説明

高調波探査方法および高調波探査装置

【課題】 簡易な手段により、電力用コンデンサから発生する異音の原因となっている高調波発生源の方向性を正しく特定する。
【解決手段】 電力系統の配電線1における電圧および電流を測定する計器用変圧器5および計器用変流器6と、計器用変圧器5および計器用変流器6の出力に基づいて電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を抽出する高調波測定器7とを備え、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分との位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、配電線1に設けられた受電設備2内の電力用コンデンサ4で発生する異音の高調波発生源の方向性を特定する高調波探査装置であって、電力用コンデンサ4で発生する異音を検出するマイクロフォン8を備え、そのマイクロフォン8により得られた異音の高調波次数成分を高調波測定器7で抽出し、異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の配電線に設けられた受電設備内の電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源の方向性を特定する高調波探査方法および高調波探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統の配電線に接続された電力需要家が使用する負荷には、インバータ回路などのスイッチング動作を行うものが多く、これら負荷の作動によって、配電線における電圧および電流に歪みが生じる。この電圧および電流の歪みは高調波成分であり、この高調波成分が電力需要家で使用される進相コンデンサの破壊などの種々の弊害を引き起こしている。
【0003】
そのため、高調波成分を発生させている負荷、つまり高調波発生源を探査する必要があり、従来、高調波発生源を探査する方法や装置が種々提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
【0004】
これら特許文献1〜4のいずれも、電力系統の配電線における電圧および電流を測定し、その電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分とを抽出して電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、高調波発生源の方向性を特定するようにしている。
【0005】
このようにして高調波次数成分の潮流方向が判明すれば、この潮流方向を逆行しながら適宜の箇所で、再度、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定する。この電圧高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定する作業をその潮流方向に対して逆行しながら繰り返すことにより、高調波発生源を探査するようにしている。
【特許文献1】特開平7−104022号公報
【特許文献2】特開平7−110353号公報
【特許文献3】特開平10−142270号公報
【特許文献4】特開2002−48827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述した特許文献1〜4に開示された高調波探査方法および高調波探査装置では、電力系統の配電線における電圧および電流を測定し、その電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分とを抽出して電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、高調波発生源の方向性を特定するようにしている。
【0007】
一方、電力系統の配電線に接続された受電設備には電力用コンデンサが設置されていることがあり、この電力用コンデンサが高調波障害により異音を発生する場合がある。この電力用コンデンサに異音を発生させる高調波発生源を探査する場合も、前述したように、電力系統の配電線における電圧および電流を測定し、その電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分とを抽出して電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、異音を発生させる高調波発生源の方向性を特定するようにしている。
【0008】
しかしながら、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分とを抽出した測定結果には、多くの高調波次数成分が含まれていることから、どの高調波次数成分が電力用コンデンサから発生する異音の原因となっているかを判定することが困難であった。その結果、誤った高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、異音を発生させる高調波発生源の方向性を正しく特定することが非常に難しいという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、簡易な手段により、電力用コンデンサから発生する異音の原因となっている高調波発生源の方向性を正しく特定し得る高調波探査方法および高調波探査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明に係る高調波探査方法は、電力系統の配電線における電圧および電流を測定してその電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分との位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、配電線に設けられた受電設備内の電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源の方向性を特定するに際して、電力用コンデンサで発生する異音を検出してその異音の高調波次数成分を抽出し、異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る高調波探査装置は、電力系統の配電線における電圧および電流を測定する計器用変圧器および計器用変流器と、計器用変圧器および計器用変流器の出力に基づいて電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を抽出する高調波測定器とを備え、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分との位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、配電線に設けられた受電設備内の電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源の方向性を特定するものであって、電力用コンデンサで発生する異音を検出する音響センサを備え、その音響センサにより得られた異音の高調波次数成分を高調波測定器で抽出し、異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定することを特徴とする。ここで、「音響センサ」とは、電力用コンデンサで発生する異音を電気信号に変換する手段であり、例えばマイクロフォンの他に、振動センサや加速度センサなどを含む。
