説明

高破断伸度のセルロース系マスターバッチ、その応用および製造方法

【課題】高破断伸度を有する新規のセルロース系繊維およびそれを調製する方法、およびセルロース系繊維を調製するための溶融紡糸工程において好適に用いられるマスターバッチを提供すること。
【解決手段】本発明に開示されているのは、セルロース系マスターバッチおよび/または高破断伸度を有する繊維を生成するための熱可塑性セルロース組成物である。一つの例において、前記熱可塑性セルロース組成物は、約77重量%〜約95重量%の範囲内のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約15重量%の範囲内のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の範囲内の二官能性反応物、約0.01重量%〜約0.15重量%の範囲内の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の範囲内の分散剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系線維に関する。更に詳しくは、本発明は、高破断伸度(breaking elongation)を有するセルロース系繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維(cellulose fiber or cellulosic fibers)は、十九世紀末から発展させられている人工繊維である。例えば、銅アンモニア法で知られる複雑なプロセスで天然繊維が処理され、精製(または再生)されたセルロースを生成する。或いは、酢酸セルロースなどのエステル化された繊維を産出するために、天然繊維が化学改質され、その後、セルロース繊維は、得られたセルロースまたはセルロースの誘導物から作成される。二十世紀初頭に、レーヨンや酢酸繊維を含めた人工繊維は既に、市場での地位を得た。
【0003】
しかしながら、二十世紀の中葉において、石油化学技術の急速な発達ゆえに、ナイロンやポリエステル繊維などの低コスト且つ製造が容易な合成繊維は、人工繊維の代わりに、繊維工業の主流の製品になった。
【0004】
最近、資源の激減および石油価格の高騰により、繊維業界を合成繊維以外の繊維の開発に向かっている。こうして、セルロース系繊維は再び研究や開発に注目されている。
【0005】
セルロース系繊維を調製するための従来の方法は、湿式紡糸、乾式紡糸、および溶融紡糸を含む。
湿式紡糸と乾式紡糸との工程は、いずれも二硫化炭素とジクロロメタンなどの有機溶剤を使用する。これらの有機溶剤が環境を損なうのを防止するためには、溶剤を回収しなければならないので、プロセスの複雑さとコストが必然的に増加する。
【0006】
溶融紡糸工程は、後に溶融紡糸されたセルロース系繊維となる溶融紡糸可能な組成物(マスターバッチ)を得るために、エステル化されたセルロースにおいて、大量の低分子量の可塑剤(分子量は1000Daを超えない)を加えることを含む。通常、前記溶融紡糸可能な組成物における前記可塑剤の量は、50〜90重量%であってもよい。しかしながら、低分子量の可塑剤は、普通、紡糸の高温(200℃を超える)に耐えられないので、繊維破断を招き、更に繊維の機械強度と破断伸度を低下させてしまう。繊維の破断伸度は、製織工程において、重要な役割を担う。低破断伸度を有する繊維は、巻取り時に破断することがあり、それによって製織工程が中断されることがある。最悪の場合、繊維の破断が製織装置に重大な損害を与えることがある。上記に述べられた不都合は、溶融紡糸されるセルロース系繊維の商業化を妨げる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に鑑みて、かかる分野における急務は、高破断伸度を有する新規のセルロース系繊維およびそれを調製する方法、およびセルロース系繊維を調製するための溶融紡糸工程において好適に用いられるマスターバッチを提供することである。
【0008】
以下に、読者に基本的な理解をしてもらうため、本開示の簡略された概要を示す。この概要は、本開示の広範な概観ではなく、本発明の重要または決定的な要素を特定せず、本発明の範囲も明示しない。その唯一の目的は、ここに開示しているいくつかの概念を、簡略化された形式で示して、後に示される詳細な説明の前置きとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、熱可塑性セルロース組成物に関する。本発明の実施態様によれば、このような組成物の可塑剤の量は実質上従来技術の量より低く、それにより、得られた前記セルロース系繊維の物性の向上を促進することができる。更に、このような組成物から調製されたマスターバッチは、溶融紡糸工程において好適に用いられる。溶融紡糸工程は、湿式紡糸工程と異なり、有機溶剤を必要としないので、湿式紡糸工程によって直面する環境問題および溶剤回収のコストを避けることができる。また、それから生成された前記セルロース系繊維は、少なくとも約25%の破断伸度を有する。
