説明

高純度銀製造廃液の処理方法

【課題】高純度銀の製造工程において発生する廃液の排水処理負荷の軽減を図ること。
【解決手段】本発明の高純度銀製造廃液の処理方法は、銀を含む製錬中間物から亜硫酸塩水溶液により銀を浸出させる銀浸出工程と、浸出した浸出液を中和して塩化銀を析出させる塩化銀析出工程と、析出した塩化銀を酸性水溶液中で酸化処理して精製する塩化銀精製工程と、を有する高純度銀の製造方法において、前記塩化銀析出工程及び/又は前記塩化銀精製工程において発生した廃液に硫酸及び/又は塩酸を添加して前記廃液からSO2−を除去する脱SO2−工程と、前記脱SO2−工程で発生したSOガスを水酸化アルカリ金属及び/又は炭酸アルカリ金属塩の水溶液に吸収させて亜硫酸塩水溶液を得る亜硫酸塩水溶液生成工程と、を備え、前記亜硫酸塩水溶液生成工程で得られた亜硫酸塩水溶液を前記銀浸出工程で使用される亜硫酸塩水溶液として利用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度銀製造工程において発生する廃液の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、銀は、銅、鉛等の精錬における電解精製工程で発生するアノードスライムや、めっき液、写真現像液等の銀含有液の処理工程、貴金属の精錬工程等で発生する中間物等の製錬中間物から回収されている。これら製錬中間物から銀を回収する方法としては、例えば、亜硫酸塩水溶液を用いて製錬中間物から銀を浸出し、得られた浸出液を酸性にして塩化銀を析出させ、析出させた塩化銀を酸性水溶液中で酸化処理して精製し、精製された塩化銀をアルカリ水溶液中で還元して銀を得る方法が知られている(特許文献1参照)。この方法によれば、環境面や作業面において課題が残る乾式精錬を行うことなく、効率的に高純度銀を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4207959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、塩化銀を析出させる工程及び塩化銀を精製する工程においてSe、Te等の不純物や多量の亜硫酸イオン(SO2−)を含む廃液が発生する。そのため、該廃液の排水処理工程では、Se、Te等の不純物を還元処理により除去し、なおかつSO2−を中和処理する必要があり、多量の薬剤を要し、排水処理がコスト高となるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高純度銀の製造工程において発生する廃液の排水処理負荷の軽減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、発生した廃液を工程用薬剤として有効利用することで上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では以下のものを提供する。
【0007】
(1)銀を含む製錬中間物から亜硫酸塩水溶液により銀を浸出させる銀浸出工程と、浸出した浸出液を中和して塩化銀を析出させる塩化銀析出工程と、析出した塩化銀を酸性水溶液中で酸化処理して精製する塩化銀精製工程と、を有する高純度銀の製造方法において、上記塩化銀析出工程及び/又は上記塩化銀精製工程において発生した廃液に硫酸及び/又は塩酸を添加して上記廃液からSO2−を除去する脱SO2−工程と、上記脱SO2−工程で発生したSOガスを水酸化アルカリ金属及び/又は炭酸アルカリ金属塩の水溶液に吸収させて亜硫酸塩水溶液を得る亜硫酸塩水溶液生成工程と、を備え、上記亜硫酸塩水溶液生成工程で得られた亜硫酸塩水溶液を上記銀浸出工程で使用される亜硫酸塩水溶液として利用することを特徴とする高純度銀製造廃液の処理方法。
【0008】
(2)上記脱SO2−工程では、硫酸及び/又は塩酸添加後の廃液のpHが0〜4.5となるように硫酸及び/又は塩酸を添加する(1)に記載の高純度銀製造廃液の処理方法。
【0009】
(3)上記亜硫酸塩水溶液生成工程で得られた亜硫酸塩水溶液の亜硫酸塩濃度を150〜250g/Lに調整した後、当該調整後の亜硫酸塩水溶液を上記銀浸出工程で使用される亜硫酸塩水溶液として利用する(1)又は(2)に記載の高純度銀製造廃液の処理方法。
【0010】
