこれを検出することは難しいが、本発明装置のように、炉壁外側からマイクロ波を照射すれば、その反射波を、耐火物を通して検出することが可能になる。マイクロ波を透過しない鉄皮には穴を開ける必要があるが、耐火物に何ら加工を施すことなく、測定が可能である。したがって、特許文献1に開示されたような従来技術と異なり、本測定装置は装入物の降下を妨げることはない。
【0019】
本発明の実施の形態について図を用いて詳細に説明する。本実施の形態の高炉内装入物の挙動測定装置の概略構成、及び高炉の一部の断面図を図1(a)に示し、さらに図1(a)中の第1又は第2のマイクロ波画像取得手段1、4の詳細な構成及び高炉の局所断面の拡大図を図1(b)に示す。本実施の形態においてマイクロ波画像取得手段1、4は、装入物23にマイクロ波を照射するマイクロ波発生器11及びホーンアンテナ12で構成するマイクロ波送信器10と、検出器アレイ14と、装入物表面で反射されたマイクロ波を当該検出器アレイ14を配置した面上に像を結ばせる結像系13と、当該マイクロ波の反射波の検出信号に基づいて高炉内装入物による反射波を識別して画像化する距離識別・画像生成処理部15で構成されている。
【0020】
サイズが10mm程度の測定対象物(コークス及び焼結鉱)を識別するので、少なくとも5mm以下の画像分解能が必要であるため、照射するマイクロ波の波長は5ミリメートル以下(周波数60GHz以上)であることが望ましい。また、測定対象のうち、コークスのサイズが100mm近くになることもあるため、全測定領域は200mmφ程度以上であることが望ましい。マイクロ波を放射するアンテナは、広がり角が30度以上あれば、耐火物表面から数十mm離して設置することで、上記の測定領域を照射することができる。このときの開口サイズは10mm程度である。
【0021】
一方、検出系は、例えば、結像系13である1枚の固定焦点を持つレンズと、マイクロ波の反射波の検出器として、図2に示すようなホーンアンテナ112とマイクロ波検出器140とを並べた検出器アレイ14とで構成される。当該レンズは、ポリエチレンなどの有機材料で作られた誘電体レンズであり、マイクロ波領域で一般的に用いられるものでよい。レンズの直径は測定領域をカバーするため、200mmφ以上であることが望ましい。対象面の測定領域中心からの法線を波軸と呼ぶことにすると、レンズ及び検出面は、軸を中心として直交して配置される(図1(b))。測定対象面31と結像系(レンズ)13との間の距離、及び結像系13とホーンアンテナ112の距離をそれぞれa及びbとし、結像系の焦点距離をfとすると、各距離(a、b、f)は結像条件式1/f=1/a+1/bに基づいて設定される。当該距離になるように、結像系(レンズ)13とホーンアンテナ112を配置する。例えば、f=100mmのレンズを用いた場合、それぞれ200mm離せばよい。但し、耐火物の厚みや屈折率を考慮する必要があり、それぞれ100mm、n=1.8とすると、bの距離は約50mmが延びる。実際には、レンズ及び画像検出器の位置を軸方向に可動調整する機構17を設け、画像を確認しながら調整することが望ましい。また、レンズの代わりに放物面ミラーを用い、結像系におけるパワーロスを少なくすることもできる。
【0022】
マイクロ波の反射波の検出は、図1の検出器アレイ14によって行う。検出器アレイ14を構成する個々のマイクロ波検出器140は、測定対象で反射又は散乱されたマイクロ波の強度を電圧信号に変換して出力する。出力された個々のマイクロ波検出器140それぞれの電圧信号は、距離識別・画像生成処理部15に入力されて、後述する所定の処理によって高炉内装入物からの反射波による信号を弁別して、マイクロ波検出器140の位置に基づいて画像データ化される。
【0023】
マイクロ波を検出する検出器アレイは、図2に示すような、マイクロ波検出器140を1次元又は2次元にアレイ化したものを用いることができる。原理的には、ホーンアンテナ112とマイクロ波検出器140を図2(a)のように、並列化すればよいが、望ましくは、図2(b)のように、フォトリソグラフィーによって、半導体基板上にマイクロアンテナ141やマイクロ波検出素子142などを作り込むとよい。いずれの方法でも、検出器アレイ14は、上記波軸と垂直な焦点面内に配置され、測定位置と対応付けて検出信号を処理するようにする。
【0024】