【0010】
本発明の一実施態様により、熱可塑性セルロース組成物は、約77重量%〜約95重量%の範囲内のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約15重量%の範囲内のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の範囲内の二官能性反応物(bifunctional reactant)、約0.01重量%〜約0.15重量%の範囲内の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の範囲内の分散剤を含む。
【0011】
他の態様において、本発明は、高破断伸度を有するセルロース系マスターバッチに関する。前記セルロース系マスターバッチは、上記に述べられた態様および/または実施態様による熱可塑性セルロース組成物から調製されており、セルロース系繊維を生成するための溶融紡糸工程において好適に用いられる。
【0012】
本発明の一実施態様により、前記マスターバッチは、約77重量%〜約95重量%のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約15重量%のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の二官能性反応物、約0.01重量%〜約0.15重量%の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の分散剤を含む。前記二官能性反応物は、いずれも反応性末端基(官能基)を有する二つのターミナル(terminal)を有する。前記反応性末端基は、高温においてフリーラジカルになり、それによって、前記エステル化されたセルロース分子が連続相を有するマトリックスを形成して、前記ポリエチレングリコール分子が前記マトリックスにわたって分布するように、少なくとも一部の二官能性反応物は、その反応性末端基を、二つのエステル化されたセルロース分子の末端基にそれぞれ結合させる。
【0013】
本発明の実施態様によると、前記セルロース系マスターバッチは、下記のステップを含む方法により調製される。まず、上記に述べられた態様/実施態様による熱可塑性セルロース組成物が調製される。その次に、前記組成物は、約180〜220℃の温度で合成される。前記合成される組成物は、前記セルロース系マスターバッチを形成するように粒状化される。
【0014】
更に他の態様において、本発明は、高破断伸度を有するセルロース系繊維に関する。従って、前記セルロース系繊維は、より優れた製織性を示し、商業上の製織装置において好適に用いられる。
【0015】
本発明の一実施態様により、前記高破断伸度を有するセルロース系繊維の破断伸度は、少なくとも28%を有する。
【0016】
本発明の一つ選択的な実施態様により、前記高破断伸度を有するセルロース系繊維は、少なくとも0.8gf/denの破断強度を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の様々な実施態様により、前記高破断伸度を有するセルロース系繊維は、本発明の上記に述べられた態様/実施態様による前記マスターバッチから生成され、および/または本発明の上記に述べられた態様/実施態様による前記方法により生成される。
本発明によると、熱可塑性セルロース組成物から得られたセルロース系繊維の物性の向上が促進され、その組成物から調製されたマスターバッチも、溶融紡糸工程において好適に用いられることができ、更に、それから調製されたセルロース系繊維は、少なくとも約25%の破断伸度を有する。また、前記セルロース系繊維は、より優れた製織性を示し、それにより商業上の製織装置において好適に用いられる。
【0018】
多くの従属する特徴は、下記の詳細な説明を参照することにより、迅速且つ容易に理解される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
下記に提示されている詳細な説明は、本発明の実施例の説明として意図されるものであり、本発明の実施例は、構築されて利用される唯一の形式を代表するように意図されるものではない。この説明は、実施例の機能、および実施例を構築して操作するためのステップの順序を述べる。しかし、異なる実施例によって、同じまたは均等な機能および順番に達成することもある。
【0020】
破断伸度(または引張破断伸び(elongation at break))は、繊維が断裂する時に記録される伸度であり、繊維の柔軟性を決める重要なファクターの一つである。破断伸度は、下記のように原長に対するパーセントで示すことができる。
