説明

黒鉛粘土複合材、並びにこの複合材からなるガスケット又はパッキン

【課題】発電所や化学プラントの配管の接合部等に使用するジョイントシート、ガスケット、パッキン等のシール材や、放熱シート、電磁波遮蔽材、防音シート等の広範な分野の種々の用途に適用することが可能である複合材、並びにこの複合材からなるガスケット又はパッキンを提供すること。
【解決手段】膨張黒鉛と粘土を主要成分とし、膨張黒鉛層に粘土が侵入した構造、又は膨張黒鉛層に粘土が積層及び侵入した構造を有し、前記膨張黒鉛層がシート又はフィルム、もしくは該シート又はフィルムを成形して得られる成形体であることを特徴とする複合材、並びにこの複合材からなるガスケット又はパッキンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粘土複合材、並びにこの複合材からなるガスケット又はパッキンに関するものであり、更に詳しくは、ガスケットやパッキンの素材として必要不可欠な物性、すなわち耐熱性、耐久性、ガスや液体等の流体に対する遮断(シール)性や耐蝕性、更には放熱性、電磁波遮蔽性、機械的強度等を有する黒鉛粘土複合材、並びにこの複合材からなるガスケット又はパッキンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発電所や化学プラントの配管の接合部等に使用されるジョイントシート、ガスケット、パッキン等のシール材には、アスベスト製品が用いられてきたが、アスベストが健康に甚大な被害を与えることから、アスベスト代替素材の開発が喫緊かつ重要な問題となっている。アスベスト代替素材には、高い耐熱性と耐久性は無論のこと、気密性や柔軟性さらには広い温度範囲に適用可能なものが求められている。
【0003】
一方、コンピュータ、CPU、パワートランジスタ等の電子機器分野では、熱や電磁波によるトラブルを防ぐために、機器や部品が発生する熱を速やかに放熱するシートや外部からの電磁波を遮蔽するシートが必須部品となっており、放熱性や電磁波遮蔽性に優れた素材が求められている。
【0004】
本発明は、上記実状を踏まえて開発されたものであり、耐熱性、耐久性、シール性、耐酸化性に優れ、しかも柔軟性にも優れた、アスベストに代替する非アスベストの新素材であって、ジョイントシート、ガスケット、パッキン等に好適に使用することが可能であると同時に、放熱性や電磁波遮蔽性をも備え、放熱シートや電磁波遮蔽シートとして利用し得る新素材・新技術を提供するものである。
【0005】
現在、アスベスト製品に代替するジョイントシート、ガスケット及びパッキン製品として、ゴム、PTFE、アラミド等の有機高分子材料をベースとしたもの、マイカやバーミキュライト等の天然或いは合成鉱物をシート状に加工したもの、金属シートを加工したもの、黒鉛を圧密した膨張黒鉛シート等が使用されている。
【0006】
しかしながら、有機高分子材料をベースとしたものは、柔軟性に優れるものの、ガスバリア性やシール性は完全とはいえず、しかもその使用温度は一般には250℃程度までであり、耐熱性に問題がある。
これに対し、鉱物を加工したものは、高い耐熱性を有し、グランドパッキン等として一応のガスシール部材用途があるが、緻密な成形が困難なことから、微小なガス分子が流れるパスを完全に遮断することはできず、ガスシール性がそれほど高くない。
【0007】
金属シートを加工したものは、シール性にも耐熱性にも優れており、0℃までの低温域でも使用可能なことから、接合部など種々の箇所に広範に使用されているが、金属製シールの場合、強く締め付ける機構が必要となり、この締め付け時に、当接面に傷がつきリークの原因になるおそれがある。また、加熱冷却時に周辺部材の体積変化に追随できず、隙間が発生し、リークの原因になる、電気絶縁がとれない等のハンドリング上の種々の問題も指摘されている。
【0008】
一方、膨張黒鉛は、導電性が高く、耐アルカリ性や耐水性にも優れ、そのシートは耐熱性、可撓性、圧縮復元性等に優れていることから、ガスケットやパッキン等のシール材として広く使用されており(例えば、下記特許文献1参照)、また、放熱シートや電磁波遮蔽シート等としても用いられている(例えば、下記特許文献2,3参照)が、曲げ強度や引張強度等の機械的強度が低いという欠点がある。
【0009】
また、膨張黒鉛シートは、ガスでは約400℃、液体では約600℃と耐熱性は高いものの、ガスや有機蒸気のシール性は十分ではない。一例を挙げれば、従来の膨張黒鉛製のガスケットは、酸素が存在すると、500℃で酸化が始まり、600℃で消失し、シール性を失ってしまうため、高温酸素雰囲気下で用いられる部材には適用できないという問題がある。更に、膨張黒鉛は導電性が高いため絶縁性が要求される箇所には使用できない、電蝕を受け易い、強酸に弱い等の欠点がある上、黒鉛はフランジ材に貼り付いて粉落ちするため、黒鉛粉末が配管中の流体に不純物・汚染物として混入する等、ハンドリング上の問題もある。
【0010】
近年、上記膨張黒鉛シートの欠点を解消するための方策として、膨張黒鉛と異種素材との複合化が行われている。この種の方策の例として、膨張黒鉛の機械的強度を補うために、膨張黒鉛シートに金属材料を積層した複合材を挙げることができる(例えば、下記特許文献4参照)が、このような複合材では、機械的強度は増すものの、耐蝕性は向上せず、ましてや絶縁性は望むべくもない。このように、従来の膨張黒鉛複合材は、膨張黒鉛本体の欠点を抱えたままか、或いは欠点のごく一部を補強・補完したものに過ぎず、その利用・用途は極めて限られているのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−201363号公報
【特許文献2】特開2000−91453号公報
【特許文献3】WO99/10598号公報
【特許文献4】特開平11−351400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記状況に鑑み、広範な物質・材料の探索を行った結果、粘土と黒鉛とを複合させることにより、黒鉛が本来有する可撓性、熱伝導性、導電性、電磁波遮蔽性、耐アルカリ性、耐水性等の種々の優れた特性を活かしつつ、機械的強度、耐熱性、耐食性、ガスバリア性、耐酸性、絶縁性等を向上させ或いは新たに付与できることを見出し、本発明を成すに至った。すなわち、本発明は、発電所や化学プラントの配管の接合部等に用いられるジョイントシート、ガスケット、パッキン等のシール材、放熱シート、電磁波遮蔽材、防音シート等の幅広い分野の種々の用途に適用することができる極めて汎用性の高い黒鉛粘土複合材、並びにこの複合材からなるガスケット又はパッキンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、膨張黒鉛と粘土を主要成分とし、膨張黒鉛層に粘土が侵入した構造、又は膨張黒鉛層に粘土が積層及び侵入した構造を有し、前記膨張黒鉛層がシート又はフィルム、もしくは該シート又はフィルムを成形して得られる成形体であることを特徴とする複合材に関する。
