説明

魚介・畜肉類の洗浄方法、エキス原料の製造方法、及び洗浄水再利用システム

【課題】魚介・畜肉類の洗浄方法、エキス原料の製造方法、及び洗浄水再利用システムを提供する。
【解決手段】魚介・畜肉類を洗浄水に晒して洗浄し、使用した洗浄水を水溶性タンパク質および脂質を除去した上で、魚介・畜肉類の洗浄に繰り返し再利用することを特徴とする。具体的には、使用した洗浄水を加熱して、水溶性タンパク質を凝固させると共に、脂質を水相から分離させ、それぞれを各別に回収する。回収されたものは、食品や飼料原料として有効活用できる。また、繰り返し使用した洗浄水にはエキス分が移行し濃縮化されているので、エキス原料として利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚介・畜肉類の洗浄方法、エキス原料の製造方法、及び洗浄水再利用システムに係り、特に魚介類のすり身の製造に好適に適用できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚介類のすり身の原料は、魚介類の落とし身または丸ごと粉砕肉を大量の水に晒し磨擂してから脱水することにより製造する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常、洗浄水(晒し水)はワンパス方式で利用されており、再利用されていない。そのため、すり身(晒し肉)の製造工場では、水を大量に使用し且つそれをそのまま大量に排出していた。而して、使用した後の洗浄水には水溶性タンパク質や脂質が多く含有されていることから、そのまま排出することができず、すり身の製造業者は従来から廃水処理に結構な費用を掛けていた。
【0004】
ところで、従来は主に白身魚をすり身に加工していたが、最近では赤身魚もすり身に加工するようになってきた。しかしながら、白身魚に比べて赤身魚には特段に多くの水溶性タンパク質や脂質が含まれている。したがって、赤身魚をすり身に加工する場合には、廃液の汚濁負荷量もより高くなり、すり身(晒し肉)の製造業者は廃水処理にかなりの高額な費用を掛けることを余儀なくされている。
また、水産加工の工場全般に言えることであるが、環境への影響から、廃棄物は極力減らすことが求められている。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決するものであり、洗浄水を使用後に再利用できるように復元しながら、繰り返し再利用する洗浄方法を提供することを目的とする。
また、洗浄水を復元する際に排出されるものは、廃棄物ではなく、有効活用できる副産品とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、魚介・畜肉類を洗浄水に晒して洗浄する際に、使用した洗浄水を水溶性タンパク質および脂質を除去した上で、魚介・畜肉類の洗浄に繰り返し再利用することを特徴とする魚介・畜肉類の洗浄方法である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した魚介・畜肉類の洗浄方法において、使用した洗浄水を加熱して、水溶性タンパク質を凝固させると共に、脂質を水相から分離させ、それぞれを各別に回収することで除去することを特徴とする魚介・畜肉類の洗浄方法である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した魚介・畜肉類の洗浄方法において、魚介類の丸ごと粉砕肉または落とし身から水晒し、磨擂、脱水の工程を経てすり身に加工する際の洗浄水として繰り返し再利用することを特徴とする魚介・畜肉類の洗浄方法である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した魚介・畜肉類の洗浄方法の実施により、魚介・畜肉類から洗浄水にエキス分を移行させ蓄積させていくことでエキス原料を製造することを特徴とするエキス原料の製造方法である。
【0010】
