説明

高電圧機器用絶縁性組成物

【課題】高電圧機器において十分な物性および安全性等を得ると共に、地球環境保全に貢献できる高電圧機器用絶縁性組成物を提供する。
【解決手段】、高分子成分としてエポキシ樹脂を適用し、その無機充填剤には例えば火力発電所等の副産物として生成される石炭灰を適用(石炭灰を再利用)する。これらエポキシ樹脂,無機充填剤に対し、硬化剤等の各種添加剤を適宜配合して混練物を得、その混練物を注型等により所望の形状に成形し、熱処理により三次元架橋して絶縁性組成物を形成する。前記の石炭灰には例えばフライアッシュを適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧機器用絶縁性組成物に関するものであって、例えば筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた高電圧機器(重電機器等)の絶縁構成に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
例えば筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた高電圧機器(重電機器等)の絶縁構成(例えば、絶縁性を要する部位)に適用(例えば、屋外に直接暴露して適用)される材料として、石油由来の熱硬化性樹脂(石油を出発物質とした樹脂;エポキシ樹脂等)等の高分子成分に硬化剤,充填剤(無機充填剤等),補助剤(シランカップリング剤,硬化促進剤等)等の各種添加剤を配合した絶縁材料を硬化して成る組成物、例えば絶縁材料を注型して成る組成物により構成された製品(モールド注型品;以下、絶縁性製品と称する)が、従来から広く知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
社会の高度化・集中化に伴って高電圧機器等の大容量化,小型化や高い物性(例えば、電気的物性(絶縁破壊電界特性等),機械的物性(曲げ強度等))等が強く要求されると共に、前記の絶縁性製品に対しても種々の特性の向上が要求されてきた。
【0004】
例えば、絶縁性製品の物性を左右するエポキシ樹脂等の高分子成分は、石油由来物質(限りある資源)であることから、前記の絶縁性製品を処分(例えば、寿命,故障等の理由で処分)する場合には、回収し再利用(リサイクル)する試みが行われている。しかしながら、その再利用方法は確立されておらず殆ど行われていない。例外的に、品質が比較的均一な部材(絶縁性製品に用いられているPEケーブル被覆部材)のみを回収しサーマルエネルギーとして利用されているが、このサーマルエネルギーは燃焼処理工程を要するため、環境汚染,地球温暖化等の問題を招く恐れがある。また、焼却処理する場合には、種々の有害物質や二酸化炭素を大量に排出し、環境汚染,地球温暖化等の問題を引き起こす恐れがある点で懸念されている。
【0005】
そこで、近年においては、前記のエポキシ樹脂等の高分子成分を適用する替わりに、生分解性を有する高分子成分を適用する試みが行われている(例えば、特許文献2,3)。
【0006】
なお、前記の高電圧機器等とは異なる技術分野ではあるが、植物由来の高分子成分が配合された材料を硬化して成る組成物を適用(例えば印刷配線ボードに適用)する試みが行われ(例えば、特許文献4)、例えば室温雰囲気下で使用した場合には十分な機械的物性が得られることが知られている。
【0007】
また、再利用という観点では、道路,建材等の技術分野において石灰灰(フライアッシュ等)を充填剤として適用することが知られている(例えば、非特許文献1)。
【特許文献1】特許第3359410号公報
【特許文献2】特開2004−171799号公報
【特許文献3】特開2002−358829号公報
【特許文献4】特開2002−53699号公報
【非特許文献1】「資源として広く活用されているCOAL ASH」,パンフレット,日本フライアッシュ協会,平成16年4月。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記のように生分解性を有する高分子成分を適用した絶縁性製品は、比較的溶融(例えば、100℃程度の温度で溶融)し易いことから、高電圧機器(使用中に100℃程度に温度上昇し得る高電圧機器)に適用すると安全性が低下(例えば、機械強度が低下)する恐れがある。
【0009】
また、硬化剤としてアルデヒド類を用いた絶縁性製品は、常温程度の温度雰囲気下(例えば、印刷配線ボードにおける温度環境)では高い機械的物性を有するものの、高温雰囲気下(例えば、高電圧機器等の使用環境)では十分な機械的物性が得られない恐れがあった。
【0010】
以上示したようなことから、高電圧機器において十分な物性および安全性等を得ると共に、地球環境保全に貢献することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記の課題の解決を図るためのものであって、高電圧機器において十分な物性および安全性等を得ると共に、地球環境保全に貢献できる高電圧機器用絶縁性組成物を提供することにある。
【0012】
