説明

魚鱗由来の不溶性コラーゲン含有粉末

【課題】魚鱗より得られる不溶性コラーゲンを含有する新規な水不溶性コラーゲン含有微細粉末、その新規な製造方法及び新規なその利用の提供。
【解決手段】(1)魚鱗を、90〜95℃の加熱水中で熱処理し、熱処理生成物を、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、又は(2)魚鱗を、加圧下に100〜140℃の加熱水中で熱処理し、得られる着色熱処理生成物を脱色処理し、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に各々を粉砕処理するに際し粗粉砕処理(粒径1〜2mm程度)と、当該粗粉砕処理の後に行う微粉砕処理(粒怪0.4μm〜200μm)の2つの処理を行うことにより水不溶性コラーゲン含有微細粉末を製造する。化粧料に添加する新規なスクラビング剤又は角質除去剤、保湿剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚鱗由来の不溶性コラーゲン含有粉末、製造方法及びその利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは皮膚や細胞間の結合組織、骨や歯のミネラル以外の主要生成分とされ、グリシン、プロリン、リジンなど約18種類のアミノ酸を含む膠原質として知られている。こうしたコラーゲンは皮膚の張りや弾力を保つうえで重要な水分を保持する力を高める作用を有する物質とされる。化粧品や栄養補助食品に配合される他、コラーゲンを担体として物質を固定化する医療用材料として用いられる。これらはコラーゲンを酵素やアルカリ条件下に分解し、可溶化コラーゲンの状態で用いている。一方、不可溶化コラーゲンは分解させることなく、繊維状の不可溶化コラーゲンとして医療用材料として積極的に行われている。
いずれも、コラーゲンはヒトをはじめ多くの動物に広く存在することから、ヒトに対して安全に有効に作用することから広範囲な用途を有し、利用されている。本発明者らの企業では可溶化コラーゲンを用いて繊維状可溶化コラーゲンとすることについて成功した(特許文献1 特開2006−342472号公報)。
【0003】
可溶化コラーゲンを製造する原料物質として従来牛及び豚などを用いてきた。狂牛病に直面し、その対策として牛から他の動物への原料転換が必要とされ、その一環として魚鱗を用いることが検討されてきた。狂牛病対策の一環として原料の多様化に迫られ、魚鱗の利用が進められている。
【0004】
原料物質となる魚鱗にはヒドロキシアパタイトであるカルシウム含有物質がその外側に存在する。内部の物質を保護するためにその特性は硬い。魚鱗よりコラーゲンを取り出すためには魚鱗の外側を構成しているカルシウム含有物質を取り除くことが必要となる。これを脱灰と言う。魚種によって大きさや配合組成が多少異なるが、概ねカルシウム含有量が30%程度ある。脱灰鱗からの煮沸によるコラーゲン抽出率は30%程度で、多くても40%未満であり、魚鱗からの収率が悪く高価なものとの指摘がある(特許文献4)。また、通常灰分を約50%強、蛋白質を約40%弱含有する。灰分の殆どはリン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)であり、蛋白質の約80%はコラーゲンであることが知られている。
魚鱗から可溶化コラーゲンを抽出する方法としては、魚鱗から直接熱水で抽出する方法、直接酢酸で抽出する方法が知られている(非特許文献1 日本水産学会誌54(11)、1987−1992(1988))。熱水処理は脱灰及び可溶化コラーゲンを抽出する点にある。
魚類由来のコラーゲンには、魚皮や骨等を洗浄、脱脂、酸処理又は酵素処理、塩析及び透析などの分離手段、あるいは酸処理に替えて酵素であるプロテアーゼ処理して水可溶性であるアテロコラーゲンなどを取り出し、コラーゲン誘導体としてはアテロコラーゲンを無水コハク酸で処理したサクシニル化コラーゲン、無水ミリスチン酸で処理したミリスチル化アテロコラーゲン等のアシル化、エステル化されたコラーゲン誘導体等が含まれる(特許文献2 特開2003−183219号公報)。
