説明

高炉水砕スラグの製造方法

【課題】フライアッシュを溶融高炉スラグにインジェクションして溶融処理する際に、溶融スラグ粒子の飛散を抑制するとともに、フライアッシュ粒子の飛散を抑制し、歩留り良くフライアッシュを溶融高炉スラグに溶融させることができ、さらに、インジェクション中にランス及びノズルの損耗を抑制することが可能な高炉水砕スラグの製造方法を提供する。
【解決手段】高炉水砕スラグの製造方法において、フライアッシュに含まれる炭素を酸素富化空気または酸素により燃焼するときの理論燃焼温度を、フライアッシュの溶融開始温度よりも高温となるように酸素富化空気または酸素の量を調節するとともに、溶融高炉スラグ中にランスを浸漬させ、ランスに設置したノズルより、酸素富化空気または酸素とともに、フライアッシュを溶融高炉スラグ中に横向きにインジェクションすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュを有効に利用した高炉水砕スラグの製造方法に関し、特に、フライアッシュを歩留まり良く、溶融高炉スラグに溶解することができる高炉水砕スラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュは、微粉炭焚きボイラーまたは石炭焚き流動層ボイラー等で石炭を燃焼した時に発生する石炭灰のうち、燃焼排ガスとともに飛散し、集塵機により捕集した微粉末の灰のことである。
【0003】
現在、フライアッシュは、主としてセメント原料として有効利用されているが、フライアッシュ発生量の増加とセメント生産量の低下が予想されており、その新たな利用方法の開発が必要である。フライアッシュを溶融高炉スラグ中に吹込んで溶解し、高炉水砕スラグとして、コンクリート用骨材または高炉セメント原料とすることにより、フライアッシュを有効利用する方法が、特許文献1に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−35278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶融高炉スラグを大量の水で急冷し、砂状の高炉スラグ製品を製造する。これを、水砕処理するという。水砕処理するとき、溶融高炉スラグは、その貯留容器から樋に流し込まれ、樋を流れて、大量の水の流れの中に注ぎ込まれる。
【0006】
スラグ製品の品質確保のためには、未溶解のフライアッシュがスラグ製品中に混在しないように、完全に溶解させることが重要である。
【0007】
さらに、貯留容器中の溶融高炉スラグに、フライアッシュをインジェクションするときに、インジェクションしたフライアッシュが溶融高炉スラグに歩留まり良く溶解しないと、排ガス中に飛散したフライアッシュを回収し、再度インジェクション処理しなければならないので、経済的でない。
【0008】
したがって、インジェクションしたフライアッシュを、溶融高炉スラグ中に歩留まり良く溶解することが重要である。
【0009】
しかし、フライアッシュ単体を溶融高炉スラグ中に吹込むと、フライアッシュ単体の融点が高いため、高炉スラグに溶けきれずに、溶融高炉スラグから上方空間に飛散するフライアッシュが存在し、フライアッシュの溶解歩留まりが低下する。
【0010】
一方、フライアッシュの溶解性を改善するために、フライアッシュに副原料を混合すると、フライアッシュの溶解歩留まりは向上するが、副原料を溶解するのに必要な熱が増加して、フライアッシュ溶解後の溶融高炉スラグの温度が低下する。
【0011】
溶融高炉スラグの温度が低下すると、溶融高炉スラグの粘性が上昇し、溶融高炉スラグを水砕処理するために貯留容器から流し込んだ樋での流れが停滞して溢れ、水砕処理ができなくなる。
【0012】
したがって、インジェクションしたフライアッシュ単体を、溶融高炉スラグ中に歩留まり良く溶解することが重要である。
【0013】
