説明

高級アルコールの製造法

【課題】本発明は、高級アルコール(例えば炭素数16〜40)の新規な製造法を開発することを課題とする。
【解決手段】動植物性ワックスを減圧下蒸留することにより高級アルコール(例えば炭素数C16〜40)を精製する方法を見出した。特に、アルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物の水溶液を加えケン化分解を行い、次いで遊離脂肪酸をアルカリ土類金属化合物の金属塩とした後、この反応混合物を減圧下蒸留するか、あるいはアルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物の水溶液を加えケン化分解を行い、次いで遊離脂肪酸を重金属化合物の金属塩とした後、この反応混合物を減圧下蒸留する方法が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高級アルコール(例えば炭素数16〜40)の新規な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
高級アルコール(例えば炭素数16〜40)は、天然物として小麦胚芽油、コメ油、リンゴおよびブドウの果皮、サトウキビ、アルファルファなどの植物ワックスや蜜蝋などに含まれており、それらは遊離あるいは脂肪酸などとのエステル型の複合体として存在している。
【0003】
特にオクタコサノール(炭素数28)は、耐久力、精力、体力の増進を始め反射、鋭敏性の向上、ストレスの影響に対する抵抗性の向上、性ホルモンの刺激、筋肉痙痺の低減、心筋を含む筋肉機能の良化、収縮期血圧の低下および基礎代謝率の向上などさまざまな効果があることが知られている。さらに、血清中コレステロール低下作用、コレステロール生合成阻害作用ならびにダイエット作用などの効果も確認され近年注目を集めている。
【0004】
また、n-ドコサノール(炭素数22)は、前立腺肥大の症状緩和やヘルペスなどに対する抗ウイルス作用などを持ち、海外では医薬品としても使用されている。
【0005】
このような生理作用を有する高級アルコールを得るためには、一般的にはKOHあるいはNaOHを含有する含水有機溶剤(エタノール、プロパノールなど)にてケン化分解を行い、次いで脂溶性溶媒(ベンゼンやトルエン)にて抽出する方法、ケン化分解後ジグリセリドあるいはトリグリセリドなどで抽出する方法(特開2004−217633号公報、特許文献1)、さらにアルコール溶液中ケン化分解を行った後、別に調製しておいたアルカリ土類金属塩の水溶液を加え脂肪酸の金属石鹸を沈殿分離させる方法(油脂化学便覧 改帳二版 丸善、非特許文献1)などが知られている。
【0006】
しかしながら、食品などに利用しようとした場合、上記に示す方法では使用する溶剤の問題や操作性ならびに収率の面などから好ましいとは言い難かった。
【0007】
このような、種々の生理効果を有する高級アルコールの需要は、今後益々高まると考えられ、特に食品分野でも使用出来る上記以外の精製法による高級アルコールの製造法が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開2004−217633号公報
【非特許文献1】油脂化学便覧 改帳二版 丸善
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高級アルコール(例えば炭素数16〜40)の新規な製造法を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究の結果、動植物性ワックスから得られる脂肪酸の金属塩と高級アルコールとの混合物を、減圧下蒸留することにより高級アルコール(例えば炭素数C16〜40)を製造する方法を見出すことが出来た。すなわち、本発明は、
(1)動物性ワックスあるいは植物性ワックスを減圧下蒸留することを特徴とする高級アルコールの製造方法、
(2)動物性ワックスあるいは植物性ワックスを溶融し、アルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物の水溶液を加えケン化分解を行い、遊離された脂肪酸をアルカリ土類金属化合物の金属塩とした後、この反応混合物を減圧下蒸留することを特徴とする高級アルコールの製造方法、
(3)動物性ワックスあるいは植物性ワックスを溶融し、アルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物の水溶液を加えケン化分解を行い、遊離された脂肪酸を重金属化合物の金属塩とした後、この反応混合物を減圧下蒸留することを特徴とする高級アルコールの製造方法、
(4)動物性ワックスあるいは植物性ワックスを溶融し、アルカリ土類金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物の水溶液を加えケン化分解および脂肪酸をアルカリ土類金属化合物の金属塩とし、この反応混合物を減圧下蒸留することを特徴とする高級アルコールの製造方法、
(5)減圧度が10Pa以下で、蒸留温度が200℃から400℃であることを特徴とする(1)、(2)、(3)又は(4)記載の高級アルコールの製造方法
に関する。
【0011】
例えば、動植物から得られるワックスは数種の脂肪酸と数種の高級アルコールの混合物からなっているが、この動植物性ワックスを原料に、加熱溶解(80〜120℃)した後、アルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物(例えば水酸化ナトリウム、酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、またはアルカリ土類金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物(例えば水酸化カルシウム、酸化カルシウム)を直接、あるいは50%程度の水溶液として加えケン化分解を行う。