【0014】
請求項2に係る発明は、前記粘土が天然粘土、合成粘土、変性粘土のうちの一種以上からなることを特徴とする請求項1記載の複合材に関する。
請求項3に係る発明は、前記粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイト、ノントロナイトのうちの一種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の複合材に関する。
請求項4に係る発明は、前記膨張黒鉛が、粘土により被覆されてなることを特徴とする請求項2又は3記載の複合材に関する。
【0015】
請求項5に係る発明は、前記変性粘土が、有機カチオンとして第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジウムカチオンのいずれかを含むことを特徴とする請求項2記載の複合材に関する。
請求項6に係る発明は、前記変性粘土が、粘土にシリル化剤を反応させたものであることを特徴とする請求項2記載の複合材に関する。
請求項7に係る発明は、前記変性粘土における有機カチオン組成が30重量%未満であることを特徴とする請求項5記載の複合材に関する。
請求項8に係る発明は、前記粘土とシリル化剤に対するシリル化剤の組成が30重量%未満であることを特徴とする請求項6記載の複合材に関する。
【0016】
請求項9に係る発明は、膨張黒鉛層及び/又は粘土層が二層以上積層してなることを特徴とする請求項4記載の複合材に関する。
請求項10に係る発明は、膨張黒鉛のシート又はフィルム形状と、粘土を主要成分とするシート又はフィルムとが夫々一層以上積層されてなるシート又はフィルム、もしくはこれらから得られる成形体からなることを特徴とする請求項2又は3記載の複合材に関する。
【0017】
請求項11に係る発明は、前記粘土を主要成分とするシート又はフィルムが、粘土又は粘土と添加物からなることを特徴とする請求項10記載の複合材に関する。
請求項12に係る発明は、前記添加物が、セルロイド、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、酢酸セルロース、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル、ケイ素樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アクリロニトリル−ブダジエン−スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタラート、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミドのうちの1種以上であることを特徴とする請求項11記載の複合材に関する。
請求項13に係る発明は、膨張黒鉛100重量部に対して、赤燐及び水酸化アルミニウムをそれぞれ1.5〜10重量部添加したことを特徴とする請求項1乃至12いずれかに記載の複合材に関する。
【0018】
請求項14に係る発明は、請求項1乃至13いずれかに記載の複合材からなることを特徴とするガスケット又はパッキンに関する。
請求項15に係る発明は、耐水コーティングされていることを特徴とする請求項14記載のガスケット又はパッキンに関する。
請求項16に係る発明は、金属薄板を含むことを特徴とする請求項14記載のガスケット又はパッキンに関する。
請求項17に係る発明は、前記金属薄板がステンレスからなり、その厚さが0.05〜5mmであることを特徴とする請求項16記載のガスケット又はパッキンに関する。
【0019】
請求項18に係る発明は、シートガスケットであることを特徴とする請求項14記載のガスケットに関する。
請求項19に係る発明は、グロメット加工されていることを特徴とする請求項18記載のガスケットに関する。
請求項20に係る発明は、シートガスケット(JPI 50A:外径φ104mm、内径φ61.5mm、厚さ3mm)を、2枚のフランジの間に介装して締め付け面圧29.4MPaで締め付け、内圧0.98MPaを加えたときのヘリウムガスの漏れ量が1.62mL/min以下であることを特徴とする請求項18記載のガスケットに関する。
【0020】
請求項21に係る発明は、球面ガスケットであることを特徴とする請求項14記載のガスケットに関する。
請求項22に係る発明は、球面部に窒化ホウ素、タルク及び四フッ化エチレン樹脂を含むことを特徴とする請求項21記載のガスケットに関する。
請求項23に係る発明は、800℃で24時間加熱後の重量減少率が11%以下であることを特徴とする請求項21記載のガスケットに関する。
【0021】
請求項24に係る発明は、球面ガスケット(外径φ70mm、内径φ53.5mm、高さ16mm)を、2本のパイプ(ステンレス製、外径φ53mm)の端部近傍に夫々形成されたフランジの間に介装して荷重588.4Nで締め付け、フランジ球面部の温度が600〜700℃になるようにパイプ内部を24時間加熱した後、フランジ球面部の可動部分を加熱前と同様の可動範囲まで繰り返し10回滑らせ、その後、内圧19.6kPaを加えたときの空気漏れ量が0.5L/30sec以下であることを特徴とする請求項21記載のガスケットに関する。
【0022】
請求項25に係る発明は、球面ガスケット(外径φ70mm、内径φ53.5mm、高さ16mm)を、2本のパイプ(ステンレス製、外径φ53mm)の端部近傍に夫々形成されたフランジの間に介装して荷重588.4Nで締め付け、フランジ球面部の温度が600〜700℃になるようにパイプ内部を24時間加熱した後、2本のパイプ間をフランジ同士の接合部を境界として折り曲げることが可能であることを特徴とする請求項21記載のガスケットに関する。
【0023】
請求項26に係る発明は、渦巻きガスケットであることを特徴とする請求項14記載のガスケットに関する。
請求項27に係る発明は、編組パッキンであることを特徴とする請求項14記載のパッキンに関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る複合材は、黒鉛と粘土とからなるため、黒鉛が有する可撓性、熱伝導性、導電性、電磁波シールド性、耐アルカリ性、耐水性といった数々の優れた特性を維持しながら、粘土によって、黒鉛の弱点である機械的強度、耐熱性、耐食性、ガスバリア性、耐酸性、絶縁性といった特性を向上させ或いは付与することができる。
