説明

高速連続めっき処理装置

【課題】FPC等の基板に対して、10A/dmを超える大きな電流密度で、基板のスルーホール内部にまで銅イオンを拡散させ均一で良好な高速めっきを行うことができる高速連続めっき処理装置を提供する。
【解決手段】10A/dmを超える電流密度で基板10へのめっきを行う高速連続めっき処理装置であって、めっき元液に酸化銅粉を溶解してめっき液を調製する酸化銅粉溶解槽91を備えた銅イオン供給部90、めっき液をめっき槽70に供給する噴流ポンプ82と、噴流ポンプの先端に接続されて噴流ポンプにより加圧されためっき液を基板面に向けて噴出させる噴流ノズル83とを備えた銅イオン噴流部80、不溶性陽極部60および給電部51、52を有し、噴流ノズルは前記噴流ポンプとの接続部側よりも先端部側が幅広い形状を有すると共に先端面には複数のノズル孔が設けられており、銅イオン噴流部は基板面に対向して交互に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高速連続めっき処理装置に関し、特にフレキシブルプリント回路等の基板に銅めっきを施す高速連続めっき処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント回路(以下FPCという)等の基板の電気回路は、一般的に基板の表面に電気銅めっき等のめっきを施すことによって形成される。そして、このめっきは、電解脱脂処理、水洗処理、活性化処理、めっき処理、水洗・乾燥処理という一連の処理により行われているが、生産性の向上を図るためにめっき処理を高速化することが望まれている。
【0003】
この要望に応えるために、例えば、銅イオンの拡散を促進する方法として幾つかの提案がなされている。例えばアノードとカソードの間に超音波素子を設けて超音波を発生させることにより、銅イオンが拡散し難いスルーホール(基板に設けられた貫通孔)内への銅イオンの拡散を促す方法(特許文献1)が提案されている。
【0004】
また、アノードとカソードとの間に電流分散用遮蔽板を配置し、さらにカソードと電流分散用遮蔽板との間にカソードに対して傾斜した板状ブレードを配置して、カソードに対して略平行に往復運動をさせることにより、めっき液にカソード方向の流れを発生させ、スルーホール内へ銅イオンの拡散を促す方法(特許文献2)も提案されている。
【0005】
また、噴流ノズルを用いポンプにより高速で噴流をワークに吹き付ける方式も高速化の一手段として提案され採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−524764号公報
【特許文献2】特開2008−266670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、10A/dmを超える大きな電流密度を用いたさらなる高速化の要請がなされており、前記特許文献1、特許文献2に記載されている技術や噴流をワークに吹き付ける方式だけでは、10A/dmを超える大きな電流密度で良好な高速めっきを行うことは困難であった。
【0008】
即ち、例えば、特許文献1に示された方法では、ある条件下では超音波攪拌の効果が得られるものの、高速めっきを行う際には、基板端部への電解集中を回避すべく電流分散用遮蔽板の適用がなされるため、超音波により発生したキャビティがスルーホール内部にまでうまく到達することができないという問題があり、従来以上の高速めっきを行おうとするとさらにこの問題が大きくなる。
【0009】
また、特許文献2に示された方法では、めっき反応をより高速化するためには液攪拌を強めてイオン供給をより速やかにする必要があるが、この液攪拌は板状ブレードの往復運動により引き起こされるものであり、板状ブレードを急速に往復運動させると、めっき液面の揺れを招いてしまう(波立つ)ため、従来以上の高速めっきを行うには限界があった。
【0010】
また、噴流をワークに吹き付ける方式にも以下に示す幾つかの問題があった。即ち、第1の問題は、FPCの様な柔い基板が高速噴流により変形することである。そして、第2の問題は、噴流により生じためっき流の流れが給電ローラーの方に吹き付けられて、給電ローラー上で銅が析出するなどの異常が発生することである。さらに、第3の問題は、ポンプ噴流量が低い場合には高速めっき時にめっきでこげが生じたり、ポンプ噴流量がばらつく場合にはめっき外観に斑が生じたりする問題が発生することである。このため、従来以上の高速めっきを行う際には、これらの問題がさらに大きな問題となる。
【0011】
また、従来の各方法においては、陽極として銅ボールなどの金属銅アノードが一般的に用いられているが、めっき処理により銅ボールなどの形状や寸法が変わって電流密度分布が変化するため、均一なめっきを行うことができなかった。
【0012】
