説明

高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法

【課題】電子工業用、耐熱性樹脂等の高機能性樹脂原料として用いられる高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法を提供する。
【解決手段】アダマンタノール類と、メタクリル酸誘導体またはアクリル酸誘導体とを原料として、高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法において、粗アダマンチル(メタ)アクリレート類中をアルカリ性水溶液で洗浄することを特徴とする高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子工業用、耐熱性樹脂等の高機能性樹脂原料として用いられる高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンチル基を持つモノマーは、一般に電子工業用、耐熱性樹脂等の高機能性樹脂原料として使用されており、特に半導体基板製造においてフォトレジスト用モノマーとして使用されている。このフォトレジスト用途には、金属不純物類、ハロゲン類、原料や生成物に起因するオリゴマー類等の重合物を含む有機不純物を極力低減したモノマーが求められている。しかしながらアダマンチル(メタ)アクリレート類を目的どおりに高純度に製造出来たとしても、その後の貯蔵時に重合や分解による分解生成物の増加で有機不純物が増加し純度が低下する問題があり、モノマー自体の保存安定性を改良することが求められていた。純度低下をもたらす原因として不純物の存在が挙げられるが、特に無機アニオン類やハロゲン化物は重合や分解の原因となることが知られている。
【0003】
これらのモノマーの貯蔵中における重合や分解抑制について、例えば重合防止には冷蔵保存や重合禁止剤を予め添加する方法も挙げられるが(特許文献1参照)、前者は低温倉庫への貯蔵が必要で経済的に好ましく無く、後者は製品の着色やレジストポリマー合成時の重合速度が変化するなど品質に影響を与えるため、使用量や種類を制限されており有効な手段ではなかった。
【特許文献1】特開2001−354619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来の製造技術における各課題を解決し、貯蔵中の分解や重合による純度低下を抑制し、重合禁止剤の多量使用や冷蔵保存などの特別な条件下で貯蔵しなくても保存安定性に優れた高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対し高純度モノマーを製造するだけではなく、その貯蔵時にも純度低下が抑制され、保存安定性に優れた高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類を供給するために鋭意研究を重ねた。その結果、反応後、各種精製操作を経て得られる高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類から、更に原料に由来するハロゲン類や洗浄で使用される硫酸、硝酸、リン酸等の無機アニオン類の残留濃度を低減化することで、アダマンチル(メタ)アクリレート類の保存安定性が著しく改善されることを見出して本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、アダマンタノール類と、メタクリル酸誘導体またはアクリル酸誘導体とを原料として、一般式(1)で表される高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法において、粗アダマンチル(メタ)アクリレート類中をアルカリ性水溶液で洗浄することを特徴とする高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法に関するものである。
【0007】
【化1】