具体的に、請求項1記載の発明は、高電圧機器の絶縁構成に用いられる高電圧機器用絶縁性組成物であって、エポキシ樹脂に対し、硬化剤,無機充填剤としてそれぞれフェノール樹脂,石炭灰が配合された混練物から成り、前記の混練物を熱処理により三次元架橋したことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記の石炭灰は、フライアッシュであることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記の石炭灰を85wt%以下配合したことを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3記載の発明において、前記混練物は、シランカップリング剤を配合したことを特徴とする。
【0016】
請求項1〜4記載の発明のような三次元架橋構造の絶縁性組成物では、充填剤において新たな製造エネルギーを消費したり二酸化炭素を発生することなく、生分解性を有する熱可塑性高分子成分を適用した絶縁性製品等のように溶融することがない。
【0017】
請求項3記載の発明では、所望の形状の組成物が得られ易くなる。
【0018】
請求項4記載の発明では、混練物の各成分の親和性が高められる。
【発明の効果】
【0019】
以上、請求項1〜4記載の発明によれば、高電圧機器に適用される絶縁性製品として十分な物性(電気的物性,機械的物性等)および安全性等が得られると共に、地球環境保全に貢献することができる。
【0020】
また、請求項3記載の発明によれば、成形不良等の不具合を抑制でき、歩留まりが向上する。
【0021】
さらに、請求項4記載の発明によれば、前記の物性がより向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態における高電圧機器用絶縁性組成物を詳細に説明する。
【0023】
本実施の形態は、高電圧機器に適用されている絶縁材料において、体積比,重量比で最も多く配合されているものが、高分子成分ではなく無機充填剤であることに着目したものである。一般的な高電圧機器用の絶縁材料においては、シリカ,アルミナ等の何れかが無機充填剤(リサイクル品ではない無機充填剤)として選択され、絶縁性製品中に内装されるインサートの線膨張率や放熱特性等を考慮して、例えば少なくとも40vol%以上(必要に応じて70vol%以上)程度の範囲で適用されているが、それら無機充填剤にリサイクル品を適用する試みは全くなかった。
【0024】
すなわち、本実施形態では、高分子成分としてはエポキシ樹脂を適用し、その無機充填剤には火力発電所等の副産物として生成される石炭灰を適用(石炭灰を再利用)することにより、十分良好な電気的物性,機械的物性が得られると共に、地球環境保全に貢献できることを見出したものである。この石炭灰を適用することにより、該充填剤において新たな製造エネルギーが消費されることはなく、二酸化炭素の発生も伴わない。
【0025】
エポキシ樹脂としては、例えばエポキシ化亜麻仁油,エポキシ化大豆油等の植物由来(非石油由来)のものが挙げられる。また、不飽和脂肪酸である動植物油から成るエポキシ化物においても、非石油由来物質として適用することが可能である。
【0026】
石炭灰としては、例えば非特許文献1に示すようなフライアッシュ(例えば、I種,II種,III種)が挙げられる。フライアッシュの種類の違いによって、目的とする高電圧機器用絶縁性組成物の物性において多少の差異はあるが、それぞれ環境性,経済性等が優れている点で共通している。
【0027】
硬化剤としては、例えばエポキシ樹脂と反応し得るアミン類,酸無水物類,フェノール類,イミダゾール類等のものが適用でき、ヒマシ油系ポリオール等の植物由来のものも適用できる。
【0028】
前記の硬化剤の配合量は、例えばエポキシ樹脂のエポキシ当量を算出し、そのエポキシ当量に基づいた化学量論量を添加(例えば、化学量論比に対し1.0として添加)する。このような硬化剤の配合割合は、例えば目的とする高分子製品に要求される物性の優先順位によって適宜設定され得るものである。
【0029】
前記のエポキシ樹脂,無機充填剤,硬化剤の他に、例えば作業性の向上(例えば、作業時間の短縮等),成形性,Tg特性,機械的・物理的物性,電気的物性等の改善を図る目的で、種々の添加剤を適宜用いることができ、例えば硬化促進剤(硬化剤の硬化の起点;例えば有機過酸化物,アミン類,イミダゾール類等),反応抑制剤,反応助剤(反応(Tg特性)を制御する目的;パーオキサイド等)等を適宜併用することが可能である。
【0030】
具体例としては、前記の無機充填剤としてフライアッシュを適用する場合、そのフライアッシュがシリカ,アルミナ等を主成分とする混和物であるため、各成分の親和性を向上させる目的で、シランカップリング剤を添加(例えば、インテグラルブレンド法により添加)することが好ましい。
【0031】
なお、高分子成分等にパーオキサイドを添加して混練すると、その混練物は時間経過と共に粘度が上昇し、生産性が低下(例えば、混練性,成形性が低下)する恐れがあるものの、可使時間(ポットライフ)が例えば60分以上であれば良好な生産性を有するものとみなすことができる。
【0032】
本実施形態の絶縁性組成物における架橋は、本質的に硬化剤によるものであって、硬化条件や前記の硬化促進剤,反応抑制剤,反応助剤等の有無によって架橋構造が影響を受けることはない。
【0033】