このように、従来の電気銅めっきのめっき処理装置では、10A/dmを超える大きな電流密度で、従来以上の高速で均一で良好なめっきを行うことは困難であった。
【0013】
そこで、本発明は、FPC等の基板に対して、10A/dmを超える大きな電流密度で、基板のスルーホール内部にまで銅イオンを充分に拡散させ、さらにこげや斑がない均一で良好な従来以上の高速めっきを行うことができる高速連続めっき処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に示す各請求項の発明により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
請求項1に記載の発明は、
10A/dmを超える電流密度で基板へのめっきを行う高速連続めっき処理装置であって、
銅イオン供給部、銅イオン噴流部、不溶性陽極部および給電部を有し、
前記銅イオン供給部は、めっき元液に酸化銅粉を溶解してめっき液を調製する酸化銅粉溶解槽を備えており、
前記銅イオン噴流部は、前記銅イオン供給部において調製された前記めっき液をめっき槽に供給する噴流ポンプと、前記噴流ポンプの先端に接続されて、前記噴流ポンプにより加圧された前記めっき液を基板面に向けて噴出させる噴流ノズルとを備えており、
さらに、前記噴流ノズルは、前記噴流ポンプとの接続部側よりも先端部側が幅広い形状を有すると共に、先端面には複数のノズル孔が設けられており、
前記銅イオン噴流部は、前記基板の表面および裏面に対向して交互に配置されている
ことを特徴とする高速連続めっき処理装置である。
【0016】
初めに、本発明においては、陽極として不溶性陽極を用い、銅イオンの供給方法としてめっき槽の外部から銅イオンを供給する方法を採用している。
【0017】
このように、本発明においては、従来一般に用いられていた銅ボールなどの金属銅アノードではなく、不溶性陽極を用いているため、めっき処理によりアノードの形状や寸法が変わって電流密度分布が変化することがなく、連続してめっき処理を行っても、均一なめっきを行うことができる。
【0018】
また、めっき槽の外部から銅イオンを供給しているため、めっき槽中のめっき液の組成を常に一定に保つことができ、均一なめっきを行うことができる。
【0019】
そして、めっき槽の外部から銅イオンを供給する手段として、酸化銅をめっき元液に溶解させる溶解槽を備えている。塩化銅や硫酸銅を用いた場合には、塩素イオンや硫酸イオンなどのカウンターアニオンの蓄積が起こるため好ましくないが、酸化銅にはこのような問題がない。また、酸化銅に替えて、金属銅の浸漬も考えられるが、銅の溶解反応は酸化銅に比べ明らかに遅いため、高速めっきには用いることは困難である。
【0020】
酸化銅の溶解は、具体的には、酸化銅粉溶解槽に貯えられためっき元液、即ちめっき液を作製するための溶液中に酸化銅粉を投入し、攪拌して酸化銅粉を溶解させる。このように酸化銅粉を用いているのは、粉体であるとめっき元液へ容易に溶解させることができるからである。そして、酸化銅粉が溶解して銅イオンとなることにより、銅イオンがめっき元液中に供給されてめっき液として調製される。
【0021】
次に、本発明においては、銅イオンを基板周囲に供給する方法として、銅イオン噴流部を設けた噴出方式を採用している。このため、スルーホール内部にまで充分な量の銅イオンを安定して供給することができ、こげや斑が生じたりすることがない。
【0022】
具体的には、銅イオンが供給されためっき液は、銅イオン供給部から配管パイプを経由して噴流ポンプに送られる。そして、噴流ポンプにより加圧されて、噴流ポンプの先端に接続され先端面に複数のノズル孔が設けられた噴流ノズルより基板面に向けて噴出される。
【0023】
噴流ノズルは、噴流ポンプとの接続部側よりも先端部側が幅広く形成されており、例えば、羽子板状あるいはフィッシュテール状などの形状を有し、さらにその先端面に複数のノズル孔が設けられている。このため、直管の先端部分をL字型に曲げ側面にノズル孔を設けた従来の噴流ノズルのように、先端部のノズル孔ほど噴出が弱くなるということがなく、各ノズル孔から基板面の幅広い範囲にわたって均一にめっき液を噴出させることができる。その結果、効率的に広い面積の基板面に均一に銅イオンをスルーホールの内部にまで充分に供給することができる。
【0024】
そして、銅イオン噴流部(噴流ポンプおよび噴流ノズル)は、基板の表面および裏面に対向して交互に配置されている。基板の表面および裏面の同一箇所に配置している場合には、噴流ノズルから噴出しためっき液の流れがぶつかって基板の近傍に乱流が発生するが、本発明においてはこのような不都合を生じることがなく、均一なめっきを行うことができる。
【0025】
さらに、基板の両面に交互に配置されているため、FPCのような柔らかい基板に高速の噴流を吹き付けても、FPCが殆ど変形しない。
【0026】
