説明

魚類のVasa遺伝子を用いた生殖細胞マーカー

【課題】代理親魚技法により移植したドナー魚由来の生殖細胞が異種レシピエント魚生殖巣内で増殖・成熟しているかを調べるためには、生殖細胞に特異的に発現しており、なおかつ、レシピエント魚とドナー魚を判別できる形質を指標にする必要がある。
【解決手段】 生殖細胞特異的遺伝子であるVasa遺伝子は、始原生殖細胞および精原/卵原細胞に特異的であり、体細胞には発現が認められない。本発明では、マグロ、マサバ、ゴマサバ、スマ及びニベのVasa遺伝子配列を決定し、その遺伝子発現を生殖細胞のマーカーとして用いることとした。さらに、本発明によると、魚類で高度に保存されたVasa遺伝子配列の中から、シークエンス解析をすることなく、マグロVasa遺伝子のみを特異的に検出することが可能であるため、レシピエント魚生殖腺中のマグロ由来生殖細胞を確実かつ簡便に識別することができる結果、マグロの増殖や育種を効率よく行うことが可能となる。また、上記の知見を応用することにより、マグロのみならず、他のスズキ目魚類をドナーとして用いた場合にも、ドナー魚由来の生殖細胞を異種レシピエント魚の生殖腺内から効率よく検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロ等のスズキ目魚類のVasaタンパク質や、マグロ等のスズキ目魚類のVasa遺伝子や、それを標的としたマグロ等のスズキ目魚類の生殖細胞の検出方法や、この検出方法を利用した異種レシピエント魚に移植したマグロ等のスズキ目ドナー魚の生殖細胞の増殖及び/又は成熟を評価する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウジョウバエを用いた遺伝子解析により、Oskar,Vasa,Tudor,Nanosの遺伝子が生殖細胞の決定機構における中核的機能を持つことが明らかとされている(例えば、非特許文献1参照) 。これらの遺伝子はいずれも卵細胞形成において極顆粒に蓄積され、この母性決定因子を持つ割球が生殖細胞運命を決定される。Vasa遺伝子は、ATP依存性RNAヘリカーゼをコードし、その機能はmRNAからタンパク質への翻訳制御に関わると考えられている(例えば、非特許文献2参照)。また、その酵素機能を担う構造が進化的に強く保存されていることから、扁形動物(プラナリア)からヒトまで多くの多細胞動物種でVasaホモログ遺伝子が同定されている。
【0003】
上記知見に基づき、相同組み換えなどの煩雑な操作を行うことなく簡便に、マーカー遺伝子の発現を指標として生殖細胞分化能を有する細胞を選別する方法として、哺乳動物由来のVasaホモログ遺伝子のプロモーター配列の制御下に置かれるようにマーカー遺伝子が組み込まれている組み換え発現ベクターを導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物から、該マーカー遺伝子の発現を指標として生殖細胞分化能を有する細胞を回収する生殖細胞の取得方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
他方、始原生殖細胞は、卵と精子の起源細胞であり、成熟・受精の過程を経て個体へと改変されるが、魚類由来の分離始原生殖細胞を、異種のレシピエント魚類の初期胚への移植、特に、初期発生段階の異種のレシピエント魚類の腹腔内腸管膜裏側への移植により、分離始原生殖細胞を生殖細胞系列へ分化誘導する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−333762号公報
【特許文献2】特開2003−235558号公報
【非特許文献1】Rongo, C., et al, Development, 121, 2737-2746, 1995
【非特許文献2】Liang, L., et al, Development, 120, 1201-1211, 1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在のところ、マグロの養殖は、天然の幼魚(通常数十〜数百グラム)を漁師が捕獲してそれを大きく育てる方法が主流である。近年、マグロの資源量が減少し、成魚の漁獲枠が厳しく設定されている。幼魚の供給を天然に頼る方法では、将来にわたって安定した種苗の供給が保障されず、また、サケやマダイのように人工種苗生産の技術が確立すれば、優秀な素質を持った親を選びながら世代交換させていくことによる育種が行われ、より養殖効率の良い、安定した品質の種苗が供給できるようになることが期待される。しかし、マグロ成熟生理はまだ十分に明らかにされていないが、初成熟を迎えるのは数十キログラムを超えてからと考えられる。マグロは魚体が大きいため、他の魚種と異なり、生簀や仕切られた湾の中で自然に産卵した受精卵を目合いの細かい網で掬い取る方法で種苗生産が行われている。マダイ等では水槽内で産卵するので、表面の海水をオーバーフローさせてそれを網でとる装置を簡単に作ることができるが、海上では大変な作業になる。
【0007】
また、育種などの目的で特定の個体を交配させたい場合は、腹部を絞って採卵する人工採卵を行い、精子も同様に採取して人工授精させるが、マグロのように親が大型になると容易でない。さらに、産業的には、出荷時期、魚の育成期間の調整などの目的で、種苗を作る時期をずらすことで収益性を高める可能性がある。そのためには、親を環境コントロール可能な場所で水温や光周期を調整して季節をずらすことで産卵させる時期をコントロールすることが求められるが、マグロのように親が大きいときには大変な労力とコストが必要となる。
【0008】
代理親魚技術は、このような種苗生産が難しい魚種の配偶子を種苗生産が簡単な魚種に作らせ、あるいは産卵、授精させることにより低コストで簡便に種苗生産することを目的としており、例えば、上記特許文献2記載の代理親魚技法をマグロに適応し、小型の魚類をレシピエントとしてマグロ由来生殖細胞を成熟させることができれば、種苗生産完全養殖が小型水槽でも可能となり、大幅な省力化、省コストにつながることが期待される。分離始原生殖細胞の移植に際しては、レシピエント生殖巣に取り込まれたマグロ由来始原生殖細胞の増殖や、レシピエント由来の生殖細胞とドナー由来の生殖細胞の割合を検出することが必要となる。本発明の課題は、マグロ等のスズキ目ドナー魚由来の始原生殖細胞を異種のレシピエント魚類の初期胚に移植する始原生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法において、ドナー魚由来の卵子及び/又は精子を特異的に検出し、レシピエント由来の生殖細胞と識別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、サケ科魚類において、異種間生殖細胞移植を行うことで、ヤマメからニジマス個体を作出することに成功している。これには、ニジマス生殖細胞が緑色蛍光タンパク質で可視化された、遺伝子組換え系統を用いることで移植の成否を容易に解析することが可能となっている。また、天然の絶滅危惧魚種や養殖魚種に異種間生殖細胞移植を適用するため、遺伝子組換え系統を用いずに、移植の成否を確認する方法もすでに開発し、この方法により、イワナ宿主の生殖腺に生着した野生型ニジマス生殖細胞を検出することに成功している。本発明者らは、異種間生殖細胞移植法を、さらに他の海産魚へ応用することを目標としているが、この実現には、移植されたマグロ等のスズキ目ドナー魚の生殖細胞が、宿主の生殖腺に取り込まれ、生着しているか否かを解析する手法が必須である。
【0010】