(4)上記亜硫酸塩濃度を、上記脱SO2−工程でSO2−を除去した後の廃液を利用して調整する(3)に記載の高純度銀製造廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排水処理が必要な廃液を工程用薬剤として有効利用することができるので、不純物除去や中和処理といった廃液の排水処理に必要な薬剤の使用量を低減することができ、排水処理負荷の軽減が可能となる。また、工程用薬剤コストの低減も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る廃液の処理方法を適用した高純度銀の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】従来の高純度銀の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の廃液の処理方法について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る廃液の処理方法を適用した高純度銀の製造方法を示す工程図であり、図2は、本発明の廃液の処理方法が適用される高純度銀の製造方法、すなわち、従来の高純度銀の製造方法の一例を示す工程図である。まず、図2を参照しながら、従来の高純度銀の製造方法について簡単に説明した後、図1を参照しながら、本発明の廃液の処理方法について詳細に説明する。
【0014】
[高純度銀の製造方法]
本発明の廃液の処理方法が適用される高純度銀の製造方法は、前処理工程と、銀浸出工程と、塩化銀析出工程と、塩化銀精製工程と、銀粉回収工程とを有する(図2)。かかる工程を有する高純度銀の製造方法では、原料として、銀を含む製錬中間物を使用する。該製錬中間物は、特に限定されるものではなく、例えば、難溶性銀化合物と不純物元素とを含む製錬中間物である、銅、鉛等の精錬における電解精製工程で発生するアノードスライムや、めっき液、写真現像液等の銀含有液の処理工程、貴金属の精錬工程等で発生する中間物等が挙げられる。ここで、製錬中間物に含まれる不純物元素としては、例えば、銅、ニッケル、鉛、鉄、コバルト、マンガン、硫黄、亜鉛、カドミウム、スズ、金のほか、ヒ素、アンチモン、ビスマス等のV族元素、セレン、テルル等のVI族元素、白金族元素等が挙げられる。貴金属を多く含むアノードスライムを原料として使用する場合、金やパラジウム等のより高価な貴金属を優先的に回収するため、まず塩素ガスによる浸出で金やパラジウムを浸出する。浸出液は別の工程で処理され、金やパラジウムが回収される。この塩素ガスによる浸出時に同時に生成される浸出残渣には、通常、銀が塩化銀の形でおよそ15〜30質量%含まれている。なお、本発明の製錬中間物には、上記のような塩素ガスによる浸出残渣や後述する前処理工程を経た製錬中間物も含まれる。
【0015】
<前処理工程>
前処理工程は、製錬中間物に水を添加し、該製錬中間物をレパルプ洗浄する工程である。レパルプ洗浄は、浸出残渣に付着している不純物、及び浸出残渣中の陰イオン、特にClを除去することを目的として行われる。前処理工程は、必須の工程ではないが、不純物の混入量を低減するという観点から行うことが好ましい。また、浸出残渣中にClが残存すると浸出時にpHが低下するためpH調整が必要となるが、このpH調整が不要となるという観点からも行うことが好ましい。
【0016】
<銀浸出工程>
銀浸出工程は、製錬中間物から亜硫酸塩水溶液により銀を浸出させる工程であり、製錬中間物に亜硫酸塩水溶液を添加することにより、錯イオンとして溶解した銀の浸出液を得ることができる。以下に、亜硫酸塩が亜硫酸ナトリウム(NaSO)であり、難溶性銀化合物が塩化銀である場合の反応式を示す。
(式)AgCl+NaSO→Na[Ag(SO)]+NaCl
【0017】
上記式では、塩化銀が亜硫酸ナトリウムと反応して、安定な銀のスルフィト錯塩(Na[Ag(SO)])が形成される。なお、この際、不純物元素の一部も溶解して浸出液に混入する。
【0018】
亜硫酸塩は、水溶性の亜硫酸塩であれば特に限定されるものではなく、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸セシウム、亜硫酸ルビジウム等が挙げられるが、これらの中でも、入手容易性、経済性の観点から亜硫酸ナトリウムが好ましい。本発明の廃液の処理方法は、この亜硫酸塩を廃液から得るという点に特徴があるが、詳細については後述する。
【0019】
亜硫酸塩水溶液の亜硫酸塩濃度は、特に限定されるものではないが、150〜250g/Lであることが好ましく、200〜250g/Lであることがより好ましい。なお、150g/Lに満たないと、亜硫酸塩水溶液に対する銀化合物の溶解度が低下するので、所望量を得るために大きな容量の設備が必要となる場合がある。また、亜硫酸塩濃度が250g/Lを超えると、亜硫酸塩が溶解し難くなる。