1次元のアレイ化を用いた構成では、1軸のリニアガイドなどで走査機構16を構成して上記結像面内で、高炉側面との距離を一定のまま、検出器アレイの配列方向と直交する方向に当該アレイを移動させて走査する。例えば、アンテナ間距離が5mm、41個のアンテナが配列された1次元アンテナアレイを用いた場合、軸を中心に±100mmのストロークを5mmピッチで走査させることになる。一列100ミリ秒の周期で、アレイと垂直方向に5mmピッチで走査して測定すれば、約4秒で41×41画素の画像が得られる。装入物の降下速度が大体10cm/分であることからみても、ほぼ静的といえる画像が得られる。例えば、検出器アレイの配列方向を水平にして走査方向を鉛直しても、逆に検出器アレイの配列方向を鉛直にして走査方向を水平しても良い。一方、2次元アレイを用いた場合は電子的走査が可能であり、機械的な走査機構16は不要になり、通常のCCDカメラと同様に、1次元的に送出した信号を距離識別・画像生成処理部15で受け、リアルタイム(60ミリ秒間隔)で画像を得ることが可能である。
【0025】
次に、前記の距離識別・画像生成処理部15において、耐火物表裏面からの反射マイクロ波成分を分離して除去し、コークス層又は焼結鉱層からの信号のみを検出する方法を以下で詳細に説明する。上記で記載したマイクロ波発生器11に容量可変ダイオードなどを組み込み、周波数を変調できるようにする。発生したマイクロ波のパワーの一部を検出器アレイ14の各検出器に直接送信することにより、マイクロ波距離計で一般的に用いられるFMCW方式(FMCW(周波数変調連続波):Frequency Modulated Continuous Wave)の測距機能を追加する(例えば、非特許文献1を参照のこと)。FMCW方式では、マイクロ波の周波数を時間に対して直線状に増加する。時間間隔δt時間における周波数変化代をδfとすると、δf/δt=G(一定)という関係となる。最低周波数fminから周波数を上記関係によって増加させ、周波数が最高周波数fmaxに達したら元のfminに戻り、このような鋸歯状刃パターンで周波数変調を行うものである。FMCW方式を用いた距離測定において、周波数f1のマイクロ波を送信後、Δt秒後に反射波として受信したとする。そのとき、送信周波数はf2(=f1+G・Δt)に変化している。このときの送信周波数f2と反射波受信周波数f1の差Δfから、Δf=(f2−f1)=GΔtの関係に基づいて反射波が送信から受信までに要した時間(Δt)を算出することができる。送信波と受信波をミキシングし、差の周波数を持ったビート波信号を取り出し、この信号をFFT(高速フーリエ変換)による周波数分析を行い、差の周波数Δfを求め、時間差Δtを算出する。
【0026】
本実施の形態においては、走査或いはアレイ化させるマイクロ波送受信器に、上記の周波数変調器とミキシング機能を設けることで、対象までの距離の空間分布を測定できるようになる。このとき、個々のマイクロ波検出器140(マイクロ波検出素子142でもよい)では、図5のように、被測定物60上の場所ごとの反射或いは散乱波が信号として検出されるが、当該検出信号には上記測距機能により、マイクロ波の反射強度と反射物体の距離の情報も含まれている。このようにして検出した信号に対し、常時発生する耐火物表面からの反射ピーク61及び裏面からの反射ピーク62より遠方の信号のみを検出するように、ゲートをかけて積算することで、炉壁の影響を抑制することができる。更に、装入物表面の曲率など三次元的な形状を測定できるため、測定物がコークスであるか、焼結鉱であるかを識別する精度がより向上する。
【0027】
尚、本例では、鉄皮と炉内が耐火物で隔てられた構造を想定しているが、耐火物がない構造であるときは、鉄皮の開口部に耐火物を埋め込むことにより、炉内装入物へ擾乱を与えずに測定することが容易にできる。
【0028】
図1(b)に示した構成は、検出のために設けた高炉の鉄皮開口の周囲から、幾何光学的に検出エリアを照射する構成で、少なくとも1方向にマイクロ波送信器を配置する。このとき、検出のための結像系を遮ることなくマイクロ波送信器を配置せねばならないため、斜め方向からの照射となる。こうすれば、耐火物表裏面で反射したマイクロ波のうち直接的に検出系に導かれる割合を少なくできるため、検出される信号は、装入物からの反射、散乱成分の比率が大きくなり、感度の高い測定が可能となる。また、望ましくは2方向以上から照射することにより、装入物の形状やサイズをより正確に捉えることが可能となる。
【0029】
図4に示した構成では、ホーンアンテナ12を送受信のために共用化し、耐火物表面に対して、垂直方向に照射する。この方式では、耐火物の表裏面からの反射波が背景成分となるが、予め装入物がない耐火物のみのデータを保存しておき、検出信号との差分をとることで、装入物から反射されたマイクロ波信号のみを抽出することが可能である。この場合、高炉の鉄皮の開口が1つですむというメリットがある。
【0030】
以上のようにして距離識別・画像生成処理部15で出力された、高炉内装入物によるマイクロ波の反射波の検出による画像の例を図3−1(a)に示す。