そのため、始原生殖細胞に特異的に発現する遺伝子として知られているNanos遺伝子や、Deadend遺伝子、Vasa遺伝子等の中からVasa遺伝子を選択し、マグロ、マサバ、ゴマサバ、スマ、及びニベのVasa遺伝子の塩基配列をはじめて決定した。さらに発明者らは、これらの遺伝子のうち、スズキ目ドナー魚となる可能性の最も高いマグロVasa遺伝子に注目し、マグロの始原生殖細胞および精原/卵原細胞にマグロVasa遺伝子が特異的に発現することを確認するとともに、マグロVasa遺伝子と非常に相同性の高いニベVasa遺伝子とを誤って検出することを回避するため、マグロVasa遺伝子に特有の領域を特定し、マグロ始原生殖細胞由来の精原/卵原細胞の識別マーカーとして使用できることを見い出した。また、宿主の生殖腺に移植されたマグロ生殖細胞を解析するためには、マグロと宿主のVasa遺伝子とを区別し、マグロ遺伝子のみを検出する方法を確立することが必須であるが、魚類のVasa遺伝子の塩基配列は非常に相同性が高く、マグロVasa遺伝子発現を特異的に検出するようなPCRプライマーセットを設計することは非常に困難であった。このため、本願発明者らは、微量なDNAからでも特異性の高い増幅が可能なnestedPCRを行い、マグロVasa遺伝子を特異的に検出した。また、マグロVasa遺伝子配列と他のスズキ目のVasa遺伝子配列とを比較検討し、マグロVasa遺伝子にのみ内在する制限酵素配列を特定した。これらnestedPCRと制限酵素処理を組み合わせることにより、マグロVasa遺伝子をより確実に検出する方法を確立し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質、又は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質に示されるタンパク質や、
(2)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、マグロの生殖細胞に特異的に発現するタンパク質、又は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、
(3)配列表の配列番号1に示される塩基配列からなるDNA、配列表の配列番号1に示される塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA、配列表の配列番号1に示される塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA、又は、配列表の配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAに関する。
【0012】
また、本発明は、
(4)配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質、又は、配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質や、
(5)配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質、又は、配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、
(6)配列表の配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列からなるDNA、配列表の配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA、又は、配列表の配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA、又は、配列表の配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAに関する。
【0013】
さらに本発明は、
(7)上記(2)、(3)、(5)、又は(6)に記載のDNAを含む組換えベクターや、
(8)上記(7)に記載の組換えベクターを用いて形質転換された形質転換体や、
(9)上記(1)又は(4)に記載のタンパク質と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質若しくは融合ペプチド又はそれらの塩や、
(10)上記(1)若しくは(4)に記載のタンパク質、若しくは上記(9)に記載の融合タンパク質若しくは融合ペプチド又はそれらの塩に対する抗体や、
(11)上記(1)又は(4)に記載のタンパク質をコードするDNA及び/又はmRNAの存在を検出するためのプライマーセット若しくはプローブに関する。
【0014】
また本発明は、
(12)上記(11)に記載のプライマーセット若しくはプローブを使用することを特徴とする、異種レシピエント魚に移植したスズキ目ドナー魚由来の始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞の検出方法や、
(13)上記(11)に記載のプライマーセットを使用したPCRにより増幅されたDNA断片を、少なくとも1種類以上の制限酵素で処理し、消化された/又は消化されなかったDNA断片の長さを指標として、該増幅されたDNA断片がスズキ目ドナー魚由来であるかどうかを判定することを特徴とする上記(12)に記載の検出方法や、
(14)スズキ目ドナー魚が、マグロであることを特徴とする上記(12)又は(13)に記載の検出方法や、
(15)プライマーセットが、上記(1)に記載のタンパク質をコードするDNAに内在する制限酵素HpaI認識配列を含む領域を増幅するように設計されていること、及び、該プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたDNA断片を、HpaIにより処理し、消化された場合に該DNA断片がクロマグロDNA由来であると判定することを含む上記(14)に記載の検出方法や、
(16)PCRが、配列番号19及び20に示す塩基配列からなるファーストプライマーセットと、配列番号21及び22に示す塩基配列からなるnestedプライマーセットとを用いたnestedPCRであることを特徴とする請求項15に記載の検出方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、
(17)上記(10)に記載の抗体を使用することを特徴とする、異種レシピエント魚に移植したスズキ目ドナー魚由来の始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞の検出方法や、
(18)スズキ目ドナー魚が、マグロであることを特徴とする上記(17)に記載の検出方法や、
(19)上記(12)〜(18)のいずれかに記載の検出方法を含む、異種レシピエント魚に移植したスズキ目ドナー魚由来のマグロ生殖細胞の増殖及び/又は成熟を評価する方法や、
(20)スズキ目ドナー魚が、マグロであることを特徴とする上記(19)に記載の評価する方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