破断伸度(%)=(Lf−L0)/L0×100%
なお、L0は繊維の原長であり、Lfは繊維が破断する時の長さである。
【0021】
一般的には、商業上の製織装置(編成および平織り製織を含む)に用いる繊維は、少なくとも25%の破断伸度を有するべきである。製織および/または巻取り工程の時、25%より低い破断伸度を有する繊維は破断する恐れがあり、それによって製織工程が中断されることがある。最悪な場合には、繊維の破断が製織装置に重大な損害を起こすことがある。
【0022】
破断伸度に加えて、繊維の強度(または破断強度)も繊維の製織性に関与する。商業上の製織装置に用いる繊維では、その強度は最低限で約0.5gf/denが必要である。従って、破断伸度および強度は、両方ともセルロース系繊維の商業化にとって重要である。
【0023】
従来のセルロース系繊維の破断伸度は、よく20%より低いので、セルロース系繊維の繊維工業における応用を妨げる可能性がある。その点を考慮して、より高い破断伸度を有するセルロース系繊維を作成するための組成物、マスターバッチおよび方法は、本開示により提供されている。本発明のコンテキストにおいて、25%より高い破断伸度を有するセルロース系繊維は、より高い(高)破断伸度を有するセルロース系繊維と見なされる。特に、本発明における実施態様による前記繊維の破断伸度は、少なくとも28%、好ましくは少なくとも36%、より好ましくは少なくとも45%、更に好ましくは少なくとも69%を有する。
【0024】
上記に述べられた目標のため、また、その目的で、一態様において、本発明は熱可塑性セルロース組成物、およびそれからのセルロース系マスターバッチを調製するための方法に関する。
【0025】
本発明の実施態様により、前記熱可塑性セルロース組成物は、約77重量%〜約95重量%の範囲内のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約15重量%の範囲内のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の範囲内の二官能性反応物、約0.01重量%〜約0.15重量%の範囲内の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の範囲内の分散剤を含む。
【0026】
本発明の実施態様により、このような熱可塑性セルロース組成物を用いてマスターバッチを調製するための方法は、下記のステップを含む。まず、上記に述べられた態様/実施態様による熱可塑性セルロース組成物が調製される。その次に、前記組成物は、約180〜220℃の温度で合成される。前記合成される組成物は、前記セルロース系マスターバッチを形成するように粒状化される。
【0027】
特に、前記組成物における成分は、特定された重量比に従って混合される。その次に、混合された組成物は合成される。一般には、前記合成するステップは、約180〜220℃、好ましくは約180〜200℃の合成温度で行う。例えば、前記合成温度は約180、185、190、195、200、205、210、215、または220℃であってもよい。その後、前記合成された組成物は、セルロース系マスターバッチを得るようにペレット化(pelletize)される。
【0028】
幾つかの実施態様において、混合ステップ、合成ステップ、およびペレット化ステップは、押出機で行われる。マスターバッチを調製するためのいずれの慣用的押出機および押出す技術も、本発明の実施態様に従って実行されることができる。周知の合成装置は、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、ブラベンダー(brabender)、および混練機(kneader)を含むことができるが、それに限定されない。
【0029】
或いは、前記混合ステップ、合成ステップ、および/またはペレット化ステップは、独立した設備において行われてもよい。一実施例において、前記混合ステップは、いずれの好適な容器または攪拌器においても実行されることができ、その次に、前記混合されている組成物は、合成およびペレットをするための押出機に供給される。
【0030】
本発明の原則と精神によると、前記熱可塑性セルロース組成物は、二官能性反応物を採用する。合成ステップにおいて、前記二官能性反応物における二つの官能基は、フリーラジカルになり、二つのエステル化されたセルロース分子の主鎖における末端基とそれぞれ反応することができる。二つのエステル化されたセルロース分子を結合することによって、前記エステル化されたセルロース分子の長さは延ばされることができる。
【0031】