そのため、発電所や化学プラントの配管の接合部等に用いられるジョイントシート、ガスケット、パッキン等のシール材、放熱シート、電磁波遮蔽材、防音シート等の従来の黒鉛シートの適用が困難であった分野を含む幅広い分野の種々の用途に適用することができる極めて汎用性の高い黒鉛粘土複合材を得ることができる。
また、本発明に係るガスケット又はパッキンは、上記特性を有する複合材からなるため、優れた耐熱性、シール性、耐食性を発揮することが可能であり、黒鉛の粉落ちやフランジ面への貼り付き(焼き付き)も生じないため、発電所や化学プラントの配管の接合部に特に好適に用いることができる。
更に、本発明において使用される粘土分散液は、水を主要成分とする溶媒に粘土が均一分散されているため、上記したような優れた特性を有する複合材を製造するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る複合材の第一参考形態を示す模式断面図である。
【図2】本発明に係る複合材の第二参考形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明に係る複合材の第三参考形態を示す模式断面図である。
【図4】本発明に係る複合材の第四参考形態を示す模式断面図である。
【図5】本発明に係る複合材の第五参考形態を示す模式断面図である。
【図6】本発明に係る複合材の第一実施形態を示す模式断面図である。
【図7】本発明に係る複合材の第二実施形態を示す模式断面図である。
【図8】本発明に係る複合材における膨張黒鉛層の一例であって、シート又はフィルム形状とした例である。
【図9】本発明に係る複合材における膨張黒鉛層の一例であって、シート又はフィルム形状のものを成形して得られる成形体である。
【図10】本発明に係る複合材の製造方法の第一の例(参考例)において、冷間プレス及び/又は熱間プレスによる方法を示す概略図である。
【図11】本発明に係る複合材の製造方法の第一の例(参考例)において、圧延ロールによる方法を示す概略図である。
【図12】本発明に係る複合材の製造方法の第一の例(参考例)において、接着剤による方法を示す概略図である。
【図13】本発明に係る複合材の製造方法の第三の例(実施例)を示す概略図である。
【図14】本発明に係る複合材の製造方法の第四の例(参考例)を示す概略図である。
【図15】本発明に係る複合材の製造方法の第五の例(参考例)を示す概略図である。
【図16】本発明に係るガスケット又はパッキンの一例を示す図であって、(a)は外観図、(b)は縦断面図、(c)及び(d)は変更例を示す縦断面図である。
【図17】金属薄板を含むガスケット又はパッキンの一例を示す図であって、(a)は外観図、(b)は縦断面図、(c)乃至(e)は変更例を示す縦断面図である。
【図18】本発明に係るガスケット又はパッキンの一例である球面ガスケットを示す図であって、(a)は外観図、(b)は縦断面図である。
【図19】本発明に係る球面ガスケットの試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る黒鉛粘土複合材、並びにこの複合材からなるガスケット又はパッキンの好適な実施形態及び参考形態について、図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る黒鉛粘土複合材(以下、単に複合材という)は、黒鉛と粘土を主要成分とし、黒鉛層に粘土が侵入した構造、又は黒鉛層に粘土が積層及び侵入した構造を有するものである。
【0027】
本発明においては、黒鉛として、耐熱性、可撓性、圧縮復元性等に優れている膨張黒鉛を用いる。
【0028】
粘土としては、天然粘土、合成粘土、変性粘土のうちの一種以上を用いることができる。
より具体的には、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイト、ノントロナイトのうちの一種以上が好適に用いられる。
【0029】
本発明で用いる変性粘土に用いられる粘土としては、天然或いは合成物、好適には、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイトのうちの一種以上、更に好適には、それらの天然或いは合成物のいずれか或いはそれらの混合物が例示される。
本発明で用いる変性粘土に用いられる有機カチオンとしては、第四級アンモニウムカチオン或いは第四級ホスホニウムカチオンを含むものが例示される。その際、変性粘土における有機カチオン組成を30重量%未満とする構成を採用することができる。
また、本発明では、変性粘土にシリル化剤を反応させたものを使用することもできる。この場合、粘土とシリル化剤の総重量に対するシリル化剤組成を30%重量未満とする構成を採用することができる。
【0030】
本発明で用いる変性粘土に含まれる有機物としては、第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジウムカチオンが挙げられる。第四級アンモニウムカチオンとしては、特に限定されるものではないが、ジメチルオクタデシルタイプ、ジメチルステアリルベンジルタイプ、トリメチルステアリルタイプが例示される。また、類似の有機物として、第四級ホスホニウムカチオンが例示される。これらの有機物は、原料粘土のイオン交換によって粘土に導入される。
このイオン交換は、例えば原料粘土を、大過剰の有機物を溶解した水に分散し、一定時間攪拌し、遠心分離或いは濾過により固液分離し、水により洗浄を繰り返すことにより行われる。これらのイオン交換プロセスは1回のみでもよいし、複数回繰り返してもよい。複数回繰り返すことにより、粘土に含まれるナトリウム、カルシウム等の交換性イオンが有機物によって交換される比率が高くなる。用いる有機物及び交換比率によって変性粘土の極性にバリエーションを持たせることができ、異なる極性の変性粘土はそれぞれ好適な添加物及び好適な溶剤が異なる。このとき、第四級アンモニウムカチオンの導入に用いられる試薬として、第四級アンモニウムカチオン塩化物が一般的に用いられる。第四級アンモニウムカチオンの導入と共に混入する塩素は水洗浄により薄められるが、水洗浄を繰り返してもその濃度を150ppm以下にすることは困難である。しかし、エレクトロニクス用途等では塩素の混入を著しく嫌うものがあり、そのため塩素濃度を150ppm以下に抑えなければならないことがある。そのような場合は、第四級アンモニウム塩化物を用いず、塩素を含まない他の試薬、例えば第四級アンモニウム臭化物、第四級アンモニウムカチオン水酸化物を用いなければならない。