魚鱗よりゼラチンを製造し、酵素分解して低分子量のコラーゲンを得ている(特許文献3 特開2008−86219号公報)。多くの原料物質に含まれるコラーゲン分子は、3本のペプチド鎖がらせん構造を形成しており、分子量が300,000程度であり、不溶性である。この分子量の大きいコラーゲンは摂取しても消化吸収されにくいため、低分子量化し、可溶化コラーゲンの状態にして飲料製品などに用いている。消化吸収されにくいことを考慮してコラーゲンの分解を行う。
同じく鱗を脱灰処理後、90〜100℃の熱水中にてコラーゲンを煮沸抽出した抽出残渣物を原料にして、蛋白質分解酵素である酸性プロテアーゼを作用させた後、活性炭で脱色することによる低分子コラーゲンの製造方法(特許文献4 特開2008−220208号公報)が知られている。
【0005】
魚鱗を利用する場合には、魚鱗の脱灰操作及びそれに続くコラーゲンに分解する操作を効果的に行うことが問題解決の重要な課題となる。前述したように脱灰することは煩雑であり、利用という点から見れば脱灰を行うことなくできるのであればそれに越したことはない。具体的には以下の方法が知られている。
魚鱗を、脱灰操作を行うことなく、直接粉砕して蛋白分解酵素を作用させる方法(特許文献5)では、魚鱗原料を必要に応じて洗浄し、乾燥し、機械的に乾式または湿式粉砕して綿状乃至粉末状とした後、脱灰処理なしにこの魚鱗に蛋白分解酵素を作用させてコラーゲンペプチドを製造する。機械的に乾式または湿式粉砕された綿状乃至粉末状の鱗を得るためには、具体的には中速回転運動機構を備えた衝撃やせん断で粉砕するタイプや高速回転運動機構を備えた衝撃にて粉砕するタイプが好ましいとされる。このことから直接粉砕する操作は困難とされ、好ましとされていない。
特許文献7では魚鱗からコラーゲンを抽出する場合において、脱灰した鱗を粉砕処理せずに、高圧処理で抽出する方法や、酵素による加水分解による方法を採用している。これは前処理という点では問題点が多いとされる。
酵素の他に魚鱗が分解し易いようにキチナーゼなどの酵素を作用させる方法(特許文献6)を踏まえて、魚鱗を蛋白質分解酵素と魚鱗の構造を破壊する酵素とにより酵素分解し、コラーゲンペプチドを得ることが特徴となる。
従来、不可欠であった脱塩処理やコラーゲンの繊維構造の機械的破壊が不要であるため、製造工程を短縮し製造コストを下げることができる。また、機械的な破壊を行わずに分解する従来の方法に比べて分解に使用する水の量が少なくて済むため、高濃度でコラーゲンペプチドを抽出することができるなどの利点が強調される。
また、塩基性領域で各種のプロテアーゼを作用させる方法(特許文献8)においては、アルカリの作用で分子量が極めて小さいオリゴペプタイドが得られることが特徴である。 魚鱗を直接粉砕して蛋白分解酵素を作用させる方法は、コラーゲン特有の三重螺旋構造が強固なために魚鱗の粉砕が極めて困難であり、脱灰を行っていないので、蛋白分解酵素を作用させた後のカルシウムの分離除去が必要とされる。高価な粉砕機や分離装置の購入などの問題があった。また、魚鱗が分解し易いようにキチナーゼなどの酵素を作用させた後に蛋白分解酵素を作用させる方法は、収率はある程度アップするが、かなりの残渣物も残存する。また、分子量の異なる多種の酵素を併用するため、分解物中からの酵素蛋白の除去が難しい。また、塩基性領域でアルカリプロテアーゼを作用させる方法は、アルカリによる分解が主となりオリゴペプタイド(アミノ酸が3量体以下で分子量200以下程度)のみしか得られなくなるなどの問題が指摘されている。
【0006】
従来は化粧料として可溶性コラーゲンを用いることが通常であった。非水溶性コラーゲン質を必須成分として含む化粧料(特許文献9 特開2004−250421号公報)が知られている。脱灰処理をした後に、酸又は酵素により分解し、水溶性コラーゲン質を溶出させた後の残渣物である非水溶性コラーゲン質を必須成分として含む化粧料である。残念なことにこの発明の明細書には、具体的な処理手段及び非水溶性コラーゲン質について明らかにされていない。このように、脱灰処理を行っており、煩雑な処理を必然的に行っている。また、残渣物である非水溶性コラーゲン質を必須成分としているにも係らず、水溶性コラーゲン質を副生物として取り出さざるをえないものであり、方法としては良好なものではない。非水溶性コラーゲン質を必須成分として含む化粧料がどのようなものであるかさえ本発明では明らかにされていない。