【0012】
反応終了後、前者のアルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物を加えた場合では、更に50%アルカリ土類金属水溶液(例えば塩化カルシウム水溶液)を加え生成した遊離脂肪酸を金属塩とする。この反応混合物に熱湯を加え残存した金属塩を洗い流す。得られた反応混合物を減圧下120℃にて乾燥させた後、粗生成物を高温減圧蒸留装置に入れ蒸留精製を行うことにより、目的であるC16〜40の高級アルコールが得られ、このとき蒸留温度をコントロールすることにより、一定の成分の高含量化を計ることができ、簡便かつコスト的にも負担の少ない操作で、食品としても安全な高級アルコールを精製することが出来る本発明を完成できた。
【0013】
本発明において動植物性ワックスとは、動物性ワックスでは例えば蜜蝋、鯨蝋、セラック蝋が挙げられ、植物性ワックスでは例えばカルナバ蝋、木蝋、ライスワックス、キャンデリラワックス、サトウキビワックスが挙げられる。
【0014】
また、本発明において、高級アルコールとは、主として炭素数C16〜40の範囲のものを指し、アルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物とは、例えば水酸化ナトリウム、酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を指し、アルカリ土類金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物は、例えば水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を指し、重金属化合物は、例えば塩化亜鉛、塩化銅等を指す。
【0015】
なお、蒸留温度、減圧度を適宜設定することにより、特定の高級アルコールを精製することができる。例えば、減圧度が10Pa以下の場合、蒸留温度は200℃から400℃程度にて効率よく高級アルコールを精製することができ、特に減圧度を10−2Pa程度にした場合、蒸留温度を250℃から260℃に設定すると、Cが28の高級アルコールを高含量で精製することができる。
【0016】
このことは実施例1と実施例2を比較すると明瞭である。すなわち、実施例1において、ライスワックスを出発物質として300℃、減圧度2×10−2Pa以下で行ったところ、C28は面積比率が14.4であったが、実施例2においてライスワックスを出発物質として減圧度2×10−2Paの条件下温度250℃で初留を除き、次いで温度260℃で減圧蒸留を行ったところ、C28の面積比率は26.5となり約2倍の含量となった。
【0017】
ちなみに、実施例3では、ライスワックスを出発物質として270℃、減圧度2×10−2Pa以下で行い、実施例4では、サトウキビワックスを出発物質として300℃、減圧度2×10−2Pa以下で行い、実施例5では、蜜蝋ワックスを出発物質として300℃、減圧度2×10−2Pa以下で行い、実施例6ではカルナバロウワックスを出発物質として300℃、減圧度2×10−2Pa以下で行ったものである。
【0018】
減圧下蒸留の手段としては、実施例に記載したように、ガラスチューブオーブンでも良
いが、高真空、高温条件を備えた薄膜蒸留器のような装置も使用できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、高級アルコールを医薬品に限らず食品へも利用できるような安全かつ経済的な方法を確立することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、高級アルコールの製造法についての実施例を示し、本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
ライスワックス5gを50mlナス型フラスコに入れ約90℃にて溶解させる。ここへKOH 1gを1gの水に溶解したアルカリ水を添加して約1時間反応を行った。次いで、CaCl2 1gを5gの水に溶解した溶液をゆっくりと加え、さらに約15分間攪拌を行った。分離した水を除き、新たに水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。さらに、水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。得られた固形物を約120℃にて乾燥し粗ワックスを得た。
これをガラスチューブオーブン(東京理化製GTO-350)に移し温度300℃、減圧度2×10-2Pa以下で減圧蒸留を行った。その結果、90%以上の精製高級アルコール分画(CG面積比率C24:C26:C28:C30:C32:C34:C36=5.2:6.6:14.4:26.8:18.6:10.8:3.2)を2.0g得た。
【0022】
[実施例2]
ライスワックス5gを50mlナス型フラスコに入れ約90℃にて溶解させる。ここへKOH 1gを直接添加して約1時間反応を行った。次いで、CaCl2 1gを5gの水に溶解した溶液をゆっくりと加え、さらに約15分間攪拌を行った。分離した水を除き、新たに水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。さらに、水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。得られた固形物を約120℃にて乾燥し粗ワックスを得た。
これをガラスチューブオーブン(東京理化製GTO-350)に移し減圧度2×10-2Pa以下で温度250℃にて初留を除き、次いで温度260℃で減圧蒸留を行った。その結果、260℃での留分から精製高級アルコール(GC面積比率C24:C26:C28:C30:C32:C34:C36=5.2:11.1:26.5:33.3:22.5:2.4)を1.1g得た。