代理親魚技法により移植したドナー魚由来の生殖細胞が異種レシピエント魚生殖巣内で増殖・成熟しているかを調べるためには、生殖細胞に特異的に発現しており、なおかつ、レシピエント魚とドナー魚を判別できる形質を指標にする必要がある。生殖細胞特異的遺伝子であるVasa遺伝子は、始原生殖細胞および精原/卵原細胞に特異的であり、体細胞には発現が認められない。本発明では、マグロ、マサバ、ゴマサバ、スマ、及びニベのVasa遺伝子配列を決定し、その遺伝子発現を生殖細胞のマーカーとして用いることとした。さらに、本発明によると、魚類で高度に保存されたVasa遺伝子配列の中から、シークエンス解析をすることなく、マグロVasa遺伝子のみを特異的に検出することが可能であるため、レシピエント魚生殖腺中のマグロ由来生殖細胞を確実かつ簡便に識別することができる結果、マグロの増殖や育種を効率よく行うことが可能となる。また、上記の知見を応用することにより、マグロのみならず、他のスズキ目魚類をドナーとして用いた場合にも、ドナー魚由来の生殖細胞を異種レシピエント魚の生殖腺内から効率よく検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のタンパク質としては、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(マグロVasaタンパク質)や、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質や、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質であれば特に制限されず、また、本発明において「マグロ」とは、スズキ目 サバ亜目 サバ科 マグロ属の魚の総称であり、クロマグロ、メバチマグロ、ミナミマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロ、タイセイヨウマグロ、コシナガを具体的に例示することができ、中でもクロマグロを好適に例示することができる。本発明において、「マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質」とは、マグロの生殖細胞である始原生殖細胞、精原細胞及び/又は卵原細胞においてのみ発現し、マグロ以外の魚類の生殖細胞である始原生殖細胞、精原細胞及び/又は卵原細胞において発現しないタンパク質をいう。
【0018】
また、本発明のタンパク質としては、配列表の配列番号4(マサバVasaタンパク質)、6(ゴマサバVasaタンパク質)、8(スマ(Euthynnus affinis)Vasaタンパク質)又は10(ニベ(Nibea mitsukurii)Vasaタンパク質)に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、配列番号4、6、8又は10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質や、配列表の配列番号4、6、8又は10に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質であれば特に制限されず、ここで、スズキ目(Perciformes)とは、スズキ亜目(Percoidei)、ベラ亜目(Labroidei)、ゲンゲ亜目(Zoarcoidei )、ノトテニア亜目(Notothenioidei)、ワニギス亜目(Trachinoidei)、ギンポ亜目(Blennoidei)、ウバウオ亜目(Gobiesocoidei)、ネズッポ亜目(Callionymoidei)、ハゼ亜目(Gobioidei)、ニザダイ亜目(Acanthuridae)、サバ亜目(Scombroidei)、イボダイ亜目(Stromateoidei)、キノボリウオ亜目(Anabantoidei)、タイワンドジョウ亜目 (Channoidei)等を含むものである。また上記マサバ及びゴマサバは、スズキ目 サバ亜目 サバ科、サバ属の魚類であり、上記スマとは、スズキ目 サバ亜目 サバ科 スマ属の魚の総称であり、スマ(学名Euthynnus affinis)、ヒラソウダ、マルソウダ、ハガツオ等を含むものであり、本明細書において集合名詞であるスマと特定の魚種を示すスマ(Euthynnus affinis)とは学名表記の有無により区別する。上記ニベとは、スズキ目 スズキ亜目 ニベ科 ニベ属の魚の総称であり、ニベ(学名Nibea mitsukurii)、コイチ、ソルジャークローカー、オオニベ、イシモチ、グチ等を含むものであり、本発明において集合名詞であるニベと特定の魚種を示すニベ(Nibea mitsukurii)とは学名表記の有無により区別する。また、マグロ、マサバ、ゴマサバ及びスマは全てスズキ目の中でもサバ亜目に含まれ、異種間の移植をする上で特に好ましい。
【0019】
上記「1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を意味する。また、上記「配列番号2、4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、配列番号2、4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列との相同性が85%以上であれば特に制限されるものではなく、例えば、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上であることを意味する。
【0020】
本発明のタンパク質の取得・調製方法は特に限定されず、単離した天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組換えタンパク質の何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している細胞からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせて本発明のタンパク質を取得することができる。
【0021】
化学合成により本発明のタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質をそのアミノ酸配列情報に基づいて合成することもできる。
【0022】
また、遺伝子組換え技術により本発明のタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードするDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。
【0023】
なお、遺伝子組換え技術によって本発明のタンパク質を調製する場合に、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出を行った後、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法が用いられ、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。
【0024】
特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。また、上記のような方法により作製された本発明のタンパク質は、スズキ目由来の始原生殖細胞、精原細胞及び/又は卵原細胞を特異的に検出する方法に用いることができる。
【0025】
さらに、配列番号2、4、6、8又は10に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加とされたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は、配列表の配列番号2、4、6、8又は10に示されるアミノ酸配列とそれぞれ85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2、4、6、8又は10に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列の一例をそれぞれ示した配列表の配列番号1、3、5、7又は9に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。例えば、配列番号1、3、5、7又は9に示される塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR反応)によって、あるいは該塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーションによって、クロマグロ以外のマグロより、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。このホモログDNAの全長DNAをクローニング後、発現ベクターに組み込み適当な宿主で発現させることにより、該ホモログDNAによりコードされるタンパク質を製造することができる。