例えば、硬化条件(温度,時間等)は、目的とする絶縁性組成物の物性を得るために適宜設定(例えば、硬化促進剤の種類や配合量等に応じて適宜設定)されるものであり、該硬化条件が異なっても該物性自体に大きな差が生じることはない。また、反応促進剤,反応抑制剤は、反応性を高めたり安全(抑制)にして作業性や生産性等を改善する目的で適宜適用されるものであり、該反応促進剤,反応抑制剤の種類や配合量が異なっても該物性自体に大きな差が生じることはない。さらに、反応助剤は、前記の反応促進剤,反応抑制剤と同様に反応性を調整(例えば、パーオキサイドの場合は、Tg特性の調整)するために適宜適用(例えば、硬化条件や硬化促進剤等の種類,配合量に応じて適宜適用)されるものであり、該反応助剤の種類や配合量が異なっても該物性自体に大きな差が生じることはない。
【0034】
[実施例]
次に、本実施の形態における高電圧機器用絶縁性組成物の実施例を説明する。
【0035】
本実施例では、まず、高分子成分であるエポキシ化亜麻仁油(ダイセル化学社製のダイマックL−500)100phrに対し、硬化剤としてフェノール樹脂(住友ベークライト社製のPR−HF−3)化学量論量(本実施例ではエポキシ樹脂100phrに対し60phr),硬化促進剤としてイミダゾール類(四国化成社製の2E4MZ)1phrを配合し、さらに後述の表1に示すように無機充填剤としてフライアッシュ(JIS A6201−1999のII種)400phr〜900phr配合し混練(添加量に応じた条件で混練)することにより、混練物S1〜S4を得た。
【0036】
なお、混練物S1〜S4の比較例として、該混練物S1〜S4と同様の硬化剤,硬化促進剤を用いると共に、高分子成分として石油由来のエポキシ樹脂(バンティコ社製のCT200A)100phr,無機充填剤としてシリカ(龍森社製のMCF−4)500phr用いることにより、混練物P1を得た。
【0037】
また、本実施例の混練物S1〜S4,P1は、前記の高分子成分,硬化剤,硬化促進剤,無機充填剤の他に、シランカップリング剤(信越化学社製のKBM−403)を配合(インテグラルブレンド法によりフライアッシュまたはシリカに対し1phr配合)したものとする。
【0038】
そして、前記の混練物S1〜S4,P1において、金型注型し脱泡工程を経てから温度170℃,4時間の熱処理(三次元架橋)を行うことにより、それぞれ絶縁性組成物の試料(1mm×250mm×250mmの平板状試料、および5mm×10mm×200mmの柱状試料)を作成し、電気的物性として油中絶縁破壊電解(平板状試料での破壊電解),機械的物性として室温(20℃)雰囲気下での曲げ強度(柱状試料での曲げ強度)を測定して、各測定結果を下記表1にそれぞれ示した。
【0039】
【表1】

【0040】
前記表1に示すように、無機充填剤としてフライアッシュを配合した混練物S1〜S4を用いた場合の絶縁性組成物は、該無機充填剤としてシリカを配合した混練物P1を用いた場合と略同等の十分良好な電気的物性,機械的物性が得られた。
【0041】
なお、高分子成分に対する無機充填剤の割合が多過ぎると、所望の絶縁性組成物が得られない恐れがあるが、少なくとも本実施例に示すような配合割合であれば、所望の絶縁性組成物を形成できることを読み取れる。例えば、混練物S4の無機充填剤(フライアッシュ)の配合割合は約85wt%(具体的には、900÷(900+100+60+1+1)≒84.7(wt%))であることから、該無機充填剤の配合割合を85wt%以下に設定することにより、所望の絶縁性組成物を形成できることが読み取れる。
【0042】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0043】
例えば、高分子成分(エポキシ樹脂)に無機充填剤等が配合された混練物における混練条件や熱処理条件は、該高分子成分,無機充填剤やその他の各種添加剤等の種類や配合量に応じて適宜設定されるものであり、本実施例で示した内容に限定されるものではない。また、前記の高分子成分,無機充填剤等の他に、目的とする絶縁性組成物の特性を損わない程度の範囲で種々の添加剤(例えば、実施例以外の添加剤)を適宜配合した場合においても、本実施例に示したものと同様の作用効果が得られることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧機器の絶縁構成に用いられるものであって、
エポキシ樹脂に対し、硬化剤,無機充填剤としてそれぞれフェノール樹脂,石炭灰が配合された混練物から成り、
前記の混練物を熱処理により三次元架橋したことを特徴とする高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項2】
前記の石炭灰は、フライアッシュであることを特徴とする請求項1記載の高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項3】
前記の石炭灰を85wt%以下配合したことを特徴とする請求項1または2記載の高電圧機器用絶縁性組成物。
【請求項4】
前記混練物は、シランカップリング剤を配合したことを特徴とする請求項1〜3のうち何れかに記載の高電圧機器用絶縁性組成物。

【公開番号】特開2008−257978(P2008−257978A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98234(P2007−98234)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】