又、比較的硬い魚のうろこを脱灰して得られる水溶性低分子および不溶性高分子コラーゲン、キチン質複合体の製造方法として、比較的硬い鱗を原料にして、通常の脱灰処理後、まず透明、薄膜状の粗原料複合体を製造する発明(特許文献10 特開2003−23970号公報)が知られている。得られた粗原料複合体に対して、容量比でほぼ6倍量程度の精製水を加えて高圧反応槽に入れ、0.1〜0.2メガパスカルの範囲で1〜5時間程度処理をして、不溶性高分子および水溶性低分子複合体に分別する。この処理により残留する不溶性高分子複合体を木綿布でろ過をして、水洗、乾燥、粉砕して、錠剤などの原料にする。一方、ろ液に含まれる水溶性低分子複合体は適当な濃度、通常10%溶液となるまで濃縮後、水溶液のままあるいはスプレードライ装置などで水溶性粉末として、それぞれ水溶液や粉末として製品とする。高圧処理条件にもよるが、不溶性高分子複合体はもとの粗原料複合体の10〜15%の収率となる。不溶性高分子複合体は、ほぼ1〜9%程度のキチン質を含み、残りは平均分子量10〜20万のコラーゲンであることが確認されている。用途は食品添加物である。
魚の鱗を脱灰した粗コラーゲンを、アルカリ塩を溶解したアルカリ水溶液中で、加圧雰囲気下で、適度に加水分解した、コラーゲンペプチド含有溶液(特許文献11 特開2004−91418号公報)が知られている。コラーゲンペプチド含有粉末の製造方法は、魚のうろこを脱灰し、粗コラーゲンを得る工程と、粗コラーゲンをアルカリ塩を溶解したアルカリ水溶液中で、加圧雰囲気下で、適度に加水分解する工程を備える。粗コラーゲンがゼラチン化することで、コラーゲンペプチドの収率を高くすることができることを述べる。係るコラーゲンペプチド含有粉末は、最終形態が粉末であるので、化粧品や機能性食品を製造する際の添加が容易であるという利点を有している。
従来例では、不溶性コラーゲンを目的物質しているにもかかわらず、水溶性コラーゲンが含まれるなどの点で十分なものとなっていない。
本発明者らは魚鱗を原料として不溶性コラーゲンを含む物質の開発の必要に迫られており、そのための合理的な製造プロセスの開発の必要に迫られており、そのための開発を行うこととした。
【0007】
化粧品の添加剤には、前記特許文献9の意味不明の非水溶性コラーゲン質がある。ところで化粧品として用いられるスクラブ剤を見てみると以下の通りである。
物理的な洗浄力により、皮膚表面に発生した老廃物や皮脂や角質、皮膚表面に付着した塵埃等を効率よく除去し、またその刺激により皮膚に対するマッサージ効果を得ることはよく知られている。また、スクラブではないが、角質を除去する用具として、特許文献12特開平2001−105331号公報に開示されているように、植物性研磨粒子を核としこれに絹成分を配合することで皮膚擦過機能に美肌効果を加えた皮膚擦過用具も公知である。植物性研磨粒子層は、適度な硬さを有する植物素材を乾燥したのち破砕してなる植物性研磨粒子を用いて構成されている。前記植物素材としては、例えば桃の種,杏の種,クルミの殻などの果実核殻や、トウモロコシの穂軸などが挙げられる。
もともと、感触が良く、肌へのなじみを高める為にアミノ酸やポリペプチドで粉体を被覆するスクラブ剤が知られている(例えば、特許文献13 特公平1−50202号公報、特許文献14 特開平5−186706号公報、特許文献15 特開平3−200879号公報、特許文献16 特開平9−328413号公報、特許文献17 特開平10−226626号公報等参照。)。
これらの先行文献には、被覆処理した粉体が滑らかな感触を有し皮膚との親和性が高いことが記載されているものの、従来のスクラブ剤は硬く、物理的な刺激が強く満足できるものはないという状態であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−342472号公報
【特許文献2】特開2003−183129号公報
【特許文献3】特開2008−86219号公報
【特許文献4】特開2008−220208号公報
【特許文献5】特開2004−057196号公報
【特許文献6】特開2006−000089号公報
【特許文献7】特開2003−327599号公報
【特許文献8】特開2001−211895号公報
【特許文献9】特開2004−250421号公報
【特許文献10】特開2003−23970号公報
【特許文献11】特開2004−91418号公報
【特許文献12】特開平2001−105331号公報