【0026】
オリゴヌクレオチドの合成は、例えば、市販されている種々のDNA合成機を用いて定法に従って合成できる。また、PCR反応は、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)製のサーマルサイクラーGene Amp PCR System 2400を用い、TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)やKOD−Plus−(東洋紡績社製)などを使用して、定法に従って行うことができる。
【0027】
さらに、上記本発明のタンパク質とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させて融合タンパク質とすることもできる。マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、HRP等の酵素、抗体のFc領域、GFP、YFP、CFP、DsRed、エクオリン等の蛍光物質などを具体的に挙げることができ、またペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のタンパク質の精製や、本発明のタンパク質の検出や、本発明のタンパク質に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0028】
次に、本発明のDNAとしては、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAや、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、配列番号1に示される塩基配列からなるDNA(クロマグロVasa遺伝子)や、配列番号1に示される塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、配列番号1に示される塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAであれば特に制限されず、上記「1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列を意味する。
【0029】
このように、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードする本発明のDNAは、マグロVasaタンパク質の機能が損なわれない限り、1又は複数の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたタンパク質をコードするものであってもよい。このようなマグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位の塩基を欠失、置換、挿入又は付加して塩基配列を改変することによっても取得することができる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得することができる。さらに、一般的にタンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列は、種間でわずかに異なることが知られているので、クロマグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAは、クロマグロ以外のマグロから得ることが可能である。
【0030】
また、本発明のDNAとしては、配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAや、配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、配列番号3(マサバVasa遺伝子)、5(ゴマサバVasa遺伝子)、7(スマ(Euthynnus affinis)Vasa遺伝子)、又は9(ニベ(Nibea mitsukurii)Vasa遺伝子)に示される塩基配列からなるDNAや、配列番号3、5、7、又は10に示される塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAや、配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAであれば特に制限されず、上記「1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列を意味する。
【0031】
スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードする本発明のDNAは、Vasaタンパク質の機能が損なわれない限り、1又は複数の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたタンパク質をコードするものであってもよい。このようなスズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位の塩基を欠失、置換、挿入又は付加して塩基配列を改変することによっても取得することができる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得することができる。
【0032】
例えば、これら1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、上記のように、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤を接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989)やカレントプロ
トコールズ・イン・モレキュラーバイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons (1987-1997))等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
【0033】
上記「ストリジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50%以上、好ましくは70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。
【0034】
また、上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍程度のSSC溶液を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。
【0035】
ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。
【0036】
本発明のDNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号1に示される塩基配列情報又は配列番号2に示されるアミノ酸配列情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該DNAが存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的のDNAを単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。
【0037】
例えば、マグロから、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本発明の遺伝子DNAに特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本発明の遺伝子DNAを取得することができる。また、マグロからの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明の遺伝子DNAをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。