特許文献1に、フライアッシュを高炉スラグにインジェクション溶解する技術が開示されている。しかし、特許文献1の技術においては、フライアッシュの飛散状況を目視観察した結果で評価しており、必ずしも定量的な結果が示されていない。
【0014】
特許文献1の技術においては、フライアッシュの吐出流速が100m/sでは、ノズルの先端位置を、スラグ表面から上にノズルからの0.3mの範囲とすれば、フライアッシュの飛散は見られなかったとあるように、ノズルから下向きにインジェクションしている。
【0015】
下向きにインジェクションした場合、インジェクション直下の位置では、スラグ表面が凹状にへこみ、その周囲は、ガスの流れによってスラグが盛り上がり、その一部は飛散する。飛散したスラグは、高炉スラグ鍋の蓋や側壁に付着するため、清掃する頻度が上がり、生産性が悪化する一因となる。
【0016】
また、盛り上がったスラグ、または、飛散するスラグによって視界が遮られるために、ノズルからインジェクションしたフライアッシュの一部が飛散していても、目視では確認し難い。
【0017】
実際には、ノズル先端位置を、スラグ表面またはスラグ表面から上に設置して、下向きにインジェクションしたときは、スラグ内に直接フライアッシュ粒子が侵入していないため、吐出したフライアッシュ粒子の一部は、スラグ表面で跳ね返って飛散する傾向があり、ノズル先端をスラグ中に浸漬して、スラグ内に、直接フライアッシュをインジェクションしたときよりも、フライアッシュの飛散量が大きくなるという問題が生じることが判明した。
【0018】
一方、スラグ中にノズルを浸漬している場合、ノズルから下向きにインジェクションすると、吹込んだガスがノズル外表面に沿って上昇し、それにともない、ノズル外表面に沿ったスラグの流れが生じて、ノズルの損耗が大きくなるという問題点がある。
【0019】
本発明においては、フライアッシュを溶融高炉スラグにインジェクションして溶融処理する際に、溶融スラグ粒子の飛散を抑制するとともに、フライアッシュ粒子の飛散を抑制し、歩留り良く、フライアッシュを溶融高炉スラグに溶融させることができ、さらに、インジェクション中に、ランスおよびノズルの損耗を抑制することが可能な高炉水砕スラグの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(1)高炉スラグ鍋に貯留した溶融高炉スラグ中に、フライアッシュを、酸素富化空気、または酸素とともに、インジェクションして溶解した後、水砕処理する高炉水砕スラグの製造方法であって、フライアッシュに含まれる炭素を、酸素富化空気または酸素により燃焼するときの理論燃焼温度を、該フライアッシュの溶融開始温度よりも高温となるように該酸素富化空気または酸素の量を調節するとともに、溶融高炉スラグ中にランスを浸漬して、該ランスに設置したノズルより、前記酸素富化空気または酸素とともに、前記フライアッシュを、前記溶融高炉スラグ中に、横向きにインジェクションすることを特徴とする高炉水砕スラグの製造方法。
【0021】
(2)前記ランスに設置したノズルを、0.5m以上の深さで、溶融高炉スラグに浸漬して、フライアッシュを、溶融高炉スラグ中にインジェクションすることを特徴とする前記(1)記載の高炉水砕スラグの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、溶融スラグ粒子の飛散を抑制するとともに、フライアッシュ粒子の飛散を抑制して、フライアッシュの溶解歩留まりが向上し、さらに、ランスおよびノズルの損耗を抑制して、高炉水砕スラグ製造時の経済性を高め、フライアッシュを高炉スラグ骨材の原料として有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
フライアッシュのインジェクション溶解方法を、図1および図2に示す装置構成により説明する。高炉スラグ貯留容器2に50トン貯留された溶融高炉スラグ1に、インジェクションランス3を浸漬し、フライアッシュおよびフライアッシュ搬送用ガス6を、酸素富化空気または酸素5とともに、溶融高炉スラグ1中にインジェクションする。