【特許文献13】特公平1−50202号公報
【特許文献14】特開平5−186706号公報
【特許文献15】特開平3−200879号公報
【特許文献16】特開平9−328413号公報
【特許文献17】特開平10−226626号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本水産学会誌 54(11)、1987−1992(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、魚鱗を原料として新規な不溶性コラーゲンを含む物質を提供すること、及び
化粧料に添加する新規なスクラビング剤又は角質除去剤、保湿剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記課題について鋭意検討し、以下のことを見出して、本発明を完成させた。
(1)従来は、魚鱗を脱灰後、生成物を酸又は酵素により分解し、水溶性コラーゲン質を溶出させた後の残渣物である水溶性コラーゲン質を必須成分として得ており、これを用いた化粧料とするものである。
(2)本発明者らは、上記の方法では水溶性コラーゲン質の生成は目的物質ではないから、この点で好ましい方法とはいえないと考えた。
しかしながら、魚鱗というものは、脱灰しただけでは細かく粉砕することが困難であり、この点が問題となる。
(3)したがって、如何にして粉砕し易い状況を作り出すかを検討することとなる。すなわち、魚鱗を粉砕し易い状態に変性するかが重要となる。
その際に、最終生成物には非水溶性コラーゲン質を取り出すのであるから、水溶性コラーゲンの生成は極力避ける必要があり、水溶性コラーゲンが生成しにくい状況を作り出すことが必要とされる。また、このようにすれば水不溶性コラーゲン物質が得られることとなる。これは、硬さ及び触感に従来得られていないものが得られるから、新規なスクラビング剤又は角質除去剤、ファンデーションの保湿剤となることも考えられる。以上の推論のようなプロセスの開発が出来るかどうか重要な鍵となる。
(4)本発明者らは、魚鱗の粉砕をしやすい状態にすることについて具体的な処理方法について検討した。従来、魚鱗を熱水処理する場合には水溶性コラーゲンを得ることを目的として行われてきた。そこで、脱灰処理された魚鱗を、従来の熱水処理では採用されていない、分解しない程度の短時間、熱湯中に浸すなどの熱水処理、または、加圧下に加熱水中で熱処理、オートクレーブ中で処理した後に粉砕処理を行うと、微粉砕された水不溶性コラーゲン含有微細粉末をえることができること、さらに分級することにより狭い粒径範囲で微粉砕された水不溶性コラーゲン含有微細粉末を得ることができることを見出した。この不溶性コラーゲン含有微細粉末は、従来から存在する不溶性コラーゲン含有微細粉とは相違し、保水性、柔軟性及び微粉形状保持性を有し、成分として不溶性コラーゲン含有微細粉末に含む化粧品は、物理的な洗浄力により、皮膚表面に発生した老廃物や皮脂や角質、皮膚表面に付着した塵埃等を効率よく除去することができ、皮膚の表面に塗布する際に皮膚に有効な刺激を与え、皮膚にマッサージを行い、合わせて血流を促進し、皮膚細胞を活性化する。水を含むことにより皮膚表面にキズをつけることは無い。従来用いられてきたスクラブ剤よりも柔らかいものの、スクラブ効果を有する。
(5)本発明では以下の製法により新規な水不溶性コラーゲン含有微細粉末を得ることができる。
(6)魚鱗を、90〜95℃の加熱水中で熱処理し、熱処理生成物を、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に粉砕して得られることを特徴とする水不溶性コラーゲン含有微細粉末。
(7)魚鱗を、加圧下に100〜140℃の加熱水中で熱処理し、得られる着色熱処理生成物を脱色処理し、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に粉砕して得られることを特徴とする水不溶性コラーゲン含有微細粉末。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、魚鱗を原料として可溶性コラーゲンを生成せずに不溶性コラーゲン含有微細粉末を得ることができる。不溶性コラーゲン含有微細粉末を原料として、または成分として含む化粧品は、物理的な洗浄力により、皮膚表面に発生した老廃物や皮脂や角質、皮膚表面に付着した塵埃等を効率よく除去することができ、を皮膚の表面に塗布する際に皮膚に有効な刺激を与え、皮膚にマッサージを行い、合わせて血流を促進し、皮膚細胞を活性化する。水を含むことにより皮膚表面にキズをつけることは無い。従来用いられてきたスクラブ剤よりも柔らかいものの、スクラブ効果を有するものである。