【0038】
本発明の組換えベクターとしては、前記本発明の遺伝子を含み、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的なタンパク質を発現することができる組換えベクターであれば特に制限されず、本発明の組換えベクターは、本発明のDNAを動物細胞用の発現ベクターや、微生物用の発現ベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。かかる発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明のDNAを発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。 また、上記のような方法により作製された本発明のDNAは、スズキ目由来の始原生殖細胞、精原細胞及び/又は卵原細胞を特異的に検出する方法に用いることができる。
【0039】
また、本発明の組換えベクターを用いて形質転換された形質転換体を作出することもできる。形質転換には、一般的に行われているいずれの形質転換方法も利用することができる。例えばベクターをレトロウイルス粒子、ラムダウイルス粒子にパッケージして、これを細胞中に移入することができる。また、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈降、バイオリスティック法(例えばタングステンボンバードメント)により、あるいは裸の核酸ベクターもしくは構築物を溶液中の細胞と接触させることにより導入することができる。このうち、マイクロインジェクションによる導入が特に好ましい。マイクロインジェクションは受精の前、受精後、卵割後の二細胞、四細胞、もしくは八細胞期に行うことができる。得られた細胞は通常の方法で飼育することで生殖細胞を持つ発生個体、仔魚、稚魚、幼魚、成魚へと成育させることができる。
【0040】
また、本発明の抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示することができる。これら抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に本発明のタンパク質又はエピトープを含む断片、類似体等を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc.,1985)など任意の方法を用いることができる。また、上記抗体のFab断片やF(ab’)断片等も、上記抗体と同様に用いることができる。抗原としては本発明のVasa遺伝子によりコードされる4個以上、好ましくは6個以上、より好ましくは10個以上のアミノ酸からなるペプチドを合成して用いてもよいし、ファージ、大腸菌、放線菌、乳酸菌、酵母、培養細胞などの細胞に本発明のVasa遺伝子の一部又は全部を発現させることによって得られるものを用いてもよいし、魚類の個体又は細胞からVasa遺伝子産物の全部又は一部を精製して用いてもよいが、上記抗原の作製にあたっては、標的とするスズキ目魚類のVasa遺伝子産物を特異的に認識する抗体を作製するために、Vasaタンパク質のアミノ酸配列のうち、標的のスズキ目魚種に特有のアミノ酸配列をコードする遺伝子領域を選択することが好ましい。また、上記抗原による免疫の際には、抗原をそのまま用いることも、ハプテンなどのような免疫増強剤、補助剤に混濁し又は結合させて用いてもよい。
【0041】
これら抗体に、例えば、FITC(フルオレセインイソシアネート)又はテトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S又はH等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はフィコエリトリン等の酵素で標識したものや、グリーン蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光発光タンパク質などを融合させた融合タンパク質を用いることによって、本発明のタンパク質を免疫学的方法により検出・測定することができる。かかる免疫学的方法としては、RIA法、ELISA法、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、血球凝集反応法、オクタロニー法等の方法を挙げることができる。
【0042】
また本発明は、本発明の生殖細胞に特異的に発現するVasaタンパク質をコードするDNA及び/又はmRNAの存在を検出するためのプライマーセットに関する。例えば、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA又はmRNAの存在を検出するためのプライマーセットとしては、これらタンパク質のDNA、mRNA又はcDNAのうち、上流及び下流の配列の一部とハイブリダイズしうる相補的なプライマーセットであれば、プライマー配列の長さ及び核酸塩基配列のどの部位と相補的であるかなどは特に制限されず、例えば、これらのプライマーは、5′側又は3′側、又はその両方に、上記ペプチドのDNA、mRNA又はcDNA配列と一部に相補的ではない配列を含んでも、これらとハイブリダイズできる限り、プライマーとして用いることができる。また、非特異的な増幅を防ぐためや、適当な制限酵素認識部位を導入するために、これらのDNA、mRNA又はcDNAと相補的でないミスマッチ配列を持つプライマーを使用することができる。
【0043】
本発明はまた、本発明の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA及び/又はmRNAの存在を検出するためのプローブに関する。例えば、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA又はmRNAの存在を検出するためのプローブとしては、これらペプチドをコードするDNA(cDNA)又はRNA(cRNA)とハイブリダイズしうるアンチセンス鎖の全部又は一部であり、プローブとして成立する程度の長さ(少なくとも20ベース以上)を有するものが好ましく、例えば、これらのプローブは、5′側又は3′側、又はその両方に、上記ペプチドのDNA、mRNA又はcDNA配列と一部に相補的ではない配列を含んでも、これらとハイブリダイズできる限り、プローブとして用いることができ、また、検出しやすいように、任意の配列を付加したものを用いることができる他、検出しやすいように5′末端を標識したものを用いることもでき、そのような標識としては、ビオチン、蛍光、又は32Pなどを例示することができる。
【0044】