【0020】
銀浸出工程におけるpHは、8〜12であることが好ましく、10〜11であることがより好ましい。pHが8未満であると、亜硫酸塩が重亜硫酸塩に急速に変化し始め、銀化合物の溶解が不十分となる場合がある。pHが12を超えると、銀のスルフィト錯塩(亜硫酸塩が亜硫酸ナトリウムの場合には、Na[Ag(SO)])から金属銀が析出し、銀の見かけ上の浸出率が低下する場合がある。
【0021】
銀浸出工程における温度は、20〜80℃であることが好ましく、30〜60℃であることが好ましい。温度が20℃未満であると、亜硫酸塩の溶解度が低下するため、亜硫酸塩水溶液の亜硫酸塩濃度を所望の濃度(例えば、150g/L)にすることが困難となる場合がある。温度が80℃を超えると、銀のスルフィト錯塩(亜硫酸塩が亜硫酸ナトリウムの場合には、Na[Ag(SO)])から金属銀が析出し、銀の見かけ上の浸出率が低下する場合がある。
【0022】
銀浸出工程における銀の浸出率は、95%以上であることが好ましい。銀浸出工程において銀の浸出率が95%以上であれば、最終的に得られる銀の回収率を96%以上とすることができる。
【0023】
<塩化銀析出工程>
銀浸出工程は、上記銀浸出工程において得られた浸出液を中和して塩化銀を析出させる工程であり、上記浸出液を中和すると錯イオンとして存在することができなくなり、浸出液中の塩化物イオンと結合した塩化銀が析出される。なお、原料として用いる製錬中間物に塩化物以外の難溶性銀化合物が含まれる場合には、塩化銀として析出させるために所定量の塩化物イオンを添加する。塩化物イオンの供給源としては、塩酸、塩化ナトリウム等の水溶性塩化物を用いることが好ましい。
【0024】
浸出液を中和するための中和剤は、特に限定されるものではなく、例えば、硫酸、塩酸等が挙げられ、配管の耐食性、及びコストの観点から硫酸が好ましい。中和点のpHは、0〜4.5であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。上記銀浸出工程において得られた浸出液の中和点のpHを酸性域になるように調整すると、亜硫酸イオンが、亜硫酸水素イオン、亜硫酸、二酸化硫黄に順次変換され、銀との錯形成能力が失われる。中和点のpHを4.5以下になるように調整することで、ほぼ全量の銀を塩化銀として回収することが可能となる。なお、この浸出液の中和反応では、亜硫酸塩が分解することにより、SOガスが発生する。この発生したSOガスは、後述する亜硫酸塩水溶液生成工程にて、例えば、水酸化ナトリウム水溶液に吹き込み、亜硫酸ナトリウム水溶液として回収することで、上記浸出工程用薬剤として有効利用してもよい。
【0025】
塩化銀析出工程における温度は、特に限定されるものではないが、20〜100℃であることが好ましい。なお、この際、金、セレン、テルル、鉛等の不純物元素の一部も塩化物として析出するため、この時点では塩化銀の純度はそれほど高くない。そこで、析出物を固液分離した後、次工程で精製処理を行う。
【0026】
析出物を固液分離した後の濾液には、セレン、テルル等の不純物元素や多量のHSO、NaSO等が含まれている。そのため、通常、濾液は、次工程である塩化銀精製工程にて発生した濾液とともに廃液として排水処理が施された後、放流されることになる。これに対して、本発明の廃液の処理方法では、この濾液の一部又は全部を、上記浸出工程用薬剤として有効利用するという点に特徴があるが、詳細については後述する。
【0027】
<塩化銀精製工程>
塩化銀精製工程は、上記塩化銀析出工程において得られた析出物中の塩化銀を酸性水溶液中で酸化処理して精製する工程であり、上記析出物を酸化剤で酸化処理すると塩化物として析出しているセレン、テルル等の不純物元素が酸性水溶液中に溶解する。その結果、残った析出物は、実質的に塩化銀となるため、その後の固液分離、洗浄により、高純度塩化銀を得ることができる。
【0028】
酸化処理の方法は、特に限定されるものではないが、上記析出物を酸性水溶液中に懸濁し、酸化還元電位を調整しながら、塩化銀への汚染が少ない過酸化水素、塩素ガス、塩素酸塩等の酸化剤を添加するとよい。酸性水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等を好適に用いることができる。これらの中でも、塩酸は、酸化剤により塩素を生成して金属の形態で存在する不純物元素を溶解しやすく、かつ、想定される不純物元素の塩化物に対する溶解度が大きい点において特に好ましい。