請求項5の発明は、水晒しを含む処理を行う魚介・蓄肉類処理部と、使用済みの洗浄水を加熱する加熱部と、加熱されて凝固した水溶性タンパク質を回収するタンパク質回収部と、加熱されて水と分離し易くなった脂質を回収する脂質回収部と、水溶性タンパク質と脂質が回収除去された洗浄水を冷却する冷却部と、前記加熱部での加熱源としての加熱流体と前記冷却部での冷却源としての冷却流体との間で熱交換する熱交換器とを備え、前記冷却部で冷却された洗浄水が前記魚介・蓄肉類処理部での水晒し処理に繰り返し再利用されることを特徴とする洗浄水再利用システムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、すり身(晒し肉)を製造する際に、その品質を損なわずに、洗浄水の使用量を大幅に低減できる。
また、本発明によれば、水溶性タンパク質及び脂質を各別に回収するので食品や飼料として有効活用でき、最終的に排出される水もエキス分が移行して蓄積しているのでエキス原料として有効活用できる。従って、廃棄物を殆ど出さずに済み、環境に配慮したものと言える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る晒し水再利用システムの構成図である。
【図2】実施例1におけるろ液中のBrix値の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例2におけるろ液中のBrix値の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(処理対象とする魚介・畜肉類)
本発明の処理対象にする魚介・畜肉類は、特に限定されない。
魚介類の晒し肉を製造する場合には、マアジ、タチ、イワシ、カツオ、マグロ等の赤身魚、スケトウダラ、イトヨリ、グチ等の白身魚、イカ類、オキアミ等のエビ類のいずれも処理できる。
形態は採肉機によって採肉した落とし身でも、丸ごと粉砕肉でもよい。
【0014】
赤身魚にはEPA、DHA、タウリン等優れた機能性栄養成分が白身魚に比べて豊富に含まれており、加工食品としても有望視されているが、洗い出すべき水溶性タンパク質や脂質が白身魚に比べて多く含まれているため、晒し処理にかなり大量の水を必要とする。特に、すり身に加工する場合には、磨擂してミンチにした後に晒し処理により水溶性タンパク質や脂質をしっかりと洗い出さなければならず、大量の水を必要とする。従って、赤身魚のすり身を製造する場合に、本発明は特に有用である。
【0015】
(洗浄方法)
魚介・畜肉類の洗浄に一度使用した水、即ち洗浄水から水溶性タンパク質や脂質を除去した後、新しい魚介・畜肉類の洗浄に再び使用する。全てをそのまま再利用しても、それに新しい水を補充して使用してもよい。
繰り返し使用回数は2回以上であり、製品の品質に悪影響を与えない限り何回でも繰り返して使用できる。
加熱により、水溶性タンパク質は凝固し、脂質は水と分離し易くなる。したがって、加熱して、この両者を各別に回収して、洗浄水から除去する。加熱の方法は蒸気などいかなる方法でもよい。加熱温度は60℃以上が好ましく、70〜80℃がより好ましい。
【0016】
水溶性タンパク質の凝固物はろ過により分離して回収する。ろ過は、ろ紙やろ布を用いたフィルタープレス、加圧ろ過など凝固物を除去できる一般的な方法で構わない。
脂質は、静置分離や遠心分離により水相から分離させた後、回収する。
水溶性タンパク質や脂質は、各別に回収されるので、副産品として食品や飼料原料に有効活用することができる。
【0017】
繰り返し使用された洗浄水は最終的には排出されるが、洗浄毎に水溶性タンパク質や脂質が除去されており、ワンパス方式で排出されるものより、廃水処理の汚濁負荷が低くなっている。その一方で、魚介・畜肉類のエキス成分は洗浄水に移行され、上記したような水溶性タンパク質や脂質の除去処理では除去されずに蓄積されていく。したがって、繰り返し使用された洗浄水は、エキス原料として有効活用できる。
【0018】
(洗浄水再利用システム)
上記の方法を実施する洗浄水再利用システムの一例について、図1に従って説明する。
符号1はシステム全体を示し、このシステム1には各処理部が備えられている。
魚介・蓄肉類処理部3では、投入された魚介・畜肉類が洗浄され、用途に応じて脱水される。
この魚介・畜肉類処理部3は慣用的なものであり、すり身の加工の場合には、攪拌タンク内での落とし身や丸ごと粉砕肉の水晒し、磨擂、脱水処理が行われることになる。
【0019】