本発明のドナー魚由来の始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞の同定方法としては、上記本発明のプライマーセットや標識化プローブを用いて、試料中のマグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA及び/又はmRNAの存在をin Situハイブリダイゼーション法等により検出し、検出した場合に、試料中にマグロ由来の始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞が存在していたと評価する方法であれば特に制限されないが、特に簡便で精度の高い同定方法として、上記本発明のプライマーセットを用いたPCRにより増幅されたDNA断片を、少なくとも1種類以上の制限酵素で処理し、処理後のDNA断片の長さを指標とする方法を挙げることができる。上記方法において用いる制限酵素としては、制限酵素認識配列が増幅されるドナー魚Vasa遺伝子領域には存在するが、異種レシピエント魚Vasa遺伝子領域には存在しない制限酵素や、制限酵素認識配列が増幅されるドナーVasa遺伝子領域には存在しないが、異種レシピエント魚Vasa遺伝子領域には存在する制限酵素や、制限酵素認識配列が増幅されるドナー及び異種レシピエント魚Vasa遺伝子領域の両方に存在するが、存在する認識配列の数が異なる制限酵素など、PCR産物の制限酵素処理により、ドナー由来と異種レシピエント魚由来とでは異なる長さのDNA断片を得ることができるものであれば特に制限されず、好例として、ドナーとしてマグロを選び、異種レシピエント魚としてニベ、サバ、スマを選んだときはHapIを挙げることが出来る。上記HapIを用いた同定方法としては、例えば、配列番号19及び20に示す塩基配列からなるファーストプライマーセットと、配列番号21及び22に示す塩基配列からなるnestedプライマーセットとを用いたnestedPCRを行い、得られたPCR産物を制限酵素HapIで処理し、146bp及び33bpのDNA断片に消化された場合に、上記PCR産物がマグロVasa遺伝子であると判定する方法を挙げることができる。
【0045】
この本発明の同定方法は、異種レシピエント魚に移植したドナー魚由来の生殖細胞の増殖及び/又は成熟を評価する方法として有用である。例えば、マグロから分離した始原生殖細胞を、ニベ、サバ、スマ、マダイ等のマグロに比べて種苗生産が簡単で効率が良い異種レシピエント魚の初期胚への移植、好ましくは初期発生段階の異種レシピエント魚の腹腔内への移植により、前記始原生殖細胞を生殖細胞系列への分化誘導を行うことができ、異種レシピエント魚個体中において、マグロ由来の始原生殖細胞が卵母細胞或いは精原細胞に分化誘導され、更に卵子或いは精子に分化誘導されることにより、マグロの増殖や育種を行うことが可能となる。
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
(クロマグロ精巣組織からのRNA抽出とcDNA合成)
5個体の養殖雄クロマグロ(3歳齢、体重約50kg)から精巣を摘出し、ドライアイス上で急速凍結した。得られた精巣組織からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いて全RNAを抽出し、DNAを分解するために2.2U/mlのRQ1 RNasa−Free DNase(Promega社製)、RNase inhibitor(東洋紡株式会社製)、10mM NaCl、6mM MgCl、10mM Dithiothreitol(DTT)を含む40mM Tris−HCl(pH7.8)溶液を加え、37℃で60分間インキュベートした。その後、フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿を行い、全RNAを精製し、濃度および純度を測定した。このようにして抽出した全RNA 2μgを鋳型として、一本鎖cDNA合成キットであるReady−To−Go You−Prime First−Strand Beads(GE ヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いてcDNAを合成した。
【実施例2】
【0048】
(クロマグロVasa遺伝子配列の決定)
次に、これまでに報告のある各魚種(ニジマス、ゼブラフィッシュ、メダカ、ヨーロッパヘダイ、ペヘレイ、ティラピア、キンギョ、コイ)のVasaタンパク質におけるアミノ酸配列を比較した。これら配列中から、相同性が高くクロマグロVasaタンパク質においても保存されていると期待される領域を選び、配列番号11及び12に示されるdegenerate primerを作製した。これらプライマーを用い、実施例1で合成したcDNAを鋳型としてPCR反応を行い、クロマグロVasa遺伝子に由来すると予想されるDNA断片を増幅した。得られたDNA断片の塩基配列をABI Prism 3100−Avantジェネティックアナライザ(Applied Biosystems社製)により決定した。
【0049】
決定された塩基配列を基に、配列番号13に示される5′RACEプライマーA及び配列番号14に示される3′RACEプライマーを設計し、GeneRacerTM Kit(Invitrogen)を用いてRACE−PCR反応を行い、クロマグロVasa遺伝子の5′側配列及び3′側配列を増幅した。5′及び3′側の塩基配列を決定し、上記の塩基配列と繋ぎ合わせて、全長クロマグロVasa遺伝子の塩基配列を得た。なお、5′末端については、鋳型であるクロマグロVasaのcDNAがヘアピン構造をとり、5′RACEプライマーAのみでは5′末端まで配列を増幅できなかった。そのため、5′RACEプライマーAを用いたRACE−PCR反応で決定された塩基配列から配列番号15に示される5′RACEプライマーBを新たに設計し、再度RACE−PCR反応を行うことで、5′末端のDNA断片を増幅し配列番号1に示される全長クロマグロVasa塩基配列ならびに配列番号2に示されるクロマグロVasaアミノ酸配列を決定した。同様の手法を用いて、マサバのVasa遺伝子(配列番号3)、ゴマサバのVasa遺伝子(配列番号5)、スマ(Euthynnus affinis)のVasa遺伝子(配列番号7)、及び、ニベ(Nibea mitsukurii)Vasa遺伝子(配列番号9)配列を決定し、さらにそれぞれの遺伝子配列に対応するアミノ酸配列(配列番号4、6、8、10)を決定した。
【実施例3】
【0050】
(RNAプローブの作製)
まず、実施例1で合成したcDNAを鋳型として、配列番号15に示されるプライマー及び配列番号16に示されるプライマーを用いたPCR反応により配列番号17に示される1090bpのクロマグロVasa断片を増幅した。得られたDNA断片をpGEM−T easyベクター(Promega社製)に挿入しサブクローニングした。作製したベクターを鋳型として、ジゴキシゲニン(Digoxigenin:DIG)標識ウリジン3リン酸(DIG−11−UTP;Roche社製)及びRNAポリメラーゼ(SP6又はT7RNAポリメラーゼ;Promega社製)を使用したインビトロ転写反応より、センス鎖およびアンチセンス鎖のRNAプローブを合成した。
【実施例4】
【0051】
(in Situハイブリダイゼーション)
ブアン液で固定されたクロマグロ精巣組織から5μmの切片を調製し、スライドグラス上に伸展し、組織切片標本を作製した。実施例3で作製したRNAプローブを1μg/ml含むハイブリダイゼーション反応液(50μg/mlのtRNA、50%ホルムアミド、50μg/mlのヘパリン、1%SDSを含む5xSSC溶液(pH4.5))を切片に乗せ、65℃で18時間反応させた。その後、50%ホルムアミドを含む1xSCC溶液でリンスし、1xTBST溶液へ置換した後、ハイブリダイゼーション用ブロッキング溶液(Roche社製)で1時間インキュベートした。
【0052】
続いて、TSATM PlusDNP AP System(パーキンエルマージャパン)を用いてシグナルの増幅を行った。工程としては、ブロッキング後の切片標本を、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識−抗DIG、Fabフラグメント(Anti−DIG−POD、Fab fragments:Roche社製)で30分間インキュベートし、dinitrophenyl(DNP)標識チラミドをスライドグラスに滴下することからなる。その後、アルカリフォスファターゼ(AP)標識−抗DNP抗体で30分間インキュベートした。抗体溶液を洗浄した後、APの発色基質であるNBT/BCIP溶液(4-ニトロブルーテトラゾリウム/5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリ−リン酸溶液;Roche社製)を用い発色反応を行った。最後に、Nuclear Fsat Red(Vector Laboratories社製)でカウンター染色を行い、封入剤としてEntellan New(Merck社製)を用いて封入した。