ポリマーにおいて、より短い分子鎖のレベルが増加すれば、前記ポリマー分子にわたる不連続相が現れることはよく知られている。よって、前記二官能性反応物の作用の結果である、より長い分子鎖は、前記ポリマーの中に連続相を作成するのに役立つ可能性がある。溶融紡糸工程において用いられる前記ポリマーについて、このような連続相構造は、前記ポリマーの流動性と耐熱性を向上させるよう促進することができるので、有利な性質である。
【0032】
また、前記連続相構造は、前記ポリマーにわたる前記可塑剤(ポリエチレングリコール)の移動性も促進することができる。よって、本発明の実施態様により、前記可塑剤の分子量は、従来に用いられた可塑剤の分子量(それらは1,000Daを超えない分子量を有する)より高いことができる。例えば、前記可塑剤は、約1,000〜20,000Daの分子量を有するポリエチレングリコールであってもよい。具体的には、前記ポリエチレングリコールの分子量は、約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、11,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、または20,000Daであってもよい。600または1,000Daの分子量を有する従来の可塑剤と比べると、より高い分子量を有する可塑剤は、より熱に耐えるので、結果のマスターバッチの溶融紡糸可能性を向上させることを促進する。
【0033】
更に、前記ポリマーにわたる前記可塑剤の分散状態について、不連続相が相対的に多い構造を有するポリマーより、連続相が相対的に多い構造を有するポリマーがよい。従って、連続相が相対的に多い構造を有するポリマーにおける少量の可塑剤は、連続相が相対的に少ない構造を有するポリマーにおける多量の可塑剤と、均等の効果を達成できる。例えば、本発明の実施態様による組成物において、前記可塑剤は、約4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、または15重量%存在してもよい。
【0034】
本発明の原則と精神によると、いずれの好適なエステル化されたセルロースも、組成物に用いられることができる。前記エステル化されたセルロースの例示として、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、酢酸酪酸セルロース(CAB)、酢酸ペンタン酸セルロース、プロピオン酸n−酪酸セルロース、酢酸ラウリン酸セルロース、および酢酸ステアリン酸セルロースを含むが、それらに限定されない。また、前記組成物は、少なくとも二つのエステル化されたセルロースからなる混合物を含んでもよい。
【0035】
本発明の一実施態様により、前記エステル化されたセルロースは、少なくとも約50%のエステル化率(esterification ratio)を有する酢酸プロピオン酸セルロースであってもよい。酢酸プロピオン酸セルロースは、セルロースの水酸基がアセチル基とプロピオニル基に置換されたセルロースエステルである。前記用語「少なくとも約50%のエステル化率」とは、前記アセチル基とプロピオニル基が、少なくとも約50%の前記水酸基を置換することである。少なくとも約50%のエステル化率を有するエステル化されたセルロースは、熱加工に好適に用いられる。好ましくは、前記エステル化されたセルロースのエステル化率は、少なくとも約75%であり、より好ましくは、少なくとも約90%である。例えば、前記エステル化されたセルロースのエステル化率は、約50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、98%または更に高いものであってもよい。
【0036】
本発明の原則と精神によると、前記熱可塑性セルロース組成物は、二つのセルロース分子と結合できる二つの官能基を有する反応物のいずれを含んでもよい。二官能性反応物の例示的実施例は、ジアリルアミン、ジアリルトリメセート、ジアリルシアヌレート、イソシアヌル酸ジアリル、4−アミノフェニルスルホン、ビスフェノールA、ジアリルメラミン、ジアリルホスファイト、ジアリルフタレート(DAP)、ジアリルスルフィド、ジアリルスクシナート(DASu)、N,N’−ジアリルタルトルアミド(DATA)、ジアミノベンゼン、ジアミノジエチルスルフィド、またはジアミノフェニルエチレンを含むが、それらに限定されない。例えば、後記の実施例において、ジアリルアミンが利用されている。
【0037】
本発明の様々な実施態様によると、熱可塑性セルロース組成物における二官能性反応物の重量百分率は、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、または3である。
【0038】
前記開始剤の選択は、通常、用いられる二官能性反応物に依存する。開始剤の例示的実施例は、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化カリウム、またはベンジルジメチルケタール(BDK)を含むが、それらに限定されない。
【0039】