【0023】
[実施例3]
ライスワックス5gを50mlナス型フラスコに入れ約90℃にて溶解させる。ここへCa(OH)2 1gを水に懸濁させた溶液を加え約1時間反応を行った。分離した水を除き、新たに水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。さらに、水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。得られた固形物を約120℃にて乾燥し粗ワックスを得た。
これをガラスチューブオーブン(東京理化製GTO-350)に移し温度270℃、減圧度2×10-2Pa以下で減圧蒸留を行った。その結果、精製高級アルコール分画(GC面積比率C24:C26:C28:C30:C32:C34:C36=7.4:8.6:17.5:32.5:21.6:12.4)を1.5g得た。
【0024】
[実施例4]
サトウキビワックス5gを50mlナス型フラスコに入れ約90℃にて溶解させる。ここへKOH 1gを5gの水に溶解したアルカリ水を添加して約1時間反応を行った。次いで、CaCl2 1gを1gの水に溶解した溶液をゆっくりと加え、さらに約15分間攪拌を行った。分離した水を除き、新たに水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。さらに、水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。得られた固形物を約120℃にて乾燥し粗ワックスを得た。
これをガラスチューブオーブン(東京理化製GTO-350)に移し温度300℃、減圧度2×10-2Pa以下で減圧蒸留を行った。その結果、精製高級アルコール分画(GC面積比率C24:C26:C28:C30=1.7:11.5:82.7:4.1)を1.1g得た。
【0025】
[実施例5]
蜜蝋ワックス5gを50mlナス型フラスコに入れ約90℃にて溶解させる。ここへKOH 1gを5gの水に溶解したアルカリ水を添加して約1時間反応を行った。次いで、CaCl2 1gを1gの水に溶解した溶液をゆっくりと加え、さらに約15分間攪拌を行った。分離した水を除き、新たに水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。さらに、水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。得られた固形物を約120℃にて乾燥し粗ワックスを得た。
これをガラスチューブオーブン(東京理化製GTO-350)に移し温度300℃、減圧度2×10-2Pa以下で減圧蒸留を行った。その結果、精製高級アルコール分画(GC面積比率C24:C30:C32:C34=12.7:8.2:50.1:10.5)を2.5g得た。
【0026】
[実施例6]
カルナバロウワックス5gを50mlナス型フラスコに入れ約90℃にて溶解させる。ここへKOH 1gを1gの水に溶解したアルカリ水を添加して約1時間反応を行った。次いで、CaCl2 1gを5gの水に溶解した溶液をゆっくりと加え、さらに約15分間攪拌を行った。分離した水を除き、新たに水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。さらに、水を20g加え油分を洗浄し、洗浄液を除く。得られた固形物を約120℃にて乾燥し粗ワックスを得た。
これをガラスチューブオーブン(東京理化製GTO-350)に移し温度300℃、減圧度2×10-2Pa以下で減圧蒸留を行った。その結果、精製高級アルコール分画(GC面積比率C28:C30:C32:C34=1.9:10.3:62.0:16.6)を2.5g得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物性ワックスあるいは植物性ワックスを減圧下蒸留することを特徴とする高級アルコールの製造方法。
【請求項2】
動物性ワックスあるいは植物性ワックスを溶融し、アルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物の水溶液を加えケン化分解を行い、次いで遊離脂肪酸をアルカリ土類金属化合物の金属塩とした後、この反応混合物を減圧下蒸留することを特徴とする高級アルコールの製造方法。
【請求項3】
動物性ワックスあるいは植物性ワックスを溶融し、アルカリ金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物の水溶液を加えケン化分解を行い、次いで遊離脂肪酸を重金属化合物の金属塩とした後、この反応混合物を減圧下蒸留することを特徴とする高級アルコールの製造方法。
【請求項4】
動物性ワックスあるいは植物性ワックスを溶融し、アルカリ土類金属の水酸化化合物あるいは酸化化合物の水溶液を加えケン化分解および脂肪酸をアルカリ土類金属化合物の金属塩とし、この反応混合物を減圧下蒸留することを特徴とする高級アルコールの製造方法。
【請求項5】
減圧度が10Pa以下で、蒸留温度が200℃から400℃であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の高級アルコールの製造方法。

【公開番号】特開2008−260701(P2008−260701A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103133(P2007−103133)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000108812)タマ生化学株式会社 (19)
【Fターム(参考)】