このように、銅イオン噴流部の配置や噴流ノズルの形状に工夫を加えているため、給電ローラー上に銅が析出することもない。
【0027】
本発明によれば、以上の各効果が相乗して、10A/dmを超える高い電流密度での高速連続めっき処理を安定して行うことができ、基板にこげや斑がない均一で良好なめっきを形成させることができる。
【0028】
請求項2に記載の発明は、
前記不溶性陽極部が、前記基板面から5〜50mmの距離に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の高速連続めっき処理装置である。
【0029】
高速連続めっきを行うためには、めっき液の抵抗が大きくなるため、不溶性陽極と基板との距離は従来の20cmよりも小さくして、不溶性陽極を可能な限り基板に近接させて配置することが好ましいが、近接させ過ぎた場合には、噴流で基板が少し変形しただけでも、不溶性陽極と基板とが接触してショートする恐れがある。また、不溶性陽極で発生する酸素ガスの泡に起因してめっき皮膜にボイドが形成される恐れがある。
【0030】
そこで、本発明者は、10A/dmを超える高い電流密度での高速連続めっき処理を安定して行う際の不溶性陽極と基板との間の好ましい間隔につき検討を行い、不溶性陽極と基板との距離は、5〜50mmが好ましく、10〜30mmであるとより好ましいことを確認した。
【0031】
請求項3に記載の発明は、
前記銅イオン供給部には、前記酸化銅粉溶解槽の後に溶存酸素低減層槽が配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高速連続めっき処理装置である。
【0032】
酸化銅粉が溶解して銅イオンとなる際、酸化銅(CuO)の構成要素である酸素が分離してめっき液に溶け込み溶存酸素となる恐れがある。めっき液に溶存酸素があると、不溶性陽極の表面に発生する酸素とめっき液とが接触してめっき液に含有されている光沢剤などの添加剤を消耗させる。このため、めっき液のめっき槽への供給の前に、溶存酸素低減層槽を設け、予め溶存酸素を低減させておくことが好ましい。さらに、めっき液に窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込んでおくこと(バブリング)が好ましい。
【0033】
請求項4に記載の発明は、
前記不溶性陽極部の前記基板に対向する面側に、厚さ1〜3mmの発泡抵抗体が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の高速連続めっき処理装置である。
【0034】
前記の通り、不溶性陽極を基板に近接させ過ぎた場合には、噴流で基板が少し変形しただけでも、不溶性陽極と基板とが接触してショートする恐れがある。また、不溶性陽極で発生する酸素ガスの泡に起因してめっき皮膜にボイドが形成される恐れがある。
【0035】
しかし、不溶性陽極の基板と対向した面に、発泡抵抗体を配置することにより、不溶性陽極を基板により近接させて配置しても、不溶性陽極と基板とは接触することがなく、ショートが発生することがない。このため、不溶性陽極と基板とを充分近接させることにより、より高速めっきが可能となる。
【0036】
そして、発泡抵抗体は、陽イオン隔膜としても機能するため、不溶性陽極で発生する酸素とめっき液との接触を抑制して、めっき皮膜のボイドを防止することができる。さらに、添加剤の消耗も抑制することができる。
【0037】
発泡抵抗体の材質としては、めっき液に対して化学的に安定なオレフィン系樹脂が好ましく、具体的な一例として、ダイセン・メンブレン・システム株式会社製のパールコンを挙げることができる。なお、発泡抵抗体の厚さとしては、1〜3mm程度であることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、FPC等の基板に対して、10A/dmを超える大きな電流密度で、こげつきや斑のない均一で良好な高速めっきを行うことができる高速連続めっき処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る高速連続めっき処理装置におけるめっき槽を正面より見た模式図である。
【図2】本発明に係る高速連続めっき処理装置におけるめっき槽を上方より見た模式図である。
【図3】本発明の実施の形態の噴流ノズルを説明する図である。
【図4】電流密度を変えた場合のスルーホール内部のめっきの様子を示す図である。
【図5】硫酸銅濃度を変化させたときの電流密度とスローイングパワーとの関係を説明するグラフである。
【図6】噴流速度を変化させたときの電流密度とスローイングパワーとの関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0041】
1.本実施の形態における高速連続めっき処理装置の構成