通常、少量の開始剤のみで、前記二官能性反応剤と前記エステル化されたセルロースの間の反応を開始できる。特に、前記熱可塑性セルロース組成物の前記開始剤の重量百分率は、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.11、0.12、0.13、0.14、または0.15重量%である。
【0040】
分散剤は、熱可塑性セルロース組成物における組成成分が均一に分布することを助ける。通常、前記分散剤は、C15〜C38のアルカン、C15〜C38のエステル、C15〜C38の有機酸、またはそれらの混合物であってもよい。後記に示される実施例において、前記組成物は、分散剤として約0.01重量%から約5重量%までのパラフィンを含む。特に、前記熱可塑性セルロース組成物の前記分散剤は、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5重量%である。
【0041】
本発明の原則と精神によると、ここに示される前記組成物および/または方法に用いられる可塑剤の量は、従来技術より遥かに低い。従って、前記マスターバッチの溶融紡糸可能性および前記結果のセルロース系繊維の物性は改良されることができる。
【0042】
従って、他の態様において、本発明は、高破断伸度を有するセルロース系マスターバッチに関する。前記セルロース系マスターバッチは、上記に述べられた前記態様および/または実施態様による前記熱可塑性セルロース組成物から調製されており、セルロース系繊維を作成するための溶融紡糸工程に好適に用いられる。更に、前記結果のセルロース系繊維の破断伸度は、25%より高い。
【0043】
本発明の一実施態様により、前記セルロース系マスターバッチは、約77重量%〜約95重量%のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約15重量%のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の二官能性反応物、約0.01重量%〜約0.15重量%の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の分散剤を含む。
【0044】
高破断伸度を有する前記セルロース系マスターバッチにおいて、前記二官能性反応物は、いずれも、反応性末端基(官能基)を有する二つのターミナルを有する。前記反応性末端基は、高温においてフリーラジカルになり、それによって、前記エステル化されたセルロース分子が連続相を有するマトリックスを形成して、前記ポリエチレングリコール分子が前記マトリックスにわたって分布するように、少なくとも一部の二官能性反応物は、その反応性末端基を、二つのエステル化されたセルロース分子の末端基にそれぞれ結合させる。
【0045】
更に他の態様において、本発明は、高破断伸度を有するセルロース系繊維を生成するための溶融紡糸工程に関する。従って、前記セルロース系繊維は、より優れた製織性を示し、商業上の製織装置において好適に用いられる。
【0046】
本発明の原則と精神によると、本発明の前記に述べられた態様/実施態様の前記セルロース系マスターバッチは、溶融紡糸工程にされており、それに従いに高破断伸度を有するセルロース系繊維を形成する。
【0047】
特に、溶融紡糸工程において、好適な紡糸温度は、約200〜260℃であり、例えば、約200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255または260℃であり、好適な紡糸速度は、約800〜1500M/minであり、例えば、約800、900、1000、1100、1200、1300、1400、または1500M/minである。
【0048】
本発明の実施態様によると、紡糸温度が約200〜260℃である時、溶融体の見掛け粘度(apparent viscosity)は、約20〜40Pa・sである。通常、溶融紡糸工程の時、前記溶融体は40Pa・sを超える見掛け粘度に達すれば、溶融体の保持による危険が増加する可能性がある。従って、前記紡糸装置は、溶融体の保持により高くなる圧力によって、損害を受ける可能性がある。一方、前記溶融体は、少なくとも20Pa・sの見掛け粘度に達することができなければ、前記紡糸圧力は低すぎて紡糸を実行できない可能性がある。従って、本発明の前記実施態様によるマスターバッチは、前記溶融紡糸工程に好適に用いられる。
【0049】
また他の態様において、本発明は、高破断伸度を有するセルロース系繊維に関する。前記セルロース系繊維は、本発明の態様/実施態様による前記方法および/または前記溶融紡糸工程によって、前記マスターバッチから生成されることができる。
【0050】