また、本発明により得られる不溶性コラーゲン含有微細粉末は、吸湿性が高いことからファンデーションに含有させることで、保湿性の高いファンデーションを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】テラピアの魚鱗を洗浄、脱灰した後のDSC分析を行った結果、テラピアの魚鱗を洗浄、脱灰し、加熱処理を行った後のDSC分析を行った結果及びテラピアの魚鱗を洗浄、脱灰し、加熱処理の後、乾燥処理し、次に粉砕した後のDSC分析を行った結果を示す図である。
【図2】得られた水不溶性コラーゲン含有微細粉末の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水不溶性コラーゲン含有微細粉末は、以下の2つの製法により製造される新規な水不溶性コラーゲン含有微細粉末である。
(1)魚鱗を、90〜95℃の加熱水中で熱処理し、熱処理生成物を、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に粉砕して製造する。
(2)魚鱗を、加圧下に100〜140℃の加熱水中で熱処理し、得られる着色熱処理生成物を脱色処理し、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に粉砕して製造する。
【0015】
以上の製造方法の原料となる魚鱗は以下の通りである。
コラーゲンは、生体蛋白の主要な構成成分であり、殆んど全ての動物の体内に保有しているため、哺乳類、鳥類、魚類などから取り出すことができる。コラーゲンは、牛皮、豚皮、鳥皮、魚皮、魚鱗などのコラーゲン含有量が多い部位から煮沸抽出して取り出して回収(非特許文献1参照。)するのが一般的である。
本発明で用いられる魚鱗は、淡水魚、海水魚などの魚類の鱗であれば何れでもよい。一般的にはテラピア(イズミダイ)、イトヨリダイ、ナウルパウチ(チカダイ)、真鯛、イワシなどの魚鱗が挙げられる。
魚鱗には、コラーゲン特有の三重螺旋構造が存在し、この状態はDSC分析により確認できる(図1)。テラピアの魚鱗を洗浄、脱灰した後のDSC分析を行った結果では、107.6−115.8℃の範囲内である113.4℃でピークトップを観察できる(乾式測定による)。
【0016】
魚鱗は、魚種によって大きさや配合組成が多少異なるが、ヒドロキシアパタイトとして概ねカルシウム含有量が30%程度を含んでいる。魚鱗を洗浄し、脱脂を行い、魚鱗の脱灰(カルシウム除去)を行うためには、例えば、魚鱗を約20〜30倍量の水に浸漬した後、魚鱗含有カルシウムの1.2〜1.5倍量相当分の塩酸を加えて10〜30分間撹拌して、塩化カルシウム水溶液として除去する。その後、繰り返し水洗を行って酸分を洗い流して、脱灰鱗を得る。
【0017】
水不溶性コラーゲン含有微細粉末の第1の製法は以下の通りである。
魚鱗を、90〜95℃の加熱水中で熱処理し、熱処理生成物を、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に粉砕して製造する。
この熱処理は次の処理である粉砕処理を容易にするための操作である。魚鱗に脆性を与えるものである。なお、ここでは不要な分解などが生じないよう、アルカリ性の状態又は酸性の状態の条件を採用することは避けるべきである。
前記方法では、魚鱗を洗浄及び脱脂した後、90から95℃に加熱されている熱湯中に
魚鱗を送り込む。熱湯は流れ系であってもよいし、容器中であってもよい。
魚鱗を送り込む場合には魚鱗100g(固形分80.5g)に対して熱湯0.5〜5.0(リットル)の割合である。
流れ系であっても同様に処理すればよい。90から95℃に加熱することは分解反応を促進させることなく、魚鱗を粉砕処理し易い状態とするためである。この温度処理によって、その前後によって魚鱗には重量の減少が見られことから、ある程度の不溶性コラーゲン成分が分解されて水溶性の物質となり、熱湯中に溶け出しているものと思われる。また、大きく変性を防止する観点からこの範囲に限定される。処理時間は10分から60分程度でよい。