【0031】
本発明で用いられる変性粘土に含まれるシリル化剤としては、特に制限されるものではないが、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシランを例示することができる。粘土へのシリル化剤の導入方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、原料粘土と、原料粘土に対して2重量%のシリル化剤を混合し、それらをボールミルにより一時間ミルすることによって製造される(鬼形昌信、近藤三二、Clay Science、第9巻、第5号、299-310(1995)参照)
【0032】
本発明で用いられる変性粘土は、その処理方法によって種々の極性のものを作製することが可能であり、その極性により粘土分散液を作製するのに適した溶剤が異なる。粘土分散液を作製する際の溶剤としては、アルコール、エーテル、酢酸エチル、トルエン等を例示することができる。
【0033】
図1乃至図5は、夫々本発明に係る複合材の第一乃至第五参考形態を示す模式断面図である。
第一乃至第五参考形態の複合材(1)は、膨張黒鉛層(2)に粘土層(3)が積層された構成を有するものである。
【0034】
図1に示す第一参考形態の複合材(1)は、二層構造の複合材であって、膨張黒鉛層(2)の片面に粘土層(3)が積層された構成を有するものである。
図2及び図3に夫々示す第二及び第三参考形態の複合材(1)は、三層構造の複合材である。第二参考形態の複合材(1)は、膨張黒鉛層(2)の両面に粘土層(3)が積層された構成を有するものであり、第三参考形態の複合材(1)は、粘土層(3)の両面に膨張黒鉛層(2)が積層された構成を有するものである。
【0035】
図4に示す第四参考形態の複合材(1)は、四層以上(図示例では四層を示す)の積層構造をもつ複合材であって、膨張黒鉛層(2)と粘土層(3)とが交互に積層された構成を有するものである。
この第四参考形態において、膨張黒鉛層(2)と粘土層(3)の層数は特に限定されず、夫々二層以上の任意の層数に設定することができる。
【0036】
図5に示す第五参考形態の複合材(1)は、膨張黒鉛層(2)の全面が粘土層(3)により被覆された構成を有している。
この第五参考形態においても、膨張黒鉛層(2)と粘土層(3)の層数は特に限定されず、二層以上からなる膨張黒鉛層(2)を一層の粘土層(3)により被覆する構成、一層の膨張黒鉛層(2)を二層以上からなる粘土層(3)により被覆する構成、二層以上からなる膨張黒鉛層(2)を二層以上からなる粘土層(3)により被覆する構成、のいずれも採用することができる。
【0037】
図6は、本発明に係る複合材の第一実施形態を示す模式断面図である。
第一実施形態の複合材(1)は、膨張黒鉛層(2)の内部に粘土粒子(4)が侵入した構成を有するものである。
【0038】
図7は、本発明に係る複合材の第二実施形態を示す模式断面図である。
第二実施形態の複合材(1)は、上記第一乃至第五参考形態のような膨張黒鉛層(2)と粘土層(3)との積層体において、膨張黒鉛層(2)の内部に粘土粒子(4)が侵入した構成を有するものである。
尚、図7では、膨張黒鉛層(2)と粘土層(3)との積層体として第一参考形態のものを用いた例を示したが、第二乃至第五参考形態のものを用いることも可能である。
【0039】
上記した第一乃至第五参考形態並びに第一及び第二実施形態の複合材(1)において、膨張黒鉛層(2)は、図8に示すようなシート又はフィルム、もしくは該シート又はフィルムを成形して得られる成形体(例えば図9参照)である。
【0040】
膨張黒鉛層(2)を構成するシート又はフィルムは、天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等の黒鉛粉末を、濃硫酸、濃硝酸等と反応させて一旦層間化合物とした後、水洗などによって残留分解させて残留化合物とし、これを急熱して膨張させて得られる膨張黒鉛を、圧延ロールにより成形して可撓性を有するシート状又はフィルム状とする方法等の公知の製法により得ることができる。
【0041】
膨張黒鉛層(2)を構成するシート又はフィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、0.10〜1.5mm程度のものが好適に用いられる。
これは、厚みが0.10mm未満であると充分な強度が得られないおそれがあり、シート又はフィルムが破断するおそれがあり、厚みが1.5mmを超えると層間剥離が生じ易くなるとともに厚み方向の熱伝導性や可撓性が低下するおそれがあるためである。
【0042】
膨張黒鉛層(2)を構成するシート又はフィルムの密度についても、特に限定されるものではないが、0.80〜2.2g/cm程度のものが好適に用いられる。
これは、密度が0.80g/cm未満であると熱伝導性や強度が低下するおそれがあり、2.2g/cmを超えると可撓性が低下するおそれがあるためである。
【0043】
膨張黒鉛層(2)を構成する成形体(例えば図9参照)は、上記したようなシート又はフィルムを金型に収容して加圧成型する等の任意の方法により得ることができる。
【0044】
上記した第一乃至第五参考形態の複合材(1)において、粘土層(3)は、粘土を主要成分とするシート又はフィルムから形成することができる。また、後述するように粘土分散液の塗布及び/又は浸漬により形成することもできる。
粘土を主要成分とするシート又はフィルムとしては、粘土からなるシート又はフィルム、もしくは粘土と添加物からなるシート又はフィルムが用いられる。
【0045】
添加物としては、セルロイド、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、酢酸セルロース、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル、ケイ素樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アクリロニトリル−ブダジエン−スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタラート、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミドのうちの1種以上を用いることができる。