【0024】
フライアッシュ中の未燃炭素は酸素により燃焼し、その燃焼熱により、フライアッシュ粒子が一部溶融すると、生成した融液の効果により、フライアッシュ粒子と溶融高炉スラグとの濡れ性が良くなり、フライアッシュ粒子は、溶融高炉スラグ中に取り込まれ易くなる。
【0025】
フライアッシュ粒子に融液がほとんど生成していないときは、未溶解のフライアッシュ7は、燃焼ガスからなる気泡中のフライアッシュ8として、気泡とともに溶融高炉スラグ中を上昇し、スラグ表面上のフード4に覆われた上方空間に飛散する。
【0026】
空間に飛散したフライアッシュ9は、フード4内から排ガスダクト10を通って排ガス11とともに、排ガス冷却・集塵・吸引装置13により処理されて回収される。排ガスは、必要に応じて燃焼処理されて、煙突14から放散される。
【0027】
ランス3は、ランス外管15とランス内管16からなる二重管構造となっており、内管内をフライアッシュおよびフライアッシュ搬送用ガス6が流れ、内管と外管の間を酸素富化空気または酸素5が流れる。溶融高炉スラグ中に横向きにインジェクションするときは、ランス3の下部にインジェクション用のノズル17を水平に設置する。
【0028】
ランス外管の外側を耐火材料によって被覆して耐火性を持たせてることが望ましい。ランスを水冷構造として耐久性を持たせてもよい。このとき、ランス外管の外側を耐火材で被覆をしなくてもよいが、ランスからの抜熱による吸熱を抑制するため、ランス外管の外側を耐火材で被覆してもよい。
【0029】
未溶融状態のフライアッシュ粒子は、溶融高炉スラグに捕捉され難いので、フライアッシュが酸素富化空気または酸素などの気体とともに吹込まれるとき、未溶融状態のフライアッシュ粒子は、気体とともにスラグから飛散し易い。そのため、フライアッシュのスラグへの溶解歩留まりが低下する。しかし、フライアッシュ粒子の一部が溶解していると、フライアッシュ粒子に生成した融液の影響により、フライアッシュ粒子は、スラグに捕捉され易くなり、フライアッシュのスラグへの溶解歩留まりが向上する。
【0030】
フライアッシュをスラグ中に吹込むときは、ランスを降下させて、ノズルをスラグ中に浸漬する。スラグ表面からノズルまでの浸漬深さは、ノズルから溶融高炉スラグ中にインジェクションされたフライアッシュが、酸素とともに溶融高炉スラグ中を上昇し、スラグ表面に到達するまでに、フライアッシュ中の未燃炭素が酸素によって燃焼して、燃焼熱により、フライアッシュ粒子の一部が溶融するまでの時間が確保されるだけのノズル深さが必要である。
【0031】
また、ランスの損傷を緩和するために、ランスの先端近傍に、複数の吹込ノズルを横向きに設置して、酸素富化空気または酸素とともに、フライアッシュを、溶融高炉スラグ中に、横向きに、インジェクションしてもよい。
【0032】
横向きになるノズルの長さは、長い方が、ランス外表面に沿ったスラグの流れの強度を緩和することができるので、長いほど好ましいが、変形などに対する強度が低下するので、20〜300mmの範囲が望ましい。なお、ノズルは、水平方向に対して、上向きに45度から下向きに45度の範囲内に、さらに好ましくは、水平に設置する。
【0033】
スラグ中に吹込まれたフライアッシュに含まれる未燃炭素は、酸素富化空気または酸素と反応して燃焼する。このときの燃焼温度が、フライアッシュ粒子の一部が溶解する温度よりも高温であれば、フライアッシュの溶解歩留まりは向上する。なお、空気のみによりフライアッシュを吹込んでも、燃焼温度は、フライアッシュ粒子の一部が溶解する温度よりも高温にならないので、フライアッシュの吹込には、酸素富化空気または酸素を使用する必要がある。
【0034】
さらに、フライアッシュの溶解歩留まりを良くするためには、溶融高炉スラグ中にランスを浸漬して、ランスに設置したノズルより、酸素富化空気または酸素とともに、フライアッシュを、溶融高炉スラグ中に、横向きに、インジェクションすることが効果的である。すなわち、スラグ中に浸漬してインジェクションすることにより、フライアッシュ粒子がスラグ表面で跳ね返って、スラグ上方空間に飛散することを防ぐことが可能である。