残った魚鱗を熱水処理生成物には脆性が付与される。魚鱗を熱水処理生成物は未着色の状態のものが得られる。次の工程の粉砕処理に際しても良好な結果が得られる。この処理の前の段階ではコラーゲン特有の三重螺旋構造が存在する。この処理の後の段階ではコラーゲン特有の三重螺旋構造が存在しない。熱により三重螺旋構造がほどけて変性が生起しているものと、判断される。
また、処理時間が長くなることは魚鱗の脱灰やコラーゲンの分解が引き起こされる結果に結びつくので好ましくない。15分で以上あるこの結果を表1に示した。
【表1】

【0018】
加熱処理操作の後、熱湯中の魚鱗を取り分ける。液体中の固体物質を取り分ける手段、例えば、孔を有する板の表面に前記加熱処理操作後の熱水及び熱処理生成物を注入するなどして熱処理生成物を取り出す。不純物を含まない冷水を注入して十分に不純物を取り除く。取り出された熱処理生成物を室温より高い温度の空気(室温から70℃)を吹き付けるなどの操作により乾燥させる。乾燥は、魚鱗を粉砕しやすくするため、魚鱗全体の水分が5%以下となるまで行う必要がある。
この操作では着色が顕著でないので、あえて脱色する必要はない。また、必要と判断された場合には適宜脱色工程を採用することができる。脱色工程は次の第2の製造方法で必要な操作であり、第2の製法の際に詳しく述べる。
【0019】
粉砕処理は2段階に分けて行う。例えば、第1粉砕処理として、汎用のミキサーを用いて粗粉砕(粒径1〜2mm程度)を行い、続いて第2粉砕処理として、専用の粉砕機(例えば、RETSCH社製「ULTRA CENTREFUGAL MILL」)を用いて更に細かい微粉砕(粒径200μm以下)を行う。なお、第1粉砕処理に使用するのはミキサーに限られるものではなく、粉砕対象物を粒径200μmに粉砕できるものであれば構わない。
また、第2粉砕処理に使用される専用の粉砕機は、鋭利な回転刃と固定刃により連続的に剪断粉砕を行う微粉砕機である。衝撃粉砕では不可能な、繊維質原料や延性原料に適している。粉砕された原料はメッシュスクリーンを介し下部槽へ回収される。低速回転かつ剪断粉砕により微粉の発生を極力抑えます。摩擦熱を発生させない構造になっており熱に弱い処理対象物の料粉砕に適している。
【0020】
粉砕された水不溶性コラーゲン含有微細粉末の粒度分布及び更に分級した粒度分布の結果を図2に示す。
前記粉砕して得られることは、粉砕機にカッターミルを用いて粗粉砕(粒径1〜2mm程度)を行い、引き続きウルトラ遠心ミルで細かい粉砕を用い、粒怪が0.4μm〜200μmとする水不溶性コラーゲン含有微細粉末を得ることができる。平均粒度は45μm程度の微粉末が得られる。この中には、粒怪が0.4μm〜200μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末中のスクラビング剤に適している成分(粒径30〜100μmの成分)、同じく粒怪が0.4μm〜200μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末中の角質除去剤に適している成分(粒径30〜100μmの成分)、粒怪が0.4μm〜200μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末中のファンデーション保湿剤に適している成分(粒径0.4μm〜30μmの成分)を全体の中の65体積%含むことから、この範囲(0.4μm〜200μm)の粒径の水不溶性コラーゲン含有微細粉末をスクラビング剤又は角質除去剤、さらにはファンデーションの保湿剤として用いることができる。
【0021】
前記粒怪が0.4μm〜200μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末は粒径に応じて適切な作用を有している。この範囲のものに限って使用すると言うのであれば、分級操作を施して適切な範囲のものとして使用することができる。
具体的には以下の3つの範囲に分級することが行われる。