【0053】
さらに、本実験では、ニベ(Nibea mitsukurii)Vasa遺伝子に特異的にハイブリダイズするRNAプローブならびにニベ(Nibea mitsukurii)精巣組組織切片を作製し、ネガティブコントロールとして用いた。RNAプローブは、配列番号18に示すニベ(Nibea mitsukurii)に特異的なVasa遺伝子配列をpGEM−T easyベクター(Promega社製)に挿入し、それを鋳型として実施例3と同様の方法でインビトロ転写反応を行い作製した。また、実施例4の方法に従ってニベ(Nibea mitsukurii)精巣組織切片標本を作製し、in Situハイブリダイゼーションを行った。
【0054】
in Situハイブリダイゼーションの結果、図1に示すように、2歳齢クロマグロの精巣において精原細胞に特異的なシグナルが検出された。また、図2に示すように、ネガティブコントロールとして用いたニベ(Nibea mitsukurii)精巣組織ではクロマグロVasaRNAプローブの顕著なシグナルは認められなかったことから、本実験で作製されたRNAプローブはクロマグロVasaに特異的にハイブリダイスすると考えられる。さらに、ニベ(Nibea mitsukurii)VasaのRNAプローブを用いた実験の結果、ニベ(Nibea mitsukurii)精巣組織では強いシグナルが検出されたのに対し、クロマグロ精巣では顕著なシグナルは認められなかった(図2)。以上のことから、クロマグロVasa配列をもとに設計されたRNAプローブは、クロマグロ生殖細胞の特異的な検出に有用である可能性が強く示唆された。同様にニベ(Nibea mitsukurii)Vasa配列をもとに設計されたRNAプローブは、ニベ(Nibea mitsukurii)生殖細胞の特異的な検出に有用である可能性が強く示唆された。
【実施例5】
【0055】
(クロマグロ生殖細胞由来Vasa遺伝子の検出方法の確立)
ニベ(Nibea mitsukurii)生殖腺内に移植したクロマグロ生殖細胞の存在を検出するために、微量なDNAからでも特異性の高い増幅が可能なnestedPCRと、制限酵素による処理とを組み合わせた、簡便かつ精度の高いクロマグロVasa遺伝子検出方法を確立した。図3にクロマグロVasa遺伝子配列とホモロジーの高いニベ(Nibea mitsukurii)のVasa遺伝子領域を示すとともに、実験に使用したプライマー及び制限酵素HpaI認識サイトの位置を示す。
【0056】
(1)サンプル調製
クロマグロまたはニベ(Nibea mitsukurii)の未成熟卵巣から2ミリ角の卵巣片を採取し、解剖用ハサミにより細切した後、トリプシン処理により細胞を分散させた。得られた両種の細胞懸濁液の細胞密度を血球算定盤を用いて測定した後、それぞれの懸濁液を目的の細胞数になるよう調整し混合した。また、ニベ(Nibea mitsukurii)卵巣細胞を10個に対して、マグロ卵巣細胞を10個混合するサンプルを調整する際には、クロマグロ卵巣細胞を正確な数量採取するため、ガラス製マイクロキャピラリーを装着したマイクロインジェクターを用いて、実体顕微鏡下での細胞分取を行った。
【0057】
(2)nestedPCR
調整した混合液中の細胞から、QuickPrep Total RNA Extraction Kit (GE healthcare社製)を用いてtRNAを抽出し、SuperScriptIII RNaseH Reverse Transcriptase (Invitrogen社製)を用いてcDNAを合成した。nestedPCRは、配列番号19及び20に示す塩基配列からなるファーストプライマーセットと、配列番号21及び22に示す塩基配列からなるnestedプライマーセットを用いて行った。PCR反応液は、TakaraExtaq(Takara社製)を使用し、試薬に添付されたプロトコールに従って調整した。PCR反応条件は、94℃、2分間の熱変性;94℃、30秒の熱変性、60℃、30秒のアニーリング、72℃、30秒の伸長反応を30サイクル;72℃、3分間伸長反応であった。図4−1に示すように、nestedPCRにより、10〜10cellsのマグロ卵巣由来cDNAを含むサンプルでは、強いシグナルが検出された。一方、ニベ(Nibea mitsukurii)卵巣由来cDNAのみ、又は含まれる10cellsのクロマグロ卵巣由来cDNAの場合には、nestedPCRによるシグナルを検出することができなかった。以上のことから、本実施例のnestedPCRにより、クロマグロVasa遺伝子が特異的に増幅されることが示唆された。
【0058】
(3)制限酵素HpaI処理
次に、増幅された遺伝子断片が、宿主であるニベ(Nibea mitsukurii)のものではなく、クロマグロ由来であるかどうかを確認するために、制限酵素を用いてPCR産物を消化した。クロマグロとニベ(Nibea mitsukurii)Vasa遺伝子配列は非常にホモロジーが高いため、nestedPCRにより両方の遺伝子がともに増幅されてしまう可能性が高い。しかし、図3に示すように、クロマグロの配列には存在するHpaI認識配列が、ニベ(Nibea mitsukurii)には存在しない。そこで、制限酵素HpaIによる消化を検出することにより、増幅されたPCR産物がクロマグロ由来であるかニベ(Nibea mitsukurii)由来であるかを判定することが可能である。実際に実験を行った結果、nestedPCRにより増幅されるVasa遺伝子配列(179bp)はHpaIにより消化することで、146bpと33bpの断片が得られた(図4−2)。
【実施例6】
【0059】
この消化されたサンプルのPCR産物のシークエンスを確認した結果、クロマグロの配列と一致することが明らかとなった。以上のことから、このnestedPCRとHpaI処理を組み合わせた検出方法は、シークエンス解析をする必要がなく、クロマグロVasa遺伝子を特異的に検出できる優れた方法であり、この検出方法を用いることによりニベ(Nibea mitsukurii)生殖腺と混在するクロマグロ生殖細胞の検出が簡便に行えることが示された。
【実施例7】
【0060】
さらに、クロマグロの代理親としての使用の可能性が考えられるサバ及びスマに関しても同様の検討を行った。図6に示すように、クロマグロ、ニベ(Nibea mitsukurii)、サバ、及びスマ(Euthynnus affinis)のVasa遺伝子配列はいずれも高いホモロジーを示すが、HpaI認識配列が存在するのはクロマグロのみである。実施例5と同様にnestedPCRを行った結果、サバとスマ(Euthynnus affinis)ではいずれも強いシグナルが得られた。このPCR産物をHpaIで処理した結果、サバとスマの遺伝子断片は消化されず、クロマグロの遺伝子断片のみが消化された(図7)。これらの結果は、このnestedPCRとHpaIを組み合わせた検出方法が、ニベ(Nibea mitsukurii)だけでなくサバやスマ(Euthynnus affinis)を代理親として用いた場合にも、クロマグロ生殖細胞の検出方法として応用できることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】クロマグロVasa遺伝子に特異的なRNAプローブを用いたin Situハイブリダイゼーションにより、クロマグロ精巣組織を染色した結果を示す。
【図2】クロマグロ及びニベ(Nibea mitsukurii)精巣組織を各々のVasa遺伝子に特異的なRNAプローブを用いたin Situハイブリダイゼーションにより染色した結果を示す。
【図3】クロマグロVasaのcDNA検出用プライマーと制限酵素認識サイトを示す図である。