【0035】
また、横向きにインジェクションすることにより、吹込んだガスは、ランス外壁にほとんど接することなく、スラグ中を上昇するので、ランス外壁を損耗することが少ない。
【0036】
溶融高炉スラグ中での燃焼温度は、実測することが困難であるため、燃焼温度としては、理論燃焼温度を用いる。すなわち、燃焼温度として、フライアッシュと空気、酸素富化空気または酸素との熱物質収支を断熱状態にあると仮定して計算した燃焼温度を、理論燃焼温度とし、これを指標とする。
【0037】
また、フライアッシュ粒子の一部が溶解する温度は、操業中に計測することが困難であるので、事前実験で確認する。すなわち、フライアッシュ粒子の一部が溶解する温度として、フライアッシュを成型したペレットを加熱炉内で昇温し、ペレットの高さが、700℃のときの高さの70%になったときの温度を、フライアッシュの溶融開始温度とし、これを指標とする。
【0038】
本発明者らは、理論燃焼温度がフライアッシュの溶融開始温度よりも高くなるようにすれば、フライアッシュの溶解歩留まりは向上するとの知見を得た。
【0039】
さらに、本発明者らは、理論燃焼温度が、フライアッシュの溶融開始温度よりも高くなるようにするとともに、スラグ表面からノズルまでの浸漬深さを0.5m以上とすれば、フライアッシュの溶解歩留まり向上に効果的であるとの知見を得た。
【0040】
これは、ノズルを横向きに吹くため、ノズル深さが0.5m未満では、フライアッシュの溶融スラグ中の滞留時間が短くなり、未溶融状態でガスとともに飛散するフライアッシュ粒子が多く残ってしまうためと考えられる。
【0041】
理論燃焼温度は、表1に示す熱物質収支の計算項目に従い、表2に示す物性値を用いて計算する。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表1に示す熱物質収支の計算項目を以下のように記す。表1中のinput項目に相当するフレームに供給される物質量を添え字iで、output項目に相当する燃焼後のフレームに存在する物質量を添え字oで記す。
【0045】
FA,i:フライアッシュ供給量(未燃炭素以外),kg/min
C,i:フライアッシュ中未燃炭素供給量,kg/min
C,o:フレーム中のフライアッシュ中未燃炭素の未燃量,kg/min
O2,i:O2ガス供給量,Nm3/min
N2,i:N2ガス供給量,Nm3/min
CO,o:フレーム中のCOガス量,Nm3/min
CO2,o:フレーム中のCO2ガス量,Nm3/min
O2,o:フレーム中のO2ガス量,Nm3/min
N2,o:フレーム中のN2ガス量,Nm3/min
【0046】
表2に示す物性値を、以下のように記す。
CpFA:フライアッシュ灰分(未燃炭素以外)の比熱,kcal/kg/℃
CpC:フライアッシュ中未燃炭素の比熱,kcal/kg/℃
CpCO:COガスの比熱,kcal/Nm3/℃
CpCO2:CO2ガスの比熱,kcal/Nm3/℃
CpO2:O2ガスの比熱,kcal/Nm3/℃
CpN2:N2ガスの比熱,kcal/Nm3/℃
C:フライアッシュ中未燃炭素の燃焼熱(C→CO2),kcal/kg
CO:COの燃焼熱(CO→CO2),kcal/Nm3
【0047】
表1に示す熱物質収支の計算結果と、表2に示す物性値から、理論燃焼温度Tf(℃)を次の式(1)から計算することができる。
C,i*QC=WC,o*QC+FCO,o*QCO+(CpFA*WFA,i+CpC*WC,o
+CpCO*FCO,o+CpCO2*FCO2,o+CpO2*FO2,o
+CpN2*FN2,o)*(Tf−25) ・・・・・・・・・・・(1)
【0048】