前記水不溶性コラーゲン含有微細粉末を分級して、粒径0.4μm〜30μm未満の水不溶性コラーゲン含有微細粉末(29容量%)、粒径30μm〜100μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末(65容量%)、粒径100μmを超えて200μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末(6容量%)に分級する。
粒径0.4μm〜30μm未満の水不溶性コラーゲン含有微細粉末は吸水保湿性剤、ファンデーションの保湿剤として使用することに適している。
粒怪が30μm〜200μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末は、スクラビング剤、角質除去剤として使用することに適している。
粒径100μmを超えて200μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末はフェイスパック保湿剤として使用することに適している。
【0022】
以上を整理すると以下の通りである。
(a)中央部分にピークを有する30〜100μmの角質ケアとなるゴマージュ(粘着性を示す)及びスクラブ洗顔料として化粧品に添加して用いることができる成分(全体の65%を占める。)。
(b)30μ未満のファンデーション(バリア機能、保湿機能)に用いることができる成分(全体の29%を占める。)。
(c)100を超えて200μmのフェイスパック(保湿性)に用いることができる成分(全体の6%を占める。)。
これらについては分離して各用途に用いることができる。
【0023】
第2の方法は以下の通りである。
魚鱗を、加圧下に100〜140℃の加熱水中で熱処理し、得られる着色熱処理生成物を脱色処理し、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に粉砕して得られることを特徴とする水不溶性コラーゲン含有微細粉末。
第1の方法に比較すると、加圧下に100〜140℃の加熱水中で熱処理し、得られる着色熱処理生成物を脱色処理し、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後とする点で相違する。原料となる魚鱗及びこれを乾燥処理し、次に粉砕して得られることは前記製法1と同じでありこの点に関しては、これを取り込む。
【0024】
この程度の加熱処理はオートクレーブ中で適切におこなうことができる。
オートクレーブの運転状況は100℃以上140℃で3分から10分程度。
浴比は、原料の魚鱗重量に対して6〜8倍の加水が必要。
加熱処理を行った後のDSC分析を行った結果(図1)にはコラーゲン特有の三重螺旋構造が存在せず、コラーゲンは変化していることが分かる。
加熱水から生成物を取り出して室温以上で70℃程度の空気流により乾燥させる。
【0025】
オートクレーブ中での水分を変化させたときの粉砕に与える影響を調べた結果は表3に示すとおりである。
【表2】

【0026】
表3の結果より、加水なしの状態でオートクレーブ中での処理は不十分な結果となることが示されている。鱗重量に対して100%加水した状態でも微粉砕時に、やや焦げ臭、着色が発生する傾向が見られる。最低でも鱗との浴比は、50%は必要であることがわかる。
【0027】
オートクレーブ中での浴比変化が収率に及ぼす変化は表4に示すとおりである。
【表3】

【0028】
表4の結果より、粗粉砕までは全ての水準で問題がなかった。微粉砕については浴比1対1では不十分な処理であった。鱗に対しては加水量が5〜10倍量であれば、十分な粉砕が行われたということがわかる。
オートクレーブ処理での収率は約55%に収束傾向が見られた。
【0029】
本発明の製造で得られる熱処理により得られる生成物の分子量は、熱水に溶解しない高分子の状態で得られ、10万以上の水不溶性のゼラチンと推察される。
本発明の製造で用いられるコラーゲンを煮沸抽出した後の抽出残渣物は、ヒドロキシプロリン、グリシン、プロリンなどのアミノ酸を含む組成から高分子コラーゲンの組成を有している。
また、残渣の乾燥物は、コラーゲン特有の三重螺旋構造が弱くなり微粉砕も容易となる。
表5に処理時間に応じたDSCの結果を示した。また各処理時のDSCの測定結果を図1に示した。コラーゲン特有の三重螺旋構造の存在及び消滅がわかり、コラーゲンが変化したことがわかる。
【表4】

【0030】
また、熱処理した後の生成物の外観はクリーム色から黄色を呈し、乾燥すると黄褐色から茶褐色となる。
