説明

高脂血症治療剤

【課題】本発明は、ピタバスタチン類及びイコサペント酸又はそのエステル誘導体を有効成分とする高脂血症治療剤に関する。
【解決手段】本発明によれば、血中のコレステロール及びトリグリセリドを低下させる効果に優れたIIb型及びIV型高脂血症治療剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高脂血症治療剤、特に血中コレステロール及びトリグリセリドのいずれに対しても優れた低下作用を示す高脂血症治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高脂血症は、血中のリポ蛋白脂質が異常に増加している症状であり、動脈硬化、心筋梗塞等の疾患と強く拘っていることから、その治療は重要であると考えられている。
高脂血症の治療には種々の薬剤が用いられ、現在、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン等のHMG−CoAリダクターゼ阻害剤が治療剤の中心をなしている。ピタバスタチン類は強いHMG−CoAリダクターゼ阻害作用を有し、血中コレステロール低下剤として有用であることが知られている(特許文献1〜3)。
【0003】
血中リポ蛋白脂質の主な成分は、コレステロールやトリグリセリド等であり、高脂血症患者は、血中コレステロールが増加しているにとどまらず、トリグリセリドの増加も伴う場合が多い。高脂血症患者にHMG−CoAリダクターゼ阻害剤を投与すると、血中コレステロールは十分に低下するが、トリグリセリドの低下作用は十分でない。また、コレステロール及びトリグリセリドの両方を低下させる目的で、血中コレステロール及びトリグリセリドの両方が高い高脂血症患者へ、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤の投与量を増加して治療する方法があるが、この方法は安全性等の問題もあり推奨されていない。
【0004】
一方、イコサペント酸(EPA)は、主として魚脂に含まれる長鎖の必須脂肪酸である。この脂肪酸が、トリグリセリドの腸管からの吸収抑制、肝での生合成抑制、血漿リポプロテインリパーゼ活性の増強により血中トリグリセリドを低下させること(非特許文献1及び2)や、肝コレステロール合成抑制、コレステロール胆汁排泄の促進により血中総コレステロールを低下させること(非特許文献3)が報告されている。
【特許文献1】特許第2569746号公報
【特許文献2】米国特許第5856336号明細書
【特許文献3】欧州特許第304063号明細書
【非特許文献1】Mizuguchi, K. et al.:Eur. J. Phamacol. 235 221‐227, 1993
【非特許文献2】水口 清 他:動脈硬化18(5),536, 1990
【非特許文献3】Mizuguchi, K. et al.:Eur. J. Phamacol. 231, 121‐127, 1993
【発明の開示】
【0005】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、鋭意研究した結果、数多くのHMG−CoAリダクターゼ阻害剤のうち、ピタバスタチン類とイコサペント酸又はそのエステル誘導体を併用すると、血中のコレステロール及びトリグリセリドの両方を下げる効果に優れ、高脂血症の治療に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、ピタバスタチン類及びイコサペント酸又はそのエステル誘導体を有効成分とする高脂血症治療剤を提供するものである。
【0007】
また本発明は、ピタバスタチン類及びイコサペント酸又はそのエステル誘導体並びに薬学的に許容される担体を含有する高脂血症治療用組成物を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、ピタバスタチン類及びイコサペント酸又はそのエステル誘導体の高脂血症治療剤の製造のための使用を提供するものである。
【0009】
本発明の高脂血症治療剤は、血中のコレステロール及びトリグリセリドを下げる効果に優れ、IIb型及びIV型高脂血症の治療にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用するピタバスタチン類は、ピタバスタチン((3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸:特許第2569746号公報、米国特許第5856336号明細書、欧州特許第304063号明細書)、そのラクトン環形成体及びピタバスタチンの塩を包含し、ピタバスタチンの塩としては、ピタバスタチンナトリウム、ピタバスタチンカルシウム等が挙げられる。また、これらの水和物、医薬品として許容される溶媒との溶媒和物も包含される。ピタバスタチン類としては、ピタバスタチンカルシウムが最も好ましい。
【0011】
ピタバスタチン類は、特許第2569746号公報、米国特許第5856336号明細書、欧州特許第304063号明細書に記載の方法等により製造することができる。
【0012】
本発明におけるイコサペント酸は、全−シス−5,8,11,14,17−イコサペント酸を指し、魚脂その他から得られる天然型グリセリンエステル類を加水分解してグリセリン部分を除去することにより、容易に入手することができ、また市販品を使用することもできる。また、当該イコサペント酸は、例えばナトリウム、カリウムとの塩を形成していてもよい。
【0013】
イコサペント酸のエステル誘導体としては、グリセリンエステル及び低級アルキルエステルを挙げることができる。低級アルキルエステルとしては、例えばメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル等を挙げることができ、好ましくはメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルであり、特に好ましくはエチルエステルである。
【0014】
グリセリンエステルは、上記のとおり天然型グリセリンエステルとして天然資源から容易に抽出可能である。一方、低級アルキルエステルは、イコサペント酸に脂肪族低級アルコールを脱水縮合させて容易に製造することができる。
尚、上記イコサペント酸又はそのエステル誘導体の純度は、特に限定されないが、投与量が少なくてすむという点から高純度のものが好ましい。
【0015】
本発明の高脂血症治療剤中には、ピタバスタチン類(A)とイコサペント酸又はそのエステル誘導体(B)が、質量比で、A:B=1:1〜1:5000、更に1:10〜1:2000含有するのが、血中のコレステロール及びトリグリセリドの低下効果、特にトリグリセリドの低下効果の点で好ましい。
