説明

高硬度ショット材

【課題】 本発明は、HV1000以上の高硬度と、セラミックスショット材以上の高靭性を有し、かつ十分な耐食性があり、安価に製造できる高硬度、高靱性および高耐食性の優れたショット材を提供する。
【解決手段】 B:5〜8mass%、Al:≦10mass%を含み、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、ガスアトマイズ法によって製造される鉄基高硬度ショット材。また、上記成分に加えて、Cr:≦25mass%を含む高硬度ショット材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度、高靱性および高耐食性の優れたショット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製品の寿命を長くするためにショットピーニング処理をすることは周知である。このショットピーニングは被処理材の表面に圧縮残留応力を付与し、疲労強度を改善できる有効な表面処理方法であり、ばねやギヤ等の自動車部品、あるいは金型材などにも適用されている。近年、浸炭焼入れ処理を行なったギヤなど、被処理材の高硬度化が進んでおり、これら部材へのショット材にも高硬度化が求められている。すなわち、表面硬度の高い被処理材に対し、低硬度なショット材を用いたショットピーニングでは高い圧縮残留応力が得られない。
【0003】
また、自動車等の更なる軽量化に伴い、益々高硬度な被処理材をショットピーニングする必要があるため、さらに高硬度を有するショット材が求められている。高硬度なショット材としてはジルコニアビーズやアルミナビーズなどのセラミックスがあるが、これらのセラミックスは金属粉末と比較し脆性であるため、ショットピーニングにより破砕しやすく、ショット材の寿命が短い。
【0004】
上記のような課題に対し、HV1400を超えるような高硬度および高靭性を有する超硬製ショット材、例えば、特開平8−323626号公報(引用文献1)に開示されているように、投射材として、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化タングステンなどの炭化物や窒化ハフニウム、窒化タンタルなどの窒化物、ホウ化ハフニウム、ホウ化タンタル、ホウ化タングステンなどのホウ化物等が使用されている。
【0005】
また、特開2002−36115号公報(引用文献2)には、高硬度および高靭性を有する鉄系アモルファスショット材が提案されている。さらに、特開2007−84858号公報(引用文献3)において、Fe,BおよびTi,Cr,Ni,Moを含む高硬度ショット材を提案しており、1150HVを超える高硬度材について記載している。この技術において、耐食性を改善するためにCr,Ni添加をも提案している。
【特許文献1】特開平8−323626号公報
【特許文献2】特開2002−36115号公報
【特許文献2】特開2007−84858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1のような投射材は、鋳鉄製ショット材などと比較し非常に高価である。また、特許文献2に開示されている高硬度および高靭性を有する鉄系アモルファスショット材は、硬度の上限がHV1100で、実施例においてはHV1000が最も高硬度となっており、HV1100を超えるような金属粉末を製造するのは非常に困難である。さらに、引用文献3においては、Fe,BおよびTi,Cr,Ni,Moを含む高硬度ショット材が提案されているが、しかし、場合によっては非常に高温高湿下で保管されるため、一部に発銹が見られることもあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、本発明はこの引用文献3に記載の技術をさらに進め、より耐食性をアップさせたものである。すなわち、本発明では、上記のような従来例における課題を解決するため、HV1000以上の高硬度と、セラミックスショット材以上の高靭性を有し、かつ十分な耐食性があり、安価に製造できるショット材を開発した。
【0008】
その発明の要旨とするところは、
(1)B:5〜8mass%、Al:≦10mass%を含み、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、ガスアトマイズ法によって製造されることを特徴とした鉄基高硬度ショット材。
(2)前記(1)に記載の成分に加えて、Cr:≦25mass%を含むことを特徴とした高硬度ショット材にある。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、本発明により高硬度、高靱性および高耐食性の優れたショット材 を安価に提供することができる極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明ショット材は、B:5〜8mass%、Al:≦10mass%を含み、残部Feおよび不可避的不純物よりなる。このショット材は、Fe−Bの状態図においてFe−Fe2 Bの2相領域において過共晶となる組成であるため、初晶となる高硬度なFe2 Bを、高靭性な鉄基固溶体もしくは鉄基固溶体とFe2 Bの共晶物が取り囲む組織を有する。このミクロ組織により、高硬度と高靭性を両立させることが出来る。
【0011】
さらに、Alを添加することにより耐食性を改善している。引用文献3において、耐食性アップを目的としCrを添加しているが、CrはBと化合しやすいため、多くはFe2 B中に固溶してしまう。したがって、鉄基固溶体相への固溶量が少なくなってしまう。そのため、鉄基固溶体相の耐食性改善は必ずしも十分ではない。そこで、発明者らは鋭意検討した結果、Al添加により効率よく耐食性をアップできることを明らかにした。
【0012】
このAlを添加した合金をガスアトマイズすると、AlはBと化合しにくい元素であるため、主に鉄基固溶体相に固溶し、耐食性をアップさせる。そのため、わずかな添加量においても耐食性アップの効果が大きいことがわかった。また、本発明合金を鋳造粉砕法で製造すると、凝固組織の粗大化により、ショット材として好適な数百μmで使用する場合、個々の粉末中でFe2 Bを鉄基固溶体もしくは鉄基固溶体とFe2 Bの共晶物が取り囲んだミクロ組織にはなりにくく、ガスアトマイズ法による作製が最適である。
【0013】
以下、本発明に係るショット材の成分組成の限定した理由を述べる。
B:5〜8mass%
Bは、上述したように、Fe−Bの状態図においてFe−Fe2 Bの2相領域において過共晶となる組成であるため、初晶となる高硬度なFe2 Bを、高靭性な鉄基固溶体もしくは鉄基固溶体とFe2 Bの共晶物が取り囲む組織を有する。このミクロ組織により、高硬度と高靭性を両立させることが出来る。しかし、5mass%未満ではFe2 Bが少なく、充分な硬度が得られず、また、8mass%を超えるとFe2 Bが多く生成しすぎるため、充分な靭性が得られない。したがって、その範囲を5〜8mass%とした。
【0014】
Al:≦10mass%
Alは主に鉄基固溶体相中に固溶し、耐食性を改善する効果が大きいが、10mass%を超えると脆性相が生成してしまうことから、上限を10mass%とした。ただし、その耐食性の改善を図るためには、0.5%は必要なことから、下限値としては0.5%とする。
Cr:≦25mass%
Crは耐食性を改善する効果があるため、Alを補うため25mass%未満の範囲で添加することが好ましい。しかし、25mass%を超えると融点が上昇しアトマイズ法による製造が困難になることから、その上限を25mass%とした。ただし、耐食性を得るためには1%以上必要なことから、その下限値を1%とする。
【0015】
アトマイズ法による製造
アトマイズ法は安価に大量の粉末を製造できる製造法であり、かつ本発明においてはFe−Fe2 B系過共晶組成(一部他元素により置換しても良い)の溶湯を急冷凝固させることにより、高硬度なFe2 Bを高靭性な鉄基固溶体または鉄基固溶体とFe2 Bの共晶物が取り囲んだミクロ組織にできるため、高硬度と高靭性を両立させた粉末が得られることから、その製造方法としてアトマイズ法とした。
【実施例】
【0016】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1および表2に示す組成に秤量した25kgの原料をアルミナ製坩堝でAr中にて誘導溶解し、坩堝底部の径5mm出湯ノズルより、1650℃にて出湯し、窒素ガスアトマイズにて粉末を製造した。その結果を表1および2に示す。表1に示す硬度については、各粉末を−125/+44μmに分級し、樹脂埋めした試料を用い、ミクロビッカース硬度計により測定した。測定荷重は300gでn=10の平均を算出した。
【0017】
また、耐クラック性については、上記の樹脂埋め試料を用い、ミクロビッカース硬度計にて200〜1000gの荷重で圧痕を打ち、クラックが発生した荷重で評価した。
表2に示す耐食性評価については、ガラス板に両面テープで粉末を敷詰め、70℃−95RH%−96時間の条件で、湿潤試験を実施した。全面発銹したものを×、一部発銹したものを△、発銹のなかったものを○とした。
【0018】
【表1】