【0031】
脱色方法には、過炭酸ナトリウムを用いた場合には、魚鱗の分解が促進され残渣は残らないので適切でない。その結果を表6に示す。又加熱処理の際に脱色を一緒に行うことができないことを確認した。
【表5】

【0032】
過炭酸ナトリウムを少量用いた場合には、魚鱗の脱色効果をえることができなかった。
その結果を表7に示す。又全ての水準で過炭酸ナトリウムを水溶液では気泡が発生し、静置状態でも魚鱗が浮上してしまう現象が見られた。
【表6】

【0033】
脱色剤に過酸化水素を用いることにより脱色することは可能であった。
加熱処理工程で過酸化水素を添加することは不可能であった。その内容を表8に示した。
【表7】

【0034】
脱色効果は過酸化水素濃度が2%であると1%の場合と比較して良好な結果を得た。
浴比は、加熱処理を行って膨潤した魚鱗:2%過酸化水素であり、1:4である。
結果を表9に示す。
【表8】

【0035】
過酸化水素水による処理時間についての検討を行った。
2.0%過酸化水素/50℃/18時間の脱色処理を行った場合との比較を表10に示す。この結果より2.0%過酸化水素水での脱色は50℃で5〜7時間の処理が必要となることがわかる。
【表9】

表中、×は不十分、△は効果があるが、不十分、〇は同等の結果を示す。
【0036】
2.0%過酸化水素/50℃/18時間の脱色処理を行った場合と、0.3〜0.5%過酸化水素で処理をした場合の比較を表11に示す。0.3〜0.5%過酸化水素で処理をした場合では50℃で15時間の処理が必要なことがわかる。
【表10】

表中、×は不十分、△は効果があるが、不十分、〇は同等の結果を示す。
【0037】
過酸化水素で処理した後の中和は、すすぎ水で処理する方法及び希薄なアルカリ水による処理を行った。結果は夫々表12及び表13に示す
【表11】

【表12】

【0038】
中和処理が終了後、前記製法1の場合と同様に乾燥させ、次に粉砕して目的とする生成物を得た。
【産業上の利用可能性】
【0039】
魚鱗の処理は廃棄物処理としても重要な手段であり、未使用資源の有効利用にもなる重要な技術である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚鱗を、90〜95℃の加熱水中で熱処理し、熱処理生成物を、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に粉砕して得られることを特徴とする水不溶性コラーゲン含有微細粉末。
【請求項2】
魚鱗を、加圧下に100〜140℃の加熱水中で熱処理し、得られる着色熱処理生成物を脱色処理し、水不溶性コラーゲンを含む組成物として分離した後、これを乾燥処理し、次に粉砕して得られることを特徴とする水不溶性コラーゲン含有微細粉末。
【請求項3】
前記加圧下に100〜140℃の加熱水中で熱処理は、オートクレーブ中での熱処理であることを特徴とする請求項2記載の水不溶性コラーゲン含有微細粉末。
【請求項4】
前記脱色処理は、過酸化水素水により処理して、その後、中和処理することを特徴とする請求項2記載の水不溶性コラーゲン含有微細粉末。
【請求項5】
前記粉砕は、粗粉砕処理(粒径1〜2mm程度)と、当該粗粉砕処理の後に行う微粉砕処理(粒怪0.4μm〜200μm)の2つの処理からなることを特徴とする請求項1又は2記載の水不溶性コラーゲン含有微細粉末。
【請求項6】
請求項5記載の水不溶性コラーゲン含有微細粉末を分級して、粒径0.4μm〜30μm未満の水不溶性コラーゲン含有微細粉末、粒径30μm〜100μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末、粒径100μmを超えて200μmの水不溶性コラーゲン含有微細粉末とすることを特徴とする粒径に応じた分級された水不溶性コラーゲン含有微細粉末。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236131(P2011−236131A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106374(P2010−106374)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】