【0046】
以下、粘土を主要成分とするシート又はフィルムの製法の一例を説明する。
先ず、天然もしくは合成スメクタイト、又はこれらの混合物からなる粘土を、水又は水を主要成分とする液体に加え、希薄で均一な粘土分散液を調製する。
粘土中に含まれる固形分の割合は3〜15重量%であることが好ましい。また、粘土分散液の濃度は、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜3重量%とされる。更に、必要に応じて上記した添加物の1種以上を粘土分散液に添加して、液中に均一分散又は溶解させる。
次いで、粘土分散液を水平に静置して、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、分散媒である液体と粘土粒子を固液分離手段によって分離することにより、粘土薄膜を成形する。
最後に、粘土薄膜を110〜300℃の温度条件下で乾燥することにより、本発明において用いられる粘土を主要成分とするシート又はフィルムが得られる。
【0047】
上記製法における固液分離手段としては、遠心分離、濾過、真空乾燥、凍結真空乾燥、加熱蒸発のいずれか、もしくはこれらの手段の組み合わせが採用される。
これらの方法のうち、例えば、加熱蒸発法を用いる場合、真空引きにより予め脱気した粘土分散液を平坦なトレイに注ぎ、水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で30〜70℃、好ましくは40〜50℃の温度条件下で、3時間から半日程度、好ましくは3〜5時間乾燥させることにより、粘土を主要成分とするシート又はフィルムを得る。
【0048】
このようにして製造された粘土を主要成分とするシート又はフィルムは、自立膜として利用可能な強度を有し、粘土粒子の積層が高度に配向されたものとなる。
粘土粒子の積層が高度に配向されるとは、粘土粒子の単位構造層(厚さ約1nm)を、層面の向きを同一にして重ね、層面に垂直な方向に高い周期性をもたせることを意味している。このような粘土粒子の配向を得るためには、希薄で均一な粘土分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、例えば、分散媒である液体をゆっくりと蒸発させて膜状に形成する必要がある。
【0049】
このように得られた粘土を主要成分とするシート又はフィルムは、膜厚が3〜100μm、好適には3〜30μmであり、ガスバリア性能は、厚さ30μmで酸素透過度0.1cc/m・24hr・atm未満、水素透過度0.1cc/m・24hr・atm未満である。ヘリウム、水素、酸素、窒素、空気の室温におけるガス透過係数は3.2×10−11cm−1cmHg−1未満であって、1000℃で24時間加熱処理後もガスバリア性の低下はみられない。
また、遮水性は、遮水係数が2×10−11cm/s以下であり、光透過性は、可視光(500nm)の透過性が75%以上であり、面積は100×40cm以上に大面積化することが可能であり、高耐熱性を有している。
【0050】
本発明で用いられる粘土を主要成分とするシート又はフィルムは、粘土粒子の積層が高度に配向し、ピンホールが存在しない。また、可撓性に優れ、250℃以上600℃までの高温においても構造変化しないものである。更には、自立膜として用いることが可能であり、250℃を超える高温条件下で使用が可能であり、かつピンホールの存在しない緻密な材料であり、かつ気体・液体のバリアー性に優れたものである。
【0051】
膨張黒鉛層(2)は、可撓性、熱伝導性、導電性、電磁波シールド性、耐アルカリ性、耐水性において優れており、一方、粘土層(3)は、機械的強度、耐熱性、耐食性、ガスバリア性、耐酸性、絶縁性において優れている。
そのため、膨張黒鉛層(2)に粘土層(3)が積層された構成を有する第一乃至第五参考形態の複合材(1)によれば、一方の層が他方の層の弱点を補完し、一方の層材料のみからなるシートでは使用が不可能であった用途への使用が可能となり、非常に高機能・高汎用性の複合材が得られる。
【0052】
例えば、膨張黒鉛層のみでは高いガスバリア性が要求される用途への適用は困難であるが、粘土層を積層することによって、ガスバリア性が大きく高められ、高いガスバリア性が要求される用途への適用が可能となる。
また、粘土層のみでは電磁波シールド性が要求される用途への適用は困難であるが、膨張黒鉛層を積層することによって、電磁波シールド性が大きく高められ、高い電磁波シールド性が要求される用途への適用が可能となる。
【0053】
例えば、膨張黒鉛層(2)の両面に粘土層(3)が積層された構成を有する第二参考形態の複合材(1)(図2参照)は、表裏面が絶縁性を有し、内部が導電性及び熱伝導性を有するため、電子回路の基板としての使用が可能である。
【0054】
更に第五参考形態の複合材によれば、膨張黒鉛層(2)が粘土層(3)により被覆されていることにより、膨張黒鉛層からの膨張黒鉛粉の脱離を防ぐことが可能となり、複合材の周囲の汚染を防止できる。また、高温環境下(650℃以上)において膨張黒鉛が昇華することも防ぐことができる。
【0055】
また、膨張黒鉛層(2)に粘土層(3)が侵入した構成を有する第一実施形態の複合材(1)によっても、粘土と膨張黒鉛が互いの弱点を補完するため、一方の材料のみからなるシートでは使用が不可能であった用途への使用が可能となり、非常に高機能・高汎用性の複合材が得られる。
例えば、膨張黒鉛はガスバリア性が低いという欠点があり、粘土は水に弱いという欠点があるが、黒鉛層に粘土を侵入させた構造とすることによって、両者の欠点が補われた複合材となる。
【0056】
また、粘土粒子の配合率を調整することによって、膨張黒鉛がもつ特性が強く発現される複合材とすることもできるし、粘土がもつ特性が強く発現される複合材とすることもできるため、使用用途に応じて最適な特性を有する複合材を得ることが可能となる。
【0057】
更に、本発明においては、上記第一乃至第五参考形態並びに第一及び第二実施形態の複合材において、膨張黒鉛に対して、赤燐及び水酸化アルミニウムを添加することができる。
添加量は、膨張黒鉛100重量部に対して、赤燐及び水酸化アルミニウムをそれぞれ1.5〜10重量部とすることが好ましい。
このように、膨張黒鉛に対して赤燐及び水酸化アルミニウムを添加することにより、膨張黒鉛の酸化及び燃焼を防止することができる。
【0058】
以下、本発明に係る複合材の製造方法(実施例及び参考例)について説明する。