【0012】
本発明では、電力用コンデンサで発生する異音を音響センサにより検出することにより電気信号に変換する。この異音の電気信号に基づいて高調波測定器により異音の高調波次数成分を抽出する。一方、この高調波測定器では、配電線における電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を抽出する。そして、異音の高調波次数成分と、電圧の高調波次数成分および電流の高調波次数成分とを比較し、異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定する。その特定された電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分との位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定する。これにより、電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源の方向性を正しく特定することができる。
【0013】
本発明の高調波探査装置においては、音響センサにより検出された信号から電力用コンデンサ周辺で発生した雑音を除去し、電力用コンデンサで発生する異音のみを抽出する可変フィルタ部が内蔵された探査用測定器を、音響センサの後段に設けた構成とすることが望ましい。このようにすれば、電力用コンデンサで発生する異音の高調波次数成分のみを正確に抽出することができ、異音の高調波次数成分と、電圧の高調波次数成分および電流の高調波次数成分との比較が容易となる。その結果、異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定し易くなり、異音による高調波次数成分の潮流方向を正確に判定できる。これにより、電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源の方向性を特定する上で信頼性の向上が図れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、電力用コンデンサで発生する異音を音響センサにより検出してその異音の高調波次数成分を抽出し、異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定することにより、その特定された電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分との位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定し、電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源の方向性を特定する。
【0015】
このように、簡易な手段により、電力用コンデンサから発生する異音の原因となっている高調波発生源の方向性を正しく特定することができるので、電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源を探査する作業が正確かつ効率よく行え、信頼性の向上が図れると共に作業時間の短縮化が図れてその実用的価値が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る高調波探査方法および高調波探査装置の実施形態を以下に詳述する。図1は、電力系統の配電線1に接続された受電設備2およびその受電設備2に設置された高調波探査装置を例示する。電力系統の配電線1には、受電設備2内の変圧器3を介して負荷設備が接続されている。また、この受電設備2内には、電力用コンデンサ4が設置されている。
【0017】
この実施形態における高調波探査装置は、図1に示すように、受電設備2内の配電線1に接続され、その配電線1における電圧および電流を測定する計器用変圧器5および計器用変流器6と、それら計器用変圧器5および計器用変流器6を介して配電線1に接続され、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を抽出する高調波測定器7と、電力用コンデンサ4で発生する異音を検出する音響センサであるマイクロフォン8と、入力側にマイクロフォン8が接続されると共に出力側に高調波測定器7が接続され、電力用コンデンサ4で発生する異音のみを抽出する探査用測定器9とで構成されている。
【0018】
前述の高調波測定器7は、計器用変圧器5および計器用変流器6で測定された電圧および電流をデジタル変換するA/D変換部11と、デジタル変換された電圧データおよび電流データを記録するデータ記録部12と、電圧データおよび電流データに基づいて基本波の整数倍に分解する周波数解析部13とで構成されている。この高調波測定器7における処理結果は、図示しないが、モニタ等に表示されるようになっている。
【0019】
また、探査用測定器9は、マイクロフォン8の出力信号を増幅する増幅部14と、マイクロフォン8の出力信号から、電力用コンデンサ4で発生する異音と対応する周波数成分のみを抽出する可変フィルタ部15とで構成されている。この探査用測定器9には、マイクロフォン8からの再生音を聞きながら可変フィルタ部15の抽出周波数を調整するため、ヘッドフォン16が取り付けられている。
【0020】
この高調波探査装置が設置された電力系統の配電線1では、電圧および電流に歪みが生じ、特に、図2(A)(B)に示すように電圧に対して電流に大きな歪みが生じやすい。この電圧および電流の歪みとなる高調波成分を発生させている高調波発生源を探査するため、この高調波探査装置では、配電線1における電圧および電流を計器用変圧器5および計器用変流器6により測定する。
【0021】
測定結果として得られた電圧および電流に基づいて、図3(A)(B)に示すように、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分とを高調波測定器7により抽出する。この電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、図4に示すように、その高調波次数成分の潮流方向(電源⇒負荷、あるいは、負荷⇒電源)を判定する。これにより、計器用変流器6が取り付けられた箇所での高調波発生源の方向性(電源側あるいは負荷側のいずれか)を特定する。
【0022】
このようにして高調波次数成分の潮流方向が判明すれば、この潮流方向を逆行しながら適宜の箇所で、再度、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定する。この電圧高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定する作業をその潮流方向に対して逆行しながら繰り返すことにより、高調波発生源を探査する。
【0023】