【0031】
図3−1(a)において、画像の上半分は焼結鉱層領域を示し、焼結鉱からの反射マイクロ波画像51は粒が小さく、かつ検出信号の強度が低いことがわかる。一方、画像の下半分はコークス層領域を示し、コークスからの反射マイクロ波画像50では検出強度が強い領域が大きな面積をもって検出されている。
【0032】
図1(a)に示すように、高炉の側面で、鉄皮を除去した高炉壁に対向して、第1のマイクロ波画像取得手段、及びその下に第2のマイクロ波画像取得手段を配設する。各マイクロ波画像取得手段内の距離識別・画像生成処理部15から出力された画像データは、例えばコンピュータ及び所定の情報処理をさせるためのソウトウエアで構成する画像信号処理手段2に入力する。画像信号処理手段の入力部は、例えば、A/D変換ボードで構成しても良い。
【0033】
画像信号処理手段2では、例えば、一般的な画像処理手法である2値化処理、ラベリング処理などを用いて複数の測定対象である焼結鉱層及びコークスの層の断面の面積が算出できる。具体的には、図3−2及び図8を用いて画像信号処理手段2の構成、及び処理フローを説明する。
【0034】
<シェーディング補正処理部>
まず、検出された画像についてシェーディング補正処理を施す(S201、201)。検出された画像では、画像の中心と周辺部に、結像系に起因した強度差が定常的に発生すること(シェーディング)があり、これを補正する手段を設けておくことが望ましい。具体的には、事前に均一な耐火物を測定したデータを基準画像として保存しておき、実際に測定対象から得られた画像から、基準画像の分布を差し引くことにより、画像内のシェーディングを均一にすることができる。
【0035】
<2値化処理部>
次に、シェーディング補正された画像を2値化処理する(S202、202)。2値化とは、図3−1(b)に結果例を示すように、得られた画像の各部分について、予め設定した値以上又は以下、或いは両者の論理和をとった部分に1を、それ以外の部分に0を埋め込む処理である。
【0036】
図3−1(b)は、図3−1(a)(距離識別・画像生成処理部15で出力されたマイクロ波の反射波の検出による画像)を、シェーディング補正後に2値化処理した画像である。図3−1(a)における検出強度の最大値と最小値の中間値を閾値として、0と1とに2値化した。
【0037】
<ラベリング処理部>
次に、このようにして得られた2値化画像をラベリングする(S203、203)。ラベリングとは、2値化処理で1が埋め込まれた部分が連なっている領域に同一のラベルを付け、一塊として認識させる処理である。
【0038】
<領域検出部>
次に、ラベリングされた結果に基づいて、塊となっている領域の長さや幅、面積などの特徴を数値的に算出して、コークスや焼結鉱の領域検出する。コークス層と焼結鉱層との境界検出方法を説明する。説明のために画像は横方向が高炉の水平方向、縦方向が高炉の鉛直方向を示し、コークスと焼結鉱との境界は水平と仮定する。ラベリングされた画像内に一定面積(例えば40画素)以上の塊が存在するかどうかを判定し、存在する場合は当該画像に対応する領域はコークス層に属し、存在しない場合は焼結鉱層に属すとして出力する。出力値が焼結の場合は、一定面積以上の領域の最下座標が画像下端と同じ値になったタイミングで、出力値をコークス層に切り替える。また、出力値がコークスの場合は、一定面積以上の領域が存在しなくなったタイミングで焼結鉱層に切り替える。以上の処理を施すことにより、比較的大面積の塊が存在するコークス層の領域と、それらが存在しない焼結鉱層の領域とを判別することができ、それらの境界を検出できる(S204)。
【0039】
図3−1(b)を例にとると、画像の上半分の焼結鉱層領域では、2値化後にほとんど0のみの領域となり、画像の下半分のコークス層領域については、コークスからの反射マイクロ波画像50の部分が比較的大きな面積をもった1の塊として出現している。この画像から、コークス層と焼結鉱層との境界53を検出することができる。
【0040】
<挙動演算部>
最後に、挙動演算部205で、画像内の境界の位置を算出し、高炉内装入物の挙動として、層の種類(コークス→焼結鉱、或いは焼結鉱→コークス)、各層の降下速度、及び画像を撮影した時刻と紐付けて出力する(S205)。
【0041】
画像信号処理手段2によって出力されたコークス層や焼結鉱層の上記挙動は、コンピュータディスプレー画面上に表示する。また、高炉操業記録用のデータベースに保存するようにしても良い。
【実施例】
【0042】
図1に概略を示した本発明の高炉炉内装入物の挙動測定装置を下記のように構成して、高炉装入物の降下速度と、コークス及び焼結鉱の層厚を測定した。