本発明に係る複合材の製造方法の第一の例(参考例)としては、上述した膨張黒鉛のシート又はフィルム(膨張黒鉛層(2))と粘土を主要成分とするシート又はフィルム(粘土層(3))を貼り合わせて積層する方法が挙げられる。
この方法によれば、上記第一乃至第四参考形態の複合材(図1乃至図4参照)を得ることができる。
【0059】
膨張黒鉛のシート又はフィルムと、粘土を主要成分とするシート又はフィルムを貼り合わせる方法としては、冷間プレス及び/又は熱間プレスによる方法(図10参照)、圧延ロールによる方法(図11参照)、接着剤による方法(図12参照)などを挙げることができる。
【0060】
図10は、膨張黒鉛のシート又はフィルム(膨張黒鉛層(2))と、粘土を主要成分とするシート又はフィルム(粘土層(3))を重ねて、雄型(5)と雌型(6)からなるプレス金型を用いて圧縮することにより一体化している様子を示す概略図である。
【0061】
図11は、膨張黒鉛のシート又はフィルム(膨張黒鉛層(2))と、粘土を主要成分とするシート又はフィルム(粘土層(3))を重ねて圧延ローラ(7)により圧延することにより一体化している様子を示す概略図である。
【0062】
図12は、膨張黒鉛のシート又はフィルム(膨張黒鉛層(2))と、粘土を主要成分とするシート又はフィルム(粘土層(3))を、接着剤(8)を介して重ねて接着一体化している様子を示す概略図である。
【0063】
本発明に係る複合材の製造方法の第二の例(参考例)としては、上述した膨張黒鉛のシート又はフィルムもしくはこれらから得られる成形体(膨張黒鉛層(2))に、粘土粒子を分散させた粘土分散液を塗布する方法が挙げられる。
粘土分散液としては、上述したものを使用することができる。例えば、天然粘土、合成粘土、変性粘土のうちの一種以上を含むものが例示でき、また水又は有機溶剤を含むものが例示できる。
この方法によれば、上記第一及び第二参考形態の複合材(図1及び図2参照)を得ることができる。
【0064】
本発明に係る複合材の製造方法の第三の例(実施例)としては、上述した膨張黒鉛のシート又はフィルムもしくはこれらから得られる成形体(膨張黒鉛層(2))を、粘土粒子(4)を分散させた粘土分散液(13)に浸漬させる方法が挙げられる(図13参照)。
この方法によれば、上記第五参考形態及び第一実施形態の複合材(図5及び図6参照)を得ることができる。
また、上記第二実施形態の複合材(図7参照)は、この方法と第一又は第二の例の方法とを組み合わせることによって得ることができる。
【0065】
本発明に係る複合材の製造方法の第四の例(参考例)としては、上述した粘土を主要成分とするシート又はフィルム(粘土層(3))を巻回ローラ(9)から順次巻き出して移送し、このシート又はフィルムの表面に膨張黒鉛粉末(10)を連続的に供給し、圧延ローラ(7)により膨張黒鉛粉末(10)を粘土を主要成分とするシート又はフィルムの表面上でシート又はフィルム状に成形することにより、膨張黒鉛層(2)と粘土層(3)を一体化する方法が挙げられる(図14参照)。
この方法によれば、上記第一参考形態の複合材(図1参照)を得ることができる。
【0066】
本発明に係る複合材の製造方法の第五の例(参考例)としては、膨張黒鉛粉末(10)と粘土粒子(11)とを混合した後、この混合物(12)を、多段の圧延ローラ(7)を通過させて圧延することによりシート状とする方法が挙げられる(図15参照)。
この方法によれば、上記第一実施形態の複合材(図6参照)を得ることができる。
【0067】
また、上記第一乃至第五参考形態並びに第一及び第二実施形態の複合材に、更に合成樹脂シート、金属シート、セラミックシート等の他の異種素材シートを積層することも可能である。
【0068】
上記した方法により得られたフィルム又はシート状の複合材を、更に金型等を用いて所要形状に成形することにより、ガスケット、パッキン、ヒートシンク等として使用することが可能である。
【0069】
本発明に係るガスケット又はパッキンは、上記した方法により得られたフィルム又はシート状の複合材を、金型等を用いて所定形状に成形することにより得られる。
本発明に係るガスケット又はパッキンの種類は特に限定されないが、ガスケットとしてはシートガスケット、球面ガスケット、渦巻きガスケット等を例示することができ、パッキンとしては編組パッキン等を例示することができる。
【0070】
図16は、本発明に係るガスケット又はパッキンの一例を示す図であって、(a)は外観図、(b)は縦断面図、(c)及び(d)は変更例を示す縦断面図である。
図示例のガスケット又はパッキンは、上記した方法により得られたフィルム又はシート状の複合材を、金型等を用いて偏平なリング状に成形したものである。
【0071】
図16(c)は、グロメット加工が施されたシートガスケットを示している。
具体的には、断面コ字状に折曲された厚さ0.05〜0.3mmの金属薄板(14)により、シートガスケットの内端面とこれに連続する上下面の一部が被覆された構造を有している。また、図示していないが、内端面に加えて、外端面とこれに連続する上下面の一部についても金属薄板により被覆する構造を採用してもよい。
このようなグロメット加工を施すことにより、シートガスケットの内端面や外端面を補強することが可能となり、長期間に亘って安定したシール性を維持して、流体の漏洩を防ぐことが可能となる。
【0072】
図16(d)は、表面全体を覆うように耐水性コーティング(15)が施されたガスケット又はパッキンを示している。
耐水性コーティングに用いられるコーティング処理としては、フッ素系膜、シリコン系膜、ポリシロキサン膜、フッソ樹脂含有オルガノポリシロキサン膜、アクリル樹脂膜、塩化ビニル樹脂膜、ポリウレタン樹脂膜、エチルセルロース樹脂膜、高撥水メッキ膜、金属蒸着膜、又はカーボン蒸着膜等を例示することができる。
このような耐水性コーティングを施すことにより、コーティング材が粘土と膨張黒鉛とを結合する結合剤として作用するため、水系流体との接触により粘土が流失することが防がれ、ガスケット又はパッキンの耐水性・シール性を向上させることが可能となる。
【0073】
図17は、本発明に係るガスケット又はパッキンの別の例を示す図であって、(a)は外観図、(b)は縦断面図、(c)乃至(e)は変更例を示す縦断面図である。
図示例のガスケット又はパッキンも、上記した方法により得られたフィルム又はシート状の複合材を、金型等を用いて偏平なリング状に成形したものである。
【0074】
図17は、金属薄板(16)を含むガスケット又はパッキンを示している。
金属薄板(16)は、図示のように、本発明の複合材からなる成形体によってサンドイッチ状に挟まれるように設けてもよいし、該複合材からなる成形体の表面及び/又は裏面に積層してもよい。