最初に、本実施の形態における高速連続めっき処理装置の主要部につき、その構成を概念的に示す図1および図2を用いて説明する。なお、図1はめっき槽を正面より見た模式図であり、図2はめっき槽を上方より見た模式図である。図1に示すように、本実施の形態における高速連続めっき処理装置は、銅イオン供給部90、銅イオン噴流部80、不溶性陽極部60および給電ローラー51、52からなる給電部を備えている。以下、各部毎に詳細に説明する。
【0042】
(1)銅イオン供給部
銅イオン供給部90は、めっき槽70中のめっき元液に銅イオンを供給するものであり、酸化銅粉溶解槽91、銅イオン補給槽92、溶存酸素低減槽93および濾過器94より構成されている。
【0043】
酸化銅粉溶解槽91には、所定濃度、例えば、硫酸銅250g/Lおよび硫酸50g/Lを含む水溶液であるめっき元液が貯えられている。なお、このめっき元液には、必要に応じて、光沢剤としての有機物やレベラー(平滑剤)などを添加することができる。めっき元液に酸化銅粉を投入し、攪拌して酸化銅粉を溶解させる。酸化銅粉が溶解して銅イオンとなることにより、銅イオンがめっき元液中に供給されてめっき液が調製される。
【0044】
めっき元液濃度としては、硫酸銅濃度が高くなると、表面光沢性は良くなるが、スルーホール内へのつきまわり(めっきの付着性)は逆に悪くなる。そこで、本発明者は、噴流速度33.2km/hの条件の下、硫酸銅濃度を変化させたときの電流密度とスローイングパワー、即ちスルーホール内へのつきまわり性との関係を検討し、図5に示すグラフを得た。そして、図5において、全面が光沢となり、かつスルーホール内へのつきまわり性(スローイングパワー)が良好であることより、240〜350g/Lが好ましいめっき元液濃度であることを確認した。
【0045】
溶解後のめっき元液の上澄みが、銅イオン補給槽92に送られた後、さらに溶存酸素低減槽93に送られ、窒素ガスなどの不活性ガスが吹き込まれる(バブリング)ことにより溶存酸素が低減される。そして、濾過器94で濾過された後、銅イオン噴流部80に送られる。溶存酸素を低減させることにより、めっき時に不溶性陽極の表面に発生する酸素が低減されて、酸素とめっき液との接触が抑制されるため、めっき液に含有されている光沢剤などの添加剤の消耗を低減させることができる。
【0046】
(2)銅イオン噴流部
銅イオン噴流部80は、配管パイプ81、噴流ポンプ82および噴流ノズル83より構成されている。配管パイプ81を経由して送られてきためっき液は、噴流ポンプ82により加圧されて、噴流ポンプ82の先端に設けられた噴流ノズル83の噴出口より基板10に向けて噴出される。
【0047】
噴流ポンプ82(および噴流ノズル83)は、基板10の表面および裏面に対向して交互にずれた位置に配置されている。このように、表裏で交互にずれた位置に配置することにより、基板の近傍に乱流が発生することがない。さらに、基板10がたわむなどの変形が殆ど発生しない。噴流が当たる基板10の背面側にアテを配置して、基板のたわみをより防止することもできる。
【0048】
次に、噴流ノズル83につき、図3を用いて、詳しく説明する。なお、図3(a)は本実施の形態の噴流ノズルの平面図であり、図3(b)は噴流ノズル83のノズル本体部22をノズル先端面から見た側面図である。図3(a)に示すように、噴流ノズル83は、噴流ポンプに接続された上下方向管21と、上下方向管21に接続された複数のノズル本体部22(図3においては3個)より構成されている。そして、図3(b)に示すように、各ノズル本体部22の先端面には、複数のノズル孔23(図3においては7個)が設けられている。そして、ノズル孔23は、基板10と対向して配置されている。なお、ノズル本体部22は、図3(a)に示すように羽子板状の形状をしている。
【0049】
噴流速度としては、速い方がスルーホール内へのつきまわり(めっきの付着性)が良くなるが、乱流が生じやすくなる。そこで、本発明者は、銅イオン濃度240g/Lのめっき液を用いて、噴流速度を変化させたときの電流密度とスローイングパワー、即ちスルーホール内へのつきまわり性との関係を検討し、図6に示すグラフを得た。そして、図6において、高電流密度であっても良好なスローイングパワーが得られることより、50km/h前後が最も好ましい噴流速度であることを確認した。
【0050】
(3)不溶性陽極部
不溶性陽極部60は、チタン上に酸化イリジウムをコーティングした不溶性陽極本体62とその表面に設けられたタンタル酸化物などのセラミックコート層63とからなる不溶性陽極、および基板10に対向して設けられた発泡抵抗体61により構成されている。表面にタンタル酸化物などのセラミックスを薄くコーティングしているのは、光沢剤など添加剤の電気分解を抑制することができるためである。
【0051】
(4)給電部