【0043】
マイクロ波発生器11から発生したマイクロ波はホーンアンテナ12を通って、空中に放射される。マイクロ波発生器は、ガンダイオード及びこれを駆動する電気回路とから構成されており、94GHzのマイクロ波を発生する。アンテナ先端からは、マイクロ波が約30度の広がり角を持って放射される。これらは炉の上下方向に角度を調整できるように、ゴニオステージ上に設置されている。
【0044】
鉄皮の開口は約220mmφであり、耐火物表面から150mmのところに、焦点距離100mm、直径200mmの誘電体レンズがはめ込まれている。レンズは、波軸方向に移動できるよう配置されたマイクロステージ上に設置されており、位置を調整することができる。また、レンズ表面から波軸に沿って約200mm離れたところに検出器アレイ14が設置されている。検出器アレイは、図2(b)のような1次元アレイ素子を用いており、ホーンアンテナとショットキーダイオードがシリコン基板上に作製されている。個々のアンテナサイズは約2.5mm、アンテナ間隔は、約3mmであり、幅方向に41個が配列されている。全体のサイズは、およそ120mm×40mm×0.5mm厚である。これらは波軸方向と垂直に、アンテナアレイが水平になるように配置され、光軸と垂直な平面上を上下方向に可動する1軸のリニアステージ上に設置されている。このステージは±150mmのストロークがある。尚、これらの検出器アレイとリニアステージは、波軸方向に位置を調整できる手動ステージ上に設置されており、画像を見ながら、最適な位置に調整できる。
【0045】
以上のマイクロ波送受信機及び結像系、リニアステージなどは、屋外で使用するため、防水仕様の300×400×400mmの密閉型容器内に設置されている。これらは、炉の上下方向に、500mm離して2組設置した。
【0046】
画像信号処理手段にはPC(パーソナルコンピュータ)を用いており、検出器アレイの位置をGPIB経由で制御し、現在位置を取り込むようにした。また、画像生成処理部には48chのA/D変換ボードを用いており、ステージ位置と対応付けた41chのデジタル信号がPCに入力される。PCでは、前述の一連の処理を連続的に行っており、処理結果は、無線LANによって表示手段であるPCに送信、表示される。
【0047】
本実施例では、約120mm平方の部位を3mmピッチで移動させ、4秒周期で前述の画像測定を行った。図6に、シェーディング補正後であって2値化処理前の画像を示す。(a)がコークス層、(b)が焼結鉱層の画像例である。白色のプロットが最も信号強度が強い部分、以下、色が黒色に近づくにつれて信号強度が弱くなることを示す。コークス層では、信号強度が強く、面積の大きな塊が観測される一方、焼結鉱層では、殆どが吸収され、信号強度が低く、大きな塊も観測されない。本例では、図6に示す画像についてS202(2値化処理)及びS203(ラベリング処理)を施し、比較的大面積の塊が観測される領域をコークス層とし、時系列で両層の境界を上記S204で説明した方法で自動検出した。図7は、各センサの上下方向の中心位置を各層の境界が通過した時間をプロットした測定例である。上下2つのセンサから求めた境界は、各位置を通過する時間に差が生じていることがわかる。図の例では、焼結鉱からコークスに移る層境界が500mm進むのに、260秒かかっていることから、降下速度が115mm/分であることがわかった。また、これをもとに、上記式から計算した各層の厚みは、図に示す部分では、コークス層564mm、焼結鉱層535mmと非常に高い精度で測定できた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施の形態の概略構成、及び高炉断面の一部を示す図である。
【図2】本実施の形態におけるマイクロ波を受信する検出器アレイの例を示す図である。
【図3−1】本実施の形態における画像信号処理手段での画像処理の例を示す概念図であり、(a)は2値化処理前、(b)は2値化処理後を示す図である。
【図3−2】画像処理手順を示す図である。
【図4】本実施の形態によって高炉装入物の層境界を測定する概念図である。
【図5】本実施の形態によって高炉装入物の層境界を測定する概念図である。
【図6】実施例において撮影された高炉装入物のマイクロ波画像の例を示す図である。
【図7】実施例において検出された高炉装入物の挙動を示す図である。
【図8】本実施の形態における画像信号処理手段の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0049】
1 第1のマイクロ波画像取得手段
2 画像信号処理手段
3 表示手段
4 第2のマイクロ波画像取得手段
10 マイクロ波送信器
11 マイクロ波発生器