金属薄板(16)としては、耐食性に優れたステンレスを用いることが好ましい。
このように金属薄板(16)を含む構成を採用することにより、複合材からなるガスケット又はパッキンの機械的強度を向上させることが可能となる。
【0075】
図17(b)は平面状の金属薄板(16)を含むガスケット又はパッキンを示しており、図17(c)は上下方向に突起を有する金属薄板(16)を含むガスケット又はパッキンを示している。これらの金属薄板(16)の厚さは0.05〜5mm程度とすることが好ましい。
図17(d)は鋸刃状断面を有する金属薄板(16)を含むガスケット又はパッキンを示している。金属薄板(16)の厚さは1.0〜2.0mm程度、金属薄板(16)を上下から挟む複合材の厚みは上下夫々0.5〜2.0mm程度とすることが好ましい。
図17(e)は曲線波形断面を有する金属薄板(16)を含むとともに、表裏面が上記したコーティング材(15)により被覆されたガスケット又はパッキンを示している。この場合、金属薄板(16)の厚さは0.5〜1.5mm程度、金属薄板(16)を上下から挟む複合材の厚みは上下夫々0.5〜1.5mm程度とすることが好ましい。
【0076】
図18は本発明に係るガスケット又はパッキンの一例である球面ガスケットを示す図であり、(a)は外観図、(b)は縦断面図である。
本発明に係る球面ガスケットは、球面部(球面状に形成された表面に沿う部分)に窒化ホウ素、タルク及び四フッ化エチレン樹脂を含むように構成することができ、当該構成を採用することにより耐熱性を向上させることが可能となる。
【実施例】
【0077】
以下、上記第五参考形態に係る複合材からなるシートガスケット及び球面ガスケットの実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0078】
1.シートガスケットの実施例
<試料の作製>
天然粘土と膨張黒鉛からなり図5に示す断面構造を有する黒鉛粘土複合材を成形して、図16(a)(b)に示す形状をもつシートガスケット(JPI 50A:外径φ104mm、内径φ61.5mm、厚さ3mm、面積54.09cm)を製造し、これを実施例のシートガスケットとした。
【0079】
<シール性試験>
実施例のシートガスケットを、2枚のフランジの間に介装して、ボルト(外径:φ1.6cm、本数:4本)により締め付けた状態で、内圧(ヘリウムガス圧力)0.98MPa(10kgf/cm)を加えたときの締め付け面圧とヘリウムガスの漏れ量を測定した。
結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示される如く、ヘリウムガスの漏れ量は、締め付け面圧29.4MPa(300kgf/cm)のとき、1.62mL/min以下であった。
この結果から、上記第五参考形態に係る複合材からなるシートガスケットが優れたシール性を有することが確認された。
【0082】
2.球面ガスケットの実施例
<試料の作製>
天然粘土と膨張黒鉛からなり図5に示す断面構造を有する黒鉛粘土複合材を成形して、図18に示す形状をもつ球面ガスケット(外径φ70mm、内径φ53.5mm、高さ16mm)を3個製造し、これらを実施例の球面ガスケットとした。これら実施例の球面ガスケットは、球面部(球面状に形成された表面に沿う部分)に窒化ホウ素、タルク及び四フッ化エチレン樹脂を含むものとして、窒化ホウ素とタルクの重量比が、100:0、50:50、10:90のものを夫々1個ずつ製造した。
一方、膨張黒鉛のみを材料として実施例と同じ形状をもつ球面ガスケットを3個製造し、これらを比較例の球面ガスケットとした。
【0083】
<耐熱性試験>
実施例及び比較例の球面ガスケットをそれぞれ電気炉中にて800℃で24時間加熱し、加熱前後の重量を測定することにより、重量減少率を算出した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
表2に示される如く、実施例の球面ガスケットの重量減少率が11%以下であったのに対して、比較例の球面ガスケットの重量減少率は34%以下であった。この結果から、上記第五参考形態に係る複合材からなる球面ガスケットが従来のものよりも高い耐熱性を有することが確認された。
【0086】
<シール性試験>
実施例の球面ガスケット(20)を、図19に示すように、2本のパイプ(ステンレス製、外径φ53mm)の端部近傍に夫々形成されたフランジ(ステンレス製)の間に介装して、スプリング(18)を介してボルト(19)により荷重588.4N(60kgf)で締め付け、フランジ球面部(17)の温度が600〜700℃になるようにパイプ内部をガスバーナーにより24時間加熱処理した後、フランジ球面部の可動部分を加熱前と同様の可動範囲まで繰り返し10回滑らせ、その後、内圧(空気圧)19.6kPa(0.2kgf/cm)を加えたときの空気漏れ量を測定した。
その結果、空気漏れ量は0.5L/30sec以下、詳しくは0.03〜0.035L/30secであった。
この結果から、上記第五参考形態に係る複合材からなる球面ガスケットが優れた耐熱シール性を有することが確認された。
【0087】
<耐焼付性試験>
実施例及び比較例の球面ガスケットを、上記シール性試験と同条件で加熱処理した。
その後、2本のパイプ間をフランジ同士の接合部分を境界として折り曲げたところ、実施例の球面ガスケットでは繰り返し10回折り曲げることが可能であったが、比較例の球面ガスケットでは球面部がフランジ表面に焼き付いて折り曲げることができなかった。
この結果から、上記第五参考形態に係る複合材からなる球面ガスケットが従来のものよりも耐焼付性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、発電所や化学プラントの配管の接合部等に用いられるジョイントシート、ガスケット、パッキン等のシール材、放熱シート、電磁波遮蔽材、防音シート等の従来の黒鉛シートの適用が困難であった分野を含む幅広い分野の種々の用途に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 黒鉛粘土複合材
2 膨張黒鉛層
3 粘土層
4 粘土粒子
5 雄型(プレス金型)
6 雌型(プレス金型)
7 圧延ローラ
8 接着剤
9 巻回ローラ
10 膨張黒鉛粉末
11 粘土粒子
12 膨張黒鉛粉末と粘土粒子の混合物
13 粘土分散液
14 金属薄板(グロメット加工用)
15 耐水性コーティング
16 金属薄板(強度補強用)
17 フランジ球面部