給電部は、巻き出し側の給電ローラー51と巻き取り側の給電ローラー52により構成されている。給電ローラー51、52は、基板10を負に帯電させて、めっき槽70内を走行させる。基板10が負に帯電されているため、その表面にめっき液中の銅イオンが電着して、銅めっきが行われる。なお、給電部には、めっき液の温度上昇を抑制するため、必要に応じて冷却機構(チラー)が設けられる。
【0052】
なお、基板10としては、連続して高速めっきを行うため、ロール形状で提供される長尺体を用いる。そのような基板の一例として、厚さ20μmのポリイミド層の表裏両面に厚さ9μm程度の銅層が形成され、さらに直径100μm程度のスルーホールが適宜形成された幅250mm×長さ100m巻きの長尺銅貼り基板を挙げることができる。
【0053】
2.FPC基板へのめっき実験
次に、上記しためっき装置を用いて、図4に示すような、厚さ20μmのポリイミド層11の表裏両面に厚さ9μm程度の銅層12が形成され、さらに直径100μm程度のスルーホールが適宜形成された幅125mmの銅貼り基板(長さ:100m)に、電流密度を変えてめっきを行い、各電流密度での基板中央部およびスルーホール断面における銅めっき層13の状態を観察した。
【0054】
なお、噴流ノズルからの噴出は、噴流速度50km/hで噴出量20L/分(2dm当たりの流量)とし、不溶性陽極と基板との距離は15mmに設定し、厚さ1mmの発泡抵抗体を配置してめっきを行った。
【0055】
図4は、各電流密度で得られためっきの状態を示す図であり、(1)は電流密度20A/dm、(2)は電流密度25A/dm、そして(3)は電流密度30A/dmとしたときのめっき結果である。(3)において19はスルーホール壁面に生じためっき層の凸部、いわゆる焼けである。
【0056】
図4において、aは表面のめっき層の厚さを、bはスルーホール内のめっき層の厚さを示している。b/aの値が0.8以上であれば、実用上の問題は生じないとされている。図4に示すように、電流密度が20A/dm以上の場合には、b/aの値が1.00以上となり、充分な実用性を有することが分かる。しかし、30A/dm以上の場合にはb/aの値が1.00以上であっても焼けを生じるようになり好ましくない。
【符号の説明】
【0057】
10 基板
11 ポリイミド層
12 銅層
13 銅めっき層
19 焼け
21 上下方向管
22 ノズル本体部
23 ノズル孔
51、52 給電ローラー
60 不溶性陽極部
61 発泡抵抗体
62 不溶性陽極本体
63 セラミックコート層
70 めっき槽
80 銅イオン噴流部
81 配管パイプ
82 噴流ポンプ
83 噴流ノズル
90 銅イオン供給部
91 酸化銅粉供給槽
92 銅イオン補給槽
93 溶存酸素低減槽
94 濾過器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10A/dmを超える電流密度で基板へのめっきを行う高速連続めっき処理装置であって、
銅イオン供給部、銅イオン噴流部、不溶性陽極部および給電部を有し、
前記銅イオン供給部は、めっき元液に酸化銅粉を溶解してめっき液を調製する酸化銅粉溶解槽を備えており、
前記銅イオン噴流部は、前記銅イオン供給部において調製された前記めっき液をめっき槽に供給する噴流ポンプと、前記噴流ポンプの先端に接続されて、前記噴流ポンプにより加圧された前記めっき液を基板面に向けて噴出させる噴流ノズルとを備えており、
さらに、前記噴流ノズルは、前記噴流ポンプとの接続部側よりも先端部側が幅広い形状を有すると共に、先端面には複数のノズル孔が設けられており、
前記銅イオン噴流部は、前記基板の表面および裏面に対向して交互に配置されている
ことを特徴とする高速連続めっき処理装置。
【請求項2】
前記不溶性陽極部が、前記基板面から5〜50mmの距離に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の高速連続めっき処理装置。
【請求項3】
前記銅イオン供給部には、前記酸化銅粉溶解槽の後に溶存酸素低減層槽が配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高速連続めっき処理装置。
【請求項4】
前記不溶性陽極部の前記基板に対向する面側に、厚さ1〜3mmの発泡抵抗体が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の高速連続めっき処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−202962(P2010−202962A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52933(P2009−52933)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(500400216)住友電工プリントサーキット株式会社 (197)
【Fターム(参考)】