二つのエステル化されたセルロース分子の主鎖が、前記二官能性反応物の末端基により結合されているので、その分子鎖の長さが増加され、連続相構造が前記ポリマー分子にわたって作られている。前記連続相構造は、前記ポリマーの流動性と耐熱性の向上を促進することができ、それに従って、結果のセルロース系繊維の破断伸度は25%より高い。従って、前記セルロース系繊維は、より優れた製織性を示し、商業上の製織装置において好適に用いられる。
【0051】
本発明の実施態様によると、高破断伸度を有する前記セルロース系繊維の組成成分は、前記セルロース系マスターバッチの組成成分と類似している。つまり、前記セルロース系繊維は、約77重量%〜約95重量%のエステル化されたセルロース、約4.5重量%〜約15重量%のポリエチレングリコール、約0.01重量%〜約3重量%の二官能性反応物、約0.01重量%〜約0.15重量%の開始剤、および約0.01重量%〜約5重量%の分散剤を含み、少なくとも一部の二官能性反応物は、二つの反応性末端基が、二つのエステル化されたセルロース分子の分子鎖にそれぞれ結合し、それによって、前記分子鎖が連続相を形成して、前記ポリエチレングリコール分子が前記連続相にわたって分布する。
【実施例】
【0052】
ここに提供されるマスターバッチおよび繊維の性質を例示するために、本発明の実施態様によるいくつかの実施例が、以下に提供されている。
【0053】
簡潔に言えば、様々な実施例の熱可塑性セルロース組成物を得るために、二軸押出機で、表1に明記されている重量比により組成成分が混合された。その次に、前記二官能性反応物を前記エステル化されたセルロース分子と反応させるために、前記熱可塑性セルロース組成物は、二軸押出機で、約180〜200℃の温度で合成された。前記合成ステップの後、前記合成された組成物は、複数のセルロース系マスターバッチを形成するために、粒状化された。
【0054】
例えば、実施例1において、前記熱可塑性セルロース組成物を得るために、約87重量%の酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、約12重量%のポリエチレングリコール(PEG)、約0.5重量%のジアリルアミン、約0.45重量%のパラフィン、および約0.05重量%のベンジルジメチルケタール(BDK)が混合されている。その後、前記組成物が、合成且つ粒状化され、実施例1の前記マスターバッチを生成する。
【0055】
結果のマスターバッチは溶融紡糸工程に使用するのに適しているかどうかを検討するために、前記マスターバッチについて熱重量分析が行われ、熱分解の開始温度(Onset Temp.)を測定する。前記熱重量分析の結果は、表1に要約されている。
【0056】
また、セルロース系繊維は、実施例のマスターバッチから作成され、前記実施例は、紡糸温度が約240℃、紡糸速度が約1500m/minである溶融紡糸工程を有する。
【0057】
前記繊維は、繊維の破断伸度(Elongation)と破断強度(Tenacity)を測定するために、ASTM D2256に設定されている手順(シングルストランド法(Single−Strand Method)による糸の引張特性に対する標準試験方法)に従って引張強度試験機により更に測定された。分析の結果は、表1に要約されている。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示されるように、比較例の繊維は、17%の破断伸度を有し、それに比べ、実施例1〜4の各繊維の破断伸度は、それぞれ45%、69%、28%、および36%である。従って、ここで提供されている前記セルロース系繊維は、その破断伸度が、従来のセルロース系繊維の破断伸度より遥かに高い。例えば、実施例2の破断伸度は69%であり、比較例の破断伸度(17%)より3倍も高い。以上のことを考慮すると、本発明の実施態様による高破断伸度を有するセルロース系繊維の破断伸度は、少なくとも28%であり、好ましくは少なくとも36%、より好ましくは少なくとも45%、更に好ましくは69%である。
【0060】
また、表1に見られるように、比較例の繊維と比べると、ここで提供されている前記セルロース系繊維も、より優れた破断強度を示す。具体的には、実施例1〜4の繊維の破断伸度は、それぞれ0.93、0.8、0.9、および0.88gf/denであるので、本発明の一実施態様によるセルロース系繊維は、少なくとも約0.8gf/denの破断強度を有する。
【0061】
実施例1の繊維は、商業上の製織装置を用いて製織された。前記製織工程は、フィラメント破断無しに半時間以上続けられた。また、平織(plain weave)とピケ織(pique weave)もうまく製織された。
【0062】