20 球面ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張黒鉛と粘土を主要成分とし、膨張黒鉛層に粘土が侵入した構造、又は膨張黒鉛層に粘土が積層及び侵入した構造を有し、前記膨張黒鉛層がシート又はフィルム、もしくは該シート又はフィルムを成形して得られる成形体であることを特徴とする複合材。
【請求項2】
前記粘土が天然粘土、合成粘土、変性粘土のうちの一種以上からなることを特徴とする請求項1記載の複合材。
【請求項3】
前記粘土が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイト、ノントロナイトのうちの一種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の複合材。
【請求項4】
前記膨張黒鉛が、粘土により被覆されてなることを特徴とする請求項2又は3記載の複合材。
【請求項5】
前記変性粘土が、有機カチオンとして第四級アンモニウムカチオン、第四級ホスホニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジウムカチオンのいずれかを含むことを特徴とする請求項2記載の複合材。
【請求項6】
前記変性粘土が、粘土にシリル化剤を反応させたものであることを特徴とする請求項2記載の複合材。
【請求項7】
前記変性粘土における有機カチオン組成が30重量%未満であることを特徴とする請求項5記載の複合材。
【請求項8】
前記粘土とシリル化剤に対するシリル化剤の組成が30重量%未満であることを特徴とする請求項6記載の複合材。
【請求項9】
膨張黒鉛層及び/又は粘土層が二層以上積層してなることを特徴とする請求項4記載の複合材。
【請求項10】
膨張黒鉛のシート又はフィルムと、粘土を主要成分とするシート又はフィルムとが夫々一層以上積層されてなるシート又はフィルム、もしくはこれらから得られる成形体からなることを特徴とする請求項2又は3記載の複合材。
【請求項11】
前記粘土を主要成分とするシート又はフィルムが、粘土又は粘土と添加物からなることを特徴とする請求項10記載の複合材。
【請求項12】
前記添加物が、セルロイド、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、酢酸セルロース、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル、ケイ素樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アクリロニトリル−ブダジエン−スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタラート、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミドのうちの1種以上であることを特徴とする請求項11記載の複合材。
【請求項13】
膨張黒鉛100重量部に対して、赤燐及び水酸化アルミニウムをそれぞれ1.5〜10重量部添加したことを特徴とする請求項1乃至12いずれかに記載の複合材。
【請求項14】
請求項1乃至13いずれかに記載の複合材からなることを特徴とするガスケット又はパッキン。
【請求項15】
耐水コーティングされていることを特徴とする請求項14記載のガスケット又はパッキン。
【請求項16】
金属薄板を含むことを特徴とする請求項14記載のガスケット又はパッキン。
【請求項17】
前記金属薄板がステンレスからなり、その厚さが0.05〜5mmであることを特徴とする請求項16記載のガスケット又はパッキン。
【請求項18】
シートガスケットであることを特徴とする請求項14記載のガスケット。
【請求項19】
グロメット加工されていることを特徴とする請求項18記載のガスケット。
【請求項20】
シートガスケット(JPI 50A:外径φ104mm、内径φ61.5mm、厚さ3mm)を、2枚のフランジの間に介装して締め付け面圧29.4MPaで締め付け、内圧0.98MPaを加えたときのヘリウムガスの漏れ量が1.62mL/min以下であることを特徴とする請求項18記載のガスケット。
【請求項21】
球面ガスケットであることを特徴とする請求項14記載のガスケット。
【請求項22】
球面部に窒化ホウ素、タルク及び四フッ化エチレン樹脂を含むことを特徴とする請求項21記載のガスケット。
【請求項23】
800℃で24時間加熱後の重量減少率が11%以下であることを特徴とする請求項21記載のガスケット。
【請求項24】
球面ガスケット(外径φ70mm、内径φ53.5mm、高さ16mm)を、2本のパイプ(ステンレス製、外径φ53mm)の端部近傍に夫々形成されたフランジの間に介装して荷重588.4Nで締め付け、フランジ球面部の温度が600〜700℃になるようにパイプ内部を24時間加熱した後、フランジ球面部の可動部分を加熱前と同様の可動範囲まで繰り返し10回滑らせ、その後、内圧19.6kPaを加えたときの空気漏れ量が0.5L/30sec以下であることを特徴とする請求項21記載のガスケット。
【請求項25】
球面ガスケット(外径φ70mm、内径φ53.5mm、高さ16mm)を、2本のパイプ(ステンレス製、外径φ53mm)の端部近傍に夫々形成されたフランジの間に介装して荷重588.4Nで締め付け、フランジ球面部の温度が600〜700℃になるようにパイプ内部を24時間加熱した後、2本のパイプ間をフランジ同士の接合部分を境界として折り曲げることが可能であることを特徴とする請求項21記載のガスケット。
【請求項26】
渦巻きガスケットであることを特徴とする請求項14記載のガスケット。
【請求項27】
編組パッキンであることを特徴とする請求項14記載のパッキン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−52680(P2013−52680A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222569(P2012−222569)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【分割の表示】特願2008−508701(P2008−508701)の分割
【原出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(390015679)ジャパンマテックス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】