表1に示すように、No.1〜8は本発明例であり、No.9〜12は比較例である。
【0019】
比較例No.9は成分組成としてB含有量が低いために、硬度(HV)が低い。No.10は逆にB含有量が高いために、硬度(HV)が高く、クラック発生荷重が500gと低い値でクラックが発生した。No.11はAl含有量が高いために、クラック発生荷重が500gと低い値でクラックが発生した。No.12はCr含有量が高いために、ノズル閉塞が起こった。これに対し、本発明例であるNo.1〜8はいずれも本発明の成分組成の条件を満たしていることから、硬度(HV)も最適硬度であり、かつクラック発生荷重も1000gないし1000g超でもクラックの発生は見られなかった。
【0020】
【表2】

表2に示すように、No.13は比較例であり、No.14〜19は本発明例である。
【0021】
比較例No.13は成分組成としてAl、Crを含有しないことから湿潤試験を実施した結果、全面に発銹が発生した。これに対し、本発明例であるNo.14〜15は成分組成としてCrを含有していないことから、耐食性がやや劣る結果となった。本発明例No.16はCrを含有しないがAlの含有量が高いことから耐食性は良好であった。その他本発明例No.17〜19はいずれも耐食性は良好であることが分かる。
【0022】
以上のように、アトマイズ法により安価に大量の粉末をFe−Fe2 B系過共晶組織の溶湯を急冷凝固させることにより、高硬度なFe2 Bを高靱性な鉄基固溶体または鉄基固溶体とFe2 Bの共晶物が取り囲んだミクロ組織が構成させることにより、高強度と高靱性を両立させた粉末を製造することを可能とした。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B:5〜8mass%、Al:≦10mass%を含み、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、ガスアトマイズ法によって製造されることを特徴とした鉄基高硬度ショット材。
【請求項2】
請求項1に記載の成分に加えて、Cr:≦25mass%を含むことを特徴とした高硬度ショット材。

【公開番号】特開2009−263756(P2009−263756A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118112(P2008−118112)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】