12 ホーンアンテナ
13 結像系
14 検出器アレイ
15 距離識別・画像生成処理部
16 一次元検出器アレイの走査機構
17 可動調整機構
18 アイソレータ
19 マイクロ波窓
20 筐体(耐水箱)
21 照射マイクロ波
22 反射、散乱マイクロ波
23 装入物
23a 焼結鉱層
23b コークス層
24 耐火物
25 鉄皮
31 測定領域
32 波軸
50 コークスからの反射マイクロ波画像
51 焼結鉱からの反射マイクロ波画像
52 2値化処理で1になった領域
53 コークス層と焼結鉱層との境界
60 被測定物
61 耐火物表面からの反射ピーク
62 耐火物裏面からの反射ピーク
63 被測定物からの反射ピーク
112 ホーンアンテナ(検出用)
140 マイクロ波検出器
141 マイクロアンテナ
142 マイクロ波検出素子
143 直流増幅素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の側面からマイクロ波を送受信して高炉内装入物の画像を取得して、該高炉内装入物の動きを測定する高炉内装入物の挙動検出装置であって、
高炉の側面の第1の鉄皮開口部に対向して配設され、該鉄皮開口部にマイクロ波を送受信して高炉耐火物越しに高炉内装入物の画像を取得する第1のマイクロ波画像取得手段と、
前記第1の鉄皮開口部の下方に設けられた第2の鉄皮開口部に対向して、第1のマイクロ波画像取得手段から高さ方向に所定の間隔をおいて配設され、該第2の鉄皮開口部にマイクロ波を送受信して高炉耐火物越しに高炉内装入物の画像を取得する第2のマイクロ波画像取得手段と、
前記第1のマイクロ波画像取得手段から出力される画像と前記第2のマイクロ波画像取得手段から出力される画像を基に、当該各画像について画像処理を施して所定の処理でコークス層と焼結鉱層を識別し、高炉内装入物の降下速度を測定して出力する画像信号処理手段と、
前記画像信号処理手段から出力される高炉内装入物の降下速度の測定値を表示する表示手段とを具備することを特徴とする高炉内装入物の挙動検出装置。
【請求項2】
前記第1のマイクロ波画像取得手段及び第2のマイクロ波画像取得手段はそれぞれ、前記第1又は第2の鉄皮開口部越しに高炉内装入物にマイクロ波を照射するマイクロ波送信器と、
前記マイクロ波の反射波を受信し、高炉内装入物からの反射信号を抽出して高炉内装入物の二次元画像を出力するための二次元マイクロ波画像検出器と、
前記マイクロ波の反射波を前記二次元マイクロ波画像検出器に結像させる結像系とを具備し、
前記二次元マイクロ波画像検出器は、前記反射波を検知するマイクロ波検出器を一次元又は二次元に配列した検知器アレイと、
該検知器アレイからの出力信号から前記高炉内装入物からの反射波を識別し、二次元画像を作成して出力する距離識別・画像生成処理部とからなることを特徴とする請求項1に記載の高炉内装入物の挙動検出装置。
【請求項3】
前記マイクロ波送信器は、所定の周波数変調したマイクロ波(FMCW)を送信し、
前記距離識別・画像生成処理部は、FMCW方式の測距方法を用いて所定の処理で高炉装入物からの反射マイクロ波を弁別することを特徴とする請求項2に記載の高炉内装入物の挙動検出装置。
【請求項4】
前記画像信号処理手段は、
前記第1のマイクロ波画像取得手段で検出した高炉内装入物の画像、及び前記第2のマイクロ波画像取得手段で検出した高炉内装入物の画像について各画像内の明るさムラを補正するシェーディング補正処理部と、
シェーディング補正された画像に対して、所定の閾値で0と1とに2値化する2値化処理部と、
2値化処理部から出力された画像について、1が埋め込まれた部分が連なっている領域に同一のラベルを付けて一塊として認識させるラベリング処理部と、
ラベリング処理部から出力された画像に基づいて、コークス層と焼結鉱層とを所定の処理で判別する領域検出部と、
領域検出部の出力に基づいてコークス層と焼結鉱層との境界を検出して、その移動速度を同一の境界が第1及び第2のマイクロ波画像取得手段位置を通過する時間差から導出する挙動演算部とからなる請求項1〜請求項3のうちの一項に記載の高炉内装入物の挙動検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図3−1】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−13814(P2008−13814A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186559(P2006−186559)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】