なお、フライアッシュ粒子の一部が溶解する温度(溶融開始温度)は、以下のように、実験により求める。フライアッシュを直径3mm、高さ3mmに成型したペレットを加熱炉により、アルゴンガス雰囲気中で昇温する。加熱速度は、室温から1000℃までは、毎分10℃とし、1000℃から1500℃までは、毎分5℃とする。
【0049】
室温から700℃までの高さの変化は、ほとんどないことから、700℃のときの高さを基準とし、ペレットの高さが700℃のときの高さの70%になったときの温度を、フライアッシュの溶融開始温度とする。
【0050】
フライアッシュが溶融された溶融スラグは、その後、通常の方法で水砕処理すればよく、フライアッシュを有効利用した高炉水砕スラグを製造することができる。この高炉水砕スラグは、高炉スラグ骨材として有効利用できる。
【実施例】
【0051】
本発明のフライアッシュの溶解歩留まりが向上する高炉水砕スラグの製造方法の実施例を以下に示す。
【0052】
(実施例1)
図1に示すフライアッシュのインジェクション溶解方法に基づく高炉水砕スラグの製造方法の実施例を記す。
【0053】
高炉スラグ貯留容器2に50トン貯留された溶融高炉スラグ1に、インジェクションランス3を浸漬し、ランスに横向き水平に設置したノズルが1mの深さとなるようにし、表3に示す成分組成のフライアッシュおよびフライアッシュ搬送用ガス6の搬送用ガスを空気とし、酸素純度99%の酸素5とともに、図2に示すようなランス下部に設置したノズルより横向きに融高炉スラグ中にインジェクションする。
【0054】
フライアッシュの吹込量は115kg/min、搬送用空気の使用量は3.5Nm3/minである。酸素5の使用量は14Nm3/minである。
【0055】
未溶解のフライアッシュ7は、燃焼ガスからなる気泡中のフライアッシュ8として、気泡とともに、溶融高炉スラグ中を上昇し、スラグ表面上のフード4におおわれた上方空間に飛散する。
【0056】
空間に飛散したフライアッシュ9は、フード4内から排ガスダクト10を通って排ガス11とともに、排ガス冷却・集塵・吸引装置13により処理されて回収される。排ガスは、必要に応じて燃焼処理されて煙突14から放散される。
【0057】
表3に示す成分のフライアッシュを成型したペレットを、加熱炉内で昇温し、フライアッシュの溶融開始温度を求めた。加熱過程でのフライアッシュペレットの形状を観察した結果を、図3および図4に示す。このフライアッシュの溶融開始温度は1425℃であった。
【0058】
【表3】

【0059】
表3に示す成分のフライアッシュ115kg/minを、搬送空気量3.5Nm3/minで、高炉スラグ中にインジェクションするときの、理論燃焼温度と酸素量の関係を、図5に示す。酸素量14Nm3/minのとき、理論燃焼温度は、このフライアッシュの溶融開始温度1425℃に達する。
【0060】
ランスに設置したフライアッシュインジェクションノズルが深さ1mになるように、インジェクションランスを溶融高炉スラグに浸漬した。表3に示す成分のフライアッシュ115kg/minを、搬送空気量3.5Nm3/min、富化酸素量14Nm3/minで、ランス下部に設置したノズルより、横向きに、融高炉スラグ50トン中に吹込んだ。
【0061】
フライアッシュを5トン吹込んで溶解作業を終了し、飛散したフライアッシュ量を秤量したところ、100kgであり、吹込んだフライアッシュの2%が飛散していたが、98%の歩留まりで溶解することができた。なお、溶融スラグ粒子の飛散は殆どなく、高炉スラグ鍋の蓋には殆ど付着物は発生しなかった。
【0062】
(比較例1)
ランスに横向きに設置したフライアッシュインジェクションノズルが深さ1mになるように、インジェクションランスを溶融高炉スラグに浸漬した。表3に示す成分のフライアッシュ(溶融開始温度:1425℃)115kg/minを、搬送空気量3.5Nm3/min、酸素量10Nm3/minで、ランス下部に設置したノズルより、横向きに、融高炉スラグ50トン中に吹込んだ。このときの理論燃焼温度は900℃である。
【0063】