上記の実施態様の説明は、単に例示として提供されており、様々な変化が、当業者により実行されることができる。上記の説明、実施例およびデータは、本発明の代表的実施態様の、構造と用途の詳細な説明を提供している。本発明の様々な実施態様は、ある程度の具体例と共に、または一つ以上の独自の実施態様に言及しながら上記に述べられているが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、開示されている実施態様に数多くの変更をすることが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性セルロース組成物であって、
77重量%〜95重量%の範囲内のエステル化されたセルロース、
4.5重量%〜15重量%の範囲内のポリエチレングリコール、
0.01重量%〜3重量%の範囲内の二官能性反応物、
0.01重量%〜0.15重量%の範囲内の開始剤、および
0.01重量%〜5重量%の範囲内の分散剤
を含む熱可塑性セルロース組成物。
【請求項2】
前記エステル化されたセルロースが、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸ペンタン酸セルロース、プロピオン酸n−酪酸セルロース、酢酸ラウリン酸セルロース、または酢酸ステアリン酸セルロースである請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項3】
前記エステル化されたセルロースが、少なくとも50%のエステル化率を有する酢酸プロピオン酸セルロースである請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールが、1,000〜20,000Daの分子量を有する請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項5】
前記二官能性反応物が、ジアリルアミン、ジアリルトリメセート、ジアリルシアヌレート、イソシアヌル酸ジアリル、4−アミノフェニルスルホン、ビスフェノールA、ジアリルメラミン、ジアリルホスファイト、ジアリルフタレート、ジアリルスルフィド、ジアリルスクシナート、N,N’−ジアリルタルトルアミド、ジアミノベンゼン、ジアミノジエチルスルフィド、またはジアミノフェニルエチレンである請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項6】
前記開始剤が、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化カリウム、またはベンジルジメチルケタールである請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項7】
前記分散剤が、C15〜C38のアルカン、C15〜C38のエステル、C15〜C38の有機酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の熱可塑性セルロース組成物。
【請求項8】
セルロース系マスターバッチであって、
77重量%〜95重量%のエステル化されたセルロース、
4.5重量%〜15重量%のポリエチレングリコール、
0.01重量%〜3重量%の二官能性反応物、
0.01重量%〜0.15重量%の開始剤、および
0.01重量%〜5重量%の分散剤
を含み、前記二官能性反応物は、いずれも二つの反応性末端基を有し、前記エステル化されたセルロース分子が連続相を有するマトリックスを形成して、前記ポリエチレングリコール分子が前記マトリックスにわたって分布するように、少なくとも一部の前記二官能性反応物は、二つの反応性末端基を、二つのエステル化されたセルロース分子の分子鎖にそれぞれ結合させるセルロース系マスターバッチ。
【請求項9】
前記セルロース系マスターバッチは、
請求項1〜7に記載の熱可塑性セルロース組成物を調製する工程、
前記組成物を180〜220℃の温度で合成する工程、および
前記セルロース系マスターバッチを形成するように、前記合成されている組成物を粒状化する工程
を含む方法により調製される、請求項8に記載のセルロース系マスターバッチ。
【請求項10】
セルロース系繊維を作成する方法であって、
請求項8に記載のセルロース系マスターバッチを調製する工程、および
200〜240℃の紡糸温度と、800〜1500m/minの紡糸速度で、前記セルロース系マスターバッチを溶融紡糸する工程
を含むセルロース系繊維を作成する方法。
【請求項11】
少なくとも28%の破断伸度を有するセルロース系繊維。
【請求項12】
前記セルロース系繊維は、少なくとも0.8gf/denの破断強度を有する請求項11に記載のセルロース系繊維。


【公開番号】特開2011−208122(P2011−208122A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10775(P2011−10775)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(504427651)財團法人紡織産業綜合研究所 (10)
【Fターム(参考)】