(式中、R〜Rは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、エーテル基を有する炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のハロゲン含有アルキル基を示す。R〜Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン含有アルキル基を示す)。
【発明の効果】
【0008】
本発明で得られるアダマンチル(メタ)アクリレート類は、保存安定性に優れ貯蔵中に分解や重合による純度低下が抑制されるため、電子工業用分野におけるフォトレジスト用モノマーとして好適に使用する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明はアダマンタノール類を原料として、脱水縮合、エステル交換によって製造されるアダマンチル(メタ)アクリレート類を対象としているが、特に、酸を脱水剤として用いる反応や酸クロリドとアルコールの縮合による反応で製造されるアダマンチル(メタ)アクリレート類について好適に適用できる。これらのアダマンチル(メタ)アクリレート類としては、1−アダマンチルメタクリレート、1−アダマンチルアクリレート、2−アダマンチルメタクリレート、2−アダマンチルアクリレート、3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレート、3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリレート、3,5−ジヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレート、3,5−1−ジヒドロキシ−1−アダマンチルアクリレート、5,7−ジメチル−3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレート、5,7−ジメチル−3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリレート、アダマンチルジ(メタ)アクリレート、アダマンチルトリ(メタ)アクリレート、アダマンチルテトラ(メタ)アクリレートが例示される。
更に、それらに置換基を含むアダマンチル(メタ)アクリレート類が対象となり、その製造方法、条件などに対して何ら制限を受けるものでは無い。
【0010】
本発明で使用されるエステル化剤であるアクリル酸誘導体又はメタクリル酸誘導体は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ハライド、(メタ)アクリル酸無水物等が例示され、使用するプロセスにより任意に選択することができる。
【0011】
本発明において、上記で示された各アダマンチル(メタ)アクリレート類中の残留濃度が制限される無機アニオンは、原料から混入する塩素イオン、臭素イオン、フッ素イオンなどのハロゲン類、反応時の触媒や洗浄工程において金属カチオン類の除去を目的として使用される硫酸、硝酸、リン酸などに由来する硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンなどが例示され、それらの残留濃度は目的物中の濃度として合計100ppm以下が好ましい。
【0012】
目的とする各アダマンチル(メタ)アクリレート類を得るために製造工程中に通常実施される精製操作は、目的とするアダマンチル(メタ)アクリレートの性質により、洗浄、蒸留、晶析、再結晶、イオン交換、吸着等の公知の精製操作を1つ以上組み合わせて選択する事ができる。
【0013】
上記の各精製操作の中で無機アニオンを最も簡便且つ効率的に低減化する手段として、アルカリ性水溶液を用いて目的物を含む反応液(有機層)を洗浄する方法が上げられる。この洗浄方法についてはバッチ式、連続式の何れでも良く、その性質により目的物を直接洗浄する方法等も選択することが出来る。
【0014】
具体的に洗浄に使用されるアルカリ性水溶液として、NaOH、KOH、Na2CO3、NaHCO、NH4OH、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドの様なテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド類の水溶液が例示され、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0015】
また、アルカリ性水溶液の濃度は、1〜25重量%が好ましく、pHは8〜13.5、洗浄温度は10〜80℃の範囲で実施することができる。また洗浄回数は制限を受けるものではない。
【0016】
本発明に関し、その製造工程において、反応、精製操作時における重合禁止剤の使用や無機酸洗浄による金属不純物除去など半導体製造用モノマーとして必要な操作を実施することに関し何ら制限を与えるものではない。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何らの制限を受けない。
【0018】
実施例1
攪拌機、温度計、Dean−Stark水分離器、ジムロート冷却器、pH電極をつけた1Lの5つ口ジャケット付きセパラブルフラスコに1,3−アダマンタンジオール42.0g、メタクリル酸62.1g、p−メトキシフェノール0.19g、濃硫酸0.6g、溶媒としてトルエン375mlを仕込み、少量の空気を流しながら還流下(110℃)で5hr反応を行い、3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレートを含む反応液425gを得た。得られた反応液に水336gと25重量%NaOH水溶液78gを液温35〜45℃の範囲でpH12.0まで攪拌しながら添加した。静置後、下層のアルカリを分離し、上層に残った反応液を、純水でpHが7になるまで水洗を繰り返した。更に、反応液を濃縮晶析し40℃で減圧乾燥し、目的物である3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレート(白色結晶)を得た。この3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレートについて、ガスクロマトグラフィーで純度を測定した結果、純度は99.7%であった。また、残留アニオンをイオンクロマトで測定した結果、硫酸イオンは2ppm、塩素イオンは、0.2ppm未満であった。
得られた結晶10gを、100mlビーカーに入れ70℃24時間で保存安定性試験を行った。保存試験前後の純度についてガスクロマトグラフィーで測定し分解率を決定した。結果を表1に示した。
【0019】
比較例1
実施例1に記載した方法より、洗浄方法を変更しアルカリ性水溶液を用いた洗浄を実施せず、水洗だけを繰り返した。その結果、3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレート中に、硫酸イオンが355ppm、塩酸イオンが0.2ppm残留している結晶について、実施例1と同様に70℃24時間の加速保存試験を行った。結果を表1に示す。
【0020】
実施例2〜3
実施例1に示した方法で合成し残留アニオン濃度が異なる3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレートについて、保存安定性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

表1に示したとおり、残留アニオン濃度を低減化した場合、24時間保存後の分解率が低下し、保存安定性向上に効果が見られた。
【0022】
実施例4
攪拌機、温度計、Dean−Stark水分離器、ジムロート冷却器、pH電極をつけた1Lの5つ口ジャケット付きセパラブルフラスコに1,3−アダマンタンジオール42.0g、アクリル酸54g、p−メトキシフェノール0.19g、濃硫酸0.6g、溶媒としてトルエン375mlを仕込み、少量の空気を流しながら還流下(110℃)で5hr反応を行い、3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリレートを含む反応液418gを得た。得られた反応液に水336gと25重量%NaOH水溶液78gを液温35〜45℃の範囲でpH12.0まで攪拌しながら添加した。静置後、下層のアルカリを分離し、上層に残った反応液を、純水でpHが7になるまで水洗を繰り返した。更に、反応液を濃縮晶析し40℃で減圧乾燥し、目的物である3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリレート(白色結晶)を得た。この3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリレートについて、ガスクロマトグラフィーで純度を測定した結果、純度は99.6%であった。また、残留アニオンをイオンクロマトで測定した結果、硫酸イオンは10ppm、塩素イオンは、0.2ppm未満であった。
得られた3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリレート20gを実施例1と同じく70℃24時間の保存安定性試験を実施した。その結果、分解率は0.1%となり、保存安定性に優れていることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アダマンタノール類と、メタクリル酸誘導体またはアクリル酸誘導体とを原料として、一般式(1)で表される高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法において、粗アダマンチル(メタ)アクリレート類中をアルカリ性水溶液で洗浄することを特徴とする高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法。
【化1】

(式中、R〜Rは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、エーテル基を有する炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のハロゲン含有アルキル基を示す。R〜Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のハロゲン含有アルキル基を示す)。
【請求項2】
洗浄後に残留する無機アニオン濃度が100ppm以下である請求項1記載の高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法。
【請求項3】
無機アニオン類がハロゲン類、硫酸イオン、硝酸イオンまたはリン酸イオンである請求項1記載の高純度アダマンチル(メタ)アクリレート類の製造方法。

【公開番号】特開2007−223932(P2007−223932A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45525(P2006−45525)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】