フライアッシュを5トン吹込んで、溶解作業を終了し、飛散したフライアッシュ量を秤量したところ、1000kgであり、吹込んだフライアッシュの20%が飛散し、溶解歩留まりは80%であった。なお、溶融スラグ粒子の飛散は殆どなく、高炉スラグ鍋の蓋には、殆ど付着物は発生しなかった。
【0064】
ここで、表3に示す成分のフライアッシュ115kg/minを、搬送空気量3.5Nm3/minで、溶融高炉スラグ50トン中に、インジェクションノズルより吹込んだときに、富化酸素量を変化させたときの吹込んだフライアッシュ質量に対する、スラグ上方空間に飛散して回収されたフライアッシュ質量の比率を、酸素量10Nm3/minのときの飛散フライアッシュ質量を基準とした相対飛散率を、図6に示す。
【0065】
酸素量が14Nm3/min以上のとき、すなわち、理論燃焼温度がフライアッシュの溶融開始温度1425℃以上になると、相対飛散率が低下することがわかる。
【0066】
溶融高炉スラグ50トン中に5トンのフライアッシュを溶解しようとすると、飛散率が20mass%なので、6.25トンのフライアッシュをインジェクションする必要があり、その内の1.25トンは、飛散するため、回収処理して、再度、インジェクションしなければならない。
【0067】
一方、実施例1においては、溶融高炉スラグ50トン中に、5トンのフライアッシュを溶解しようとすると、飛散率が2質量%なので、5.10トン強のフライアッシュをインジェクションすればよい。
【0068】
比較例1では、飛散したフライアッシュ量が1.25トンであるのに対し、実施例1では0.10トン強になる。すなわち、実施例1のようにフライアッシュの溶融開始温度以上の理論燃焼温度でインジェクションすることにより、回収処理して、再度、インジェクションしなければならない量は、比較例1のように、フライアッシュの溶融開始温度以下の理論燃焼温度でインジェクションする場合に比べ、1/10よりも少ない量となる。
【0069】
したがって、フライアッシュの溶融開始温度以上の理論燃焼温度でインジェクションすることにより、フライアッシュの溶融開始温度以下の理論燃焼温度でインジェクションする場合に比べ、飛散したフライアッシュを回収処理するコストやフライアッシュをインジェクションするのに要するコストが低減され、フライアッシュ溶解に関わる経済性が向上する。
【0070】
(比較例2)
ランスに横向きのノズルを設置せずに、ランス先端から下向きに、フライアッシュを、溶融高炉スラグ中にインジェクションした。ランス先端が深さ1mになるように、インジェクションランスを、溶融高炉スラグに浸漬した。表3に示す成分のフライアッシュ(溶融開始温度:1425℃)115kg/minを、搬送空気量3.5Nm3/min、富化酸素量14Nm3/minで、溶融高炉スラグ中に、インジェクションノズルより、溶融高炉スラグ50トン中に吹込んだ。このときの理論燃焼温度は1425℃である。
【0071】
フライアッシュを5トン吹込んで溶解作業を終了し、飛散したフライアッシュ量を秤量したところ。100kgであり、吹込んだフライアッシュの2%が飛散し、溶解歩留まりは98%であった。
【0072】
しかしながら、ランス外管の表面に被覆した耐火材料は、スラグに浸漬していた範囲にわたり、溶損があった。耐火材料による補修の頻度が高く、経済的でないことがわかった。なお、溶融スラグ粒子の飛散は殆どなく、高炉スラグ鍋の蓋には殆ど付着物は発生しなかった。
【0073】
(実施例2)
ランスに横向きに設置したフライアッシュインジェクションノズルが、深さ0.4mになるように、インジェクションランスを溶融高炉スラグに浸漬した。表3に示す成分のフライアッシュ(溶融開始温度:1425℃)115kg/minを、搬送空気量3.5Nm3/min、酸素量14Nm3/minで、ランス下部に設置したノズルより、横向きに、融高炉スラグ50トン中に吹込んだ。このときの理論燃焼温度は1425℃である。
【0074】