加熱部5では、魚介・畜肉類処理部3で使用された洗浄水(晒し水)を加熱する。そして、タンパク質回収部7では、加熱により凝固した水溶性タンパク質をろ過により回収する。脂質回収部9では、加熱により水から分離した脂質を回収する。
脂質回収部9から出てきた洗浄水(晒し水)は、冷却部11で冷却される。そして、戻し手段13により、魚介・蓄肉類処理部3に戻されて、洗浄水(晒し水)として再利用される。戻し手段13は魚介・畜肉類処理部3に接続されるパイプとポンプ等の適宜な手段により構成される。
このようにして、除去処理後の洗浄水(晒し水)は、次に送られてきた魚介・畜肉類の洗浄に繰り返し再利用される。不足分は新しい水が補充されることになる。
【0020】
加熱部5での加熱源としての加熱流体と冷却部11での冷却源としての冷却流体とは熱交換器15により熱交換されており、省エネルギー化されている。
冷却部11で冷却されて出てきた水には、魚介・畜肉類から抽出されたアミノ酸などのエキス成分が溶解しているが、すり身等の水産加工物の製造の場合にはそのまま洗浄水として問題なく再利用できる。従って、洗浄水(晒し水)としての利用を繰り返す度に、そのエキス成分が蓄積され、濃度が高まっていく。
【実施例1】
【0021】
以下に実施例を示して本発明の効果を説明する。
マアジミンチ肉50gに5℃の蒸留水250mLを晒し水として加えてヒスコトロン(粉砕機)で20秒間撹拌、磨擂して水溶性タンパク質や脂質を洗い出した。
この水溶性タンパク質等が混入された水を、冷却遠心分離機にて2,500Gで10分間脱水した。次にその上清液を別の容器に移して、ウォーターバス内で75℃以上になるまで加熱した。そして析出した加熱凝固物をブフナーロート式のろ過装置にて5Bのろ紙でろ過した。また、ろ液は静置して浮上油を取り除いた。そして、冷却した後、不足分を氷で補って250mLとして、再度新しいミンチ肉50gに加えて撹拌して水溶性タンパク質や脂質を洗い出した。これらの操作を合計で5回繰り返して行った。
【0022】
操作中、遠心分離による沈殿物(脱水肉)の回収重量、脂質含量、水分量、ろ過残渣(水溶性タンパク質)の回収重量、浮上油(脂質)の回収重量、ろ液(エキス原料)のBrixを各々測定した。
【0023】
沈殿物の回収重量、脂質含量及び水分量の測定結果を表1に示した。
晒し水を1回目から5回目まで繰り返して使用したところ、沈殿物(脱水肉)の回収重量は43〜44gであり、ほぼ同様であった。また、脂質含量も4.2〜4.8%、水分量も80%前後であり、大きな変動は見られなかった。したがって、晒し水を5回繰り返して使用しても1回目から5回目まで同様な品質の脱水肉を得られることが確認できた。
【0024】
【表1】

【0025】
また、ろ過残渣及び浮上油の回収重量の測定結果を表2に示した。晒し水を1回目から5回目まで繰り返して使用してもろ過残渣は9.0〜10.9g、浮上油の回収重量は1.1〜1.6gであり、大きな変動は見られなかった。したがって、晒し水を5回繰り返して使用しても1回目から5回目まで同様にマアジミンチ肉中の水溶性タンパク質と脂質を除去して回収できることが確認できた。
【0026】
【表2】

【0027】
ろ液中のBrix値の測定結果を図2に示した。洗浄水を繰り返して使用すると使用回数に比例してろ液中のBrix値は上昇した。したがって、洗浄水を繰り返して使用することで高濃度なエキス原料を製造できることが確認できた。
【実施例2】
【0028】
以下に実施例を示して本発明の効果を説明する。
カツオミンチ肉1kgに5℃の水5Lを晒し水として加えて適当に撹拌してから、マスコロイダー(株式会社増幸産業製)を用いて磨擂して水溶性タンパク質や脂質を洗い出した。
この水溶性タンパク質等が混入された水を、シャープレス連続式遠心分離機(巴工業株式会社製)にて2,500Gで脱水した。次にその廃液を蒸気式の2重釜に移して、75℃以上になるまで加熱した。そして析出した加熱凝固物をブフナーロート式のろ過装置にて5Bのろ紙でろ過した。また、ろ液は静置して浮上油を取り除いた。そして、冷却した後、不足分を氷で補って5Lとして、再度新しいカツオミンチ肉1kgに加えて撹拌して水溶性タンパク質や脂質を洗い出した。これらの操作を合計で3回繰り返して行った。
【0029】