【0029】
酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)は、特に限定されるものではないが、800〜1200mVに調整することが好ましく、900〜1000mVに調整することがより好ましい。酸化還元電位が800mV以上であれば、金属又は金属間化合物として存在し、かつ、酸化により酸性水溶液に可溶となる元素、例えば、セレン、テルル等の不純物元素を溶解させることができる。この工程における温度は、特に限定されるものではないが、40〜80℃であることが好ましい。温度が40℃未満であると、不純物の溶解反応が遅い場合がある。温度が80℃を超えると、酸化剤として過酸化水素又は塩素酸塩を用いた場合にこれらの自己分解も促進されるため、これらの酸化剤の使用量が増えることになる。
【0030】
上記酸化処理により残った析出物を固液分離した後の濾液は、酸性であり、また、セレン、テルル等の不純物元素やHSO、HCl等が含まれている。そのため、通常、濾液は、上記塩化銀析出工程にて発生した濾液とともに廃液として排水処理が施された後、放流されることになる。これに対して、本発明の廃液の処理方法では、この濾液の一部又は全部を、上記浸出工程用薬剤として有効利用するという点に特徴があるが、詳細については後述する。
【0031】
<銀粉回収工程>
銀粉回収工程は、上記塩化銀精製工程において得られた高純度塩化銀をアルカリ水溶液中で還元剤により還元処理して銀メタル粉を得る工程である。この工程を経た銀粉は、平均粒径が数百μmの粉状であり、99.99質量%以上の高純度である。
【0032】
還元処理の方法は、特に限定されるものではないが、上記塩化銀精製工程において得られた高純度塩化銀をアルカリ水溶液中に懸濁し、酸化還元電位を調整しながら、銀への汚染が少ないヒドラジン、糖類、ホルマリン等の還元剤を添加するとよい。アルカリ水溶液は、特に限定されるものではないが、銀に対して1〜5当量の水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリを用いて調製されたものが好ましい。1当量に満たないと、未還元の塩化銀が残留して、得られる金属銀を汚染する場合がある。5当量を超えると、過剰効果でコスト高となる場合がある。水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリとしては、特に限定されるものではないが、排水処理の負担が少なく、安価な水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリは、アルカリ水溶液のpHが13以上になるように添加することが好ましい。酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)は、−700mV以下で安定したところが終点となる。
【0033】
[廃液の処理方法]
次に、本発明の廃液の処理方法について説明する。本発明の廃液の処理方法は、上記塩化銀析出工程及び/又は上記塩化銀精製工程において発生した廃液に硫酸及び/又は塩酸を添加して上記廃液からSO2−を除去する脱SO2−工程と、上記脱SO2−工程で発生したSOガスを水酸化アルカリ金属及び/又は炭酸アルカリ金属塩の水溶液に吸収させて亜硫酸塩水溶液を得る亜硫酸塩水溶液生成工程と、を備え、上記亜硫酸塩水溶液生成工程で得られた亜硫酸塩水溶液を上記銀浸出工程で使用される亜硫酸塩水溶液として利用することを特徴とする。上記銀浸出工程において使用される亜硫酸塩水溶液が亜硫酸ナトリウム水溶液である本発明の一実施形態に係る廃液の処理方法について、図1に示す高純度銀の製造方法の工程図を用いて説明する。
【0034】
<脱SO2−工程>
本発明の一実施形態に係る廃液の処理方法では、図1に示すように、上記塩化銀析出工程及び上記塩化銀精製工程において発生した濾液の全てを廃液として排水処理するのではなく、その一部に硫酸を添加し、廃液からSO2−を除去する脱SO2−工程を施す。上記塩化銀析出工程において得られた析出物を固液分離した後の濾液には、セレン、テルル等の不純物元素の他に、銀のスルフィト錯塩(Na[Ag(SO)])から塩化銀に変化した際に分解したSO2−が多量に含まれている。上記塩化銀精製工程において酸化処理により残った析出物を固液分離した後の濾液にも、セレン、テルル等の不純物元素の他に、銀のスルフィト錯塩(Na[Ag(SO)])から塩化銀に変化した際に分解したSO2−が含まれている。これら濾液である廃液に、硫酸を添加すると、廃液中に溶存していたSO2−がSOガスとなり、廃液中からSOガスが放出される。