一方、電力用コンデンサ4が高調波障害により異音を発生する場合がある。この電力用コンデンサ4に異音を発生させる高調波発生源を探査する場合も、前述したように、電力系統の配電線1における電圧および電流を測定し、その電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分とを抽出して電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分の位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、高調波発生源の方向性を特定するが、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分とを抽出した測定結果には、多くの高調波次数成分が含まれていることから、どの高調波次数成分が電力用コンデンサ4から発生する異音の原因となっているかを判定することが困難である。
【0024】
そこで、この実施形態の高調波探査装置では、電力用コンデンサ4で発生する異音をマイクロフォン8で検出することにより電気信号に変換する。ここで、電力用コンデンサ4の周辺では種々の雑音が発生しているのが通常である。つまり、電力用コンデンサ4で発生する異音は、周囲の雑音と混在している状態となっている。
【0025】
従って、マイクロフォン8で検出された信号から電力用コンデンサ4周辺で発生した雑音を探査用測定器9により除去し、電力用コンデンサ4で発生する異音のみを抽出する。つまり、探査用測定器9では、マイクロフォン8で検出された電気信号を増幅部14で所定のゲインでもって増幅し、ヘッドフォン16でマイクロフォン8による再生音を聞きながら、可変フィルタ部15の通過周波数を調整して電力用コンデンサ4周辺で発生した雑音の周波数成分を除去することにより、電力用コンデンサ4で発生した異音の周波数成分のみを抽出する。
【0026】
この電力用コンデンサ4で発生した異音の周波数成分を探査用測定器9から出力し、その異音の周波数成分に基づいて高調波測定器7により異音の高調波次数成分を抽出する(図5参照)。一方、この高調波測定器7では、前述したように、配電線1における電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を抽出しているので〔図3(A)(B)〕、異音の高調波次数成分と、電圧の高調波次数成分および電流の高調波次数成分とを比較し、異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定する。その特定された電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分との位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定する。これにより、電力用コンデンサ4で発生する異音の高調波発生源の方向性を正しく特定することができる。
【0027】
なお、前述したように、探査用測定器9で、電力用コンデンサ4で発生する異音の周波数成分のみを正確に抽出することにより、高調波測定器7において、異音の高調波次数成分と、電圧の高調波次数成分および電流の高調波次数成分との比較が容易となる。その結果、異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定し易くなり、異音による高調波次数成分の潮流方向を正確に判定できる。これにより、電力用コンデンサ4で発生する異音の高調波発生源の方向性を特定する上で信頼性の向上が図れる。
【0028】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態で、電力系統の配電線に接続された受電設備およびその受電設備に設置された高調波探査装置を示す概略構成図である。
【図2】(A)は図1の高調波測定器に入力される電圧を示す波形図、(b)は図1の高調波測定器に入力される電流を示す波形図である。
【図3】(A)は図1の高調波測定器で周波数解析された電圧のスペクトル図、(B)は図1の高調波測定器で周波数解析された電流のスペクトル図である。
【図4】電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分と潮流方向を示す一覧表である。
【図5】図1の高調波測定器で周波数解析された異音のスペクトル図である。
【符号の説明】
【0030】
1 配電線
2 受電設備
4 電力用コンデンサ
5 計器用変圧器
6 計器用変流器
7 高調波測定器
8 音響センサ(マイクロフォン)
9 探査用測定器
15 可変フィルタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の配電線における電圧および電流を測定してその電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分との位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、前記配電線に設けられた受電設備内の電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源の方向性を特定する高調波探査方法であって、
前記電力用コンデンサで発生する異音を検出してその異音の高調波次数成分を抽出し、前記異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定することを特徴とする高調波探査方法。
【請求項2】
電力系統の配電線における電圧および電流を測定する計器用変圧器および計器用変流器と、前記計器用変圧器および計器用変流器の出力に基づいて電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を抽出する高調波測定器とを備え、電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分との位相差から、その高調波次数成分の潮流方向を判定することにより、前記配電線に設けられた受電設備内の電力用コンデンサで発生する異音の高調波発生源の方向性を特定する高調波探査装置であって、
前記電力用コンデンサで発生する異音を検出する音響センサを備え、その音響センサにより得られた異音の高調波次数成分を高調波測定器で抽出し、前記異音の高調波次数成分に対応する電圧の高調波次数成分と電流の高調波次数成分を特定することを特徴とする高調波探査装置。
【請求項3】
前記音響センサにより検出された信号から電力用コンデンサ周辺で発生した雑音を除去し、電力用コンデンサから発生する異音のみを抽出する可変フィルタ部が内蔵された探査用測定器を、前記音響センサの後段に設けた請求項2に記載の高調波探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−229184(P2009−229184A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73640(P2008−73640)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】