【0016】
ピタバスタチン類とイコサペント酸又はそのエステル誘導体を併用する本発明の高脂血症治療剤は、後記実施例に示すように、ラットにおいて、ピタバスタチン類を単独で投与した場合に比べ、血中のトリグリセリドを強力に下げる作用を有する。従って、本発明の高脂血症治療剤は、高脂血症の治療、とりわけ血中コレステロール及びトリグリセリドのいずれもが高値を示すIIb型及びIV型高脂血症の治療にも有効である。
【0017】
本発明の高脂血症治療剤には、有効成分の他に、その剤形に応じて許容される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、潤滑剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等と適宜混合、希釈又は溶解し、常法に従って製造することができる。また、イコサペント酸又はそのエステル誘導体は酸化されやすいため、例えばBHA、BHTおよびトコフェロールなどの抗酸化剤を必要に応じて加えることができる。
【0018】
本発明の高脂血症治療剤の剤形は、用法に応じて種々の剤形の医薬品製剤とすることができ、例えば、散剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等とすることができる。
【0019】
本発明の高脂血症治療剤の使用形態は特に限定されず、両薬剤を同時に投与すること以外に、間隔を置いて別々に投与してもよい。すなわち、ピタバスタチン類及びイコサペント酸又はそのエステル誘導体は、製剤学的に許容される希釈剤、賦形剤等と混合して単一製剤とするか、両薬剤を別々に製剤化してセットとして使用してもよい。両薬剤を別々に製剤する場合には、両製剤は同一の剤形としなくてもよい。
【0020】
本発明の高脂血症治療剤の投与量は、症状により適宜選択されるが、ピタバスタチン類は、1日当たり0.1〜100mg、好ましくは1〜50mg、更に好ましくは1〜20mg、イコサペント酸又はそのエステル誘導体は、1日当たり500〜100000mg、好ましくは1000〜60000mg投与するのがよい。また、投与は、1日1回でもよいが、2回以上に分けて投与してもよい。
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【実施例】
【0022】
イコサペント酸エチル(EPA−E)とピタバスタチンカルシウムとを投与したときの血中トリグリセリドに対する効果を次法に従って測定した。
【0023】
1.供試動物及び飼育環境
Wistar系雄性ラット(日本医科学実験動物(株))6週齢を供試した。実験期間を通じて、明暗サイクル(室内光による明るい期間:午前7時〜午後7時)、温度23±3℃、湿度55±15%に維持された飼育室で飼育し、固形飼料(CE−2;日本クレア(株))及び水道水を自由摂取させた。
【0024】
2.薬物調製
ピタバスタチンカルシウムはカルボキシメチルセルロースナトリウム(岩井化学薬品(株))の0.5%質量水溶液に懸濁し、投与量が2mL/kgになるように調製した。ピタバスタチンカルシウムは9.43質量%の水分を含むため、投与量の1.1質量倍を秤量して補正した。懸濁液は遮光ビンにて冷蔵(4℃)保存し、調製は7日ごとに行った。EPA−Eは、用時にエパデールカプセル(大日本製薬)より採取し、精製水に懸濁して投与量が2mL/kgになるように調製した。
【0025】
3.試験方法
ラット32匹を以下の4群(各群8例)、すなわち、対照群、ピタバスタチンカルシウム単独(10mg/kg)群、EPA−E単独(1000mg/kg)群、及びピタバスタチンカルシウム(10mg/kg)及びEPA−E(1000mg/kg)併用群に血中総コレステロール及びトリグリセリドが平均化されるように群分けした。両薬物は、1日1回(午後4時)21日間反復経口投与し、対照群にはカルボキシメチルセルロースナトリウム0.5質量%水溶液1mL/kgを経口投与した。いずれの群も最終投与より18時間絶食した後に採血を行い、血中のトリグリセリド濃度を測定した。
【0026】
4.統計解析及びデータ処理法
対照群と薬物投与群間の多群比較は、Bartlettの分散分析−Dunnettの多重比較検定を用いて行い、危険率5%未満を有意差ありと判定した。
【0027】
5.試験結果
図1及び表1に示すように、血中トリグリセリドは、ピタバスタチンカルシウム及びEPA−E単独群では低下傾向であった(85.3%及び72.1%)。これに対して、両薬物併用群では、ピタバスタチン単独群に比べ、大幅に血中トリグリセリドが低下した(60.3%)。その効果は相乗効果(Burgiの式:高木敬次郎他:薬物学、1987、南山堂)が確認された(60.3%<85.3×72.1=61.5%)(p<0.01)。
【0028】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】イコサペント酸エチル(EPA−E)とピタバスタチンカルシウムの併用投与による血中のトリグリセリドの低下効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピタバスタチン類及びイコサペント酸又はそのエステル誘導体を有効成分とする高脂血症治療剤。
【請求項2】
ピタバスタチン類が、ピタバスタチンカルシウムである請求項1記載の高脂血症治療剤。
【請求項3】
イコサペント酸のエステル誘導体が、イコサペント酸エチルである請求項1又は2記載の高脂血症治療剤。
【請求項4】
血中トリグリセリド低下剤である請求項1〜3のいずれか1項記載の高脂血症治療剤。
【請求項5】
ピタバスタチン類及びイコサペント酸又はそのエステル誘導体並びに薬学的に許容される担体を含有する高脂血症治療用組成物。
【請求項6】
高脂血症治療剤の製造のためのピタバスタチン類及びイコサペント酸又はそのエステル誘導体の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2007−523049(P2007−523049A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525561(P2006−525561)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003092
【国際公開番号】WO2005/079797
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】