【0035】
硫酸の添加量は、特に限定されるものではなく、硫酸を添加することにより廃液のpHが0〜4.5となる量が好ましく、0.8〜1.0となる量がより好ましい。硫酸添加後の廃液のpHが0未満であると、上記浸出工程用薬剤として、又は該薬剤の濃度を調整するための希釈液としてリサイクル利用した後の工程において、中和剤の使用量が増加する場合がある。硫酸添加後の廃液のpHが4.5を超えると、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)までしか分解しない場合がある。この工程における温度は、特に限定されるものではないが、20〜40℃であることが好ましい。温度が20℃未満であると、NaSOが析出する場合がある。温度が40℃を超えると、効果の上積みはわずかでエネルギーコストが無駄になる場合がある。
【0036】
SOガスを放出させた後の廃液(以下、処理後水という)は、上記銀浸出工程における薬剤、すなわち、亜硫酸塩水溶液の亜硫酸イオン濃度を調整するための希釈液の代替品として利用してもよい。処理後水にはセレン、テルル等の不純物元素が含まれているが、これらは極微量であり、工程において使用する工業用水として問題はない。上記のように処理後水を有効に利用すれば、工業用水の使用量の削減を図ることができる。なお、処理後水の使用は、希釈液の全容量の30%を限度とすることで、表面状態が良好な高純度の銀インゴットを得ることができる。
【0037】
<亜硫酸塩水溶液生成工程>
本発明の一実施形態に係る廃液の処理方法における亜硫酸塩水溶液生成工程では、上記脱SO2−工程で発生したSOガスを回収し、水酸化ナトリウム水溶液に吸収させることにより亜硫酸ナトリウム水溶液を得る。水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜24質量%である。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が10質量%未満であると、亜硫酸ナトリウムの濃度が目的に達しない場合がある。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が24質量%を超えると、冬季の操業では固結する場合がある。この工程における温度は、特に限定されるものではないが、5〜30℃であることが好ましい。温度が5℃未満であると、亜硫酸ナトリウムの溶解度が低下し、結晶が析出する場合がある。温度が30℃を超えると、加湿が必要となる場合がある。
【0038】
上記亜硫酸塩水溶液生成工程にて得られた亜硫酸ナトリウム水溶液は、好ましくは亜硫酸ナトリウム濃度を150〜250g/L、より好ましくは200〜250g/Lに調整した後、上記銀浸出工程にて使用する亜硫酸ナトリウム水溶液の一部として利用する。亜硫酸ナトリウム濃度が150g/L未満であると、亜硫酸ナトリウム水溶液に対する塩化銀の溶解度が低下するので、所望量を得るために大きな容量の設備が必要となる場合がある。亜硫酸ナトリウム濃度が250g/Lを超えると、亜硫酸ナトリウムが溶解し難くなる。
【0039】
本発明の一実施形態に係る廃液の処理方法によれば、上記塩化銀析出工程や上記塩化銀精製工程において発生したSe、Te等の不純物や多量のSO2−を含む廃液を、上記銀析出工程用の薬剤である亜硫酸ナトリウム水溶液として有効に利用することができる。したがって、廃液の排水処理に必要な薬剤の使用量が低減されることにより、排水処理負荷が軽減されるだけでなく、上記銀析出工程用の薬剤の使用量も低減することができるので、高純度銀の製造工程に必要なコストの低減も可能となる。また、SOガスを放出させた後の廃液である処理後水は、上記銀浸出工程における薬剤、すなわち、亜硫酸ナトリウム水溶液の亜硫酸ナトリウム濃度を調整するための希釈液の代替品として利用することができる。処理後水を希釈液として有効利用すれば、工業用水の使用量の削減を図ることができる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良等は、本発明に含まれるものである。
【0041】
例えば、上記実施形態に係る廃液の処理方法では、上記亜硫酸塩水溶液生成工程において、SOガスを水酸化ナトリウム水溶液に吸収させて亜硫酸塩水溶液を得る場合について説明したが、これに限定されない。例えば、KOH、RbOH、CsOH、LiOH等の水酸化アルカリ金属及び/又はKCO、RbCO、CsCO等の炭酸アルカリ金属塩の水溶液に吸収させてもよい。