操作中、遠心分離による沈殿物(脱水肉)の回収重量、脂質含量、水分量、ろ過残渣(水溶性タンパク質)の回収重量、浮上油(脂質)の回収重量、ろ液(エキス原料)のBrixを各々測定した。
【0030】
脱水肉の回収重量、脂質含量及び水分量の測定結果を表3に示した。
晒し水を1回目から3回目まで繰り返して使用した時の脱水肉の回収重量は755.7〜844.4gであり、大きな変動は見られなかった。また、脂質含量も1.6〜2.8%、水分量も80%前後であり、ほとんど変わらなかった。したがって、晒し水を3回繰り返して使用しても1回目から3回目まで同様な品質の脱水肉を得られることが確認できた。
【0031】
【表3】

【0032】
また、ろ過残渣及び浮上油の回収重量の測定結果を表4に示した。晒し水を1回目から3回目まで繰り返して使用した時のろ過残渣の回収重量は160.4〜218.3g浮上油の回収重量は4.2〜5.4gであり、大きな変動は見られなかった。したがって、晒し水を3回繰り返して使用しても1回目から3回目まで同様にカツオミンチ肉中の水溶性タンパク質と脂質を除去して回収できることが確認できた。
【0033】
【表4】

【0034】
ろ液中のBrix値の測定結果を図3に示した。洗浄水を繰り返して使用すると使用回数に比例してろ液中のBrix値は上昇した。したがって、晒し水を繰り返して使用することで高濃度なエキス原料を製造できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、魚介・畜肉類の洗浄の際に使用する水の量を少なくできる。しかも、洗浄水の復元の際には、廃棄物ではなく、有効活用できる副産品を生成するので、環境にも配慮している。
【符号の説明】
【0036】
1…洗浄水再利用システム 3…魚介・畜肉類処理部 5…加熱部
7…タンパク質回収部 9…脂質回収部 11…冷却部
13…戻し手段 15…熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介・畜肉類を洗浄水に晒して洗浄する際に、使用した洗浄水を水溶性タンパク質および脂質を除去した上で、魚介・畜肉類の洗浄に繰り返し再利用することを特徴とする魚介・畜肉類の洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載した魚介・畜肉類の洗浄方法において、
使用した洗浄水を加熱して、水溶性タンパク質を凝固させると共に、脂質を水相から分離させ、それぞれを各別に回収することで除去することを特徴とする魚介・畜肉類の洗浄方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した魚介・畜肉類の洗浄方法において、
魚介類の丸ごと粉砕肉または落とし身から水晒し、磨擂、脱水の工程を経てすり身に加工する際の洗浄水として繰り返し再利用することを特徴とする魚介・畜肉類の洗浄方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した魚介・畜肉類の洗浄方法の実施により、魚介・畜肉類から洗浄水にエキス分を移行させ蓄積させていくことでエキス原料を製造することを特徴とするエキス原料の製造方法。
【請求項5】
水晒しを含む処理を行う魚介・畜肉類処理部と、使用済みの洗浄水を加熱する加熱部と、加熱されて凝固した水溶性タンパク質を回収するタンパク質回収部と、加熱されて水と分離し易くなった脂質を回収する脂質回収部と、水溶性タンパク質と脂質が回収除去された洗浄水を冷却する冷却部と、前記加熱部での加熱源としての加熱流体と前記冷却部での冷却源としての冷却流体との間で熱交換する熱交換器とを備え、前記冷却部で冷却された洗浄水が前記魚介・畜肉類処理部での水晒し処理に繰り返し再利用されることを特徴とする洗浄水再利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−103824(P2011−103824A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263641(P2009−263641)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(594149952)株式会社南食品 (2)
【Fターム(参考)】