フライアッシュを5トン吹込んで溶解作業を終了し、飛散したフライアッシュ量を秤量したところ、270kgであり、吹込んだフライアッシュの5.4%が飛散し、溶解歩留まりは84.6%であった。なお、溶融スラグ粒子の飛散は発生したものの、高炉スラグ鍋の蓋への付着は、僅かにとどまった。
【0075】
表3に示す成分のフライアッシュ115kg/minを、搬送空気量3.5Nm3/min、酸素量14Nm3/minで、溶融高炉スラグ50トン中に、インジェクションノズルより横向きに吹込んだときに、溶融高炉スラグに浸漬するノズル深さを変化させたときの吹込んだフライアッシュ質量に対するスラグ上方空間に飛散して回収されたフライアッシュ質量の比率を、溶融高炉スラグに浸漬するノズル深さが1mのときの飛散フライアッシュ質量を基準とした相対飛散率で、図7に示す。
【0076】
ノズル深さが0.5m以上のとき、相対飛散率が低下することがわかる。
【0077】
したがって、溶融高炉スラグに浸漬するノズル深さ0.5m以上でインジェクションすることにより、ノズル深さ0.5m未満でインジェクションする場合に比べ、飛散したフライアッシュを回収処理するコストやフライアッシュをインジェクションするのに要するコストが低減され、フライアッシュ溶解に関わる経済性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明のインジェクション溶解方法の一例を示す図である。
【図2】本発明のインジェクションランスとノズルの一例を示す図である。
【図3】本発明のフライアッシュペレットの加熱時の高さ変化の一例を示す図である。
【図4】本発明のフライアッシュペレットの加熱時の高さ変化の一例を示す図である。
【図5】本発明の酸素量と理論燃焼温度の関係の一例を示す図である。
【図6】本発明の酸素量とフライアッシュの相対飛散率の関係の一例を示す図である。
【図7】本発明のノズル深さとフライアッシュの相対飛散率の関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 溶融高炉スラグ
2 高炉スラグ貯留容器
3 インジェクションランス
4 フード
5 酸素富化空気または酸素
6 フライアッシュおよびフライアッシュ搬送用ガス
7 未溶解のフライアッシュ
8 気泡中のフライアッシュ
9 空間に飛散したフライアッシュ
10 排ガスダクト
11 排ガス
12 フード昇降装置
13 排ガス冷却・集塵・吸引装置
14 煙突
15 ランス外管
16 ランス内管
17 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグ鍋に貯留した溶融高炉スラグ中に、フライアッシュを、酸素富化空気、または酸素とともに、インジェクションして溶解した後、水砕処理する高炉水砕スラグの製造方法であって、
フライアッシュに含まれる炭素を、酸素富化空気または酸素により燃焼するときの理論燃焼温度を、該フライアッシュの溶融開始温度よりも高温となるように該酸素富化空気又は酸素の量を調節するとともに、
溶融高炉スラグ中にランスを浸漬して、該ランスに設置したノズルより、前記酸素富化空気または酸素とともに、前記フライアッシュを、前記溶融高炉スラグ中に、横向きにインジェクションする
ことを特徴とする高炉水砕スラグの製造方法。
【請求項2】
前記ランスに設置したノズルを、0.5m以上の深さで、溶融高炉スラグに浸漬して、フライアッシュを、溶融高炉スラグ中にインジェクションすることを特徴とする請求項1記載の高炉水砕スラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−266035(P2008−266035A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106916(P2007−106916)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】