【0042】
例えば、上記実施形態に係る廃液の処理方法では、廃液からSO2−を除去する際に、硫酸を使用する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、塩酸、硫酸及び塩酸の混合液を使用してもよく、添加により廃液のpHが0〜4.5となる量が好ましく、0.8〜1.0となる量がより好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0044】
<試験例1>
試験用原料として、銅電解工程で産出されたアノードスライムを塩素ガスにより浸出して得た塩素浸出残渣を用いた。なお、該塩素浸出残渣をICP発光分光分析法(ICP−AES)により分析したところ、表1に示す組成であった。
【0045】
【表1】

【0046】
(1)前処理工程A
上記塩素浸出残渣45g(湿潤重量)を容量1Lのビーカーに入れ、合計量が400mlとなるように水を添加し、レパルプした。レパルプ後の残渣は、湿潤重量で47gであり、濾液はおよそ400mlであった。
(2)銀浸出工程A
上記前処理工程Aのレパルプ後の残渣47gに、市販の亜硫酸ナトリウムを用いて調製した亜硫酸ナトリウム水溶液(230g/L)を添加し、1時間撹拌して銀を浸出した。なお、浸出時のpHは、およそ10.5であった。次いで、濾過及び洗浄を行い、浸出液400mlと、残渣23g(湿潤重量)を得た。
【0047】
(3)塩化銀析出工程A
上記銀浸出工程Aにて得られた浸出液に薄硫酸水溶液を添加し、pHを4.9に調整後、そのままpHを保持しながら1時間撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーを濾過及び洗浄し、析出物を回収した。反応中は、亜硫酸ナトリウムの分解によりSOガスが発生するため、ドラフト内で反応させた。発生した濾液に薄硫酸を添加し、pHを0.9に調整後、そのままpHを保持しながら1時間撹拌し、発生したSOガスを回収した(脱SO2−工程)。次いで、該SOガスを水酸化ナトリウム水溶液に吹き込み、吸収させて、亜硫酸ナトリウム水溶液を得た(亜硫酸塩水溶液生成工程)。なお、SOガス回収後の濾液は、処理後水として、別途、回収した。
【0048】
(4)前処理工程B
上記塩素浸出残渣45g(湿潤重量)を容量1Lのビーカーに入れ、合計量が400mlとなるように水を添加し、レパルプした。レパルプ後の残渣は、湿潤重量で47gであり、濾液はおよそ400mlであった。
【0049】
(5)銀浸出工程B
上記前処理工程Bのレパルプ後の残渣47gに、上記塩化銀析出工程Aにて発生した濾液を利用して調製した亜硫酸ナトリウム水溶液を添加し、1時間撹拌して銀を浸出した。なお、添加した亜硫酸ナトリウム水溶液は、同じく上記塩化銀析出工程Aにて回収した処理後水と水とを容量比30/70で混合した希釈液を用い、亜硫酸ナトリウム濃度を230g/Lに調整した。なお、浸出時のpHを測定したところ、およそ10.5であった。その後、濾過及び洗浄を行い、浸出液400mlと残渣23g(湿潤重量)とを得た。浸出液の銀濃度は20g/L、残渣の銀品位は0.2%(乾燥量ベース)であり、浸出液と残渣とに含まれる銀量の割合から算出した銀浸出率は、およそ99.1%であった。
【0050】
(6)塩化銀析出工程B
上記銀浸出工程Bにて得られた浸出液に薄硫酸水溶液を添加し、pHを4.9に調整後、そのままpHを保持しながら1時間撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーを濾過及び洗浄し、析出物を回収した。なお、発生した濾液は、次の銀浸出工程において使用する亜硫酸ナトリウム水溶液の調製のために利用し、SOガス回収後の濾液も、処理後水として回収した。
【0051】
(7)塩化銀精製工程
塩化銀析出工程にて発生した濾液を利用して調製した亜硫酸ナトリウム水溶液と、SOガス回収後の処理後水とを使用しながら、前処理工程B、銀浸出工程B、及び塩化銀析出工程Bを複数回繰り返し、得られた250g(湿潤重量)の塩化銀の析出物を、濃度6mol/Lの塩酸水溶液500mlに懸濁し、このスラリーを60℃に昇温後、濃度35質量%の過酸化水素水50mlを約1時間かけて全量を添加するように滴下して、酸化処理を行った。このスラリーの酸化還元電位(銀/塩化銀電極規準)は、1000mV以上であった。冷却後、スラリーを濾過し、十分に水洗浄して240g(湿潤重量)の精製された塩化銀を得た。