【図4−1】ニベ(Nibea mitsukurii)卵巣由来のcDNAに、異なる量のクロマグロ卵巣由来のcDNAを加えたサンプルを鋳型としてPCRを行った結果を示す図である。
【図4−2】PCRにより増幅されたクロマグロVasa配列(179bp)が、HpaIにより146bpと33bpの断片に切断されることを示す図である。
【図5】ニベ(Nibea mitsukurii)生殖腺から採取したサンプルの解析結果を示す図である。
【図6】実施例5のnestedPCRにより増幅されるクロマグロVasa遺伝子領域と相同性の高いニベ(Nibea mitsukurii)、サバ及びスマ(Euthynnus affinis)のVasa遺伝子領域を比較した図である。
【図7】サバ及びスマ(Euthynnus affinis)卵巣由来のサンプルを鋳型にnestedPCRを行い、そのPCR産物をHpaIで処理した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質
【請求項2】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(B)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、マグロの生殖細胞に特異的に発現するタンパク質
(C)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質
【請求項3】
以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号1に示される塩基配列からなるDNA
(B)配列表の配列番号1に示される塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA
(C)配列表の配列番号1に示される塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA
(D)配列表の配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつ、マグロ生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA
【請求項4】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質。
(A)配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(B)配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質
(C)配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質
【請求項5】
以下の(A)、(B)又は(C)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(A)配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(B)配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質
(C)配列表の配列番号4、6、8、又は10に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質
【請求項6】
以下の(A)、(B)、(C)又は(D)に示されるDNA。
(A)配列表の配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列からなるDNA
(B)配列表の配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA
(C)配列表の配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列の一部から作製したプライマー又はプローブとしての機能を有する塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA
(D)配列表の配列番号3、5、7、又は9に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列からなり、かつ、スズキ目魚類の生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするDNA
【請求項7】
請求項2、3、5、又は6に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項8】
請求項7に記載の組換えベクターを用いて形質転換された形質転換体。
【請求項9】
請求項1又は4に記載のタンパク質と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質若しくは融合ペプチド又はそれらの塩。
【請求項10】
請求項1若しくは4に記載のタンパク質、若しくは請求項9に記載の融合タンパク質若しくは融合ペプチド又はそれらの塩に対する抗体。
【請求項11】
請求項1又は4に記載のタンパク質をコードするDNA及び/又はmRNAの存在を検出するためのプライマーセット若しくはプローブ。
【請求項12】
請求項11に記載のプライマーセット若しくはプローブを使用することを特徴とする、異種レシピエント魚に移植したスズキ目ドナー魚由来の始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞の検出方法。
【請求項13】
請求項11に記載のプライマーセットを使用したPCRにより増幅されたDNA断片を、少なくとも1種類以上の制限酵素で処理し、消化された/又は消化されなかったDNA断片の長さを指標として、該増幅されたDNA断片がスズキ目ドナー魚由来であるかどうかを判定することを特徴とする請求項12に記載の検出方法。
【請求項14】
スズキ目ドナー魚が、マグロであることを特徴とする請求項12又は13に記載の検出方法。
【請求項15】
以下の(A)及び(B)の特徴を含む請求項14に記載の検出方法。
(A)プライマーセットが、請求項1に記載のタンパク質をコードするDNAに内在する制限酵素HpaI認識配列を含む領域を増幅するように設計されていること;
(B)該プライマーセットを用いたPCRにより増幅されたDNA断片を、HpaIにより処理し、消化された場合に該DNA断片がクロマグロDNA由来であると判定すること;
【請求項16】
PCRが、配列番号19及び20に示す塩基配列からなるファーストプライマーセットと、配列番号21及び22に示す塩基配列からなるnestedプライマーセットとを用いたnestedPCRであることを特徴とする請求項15に記載の検出方法。
【請求項17】
請求項10に記載の抗体を使用することを特徴とする、異種レシピエント魚に移植したスズキ目ドナー魚由来の始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞の検出方法。
【請求項18】
スズキ目ドナー魚が、マグロであることを特徴とする請求項17に記載の検出方法。
【請求項19】
請求項12〜18のいずれかに記載の検出方法を含む、異種レシピエント魚に移植したスズキ目ドナー魚由来のマグロ生殖細胞の増殖及び/又は成熟を評価する方法。
【請求項20】
スズキ目ドナー魚が、マグロであることを特徴とする請求項19に記載の評価する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−263967(P2008−263967A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80789(P2008−80789)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】