【0052】
(8)銀粉回収工程
上記塩化銀精製工程にて得られた精製後の塩化銀240g(湿潤重量)を、濃度8.6質量%の水酸化ナトリウム水溶液1000mlに懸濁し、70℃に加温して、更に濃度60質量%のヒドラジンを酸化還元電位が−700mV以下で安定するまで添加することにより還元し、銀粉を回収した。該銀粉を硝酸水溶液に溶解し、ICP発光分光分析法(ICP−AES)及びICP質量分析法(ICP−MS)により分析した。その結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、塩化銀析出工程において発生した濾液を利用して調製した亜硫酸ナトリウム水溶液を銀浸出工程における薬剤として使用し、かつ、塩化銀析出工程において発生した濾液からSOガス回収した後の処理後水を銀浸出工程における薬剤の希釈液として使用した場合であっても、純度99.99質量%以上の銀粉が得られることが確認された(表2)。また、工程全体を通して計算した銀の回収率は96%であり、高収率で回収できることも確認された。このことから、塩化銀析出工程において発生した濾液は、銀浸出工程用薬剤として有効利用できることが明らかとなった。
【0055】
<試験例2>
塩化銀析出工程において発生した濾液を、脱SO2−工程を経ることなく、そのまま上記銀浸出工程Bのレパルプ水(懸濁液)に使用したところ、亜硫酸ナトリウム濃度は、100〜200g/Lの間で安定せず、しかも必要量に対して不足する結果となった。その結果、銀浸出工程Bにて得られた残渣の銀品位は、5.5%(乾燥量ベース)であり、浸出液と残渣とに含まれる銀量の割合から算出した銀浸出率は、76%と低い値であった。このことから、塩化銀析出工程において発生した濾液は、脱SO2−工程を経なければ、銀浸出工程への利用には適さないことが明らかとなった。
【0056】
<試験例3>
塩化銀析出工程にて発生した濾液に薄硫酸を添加し、pHを0.9に調整後、そのままpHを保持しながら1時間撹拌し、SOガスを放出させ、濾液中のSO2−を除去した。そして、このSO2−除去後の濾液と水とを容量比50/50で混合し、得られた液を上記(1)の前処理工程におけるレパルプ洗浄液として使用した。そして、得られたレパルプ後の残渣について、試験例1と同様の方法にて、上記銀浸出工程Bを行ったところ、この浸出段階での銀浸出率は85%と低い値となった。このことから、SO2−除去後の濾液は、前処理工程におけるレパルプ洗浄液としての利用には適さないことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を含む製錬中間物から亜硫酸塩水溶液により銀を浸出させる銀浸出工程と、
浸出した浸出液を中和して塩化銀を析出させる塩化銀析出工程と、
析出した塩化銀を酸性水溶液中で酸化処理して精製する塩化銀精製工程と、を有する高純度銀の製造方法において、
前記塩化銀析出工程及び/又は前記塩化銀精製工程において発生した廃液に硫酸及び/又は塩酸を添加して前記廃液からSO2−を除去する脱SO2−工程と、
前記脱SO2−工程で発生したSOガスを水酸化アルカリ金属及び/又は炭酸アルカリ金属塩の水溶液に吸収させて亜硫酸塩水溶液を得る亜硫酸塩水溶液生成工程と、を備え、
前記亜硫酸塩水溶液生成工程で得られた亜硫酸塩水溶液を前記銀浸出工程で使用される亜硫酸塩水溶液として利用することを特徴とする高純度銀製造廃液の処理方法。
【請求項2】
前記脱SO2−工程では、硫酸及び/又は塩酸添加後の廃液のpHが0〜4.5となるように硫酸及び/又は塩酸を添加する請求項1に記載の高純度銀製造廃液の処理方法。
【請求項3】
前記亜硫酸塩水溶液生成工程で得られた亜硫酸塩水溶液の亜硫酸塩濃度を150〜250g/Lに調整した後、当該調整後の亜硫酸塩水溶液を前記銀浸出工程で使用される亜硫酸塩水溶液として利用する請求項1又は2に記載の高純度銀製造廃液の処理方法。
【請求項4】
前記亜硫酸塩濃度を、前記脱SO2−工程でSO2−を除去した後の廃液を利用して調整する請求項3に記載の高純度銀製造廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219359(P2012−219359A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89257(P2011−89257)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】